another world story
〜pop’n&smash〜
第16話






・・・だって、こんなのってないよ。


膝を抱えたままニャミは心の中で呟く。

自分が戦いには向かない事など百も承知だった。
先ほどアッシュを助ける為に飛び出した時も、正直死んでしまうのではないかと思った。
それでも。

ニャミ「私一人だけ、安全な所になんていられないよ・・・。」
ユーリ・ムラサキ『・・・・・・。』

無意識の内に呟かれた消え入りそうな言葉。
激しい戦いの音が響く中であったにも関わらずユーリとムラサキはその言葉を確かに聞いた。
けれど言葉は返さない。

勿論その様な場合ではない事が大きな理由だが、もう一つ。
実際に「戦える」自分達が何か言葉を掛けたとしても気休めにもならない事を感じたからだ。
だからと言ってニャミを前に出すわけにはいかず2人は魔法を繰り出し続けていた。


リンク「ロイさん!」
ロイ「・・・・・・っと!?」
そんなニャミの様子を盗み見ていたロイはリンクの声に我に返る。
そして目前に迫っていたモンスターの火球を慌てて避けた。

スマイル「ロイー、こんな時によそ見はマズいでしょー。」
ロイ「あ・・・あぁ。そうなんだけどさ・・・。」

モンスターの口目掛けてナイフを投げながらスマイルが声を掛ける。
しかしそのナイフは牙に弾き飛ばされ心中で舌打ちをした。
そして曖昧な返事をしたロイにさらに言葉を返す。
スマイル「まぁ・・・気持ちは分からなくもないんだけどねぇ。」
ロイ「あぁ・・・。」

戦いたいのに戦えない・・・状況は違ったが似たような経験があるロイはニャミの様子が気になって仕方なかった。
けれどこの真剣勝負の最中に余計な考え事は命取りになる。
何とか頭から考え事を追いやろうとロイは頭を大きく振った。

マルス「・・・・・・。」
その様子に小さく溜め息をつくとマルスはさり気無くロイを庇う様な位置に立ち、モンスターへと剣を構えた。



 そんな戦況の中、ムラサキがふらりとよろけ、壁に手をついた。

ムラサキ「っはぁ、はぁ……」
ユーリ「ムラサキ、どうした?」
ムラサキ「……大丈夫よ、何ともないわ…」

 とはいえ、ぱっと見にも分かる程ムラサキは消耗しているようだった。
 確かに今回は連戦である上に先刻から中級魔法も織り交ぜてモンスターへ連発している。
 人間の容量は既に越しているのかもしれなかった。(実際は魔法を使う人間がこの世界でムラサキ以外に存在しない為、ユーリにも良く分からなかったが)

ユーリ「無理はするな、限界なら下がっておけ」
ムラサキ「いいえ、まだやれる」
ユーリ「これ以上の連戦が無いとも限らない。大人しく下がれ」
ムラサキ「………」

 ムラサキは、しばしの沈黙の後数歩後ろへ下がった。
 戦況を見守るように壁に寄りかかって視線を部屋の中に向けている。

ムラサキ「危なくなったら手を貸すわ」
 そう言って一つだけ中級魔法の呪文を唱えて待機させておくムラサキに、ユーリは呆れたように溜息をついた。
 どうやら戦う事を諦めてはいないらしい。

 
ニャミ「…どうして、」
 不意に呟くような声が聞こえて、ムラサキは下を見る。
 そこには視線だけを上向けてムラサキを見詰めるニャミが居た。
 彼女の視線は、少し虚ろだった。
 

ニャミ「ムラサキはどうして、戦いたいの?」
 

 ムラサキは一瞬言葉を見つけあぐねた。それは正確に意味を汲む事が出来なかったからだ。
 そしてすぐに理解して、あぁ、と心の中で息をつく。

 単純に『何の為に戦っているのか』と問われているのではない。
 ニャミは、『自分は一人だけ逃げているのが嫌だから戦いたいのだけど、ムラサキもそうではないのか』と問うているのだ。
 これだけ戦いに執着しているムラサキに。

 ――『私と同じで、傍観しているのが…無力であることを無言で主張する事が、嫌なのではないか』、と。

ムラサキ「……私は貴女と似ているのかもしれないわ」
ニャミ「…私と?」
ムラサキ「そうよ。私は弟だけに戦わせて自分だけ何も出来ない事がどうしても嫌だった。だから…魔法を、覚えたのよ。そうして戦闘という、死のリスクを背負った」
ニャミ「……」

 魔法を使えない種族が無理矢理魔法を覚える事は体にとんでもない負担をかけるのだと事前に宣告されたが、それでも良いと思っていた。
 弟……六を、戦場から下ろすまでは行かずとも、自分が背中合わせになって戦えるようになるならば。

ムラサキ「私は『守る為』に戦いを覚えた。逆に『守れなくなる事』が恐いから、私は戦うの」
ニャミ「じゃあ…私も何か戦う術を覚えたらいい?」
ムラサキ「……いいえ」
ニャミ「何で!?」
ムラサキ「実戦で戦う事はそんなに易しい事じゃないわ。そう簡単に命を危険に晒さないでほしいの。まして貴女には愛する人が居るじゃない」
ニャミ「…っ、剣とか銃は難しいからすぐには駄目だって言うのなら、魔法は?私もムラサキみたいにMZDに頼んで魔法覚えればっ…」
ムラサキ「駄目!!」

 急に言葉を荒げたムラサキに、ニャミはびくりと肩を揺らした。
 瞬間的に鋭くなっていたムラサキの瞳は、徐々に悲しそうに細められて視線を戦場へと戻していった。

ムラサキ「…駄目、なのよ。それだけは」

 
 ギィン、とリンクの剣が巨大な爪を弾き返す。
 ユーリの魔法が炸裂して、モンスターの視界を奪った。
 その隙にフォックスがモンスターの脚の腱めがけて銃を放つ。

ムラサキ「私にはあの時出来る事が全く無かったけれど、貴女には出来る事があるじゃない。役に立ってるじゃない」
ニャミ「それだけじゃ駄目だって思うから言ってるの!ムラサキは無力な事のつらさも、見てるだけしか出来ない事の悲しさも知ってるはずじゃない。私と同じなのに、何でムラサキは許される――」
 言い終えない内に、それ以上言わせまいとするかのように、ムラサキがしゃがみ込んでニャミを抱き締めた。
 そうして彼女にしか聞こえないような声で、言った。

 
“私の左目は失明してるの”
 

 ニャミは目を見開いた。思わず、いつもムラサキが長い前髪で隠しているその左目を視認しようとして、しかし存外にムラサキの腕の力が強くて叶わなかった。
 ムラサキは尚も続けた。

ムラサキ「それから私のお腹は女性としての機能を果たさなくなったわ。…これがどれだけ重大なことか、分かるわね?」
ニャミ「………、分かる、けど…」

 同じ女性なのだ、それがどんなに辛い事か分からないはずは無い。
 それに視界が半分になる事は、想像すらできないがとても苦しいことなのだろう。
 が、今現在何の関係があるというのだろうか。

 ニャミの不思議そうな表情を読み取ったかのように、ムラサキは続けた。
ムラサキ「これが無理矢理魔法を覚えた……代価よ。」

 
 ズズウゥゥ…ン!! 
 

 フォックスが腱を撃った事で遂にモンスターはバランスを崩し、床へと伏した。
 必死にもがくが、最早立ち上がれない。

ロイ「皆!!一斉にとどめを刺すぞ!!」
 ロイが全員に叫んで、モンスターの頭部へ駆け寄った。
 それに合わせて接近戦メンバーは走り出す。
 途中、モンスターの口から放たれた火球が容赦なく襲い掛かったが、何とか避けきった。

ムラサキ「体に莫大な負担がかかって、結果がそれ。貴女の場合どうなるか分からないけれど、もっと酷くなる可能性もあるわ」
ニャミ「……」
ムラサキ「…魔法を覚える場合の負担はそんな風だけど、他の戦術も“失う”という点では似たようなものよ。元々戦う術を必要としていなかった人が戦い方を覚えるというのは、そういう事。…必ず、大切な何かを失うわ。剣を持った町の人々が、今も尚心のどこかで『平和』をなくしたままであるように」
 

 ユーリはなるべくモンスターの攻撃が繰り出されないように魔法で牽制しつつ、最後の詰めに向かって一際強い魔法の呪文を唱えた。

 それを見て取って、ムラサキは呆然としているニャミを解放して立ち上がる。
 先刻待機させておいた中級魔法を発動させる為に。

ムラサキ「私はこうなった事に後悔はしない。けれど、それは決して、誰かを私と同じようにさせても良いという意味じゃないわ。…貴女は、こっち側に来ちゃ駄目」

 普通の声量でニャミにそう告げて、ムラサキは戦場へと視線を向けた。
 ユーリの隣に来ると、彼からちらりと視線が寄越される。

ユーリ「…いけるか?」
ムラサキ「当然よ」

 密談の内容を全く詮索してこないユーリに感謝しながら、ムラサキは魔法を放つタイミングを見計らう。

 
 がっ、とモンスターの爪が石床を引っ掻く。
 威嚇するように猛々しく咆哮を上げ、金の瞳で周囲の者達を睨んだ。

『渡すものかあああぁぁッ!!!』

 叫ぶと同時に、モンスターは口から今までの何倍もの大きさの火球を幾つも吐き出した。

フォックス「リンク!避けろっ!!」
リンク「!!」
 フォックスの言葉で咄嗟に右へ飛び退けば、巨大な火球がすぐそこを飛んでいった。
 着地した火球は激しい音を立てて爆発する。
 窓の無いこの部屋は、異様な熱を持った。

ロイ「っ暑……」
 扉は開いているので酸素がなくなる事はないが、熱気が篭る。
 暑さに弱いロイだが、しかしここで力を抜いては命が無い。
 剣を握り直して、隣に居るマルスとスマイルに目配せをした。

 マルスは頷いて剣を両手でぐっと握り、軽い身のこなしでモンスターの前肢から背へ、そして頭部へと振り落とされる前に到達した。
 同様にスマイルも一本の短剣を両手で握り締めて、軽業師のように素早く同じ場所へ辿り着く。
 接近戦チームで戦いながら立てておいた作戦だった。

 頭上の二人を振り払おうと頭を動かしかけたモンスターを、アッシュが横から飛び蹴りをくらわせて封じる。

 スマイルは準備が整ったのを確認して、言った。
スマイル「せーのっ」

 ずがっ。
 マルスの剣がモンスターの右目に、スマイルの短剣が左目に突き刺さった。
 目にしては随分硬い感触だったが、それでも確実に視界を奪った。

 鼓膜が破れそうな程の咆哮が上がる。
 全員がそれに耐えて、それからロイが叫ぶ。

ロイ「今だ!!!」

 それを合図に、怯んでいるモンスターの腹へとリンクが剣を突き立て、フォックスが頭上にある巨大な顎へ銃を撃った。
 ロイが太い太い首へ重い斬撃で深く斬り付けて、大量の血飛沫がかからない内に飛び退いた。

 鮮やかな流れで開始された一斉攻撃に、追撃…もとい、とどめの一撃を仕掛けるべくユーリは叫んだ。


ユーリ「全員入り口付近へ退避しろ!!」


 ここが魔法の撃ち時だと感じたユーリは、魔法を待機させている手の平をモンスターに向けてムラサキに一度だけ視線を寄越した。
 ムラサキはそれに気付いて「心得ている」というように頷き、魔法に集中する。

 全員が安全圏に入った瞬間、二人はほぼ同時に魔法を繰り出した。

 
ズシャッ!!ズガアアァッ!!!

 
 ムラサキの風の魔法がモンスターの腹部を大幅に切断し、ユーリの雷の魔法が全てを焦がした。
 重い音を立ててモンスターが完全に倒れこむ。

 

 ―――。

 
 しん、と場が静まり返った。
アッシュ「やったっスか…?」
ロイ「…多分?」

 フォックスが確認の為に銃を構えながら近付き、モンスターの頬を蹴ってみるも、反応は無い。
フォックス「大丈夫だ」
 首だけで振り向いて仲間に告げた…瞬間。

 
『人間…相手に、命を落とすとは……』

 唸るような声が視界の外から響き、ぎょっとしたのも束の間。
 フォックスの右肩に、ドッ、と重い衝撃が走る。

『貴様だけでも道連れに…っ!!』

 喋っているのはまだ生きていたモンスターで、モンスターの爪に右肩を刺され、更に貫かれようとしているのだと気付いた瞬間、フォックスの視界を青色が掠めた。

マルス「引き際は大事だと、思うよ」

 ガギイィンッ!!!

 マルスの剣がモンスターの巨大な爪を弾き返して、モンスターの前肢は床に落ちた。
『くっ……』
 苦しそうな声を残して、モンスターは今度こそ動かなくなった。

ロイ「フォックス!!大丈夫か!!?」
フォックス「…あぁ、止血は必要だが幸い骨も筋も無事だ」
 道連れに、と言っていたわりに刺されたのが右肩だったのが不思議だが、ひとまず傷も深くはなさそうなので全員安心する。

 ユーリが魔法で異空間に仕舞った救急箱を取り出してアッシュに手渡すと、アッシュはそれを抱えてフォックスの元へと走っていった。

 
ムラサキ「…まだ、光はモンスターを指してるわね…」
 通信鏡の光は、モンスターに向かって伸びている。
 リンクも何とはなしに光の先を見ていた。

 ――と。

スマイル「…え、何あれ」
 モンスターの全身がぼうっと光り、しばらくして何か光の塊のようなものがモンスターの体からするりと抜け出て宙に浮いた。
 通信鏡の光も宙に浮いているそれに向かう。

 光の塊が抜け出た直後、あれほど巨大だったモンスターの体は何故か徐々に縮み始め、最後には最初この部屋で戦った普通のトカゲモンスターと同じ大きさになった。
 寧ろ普通のモンスターへ変化した、と言うべきか。

リンク「これは……」
ユーリ「どういう事、だ?」
 

 光の塊と通信鏡は数秒間光で繋がっていたが、しばらくすると二つともぷつりと光を閉ざした。
 モンスターから視線を移し、全員が不思議そうにその光景を見詰める。

 今まで光の塊にしか見えなかったそれは、光を失ってみれば青いガラスのような物体だった。
 その物体は、モンスターの上からふわりとムラサキの元へ――通信鏡の元へ浮遊しながら近付いてゆく。
 ムラサキは目の前まで接近したそれをじっと見て、一瞬目を見開いた。

ムラサキ「……もしかして、これが…『欠片』?」
 ムラサキが呟くと、一同はぎょっとした。
 通信鏡が示しているのはモンスターだったが、まさかモンスターを倒して『欠片』が出てくるとは思ってもみなかったのだ。

 ムラサキがその青い欠片を掴もうと手を伸ばすと、指先が触れる前に欠片はムラサキの懐の向こうへすぅっと通り抜けていった。
 そこには通信鏡がある。

 通信鏡を取り出してみると、丁度欠片が通信鏡の上蓋に吸い込まれてゆく所だった。

ニャミ「…これは、“回収した”って事でいいのかな…?」
 今まで喋らなかったニャミが思わず呟いた…次の瞬間。

 
『ピピピピピ!!!ピピピピピ!!!』

 通信鏡がけたたましい音を鳴り響かせ始めた。
 呼び出し音だ。(しかもどうやら以前の呼び出し音とは違う)

スマイル「MZDかな?」
アッシュ「やっとっスか!!?ムラサキさん早く繋いで下さい!」

 頷いて、ムラサキが蓋を開く。
 上蓋の画面には………

 
ムラサキ「・・・・・・・。」

 傍に居たユーリは無言になってしまったムラサキを訝しげに見て、それから通信鏡を覗き込む。
 …そしてやはり無言になってしまった。
 少し離れていたリンクとスマイル、それからニャミも覗き込んで、首を傾げる。

マルス「皆どうしたの?」
リンク「……いえ、」
ニャミ「てっきりMZDだと思ったんだけど……」
ロイ「違ったのか?」

『皆サン、ゴ苦労様デス』

 通信鏡から響き渡ったのは、明らかにMZDではない者の声。
 そう、画面に映し出されたのはMZDでなく…影だった。

アッシュ「影さん!?」
影『ハイ。ソチラハゴ無事デスカ?』
ムラサキ「ええ。たった今妙なモンスターを倒して青いガラス片のようなものがこれに吸い込まれた所だけれど」
影『ソレガ“欠片”デス。通信鏡ヲ通シテ、今シ方コチラニ届キマシタ。シカシ、妙ナモンスター、トハ?』

ムラサキ「巨大なモンスターよ。でもそのモンスターから『欠片』が抜け出た途端に普通の大きさになったの。随分厄介な強さだったわ。…モンスターから『欠片』が出るって、どういう事なの?」
影『ソレハ……、恐ラク“欠片”ノ持ツ強大ナ魔力ニ気付イタ普通ノモンスターガ、“欠片”ヲ飲ミ込ンデ魔力ヲ取リ入レタノデショウ。ソシテ巨大化シタ。倒シタノデ欠片ノ魔力ガ体カラ抜ケ、縮ンダト見テ間違イ有リマセン』

 続いて、『欠片』は誰かに所有されていると(正確には『所有し続けたいという思い』があると)通信鏡の放つ弱い魔力では吸い込めないが、そうでないなら一定の距離内で吸い込めるのだと説明した。
 この場合はモンスターの意識が無くなったから吸い込めたのだろう。

ロイ「俺、てっきりまたビトレイ側の敵襲かと思ってた」
アッシュ「俺もっスよ」

 要は普通のモンスターが『欠片』を飲み込んで大量の魔力を手に入れ、巨大化したという事だ。
 モンスターを世界に放ったのがビトレイだという事を除けば、今回は向こう側から意識的に襲ってきたわけではない。
 ただあのモンスター自身が強大な力を保持したかったのだろう。
 そう考えればあの発言にも納得がいく。

 
スマイル「…ところで、何で今回はMZDじゃなくて影なのかな?」
 ヒヒヒ、と笑いながら尋ねると、影は言葉に詰まったようだった。

影『………、忙シイヨウデスカラ』
ロイ「忙しいって…、こっちも色々あって報告したい事一杯あるんだぞ!?」
影『スイマセン…。デハ私ガコトヅケマ――』

 ぶつっ。

 唐突に、画面は真っ暗になった。
 それきり通信鏡はうんともすんともいわない。

フォックス「…何かあったんだろうか…?」
 アッシュから傷の手当てを受けながら、音だけで状況を把握するフォックス。

アッシュ「向こうで何かあったんなら、今まで助けが無かった理由も分かるっス。…もしかして、戦ってるんスかね…?」
 包帯を巻き終えて、ムラサキ達の方向へ振り返る。

 …スマイルは『多分魔力が足りないだけじゃないかなぁ』と言おうとして、やめておいた。
 『戦闘している状況』より『魔力が足りない状況』の方が深刻且つこちらの混乱を招きやすいからだ。


ムラサキ「……ふ、ぅ…」
 その時突然、緊張の糸が途切れたように、ムラサキが苦しげに息をついてその場に座り込んだ。

ロイ「どうしたムラサキ、疲れたのか?」
ムラサキ「…ええ、ちょっと」
アッシュ「今日は沢山戦ったっスからね。でもフォックスさんを早く病院に連れて行かないと…」
ユーリ「砂漠だからな、化膿するのも早いだろう」

 どうすべきか、と一同は悩み、ムラサキとフォックスを交互に見る。

ムラサキ「私は大丈夫よ、行きましょう」
ロイ「でもなぁ」
ムラサキ「…ふふ、暑い外に出るのが嫌?」
ロイ「ちっ、違……わないけど、違う!」

 説明する言葉を探しきれず、あー、だとか、うー、だとか妙な言葉を連ねるロイを見て小さく笑いながら、マルスが言及した。

マルス「ひとまず、ここから病院のある場所までの距離が分からない事には始まらないよね」
ロイ「よし!じゃあニャ…ミ………」

 ニャミに距離を尋ねようとして、彼女がまだ入り口付近で沈んだ顔をして膝を抱えているのに気付く。

その様子にロイは他の仲間を見回すが、全員が難しそうな顔をする。
何を、どう話せばいいのか分らない。
そんな表情だった。

ニャミ「・・・・・・。」
ロイ「えっと・・・あぁ、もう!」

その重い雰囲気に耐えられなくなったのか、ロイは頭を強く掻くと大股でニャミに近付いた。
その様子にムラサキ、そしてアッシュが慌てて声を掛けようとする。
下手をすれば怒鳴りつける位し兼ねない、そう思っての事だった。
しかし、それは傍にいたマルスとフォックスに遮られる。
どうして止めるのかと瞳で尋ねると2人はそろって笑みを浮かべる。
『心配しないで』、そう言っているような気がした。
ロイはそのままニャミの傍まで行くと、すとん、と向かい合う様にしゃがみ込んだ。
そして動作とは全く違う、穏やかな声でニャミに話し掛ける。

ロイ「なぁ、ニャミ。」
ニャミ「・・・・・・。」
ロイ「ニャミはさ、今、自分をどう思うんだ?」
ニャミ「・・・・・・足手ま、とい。」

どうしてわざわざ自分で言わせるの?
そう思いつつもゆっくりと口を開いた。

するとロイは「そっか。」と小さく言うと言葉を続ける。

ロイ「じゃあ、もし俺が何の武器も使えない・・・戦えないとしたら、ニャミは俺の事を足手まといだって言うか?」
ニャミ「・・・・・・。」

首が横に振られる。
ノー、だ。
他の仲間達は固唾をのんで見守る中、話は続く。

ロイ「だろ?だから気にすんなって。」
ニャミ「でも・・・。」
ロイ「そんなの『もしも』の話だ。実際そうじゃない俺にニャミの気持ちは分らないって言うんだろ?」
ニャミ「・・・・・・。」
ロイ「まぁ、確かにそうだけどなー。」

間延びしてそう言うと「でも」と付け加える。

ロイ「戦いは戦うだけが能じゃないんだぜ?」
ニャミ「・・・え?」
ロイ「戦う力だけが全てって言うんなら、たしかにニャミはどうしようもない。けど、そんなの本当の戦いじゃない。」
ニャミ「・・・・・・。」
ロイ「戦いの後、笑顔で迎えてくれる人。傷を癒してくれる人。こういう人達がいるからこそ、俺達は本当の戦いが出来るんだ。」

ロイの目が懐かしそうに細められる。
これはかつて、自分が尊敬する人から教えられた言葉だった。
その時は上手く受け入れられなかったが、今なやしっかりと受け入れられる。
だからニャミもすぐに、とは言えないだろうけど・・・。

ロイ「俺達は、ニャミにはニャミの戦いをしてほしいんだ。」

な、そうだろ?と、振り返ると全員から肯定の頷きが返ってくる。

アッシュ「その通りっスよ!ニャミさんしか出来ない事、沢山あるっス。」
スマイル「そうそう。でもロイの口からそんな事聞くとは思わなかったなー。」
ロイ「べ、別にいいだろ!?」
ニャミ「・・・フフッ。」

今更ながら顔を赤くしたロイは、ニャミの声に視線を移す。
笑っていた。
他の仲間も驚いた様に見る中、ニャミは一しきり笑うと勢いよく立ちあがった。

ニャミ「ロイってばカッコイイ所あるじゃない!見直しちゃった。」
ロイ「え・・・え?」
ニャミ「さぁ、早く!病院行くんでしょ?」

ちゃんと話は聞いてたのよ、と笑うとニャミは全員をせかす。
突然の事に暫く唖然としていたが、やがて皆笑みを浮かべる。

マルス「そうだね、早く行かなくちゃ。」
ユーリ「この暑さからも解放されたいしな。

リンク「フォックスさん、ムラサキさん大丈夫ですか?」
フォックス「心配するなって。」
ムラサキ「えぇ、それにユーリじゃないけど、ちゃんとした所でゆっくり休みたいものね。」

そう言ったムラサキはニャミを見詰める。
するとニャミもこちらをじっと見ていた。
・・・ニャミが座り込んでいた理由の半分、それは先程ムラサキから聞かされた話だった。
ニャミは一度目を閉じ、そして満面の笑みを浮かべる。

ニャミ「私は皆を守る戦いをするって決めたよ!」

だから笑顔を忘れないように。
こうやって元気に笑ってる。

その笑顔にムラサキは嬉しそうに、そして眩しそうに目を細めた。






〜To be continued〜




<幻作の呟き。>

ニャミの戸惑い+ムラサキ姐さんの色々+ロイの説得。
いつも言いますが、とっても楽しかったです。
ちなみに、UPするに当たってざかざか書き直した部分が多々あり。…難しいシーンでもありました;

それにしても、あれですね。私が書く文章では絶対にあんな爽やかな説得は無理ですね。
ベクトルが全く違うんで驚きました。だからリレー小説は面白い。闇やん素敵v

そ・し・て。

祝!!欠片回収っ!!!ようやく物語の柱をちょこっと消化しましたじぇ!
五分の一か。……………。
・・・道のりは長い。

次回は突撃決定したネタが入ります。(とは言ってもわりと長引くネタですが)
狐さんが大変な事になる…かも?
ではお楽しみに。

UPした日:2008.1.4



それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。


<リアルタイムなアトガキ。>

闇:大分遅くなってゴメンなさいな闇星です。しかも短い・・・orzlll
  だって戦闘シーン苦手なんだもん…(お前またそれかよっ!)
  幻やんの素敵ニャミに便乗して私もニャミの心中をメインにしてみました。
  お陰でストーリー的には全く進まなかったけどね!!
  こうなったらアレです。書きたい事書きまくってくだs(略
  とりあえず今回の反省点は喋れてない方が多いって事だよね。
  転がされたら目ぇ回るやん!酔いながらもなんとかパスユー!


幻:さーて、罰ゲームでもないのに2話分くらい書いちゃった気がする幻作です。マジどうしよう、書きすぎた(滝汗)
  書きたいこと書きまくれと言われたので躊躇わず書きまくったアフォですごめんなさい orz
  だって戦闘シーンとニャミの事でいっぱいいっぱいだったんだもの!!(号泣)
  ちょっと満足感ありだけど!(をい)
  つか、ようやく5分の1達成だ!!祝!欠片記念っ
  フフフ…これでようやく町に行ける……!
  ムラサキ姐さんの色々は、とりあえず左目見えないのだけ頭の片隅に置いといてくれればあとは深く考えないでいいよん。
さーて闇やんを転がすのをやめて抱き起こし、頭を撫でてみた!!パスユー!! 2007.9.10


闇:今回は早く書いたどー!と言いたいお年頃な闇星です。
  ようやく欠片ゲット!いやぁ、めでたいね!!この話の一番大きな目的は欠片集めだもんね!最近少し忘れてたけど(大問題)
  そして私はロイとニャミばっかでした。
  ロイさん今回はオリジナルゲームの方の性格をやや入れてみた。それ即ち、諭し上手(ぇ
  ニャミはこれからも悩むんだろうけど、頑張って乗り越えて行って欲しいなーなんて。
  今回結構書いたかと思ったけど見直してみると、そうでもないかもと少し凹んでるのは秘密です(言ってる)
  うわーい撫で撫でされちゃったーvゴロゴロニャー、とか言いながらパッシング!