another world story
〜pop’n&smash〜
第17話






ニャミ「とりあえず、この遺跡を出なきゃ」
 出口までの地図を頭の中に浮かべつつ、ニャミはこの遺跡から最寄の町までの距離もはじき出す。
 …そうして、少し眉を寄せた。

ユーリ「どうした?」
ニャミ「……、私達は元々前の町から一番近い町に行こうとしてたから目的地に変更は無いんだけど…」
ロイ「何か問題あるのか?」
ニャミ「…急いでも1日半かかるの。フォックスもムラサキも大丈夫?」

 心配そうに二人を見るニャミに、当の二人は平然と頷いてみせた。
 あまりにあっさりと頷かれて少々戸惑ったが、ニャミは先刻思い浮かべた最短ルートをどうやったってこれ以上縮める事が出来ないのが分かっているので仕方なく受け入れ、決定事項として飲み込む。

ニャミ「…じゃあ、行くよ。出来る限りの最短ルートで歩くからね!」
アッシュ「頼りにしてるっスよ」
ニャミ「任せといて」

 出来る事に、最善を尽くす。それが他の者に出来ない事ならば、尚更。


 ニャミは迷い無く一歩を踏み出し、「出口の近くでまた休もう」と振り返りながら優しく告げた。
 外はそろそろ日が沈みかけている頃だった。



 ***



 出口までの道のりをニャミによって正確に案内された一行は、出口付近の大部屋で休憩をとっていた。
 先程子供の姿になってしまったリンクが試しにそっと遺跡の外を覗いてみれば、やはりそこは星の広がる日没後の世界だった。

 本当ならば戦闘直後に休憩をとっても良かったのだが、誰もが魔物の死骸が放つ臭気に耐えられなかったので仕方が無い。
 流石にあの場所で夕食を摂ろうというツワモノが居ようはずもないのである。

 アッシュが砂漠の寒い夜に向けて暖かい夕食を作っているその横で、ニャミはうつらうつらと眠気に意識を奪われかけていた。
 コンロの火がコトコトとスープを煮込む。その周辺が暖かくて気持ちいい。

 かくん、かくん。
 ニャミの頭が沈んでは元の位置に戻り、沈んでは戻り。

 彼女は言うなれば一般人なので(妖怪でもないし、天使でも悪魔でもない、ただの人間の亜種だ)、体力の限界値が周囲の者より低いのは当然だ。
 寧ろ眠気に舟を漕いでいるその姿が微笑ましい。
 きっと今回の事で普段より随分疲労してしまったに違いない。
 アッシュは小さな子供を見守る気持ちでニャミの横顔を見る。

 かくん、こくん。
 こっくん、こっくん。

 ―――どすん。

一同「!?」

 何かが落ちたようなその音は、ニャミが立てた音ではなかった。
 その証拠に、ニャミも音に驚いてがばりと顔を上げている。

 遺跡の内部にある水流の響きが一瞬の静寂を支配する。

 広い室内を慌てて見回した一同は、音源に気づいて更に慌てた。
リンク「フォックスさん!?」

 彼は硬い石畳に身を投げ出して――勿論それは自ら進んで寝転がったようには到底見えない――微動だにしない。
 彼が倒れたのは明らかだった。

 リンクが慌てて駆け寄ると、フォックスは閉じていた目をうっすらと開いた。
 …しかしその瞳は、ほとんど焦点が合っていなかった。

フォックス「―……あ…?」
リンク「大丈夫ですか、一体どうしたんです?」
フォックス「……、リン、ク…?」

 子供の姿になって腕力が落ちてしまったリンクにはフォックスを助け起こすことが出来ない。
 駆け寄ってきたロイやアッシュを見上げると、彼らは躊躇いなく行動した。

 アッシュがユーリを呼び寄せて魔法で毛布を出してもらい、敷く。ロイはフォックスを抱え上げて毛布の上にゆっくり寝かせた。

 ――迅速な処置。
 そこから一人取り残されている気がして、何も出来なかったリンクは唇を噛んだ。


ロイ「…あちぃ…!フォックス、熱があるぞ!?」
マルス「傷が熱を持ったのかな?」
アッシュ「手当てする時に見たっスけど、熱を持つ程の傷じゃなかったはずっス」
ロイ「傷口が熱を持つとか、そんなもんじゃない。そんな熱さじゃない」
ユーリ「――まさか…」
アッシュ「ユーリ、何か思い当たることがあるんスか?」
ユーリ「…傷口を見せてみろ」

 勿論現状では本人が自力で服をはだけて包帯を取ることは出来ないので、アッシュとロイが協力して包帯を解く。
 ――傷口が見えた、瞬間。

ロイ「…っ!」
アッシュ「!」

 傷口からは、紫色の液体がどろりと流れ出していた。

マルス「………毒、かな?」
ユーリ「そのようだ。…“道連れに”と言い残したのはどうやらハッタリではなかったらしい」
マルス「心臓じゃなく肩を穿ったのは両目の視力が無いから間違っての事だと思ってたけど…」
スマイル「ヒヒッ。要はどこでも良かった、って感じ?盲点だったねぇー」

 部屋の隅で胡坐をかいていたスマイルが離れた位置から唐突に話に割って入る。
 そのあまりの呑気さにアッシュがスマイルを諌めようとしたが、しかしそれより先にスマイルが言葉を重ねた。

スマイル「傷口は何色?」

 一瞬誰もが真意を測りかねて黙る。
 が、ユーリがそれに気づいて「紫色の液体が出ている」と素早く回答した。
 そうだ、彼は。

スマイル「それってドロドロ?血は混じってる?」
ユーリ「粘り気はあるようだが血は混じっていない」
スマイル「ヒヒヒ、その毒だと症状は発熱だけだけど徐々に熱が上がってくよ」

ロイ「何だ?スマイルは医者か?」
ユーリ「いや、そんな生易しいものなら私も簡単に容認できたのだが」
スマイル「ヒヒヒヒヒ!!お医者さんかぁ、それも楽しそうだね?」
アッシュ「それだけは勘弁っス。…スマはいわゆる『マッドサイエンティスト』なんスよ」

 城の地下でかなり色々実験してたから毒の知識もたっぷりっス、と話したアッシュは、うんざりしたような色を含めていた。
 当のスマイルは、そういえば実験のせいで自分の頭に葉っぱが生えた事もあったなぁ、などと言っている。

 スマデラメンバーは一瞬自分達の知人約一名とスマイルの合致点が脳裏をかすめ、微妙な顔をするが、ひとまず仲間の命に関する知識を持っている人材は貴重だ。マッドであろうがこれはラッキーだと言うべきだろう。

リンク「解毒方法は知ってますか?」
スマイル「方法は存在するけど今現在薬を持ってるかって聞かれたらノーだよ?結局1日半かけて今から行く町に頼るしかない訳なんだけど、そういえばわりと珍しい毒だから解毒剤もあるかどうか分かんないねぇ?」
リンク「ならどうしろというんですか!?」
スマイル「まーまー、そんなに熱くなっちゃ駄目だよー。僕は事実を言ってるだけ。ここから状況がどうなるかは僕ら次第。違う?」
リンク「……」

 薄笑いを浮かべて言ったスマイルは、ひょいと立ち上がって「まぁ、薬の有無とかは運もあるだろうけどさ?」と呟きながらフォックスの傍にしゃがみ込む。
 そして普段から嵌めている手袋を外し、フォックスの額に手を乗せた。

スマイル「今の時点でこの熱じゃ、相当急がないとね」
マルス「道連れにできるって事は、毒は致死量と考えていいんだね?」
スマイル「ヒヒヒ、そうだね。……熱が徐々に上がっていくから、毒っていうより寧ろその体温に体が壊される。この分だとどんなに頑張っても2日が限界って所かな?熱による細胞の損傷を考えるともっと早いほうがいいけど。この重体患者を抱えて最速1日半かかる町への道のりをどうやって2日以内で歩くかがキーポイントなんじゃない?」
 スマイルは目を細めながら手袋を嵌め直した。

ロイ「…要は2日以内にフォックスを町に運ばないとヤバいって事だろ?なら俺が背負っていくからペースダウンなんてしなくていい」
ユーリ「……患者が一人ならばな」
ロイ「…え?」

 ユーリが視線で右を示し、ロイはそちらを振り向く。
 そこには先ほどから全く会話に入ってこなかったムラサキが、ぐったりと横たわっていた。

アッシュ「まさかムラサキさんも毒…とか言わないッスよね?」
 アッシュが冷や汗を流しながら呟いた。
 ロイは最後まで聞き取る前にムラサキの元へ駆け寄り、額に手を当てた。
 …そうして、少し安心したように息をつく。

ロイ「熱は無いみたいだ。怪我もしてないし…どうしたんだ?」
ムラサキ「……少し…疲れたの。でも、休めば…大丈夫…」
ロイ「無理しちゃ駄目だろ!!何でそんなになるまで何も言わなかったんだ。フォックスもムラサキも、俺たち仲間だろ?どうして『倒れるまで黙ってる』なんて選択しか出来ないんだ…」

 そんなの寂しいじゃないか、と零すロイに、貴方が一番寂しそうだわ、とムラサキは心の中で呟いた。
 人一倍仲間思いの彼をいたわる様に、ムラサキは額に乗せられた彼の手をそっと撫でた。


 そんなムラサキを見詰めつつ、ニャミはムラサキの『大丈夫』があまりあてにならないような気がして呟いた。
ニャミ「本当に疲れただけ?ムラサキって前からダウンすること多かったけど、段々酷くなってない?」
ムラサキ「……、旅に慣れていないから、じゃないかしら」

 かすれた声でかろうじて聞こえた返事は、どこか取って付けの言い訳のように聞こえて仕方が無かった。
 どうやらそれは他のメンバーも同じだったようで、難しい顔をしている。
 しかし彼女のことである、これ以上詮索した所で何も言いはしないだろう。

ユーリ(これから旅を続ける上で不具合を伝える事も必要だというのに……恐らくそれを知った上での行動だろうから手に負えない)

 フォックスの体調の事で既に頭が痛いが、これはこれでどうすればいいものやら。
 とりあえず様子からしてただ単に疲れただけだというのは嘘だろう。

 せめて本当に病気でないのか確認を取ろうと言葉を探す。
 …が、確実に返答が聞ける言葉を見つけ出す前に、ロイがその場の空気を打ち切るように呟いた。


ロイ「…もういい」
ユーリ「……ロイ?」
ロイ「もう、いいよ」

 感情のこもっていない彼の呟きが静かなその場に波紋を打つように広がる。
 すっと立ち上がったロイを全員が見詰めた。


ロイ「二人とも病院に放り込んでやるっ」

 反論を許さないような語調で言い放つロイ。
 これで万事解決、オールオッケー!と言わんばかりの表情で腰に手を当て一人納得したように頷く。
 ……一同、唖然。

 いっそすっきりしたようなロイは、「ムラサキも交代で誰かが運ぶぞ」と運ぶ順番を決めにかかっていたりする。
 割り切れば早いタイプらしい。
 ひとまずフォックスとムラサキを運ぶメンバーについては体力の持ちそうな者だけにして、順番を決めてゆく。

 早々に決まった所で、マルスがスマイルに訊ねた。
マルス「フォックスの治療は町の病院に賭けるしかないんだよね?」
スマイル「そーだね。ひとまず辿り着く事だけ考えなよ」

 ここでうだうだ考えた所で何も変わりはしないだろう、と考えを改め(ロイに感化されたとも言うかもしれない)、二人を病院に運ぶ事だけを念頭に置く事にする。
 具体的な解決案はここには無いのだから。


マルス「ともあれ、僕達も休まないと動けないから…とりあえず今は少し休もうか」
アッシュ「そっスね。こっちまで倒れたらそれこそ終わりっス」
スマイル「………その前に、一つ言っておきたい事があるんだ」

 スマイルが突然低い声で慎重に言うので、一同はぴたりと動きを止めて視線を集中させた。

スマイル「もう手遅れかもしれない」
ロイ「え…、何だよ?」
スマイル「…アッス君、」
アッシュ「お、俺?」


スマイル「料理中は火の前から長時間離れちゃ駄目だと思うんだよね。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・。


 瞬間、じゅわぁっと派手な音がして鍋の中身が吹き零れた。
 今回の料理当番である狼男の悲鳴が、その場にこだました。




 ***



必要最低限だけの休息を取ると後片付けもそこそこにメンバーは砂漠へと足を進めた。
ただでさえ昼間は歩く事を避けていたのに加え、フォックスとムラサキの2人には出来るだけ負担を避けさせなければいけない。
となると、夜の間にどれだけ歩みを進められるかがポイントとなってくる。

アッシュ「大丈夫っスか?」

勿論大丈夫な訳がないが、それでもアッシュは背負っているムラサキ、そして同様にロイに背負われているフォックスへと声を掛ける。

ムラサキ「ええ・・・大丈夫。」
フォックス「・・・・・・。」
ロイ「頼むから頑張ってくれよ・・・!」

ムラサキは申し訳なさそうに返事をする。
フォックスの方は返事こそなかったが、微かに身じろいだのを感じロイは声を掛ける。
そして少しだけずり落ちた体を背負い直した。

ロイ「(それにしても・・・)」

心中で思わず舌を打つ。
砂漠には気温だけでなくもう一つの問題があった。
それは、足場。
普通に歩いていても砂に足を取られるのだ。
二人分の重量があれば足はすぐに砂に沈んでしまう。
まぁ、それを避けるために早く歩こうとするので必然的にスピードが上がるという利点もあるのだが。

ニャミ「向こうの方の空が少し明るくなってきたね・・・皆、頑張れる?」
ユーリ「それはお前自身に尋ねた方がいいのではないのか?」
ニャミ「え・・・あ、大丈夫だよ私は。」

ユーリに核心を突かれ一瞬耳がぴくりと跳ねる。
大丈夫かと聞かれれば、正直自信はない。
体力だっていくら休息を取ったからと言ってそう簡単に回復できるものでもない。
でも仲間の状態を考えればそうも言っていられない状況だ。
ニャミは限界まで頑張るつもりだった。
勿論、倒れる前には素直に告げ休息を取らせてもらうつもりでいたが。

『俺たち仲間だろ?どうして『倒れるまで黙ってる』なんて選択しか出来ないんだ』

その言葉がニャミの頭の中で反芻していた。
いや、恐らく他の仲間にも、だ。

ニャミ「大丈夫、まだ行けるから。ね?」
ユーリ「・・・無理だけはするな。」

ユーリもニャミの決意を感じ取ったのかそれ以上は何も言わなかった。

スマイル「機嫌悪そうだねー。」
リンク「・・・え?」

耳元で囁かれて怪訝そうにリンクはスマイルを見る。
スマイルは相変わらず笑みを浮かべていた。
その様子に「こんな時に・・・」と苛立ちかけたが、その前にリンクはふと違和感を覚えた。

リンク「何が言いたいんですか?」
スマイル「別に。」

笑っているようで、笑っていない・・・?
笑みは浮かべているものの、それが貼りつけた笑みの様に感じるのは気のせいだろうか。
そういった心の動きに敏感なだけにリンクにはそれが妙に気になった。
が、スマイルはそれきり黙りこんでしまい、リンクも確証のないそれを口に出す気にならずスマイルに倣う。
スマイルがリンクに歩調を合わせていたのに気づいたのは、その少し後ろを歩いていたマルスだけだった。

マルス「・・・・・・。」

それがスマイルなりの励ましなのか、諭しなのか、はたまた別のものなのか。
それを知る事は出来なかったが。

今だけは忌々しい陽光が微かに砂漠を照らし始めようとしていた。






〜To be continued〜




<幻作の呟き。>

お、これ大分最近ですよ。とりあえずきりのいい所で切ったのでちょっと短めですが。

狐さんが大変な事になってます!
実はこれ、誰をこうすべきか直前まで迷ってました。そして敢えてフォックス。
この人選、色んなイベントを誘発しやすいかもしれない、なんていう下心があったり無かったり…(ぇ)
あ、ムラサキ姐さんの体調不良にもきちんと意味はあるのでその辺はお楽しみに(楽しみに出来る要素なのか?)

さて、次回は更に状況悪化の兆しが……げふげふ。
…お楽しみに。

UPした日:2008.1.4



それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。


<リアルタイムなアトガキ。>

幻:うっしゃ、ようやく仕上がった!!1ヶ月ルールも守ったじぇ!!
  そんなわけで誰も彼も不調にしちまった幻作ですの。
  今回は台詞数を数えずに強攻策で進めちゃったから喋らないキャラが多かったかもしれない(一応心の中で数えてはいたんだけど)
  あ、でも病人+リンクは故意です(貴様)
  闇やんは前回結構書いたと思うじぇ!お、って思ったもん(=w=)b
  てゆか今回、ロイの早期決断・指示の飛ばし方はロイの生い立ちと関連付けてみたつも…り……(本編でそれに突っ込む人が居なかったからここで呟く)
  うだうだするようじゃ務まらなかったはずだしなぁ。
  てなことで、なでなでするついでに「お手!」と叫んでみた!パスユーっ 2007.10.18


闇:ちょっと危なかったわぁ、汗を拭きつつ登場闇星です(ぇ
  一ヶ月ルールがあると焦るけど確実に物語が進むからいいねぇ。
  前回幻やんの内容には一人悶えさせていただきましたよ!(親指グッ)
  だって私的ストライクシーン多数だったんだものv
  私は今回は各々のssって感じになったかな(?)
  何かマルスがあぶれた感もありますが!
  とりあえずスマイルの「貼りつけたような笑み」ってきっとぞっとする程素敵だと思うのよ、とか謎の言葉を残しておきます(笑
  馬鹿にしないでヨ!と出された手を叩き返してパスユー。