another world story
〜pop’n&smash〜
第21話
一同は、リタの案内によって医者の居る家の前まで辿り着いた。
最初は道しるべ(リンクが意図せず作ったものだ)を通って帰ろうとしたが、リタを連れている状態でそれは出来ないという判断がマルスから下った。
そこかしこに残っている戦いの痕跡ですら精一杯耐えている様子のリタにそれは酷だ。
しかし一同は別の道を知らない。
どうすべきか悩んだ所で当の本人であるリタが案内を買って出たのだ。
幸い、話を繋げるとどうやらアッシュの思っている場所とリタの行こうとしている場所は同じらしい。
この方向には彼女の祖父が行きそうな場所が一箇所しかないとの事なので、間違いは無いだろう。
ならば、とリタを案内役にして、迷惑をかけたくないと嫌がるリンクをマルスが背負い、ふらふらと歩くアッシュに歩調を合わせて歩いてきた。
リタ「ついたよっ」
アッシュ「案外と…近かったっスね」
行きに蛇行しながら走っていたせいだろうか、もっと距離があるものだと思っていたのだが、実際には然程離れていなかったらしい。
マルス「案内ありがとう、リタ」
リタ「どういたしまして!」
少女はにっこりと笑って、小さな体でぺこりとお辞儀をした。
その拍子に頭の布が落ちかけたが、彼女が慌てて押さえたので落ちずに済んだ。
マルスはそれを見てくすりと笑う。
そしてその背後からリンクの声が聞こえた。
リンク「あの…マルスさんも疲れてますよね。そろそろ降ろしても構いませんよ、もう大丈夫ですから」
マルス「そういう事はもう少しはっきりした発音を出来る元気がある時に言おうか、リンク」
リンク「………」
力が抜けて若干かすれた声しか出せないリンクは、自分を背負っているマルスにずばりと言い切られて思わず口を噤む。
しかし数瞬の後、何かが脳裏を掠めたらしく、再び抗議をした。
リンク「このまま入りたくはないんです。壁伝いにでも歩きますから」
マルス「……リンク。何があったのかな?」
リンク「…それは……」
アッシュは言いよどむリンクを見て、大体の予想がついた。
それから僅かに考えて、言った。
アッシュ「マルスさん。…降ろしてやってくれねぇっスか?」
マルス「………、」
マルスはアッシュを見てぱちりと瞬きをした。
そこから何かを読み取ったのか、小さく息をついてからマルスは苦笑する。
マルス「分かった」
ゆっくりかがんで、リンクをそっと降ろす。
リンクはがくりと膝を折りそうになったが、アッシュがリンクの腕を掴んでとどまらせた。
笑う膝を叱咤して何とか立ったリンクを見ながら、マルスは「後でどういう事か説明してもらうからね」と、どちらにともなく言う。
アッシュ「…多分入れば分かると思うっス」
マルス「…?」
リンク「ここまで運んでくれてありがとうございました」
マルス「それはいいんだけど…」
リタ「ねぇ、どうしたの?」
アッシュ「何でもないっスよ。おんぶされながら入るのはちょっと嫌だったみたいっス。さ、入りましょうか」
リタはきょろきょろと三人の様子を窺ってから、頷いて扉を開いた。
―――と、
「リタ!」
扉の向こうには、今まさに出てこようとしていたらしき老人が立っていた。
リタ「おじいちゃん!!」
老人「おお、良かった良かった。連れてきて貰ったんじゃな?」
アッシュ「や…それが…」
マルス「連れてきて貰ったのは寧ろこっちの方、なんです」
苦笑する彼らに老人が首を傾げたが、真相を告げる前に老人の隣から顔が幾つか覗いた。
マルスはその顔に見覚えが無い。
リタの無事を喜ぶ声、それからマルス達への礼が次々と聞こえる。
マルスがちらりとリタに視線を遣ると、「この人たちが、おでしさん」と彼女がこちらを見ながら小さく説明してくれた。
3人の若い男の存在に得心がいって、マルスは「なるほど」と笑顔で頷いた。
弟子達がリタを家の中に引き込んで、それとほぼ同時に老人が尋ねる。
老人「そちらの方は…?」
老人の視線の先には、マルスが居た。
アッシュ「マルスさんっス。俺らの仲間で、さっき合流しました」
マルス「宜しくお願いします」
老人「そうかそうか。大変だったじゃろう、入りなされ。リタが中へ入ってしまったからの、ドアを閉めてしまえばここらにも化け物が来る」
老人が中へ入っていくのに続いて、三人も入る。
リンクは大分苦労していたので、所々でマルスが助けながら。
辿り着いた安心感からかアッシュまでふらついていたが、何とか廊下の奥へ入っていけた。
そして。
一同が奥の部屋――現在フォックスを治療している部屋へ入ると同時に、ヒヒヒ、と感情の読めない笑い声が聞こえた。
スマイル「お帰り、よく無事に戻れたね?…あぁ、やっぱりそんなに無事でもないのかな?」
それにはリンクが眉を寄せる。アッシュとリンクの二人に向けられた言葉のようにも聞こえるが…リンクには自分一人に向けられたものだと理解できていた。
言葉の裏が聞こえたからだ。
曰く、「それみたことか」と。
その様子を見て、マルスは何となく事の次第を察した。
リンクが降ろしてくれと頼んできたのも、恐らくこの事が関係しているのだろう。
リンク「私は無事です。少なくともここから一歩も出ないよりは有意義でした」
スマイル「ヒヒ、それは結構。マルスまで合流できてるのには凄い強運を感じるよ」
フォックスの横たわるベッドの側で、椅子に座っているスマイルが、入り口に立つ彼らへゆっくりと振り返った。
その顔が素直に晴れた笑顔である事が、奇妙な心の空転を生じるのは何故だろうか。
リンクは、やはり自分の足でこの部屋に入って良かった、と改めて思う。
全てを振り切って外へ駆け出して、戻ってきた時にはマルスの背中に居るなど、何を言われるか分かったものではない。
立っているのはかなり辛いが、壁に背を預けてでもしばらく立っておこうと決めた。
マルスに背負われている間に少しばかり回復したものの、長い間はもたないだろう。限界を感じれば部屋の外に出る事にして、白い壁へと体重をかける。
本当ならばフォックスの傍に行って容態を確かめたい所だが、ふらついてベッドへ倒れ込みでもしたら大変だ。
ぎりぎりの思いで踏みとどまる。
スマイルの隣で、何も知らないリタがフォックスの顔を覗き込んで「この人に“お守り”を使いたいの?」と誰にともなく尋ねた。
それに返答したのは彼女の祖父で、優しい声音だった。
老人「もう聞いておるんじゃな。…そうじゃよ、ここにいるフォックス殿は彼らにとって大切な大切な仲間で、その“お守り”を使わねば大変な事になる。リタ、良いな?」
リタ「わかってる。たいせつだって思われてる人を助けるのは、とってもだいじ」
リタは一つ頷いて、ペンダントを首から外した。
それを医者である彼女の祖父へ手渡す。
マルス「弟子の方々は?」
三人の若い男の姿が見えず、マルスが問う。
すると老人は視線で上を示した。
老人「ここは狭いでな、二階へ上がって貰っとるよ。…今からやる事にはどうせ手伝いなど要らん。ここに居たい者の方を優先するんじゃよ」
マルス「そうですか…有難うございます」
アッシュ「スマ。フォックスさんの容態は?」
少々狭い部屋の中で、棚やテーブルに気をつけながらアッシュは壁の近くに座り込む。
残念ながら椅子が足りない為、残り一つのそれに座る事は遠慮したのだ。
自分より体調の悪い者が部屋の中に居る。ただ、思い当たるその人は恐らく椅子を使うことは無いのだろうが。
スマイル「んー。それはちゃんとしたお医者さんに聞いた方がいいんじゃない?僕じゃ役者不足って事さぁ」
老人「スマイル殿、役者不足という事はあるまいに」
スマイル「ヒヒヒ!じゃあ正直に言うよ。…僕が言ったんじゃ角が立つのさ」
……一瞬の静寂が耳に痛かった。
恐らくスマイルは、遠まわしに言う事を諦めている。
それは時間が無いことを懸念しているのか、あるいは。
スマイル「じゃ、サイドさんどうぞ」
サイドと呼ばれた老人は、内心で溜息をついてから頷いた。
ここに留まっていたスマイルが老人の名前を聞いたらしい事は分かったが、誰もそれを確認するために口を開く事はできなかった。
サイド「……治療をしながら、で良いかな?」
スマイル「勿論さぁ」
返事を受けたサイドは、フォックスの傷口に被せてあるガーゼ(待っている間に消毒し直した)を取り去りながら、話し始めた。
サイド「相当…酷い。これ以上薬が遅れれば、最早絶望的だったと言っても過言ではない。勿論、普通の薬を使う場合であれば既に手遅れが確定しておった」
それを聞いて、リンクはちらりとスマイルを見る。
やはり悠長に構えているべきではなかったではないか、と。
当のスマイルは、サイドの方に顔を向けていて表情が分からない。
サイド「じゃが、この薬があるならばもう安心じゃ」
言って、彼は小瓶の蓋を取る。
しゃらりと、蓋に通されているペンダントの鎖が揺れた。
瓶を傾けて、露になったフォックスの傷へと淡く輝く緑色の液体を零した。
それは全量だったが、見た目通り少なかった。
――傷にかけられたその薬は、しかし一見した所では何の変化をもたらしたようにも見えない。
そこに居る一同は首を傾げ……ようとして、
サイドが何事かを呟く声が聞こえた為止まる。
どこの言葉だろうか、聞き取れない。
そして、言葉が進むに連れて彼の背に何かが見えてきた。
ほぼ透明で、触れれば手がすり抜けてしまいそうなほど薄い色のそれは、……翼だった。
マルス「これは…?」
リタ「おじいちゃんは、使うのがむずかしいお薬をつかうとき、羽を出すんだよ」
スマイル「…天使族、なんだね」
マルス「天使…」
翼が姿を現すのとほぼ同時に、フォックスの傷口に零された緑の薬が、元々持っていた淡い光をふわりと暖かな光に変えて広がり始めた。
例えるならば綿毛のような。そして日溜まりのような。
光は広がってフォックスの全身を包んでゆく。
そうしてしばらく経った後、光はふつりと途切れ、消えた。
同じく、サイドの背の翼も。
サイド「これでいい。しばらくは眠り続けるじゃろうが、起きる頃には全快しておる」
振り返って笑んだ老人の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。
フォックスの方を覗き込むと、肩の傷が跡形も無く消えている。ただの少しも、痕跡が無い。
アッシュ「万能薬…って、解毒するだけじゃなかったんスね」
サイド「そうじゃ。だからこそ“万能”なんじゃよ」
スマイル「かなり貴重だったんじゃない?」
サイド「なに、人の命より貴重なものは無かろうて。…これは天使族の性、なのかもしれんが」
マルス「有難うございます」
彼が空になった瓶に蓋をすると、リタが「ちょうだい」と手を伸ばしてきたので再びペンダントとして首にかけてやる。
少女は胸に下がった空の瓶を少し傾けて、微笑んだ。
リタ「これでフォックスさん、元気になるね」
マルス「そうだね。ありがとう、リタ」
リタ「? わたし、何もしてないよ?羽もうまく出せないから、おてつだいできなかったし」
マルス「君は“お守り”を使うことを許してくれた。それにここまで連れてきてくれた。とても心強かったよ」
言って頭を撫でると、少女ははにかむように笑んだ。
リンク「――ありがとうございました」
不意に、それまで黙っていたリンクが口を開いた。
リンク「フォックスさんが倒れて、熱が酷くて、助けることが難しくて…。こんな状況で救ってくれて、本当に感謝しています」
サイド「…フォックス殿は、良い仲間を持っておるようじゃな。助かることを喜んでくれる者が居る、それだけでこっちも嬉しいよ」
ほっとしたような表情のリンクに微笑んで、老人はぐるりと一同を見回す。
サイド「さて、今度は全員分の傷の手当てを始めようかの」
言われて初めて、一同は自分達が負った怪我のことを思い出した。
フォックスの事で手一杯だったが、そういえばここに至るまでにモンスターとの交戦が多々あった。
サイド「部屋を用意しておく。手当てが済めば休むがいい。…空き部屋はあと二つしかないが、我慢して貰うぞ」
アッシュ「我慢だなんてそんな。身に余る程の厚意っス」
サイド「それは良かった」
サイドはリタに上から弟子を呼んでくるように言いつけ、治療道具を用意し始める。
スマイル「ねぇ、フォックスはどのくらいで目を覚ますのかな?」
サイド「さてな。遅くとも二日、三日の内だとは思うが――」
言いかけた所で、家の外、かなり遠くからモンスターのものらしき咆哮が響いてきた。
また、暴れているのだろうか。
サイド「…何にせよ、この状況が収まらないことには、無事に外へ出ることもままならん」
“お守り”は、もう無いのだから。
その夜。
徘徊しているモンスター達の音も消え街は静寂に包まれていた。
しかしそれは穏やかなものではなく何も感じられない、不気味な静寂だ。
そっと周辺を見るが動いているものの姿は認められない。
小さく溜め息をつくとマルスは窓辺から身を離した。
マルス「それで、そろそろ説明してもらってもいいかな。」
部屋の奥、ベッドに横になっているリンクに声を掛ける。
二つの空き部屋を宛がってもらってごく自然にこの組み合わせになったわけだが、何故だか自然というよりは必然的だったと感じてしまう。
それは矢張り、暗く重い空気のせいだろうか。
マルス「スマイルと何があったの?」
リンク「・・・・・・。」
マルスが問いかけるも返答はない。
だが起きている気配はある。
返答がないのはそれすらも苦しい、というだけではないだろう。
その証拠に暫くの後に小さく呟く様な声が聞こえた。
リンク「・・・別に、何も――」
マルス「なくないよね。その様子だと。」
リンク「・・・・・・。」
間髪入れずに否定されリンクは口を噤む。
鋭いマルスの事だから、大凡の予想は出来ているのだろう。
それでも素直に告げる気にはならなかった。
マルスは、スマイルと仲が良い様に見えたから。
リンク「何でも・・・何でもないんです。」
マルス「・・・そう。」
枕に顔を埋めて言うリンクにマルスは素直に引き下がる。
これ以上聞いても恐らく答えてくれる事はないだろう。
気がかりでは、あるけれど。
マルス「今日は疲れたから、もう寝ようか。」
久しぶりのベッドだね、と務めて明るい声色で告げながらベッドへもぐりこむ。
簡素なつくりだが、野宿を続けていた身には非常にありがたかった。
それと同時に申し訳なくも感じた。
今頃まだ他の仲間達は砂漠を歩いているはずだからだ。
無事かどうかの心配はしていない。
絶対に大丈夫だと信じているから。
こういう時は自分自身が前向きに考えないといけないのだとマルスは熟知していた。
だから、絶対に大丈夫。
必ず会える。
半ば自身に思い込ませるように言い聞かせると、すぐに眠気に襲われた。
どうやら思っていたよりもずっと、自分も疲れていたようだ。
ゆるゆると誘われるままにマルスは目を閉じ―――
リンク「マルスさん。」
マルス「・・・ん・・・。」
リンク「スマイルさんは、もし・・・。」
ぽつりと聞こえたリンクの声に何とか返事を返したが既に意識は夢の世界へと引きずられていた。
それでも何とか続きを聞こうと耳を澄ませたが、一向に続きは聞こえてこない。
何、どうしたの?
そう尋ねようとしたが口が重く動かない。
そのままマルスは意識を落としていった。
リンク「・・・・・・。」
隣からマルスの寝息が聞こえ始め、リンクは微かに枕から顔をずらしてマルスを盗み見る。
危ない所だった。
思わず言ってはいけない事をマルスに言おうとしたのだ。
リンク「・・・最低、だ。」
自分自身に毒づく。
今、一人で旅をしている時に養われた必要な、けれど今は邪魔でしかない意識がリンクを支配していた。
人は二種類に分けられる。
信じられる者か、そうでない者か。
信頼か、不審か。
リンクは大きく頭を振ると再び枕へと顔を押しつけた。
早く眠ってしまおうと。
スマイルさんは、もし――
――アッシュさん達がフォックスさんの様になったとしても同じ対応だったのでしょうか・・?
本当に、信頼してもいい相手なのでしょうか?
***
きらきら、と美しい光を放つそれをビトレイは指先で弄ぶ。
ガラスの様なそれは少しでも力を込めれば簡単に砕けそうで、けれど実際に砕ける事は決してなかった。
ビトレイ「忌々しい・・・。」
一度強く握りしめ、吐き捨てる。
やはり自分では壊す事が出来ない。
ビトレイ「・・・クレイジー!」
ぎり、と歯を鳴らすとビトレイはクレイジーを呼び付ける。
少しの間を置いて不機嫌そうにクレイジーが姿を現した。
クレイジー「何、五月蝿いなぁ。」
ビトレイ「お前に預ける。」
クレイジー「えぇー。」
手の中に収まった二つのそれをクレイジーは酷く面倒そうに見やる。
クレイジー「何で俺が持ってないといけないのさ。」
ビトレイ「壊さないのなら責任を持て。」
クレイジー「我が儘。」
ビトレイには壊せないが、クレイジーには壊す事が出来る。
しかしクレイジーはそれをしようとはしない。
本人曰く「面倒」らしい。
我が儘なのはどちらだ。
手の中でちゃりちゃりと欠片を踊らせるクレイジーにビトレイは不満気に鼻を鳴らした。
***
カチャリ。
静かな音を立ててドアが開閉されたのを聞き咎めて、アッシュはベッドの上でそっと顔の向きを変えた。
アッシュ「…スマ。どうだったっスか?」
スマイル「あれ?アッス君起きてたんだ。あんなにヘロヘロになってたからもう寝てると思ったよ」
アッシュ「寝てたけど、起きたんス」
スマイル「……」
ふーん、と呟きながら、スマイルは自分へとあてがわれたベッドへ近付き、腰掛けた。
薄暗い部屋の中、月光だけを頼りに、隣のベッドにいるアッシュの表情を読み取る。
その表情に心の中で、ああ、とスマイルは苦笑した。――どう見てもさっきまで眠っていたようには見えない。
アッシュ「それで?フォックスさんを見に行ったんスよね」
スマイル「うん。…大分安定してきてる。凄いっていうか驚異的だよ、あの薬」
明るく答えるが、アッシュは安堵したその裏でまだ何か考えているようだった。
どうやらフォックスの事とは別件らしい。
しかしスマイルからはその事に触れない。…アッシュからその話が切り出されるまでは。
スマイル「にしても、よく全員分のベッドがあったよねー。結構人数多いのにさ」
アッシュ「病院のベッドの予備をここに置いてたんだそうっス。折り畳みの簡易式を」
スマイル「倉庫みたいだね?じゃあ皆が追いついても大丈夫かも!」
アッシュ「部屋が足りねぇっス」
スマイル「でもそれじゃ、合流した後どうしよう?」
アッシュ「その時考えるっス」
スマイル「……」
アッシュ「……」
ぶっきらぼうに答えているわけではないのに、どこか冷めた声音。
恐らく彼にそのつもりはない。素直すぎて態度に出ているだけだ。
…真剣に何かを考えている。
スマイルはその話がアッシュの口から出るのを待った。
しかし中々沈黙は終わらない。
スマイルがベッドに倒れ込んで、天井を見上げた。
―――と、
アッシュ「スマは、」
アッシュが唐突に話し出して、一旦ぷつりと言葉を切る。
言葉を探しあぐねているようだった。
スマイルは何も言わず言葉の先を待つ。
アッシュ「…スマは、何でもっと素直になれねぇんスか?」
考えた末に出された言葉に、スマイルは意味を測り損ねてすぐに返答できなかった。
スマイル「…何言ってんのさ、僕はいつでも素直だよ?」
アッシュ「そうじゃなくて。……何て言ったらいいのか分かんねぇっスけど…、スマは素直だけど素直じゃねぇっス」
スマイル「ヒヒヒ!言ってることがグチャグチャだね」
アッシュ「そんなの分かってるッス!」
ああもう、とアッシュが苛立ったように隣のベッドで寝返りを打った。
……しばらくして、もう一度寝返りを打ってスマイルの方へ向き直る。
アッシュ「スマは言葉については余計なくらい素直に自分の考えを伝えるっス。…ただ、伝えるのは『考え』だけなんス」
スマイル「………」
アッシュの言わんとしている事が分かって、スマイルは天井を見たまま一瞬だけ顔を歪めた。
アッシュ「冷たいこと言って、強引に押し進めようとして、…やってる事は全部相手を心配しての事なのに、その『思い』だけは絶対に表に出さない。何で心配してるってことを言わねぇんスか?そんなんじゃ…」
スマイル「うん、駄目だって分かってる。でもそれが僕の個性で、直らないってことを、君は知ってる」
アッシュ「……」
スマイル「それにね、多分もう手遅れ。リンク君は僕のこと、仲間として認めかねてると思うよ」
アッシュ「そ、ん…、」
言いかけた言葉が、繋がらない。
スマイルは靴を脱いでベッドに完全に横になりながら、ヒヒ、と笑った。
スマイル「元々僕らは僕ら、あっちはあっちで仲間意識が固まってたけど、リンク君は特にそれが色濃かった。旅を始めてからずっと、あんまり僕らに心を開いてなかったよね」
アッシュ「…それこそ個性じゃないっスか。いきなり知らない世界に来たら元々近しかった人に寄る人だっているっス」
スマイル「うん、咎めてるわけじゃないよ。旅を始めて間もないし、間に合わせの同行者に仲間意識なんて中々持てるものじゃない。…リンク君、凄く繊細なんだよね。僕らの方に歩み寄っていいのかどうか、迷ってるのが時々見えた」
アッシュ「……、」
思い当たる節はある。
あまり自分から話しかけてこなかったし、気が付けばフォックスの傍に居た。
嫌いなものだって大騒ぎになるまで言わなかったし、そして。
スマイル「子供の姿になる事を言わなかったのって、もしかしたらちょっとはそういう気持ちが入ってたんじゃないかなぁって」
断定は出来ないけど、と付け足して、スマイルはゆっくりと瞬きをした。
スマイル「まぁそんな人に『仲間を見捨てろ』って言ったんだから、こうなったのはしょうがないんだけど」
アッシュ「見捨てろって……、確かにそういう風に聞こえる台詞だったっスけど、スマは別の解決策を見つけようとか考えてたんスよね?」
スマイル「おやー?そんなの分かんないよ?」
アッシュ「どれだけ一緒に住んでたと思うんスか、誤魔化しはきかないっスよ」
スマイル「まぁ、一時的にでも見捨てるように言ったんだからそれは事実ね。それから、フォックスが助かる可能性よりも、リンク君をその場に引き止めて犠牲を少なくする方法を優先させたのも事実。結局リンク君の方が正しかったんだけどさ。…僕は信用してもらう前に手を振り払ったんだ」
そう言って寝返りを打ったスマイルは、アッシュに背を向けてしまって表情を読ませない。
普段の彼ならば図々しいくらい堂々としているのに。
――馬鹿だ、とアッシュは思う。
そんなに傷つくくらいなら、『考えとして正しいもの』よりもっと何か選択肢があったはずなのに。
多分、今彼にそう言えば「こんなので傷つくほど僕の心は綺麗じゃないよ」などとあっさり返ってくるのだろう。
綺麗でないなら、それほど心を隠す現実主義者になってしまった原因は何だと言うつもりなのだろうか。
アッシュ「…スマは、皆に心を開いてるっスか?」
スマイル「ん?……そうだなぁ、僕は」
背を向けたまま、彼は言った。
スマイル「貰った分だけ返す主義だから」
〜To be continued〜
<幻作の呟き。>
20話と同時にUPしました、21話です。書いてる側はすんごく楽しかったですよ、ええ。毎度の事ですが。(何
今回はフォックス救助〜その夜まで、といった感じですね。やっと救助に成功しました!いぇあ!!
しかしスマイルとリンクの仲は泥沼と化してゆく!!
でもこれを乗り越えられたらきっと彼らは強くなるんだと思ってます。何か色々と(何
てゆか、マルス王子が聡くて良いです。どこか超越してる感じなのに裏の苦労人のような気がします。
そんな王子が大好きだ(告白?)
スマとリンクはどっちも優しいがゆえに衝突するんだと思ってます。
気の配り方がお互い全く形の違うもので、相互理解には程遠い、という感じで。何してるんだ彼らは(笑
(でもスマの行動が変則的すぎたからどうしようもなかった、とかいうのも事実だったりして)
スマは不器用で、あれこれ考えてても相手に何も伝わらなければいい。
そして心配性なオカン…もといアッシュが世話焼こうとして失敗すればいい。(うわぁ
敵チームの事を綺麗さっぱり忘れそうだった所を思い出させてくれてありがとう闇やん!(をい
というわけで次へ続く!!
UPした日:2008.9.3
それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。
<リアルタイムなアトガキ。>
幻:ま、間に合わないかと思ったあああぁぁ!!
書きたい事を追っていく内に「物語を進める」という重大な事をすっぱり忘れた幻作です(駄目じゃん!!)
スマとリンクの意地の張り合い(?)に精魂込めちゃった感があるのは…まぁ、愛ゆえです。仲直りはその内…。(ををーい)
医者の名前が出ました。(=やっと考えました)
リタはさりげなかった(と思う)んですが、サイドにまでなるとちょっと元ネタがありそうな事に気付いた方がいらっしゃるかも。
天使設定なのは「ポップン世界なら多種族だ!!」なノリ。(をい
そして…フォックス回復おめでとう!!!(でもまだ寝てるよ!) ようやくここまで来た…!
あとはムラサキ姐さん達の事だけかぁ、とか安心しながら(あれ、彼らの仲違いの事は?)、今回はこれにて終了。
世界の頂点目指してリングに上がった!!ぱすゆーっ!! 2008.5.30
闇:せ・・・セーフ?ぎりぎりセーフでいいんだよね!?とりあえずフォックス回復おめでとうで話を夜に移したよ!
リンクさんは疑心暗鬼に陥りました。そして同時に自己嫌悪に陥ってます。
ほら一人きりで旅した勇者だから、色々あったんだよ(適当)
本当大丈夫かこの子達・・・。
天使設定いいなー。まさに砂漠のオアシスだね!(何
定期的に入れないと存在忘れそうな(酷)悪役ズも入れときました。彼等を忘れないであげてね☆
何とリング上にはガノ○ドロ○の姿が!さぁ、どうする!!パスユー!
幻:今回、スマのあれこれを書いてたらつい本気になって行数増やしてしまった罠。
ちょっとした一場面のつもりだったのになぁ(今回のメインになってますが!?
スマとリンクの仲に亀裂が入ったのを気にせずにいられないアッスと、実はひっそりと心にヒビの入ってたスマ。
そしてスマに何となく言いにくい事をズケズケ言ってもらいました。
多分スマは好意を貰えば同じ量の好意を、悪意を貰えば同じ量の悪意を返すんだと思います。そんな感じ。
じゃあリンクへはどうなんだって、それはお楽しみに(何
てゆかですね!!リンクが「アッシュやユーリがこんな状態になっても同じ対応だったのか」とか思うシーンは私も入れようと思ってました!!
いやもうホント、ずばり書かれてて驚きましたとも!こっから持ち直すのを書くのが楽しみだなぁ。ウフフフ(何
さて、ここで終わりますー。
リング上の『ヤツ』にちょっと怯えつつ先制パンチ!!ぱーすゆー!! 2008.7.31