甘い香りを漂わせながらボウルの中をぐーるぐる。
 今日の私は超ごきげんだ。
 何てったって、今日はバレンタインデーなのである。

 もちろんいくつかチョコは作るんだけど、本命は一つだけ。
 渡したらどんな反応があるかなぁ。

 普段はなんてことないアパートのキッチンが今日は幸せなオーラに包まれる。
 さてラッピングはどうしようか。

 冷やして固めて、午後になったら渡しに行こう!!





☆┼───Sweet Sweet Valentine!───┼☆





 というわけで完成したチョコを鞄に詰めて今はユーリのお城の前まで来ております。
 Deuilのファンの子とかに見つかったら物理的にも社会的にも抹殺されそうなのでそこは気をつけて。

 …でも他の一般人がこの森を通り抜けられるとは思わないから結構適当。
 私もユーリから抜け方教わってなきゃ迷子確定だったもの。
 そりゃもうRPGとかで言うところの「まよいのもり」なんて裸足で逃げ出すレベルの複雑怪奇な天然迷路だからね。

 まぁその、うん。
 通用口があるなんて誰も思わないだろうね!(知った時却ってショックだったなんて言えない)

 さてさて私は森の入口からなぜか一瞬でお城の前まで出られる謎の扉をくぐってやって来たわけですが。
 普段どうでもいい用事で来たりするくらい通ってるので勝手知ったるなんとやら。
 抜けた先ではいつものように城の出入口前に仁王立ち。今日は乙女の盛大な計画があるので気合も5割増し。
 呼び鈴押して「おっじゃましまーす!!」なんて声を張り上げながら入っちゃいますよ。

 『キンコーン♪』なんて建物の大きさに比例してけたたましく鳴り響く中、私は廊下をずかずか歩いてく。
 目指すはリビング!運が良ければ誰か居るんじゃないかな。
 だって今日は皆オフだって言ってたからね!!

 あれ、でもアッシュ辺りそろそろ玄関にお出迎えしにくるはずなんだけど。
 何か忙しくて手を離せないとか?

 広い硬質の廊下を歩幅も大きく歩いてく。
 のっすのっすのっす。
 いやこれじゃ乙女に似つかわしくない。
 というわけで、敢えて脳内でてくてくと擬音をつけながら行進する。

 さて着きましたリビング。
 深呼吸いーち、にーい!

 さんっ、はい!!!となぜか深呼吸から切り替えてリビングの扉を半ば体当たり気味に突破!!

 ―――と、そこに鎮座しましたるは。
 …え、あれ!?

「な、…なにこれぇ」

 私は思わずドン引いた。
 何せ目の前に存在したのはこの城の城主もしくは居候じゃなく、ちょっとしただったからだ。

 その正体は………箱。
 もっと言えばチョコの山。
 更に言えばバレンタイン用に可愛くリボンや包装紙でラッピングされた乙女仕様の愛情たっぷりバレンタインチョコの群れ。

 な…… な ん だ こ れ は
 軽くチョコ製造工場みたいなことになってるじゃないの。

「いや待て落ち着け私。深呼吸だ」
 とりあえず深呼吸。今回は真面目にやる。

 まるで連行される宇宙人を見た時みたいな反応しちゃったけど、目の前のこれ実は当然の現象なんじゃなかろうか。
 だってここはDeuilの居る城。
 ひょっとしなくてもこれ全部………

「ファンから貰った…とか」

 ぼそりと呟くひとりごと。
 しんと静まり返った部屋でそれは虚しく響いた。
 そりゃもう一人鍋の後のごちそうさまくらい虚しく。

 それ以上の反応に困って立ち尽くしていると、背後から足音が響いてきた。


 振り返るとそこには、




 →ユーリが居た

 →アッシュが居た

 →スマイルが居た