another world story
〜pop’n&smash〜
第4話





 …時は少し戻る。

マスター「どうしたものか…。」

 アッシュ達のいる世界をポップン界とするならば、スマデラ界。
 マスターは空中から一つの屋敷を見ていた。
 そこでは今頃大騒ぎになっている。
 朝起きてみたら、自分達の仲間が4人も消えていたのだから無理もない。

 リンク達4人をポップン界へ送ってみて、すぐに戻す。
 単純な作業のはずだった。
 しかし4人は戻ってこず、MZDとの連絡も途絶えてしまった。

マスター「向こうで何か…あったのだろうな。」
 そう呟いて、マスターは深い溜息をついた。

 いかに神といえども、ワープゾーンが作動しなければ相手の世界へは行けない。
 否、出来ないわけではない。
 しかし、それをする事は世界の秩序に反する。
 出来る者がいるとするならばそれは…。

マスター「いや、今はそんな事を言っている場合ではないな。」
 軽く頭を振ると、今回の事を伝える為に、地上へと降りようとする。


 と、その時!


マスター「ぐっ!?」
 突然強い衝撃を感じマスターの体がグラリ、と傾く。
 そのまま地上へ落ちそうになるのを、誰かが支えた。

マスター「お…お前は……。」
?「もう1人の奴みたいに、腹に風穴開けて力を貰うのが一番早いけど…さすがにそれは出来ないよねぇ。」
 その人物はそう言うと、マスターに手をかざした。

?「だから眠ってもらうよ。」

 体の力が抜け、重くなったマスターの体を抱え、その人物はクスクス笑うと消えた。


 ***


スマイル「あーもう、疲れたよー。」
 ムラサキの家を出て数十分。
 スマイルはそう言って地面に座り込んだ。


アッシュ「スマは荷物持ってない上にインラインスケート履いてるじゃないっスか…」
 城から持ってきたもの+道すがらに買ったものを、リュックに入れて運んでいる荷物係。
 量は最小限に抑えたものの、この人数である。
 リュックは自然と2つに増やされ、現在の荷物係も2名になっていた。

 交代制で、今はアッシュとロイ。
 そんなに重いものではないが、ニャミとリンクが自分の分の持ち物を各々ナップサックに入れて持ってくれているのは正直助かったとアッシュは思う。
 本人達に言わせると、「自分の物くらい自分で持てる」…らしい。

スマイル「うーん、体力面は寧ろどうでもいいんだけどサ」
 きょろ、と周囲を見回すスマイル。
 ざっと見ただけで分かる事だが……女性だらけである。
 友達同士でこちらをチラチラ見ながら小声でキャーキャー言っている者、赤くなって呆然としている者、今にも駆け寄って来そうな者………

ユーリ「変装くらいしてくるべきだったか」
アッシュ「リンクさん達も見られてるみたいっスし」
リンク「へ?」
ニャミ「服装とか容姿とかじゃないかな、原因」

 確かに武装している者は見受けられないから、服装は好奇の目(または奇異なものを見る目)で見られていると言っていいだろう。
 …それなら後者はどうなのだろうか。
 聞きたい気もするが、何となく気が引けたので結局聞かないでおく事にした。
 それより今問題なのは……

ロイ「何か周りが殺気立ってるけど、何でだ?」
 小首を傾げてロイが言った瞬間、周囲の女性達は一層色めく。
 どこからか「可愛いーっ」とか「でも私はあっちの金髪の人の方がいいなー」とか、「私は向こうにいる狐耳の人かなっ」とか「えー、私らはDeuil派ー」とか、挙句の果てには「どこの事務所の人だろう」等という声まで聞こえてくる。
 ちらほらいる男性は、皆一様にムラサキへと視線を注ぐ始末。

ムラサキ「Deuilと一緒に出歩くっていうのがデフォルトで危険だって事は承知してたけど…」
ニャミ「更に追加メンバーがこれで、加えて局やら事務所やらの重役がいればねぇ」

 ニャミは、MZDの手が回らない所で色々と頑張っていたりする。
 その為、テレビやラジオの司会は勿論、局自体を取り仕切っていたり、芸能系に絡んだりしているのだ。

ロイ「何だかよく分かんないけど……ヤバい?」
ニャミ「それだけ分かってりゃ上等。さ、準備はいい?」
スマイル「どっこらせっと…。……オッケ」
フォックス「な、何だ?」

 立ち上がったスマイルに聞くが、スマイルはニャミと何かを話していて答えない。
 代わりに、アッシュが言った。
アッシュ「何って、」

 今まで騒いでいただけの人間達の一部が、こちらへ向かって走ってくる。
 それを皮切りに、黄色い声が沸き上がる。
 スマイルが、この世界の地理に誰より詳しいニャミに、逃亡ルートを確認し終え。

アッシュ「逃げるんスよ!!」

 叫んだ刹那に、逃亡劇は幕を開けた。


 


 同じ頃。
 暗い、洞窟の中。
 ひんやりとしたそこに、一人の青年が横たわっていた。
 ピーコックブルーの髪を持つその青年は、瞳を閉ざして気絶している。

 そこへ、一人の男が現れる。
 男は、にやりと笑うと小さく何かを唱え始めた。
 それが終わると、気絶している青年の周りに、何か透明なものがパキパキと纏わりついてゆく。
 数秒と経たない内に、その透明なものは質量を増し、六角柱の水晶となって青年を閉じ込めた。

男「生きた若い人間か…生気を吸うには丁度いい」
 青年の閉じ込められた水晶をふわりと宙に浮かべ、目を細める。

 がさり。
 背後から音がしたが、男は振り向くことなく言った。
男「あぁ、分かってる。お前達にも分けてやるよ」

 サソリのような、しかし人間より遥かに大きなその生き物達は、水晶の中の青年をじっと見ているようだった。





ニャミ「や、やっと逃げきれた…!!」
 あれから、細い道を走ったり廃ビルを突っ切ったりして女性陣を振り切ろうと奮闘していたのだが、結局全員を撒けたのは、町を抜けてかなり進んだ地点まで来てからだった。


ロイ「お前等…毎日こんな感じ…なのか……。」
スマイル「…まー、変装してなかったら…こうかな…。」
ロイ「ハード……だな……。」
 中々呼吸が整わず、ロイは剣を地面に置くと大きく深呼吸した。

リンク「健康には…良さそう……ですけ…ど…。」
 フォックスに肩を貸りて立っていたリンクが、そう呟いた。
 どこかその発言がズレているのは気のせいだろうか。

ムラサキ「大分走った事だし、少し休みましょうか。」
アッシュ「そうっスね。周りに人もいないですし…。」
 反対者は勿論いなかった為、全員はその場に腰を下ろした。

ユーリ「…そういえば。」
 全員の呼吸が落ち着いた頃、ふとユーリが口を開いた。

フォックス「どうした?」
ユーリ「MZDの奴は、宝石は砕かれたと言っていただろう。私達はその欠片を探してるのだから…少し作戦を立てておくべきではないか?」
ニャミ「作戦?何の?」
 よく分からない、と言った感じでニャミが首を傾げる。

ユーリ「戦闘の作戦に決まっているだろう。」
 その言葉を聞いた途端、ニャミの顔が青ざめる。
ニャミ「ちょっ、無理!絶対無理だってば!私、戦いなんて…。」
ユーリ「ああ、だろうな。」

 動揺しているニャミを落ち着かせると、ユーリは話を続ける。
ユーリ「私が戦力として使えるのは、魔法のみだ。接近戦には向いているとは言えないな。」
ロイ「あ、接近戦なら俺の出番だな!俺の武器はこの剣だ!」
 ロイはそう言うと、横に置いていた大剣を軽々と片手で持ち上げた。

スマイル「見かけによらず怪力だねー。」
ロイ「力強いくらいにしといてくれねぇかなー。」

アッシュ「という事は、リンクさんも同じっスかね。」
 リンクの方を見ながら、アッシュがそう言った。

リンク「確かに主力はこの剣ですね。ただ…弓等の飛び道具と、ほんの少しですが魔法が使えるので、その場の状況を見て行動しますね。」
アッシュ「分かったっス。俺は肉弾戦しか無理っスから、接近戦グループっスね。」
フォックス「俺も肉弾戦がメインだけど、銃も扱えるから臨機応変に…かな。」
ユーリ「つまり接近戦組が2人。臨機応変組が2人。遠距離組が1人か。お前達はどうだ?」
 メモ用紙に書き取りながら、ユーリはスマイルとムラサキを見た。


スマイル「僕はクナイとかの飛び道具かな」
ニャミ「クナイ…って、忍者とかが使う?」
スマイル「うん。僕の友達の中には忍者が何人かいるからねー。クナイとか、木に当てて遊んでたら習得出来ちゃったんだよ」
フォックス(どういう遊びだ…)

スマイル「遊び道具だったとはいえ、本物だから大丈夫だよ。後は、撒きびしとか暗器系…あ、それと城から短剣もかなり持ってきたから、本数には困んないね」
 にこやかに言うスマイル。
 …薄手のコートを着ているとはいえ、一体それほどの武器をどこに収納しているのか。
 最早歩く刃物屋である。

リンク「…え、えぇと。つまりスマイルさんは中距離戦組、ということですか?」
スマイル「近距離でもナイフとかで多少応戦できるけどね。遠距離は…一応魔法が使えなくもない…けど」
フォックス「何か問題でもあるのか?」
 フォックスが聞くが、スマイルは「ヒヒヒ」と笑うのみ。
 代わりに、ユーリが答えた。

ユーリ「小技まで覚えるのは面倒だとか言って、上級魔法しか覚えなかったのだ、こいつは」
アッシュ「スマに魔法を使わせるなら、最低の最低でも半径20m前後がクレーターと化す事を考慮に入れなきゃなんねぇっスよ」


 ・・・・・・・・・・少しの沈黙。
 この時、気温は確実に2〜3度下がっていたと当事者は言う。

ムラサキ「まぁ、どちらにしてもこっちの世界の住人は戦いに関してブランクがあるんだし、練習くらいしたいわね」
ロイ「ブランク?」
フォックス「って事は前に戦っていたのか?」

 思い返せば、先刻の町に武器系を売る店はなかった。
 魔法で事足りる者はいいが、ニャミのような戦えない者に対しての護身用の何かがあってもおかしくないだろうに。
 それがないということは、少なくともあの町は戦いには遠い場所だと言える。
 …では、なぜ?

ニャミ「何年か前に、突然空間が歪んで変な生き物が大量にこの世界に来た事があったの。妖怪とも何ともつかない…何なのか全く分からない生き物」
ユーリ「言語能力もなく、ひたすら凶暴性のみがあった為、戦闘能力のある妖怪や天使、一部の人間で掃討にかかった。その時最前線で戦っていたのが私達だ」

ニャミ「あ、私はただの連絡係。あちこち走り回ったから、この世界の地理ならどんと来い!」
ムラサキ「Deuilは一緒に戦っていたようだけど、私は少し違う所で戦っていたわ」

ロイ「そういえばムラサキも戦えるのか?」
 その物腰のせいか、戦えるようには見えなかった。
 現在も、旅用に少し丈の短い着物を着ているが、立ち回りには不便そうだ。

 そんなロイの視線に気付いてか、ムラサキは微笑して言う。
ムラサキ「そんなにすぐには相手方も出てこないでしょうし、出てくるとしたら宝石の欠片が幾つか集まって、元の形に戻る可能性が出た頃だと思うわ。それまではこの服装でもいいでしょう」
 数年前もこの格好で戦ったから別に着替える必要もないだろうけど、と付け足す。

リンク「戦い方は?」
ムラサキ「魔法よ。小技をいくつか」
ユーリ「中〜遠距離だな」

 さらさらとメモに書き留めるユーリの後ろで、スマイルが腑に落ちないといった表情をしていたが、誰も気付かなかった。

フォックス「この世界では魔法が発達してるのか?」
アッシュ「いえ、魔法が使えるのは元々魔力を持った種族…ユーリのようなヴァンパイアやスマのような透明人間なんかの一部の妖怪と、天使や悪魔くらいで、この世界中で100分の1にも満たないごく少数っス」

スマイル「武器も、他の国はどうか知らないケド、ここいらでは殆ど見かけないね。だからあの戦いの時も苦労したんだよ」
フォックス(それで町に武器が見当たらなかったのか…)

ロイ「…って、ちょっと待て。さっき言った『魔法を使える奴』の中に“人間”が入ってなかったけど、ムラサキは?」
ムラサキ「私はMZDに無理言って使い方を教わったのよ。魔法を使える人間はこの世界では私だけ」
ニャミ「弟君が剣客だから戦いに駆り出されてて、弟だけに戦わせたくないからって事で教わったんだよね。MZDに聞いたよ」
アッシュ「弟想いっスねぇ」
 アッシュが言って、話が一段落した事で全員が息をつく。


 ・・・・・・・・。
 ………しばらく誰も何も言わなかったが、


リンク「…私達、元は何の話してましたっけ」
 呟いたのを聞いて、はっとする一同。

ロイ「何だっけ」
ユーリ「…作戦を立てるんじゃなかったか?」
アッシュ「それっス!」
 自然と話が逸れたので、すっかり忘れていた。
 ユーリがメモを見直し、言う。

ユーリ「接近戦はロイとアッシュの2人、中〜遠距離戦は私とムラサキの2人にまかせ、スマイルとリンクとフォックスはその場に応じて戦い方を変える。サポート係や、ニャミの安全確保も大方そちらに任せるが、それでいいな?」
 ユーリの言葉に、ニャミ以外の全員が頷いた。

ニャミ「…私、守られるだけでいいのかな」
アッシュ「何言ってるんスか、優秀なナビゲーターさん」
リンク「道案内、頼みますよ」

ニャミ「……うん、そだね。…この私に案内を任せたからにはもう安心だよ!細かい町や村の位置、山、川までどこにでも連れて―――」
 言いかけるが、頭にポツリと冷たい雫を受けて思わず黙る。
 見上げれば、確かに日は照っているのに、大粒の雨が落ちてきていた。
 ……天気雨。狐の嫁入りか。

ロイ「まず一番初めに、雨宿りできそうな所に案内してくれるか?」
ニャミ「OK…。」

 そして一行は、近くにあるという洞窟へと走ってゆく。





〜Tobecontinued〜




<幻作の呟き。>

世界観とか妙な設定増やしてますが、一応それらはこの物語の伏線なので世界そのものの設定を決めてるわけじゃないです。
うあー、何だか本当に終わるのか微妙になってきましたー。(コラ)
一生懸命進めようとすると幻作の文章が長くなる長くなる。うおー、悪循環だ。
そして実際はこの話より随分先まで書いているので、ちょっと懐かしかったり。
が、頑張りましょう闇星様っ

UPした日:2005.9.23



それでは、ここから先は前回同様にリアルタイムのアトガキを。
(自分の番を書き終える度にルーズリーフに書いたアトガキの事です。どれがこのページ内のどの部分のアトガキかは推理して下さいまし)
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。


<リアルタイムなアトガキ。>

闇:遂に悪役登場させました闇星です。もう、誰をイメージしたかは即分かるような文になったヨ…。
  私は一回にそんなにページ数重ねないタイプなので、幻ちゃんが沢山書いてくれて、とても助かっとります。これからもガンガン書いてねーv
  愛のバケツリレーで消化完了!(笑) パースvv

幻:ようやく出てきました某人。セリフなしですが!!(わー)
  いつ出すか冷や汗かいてたんですけど、こんな形で出ましたね…。何だかピンチですか?; (書いてて楽しかったというのは秘密の方向で/ぇー)
  あの男はラスボス関係ではない気がします。(間接的には関係してますが)
  さぁどうなる。バケツリレー終了につきバケツ焼却!(ぇ)  2005.7.21


 闇:出ましたねー某人。シリアスな展開って好きっス。
  確かにあの男はラスボスとは違うかも。どっちかっつーとふざけて遊んでるっぽいです。…エンヴィーみたいな感じダネv(そうなの?)
  とりあえず、自分以外は「おもちゃ」とか思ってそうです。
  今回は戦闘パターンを出してみました。スマとムラサキの説明は、私だと間違えそうなんで幻ちゃんにマカセター!(待&カタコトだよ!!)
  ってなわけでフリスビー投げましたー(何故!?


幻:(ぱくりっ!/フリスビー咥え)…って、狽ヘっ!思わずやっちまった…(犬か)
  今回もまた実質3ページも書いちまいました幻作でごわす。
  ぐあー、何か書くにつけちゃんと理由やら設定やら書きたがるこの性分は直らぬものなのか…。理屈っぽくて仕方ねー…。(直せ)
  あ、世界の設定とか多くなったけど気にしないで!要するに「変なの出た」ってのと「魔法使えるのはごく少数」ってのと「ユーリ達が戦ってた」ってのだけ覚えりゃいいんで。
  そして闇様はシリアスの方がお好みですか?じゃあやってみますーv私も好き。
  毎度闇はんの書く部分を悶えつつ読んでます。ウヒ。(何)
  じゃ、よだれ拭いた直後のフリスビーを投げ返しまーす。(汚)
2005.7.29   うっかり書き足して4ページ近く…!!;  2005.7.30