another world story
〜pop’n&smash〜
第15話






 粗方癒えきった傷に安堵する暇もなく、MZDは呼吸を荒げていた。
 些細な音すら頭にごわんごわんと響く。
 目に映る全てが正常に見えない。ぐるぐる回る。

影「無茶ヲスルカラデスヨ…。神トシテノ生命活動ニ必要ナ魔力マデ治癒二回スナンテ…」
MZD「しょうがねぇ、だろ…。…ぅ、……一分一秒が惜しい一大事なんだ…」

 かろうじて命を取り留められる程度の魔力を残して傷の治療に全てを注いだせいで、MZDは現在正真正銘の“空っぽ”になっていた。
 傷の心配はなくなったが、今度は魔力が無いせいで苦しんでいるのだ。

 人間と違い魔力で生きているような存在であるMZDは、普通に寝ているのに支障が無い程度魔力を残していた数日前より生命力を希薄にしていた。
 傷が治ったからといって、これでは却って危険なのでは、と影は危惧した。
 確かに傷と魔力を同時に回復させてゆくより、どちらかを完璧に治して残りを集中的に回復させる方が早いだろうが、その手段は最早死ぬか死なないかの賭けだ。

 MZDの魔力によって構成されている影は、言葉が片言になっているだけでなく徐々にその色素が薄くなってきていた。
 これ以上MZDが衰弱すれば存在すら危うい。
 おまけに影自身が、ある事に少しずつ魔力を消費していた。

影(主ハ……死ナセマセン)

 MZDに傷を負わせた『誰か』が、また狙ってこないとも限らない。
 影はそれを考慮して、この部屋に探査防御魔法をかけていた。
 誰かがMZDの居場所を魔法で探ろうとしても、居場所を知られないようにするバリアのようなものだ。
 本当は家丸ごとにかけておきたかったが、生憎現在の影はそれを実行及び持続させるだけの魔力を持っていない。

 苦しそうな呼吸を繰り返すMZDを心配そうに見守りながら、影は溜息をひとつついた。
 …まだ、MZDが全快するまで時間がかかりそうだった。


 ***


 短い休憩を終えて、一同は欠伸を連発しながら遺跡内を歩く。
 燭台に適当な間隔で火を灯す役割は、火属性魔法の使えるユーリとムラサキに自然と定着したようだった。

 ごうごうと水の音が響く遺跡の中で、幾度も石の扉を開けて幾つもの部屋を通り過ぎた。
 休憩の時間を含めて考えると、今は夕方くらいだろうか。
 遺跡には窓が無い為、時間感覚が掴めない。

 ひたすら通信鏡の示す方向へ進んでいるのだが、中々目的の物を見つけられない。
 近い事は確かなのだが。


リンク「随分広いんですね、この遺跡…」
ニャミ「これだけ奥に来るとお祭りでも使ってないからちょっとカビ臭いし…」
ムラサキ「道順…覚えながら歩いてるつもりだけど、出口まで戻れるかちょっと心配だわ」

 迷路のような遺跡で迷って帰れないケースも少なくないはず。
 そう思うと早く戻りたい所だが、肝心の『欠片』がみつからなければ話にならない。

 長い廊下を通って、突き当たりに石の扉を見つける。
 本日幾つ目なのか数えるのも面倒だった。

 フォックスが扉の前に立って、それを開くべく体重をかけて押した。
 ずずず、という音と共に部屋に繋がる扉が開く。
 ―――と、

ロイ「っうわ!?何だこれっ」

 ロイが驚くのも無理はない、その部屋の中には人間くらいの大きさの…しかし確実に人間ではない何かが、そこかしこで蠢いていたのだから。
 暗くて良く見えないが、廊下の明かりで微かに見えるその姿は……二足歩行の、巨大なトカゲ。

アッシュ「モンスターっス!見覚えがある形っスよ」
スマイル「ヒヒッ、この旅ではサソリ以外のモンスターは初のお目見えだねぇ」
マルス「この部屋、通っていくの…?」
ムラサキ「通信鏡がこっちを示してる限りは、行くしか無いでしょうね」
ロイ「おい、こっちに来るぞ!!」

 話をしている間にも、明かりと会話で一行に気付いたトカゲのモンスターは、一行を敵とみなして一斉に突進してきていた。
 モンスターが一様に好戦的なのは、今も変わらないらしい。


ユーリ「なるべく部屋の中には入るな、入り口で食い止めろ!これだけ数が多いと囲まれかねん」
アッシュ「了解っ」
フォックス「接近戦可能チーム、行くぞ!」

 魔法を使う戦闘員を除いた6人が、部屋の入り口に寄ってきたモンスターを掃討しにかかる。
 その少し後ろでユーリが小規模な魔法の呪文を詠唱し、ムラサキは非常時に備えて無属性魔法を構えた。
 その更に後方へ連れてこられたニャミは、ユーリの後ろに守られている。

ニャミ(………)

 守られている彼女が、何かを思案するように視線を落として唇を噛んでいたのには、誰も気付かなかった。

マルス「部屋の中に入らないように、とは言うけど…っ」
スマイル「廊下じゃ若干狭いよねぇ」

 勿論普通の建物の廊下よりは広い。が、6人が大立ち回りをするには狭かった。
 しかしだからといって人数が減らせないのが痛い所である。
 これだけ多数のモンスターが一斉に襲ってくる中で戦力は落としたくないものだ。

『ぶんっ』
アッシュ「ぅわあっ!」
ロイ「あ、わりぃ!」
 ロイが振った剣がアッシュの顔の真横を通過した。
 危うく耳が削げ落ちる所である。

『ひゅぉんっ』
フォックス「おわっ!?」
スマイル「あゴメンゴメン〜」
 スマイルが投げたナイフがフォックスの鼻先を飛んでいった。
 もう少し動きが遅ければ顔面串刺しである。

一同(狭い・・・・・・っ!!)

 洞窟戦の時より狭いのが難だ。
 魔法で一気に殲滅するにも、狭くては遺跡が壊れる可能性もある。

ロイ「あぁもう、まどろっこしいな!部屋に突撃するぞ!同士討ちよりマシだろっ」
リンク「えぇ!?」
ムラサキ「待ちなさいロイ!危険よ!!」

 制止の声も聞かず、ロイはモンスターの密集する部屋の中に駆け込んでいった。



ロイ「はぁっ!!」

部屋の中に飛び込んだロイは剣を大きく払ってモンスター達を牽制した。
突然の事に反応が遅れたモンスター達だったが、その攻撃により数匹の仲間が地に倒れ伏したのを見て咆哮をあげる。

フォックス「バカっ!早くこっちに!」
スマイル「いくら怪力でも一人じゃ厳しいと思うんだよねー。」
ロイ「だから怪力言うな・・・っつんだ!」

慌てたフォックスとは対照的に落ち着いた(というより?気な)スマイルの声にロイは反論しつつ剣を目の前にいた一匹に突き刺す。
しかし、深々と突き刺さったその剣を抜く一瞬の隙が出来てしまった。

アッシュ「危ないっス!」
ロイ「!」
飛びかかってきたモンスターにロイが振り向いた瞬間、鈍い音が響いた。


ガッ!!


リンク「ロイさんっ!?」
ユーリ「・・・!」

仲間達の目に映ったのはモンスターに覆いかぶさられグラリと傾くロイの姿だった。
まさかの事態に一瞬場が静まり、一番奥にいた為状況の把握が遅れていたニャミが何事かと顔を出す。
そして状況を理解した途端口を手で覆った。

ニャミ「・・きゃ」
「び・・・っくりしたぁ!!!」
ニャミ「へ!?」

大声で悲鳴を上げようとしたニャミはその言葉に悲鳴の代わりに間の抜けた声を出してしまう。
その声の主は・・・ロイ。
モンスターの体を押しのけて汗を拭って立ち上がった。

ロイ「何がどうなって・・・・ん?」
ふ、と自分に覆いかぶさっていたモンスターを見ると、その背中には何か鋭利な物が刺さっているのが認められた。
その正体に一番に気づいたのはスマイルだ。

スマイル「ヒヒ、流石だねぇ、ムラサキ。」
マルス「え?」
ムラサキ「全く・・・世話が焼けるわ。」

スマイルの言葉にムラサキはすっと手の中に再び無属性魔法を生み出す。
どうやら鋭利な物の正体はそれだった様だ。

ムラサキ「ぼさっとしないの。来るわよ。」
落ち着いた風に言われたその言葉が合図だったかのようにモンスター達は状況把握を終え怒りを露にして襲い掛かってくる。

アッシュ「こうなったら仕方ないっスね!」
やはりロイ一人で中にいる事は危険だ、と判断してアッシュがモンスターの間を縫うようにして素早くロイの傍に付く。
他の仲間達も各々の攻撃法を開始した。

アッシュ「後で説教は覚悟してくださいっスよ!」
ロイ「うぇ・・・。」
背中を合わせて言われて一瞬顔を顰める。

しかしすぐに表情を引き締めるとアッシュに耳打ちした。
ロイ「アッシュ、少しだけあいつらの気を逸らせるか?」
アッシュ「え?・・・わ、わかったっス。」

突然何を、と思ったが真剣な表情のロイにアッシュは頷きモンスターの前に躍り出る。
その後ろでロイは剣を大きく構えて瞳を閉じた。
そして気を集中させる。

ユーリ「何だ・・・?」
リンク「大丈夫ですよ。」
その姿を訝しげに見るユーリにリンクが安心させるように声を掛ける。
その近くではマルスも頷いていた。
マルス「久しぶりに見るかな。」

その時ロイが鋭い声で叫ぶ。
ロイ「アッシュ避けろ!」
アッシュ「わっわぁぁ!?」

叫ばれて反射的に飛び退く。
その途端、ロイを中心に激しい爆発が起こった。

ムラサキ「!?」
ユーリ「なんだ!?」

爆風に髪を押えながら視線を向ける。
・・・煙が切れた時、ロイの周りにいたはずのモンスターの姿は消えうせていた。

ロイ「へへっ、これで一気に形勢逆転だ。」
にっ、と笑うと残っているモンスターへと剣を向けた。



ユーリ「あんな技を持っているとはな…」
マルス「全部を口で言うのも難しいし、お互いの特殊技巧は追々実践で知るって事で…しょうがないよね?」
ユーリ「それは仕方なかろう。ただし、周囲に危険が及ぶ場合だけはあらかじめ知らせてくれ」

 会話をしながら、部屋の入り口に駆け寄る。

ユーリ「接近戦が可能なメンバーは全員部屋の中に入って戦え!もう囲まれてもその数は脅威ではないはずだ!」
ムラサキ「遠距離メンバーは距離を置いて援護するわ」

 ユーリが叫ぶが早いか、接近戦メンバーは既に突入を果たしている仲間を助けるように部屋の中へと駆け込んだ。
 ニャミはムラサキが背後に隠し、そして敵へと再び無属性の魔法を構える。
 

リンク「そっち、任せましたよ!」
アッシュ「了解っス!」
 リンクに背後を任された直後、アッシュは近寄ってきたモンスターの攻撃を蹴りでいなして高く跳躍した。
 背の高いモンスターの首をうまく捕らえると、
 
―――ごきっ

 ………。
 腕力にプラスして重力を使ったその技は、周囲の人間に(あ、今かなり凄い音が…)と思わせた。
 

 スマイルが暴れだしたモンスターの視覚を投げナイフで奪い、マルスが流れるようにとどめを刺していった。
 その中の僅かな危険は部屋の入り口にいる遠距離メンバーの魔法によって払いのけられる。

 フォックスが仕留めたモンスターの上をロイが飛び越えて、大きく剣を振り下ろした。
 
 
 あっという間だった。
 ロイが仕掛けたあの大技が、あの数をものともせず短時間で勝利に導いたのだ。

 戦闘が完全に終了して、もう敵が残っていないことを全員が確認すると、ようやく緊張の糸を解く。

ユーリ(…あいつは特攻隊長に決定だな…)
 パーティーの戦力を頭の中でまとめながら、ユーリはロイをそう位置づけた。
 

 死屍累々といった様相の部屋に今更ながら嫌悪を覚えて視線をそらし、アッシュはムラサキへと問う。
アッシュ「ムラサキさん、次はどっちに行ったらいいっスか?」

 部屋には二つの扉があった。
 どちらも同じ模様、同じ大きさで、ムラサキの持つ通信鏡に頼らなければ正しい通路など分からない。
 ムラサキは通路の選択をすべく、懐にしまってある通信鏡を取り出そうとして――

ムラサキ「――っあ!?」

 
 キシュンッ

 突如、ムラサキの懐から目を焦がすほどの強い光が溢れ、鋭い音と共に太い光の柱となってある方角へ向いた。
 驚きながら懐を探ってみると、光の発信源は先刻まさに取り出そうとしていた通信鏡だった。

ムラサキ「これは…欠片に反応しているの?スイッチも入れていないのに…」
フォックス「凄い反応だな。近くにあるのか?」

 ムラサキの手のひらに乗せられた通信鏡は、それ自体が光の球であるかのように光り輝いている。
 光の柱が指し示す先は……

スマイル「…待って。何か聞こえない?」
ロイ「え?」

 スマイルの言葉で全員が耳を澄ますと、この部屋の外からだろうか、重い音がズン、ズン、と響いているのが聞こえた。
 それは丁度扉の片方のある方向であり、光が指し示す先でもあった。

フォックス「…何か嫌な予感がするのは俺だけか?」
リンク「……いいえ…多分、」

 ズン、ズン、ズン。

 
リンク「全員、そうなんじゃないですか?」
 
 
 
ズゴォッ!!!
 
 
 その衝撃に、部屋すら揺れたのではないかと誰もが錯覚した。
 石で造られているはずのその扉が、力ずくで叩き壊されたのだ。

アッシュ「何スかこれ…!!」
マルス「これはまた…」

 全員思わず顔を引きつらせた。
 予想だにしていなかった事態だった。

スマイル「えー、何、ダンジョンボスって感じ?」
ユーリ「言っている場合か!!」

 石の扉を叩き壊して部屋へ入ってきたのは、天井に届きそうな程の大きさの、異形のモノ。
 その姿は先程殲滅したトカゲの形のモンスターをそのまま巨大化したようだった。
 そしてさらに驚くべきことは、

 
ムラサキ「何で…光の先が、このモンスターなのよ」
 

 世界を移動する欠片の行方を指し示す通信鏡は、その強い光をモンスターの体に向けていた。
 モンスターの微動にも反応して、光が一緒に動く。

ロイ「まさかこのモンスターを生け捕りにしなきゃならない、なんて事はないよな?」
スマイル「それはないでしょ。…多分」
フォックス「まぁ、MZDも『モンスターを捕まえて来い』とは言わなかったしな。目的の物のサイズ指定もあったことだし、とりあえずあれじゃないだろ」

 MZDが指定したのは、野球ボールくらいの球体。
 その欠片を集めているのだから、あんな馬鹿が付くほど巨大なモンスターには関連がない…はず。

 焦りながらも仲間内で意見をまとめると、その直後にモンスターが咆哮を上げた。
 鼓膜がどうにかなりそうなほどの大声量。
 しかし耳を塞ぐ間もなくモンスターは牙を剥き出し襲い掛かってきた。

リンク「ひとまず安全確保に努めた方が良さそうですね!」
ムラサキ「生け捕りがどうのなんて後から考えましょう。それで駄目なら説明不足のMZDの責任だもの」

 ムラサキがさらりと責任転嫁をやってのけると、その後に思いがけない事態が起こった。

 
『貴様らも“あれ”を狙ってきたのか…!渡さぬ、渡さぬぞ!!』


 地響きのような、低音。
 しかしそれは確かに言葉だった。
 そしてその言葉は、目の前の巨大なモンスターから聞こえていた。

ユーリ「なっ…、」
アッシュ「モンスターが喋ったっス!!」

 驚いている間にも、モンスターは迫ってくる。
 部屋の中に居た一同は慌てて逃げ、魔法の使えるメンバーは部屋の入り口付近からモンスターを迎撃した。
 モンスターの攻撃は軌道が逸れ、一旦止まる。

 大きな目でぐるりと見回して、モンスターは再び言葉を放った。

『この莫大な力…渡しはせぬ!!』

 それと同時に、モンスターの腹の一部が一瞬黒い光を放つ。
 そこは丁度、通信鏡が指し示した光の先でもあった。

マルス「力……?」
フォックス「何の事だ…」

 薙ぎ払うように振り回されたモンスターの長い尾を何とか回避しながら、モンスターの腹を見る。
 …通信鏡の光で照らされていてよく見えない。

リンク「力とは何の事ですか!?私達は、ある小さな物を探しにきました!あなたの力を奪いに来たのではありません!」
 言葉が通じるのならば幸いとばかりに、リンクはモンスターに向けて叫んだ。

 こちらの世界でのモンスターの定義はまだよく分からないが、少なくともリンクは人の形をしていない者が喋るのを見た事がある為、あまり動揺していなかった。
 

『やはり貴様らも我が力を奪いに来たのだな!!返り討ちにしてくれる!!』

 どんっ、どがっ!
 モンスターが口から火球をいくつも吐き出し、それらが炸裂する。
 

リンク「!?」
ユーリ「会話が成立しないほど逆上しているのか…?」
フォックス「分からない!とにかく話し合いで何とかなりそうでない事は確かだ!」
ロイ「じゃあ倒すぞ!!」

 近距離攻撃メンバーは懸命に攻撃を避けながら、反撃をする隙を狙う。
 それを見て取った遠距離メンバーのユーリとムラサキは、魔法を使ってモンスターの頭へ攻撃を開始した。

ムラサキ「あなたはもう少し後ろに下がってて」
 背後に居るニャミへ注意を促して、ムラサキは戦闘へと集中した。
 …先刻から何も言わず考えているニャミに、気付かずに。
 

 ユーリの魔法の後にムラサキ、ムラサキの魔法の後にユーリ、と交互に攻撃を続ける事で無駄な時間をなくす。
 今回は相手が相手だけに無属性程度の威力では敵いそうにない為、ムラサキも呪文を唱えているのだ。

 ダメージを負わせると共に視界をも奪うその攻撃は、大いに隙を作った。
 その間に接近戦メンバーはモンスターとの距離を詰めて、各々の武器を構える。

 一斉攻撃が開始され、モンスターはあっという間に足に深いダメージを負った。
 が、
 

『小賢しい!!』

 
 一喝すると同時に、周囲に突風が巻き起こった。
 その風はなぜか、薄明かりにも分かるくらい黒い色をしていた。

スマイル「わっ!」
ロイ「うわぁっ」
 モンスターの近くに居たメンバーはバチッと何かに弾かれるように吹き飛ばされた。
 体が宙に舞うほどの威力でもって弾かれ、着地に失敗する者も数名いた。

 そして着地に失敗した内の一人であるアッシュは、モンスターの標的とされ、巨大な尾が勢いをつけて迫ってきた。

 ―――避けられない。
 

 攻撃が来る事を分かりながら体が追いつかない事を呪いつつ、アッシュが防御の形を取る。
 瞬間、

 ムラサキの横を何かが通り過ぎて、
 部屋の中に飛び出していって。

 

「ぅああああああぁーっ!!!」

 

 誰もが我が目を疑った。
 叫びを上げながらアッシュの前に飛び出してきたのは、ニャミだった。

 ニャミは不恰好な構え方でスマイルに貸し与えられたナイフを構えた。
 アッシュがニャミを庇おうと手を伸ばすが、届かない内にモンスターの攻撃が襲う。

ユーリ「ニャミ!!アッシュ!!」
 ユーリの叫びが石造りの部屋の中によく響いた。
 

 二人は直撃を受けていた…が、奇妙な吹き飛び方をした。
 モンスターの尾の軌道にずれが生じていた。
 直撃すれば壁まで吹き飛ばされそうだったが、二人揃って床をいくらか転がる程度で済んだ。(とはいえ、威力はあるのでダメージは避けられなかったが)

 ずずん、と軌道の逸れた尾が床に降りると、それはそれは大変な幅、ばっくりと裂けているのが見えた。
 どうやら軌道が逸れたのは尾が切れたからだったらしい。

ロイ「ニャミって実は剣が得意なのか?」
スマイル「えっと…多分、僕のとっておきの短剣を使ったのと、まぐれが混じったからだと思う」

 ニャミが護身用にと短剣を求めた時、スマイルが渡したのは最も切れ味の良い短剣だった。
 …まさかこんな場面で使われるとは思ってもみなかったが。

ニャミ「いっ…たぁ……」
アッシュ「っ、な…何してるんスかニャミさん!!!危険じゃないスか!!!」
 アッシュが痛む体を必死で起こして敵の様子を伺いながらニャミを怒鳴りつけると、ニャミはビクリと一瞬肩を竦めたが、それでも強い瞳で見返した。

ニャミ「だって、たった一人見てるだけなんて耐えらんない!!」

 ニャミの叫びは、あまりに真剣で悲痛だった。
 思わず全員が口を噤む。

 スマイルは、短剣を貸してくれと頼んできたあの時既にニャミがこうする事を決めていたのに気付く。
 守られるだけのつらさが、ニャミを動かしていた。

 
 呆然としかけた中、マルスは次の攻撃が来るのを悟ってニャミの腕を掴み部屋の入り口へ駆けた。
 ムラサキが素早くモンスターに魔法を叩き込み、二人を逃がす為の隙を作る。
 アッシュは近くに居たフォックスに手伝って貰い立ち上がって再びモンスターと対峙した。

ニャミ「放して!」
マルス「できない」
ニャミ「私だって戦いたい!!」
マルス「戦ってどうするの?僕は君が死ぬ所なんて見たくない」

 ニャミが何か言及しようとして、しかし存外にマルスが真剣な顔を見せたので、それはできなかった。
 戦場での厳しさを知るマルスだからこそ、真剣にしか言えなかった。

 部屋の入り口に辿り着くと、マルスはニャミを遠距離チームの二人へ引き渡した。
 ユーリがニャミの腕を引っ張って背後へ押しやる。

ユーリ「…お前の気持ちは分からんでもない。しかし私たちの事も考えて貰おうか」
ニャミ「ユーリたちの?」
ユーリ「誰も傷つけまいと戦っているというのに、戦いに不慣れなお前が戦いに出ては寿命が縮む」
ニャミ「……」
ムラサキ「とにかくお願い、そこに居て」

 真剣な声と気迫で、ニャミは唇を噛みながらその場にうずくまって動かなくなった。
 まるで全てを拒絶するように。そして苦しみに耐えるように。

 その様子を確認してから、マルスは戦場へと取って返す。






〜To be continued〜




<幻作の呟き。>

見ての通り私が書き過ぎです…orz
てゆか、ようやくストーリーの要である『欠片』のかほりが漂って参りました。RPG要素も(私の趣味で)てんこ盛り。
ニャミの悩みも爆発したことですし、(書き手としては)楽しいです。
闇やんとオフで合う度にネタも増えていってるのでワクワクですよ。

それにしても闇やんは私のツボを心得てらっしゃる…(ウフフ)
ロイとムラサキの素敵シチュコンボで鼻血コマンタレヴーです(何)
では次回もお楽しみに!(もう既に半分以上出来上がってますが…;)

UPした日:2007.9.19



それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。


<リアルタイムなアトガキ。>

幻:伏線拾う所まで行こうと思いつつまだ大分かかる事に気付いて結局次回に回しちゃいます幻作です。(貴様!!)
  とりあえずこの戦闘ちゃっちゃと終わらせちゃってよ闇どん!(他人任せっ)
  MZDは死に掛けつつ生きているようです。頑張れ神。
  そしてロイが突進しました。ムラサキ姐さん焦ってます!誰かヘルプ!!
  トマトの「M」は分かるじぇwきっと彼らのHPも満タンさw
  さてさて、影を踏まれないように華麗なる逃亡劇をかましながらパスユー!!   2007.4.25


闇:超苦手な戦闘シーンに四苦八苦な闇星です。うわーんだって苦手なんだもの!
  反省点は色々あるけど、とりあえずロイの必殺技出せたのとムラサキ姐さんの愛の救助(爆)が書けた事は満足デス(ぇ
  まだ戦闘終わりきってないけど残りはパスだぜ!とうっ(逃走
  影踏むのって意外と難しいんだわぁ・・・転びながらパスユー。


幻:ぎゃああああぁ!!!長くなりすぎたああぁ!!!でもまだまだ書きたいシーンがあった。(ええぇ)
  でもこれ以上書くとあまりにヤヴァいので切断…ぐすんぐすん。
  遺跡の中に欠片があったっていう伏線の拾いすら完成しなかった;(片鱗は見えたけど)
  まぁ、代わりに書いといて…(ええええぇ
  ところでムラサキ姐さんの愛の救助はかなりときめきましたが何か!!(!)
  ちなみにまた戦闘シーン引渡しなのはわざとじゃないわよ?ええ。(にっこり)
  さて、ニャミの思いを書けて楽しかった事ですし、転んだ闇やんを影たちで転がしながらパスユーv   2007.6.19