☆┼───Sweet Sweet Valentine!───┼☆
for:Smile





 そこに居たのはスマイルだった。
 ……ような気がしたけど一瞬しか見えなかったせいで分からない!

「あれ?スマイル…だよね?」
 一瞬っていうのはその姿を捉えたと思った瞬間に消えてしまったからである。
 よくあるよくある。だってスマイルだもん。

 さーてそこら辺に口でも浮いてないかな?
 とか思いながら視線包囲網を右へ左へ。

 そしたら。

「ざーんねん、僕はこっちー!」
「ひょわっ!?」
 鞄を持ってない方の手をいきなり掴まれて引っ張られたかと思えば思いっきり抱きつかれる。
 むぎゅううう。私はテディベアか何かかっていう。
 身動き取れない。

「むぐぐぐ」
「ねぇねぇ、今日は何の日ー?」
 ぎゅうぎゅうに抱きつかれながら無邪気に聞かれましても!
 まぁスマイルのスキンシップ過多は嫌いじゃないけどね。

 質問に答えるためにも私はまず腕の中でもぞもぞ動いて頭を開放した。
 呼吸まで阻害するとは何事ですか、もう。

っぷは!分かってるって、バレンタインでしょ?ていうかそこの山を見れば誰だって分かるでしょーが!」
「ん?」
 指摘されてスマイルはリビングの中央辺りにある件の『チョコ山』をチラリ。

「あー、ソレ?まだ片付けてなかったんだー。ちょっと存在感が異様だよねぇ」
「だよねー。…じゃなくて!!こんなに積まれてるけどコレやっぱファンから?」
「うん、そうだよー。今年も例年に負けない量みたい」
「………」
 なによ、わりとナチュラルに説明しおって。
 食べすぎで糖尿病にでもなってしまえ。

「…おや?何か言いたげだけど?」
「別に!こんなにあるならコッチはいらないわよねーっ」
 私は立ったまま抱き枕にされながらも鞄をふりふりと揺らした。
 勘のいいスマイルにはそこに何が入ってるのか分かるはず。

 案の定スマイルは「えー!」と抗議の声を上げる。

「酷いなぁ、誰もいらないとは言ってないよ!」
「だってスマイル宛てのがいくつ含まれてるかは知らないけど、既にそんな数あるじゃないの!」
「弁解のために言うけど、そこのチョコは僕のじゃなくてユーリのなんだよ?一人だけ今日まで仕事が長引いてて、片付ける暇がなかったみたいー」
「え、…じゃあスマイルのは?」
「あぁ、僕の分は別室に保管してあるけど」
「結局貰っとるんやないかーい!!!」

 ふんぬぬぬぬぬ!!
 目一杯抵抗してスマイルの腕を振りほどいてやったぜ。
 ぜぇぜぇ。

「そんな…僕はショックだよ。付き合ってる時点でこんなDVを受けるなんて…
超高密着な抱きつき型拘束ひっぺがしたくらいでDVとはこれいかにっ!!?それなら彼女が居るのにチョコ貰いまくってる彼氏の方がよほど精神的DVじゃああっ
「だってしょうがないでしょー、いらないなんて言ったらファンを悲しませちゃうし、何よりキミのことをまだ言うわけにもいかないしー」
「……むうう」

 そう、『まだ』。もう少ししたら正式に発表する予定なんだよね。
 それがどれくらい先なのかは未定なんだけど、その時は……どうやら恋人からもう一つランクアップするつもりらしい。
 らしくもなく真剣な顔で伝えてきた何でもない日曜のことを思い出す。

 ・・・・・。

 ちょっとあったかい気持ちがぶり返すけど、今は別!!
 まだおさまってなんてあげません!

「じゃあ私をスマイルのチョコ保管所まで連れて行きなさい!じゃないと私からはあげないんだからね!!」
「ええぇぇ、見て何すんのさ」
「いいから!」

 押し切るとスマイルは口を尖らせながら「じゃあついてきて」と私を誘導してくれる。

 私はそれについていくのだった。


 *


 で、到着しました。
 といってもスマイルの部屋の隣にある空室だったわけだけど。
 ユーリの城って広い上にホテルばりの部屋数があるから適当に使っても問題ないみたい。(そしてスマイルはそれを利用してここをよく物置に使ってるらしい)

 その部屋の中には……

「………」
 思わず黙る私。いや黙るしかない。
 だって適当に放り込まれてこそいるけど夥しい数のチョコが部屋の一角を埋めて自己主張してたんだもの!!

「……スマイル」
「ん、なぁにー」
「リビングのとあんまり変わらんじゃないかあああぁ!!!」
「いやぁ、途中からカウントするの面倒になったけどユーリのが多いはずだよ?」
大差ないわよう!!……いいわ、こうしてくれる」

 何の躊躇いもなくチョコ置き場へ近づいてしゃがみ込む。鞄は勿論私の傍に置いて。
 そしてチョコの箱を一つ拾い上げ、―――思いっきりベリベリと開封!!
 箱を開いて濃密な甘い香りをまき散らすそれをおもむろに口へ放り込んだ。

「ちょ、…ちょっと何してるの!?」
「いいじゃないの、減るもんじゃないし!!」
「減ってる減ってる、チョコは減るんだよ!!」

 もっしゃもっしゃと食べて完食、次の箱に手を付ける私。
 それに対して「僕のチョコー」とか嘆くスマイル。

「減るって言うなら減らしてあげるわよこんなの!それとも何、私のチョコより大切!?」
「もー……」
 でっかい溜息。
 なにその不出来な妹に「しょうがないなぁ」とでも言うような顔は。

 そんなんされても手は止めてやらぬ。地味に美味しいからではない、決して。
 あ、メッセージカードとかそういう類はちゃんと取っておいてます。破って捨てるほど鬼じゃないです。

「あのねぇ、コレは僕の勲章みたいなものなの。僕がDeuilとして頑張った証って言ったらいいのかな、ご褒美なのさー。それで、からのはもっと別の分類。天秤にかけるにはちょっと違いすぎるから困るんだよねー」
「……要するに両方欲しいと」
「勿論。僕は欲張りだからね?」
 ヒッヒヒ。
 楽しそうに笑いながらスマイルも私の隣にしゃがみ込む。
 んで私と一緒になってチョコを開封し始めた。

 うむう……分からなくはない。
 スマイルは趣味が仕事みたいなものだから普段ファンに見返りは求めないみたいなんだけど、やっぱり褒められると嬉しいもんなぁ。
 その褒められた数が具現化すると、このチョコになる…と。
 言い方はアレだけどスマイルからのイメージとしてはボーナスみたいなもんですか。

 確かにそれを取り上げるのはよろしくない。
 でも何も愛情(物理)みたいなものじゃなくたっていいのになぁ。
 最早半ば意地だよね。

「うーん。やっぱりのは特別。…僕から欲しがる唯一のチョコなのさ?」
「ほんとかなぁ」
「あれれ、嘘だって言っちゃうのー?そんなに信用なぁい?」
 冗談めかして肩をすくめながら誰かのチョコを頬張るような奴に言われたかない。
 …まぁ信用してないかは別として。

「じゃあさスマイル、こういうのはどう?……証拠と言ったらなんだけど、私に愛情を示してくれますか?それで納得したら私からのチョコを進呈しましょう!」
「ん?…なんか表現が曖昧だけど、何をすればいいのさー。僕はいつでも愛情全開だよ?」
「んー。……じゃあ、愛してるって言ってキスして。あ、ふざけず真面目にね」

 さらりと言ってのけると、スマイルは珍しく固まってた。
 いや、何言ってるんだコイツとでも思ってるのかも。

 でもスマイルって普段愛の言葉なんて吐かないし、あるとしても子どもじみた「大好きー」みたいなのばっかだし。
 真面目にドキッとしたのなんて例の日曜日くらいなもんで、それだってプロポーズとはとても言えないような遠回しな言葉遊びにまぎれてたもの。
 言ってほしいよ恋人としては。
 疑ってはないけど聞ければラッキーかなと思ったりして。

 ついでにキスなんていつもほっぺちゅーくらいで、恋人らしく甘々な雰囲気で……などと何回夢見たことか。
 まぁそんなスマイル想像つかないけど。されたらされたでユーリが憑依してるんじゃないかって疑いそう。
 どうせ性分に合わないとかでこっちは無理だろうなぁ。
 ならせめて甘い言葉の一つや二つ……もっとあってもいいけど、真面目なフリでもして言ってくれれば。


 ……なんて軽い気持ちでいたのに、次のチョコに手を付けてから隣をもう一度見遣ればスマイルは眉根寄せながら真剣な顔で天井を見上げてた。
 え、何、なんでそんな真剣に悩んでるわけ。
 私そんなに難しいこと言った?

「…スマイル?」
「んー…。いやね、そういうのは二人で暮らし始める時まで取っときたいなぁと思ってたんだけど」

 そう言うとスマイルはチョコの入った箱を置いてよっこらせと体ごとこっちを向く。
 そして躊躇なく私の肩を押した。どんっとな。

 ちょちょちょっと、しゃがんでる私の肩を押すとかなんて暴挙!?
 あまりのことに抗議したいけどそんな余裕もなくバランス崩して体が傾く。
 ばたばたと空を切った手には食べようとしていたチョコ一粒。

「―――っわ!?」
 恐怖に背筋がひやりとしたのも一瞬のことで、すぐさまスマイルの腕が私の上半身と頭を抱えて前のめりにゆっくりと床へ降ろす。
 伐採された木ですか私は。

 などと批難じみたことを考えてたら新事実発覚。
 焦ってて気付かなかったけど私と一緒になってゆっくり倒れこんだこの状態って………

「キミが望むなら、それでもいいかなあ……。なんて、ねぇ?」
 蛍光灯の白い光を遮りながらソイツは笑みを深める。
 私の顔の左右には床についたスマイルの細くて骨ばった手。

 ひょっとしなくてもこれはヤバい体勢で、す?

「あれ、さっきまでの威勢はどこいったのかなぁ」
「……っ、い、いきなりこんなことされたらいくら私でも驚くわよ…」
「うーん、そう?求めるわりにリターンは小さくていいってこと?無欲だねーぇ」
「そうじゃないんだけどさ!」

 リターンがどうとか以前に振れ幅が大きすぎると思うのは私だけでしょうか。
 だって今までの子供っぽいスキンシップはどこへいった。 
 私がプリーズ言うたのは恋人らしい甘い台詞とキスでだな、

「ねぇ
「!!」
 不意にずいっと顔を寄せられて私は息を詰める。思考なんて一瞬で中断された。

「……溶けちゃうよ?」

 喉の奥で笑いながら私の右手を絡め取って眼前まで持ってくる。
 私の手には食べられることのなかったチョコレート。
 溶けちゃうと言われながらもう既に溶け始めてるんだけども。

 中にイチゴチョコでも入ってるのかつぶつぶした感触が指先に伝わってくるのが分かるくらい溶けかかったチョコを、スマイルはじぃっと眺めてから―――口に入れた。
 私の指ごと。

「ス、マイ、ル…!?」
 指先がスマイルの体温で生暖かく侵食される。
 その内に私の指先からスマイルの口内へチョコが奪われ、追撃とばかりに溶けてぺっとりついてたものまで丁寧に吸われてゆく。
 何ともいえない感触に、私は思わず硬直した。

 やがてちゅぽんという音と共にスマイルの口から開放されて、あとに残るのはチョコのついてた痕跡もないマイ指。

「ん、甘い」
 ほっぺたの中でチョコ転がしながら笑ってるけど一体ソレどういう心境で言ってんのよ。

「…もう…。」
「嫌?」
「……………嫌じゃないけど」
「ヒヒヒ、そっか。じゃあ」

 無邪気な笑みとは裏腹に熱の篭った瞳。
 眼帯に隠されて片目しか見えないけど、それでも充分に伝わってくる。

「…も、食べる?」
 鼻先が触れ合うくらい近くで甘いストロベリーの吐息を零しながらそんな風に言って、私が是も非も言わない内に唇を合わせた。

「ん…っ、」
 合わせた唇からするりと私の口内へ潜り込んできたそれは、半分以上溶けたチョコレート。

 もう甘いとか何とか考えてる場合じゃない。
 こんなことされたの初めてだし口の中に広がるこの味をどうしたらいいのか焦る。
 反射的にスマイルの口へ返却しようとしたら、駄目、というようにスマイルの舌に邪魔された。

 それでも何とかしたい私はそのまま攻防戦にもつれ込んで躍起になる。
 そしてその内にチョコは溶けてなくなってしまいましたとさ。

 うわ、なにこれ、………恥ずかしい。

「…っ、もう、スマイル…!!」
「ヒヒヒ。、可愛い」
「…!!!」

 普段言われる『可愛い』と全然違う。
 軽口も掛け合いも出来たもんじゃなくて、ただただ息を呑む。

 恥ずかしい。色んな意味で恥ずかしい。
 なぜかスマイルが別人に見えてくる。そのくらい雰囲気が違った。
 確かに夢見てはいたけどこんなの唐突すぎる。

 それなのに細められた紅玉の瞳がとても綺麗で、私は見入ってしまう。

「……。いいかい?僕だって男だからさ、色々我慢してることもあるわけ。でもさ……あんまり本気で求められちゃうと、居候の身で大変なことしでかしちゃうかも」
「……っ、」

 大変なこと、って。

 思わず想像して頬が火照る。
 いや既に熱かったけど、更にですよ。顔から火が出そう。
 今日は比較的あったかい日とはいえ、やっぱり室内はひんやりしてるっていうのに。

 今更ながらこの体勢が危険すぎる気がしてキョドる。
 ま、まさかこのまま……なんてことはない、よね?

「ヒヒヒ、想像以上に恥じらってくれて面白いんだけどね?今日は許してあげる。…ああ、それと。求められたからには返したいから、ちゃんと言うよ」

 また口づけるのかと思うくらい近づいた、かと思えば額同士をこつんと合わされて。


 ―――愛してる。


 内緒話みたいな声で囁かれ、瞼へキスを落とされる。
 その間、私は微動だにできず。

 ようやく石化が解けたのは、スマイルが体を起こしてひょいと座り直した数十秒後だった。


「あ、ところで」
「な、な、何よ」
 スンマセンいつものペースが戻らないけど勘弁してほんと。
 知ってしまったからにはもうスマイルのことを中途半端な目で見られないのよ。
 いや今までも中途半端だったつもりはないけど。だからプロポーズまがいのことも受け入れたんだけど。

 それでもやっぱり全然違う。

「さっきのは合格でいいの?」
「っへ?」
「チョコ、貰っていーい?」

 あ。
 そういえばそんな話してた。

 すっかり忘れてしまってたことに寧ろ羞恥を覚えて顔を真っ赤にしながらいそいそと鞄の中を漁りに行き、一番大きい包みを手渡した。

「…はい」
「ん、ありがとー」

 はしゃぎながら開封していくのをただ黙って見てるしかできなくて、もう何が何やら。
 そのリボンも結ぶの時間かかったんだけど…考える余裕が無いよ。

 ただその指につままれたチョコがスマイルの口に入っていくのが見ていられなくて。…いいよ横目でチラチラしてやるから。
 でも。

「ん、美味しい」
「……どうも」


「なに?」


「来年も作ってくれる?」


 にーっと笑って言い放たれた来年分の予約が、どうしようもなく愛おしかった。





 ― おわり ―





→あとがき。

あまあああああああああぁぁあぁ!!!(砂糖吐くぜ!
スンマセン、愛ゆえかちょっと長いような気がします(笑)

ノープランだったのですが、スマに恋愛をやらせるならこんな風かなと妄想炸裂。
そういえば恋愛らしい恋愛ってスマで早々書くことなかった。というか想像つかなかった。(おい
下手すると友達なのか恋人なのか分からないラインで終わるなぁとすら思ってました。
なので私の想像するスマよりもう少し恋に溺れさせてみました。
最近シリアスしか書かないせいで(甘いのも少ない)加減が分からない…とりあえず恥ずかしいです、まる


3人書いて夢主とお相手の関係が全部恋人……ふむ代わり映えしない。ならちょっと変えてみるか、というわけでスマ夢では婚約者。
これだけ近い距離に居るとスマでも甘いですね。

順番としてはユーリ→スマ→アッスで書いてます。次はアッス!