another world story
〜pop’n&smash〜
第22話
MZD「量が量だし、そろそろ限界かもなぁ」
通信鏡を開けたり閉めたりしながら、MZDは言う。
影はその様子を見て、何が限界なのかに思い当たる。
…回復のスピードを無理矢理上げていたこと、だ。
これ以上この速さで回復していれば、大変な事になる。
影「ダカラ乱用ハイケナイト言ッタノニ…」
MZD「…んー。でもこれ使ったらそこそこ回復できるかな…?」
そう言って取り出したのは、例の『欠片』。
高エネルギーを持つ、それ。
影「!!イ、イクラ『欠片』ガパワーヲ秘メテイルカラトイッテ…!!」
MZD「分かってる分かってる。力を使ったら、その分だけ中に入ってる力が減る。ただでさえ魔物が使ってんだ、これ以上はヤバい」
影「…分カッテイルナラ冗談デモ言ワナイデ下サイ」
MZD「はいはい。…まぁ、ちょっと本気で考えたけど」
影「・・・・・」
MZDは責めるように無言で見てくる影をさらりと無視して、溜息をついた。
…折角回復した力を、全てではないとはいえ、これからまた削ぐ事になるのが分かっているからだ。
この世界の住人を、守る為に。
***
ロイ「おい、見ろよ!町が見えた!!」
ニャミ「やった、これで皆と合流できるね!!」
日の光が辺りを照らす朝。
ロイ達はアッシュやリンク達の居る町の近くまで来ていた。
ユーリ「思いの外時間を喰ってしまったが、何とか着いたな。」
ムラサキ「ええ。」
目を細め町を見やったユーリは最後尾を歩くムラサキを振り返りつつ口を開く。
ムラサキは頷きつつも思わず息を吐く。
先の言葉は全員に向けているようで、どうやら自分に向けられているらしい。
「倒れる事なく無事に着いた」と目が語っているのが分かる。
よほど自分の「大丈夫」は信用されていないらしい。
ムラサキは目に掛った髪を払うと前方を行くロイとニャミに視線を移す。
ムラサキ「町が見えたからと言ってここで焦っては駄目よ。」
ニャミ「わ、分かってるよ!ね、ロイ。」
ロイ「あ、ああ。」
既に喜びのあまり走り出そうとしていた二人はぎくりと肩を揺らす。
二誤魔化す様に笑うと出し掛けた足を戻した。
ロイ「まぁもう町が見えてんだし大丈夫だよな。」
ニャミ「そうだよね、後は私達が合流するだけだもん。」
ユーリ「…だといいが。」
ニャミ「え?」
微かに呟かれた言葉にニャミが首を傾げる。
しかし返事はなくユーリは厳しい目で町を見る。
少しの間を置き
ユーリ「…簡単にはいかないかもしれないな。」
その表情は苦虫を噛み潰したかの様だった。
そしてその言葉は現実のものとなる。
ムラサキ「剣の後…恐らくマルスかリンクのものね。」
そう言ってモンスターの死骸から顔を上げる。
あまりに不吉な歓迎に思わず眉間にしわが寄ってしまう。
ユーリは更に険しい表情をしているし、ニャミに至っては気持ち悪そうに顔を逸らしている。
そしてロイは…――
ロイ「頼む…こんな所にいないでくれよ…。」
祈るように呟きながらモンスターの死骸の周辺を注意深く探る。
モンスターに刻まれた剣の跡。
それはムラサキの言うとおり二人のどちらかのものだ。
だからこそ、こうして見たくもない光景の中に足を踏み入れているのだ。
…その死骸の中に彼等がいない事を確認する為に。
こんな相手に負けるはずがない、と自分に言い聞かせつつ作業を行っているロイだが、内心は不安ではち切れそうだった。
もし、万が一、見つけてしまったら。
その時自分は自分でいられるのか……。
しかし幸いその心配はなかったらしい。
一通り見て回った所でロイは息を吐いて仲間の元へ戻る。
ロイ「大丈夫。モンスターの死骸だけだった。」
ユーリ「そうか…。」
ニャミ「じゃ、じゃあ皆無事に町の中に入ったって事だよね!?」
ムラサキ「そのようね、だから少し落ち着いて。」
ニャミ「あ…うん。」
肩に手を添えて言われニャミは思わず掴んでしまったロイの服を離す。
ロイは安心させる様に笑って頷くが、すぐに表情を引き締めた。
ロイ「無事に町には入ったみたいだけど…。」
ユーリ「見つけるのは骨の折れる作業になるだろうな。」
入り口から見える町の様子をじっと見る。
どうやら町の中も安全とはいかないらしい。
つくづくモンスターと縁があるものだとユーリは皮肉気に息を吐いた。
* * *
――夢を見ていた
未だ夢の中にいるのだからその表現はおかしいのかもしれないが、それでも夢だと分かった。
沢山の人の顔が浮かんでは消える。
懐かしい人、敵だった人、仲間達。
そして今はもう、いない人。
そんな中誰かの手がゆっくりとおれの前に差し出される。
相手の顔は分からない、だってここは光に包まれているから。
取ろうかどうしようか悩んだ挙句俺はその手を取ろうと手を伸ばし掛けた。
けれどその時、誰かの声が聞こえた気がして手は途中で宙をかく。
――誰だろう
誰かは分からない、でも知っている声。
一つ、二つ、三つと声は増えていく。
俺を呼んでる。
――行かないと
そう思って声が聞こえる方へ足を進める。
その途中一度後ろを振り返った。
俺に差し伸べられた手は…消えていた。
あの手を取らなかった事を何故か一瞬だけ後悔して、それでも正しかったのだと、そんな気持ちになった。
「帰らないと。」
* * *
マルス「早いんだね。」
スマイル「そっちこそ。休んでなくて大丈夫なの?」
後ろから声を掛けられスマイルはフォックスの額から手を引きながら答える。
マルスはその様子に小さく微笑むと横にある椅子を持ち出してスマイルの隣に座った。
マルス「アッシュは?」
スマイル「熟睡。珍しいよねぇ、朝は僕の方がずっと弱いんだけど。」
マルス「皆疲れてたからね。」
スマイル「マルスが言うと真実味が減るけどね。」
マルス「あ、酷いな。僕だって疲れてるよ。」
軽口を叩き合いながらマルスはフォックスを見る。
顔色は大分良くなっていて、改めてあの薬の偉大さを知らされた気がした。
マルス「(早く起きてよね、フォックス)」
君が起きてくれたら、もしかしたらいい風が吹くかもしれないから。
スマイルの笑みを横目で見ながら、そう心の中で呟いた。
* * *
ニャミ「きゃぁっ!!」
モンスターの鋭い爪に襲われかけて、ニャミは悲鳴を上げる。
それに素早く反応して攻撃を剣で弾いたのは、ロイだった。
金属音がして、はね退けられたモンスターは反動でよろめく。
ロイ「大丈夫か?」
ニャミ「あ…うん。ありがと」
ロイ「もう少しでここら一帯のは片付くから」
ニャミ「…ん、了解」
モンスターの様子を窺っていたロイはちらりとニャミに目を向け、安心させるためか一瞬微笑を浮かべてから戦闘に戻った。
しかしその顔には、休息をとったとはいえ、まだ疲労が色濃く残っていた。
ニャミ(…やっぱり私って、こういう状況になると邪魔、よね…)
町の中は、入り口から見たとおりモンスターがそこかしこを徘徊していて、とてもではないが安全とは言えない状態だった。
しかし移動をしつつの戦闘であるため、仲間と離れて安全を確保する事ができず、ニャミはいつもより庇われる回数が増えている。
物陰に隠れても、そこにモンスターが居ないとも限らない。離れれば却って危険が待ち構えているかもしれなかった。
ニャミ(自分が戦えたらいいのにって、やっぱりそう思うよ)
今すぐ実戦に入りたいとは言わない。それが無茶なのは理解しているから。
しかし、せめて自分の身くらい守れるようになりたい。
皆の足枷にならないように。重荷にならないように。
…それを意識した自分が、泣きたくならないように。
俯きかけたニャミは、すぐ目の前で繰り広げられている戦闘の音にはっとして、思考を現実に引き戻した。
…今は敵の攻撃を回避することに集中しなければ、迷惑をかけるどころか大変なことになってしまいかねない。
皆が少々手間取るほど、敵の数は多いのだ。
実際、モンスターの数に比例して、モンスターの死骸も多かった。
町の住人が戦った痕跡だろう、弾痕の残ったものや、鉈が丸ごと放置されたものもある。
その中に、明らかに鮮やか過ぎる切り口の残ったものがあり、それらは恐らくマルスやリンクが倒したものだと想像がつく。
状態から、倒されて間もなさそうだった事も考慮して。
それらを辿って彼らに追いつこうと思い、初めは奮闘していたのだが、しかし幾ばくもせずに諦めることになった。
この痕跡を残した彼ら自身も行き先が定まっていなかったらしく、痕跡自体が東奔西走していて辿れなかったのだ。
今は仕方なくニャミが目星をつけた病院へ向かっているのだが。
ムラサキ「町の中にこんなにモンスターがいるなんて…」
不意にムラサキが呟いたのを、一同はしっかりと聞いていた。
続いて彼女から零れた「六…」という不安げな呼び声も。
ここには居ない弟の事を想っているのだろう。
この町がこんなに危険ならば、他の町もどんな状態なのか分からない。
それこそ、自分達の故郷も。
数年前の戦いでもこのような事はあったが、その時は大切な者からこんなに離れたりしなかった。
伝令役として各地を駆け回っていたニャミの場合も、やはり離れることなく共にいた。…尤も、彼女の場合はその『大切な者』自身が彼女について回ったのだが。
町が襲われているのを直視して初めて、世界規模の危機が再び訪れていることに、はっきりと気付いた。
今や自身の安全どころか故郷に残してきた恋人、友人、家族までもが危うい状況だ。
ニャミも不安の色を濃くして眉を寄せた。
その様子を見て取ったロイは、残るユーリを振り返るが、彼は小さく溜息をついただけだった。(こちらにはあまり不安が見られない。心配すべき相手が自分の近くに居るからだろうか)
ロイはニャミとムラサキに何か言おうとして、しかしその前にモンスターが飛びかかってくる。
咄嗟に応戦すると、ユーリの魔法による援護射撃も加わってあっさりと迎撃に成功した。
それから数匹、襲い来るモンスターを重い斬撃とユーリの攻撃魔法(時々ムラサキの無属性魔法が入り混じった)で打ち払って、ぐるりと周囲を見渡す。
もう近くに敵は居ない。
ここら一帯に群がっていたモンスターを掃討し終えたらしかった。
ユーリ「心配か?…残してきた者のことが」
手のひらに待機させていた魔法を、火を消すようにシュンと音を立てて消しながら、ユーリが小さく尋ねた。
誰に聞いているかは、言わずとも理解できた。
ニャミ「…そだね。町がこんな状態だと、ね」
ムラサキ「……」
ニャミが同意を得ようとムラサキへ目をやるものの、彼女は視線を地面に引き下ろしただけだった。
ロイ「……、大丈夫だって!何かあったら通信鏡で連絡がくるはずだろ?特に連絡してこないし、案外向こうは――」
ロイが元気付けるように明るく言う、その言葉が終わらない内に。
『ピピピピピ!!!ピピピピピ!!!』
ムラサキの懐から、けたたましい音が鳴り響いた。
それは普段ならば誰もがわっと驚く程の音量だったが、今は状況が状況だけに別の意味でドキリとする。
…あまりにも間が悪く、不吉なことしか頭によぎらない。
大音量のそれは、通信鏡の呼び出し音だった。
ムラサキは懐からそれを取り出して、ほんの一瞬躊躇してから、ぱかりと開く。
呼び出し音の代わりに、男の声が聞こえた。
MZD『おー、元気か?…って、何神妙な顔してんだよ』
ムラサキ「…珍しく連絡してきたみたいだけど、どうかしたの?」
MZD『いや、別に?そっちの近況を聞こうと思っただけ』
ムラサキ「そっちで何かが起こったわけじゃないのね?」
ニャミ「町が大変な事に…とかには、なってない?」
MZD『何だよそれ?そんなことがあったらすぐ連絡するけど…、そっちこそ何かあったのか?』
MZDのその言葉を聞いた瞬間、ムラサキとニャミはほっと息をついた。
どうやら凶報ではなかったらしい。
MZDは眉を寄せ首を傾げたが、誰かがMZDの問いへ返答する間もなくユーリが別の質問をした。
ユーリ「…以前の、遺跡での通信は会話の最中に途切れたようだが、何かあったのか?通信鏡に出たのもお前でなく影だったな」
通信鏡をムラサキの背後から覗きつつ問うユーリに、MZDは『ああ、』とすぐに応じた。
MZD『俺が出かけてたから影が代わりに連絡したんだ。通信が途切れたのは丁度その時電波状態が悪くてさ』
ムラサキ「…そう」
ユーリ「……」
MZDの言葉に、二人は一瞬何か考えるような顔をしてから、それでも納得したように頷いた。
そして本来の話題(ユーリ達の近況について)へと戻そうと通信鏡の向こうの神が口を開きかける。
しかし、
ロイ「…出かけてたのに何でその時通信鏡の電波状態が悪かったって分かったんだ?」
ぽつりと問いかけたのが聞こえて、MZDの口が開きかけたまま止まった。
――その場に居なかったMZDが、「丁度その時電波状態が悪かった」事が分かるはずがない。
後から影に聞いたのかもしれないが…、
通信鏡の画面の向こうで、彼が“失言だった”と僅かに表情を歪めていて、その可能性が打ち消された。
この時MZDが誤魔化しにかからなかったのは、ロイが半分確信したような目をしていたからだろう。
ムラサキとユーリは、何も言わず窺うようにロイを見た。
ニャミは何が起こっているのかよく分からず、きょろきょろと忙しなく全員へ視線を送っている。
ロイ「本当は出かけてたんじゃなくて、影のすぐ傍に居たんじゃないのか? 遺跡に居る俺達に影が通信をかけてるその近くで、ずっと見てたんじゃないか? …もしそうだったら、何でそんな事をしたんだ」
MZD『……』
ロイ「…姿を出せない理由があったんだな? けど、今回はこうして出てる。二度と出られなくなったわけでもない。…ただ、そっちの背後に見えるのは最初の通信の時と同じ部屋だし、移動はしてないみたいだな」
ニャミはそこで初めてMZDの後ろに見える景色に気付いた。
記憶が正しければ、そこはMZDの寝室だ。…それも、確かに一度目の通信の時から変わらない。
それにも驚いたが、ロイが普段のイメージからは想像もつかないような鋭い切り口で問い詰めていることにも正直驚きを隠せなかった。
…しかし、そういえば以前、修三の元へ剣を直しに行く道すがら、ニャミが単なる伝令役をしていたにしては道を知りすぎているという事を誰より先に指摘したのもロイだった。
普段は口に出さないから分からないだけで、本当は…、とニャミは思う。
ロイ「…もしかしたらそこを拠点にして動いてて、戻ってきてから通信かけてるから同じ場所なのかもしれないけどさ…、そうでないなら、そこを動けないんじゃないか?連絡も妙に少ないし、動くどころか通信すら中々出来ない、とか」
ニャミ「何それ…、本当なの?MZD」
ニャミが強く尋ねたが、MZDは思案するような顔で何も言わない。
気にせず、ロイは続けて言った。
ロイ「可能性は高いと思う。…って言っても、この通信があって初めて考えた可能性なんだけどさ」
ロイは言葉を切って一拍置き、ニャミが取り乱さない程度の落ち着きを取り戻したところで再び語りだす。
ロイ「クレイジーがこっちに仕掛けてきても無反応だっただろ。アッシュも『クレイジーを止めに来なかった』って不思議がってたよな。あんな一大事に、止めに来るどころか連絡すら無かった上に、その後も特には。さっきだってあの時のことについて尋ねる気配もなかった。ってことは、俺達とクレイジーの間にあった出来事を知らないんじゃないか?」
クレイジーが間接的にでも仕掛けてきて、それ自体は無事収まったのだが、寧ろ今は彼の動向が放っておけない位置にあるのではないだろうか。
それなのにMZDが聞いてきたのは『こちらの近況』。
明らかに場違いな質問だった。
ロイ「クレイジーの事はモンスターの事と並んで大きな事件だと思う。どう考えてもこの世界の神が放っておけるレベルじゃない。世界を飛び回って調べててもおかしくないくらいだ。なのに通信鏡に映る場所はその部屋のまま…。それに、クレイジーが関わってきたって事を知らないなら、やっぱり何も調べてない可能性が高い。世界規模の被害にも関知しないとなると…動けない、と取った方が自然だ。その状態で通信すら無いってことは…、そういうことなんだろ?」
じっと、一同の視線がMZD…この世界の神へと集まる。
ロイ「…いや、異世界の神が来たこととか、世界規模の事件とか、神でも元から感知できないならこの説総崩れなんだけど…。今までの皆の反応からしてそれは無い…かな?でも俺はこっちの世界の神の事情分からないし」
MZDの傍にふよりと近付いた影が、画面の端で僅かに心配そうな顔をしている。
影は何かを言いたそうにしていたが、しかしMZDは手でそれを制して、ロイの視線を真っ向から受け止めた。
視線は無言で神へ問う。
『今までの事件に気づいていたのか、否か』と。
MZDはいつになく真剣な顔で、それに答えた。
MZD『…詳細は掴めてないが、俺以外の神の存在とか何らかの異変が起こってるだろうって事には、気付いてた。俺はこの世界の…神だから』
『神だから』。普段何かにつけて彼が言う、一種の言い訳のようだったそれは、この場では重く沈んで聞こえた。
ニャミ「…気づいても調べに行くとか、こっちに連絡するとか、出来なかったってこと?」
恐る恐る尋ねるニャミに、MZDは今度こそ頷いた。
肯定することを予想して尋ねたはずだったのに、ニャミはその反応に言葉を失っていた。
MZDが…この世界の神が、行動できない状況だと、はっきり分かってしまった。
それはすなわち、何か重大な出来事が起こったということだ。
マスターハンドに引き続いて二人目の、行動不能の神だ。
ロイ「…ユーリもムラサキもこういう事には鋭いはずなのに、どうして今まで何も言わなかったんだ?その様子だとやっぱ分かってたんだろ?」
それまで成り行きを見守っていた二人へと問いかける。
二人は、ちらりと視線を合わせてから再びロイを見た。
ムラサキ「…そうね。何となくだけれど、予想はしていたわ。けど、MZDが言わないってことは、今は知るべき時ではないと思っていたの。…町が無事だって言ってたのは彼の性格から言って本当のことだと思うし、彼自身のことも時が来れば必ず言ってくれると思ってた」
ユーリ「奴は、無茶はするが無理なことはしないからな。今何をしているかは分からないが、それが出来ないと分かれば、その時は連絡があるだろうと踏んでいた。…しかし、そうだな。もう待っている場合ではないのかもしれない。現に町一つが沈みかけている」
ふつりと会話が途切れ、MZDへと視線が集まる。
MZDは緩く息をついて、それから一度ゆっくりと瞬きをした。
開いた瞼から現われたのは、何かを決心したような強い光を放つ瞳。
MZD『分かった、全部話そう。もう隠してはいられないみたいだからな』
その研ぎ澄ましたような表情を見た瞬間、そこに居た4人は僅かに緊張を抱いた。
神である彼に起こった出来事、今までずっと隠し通されていた何か。
それは重大な話に違いなかった。
ユーリ「…何が、あった」
ユーリが小さく問いかけるが、MZDは不意に視線を浮遊させた。
MZD『…いや、それを言う前に、お前らメンバーが足りないんじゃないか?話の内容はそうそう軽くねぇし、そっちが全員揃ってから話したいんだが』
ムラサキ「こっちは今それに苦労してるんだけど…」
MZD『…何かあったのか?』
ニャミ「…うん。ちょっと…ね」
どこから説明すべきか考えて、フォックスの事に思い至ったのだろう。
それ以上言うのは今の心境から憚られたらしく、口を噤む。
代わりにユーリが伝えるべき事を大まかに話した。
ユーリ「今は二手に分かれて行動している。しかし落ち合う予定の町が広すぎて向こうのメンバーを見つけられない状態だ。…おまけに街の中はモンスターが多く捜索もし難い」
MZD『そう…か。これは思ってたより……、』
ニャミ「MZD?」
MZD『…いや。合流できないなら俺が手伝ってやるから。通信鏡の欠片探査の機能をちょっといじって、探してるメンバーの居る方に光が向くようにしてやる。…探してるのは何人だ?あんまり多いと光の本数も増えて確認しづらいだろ』
ユーリ「ならば光を向けるのはフォックスのみで充分だ。近くに全員居るだろう」
MZD『了解』
MZDが集中するように数秒間目を閉じる。
その途中で、ムラサキは周囲に視線を巡らせた。危険の有無の確認だ。
先ほど頑張った成果か、モンスターの姿は近くにない。…今のところは。
MZD『よし、出来た。この通信が終わった後に探査の光を出せばフォックスに光が向く。全員合流したら光を消してくれ、それを次の通信開始の合図にする。それまで消すなよ?』
ムラサキ「……あ、ええ。分かったわ」
視線を通信鏡に戻したムラサキは、通信鏡を常に持つ自分に言われているのだと気付いて、数拍遅れてから返事をした。
MZD『で、だ。色んな事情は後から話すが、今は最初に言った通り近況を聞きたい。そこんとこは本気で聞いたんだからな。…こっちは情報収集がからっきしなんだ』
ユーリ「要点を挙げろ。近況といえど、まさかこちらの天気を聞きたいわけでもあるまい?」
MZD『…そうだな…、まずはさっきちらっと聞いたモンスターの事について。町の中にまで居るって?』
ロイ「ああ。この町…砂漠にある大きい町なんだけどな、モンスターだらけで町の人の姿が全く見えない。ここ以外にも洞窟とか遺跡にもモンスターが居たけど…一番酷いのはここだ」
MZD『そうか……それは神として見過ごせねぇ所だな…』
再びムラサキが視線を巡らせる。
…遠くの方に何かが蠢いたのが見えた気がして、僅かに目を細める。
しかしまだ大分遠い。
MZD『あとは…そうだな。お前ら、この世界で俺以外に神を見たか?…もっと言うと、この世界に俺以外の神がどのくらい居るのか聞きたい』
ユーリ「神の数…?何かあるのか?」
MZD『ああ…、落ち着いて聞けよ。神の数が多いほど、この世界は危険な状態だ。それに、俺はお前らの手助けが出来なくなる』
ニャミ「何それ、どういうこと!?世界が…!?」
MZD『細かい事は全部後だ。絶対話すから。…で、どうなんだ』
最早隠し立てをせず、言わないとしても後で話す約束をして素直に問うMZDに、一同は協力すべく少し考える。
ロイ「…正確な数は知らないけど、クレイジーが居るのは確かだな。ちょっと前に声だけとはいえこっちにコンタクト取ってきたし。マスターは…分からない」
ユーリ「どうやらお前と同様に動けないらしい、ということは以前こちらで話し合って見当がついたのだが…」
MZD『……、そうか』
それを聞いたMZDは、数瞬迷って、それでも眉を寄せながらはっきりと言った。
MZD『俺の感覚を足して考えると、十中八九居るだろうな。この世界に』
マスターとクレイジーの存在の肯定。
それはどの程度重大なのか一同にははっきりと分からなかったが、MZDの様子から考えて少なくとも良いとは言えないのを悟った。
ロイ「…それなら、今居る事がはっきりしてるのはマスターとクレイジーの二人だ。そっちを含むとこの世界には三人か?それとも、さっき『感覚』って言ってたけど、感覚で何となく分かるならそれ以上居そうな感じはするか?」
MZD『いや…、今は俺も探るどころじゃなくて、そこんとこ曖昧なんだが……、もう一人神がいる、って感じではないな。三人で間違いなさそうだ』
ニャミ「分かるなら何で聞くのよ?」
MZD『分かるっても、言ったように曖昧なんだ。感覚と足しての人数確認。あとはメンツを知りたかった。人数が合ってても、マスターとクレイジー以外の神だっていうなら対処の仕方も違ってくる。…それにしても、今の状況だと世界自体は保っていても、俺からは殆ど手助け出来そうにないな』
ユーリ「…そうか」
でも今回ばっかりはなぁ、とMZDが呟きかけるが、その声が届く前に今まで周囲に警戒の視線を巡らせていたムラサキが声を上げる。
ムラサキ「モンスターが来たわ!」
いくらこの辺り一帯のモンスターを一掃したとはいえ、別の場所からモンスターがやってくればどうしようもない。
獣型のモンスターがこちらへ走ってくるのが見えた。…先ほど遠くの方で蠢いていたものだ。
ムラサキ「通信、切るわよ」
MZD『あ、待てよ。今回は…』
ムラサキ「話の続きはまた後で」
MZD『…はいはい。まぁ、探査の光つけるの忘れんなよ?』
溜息混じりの彼の言葉に頷いて、ムラサキは通信鏡を閉じ、裏にあるスイッチを入れた。
通信鏡から光が伸びるのを確認してから素早く戦闘態勢に入る。
―――と。
ぶわり。
突然の強風に、4人は一瞬体勢を保てなくなりかけたが、吹き抜けるまでにあまり時間が掛からなかったので少々よろける程度で済んだ。
しかし、問題はその先だった。
ニャミ「な…に、あれ」
ニャミが呆然と呟く。
その視線の先にあった光景は……、一種異様なものだった。
あと十数える間もなくこちらへ襲い掛かってくるはずだったモンスターが、強風に押さえつけられていて前へ進めなくなっている。
…更に、少し見ている間に風はぐんぐん強くなり、とうとうモンスター達は風の唸る音と共に空中へ巻き上げられてしまった。
まるで竜巻のようだ。
かといって、こんなに強い風が吹いているにも関わらず町の家々は吹き飛ぶどころか窓が揺れる様子さえ見て取れない。
竜巻が起きている事など知らないとでも言いそうな様相だ。
実際、ユーリやロイ達にも、最初の突風以降は微風すら感じられない。竜巻が起きていると分かるのは、風の音があるからだ。
そして見る間に竜巻は大きくなってゆき、町の中にいた他のモンスターや、モンスターの残骸までもを巻き上げて移動していく。
…勿論、町に被害など一切出さずに。
このままいけば、この町の全てのモンスターを町の外へ運び出してくれそうだ。
ムラサキ「…魔法、にしては都合の良すぎる効果ね」
ユーリ「MZDの力か」
ニャミ「え、でも力は貸せないって…」
ユーリ「殆ど、と言っていたからな。全く駄目ではなかったのかもしれない」
ロイ「まぁ、後で聞けばいいさ」
会話をしている間にも、とんでもない数のモンスターが巻き上げられて、予想通り町の外へ運ばれてゆく。
目の前の道には最早モンスターの居た形跡は残っていない。
そうして遥か遠く、見えなくなるくらいまでモンスターが運ばれていった。
その後、瞬きをするほどの短い間ではあったが、町を覆うようにドーム状の何かが現れ、シャボン玉のような光を放って、消えた。…否、あれは見えなくなった、と言うべきだろうか。
ニャミ「今の、見えた?何だろう」
ユーリ「分からない。追加効果でもあったのか…?」
ロイ「とにかく、今は進もう。それしかない」
全ては全員が集まってから。
頷き合って、ムラサキの持つ通信鏡の光を頼りに、4人は歩きだした。
………彼らの背後で、幾度かその景色が――空間が、粘土を捩じるようにぐにゃりぐにゃりと曲がったが、すぐに戻った為に誰も気付くことはなかった。
〜To be continued〜
<幻作の呟き。>
やー、ようやく全員が町に集合し始めた感じですかね。
フォックスの無事も確保できて安心…と思いきやMZDの暴露大会の幕開け。
というか寧ろロイの推理大会?
実は次回でも暴露大会の本番は来ません。次の次です(をい
…私の文章が回りくどくて長いばっかりにorz
というかファンタジー風なのに思いっきり現実味を捻じ込んでるのは私の趣味です。(町にもモンスター出るとかね!)
いや…何か、それを含めて乗り越える冒険者を書く方が楽しそうで(ええぇ
色々ねじ曲がってる気がしないでもないですが、楽しければいいと思いませんか!!
…はい、変人ですいません。愛ゆえです。
次回分もたまってるので一気にUPしたいと思います。では!
UPした日:2009.6.12
それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。
<リアルタイムなアトガキ。>
闇:あぶねー、ギリギリだった!!ってかここの所毎回ギリギリだけどな!!
深夜のテンションでこんばんは、闇星です(何
何か色んな方向に手を出して結果グダグダになった感が拭えません。でも物語自体は進んだと思いたい。
だって、ほら!一応ロイ達も町に入ったしね!!!
あ、因みに「夢を見ていた」のはフォックスですよー。別に他の人でもいけそうだけど(笑
ってか前回の幻やんスマイルが切ないよぉー!
皆不器用さんなんだね、早く絡まった糸が解けるといいけど(自分で絡めといてよく言うわ)
なんと攻撃をかわされた!?やばい、こいつぁーやばいぜ!パスユー!
あとがきの日にちが締切だから31日はセーフなんだよ…ね?
…うん、セーフって事で!(爆
幻:終わったあああああぁぁ!!!
もう駄目かと思った、マジで。いや、時間を考えたら既にダメダメなんですがorz
今日全体の手直しを入れたりセリフを追加したりでようやく完成。
リレー小説を書いていた掲示板が突然消滅して、思い出しながら書き直す羽目になったのですが、それがこんなキーポイントだったせいで超四苦八苦ですよ。
最早原文より長くなっているのは目を逸らせない事実…(滝汗
でも起こった出来事としてはこっちの方がすっきりしてる感じがするのは何故。
とにかく、ここに来てようやくMZDの激白が聞けそうです。(何
色々明かす瞬間って大好きです。…明かすくせに結末がまだまだ見えないのは…笑って誤魔化せ(ぇ
こんなに時間かけて書いたのにずっと待っててくれてありがとう、おかげで納得のいくものが書けた!今パスするよ!!
攻撃が降りかかる前に出来る限りパンチを繰り出す!最早音速!!さーぁ始まりの(略) パスユー!!! 2009.1.3