another world story
〜pop’n&smash〜
第19話






ロイ「……なぁ」
ユーリ「駄目だ」

 次の言葉を発する前にぴしゃりと制され、ロイはムッとする。
 二人だけしか居ないテントの中では、体力の尽きかけた二人によるささやかな攻防戦が繰り広げられていた。

ロイ「頼む、行きたいんだ…心配なんだよ」
ユーリ「この暑さに耐えられるのか?」
ロイ「……そこは、気合いで…何とか」
ユーリ「気合いで熱砂を何とか出来れば砂漠で熱射病にかかる者など居まい」
ロイ「………」

 反論を試みようとも、気温と体力の関係で泥のようにでろりとしている意識ではその気すら失せてしまう。
 そして、若干の時間を置いてほんの少し回復したら再びユーリの説得にかかる。
 先刻からその繰り返しだった。

 実の所、これだけ同じ事を繰り返されてユーリが怒鳴り散らさないのもロイの心情を思っての事だったが、それでは両者ともがきちんと休めないという事に残念ながら気付いていない。
 こちらも随分暑さと疲労にやられていたのである。


 少し経って、不毛なやり取りが再開されようとした……その時。

ムラサキ「…どうしたの?さっきからずっと言い争ってるみたいだけど」
 もう一つのテントに居るはずのムラサキが、二人の居るテントへ顔を覗かせた。

ユーリ「ムラサキ…」
ロイ「あ、ムラサキ。それが…」
 ロイは事情を話してムラサキを説得するべく振り返るが、

 …彼女の顔がこの暑さにも関わらず青白いのを見て、咄嗟に言葉が出なかった。

ロイ「……あ…、」
ムラサキ「二人ともちゃんと休まないと、体を壊すわよ?」
ユーリ「ああ、分かっている」
ロイ「…」
ムラサキ「ロイ?」
ロイ「……え?…あ、大丈夫だって、今から休むから」
ムラサキ「本当に?…そういえば貴方さっき何かを言いかけたけど、」
ロイ「そ、そうだニャミは?ちゃんと休めてるか?」
ムラサキ「……。ええ、眠りは浅いみたいだけどさっき寝付いたわ」
ロイ「そっか、じゃあムラサキもゆっくり休めよ」

 ロイが笑ってみせると、ムラサキは言おうとしていた何かを引っ込めて、「分かったわ、ありがとう」とテントを出て行った。

ユーリ「…なぜ本当の事を言わない。私が駄目ならばムラサキを説得すればよかろう」
ロイ「……」
 ロイは無言で入口を見詰めて、数拍後にごろりとその場へ横になった。
 それから大分長い沈黙が続いて。
 やがて、

ロイ「いや…うーん」
 ユーリの視線を横目で受け止めながら、苦笑する。


ロイ「ごめん、さっきまでのは無かった事にしてくれないか?…俺も休むよ」


 ユーリは少し考えて、「そうか」と休む態勢に入った。
 理由を聞かれなかった事に何となく感謝して、ロイも目を閉じる。

ロイ(何だかなぁ…)

 仲間を心配するあまり、自分が心配される事を忘れかけていた、なんて。

 親しい者が死の危機に晒されている、だとか。
 そんな状態のまま自分の目の届かない所へ行ってしまった、だとか。
 一度に起こるにしてはあまりに事が重大すぎて、最早その事以外は視界から追い出されていた。

 いくら仲間を信じようとも、心のそこかしこから焦りが噴き出してきて止まない。
 早く合流して、フォックスは助かるのだと自分の目で確認したかった。

 しかしムラサキが青白い顔を覗かせて、尚且つこちらの心配をしているのを知った瞬間、しまった、と思った。
 自分も心配の対象に入るのだ、と。

 ムラサキは体調が悪いし、ユーリもニャミも体力が尽きかけているのだから休憩を切り上げて全員で行けるわけもない。
 自分一人で行くなど、それこそ心配を顧みない身勝手な行動だ。

 行けない。

 それが、仲間思いのロイだからこそ出せた結論だった。
 その結論に、ロイはせめて彼らが無事でいてくれる事を強く願う。



 ***



アッシュ「ほら、もうすぐそこッス!希望が見えてきたッスよ…!」

 駆けだしたくなる衝動を抑えながら(本題はこれからなのだから、ここで体力を尽かせるわけにはいかない)、ずらりと建物の並ぶ町へと近付いてゆく。
 最早町は目と鼻の先だった。

 リンクもフォックスを背負い直して町を見る。
 視界に収まりきらない程建物が多かった。大都市、と言っていいだろう。
 町を囲う低めの壁が続いていて、丁度自分達が向かう先に入口らしき門がある。
 ここに薬があればいいのだが。

 ――そう思った直後。


ズシャアアァッ!!

一同『!!!』

 突然、砂の中から何かが目の前に姿を現した。
 砂を押し上げてずるずると出てきたそれは…巨大な蛇、のようだった。

マルス「モンスター…!?」
アッシュ「こんな時に!」

 モンスターとしては普通の大きさ、とはいえその高さは優に2メートルを超えている。
 こんなものを相手にする時間は、今は無い。

 心の中で舌打ちして、スマイルがナイフを取り出す。
 …が、唐突に後ろから肩を掴まれてぎょっとした。

 新手かと素早く背後を見れば、そこにはマルスが居た。

マルス「行きなよ」
スマイル「……?」
マルス「ここは僕一人で大丈夫だから」
アッシュ「…!そんな、マルスさん一人に任せるなんて…!」
マルス「こういうアクシデントがあった時の為に、こんな人数がついてきたはずだよ。ほら、早く行って!僕も後から薬探しに加わるから」

 有無を言わさぬ口調で言い放つと、マルスは剣を構えた。
 その決意を見てとって、リンク達は黙って駆け、モンスターを迂回し始める。
 モンスターが奇声を上げてリンク達に襲いかかろうとしたのを、マルスがすんでの所で食い止めた。

スマイル「…死なないでね」
 すれ違いざまにスマイルが呟いたのを確かに聞いたから、

 マルスはしっかりと頷いた。



 ***



 ―――ほら、起きて下さいよ。


 …いや、何だかだるいんだ。


 ―――だってもうお昼ですよ?
 ―――そうだぞ、昼飯食いっぱぐれても知らないからな。


 …それだけじゃないんだ、物凄く暑いんだ。


 ―――運動のしすぎだよ。ほら、ずっと組み手やってたでしょ?


 …違う、何かこう……体中の血が蒸発しそうな…。


 ―――それは、フォックスさん、貴方が………



 ――――― た っ た 今 、 火 葬 さ れ て い る か ら で し ょ う ?




 ……、あぁ、



 そう、なのか………………



 ***



 油断していた、と、正直思う。

 アッシュは群がってくるモンスターを何とか押し返しながら、絶望に侵食されそうな思いを追いやる。
 ――町の中は、モンスターで溢れ返っていた。町の外の一匹だけではなかったのだ。
 考えてみれば当然だ。洞窟や砂漠、遺跡にまでモンスターが居たのだから、町の中にモンスターが現れないはずはない。
 どうして気づかなかったのだろう。

 もしかすると自分の故郷もこんな風景になってしまっているのかもしれない。
 …否、今はそれを考えてはならない。前へ進めなくなってしまう。

アッシュ「誰か…誰か話が出来そうな人は居ねぇっスか…!!」
リンク「駄目です、ドアをノックしても誰も出ません!」

 モンスターの出るこの町には人の影すら見えず、寧ろ建ち並ぶ家々は硬くその入り口や窓を閉ざしている。
 少なくともそれで分かるのは、戸がきっちりと閉じられているだけに、家の中に閉じ篭っている人が居る可能性が大きい、という事。

 しかしこの状況では、誰も家の中へ招きいれようとはしてくれなかった。
 せめて誰かと話ができれば、薬のありそうな場所も分かるというのに。

スマイル「……熱、どんどん上がってるね。早く病院か何か、探さなきゃ」
リンク「病院…」

 辺りを見回そうにも、満足に視認できるまでにモンスターが襲い来る。
 斬り捨てても斬り捨てても、きりがない。
 おまけにフォックスを背負っているリンク自身はあまり自由に動けない。

 奥歯を噛み締めるリンクを横目で一瞥して、スマイルは「手遅れも覚悟しよう」という言葉を表に出す前に引っ込めた。
 実際、上限を超したのかギリギリなのか分からない所まで来ていた。
 ただ、程度を考えない現実主義者の一面を持つスマイルでも、その時はリンクの思いの痛々しさを一見して理解できたのだ。

 しかしリンクも背中に背負ったフォックスの体温が異様に熱いのを感じ取っている。
 認めたくない現実が脳裏をよぎって、唇をわななかせた。
 そして。

リンク「誰か…、っ誰か!!!病院の場所を教えて下さい!!仲間を助けたいんです、誰かっ!!!」

 普段物静かな彼の渾身の叫びに、アッシュとスマイルは驚いた。

 もしかするとこの大声でモンスターがもっと集まってくるかもしれない。
 けれど、恐らくリンクはそれを承知の上で、モンスターにやられる前に助かる可能性にかけている。

 アッシュもスマイルも承知、とばかりにリンクとその背に居るフォックスを守る事に徹した。

 ――そうしてリンクが三度目に叫んだ直後。


『ガッ』


 最初にリンクが、次にアッシュとスマイルがほぼ同時に強い力で肩を掴まれ、有無を言わさず暗がりへ引きずりこまれた。



***



マルス「どうなってるんだろう、この町は」

 町の入り口付近で辛くもモンスターを倒して、ようやく中へ入れば別のモンスター達ががひしめいていた。
 先程のモンスターより二回りほど小さいものの、この数は尋常ではない。
 この状態では、別れたのは失敗だったかもしれない。

 どちらにしても一度合流しなければ、居場所すら分からない仲間の薬を探しても意味が無い。
 薬を探し出せても手渡せない可能性がある。
 …しかし時間が無いのだから、この際薬を探しながら合流を図る方が良いだろうか。

マルス「でも…どこを探せばいいんだろうね」
 町は広大だ。仲間はどこだろう。それに薬も、うまく医者の居る場所か薬屋を見つけて手に入れられればいいのだが。
 早く見つけなければならないのに。早く…早く……

 思わず眉間に皺を寄せた…その時。


「ひっく…おじいちゃぁん、どこぉ…」


マルス「っ!!?」
 どこからか泣き声混じりのか細い声が聞こえた。
 こんな、モンスターだらけの街中で。

 マルスは焦燥にかられて一瞬行動を躊躇ったが、しかし「何を躊躇ってるんだ」と心の中で自分を叱り飛ばして、声の方へ走り出す。
 仲間を助けに奔走する事は大切。けれど、そこにある命を守る事も大切。

 天秤でなんて、量れない。
 それならば、片っ端から全てを。


 すぐそこにある角を右に曲がると、道の真ん中に少女が座り込んでいた。
 年の頃は5歳くらいだろうか、砂避けのたっぷりとした布を体に巻いていて、頭だけを出している。

 本来は頭にも砂避けの布を被せるのだろうが、それは道の端の方へ落ちていた。
 きっと先程から呼び続けている「おじいちゃん」を探すのに必死で、そんなものの事などすっかり忘れているのだろう。

 マルスは近くにモンスターが居ない事を幸いに思いながら道の端に落ちている布を拾い、少女の前へしゃがんだ。

マルス「どうしたんだい?道に迷ったのかな?」
少女「……」
 少女は涙を零しながら無言でマルスを見上げる。

マルス「僕はマルス。旅をしてるんだ」
少女「…わたしは、リタ」
マルス「リタ、か……いい名前だね。それで、リタはどうしてここに?」

 マルスの笑顔に少し安心したのか、時折しゃくりあげながらもリタは話し始めた。

リタ「あの、ね…今日、わたしの家がバケモノに、こわされて、ね…?おじいちゃんと、“おでしさん”といっしょに逃げたの」
マルス「“おでしさん”?」
リタ「おじいちゃんのお手伝いとか、する人たち」
 少女のつたない発音で説明を受けて、何となくそれが“弟子”の事を指すのだと理解して、マルスは「わかった」と頷いた。

マルス「それで、どうしたの?」
リタ「とちゅうで、おじいちゃんも、おでしさんも、いなくなっちゃって…手、つないでたのにはなれちゃって、こわくて…」
マルス「そうなんだ…」

 どうやらリタは避難する途中にはぐれてしまったようだ。
 彼女の家が壊されたのはどれくらい前の事か分からないが、彼女自身が今までモンスターの手にかかっていない事は奇跡と言えよう。

 マルスはゆっくりと立ち上がって、リタの頭にそっと布を被せた。
マルス「今まで一人でよく頑張ったね。僕も一緒におじいちゃんを探すよ。おいで」
 手を差し出すと、「うん」と少女はその手を握って立ち上がった。

マルス「リタ、おじいちゃんが行ったかもしれない場所って、分からない?」
リタ「わかるよ。でも…何個かあるからどれに行ったか分からないの。それに私を恐がらないバケモノもいるかも…」
マルス「化け物は僕が倒すから、大丈夫。でも、化け物が君を恐がるってどういう事かな?」
リタ「…んっと、よくわからない。でも、わたしの近くにはバケモノは近寄らないの。“森のせいれい様”が守ってくださってるのかも」
マルス「森の…精霊」

 繰り返すように呟くと、少女は一つ頷いて、服の内側に仕舞っていたペンダントを引っ張り出した。
 ペンダントには小さなガラスの入れ物がついていて、中には何か綺麗な液体が入っている。
 そしてその液体は緑色に輝いていた。

リタ「これ…“森のせいれい様”がくれたお守りなの」
マルス「へぇ、凄いじゃないか」
 リタが今までモンスターに襲われなかったのは、もしかしなくともこれのお陰なのだろう。
 しかし砂漠だというのに『森』とは、どういう事だろうか。

 ………いや、この世界のことだ。砂漠の真隣に森があるのかもしれない。
 とりあえずその疑問は置いておこう。

マルス「それがあれば大丈夫だよ、行こう。例え近寄ってくる化け物がいても、僕が全部倒すから」
リタ「……ほんとに?」
マルス「本当に」
リタ「…うん、わかった。行こう、マルスお兄ちゃん!」

 互いに微笑みあって、二人は移動を開始した。



 ***



 アッシュは肩を掴む何かを振り払い、そのまま攻撃する勢いで踏み込んだ。
 が、

男「待ってくれ、僕等は敵じゃない」
 今まで肩を掴んでいたのが若い男だと分かって、寸前で留まる。
 スマイルとリンクも同じだった。

 暗闇に目が慣れるにつれて、徐々に視界も安定してくる。
 そこは民家の玄関に見えた。
 そしてこの場に居るのは、若い男が三人ほどと、少し向こうに老人が一人。
 自分達は、民家に引っ張り込まれたのだ。

リンク「ごめんなさい、いきなりの事で驚いて…」
男「いや、こっちもちょっと手荒な招き方をして悪かったよ」
老人「外から助けを求める声が聞こえたが、化け物がうろついておるでな。お前さん達が最も近付いた時に引き入れたで」
アッシュ「あ……」

 あの声が、届いていたのだ。

リンク「では、この近くに病院はありますか?仲間が…仲間が、」
老人「焦るでない。だから、引き入れたのじゃ」
リンク「え……」


老人「わしは、医者じゃ」


 老人の一言に、一同は顔を見合わせた。
 そしてその言葉をかみ締めるように数瞬の間を置いて、

アッシュ「み、見つけた…!やっと、やっと見つけた…!!」
スマイル「奇跡って本当に起こるものなんだねぇ」
リンク「はい…!」

 輝くような喜びを確かめ合った。
 最悪の状況から、起き上がる事が出来たのだ。

スマイル「そうと分かれば話は早いね。早速診て貰いなよ」
リンク「ええ。…あの、いいですか?」
老人「来なされ」

 老人が奥へ歩いてゆく。一行はそれに続いた。

 通された部屋には簡素なベッドがひとつあって、そこにフォックスを寝かせた。
 きょろきょろと部屋の中を見回しながら、スマイルは疑問に思ったことをふと呟く。

スマイル「どう見ても…病院って感じじゃないよね?」
老人「そうとも、ここは病院ではない。病院は今朝方、化け物に壊されてしまってな。治療道具を持って、弟子であるこやつの家に逃げ込んだというわけじゃ」
 老人は視線で背後の若い男の一人を示す。

老人「じゃが、途中で孫とはぐれてしまっての。…それで外の様子を音だけでずっと探っておったんじゃ。モンスターの少なくなった時を見計らって外へ出て捜す為に」
アッシュ「はぐれたんスか!?でも外は危険っス。俺が今から捜してきますから待ってて下さい」
老人「いや、急ぐ事はない。何せ、孫は化け物を寄せ付けんお守りを持っとるからの」
アッシュ「お守り……」
老人「ある方から貰い受けた特別な代物じゃ、化け物はその緑の輝きを嫌って逃げてゆく。それを持っとる限り孫は無事じゃ。捜すのを診察の後に回しても支障はない。ただ、寂しくて泣いとるかもしれんのう」
 化け物に襲われる前に孫の元に辿り着けば何事も無く連れ戻せるんじゃが…、と呟く老人を見詰めながら、3人は同じ事を考えた。

 不思議な力を持つ、お守り。
 そう聞いて3人は一瞬『欠片』の事を思うが、しかし“モンスターが強化される”のではなく“寄せ付けない”のだから、恐らく違うだろう。
 おまけに『欠片』は水色だが、老人の言う『お守り』は緑に輝くという。
 
 何にせよ彼らに行かせるのは危険極まりないので、自分達が後で行く事は心の中で確定したのだが。

老人「さて、患者の症状を聞かせて貰おうか」
スマイル「あ、そういう事なら僕が」

 症状、どころか毒の種類と進行度合いまで伝えて、欲しい解毒薬のグラム数まで注文してしまった。
 隣に居た弟子(『助手』でない所辺りがこの老人の人柄を思わせる)が「この人は医者かい?」と聞いてきた時には、アッシュもリンクも微妙な顔で「違う」と返すしかなかった。

 そうしてスマイルと老人がひとしきり話して、一応の診察も終えた後。

老人「…ううむ、困ったのう」
スマイル「………」

 老人が唸って、白いひげを撫でる。
 リンクは嫌な予感を覚えて、小さく問うた。

リンク「まさか…薬が、無い…とか」
老人「そうじゃ」
リンク「……!」

 突き落とされるような感覚に、息を呑む。
 ぎりぎりの線でここに来て、これ以上何があるというのだろう。

リンク「そんな…それなら、この町のどこかには、あるんですか?探しますからっ」
老人「いや、正規の『特効薬』は無い。同じ症状の患者がここ数日多かったからの」
スマイル「“正規”の?…裏ルートか何かがあるって事かな?」
老人「ほっほっほ、裏か。いやいや、医者が裏社会のものなぞ使っては終わりじゃ。正規の薬…つまり『その病気を治す専用の薬』は無いが、『万能薬』ならある。あらゆる病から救ってくれる奇跡の薬、じゃ」
アッシュ「そんなものが本当に…?」
老人「あるにはある。が、今は無い」
アッシュ「…え?」

老人「わしの孫が持っとる“お守り”。その中に入っとる液体こそが、森の精霊から預かりうけた奇跡の雫……使えば万能薬になるもの、なのじゃ」




* * *



ニャミ「う・・・うぅーん。」

ふ、と瞳を開くとニャミは半身を起して軽く体を伸ばす。

どの位眠っていたのだろう。
そんなに長くは眠ってないと思うけど・・・。

そう思いつつ周囲を見回すとテントにもたれ掛かる様にして眠っているムラサキの姿を見止めた。

ニャミ「横になればいいのに・・・。」

そう呆れつつも無理に体を横にさせれば恐らくムラサキは起きてしまうだろう、と判断してニャミは伸ばし掛けた手を下す。
折角眠れているのだ。
それならばぎりぎりまで寝かせておきたいと思うのは当然だろう。

ニャミ「・・・・・・。」

自分ももう一眠りしよう、と再び横になろうとしたニャミは、しかしその時にムラサキを見て動きを止める。
長い前髪に隠された左目。
あの戦いの中でのムラサキの言葉が再びニャミの脳内を巡った。

納得はした。
ムラサキの言葉にも、ロイの言葉にも。
でもそこに気持ちが追い付くかと言われれば、それはまた別の問題だ。

ニャミ「ねぇ、ムサラキ。やっぱり、私もね・・・。」

聞こえていないのを承知でぽつり、と口を開く。

『誰かを守る為の戦いをしたいんだ』

誰も傷付かせず、誰も困らせずに。
そんな風に思うのは我が儘かな・・・?



* * *



リンク「何で止めるんですか!」
スマイル「そりゃあ、勿論正しい判断だとは思えないからだよ。」

噛み付く様に異議を唱えるリンクにスマイルは特に慌てた様子もなく答える。
老人の話を聴いた後すぐにリンクは彼の孫を探してくる、と家を飛び出そうとした。
それをスマイルが止めたのだ。
一刻の猶予もない。
焦燥感と不安がリンクを酷く苛立たせていた。
その様子をスマイルは冷静に(あるいは呆れて)見る。

リンク「もう、時間がないんです!」
スマイル「それは分かってるよ。でも、今外に出ていいの?ただ探すだけじゃない。モンスターと戦いつつ、なんだよ?」

―キミだって、体力はもう限界を超えているはずだよ?

実際口に出す事はなかったが、スマイルは心中で呟く。
いくら戦い慣れしているとはいえ、ただの人間なのだ。
平気なはずがない。
そう思い敢えてゆっくりとした口調で話す。
しかしそれは余計に神経を逆撫でてしまったらしい。

リンク「それ位分かってます!じゃあ何もせずにここで待ってろって言うんですか!」
スマイル「まぁ結果的にはそうなるね。まだモンスターもこの辺りにいるかもしれないし。」
リンク「っ・・・あなたはフォックスさんがどうなってもいいって言うんですか!」
アッシュ「リンクさん、落ち着・・・。」
スマイル「じゃあキミは今ここで勝手に出て行って二重遭難起こしてもいいって言うの?」

アッシュの静止の声を遮って告げる。
優しく諭す等器用な事は出来ない。
相手がスマイルであった事。
そしてこの場にマルスもロイもいなかった事。
全てのタイミングが悪いとしか言い様がなかった。
リンクはスマイルの言葉に一瞬止まった後、乱暴に腕を振り払うと外へと飛び出してしまった。

アッシュ「リンクさんっ!」
スマイル「・・・あーあ、行っちゃった。」
アッシュ「何他人事の様に・・・。」

やれやれ、と踵を返すスマイルに思わず小言の一つでも飛ばそうとしたアッシュだったがスマイルを目で追うと言葉を切る。

スマイル「五月蝿くてごめんね。」
老人「いや、わし等は構わんが・・・。」

スマイルは老人達に軽く謝罪すると横たえられたフォックスの額に手を当て、話し掛けるように口を開く。

スマイル「知らない土地で、生死を彷徨って・・・ただ傍にいるって事が一番求められる事なのにねぇ。」
アッシュ「・・・・・・。」

感情のよめない笑顔でそれだけ言うと、それきりすっかり黙ってしまう。
気まずそうにアッシュは身じろぎをした。
何かを言うべきなのか、黙っているべきなのか。
暫く考えてようやく言葉を口にしようとした時、それより先にスマイルから声が飛んだ。

スマイル「アッスくん。」
アッシュ「な、何っスか。」
スマイル「悪いけど、リンクくん追っ掛けてくれない?」
アッシュ「へ?」
スマイル「正直な話、帰ってこれると思えないんだよね。」
アッシュ「何言って―――!」
スマイル「感情に振り回された時程危険なものはないよ。それにボクだと・・・また喧嘩しちゃうかもしれないからね。」

ヒヒ、と困った様に笑うスマイルにアッシュは毒気を抜かれたような顔をする。
だが、それはほんの一瞬。

アッシュ「分かったっス。だからスマはここでフォックスさんを見てるっスよ。」

くるり、と向きを変えスマイルが頷いた気配を感じ取るとアッシュはドアを開けた。






〜To be continued〜




<幻作の呟き。>

かなーり最近の文章ですハイ。
ピンチにピンチが続きますー。まだまだ更なる窮地に追い込まれます。
ちなみに今回闇やんは沢山書いてくれたんですが、寸断しましたごめんなさいごめんなさい。
あまりにきりが良かったのと、きっとあの部分は次回に回した方がおいしいだろうなとかいう邪念が働きましたぐえへへへ(うわぁ)
…ひとまず、かなり危惧していた私の独壇場にならずに済んでよかった………。

次回も色々大荒れ模様。この状況、書き手として お い し す ぎ る 。(時々とんでもなくシリアスが書きたくなる)

ちなみにキツネさんの臨死体験部分は学校で書いてたんですが、「楽しそうだね」と隣の席から指摘を受けるくらいニヤけてたらしいです。(変人)
ピンチは乗り越える瞬間を想像して萌えます。

以前から闇やんと私の間で囁かれてたんですが、スマとリンクの相性が壮絶に悪いですね。
一度亀裂が入ったらどん底まで書きたくなる私がどこまで書くとお思いか!(ウキウキ)
まぁ、リレー小説なのでそこそこにとどめる事になりそうですが。うーん。

個人的には小さな小さな伏線合戦を書けて楽しかったですー。
そして闇やんがスマ+リンの喧嘩を書いてくれて、キャラの性格から来る色んな差が浮き彫りになったりしてもうドキバクですとも。
とりあえず次回もピンチが続くので、よろしくお願いします。

UPした日:2008.3.27



それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。


<リアルタイムなアトガキ。>

幻:んどぅっはー!!(肩コキコキ鳴らしながら)
ちわ♪書きまくれて満足な幻作どすえ。でもテスト期間中よ(殴
だって11日がリミットって、どっちにしても期間中じゃーんv(こじつけてサボってんのバレバレ)

闇やんの書くMZDがかっこよくて愛です。そっか、彼も責任感じてたのね!(神を何だと思ってる)
そして影ちゃんも密やかに心労溜まってるのが読んでて分かる。な、ナイスだじぇ闇やん!それぞれ思う所の多い彼らにツボった!!(親指グッ!)

つか、久々に「ここまで!」って決めて最後まで書いた感じ。大満足。
予定とは微妙に違った展開になりつつあるけど、マルスが一人になった事に意味を持たせられて良かったー。ほっと一息。

…そういえばここだけの話、この人数だとめっちゃ書きやすいですね。
キャラの思考とかよく入れられるし、行動とか際立たせられるし。
この状況見ると全員居るに越した事はないですがね!

あ、リタはオリキャラです。ポプ世界なのにポプキャラじゃなくてすいませ;
この場合当てはまるポプキャラが思いつかなかったもんで。

さてさて闇やん、こっから好きにやっちゃって下さいな。そのために中途半端に切ったのじゃ!(わざとかよ!!)
煮るなり焼くなりどうぞですじゃ。

ぎゃああぁ!!と大絶叫!闇やん殴り飛ばした後一人で悶絶!パスユーっ  2008.2.6