another world story
〜pop’n&smash〜
第24話
アッシュ「皆さん!良かった、会えたっスね!」
リンク「…!ムラサキさん?」
スマイルとマルスが出て行ってから何となく沈黙を保っていた二人は開かれたドアに思わず立ち上がる。
そしてまずは仲間達の顔に安堵の息をつき、けれどその内の一人がぐったりと背負われている状況に瞠目した。
アッシュ「何があったっスか!?」
ロイ「説明は後でするから、とりあえずどっか寝かせられる所…。」
「それならのわしの部屋を使うといい。」
マルス「サイドさん。」
騒ぎを耳にして奥の部屋へと続くドアからサイドが顔を出す。
サイドはその場を一度見回し状況を悟ったのかムラサキを背負っているロイに手まねきをした。
家へと向かう道のりの中でサイド達の事を聞いていたロイは一度口を開きかけたが、すぐにサイドに従う。
本当なら開口一番でフォックスの治療に関する礼を述べたかったのだが状況が状況だ。
ムラサキをベッドに横たえる間にスマイルが大まかな事情をサイドに告げる。
魔力の消耗、という言葉にサイドは一瞬眉を顰めたが(ムサラキが人間であるにも関わらず魔力を持っている事が引っ掛かったのだろう)頷くと応急処置を施した。
尤も病気や怪我の類ではないので治療の施しようがない訳だが。
こればかりは医者でもどうしようもない。
サイド「取り敢えず絶対安静としか言えんが…。」
ユーリ「いや、十分だ。感謝する。」
ニャミ「それにフォックスの事も!本当に有難うございます!!」
サイド「いやいや、当然の事をしたまでじゃ。」
その場に居合わせた全員に頭を下げられサイドは穏やかな笑みを浮かべる。
そのまま「本当にフォックス殿は良い仲間に恵まれたようじゃ」と付け加えると二階へと上がっていった。
アッシュ「気を使わせちゃったっスね。」
スマイル「実際凄く有り難いけどねぇ。」
ニャミ「もう、スマイルは。…でも、うん。」
スマイルの軽口に一瞬口を尖らせたニャミだったが未だベッドで眠っているフォックスに視線を移すと小さく呟く。
話には聞いていたが確かに最後に見た時の様に顔色は少し悪いものの苦しんでいる様子はない。
この分ならすぐに目を覚ますのかもしれない。
その様子にニャミは破顔する。
ニャミ「本当に良かった。皆無事で。」
それは無傷だとかそういう意味ではなくて。
信じてはいたけれど無事でいてくれる確証がなかった不安から漸く解き放たれたのだ。
ニャミの表情に自然と周りの仲間達も笑みをこぼす。
* * *
スマイル「…で、どうしよっか。」
マルス「何を?」
スマイル「MZDへの連絡だよ。一応全員合流したわけだけどさ。」
ニャミ「あ…。」
穏やかな沈黙をやぶって尋ねられた内容にニャミ達の目が丸くなる。
そうだった。
つい安心して忘れていたが、全員が集合したらMZDに連絡を取るという事になっていたのだ。
そうとは知らずニャミ達の様子に首を傾げたアッシュとリンクにユーリが掻い摘んで説明をした。
リンク「はぁ、成程…。この光を消す事が合図なんですね。」
ユーリ「そうだ。」
アッシュ「でも…。」
未だフォックスを指し示す光を見ながらアッシュが言葉を濁す。
確かに全員、いるにはいるが…。
その内2人は眠っているのが現状だ。
それに自分達も漸く合流して少し落ち着いた所…本来なら状況が良くなるのを待って連絡をした方がいい気がする。
だが、そうもノンビリとしていられないのもまた事実だ。
ニャミ「うーん、どうしよう。」
ロイ「俺はすぐに連絡を取った方がいいと思う。」
マルス「…同感かな。MZDの事も気になるし。…それに光も点けっぱなしっていうのも環境に悪いしね。」
ニャミ「…最後のは関係ない気もするけど。」
『限りある資源を大切に!』のノリで言うマルスにニャミはくたりと耳を垂らす。
空気を和ませようとしているのか、天然なのか…答えは聞くまでもないだろうが。
スマイル「じゃあ2人には後で伝えるって事で〜。」
ロイ「エコの為に消灯っと。」
スマイル「あ、ちょっと!」
「君までそういう事を言うの」と突っ込みを入れる間もなくロイはスマイルから通信鏡を奪うと真ん中のボタンを押す。
それと同時に光の糸は消失した。
これですぐにでも連絡が来るはずだ。
ロイ「後は連絡待ちだな。」
アッシュ「本当、何でそれ受信専用なんスかね。」
ユーリ「全くだ。」
スマイル「はいはい。経費削減でしょー。」
今に始まったわけでもないのに不満げに言う2人にヒヒヒ、と笑うとロイから通信鏡を取り返す。
…だがその内心は穏やかではなかった。
スマイル「(どういう事…?)」
通信鏡は相変わらずスマイルの体から魔力を吸い取っている。
それなのに。
僅かな間だったとは言え、それを手にしたロイはけろりとした表情でアッシュと言葉を交わしている。
…スマイルですら、最初の時は眩暈を覚えたというのに。
『元々魔力持ってない人とかは触っちゃダメだよ?干からびちゃうから!』
つい先程自分は口にした言葉が頭の中で反芻された。
例の呼び出し音が鳴り響いたのはそれからすぐの事だった。
スマイルは内心の動揺を払うように一度だけ噛みしめる様なまばたきをして、それから通信鏡をぱかりと開いた。
呼び出し音が消えて、小さな画面にMZDの姿が映し出される。
全員が聞く態勢に入り、言葉を待つ。
そして通信鏡から飛び出してきた彼の声は。
MZD『ムラサキはっ!?ムラサキは無事か!!?』
開口一番で叫ばれて、一同はぎょっとした。
単に驚いたのもあるが、MZDをよく知るポップンメンバーは、彼らしくもない動転ぶりに何かとんでもない事が起きたのではないかと焦った。
ロイ「えっと、ムラサキは魔力が足りないとかで倒れて、今は別室で休んでるけど…」
MZD『倒れた?他には!?』
マルス「特に何も。安静にしてれば大丈夫みたいだよ」
MZD『…よかった……』
その尋常でない様子に何名かは顔を見合わせる。
ニャミ「……えっと?」
スマイル「ヒッヒッヒ!そんなに心配するくらい大ポカしちゃったんだ?」
一人おかしそうに笑うスマイルを横目で見ながら、リンクが説明を求めた。
リンク「…どういうことですか、MZDさん。…ムラサキさんは、危険な状態だったんですか?」
リンクの問いにMZDは少し口ごもり、数拍の後『場合によっては』と頷いた。
それにも説明を求める様な視線を感じ、MZDはどう説明しようかと悩む。
MZD『…そうだな。率直に言うと、俺がムラサキから魔力を吸い取りすぎたんだ』
アッシュ「MZDが!?ムラサキさんから?」
MZD『ああ』
アッシュ「何でそんなことする必要があったんスか?ムラサキさんから魔力を貰う何か特別な理由が…?」
MZD『特別じゃないが、必要だったんだ。…後から順を追って説明する。とにかく、その通信鏡を通して今までずっと魔力を貰ってたんだが、ついさっき瞬間的に膨大な量が必要になって、その時反射的に不足分を思いっきり吸い取っちまった。…並の魔力の持ち主じゃ、正直…最悪の事態もあり得た』
ニャミ「最悪の、事態って…」
ニャミが思わずぽつりと零して、しかしその先は言葉にすることが出来なかった。
言葉に出せば本当にそうなってしまう気がした。
サイドの部屋で休んでいるムラサキの様子が無性に気になって、ニャミはそっと彼女の体温を思い出す。
ロイが彼女を背負うのを手伝った時、彼女の体は血の気が引いて少し冷えていたが確かに体温があった。
大丈夫、と自分に言い聞かせて、深呼吸する。そして。
ニャミ「何で…そんな危険なことしたのよ。ずっと吸い取ってた、ってことは、ムラサキにはそういうリスクがいつも付きまとってたってことよね!?どうしてそんな事!」
MZD『…悪かった』
ぐ、と何かを耐えるように謝るMZDに、ニャミは少し俯いてゆるく首を振った。
ニャミ「……ごめん。そっちも何かあって、仕方なかったんだろうって思う。でも…」
泣きそうな声で涙をこらえて、それでも言った。
ニャミ「怖いよ…。フォックスのことでも心配で死にそうだったのに、そんなことがどんどん増えてったら…私……」
言葉は途切れて繋がらなくなったが、彼女の心からの声は痛いほど伝わった。
仲間の危機に心配して焦って、ここに来るまで壊れそうだった何かが、やっと落ち着いたと思ったのに。
MZD『フォックスに、何かあったのか』
マルス「……、遺跡で戦ったモンスターに、毒を持った爪で穿たれたんだ。今は薬のおかげで安定してるけど…」
言葉を切って、その先は視線で告げた。
“少し前までは、そうではなかった”と。
MZD『……そうか。回復の見込みは?』
ユーリ「数日の内には目を覚ますそうだ。もう何の心配もいらない」
それを聞いたMZDは、ほっと息をついた。
――その顔は確かに、世界の全てを愛する『神』の顔だった。
MZD『危険とか、辛いこととかばっかり押しつける形になっちまったな…。けど、それでもお前達に旅を続けてもらわなきゃならない。…その理由を含めて、話を聞いてくれるか?』
真剣な言葉に、一同は深く頷く。
元より旅は続けるつもりだったが、それに何か意味があるのなら、聞いておかなければならないだろう。
MZDは『ここに居ない奴には後から聞かせてやってくれ』と言い置いてから、話し始めた。
MZD『――さて、どこから言うべきか…』
影『一番初メカラ、デショウ』
通信鏡の画面外から声が聞こえてきて、MZDに提案する。
どうやら影が傍にいるらしい。
若干声が小さいが、通信鏡が声を拾いにくい位置にいるのかもしれない。
MZD『初めから…そうだな。一番最初めからいくか』
MZDは少しの間考えて、やがて視線をこちらへ戻した。
MZD『全ての始まりは、お前らも知ってるように、スマブラの世界とこっちの世界を繋いだ瞬間だった』
スマブラの世界とポップンワールドを繋いで、数名をワープさせる。
それは以前ユーリ達の住む城で話したとおり、『世界同士が繋がったかどうかの確認』のためだった。
ポップンワールドでは、パーティと称して頻繁に異世界や宇宙等からゲストを招待していた為、今回も異世界交流として。
スマブラ界でも、様々な世界から強者を呼ぶ為に異世界との繋がりを持つことに理解があった。
そうしてポップンワールドの神と、スマブラ界の神の片割れは、自らの世界同士を繋ぐという企画を打ち立てた。
それ自体は簡単で、互いの世界を繋ぐ宝石――ワープストーンを一対創って発動させればいい。
ほぼ不安要素はないと言えたが、念のために繋がった証としてスマブラ界から4名を送った。
そして―――、
送られた4名がポップンワールドへ確実に入ったと感知した瞬間。
4名の着地地点をMZDが自らの元へと設定する間もなく、予想外の事態が起こった。
何者かによるワープストーンの破壊。
それから、……MZDへの攻撃。
MZD『相手はワープストーンごと俺を撃ち抜いた。ワープストーンは砕け、俺は致命傷を負い、おまけに魔力を大部分抜き取られた』
マルス「…半分は、初めて聞く話だね」
リンク「無事…だったんですよね?今通信ができているということは」
MZD『まぁ、無事というか』
影『神ノ能力デ、死ナズニハ済ミマシタガ…。』
画面の中で、MZDが右を向いた。
恐らくそちらに影が居て、顔を見合わせたのだろう。
ロイ「…そんなに、酷かったのか?」
MZD『まぁ…な。それで俺はお前らの着地地点と時間をうまく設定しきれず、バラバラに落とす羽目になった。加えて、治療のために残りの魔力をほとんど使いきったせいで色んな弊害が出てきたんだ』
生命力とも言い換えられる魔力を、大幅に抜き取られた上、残りを治療のためにほどんど使い果たした状態では、大して行動もできない。すぐに倒れるのがオチだった。
このままでは元凶を見つけて何とかするどころか、飛び散った欠片を探して繋ぐことも出来ない。
しかし自分が回復しきるまで待つには、状況はあまりに危険すぎた。
――相手は神を攻撃して、逃げたのだ。
目的が分からない上に、その能力も半端なものではない。これは脅威だった。
マスターハンドに頼ろうにも、こちらから異世界であるスマデラ世界へ言葉を飛ばすには力が足りず、また、向こうからも事の発端から後に連絡は無かった。
マスターハンドにも、何かが起こった可能性があった。
が、それを確実に知る程の力も残っておらず、最早マスターハンドに頼ることが出来る可能性は限りなく低い。
その結論に至ってから、MZDはギリギリで生きていられる状態を保ちながら、せめて誰かに欠片を探してもらおうと、最後の力を振り絞ってスマブラ界の4名に加えユーリ達にそれを頼みに行った。
去り際に影がムラサキへ通信鏡を渡して。
通信鏡を渡した目的は、勿論、連絡手段として。
そしてもう一つは……MZDの回復手段として。
ユーリ「…回復手段……」
MZD『通信鏡を持った人物から魔力を少しずつ吸い取れるように細工してあったんだ。まぁ、実際細工したのは影らしいが』
影『ハイ。ムラサキさんハ…ソレヲ承知デ受ケ取リマシタ』
アッシュ「承知で、って……吸い取られるって分かってて受け取ったって事っスか?」
影『ソウナリマス。MZDノ為ニ、ト頼ミ込ンダラ、ソレダケデ大体ノ予想ガツイタ様デス』
MZD『できれば使いたくなんかなかったが、こっちとしても非常時だ。次に何をされるか分からない分、早く動けるようになりたかった。協力してくれるのなら、有難かったよ』
アッシュ「でも、だからって神が普通の生き物相手にどんどん魔力を吸い取ったら…倒れるのなんて、目に見えてたじゃねぇっスか!」
アッシュが抗議するが、それを止めるように正面から肩へぽんと手を置かれて目を瞬かせる。
手を置いたのは、スマイルだった。
スマイル「多分、この世界のどこを探してもムラサキ以上の適任者は居ないよ」
アッシュ「…それは、どういう…?」
尋ねかけて、途中で止まる。
肩からスマイルの手がずり落ちて、スマイルが目の前でふらりとしゃがみ込んだからだ。
アッシュ「スマ!?」
マルス「スマイル!」
しゃがみ込んだスマイルを見てアッシュが慌てて支えようとするが、スマイルにはほとんど力が入っていない。
やむなく壁際に移動させ、壁にもたれるように座らせた。
スマイル「…ヒヒヒー…悪いねぇ。コレに吸い取られる魔力が予想以上に多くて…持ってた時間は短いのにもうヘトヘト」
言いながら通信鏡を少し掲げて示す。
ユーリ「待て、お前でそんな短時間しか持っていられないのか?透明人間とはいえ、とりわけお前はそこそこ魔力があったはずだろう」
スマイル「やー……、うーん。まぁとりあえずユーリ、バトンタッチねー。もう僕限界、疲れた」
そう言って差し出され、ユーリはひょいと受け取った。
……が。
ユーリ「………。」
ユーリの眉間に一気に縦筋が増えた。
明らかにむっとしているその顔は「何だこれは」と言わんばかりだ。
ユーリ「…おい」
MZD『あー…すまん。ちょっと緩めるから』
ユーリの持つ通信鏡からバツの悪そうな声が聞こえてきた。
そして何やら唸り声が数秒続いた後、唐突にユーリの体が少し楽になった。
MZD『これでちょっとはマシになったか?』
ユーリ「…ああ。しかし吸い取る量を緩められるのならもっと早めにそうするべきではなかったのか?」
MZD『…あのなぁ。これ案外難しいんだぞ?今でこそ若干安定してるから可能だが、さっきまでは………、……まぁ、これも後で順を追って話す』
MZDが話を区切ったところで、ユーリは室内の全員に声が届きやすいように通信鏡を持って部屋の中央辺りへ進んだ。
ニャミ「……ねぇ。魔法の使える種族でもこんな短時間しか持ってられないなら…、何でムラサキは今までずっと持っていられたの?」
この世界では、元々人間は魔法を使えない。
そこを使えるようにしたのは分かるが、無理矢理くっつけた能力が妖怪のそれを上回るとはとても思えなかった。
そう考えると、何か別の仕掛けがあってムラサキが持っていられたとしか思えない。
ニャミ「何か特別な物を持ってて、それで大丈夫だったとか?」
MZD『特別なモン?いや、何も渡してないが?』
スマイル「ヒヒヒ!だから適任者なのさぁ」
ニャミ「!」
唐突に笑って言ったスマイルは、視線こそこちらに向けいていたが体は気怠そうだった。
マルス「……。それはつまり、ムラサキには純粋にあの通信鏡を持っていられるだけの力があった、って解釈でいいのかな?」
スマイル「そゆこと。まぁ、あとは神サマ説明よろしくー」
ひらひらと手を振る彼に、MZDは『言い逃げかよ!』と軽く突っ込んだ。
通信鏡を持つユーリがそちらへ画面を向けていないので、お互いに顔を見ずの遣り取りになってしまったが。
MZDは軽く溜息をついて説明に取り掛かる。
MZD『…まぁ、事実だけ言うとそういうこったな。元々魔法を使えなかったなら、言ってしまえば付け焼刃の能力でそんなに大きな力が得られるわけがないと思うかもしれないが、逆だ。あるべき形を歪めて能力を得たせいか、途方もないほどの魔力が備わったみたいでな。…その代わり、代償も大きかったが』
リンク「……代償、ですか?」
MZD『ああ。あいつの内臓の一部と…』
ニャミ「待って!」
言いかけたMZDにニャミがストップをかけた。
咄嗟のことで本人にも行動の意味を半分理解できていなかったが、そうしなければならない気がしていた。
…あの時。
『代償』のことを教えてくれたムラサキは、小声だった。
そして、つらそうだった。
ニャミ「…言わないで」
これは皆の前で広げてはならない内容だ。
今度こそ確信して話を止めた。
その様子を画面の端に捉えたMZDは、何かを察して一度口を閉じた。
MZD『……わりぃ。この辺は本人の許可なしに言っていい事じゃなかったな』
影『相変ワラズ「でりかしー」ガ欠ケテマスネ』
MZD『余計なお世話だ』
MZDが画面の中で隣をちらりと見る。
まだ画面外に居るらしく、影の姿はやはり見えない。…そのせいで、パッと見はMZDの一人漫才のようだ。
気になる話題だった(というより、気になる単語が入っていた)が、デリカシー、という言葉で収まる範囲の話ならばとロイは方向転換を図った。
ロイ「…まぁ、聞いちゃいけない話なら聞かないけどさ。とにかくムラサキはその魔力を見込まれて通信鏡を持ってたわけだな?」
MZD『そういうことだ。膨大な許容量を持つムラサキは、魔力を分けてもらうには最適任者だった。俺に魔力を分けてることは誰にも言ってなかったみたいだが、まぁそれは心配をかけたくなかったんだろうな。かなりのペースで魔力を吸われてたのは事実だし』
リンク「…だから倒れたりふらついたりしていたんですね」
遺跡でも、砂漠でも、彼女は貧血のようにふらふらしていた。
原因を言わなかったのはどうやら彼女なりに考えた結果だったらしい。
MZD『で、その裏で魔力を吸い取ってた俺は、吸い取った魔力を使って回復に専念してたわけだ。…だから遺跡での通信の時、俺は出られなかった。出られるような状態に至ってなかったんだ』
マルス「それであの時の通信には影が出たんだ?」
MZD『ああ。…実際はあの時、通信鏡には映らないようにしていたが、影の近くで横になってた』
影『ソウデスネ。神トハ思エナイ様ナ弱リ方デシタ』
MZD『ぐっ…、否定はしねぇけどよ…。』
言葉に詰まるMZDを小さな画面の中に見ながら、リンクは疑問をぶつけた。
リンク「それなら何で早く言ってくれなかったんですか?重要なことじゃないですか!」
言われた彼は少しだけ考えたが、それは言い訳を考える風ではなく、単純に自分の意見をどう言おうかまとめているようだった。
MZD『……そうだな、重要だ。だからこそ言えなかった』
ロイ「どういうことだ?」
MZD『神である俺が、ましてや自分の世界…自分の領域にいるってのにこんな状態になってるってことは……事態は恐ろしく深刻で、何が起こってもおかしくないってことだ。それこそ世界が滅びるような出来事だとか、な』
世界が、滅びるような。
そこから連想されたのは、破壊神クレイジーハンド。町を埋め尽くしていたモンスター。それを呼び寄せたビトレイ。
…要素は既にこんなにあって、否定できずに一同は黙る。
MZD『状態がよほど悪化しない限りは、言わないでおくつもりだった。…言えば混乱するだろう』
今まで何事もないように振舞ってきたその『嘘』は、全てがその一言に尽きた。
ロイ「……、もう今はその状態に達してしまった、って事か」
MZD『そうだな。今は逆に…知らなければ危険だ。何せ世界自体が不安定な状態だからな』
アッシュ「世界自体が…?何なんスか、それ…」
ユーリ「世界が消滅するだの、不安定だの、さっきからえらく規模が大きいな」
MZD『ああ。もうこれは世界の全てがかかってる』
はっきりと言い放ったMZDは、しかしどこか憂いを帯びていた。
ムラサキの魔力を貰って回復を図りながら、気付いたことがあった。
――この世界に現れた、違和感。
そしてそれは徐々に…増えていった。
一つは恐らく数年前にも現れたモンスター。
とどまる所を知らず増えてゆく。
そしてもう一つは……、
神の気配。
MZD『一つの世界には、神は通常一人しか居られない。マスターとクレイジーは双子の神だから例外だがな。……で、一人しか居ちゃいけないってのに、この世界には…俺以外の神が複数来てるんだ。そういう気配がした』
リンク「クレイジー……ですか」
ニャミ「マスターも居るらしいの。確かな情報じゃないけど、十中八九居るだろうって…さっきMZDに聞いた」
アッシュ「居たら何かあるんスか…?」
恐る恐る尋ねたアッシュに、MZDは一つ頷いた。
MZD『世界が不安定になるんだ』
あってはならない事が起こった。
それは世界の“理”が揺らいだことになる。
一つの世界に一つしかあってはならない存在が複数あれば、天秤が片方に傾くようにバランスが崩れてしまう。
それは最悪の場合、世界自体が歪んで形を保てなくなり……何もかもが消滅する。
MZD『存在するだけでも危険だが、もっと危ないのは“神としての力を行使した時”だ。複数の神が居る不安定な状態で神の力を使えば、不安定さは増大する。揺れる小舟を更に揺らすようなもんだな……下手すると転覆する』
ロイ「だから力を貸せないって言ったんだな…」
リンク「力を貸せない?」
MZD『ああ。さっきの通信でちょっと言ったんだ。この世界に居る神の数が多くなるほど、世界が不安定になって、神としての力が貸せなくなる』
スマイル「神としての力“が”、ねぇ……?」
不意に呟いたスマイルに、数名が振り向く。
スマイル「じゃあ、神の力以外は?」
MZD『…相変わらず揚げ足取りが上手いみたいだな。けどまぁ、その通り。神の力以外…つまりこの世界で一般に流通してる魔法なら、使ってもさほど問題はない。…が、俺は知っての通りまだ療養中だ。外に出られもしない。…結局手助けをするとしたら神の力でしか実現は出来ないが、使えば……さっき言ったとおりだ』
ニャミ「なるほど……」
砂漠を越えたこの地まで手助けとして魔法を届かせるには、やはり神としての力を使わざるを得ない。
しかしそうすれば、世界は更に不安定になる。
これではMZDの力は借りられそうもない。
ユーリ「しかしそれにしては、先刻あまりに都合の良すぎる効果の魔法を見たのだが?」
街の中を吹き抜ける強風。
それはモンスターだけを巻き上げ、町の外へ出した。
家や人については被害がなく、そしてモンスターは今も戻ってくる気配がない。
…要するに、モンスターを町から締め出したのだ。
ユーリ「あれは神の力ではないのか?」
MZD『そうだな。…今の世界のバランスを慎重に考えながら使った、神の力だ。かなり大がかりだったから、ギリギリだろうとは思った。…何せ世界中の町から半永久的にモンスターだけを追い出す仕掛けだ。これからどの町や村に行っても、地図上に存在する場所ならバリアで護られてる。これは今世界に必要だと思ったからな。…ただ、誤算があった』
マルス「誤算?」
ニャミ「何それ、不吉なこと言わないでよ…」
ニャミが泣きそうな顔でMZDを睨んだ。
対するMZDは珍しく本当に困った顔をしている。
MZD『仕方ねぇだろ、俺だって不調で世界の正確な情報が分からねぇんだ。……俺を含めて神は3名、俺とマスターとクレイジーだ。その計算で、俺が力を使った余波を食い止められるギリギリの力を使った。…けど、思ったより世界の安定が難しかった。想像以上に不安定だった。それでさっき、安定のために大量の魔力が必要になって……』
マルス「ムラサキの魔力を一気に抜きとった、と」
MZD『…そういうことだ』
画面の向こうでMZDが脱力した。
MZD『神の気配がもう一つあるようには思えない。でも思ったより安定はしてない。なぜかは、分からない。……それを調べようにも、動き回るほど回復は、してない』
リンク「…だから、私たちに旅を続けてほしいんですね?」
慎重に尋ねたリンクに、MZDは深く頷いた。
MZD『今まで通り欠片を探す旅をしてくれ。そうすれば少なくともワープストーンが完成した時、強制的にスマブラ世界へ二人の神を送り返すことができるはずだ。…それに、旅をする中で何かを掴めるかもしれない』
スマイル「何かって?」
MZD『……実のところ、ワープストーン程の特殊なものを壊せるのは、神だけなんだ。だから、俺はワープストーンを砕いたのはクレイジーだと思ってる。まぁそれも確実な情報じゃないから、奴に会うことがあれば…何か分かるかと思ってな』
マルス「………、あまり会いたくはないけどね」
MZD『あとは…世界が不安定な理由をもし見つけたら、また通信した時にでも教えてくれ』
ニャミ「急いで伝えなくていいの?」
MZD『…どっちにしろ今の俺じゃ解決は出来ないからな』
MZDは、彼らしからぬ弱々しさで笑った。
〜To be continued〜
<幻作の呟き。>
遅れてすいません!只今UP致しました!(何
前回「私のが長いので切ろうか押し込もうか迷ってる感じ」と書きましたが、結果から言うと押し込みました。(なぬー
画面上の見栄えより物語としての区切り方を重視してるのでこんな感じですが……どうなんだろう実際。
分け方に何かご意見あればどぞ。
合流→暴露大会。
今回伏線を拾えるだけ拾いました!でも増えてるのもあるよ!(何
わざと拾ってないものもありますが、もしかするとうっかり忘れてる部分もあるんじゃ…?とか未だに不安だったり。
多すぎる伏線って一気に拾う時妙に心配になります。
ちなみに今回の暴露話の内容は随分前からお互い打ち合わせしてあったので、双方意図して伏線張りまくってました。
読者の方が「あの部分ってこうだったんだー」とか思って下さったら幸い。
てゆか、凄く思ったことが一つ。
………彼らの旅って、ある意味今始まったんじゃ…??(神から旅の依頼を正式に受けましたって感じ)
昔のRPGで言うところの「勇者が魔王退治の依頼を受けました」的な。実際世界どうのこうのの説明をやっと受けましたし。
は、はははは。気のせい気のせいっと。(ををい
それはそうと、実際の所普通のRPGでは“町に逃げ込めば安全”なのがデフォルトですが、この小説だと(私の趣味のせいで)町にもモンスターが入り込む感じでしたよね。
それが今やっと設定されたって…やっぱりここはスタート地点なんj(略
げふんげふん。すいませんもう言いません。
…まぁ。仲間も全員居る上に欠片持ってますから、ゼロじゃないですよ!!
書きたいことはまだまだ沢山。ビバリレー小説。(とっとと書け
UPした日:2009.7.30
それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。
<リアルタイムなアトガキ。>
闇:すんません締切に間に合いませんでした闇星です(爆
や、ぎりぎり間に合う計算だったんだよ!?でも途中でパソ子さんがフリーズっちゃってデータがボカンしちゃったんだよ!(何語?)
2時間程オーバーだけどペナルティは何とか見逃してもらえませんかお姉さま!!
今回はとりあえず全員合流→MZD連絡まで進めました!私にしては余計な寄り道も少なかったかな。
あ、でもロイの通信鏡ネタは絶対入れたかったネタなんで入れました。今後の為にも(何
吹っ飛ばされて弧を描いてお空を飛ぶ様が流れ星っぽかったのでお願いしてみた。
『物価高騰の波をどうにかして下さい』
生々しいお願いしながらパッシング!
幻:自主ペナルティ行ってきます!!
もうこれ間に合わないどころじゃないよ、難しいよ。
まぁどうせ2記事分くらいになりそうで怖かったから、いっそのこと2記事にしちゃうよ!(=w=)ウフフフ
…1話丸々青色で染まったらごめんね…orz 2009.5.4
幻:滑り込みっ!!!どうよ!!
初のペナルティくらって(いや、長すぎたので自主的に行ったんですが)悶絶してました、幻作です。
書く気はめっちゃあったのになぜか手が出なかったorz
…というかやっぱり長くなってごめんよーorz
今までのことの大暴露オンパレードでした。現在解ってる事はほぼ全て吐き出した感じです。
…いやほんと、ムラサキのことはもっと後になる予定だったのになぁ。(何
それ以外は前から打ち合わせをしまくってたので、それをようやく形にできたなー、という感慨がある感じで。
…まぁ、まだまだあるんですが。(何よ
ひとまずこれまでの目立った伏線は拾いました。がっつり。
それにしても誰も彼も不調な小説ね!(前にも言ったような気がする)
さーて。何だか思いっきり尻切れトンボな終わり方してますが、時間の都合だとか言っちゃ駄目です。(ぇ
書きたいことは何とか書き終えましたぜ!
…それにしても伏線拾いって、何か書き残したことがありそうな不安ばっかり残りますよね。
お願いを叶えるために舞い戻ってきた!『あなたが願ったのは金の斧ですか?銀の斧ですか?』
どっちも違う気がしながらもパスユー!!! 2009.6.4