another world story
〜pop’n&smash〜
第13話






 それから二日ほど経過した。
 砂漠に入って、道のりはまだ半分にすら至っていないというのに、数人がバテ始めた頃だ。
 いい加減、寒暖の差に辟易する。

 暑さに極端に弱いロイ、暑さも寒さも苦手なユーリ、あまりの気温差に体調を狂わされつつあるスマイル。
 かなり体力のあるアッシュでも疲労が溜まっていた。

 ゆっくりと休みたいが、ここが砂漠である以上はここで休んでも意味がないだろう。
 早く砂漠を抜けて休まなければ………

 そう思っていた矢先の事だった。

リンク「あ……あれは…」
 前方に、小さく見える緑色の集合体。時々生えているサボテンではなさそうだ。

ロイ「蜃気楼じゃないよな…?」
ムラサキ「見間違いでなければ、私にも木が見えるわ」
 一同は顔を見合わせる。
 …そして。

ニャミ
「オアシスだー!!!」
 どこにそんな余力があったのか、ニャミは破顔してそう叫び、皆に「早く行こう!」と呼びかけた。
 お陰で全員気が逸って早足になった。…既にヘロヘロな二人を除く。

 最初ポツリとしか見えなかったオアシスは、近付くにつれその姿を大きくして、遂には目前にまで迫っていた。
 密集、とまでは行かずとも泉を囲む様に高い木が何本も伸びている。
 どうやら二日前にニャミが話していたオアシスに辿り着いたようだ。

アッシュ「丁度いいっス、皆疲れてるでしょうからここでしばらく休みましょう」
ロイ+ニャミ「さんせーい」

 二人が挙手をして賛同したと同時に、ユーリは足の機能をすっぱり切り捨てるかの様にどすっと木陰へ腰を下ろした。
 ロイは泉の水を掬って飲み、そこへだらんと寝転がってそのまま泉に顔を浸けた。
 顔面冷却中。日光で多少温まっているとはいえ、気温に比べれば冷たい。

 窒息する前に顔を引き上げようとして、スマイルが隙有りとばかりにロイの後ろ頭を押さえた。じたばたもがくロイ。
 そして本当に窒息死する前に放すと、
ロイ「っぶはぁ!!!何すんだよっ」
スマイル「ユーリの真似ー」

 ヒヒヒと笑って逃げるスマイル。
 …ロイには意味が分からなかったが、アッシュとリンクとユーリはスマイルが何を模したのか何となく分かって視線を明後日の方向へ向けた。


マルス「それにしても本当に丁度良かったね。陽が出てちょっと経った位だから今から暑くなるし、避暑地にはもってこいだよ」
フォックス「まさかこんなに小さな場所に話通り来れるとは思わなかった。ムラサキが多少方角を確かめてるが、地図も使ってないのに良く正確に言い当てたな、ニャミ」
ニャミ「うーん、まぁ、カン?」
一同(カン・・・・・)

 少し草の生えたそこへ座り、ばたんと後ろに倒れて仰向けに寝転がるニャミ。
ニャミ「実はMZDに世界を巡るお使いをよく頼まれてたのは、この能力があるからなんだよね。方向音痴の逆って奴?」
スマイル「新事実だねぇ」
 先程までピクリとも動かなかったユーリが泉に手を浸しに来たのを珍しげに見つつ、スマイルはニャミの言葉に感心する。
 いや、それ位でないとここまで正確にオアシスの場所は言い当てられないだろうが。

リンク「さて、どのくらいここで休みましょうか?」
フォックス「皆疲れてるし、このまま日没まで居ても良いんじゃないか?」
 確認の為にぐるりと視線を一周させると、全員一致で賛成した。

フォックス「決定だな。ゆっくりするとしようか」
 木漏れ日、とは言い難い程の強い日差しに目を細めながら、フォックスは木の幹に背を預けた。



 ***



クレイジー「…こんな狭い所に居るの、嫌だろ?そろそろ外に出してあげようか」
 口角を吊り上げて言うと、部屋の中に居るツギハギだらけの黒い塊は、もそりと動いた。
 形は上手く成せなかったと言えど、それなりの力を与えてあるこの“イキモノ”は、何かしら面白い状況を生み出すはず。

クレイジー「……さぁ、」


 コ ワ シ テ オ イ デ 。


 “壊す者”は、極上の笑みを浮かべてそれを見送った。



 ***



スマイル「……?」
マルス「……」
 ぴくり、と。
 同時に反応をした二人は、やはり同じ方向を見て丸きり黙った。

ユーリ「どうした?」
 少し回復したらしいユーリが訝しげに尋ねると、二人は首を傾げた。

マルス「……何でもない、と思うけど…」
スマイル「うーん…分かんないや」
ユーリ「何がだ」
スマイル「何か…こう、違和感っていうか…まぁ、気のせいだと思うよ」
ユーリ「……」

 複数人が反応をしたからには気のせいでない気もするが、本人達もよく把握できていないようなのでそれ以上気かない事にする。

 ここで休み始めてから数時間、取り立てて何事も無くのんびりと過ごしている一行は、ついさっき昼食を食べ終えた所だった。
 魔法で仕舞っている限り食材の鮮度が保たれるのは分かっているが、砂漠の只中でサラダを食べている光景はどこかミスマッチだったように思う。

ロイ「…砂漠の上に居るよりはマシだけど、ここも暑い…」
リンク「それはそうですよ。砂漠の中ですから」
ロイ「う――ん…」
 覇気の無い声を出して、寝返りを打つ。

 夜に備えて本気で睡眠をとっている者も数名居る中で、寝付けないロイは溜息を一つついた。
 …そして。

ロイ「………ん?」
 何かが視界の中で蠢いた気がした。
 瞬きをして再度そちらを見るが、何も無い。木があるだけだ。
 …木が揺れたのだろうと、気に留めず天を仰ぐ。


 そしてその瞬間、ロイは目を見開いてその場を飛び退く。

ロイ「っ!!?」
 反射的に動いた体に意識が追いついた時、自分が居た場所に巨大な塊が突っ込んでいる姿が瞳に映る。
 もし、咄嗟に動いていなければ確実にこの世とお別れしていたであろう事に背筋が凍る思いをしつつも剣を抜く。

 他の仲間も突然の招かれざる客にある者は目を丸くし、ある者は既に戦闘態勢を取りながらそれを凝視している。

アッシュ「ロイさん、大丈夫っスか!?」
ロイ「あぁ!…けど、何だ…これ。」

 それは『出来損ないの化け物』としか表現できない様な…生き物だった。
 ツギハギだらけで闇を抱えているかの様な体。
 それと同じくどんよりと濁った瞳。
 しかし、硬そうな甲羅に鋭い尾は、つい先日戦った生き物と同じものだ。

ニャミ「まさか…あのサソリ…?」
リンク「できれば何かの間違いであって欲しいんですが…恐らく。」
ニャミ「でもっ!数年前のあの時には、こんなの居なかったよ!?」
 同意を求める様にユーリ達を見ると、返ってきたものは無言の肯定。

フォックス「じゃあこいつは…新しいタイプの敵って事か?」
アッシュ「しかも、かなり強力って感じっス。」
スマイル「っていうか…これは多分人為的に造りましたー的だよね。」
 笑いながらも目をしっかりと相手に向け警戒してスマイルが言う。
 その言葉にユーリが眉を吊り上げた。

ユーリ「…奴、か?」
 ユーリの、そして全員の脳裏に奴…ビトレイの姿が浮かぶ。
 が、その時。

?『ブー、残念。…それとも半分当たりかなー?』
全員『!?』
 突然どこからともなく聞こえてきた声に、全員が辺りを見回す。
 しかし、声の主の姿はどこにも無い。

アッシュ「誰っスか!?」
?『秘密。まぁ、もう分かっちゃってる奴も居るだろうけどさ。ねぇ?俺の声…忘れるわけないよね。』

 その言葉が誰に向けられたものだったのか、アッシュには分からなかった。
 が、その一言に動きを示した仲間たちが居た。

マルス「まさか…?」
フォックス「あぁ、けど…何でだ!?」
ムラサキ「!…あなた達、心当たりが有るの?」
 ムラサキの問いに、中間達…スマデラ界の4人が頷く。
 その顔色は、どこか優れない。

リンク「…もしかしたら私達…、今とても危険な状況かもしれません。」
ユーリ「どういう事だ?」
リンク「言葉通りの意味ですよ。」
ロイ「言いたかねぇけど…勝てる相手じゃ…。」
 言いかけて口を噤む。
 それだけで、事情は分からないが今自分達が対峙している相手がただ者ではない事が分かる。

?『良く分かってるじゃん。でも安心しなよ。今回俺は高見の見物ー。さぁ、楽しませてよね。』
 その言葉が合図だったかの様に、造り変えられたサソリは両の爪を振り上げた。

 ひとまず状況確認は後回しにする事にして、一同は臨戦態勢に入った。
 戦えないニャミは、咄嗟にリンクが後ろへ隠した。

ムラサキ「洞窟の時のモンスターと形は同じだけど、形以外が同じだとは限らないわ。様子を見ながら戦いましょう」
スマイル「オッケー」
 各々の戦闘スタイルに合わせて距離を置き、敵の出方を見る。

ニャミ「うぇーん、折角休めると思ったのにぃ」
 先程まで眠っていた所為か少し目がしょぼしょぼしているニャミは、しっかり覚醒しているものの、体が重そうだ。

リンク「…ニャミさん、安全に逃げられると判る時まで絶対に離れないで下さい」
ニャミ「は、はいっ」
 低く言われて思わず緊張してしまったニャミがピシリと返答し、そしてその直後、爪を振り上げこちらの様子を窺っていたサソリは、その巨体を突然素早く動かした。
 ――速い。
 状況を正確に見られる位置に居る者が目で追うより早くリンクとニャミの元へ這い寄り、サソリはその巨大なハサミで薙いだ。

『ギンッ』
 瞬間、反射的にリンクが剣でそれを受け止める。
 しかしサソリの攻撃はあまりに重すぎた。
 背後に居るニャミ共々吹き飛ばされそうになり、刹那、

『ダンッ!ドガッ』
 立て続けに響く打撃音。しかしそれは2人が受けたものではなかった。

ムラサキ「早くそこから退きなさい!」
 打撃音と共に弾き返されたのはサソリのハサミ。
 直後にムラサキが鋭く叫んで、リンクはニャミを引っ張って駆けた。
 大分離れた所まで来て、木の陰でニャミを放して「ここにいて下さい」と言い置いた。

ニャミ「無力だなぁ私…」
 息つく間もなく戦いへと戻ってゆくリンクの背を見送りながら、ニャミは呟いた。
 せめてこれ以上邪魔にならないよう、再びこちらへ矛先が向いた時の為に逃げる準備をしておくことにする。


 リンクが戻ってくるまでの間に、サソリは次の標的をムラサキへ定めていた。
 先程リンクとニャミを逃がす時に無属性の魔法で続け様にハサミを殴打したのが少し効いたらしい。
 何本もの脚の関節をキシキシと鳴らしながら方向転換をし、そして…素早く動く。

アッシュ「ムラサキさん!」
ムラサキ「!」
 ムラサキは呪文不要の無属性魔法を再び連発するが、どうやらこのサソリは魔法に耐性があるらしく、洞窟の時のように一匹丸ごと吹き飛ばすには至らない。
 これでは正面から跳ね飛ばされてしまう。

 咄嗟に接近戦メンバーが数人、ムラサキの元へ走った。
 幸い、魔法使用者であるムラサキを援護すべく、元々近くに何人か居た。
 マルスが横から制してムラサキの魔法を止めさせ、ロイとアッシュがサソリの前へ立ち塞がる。

 ロイは剣で、アッシュは足で、力任せにサソリを食い止めた。
 2人がかりでも惰性で数メートル、ざざざっと押される。体が重い分だけ力では向こうが相当有利であるらしい。

ロイ「…うわ、また剣が欠けたらどうしよう」
 呟いて、剣に加え片足をぐいっと押し付け、何とかサソリの体を押し返そうと試みる。

アッシュ「その時はその時っス。とりあえず一番硬いのは尾のはずっスから、そこは斬らないようにした方がいいんじゃないスか?」
ロイ「了解」

 しかし、頷いた直後にサソリは尾をもたげ、2人を攻撃しようとしていた。
 毒針のついた尾をアッシュが受け止めるのは危険だ。やむを得ずロイが剣で受け止めようとして――その前に強い力で尾は弾き返された。
 フォックスの銃とムラサキの魔法が同時に尾を払ったのだ。

ロイ「サンキュ!」
アッシュ「すまねっス!」
 ロイとアッシュはサソリが怯んでいる隙に、サソリの頭めがけて攻撃を仕掛けた。
 それらは見事にヒットした…が、それですら大きなダメージにならなかったらしい。サソリは両のハサミを勢い良く振って、2人を振り払った。
 巨大なハサミによって、2人は地に叩き付けられる。

マルス「ロイ!アッシュ!」
 相当強い力で体を打ちつけたらしく、2人は中々起き上がらない。
 サソリはここぞとばかりにくるりと方向転換し、アッシュに向けて、くぱりと口を開いた。
 口の中に青白い光が点り、光線として吐き出されようとした瞬間、

スマイル「そうはさせないよっ!」
 スマイルは何本ものクナイをダーツのように投げ、サソリの口内へ突き立てた。
 途端、ガラスに爪を立てたような高い咆哮が上がる。

スマイル「外側には刺さんなくても内側なら刺さるよねーぇ」
ムラサキ「生気を吸う光線はこのサソリにも使えるのね…」

 ダメージによって光線を撃ち損ねたサソリは、ごぼりと口から緑色の体液を吐き出しながらハサミを振り上げた。
 そのまま真下に居るアッシュに振り下ろすが、一寸早くアッシュが転がり、回避する。
 少し咳き込みながら立ち上がり、サソリから離れてロイを見遣ると、ロイは既にサソリから離れて様子を窺っている所だった。

 サソリが再び動き出す前に、ユーリは魔力を集中させる。
ユーリ「随分頑丈な様だが、これはどうだ?」
 そう言って、唱えていた魔法を発動させた。

『ズアァン!!』

 重い音が響き、一同の視界が光で埋め尽くされる。
 この底抜けの晴天の中、大きな雷がサソリを貫いたのだ。
 魔法に耐性があろうと、これだけ威力があるとダメージも負うらしい。
 焼けた臭いが広がる。

 短い呪文を唱え終えたムラサキが、追う様にしてサソリの脚の関節部分に狙いをつけ、小さな風の刃をいくつも放った。
 素早い動きを作り出していた4組の脚の内、1組が切り離される。

 それでも尚突進しようと動き出すサソリに、リンクが後ろから剣を振りかぶった。
 ザン、と音を立てて剣でサソリの脚を力一杯貫き、地に縫いとめた。
 どうやら先程の雷で脚の甲羅も脆くなっていたらしく、多少硬かったが何とか刺す事ができた。

リンク「早く、今の内に!!」
 その場を動けなくなったサソリに向かって、マルスが地を蹴る。

マルス「やっ!」
 剣を高く構え、サソリの頭へ全体重をかけて突き刺した。
 ロイとアッシュがし損じた攻撃を、今度こそ成功させたのだ。

 歪んだ咆哮を上げて、カクリカクリと変な動きをし、サソリは緑の液体を噴き出しながら徐々に動かなくなっていった。
 最後にズン、と体を地に落としたのを見届け、マルスとリンクは剣を引き抜いた。

フォックス「終わった…のか?」
ユーリ「そのようだな。…一匹のモンスターにこれ程手こずるとは…」
リンク「ニャミさん!もう出てきていいですよ!」
 ニャミは木の陰からひょこっと姿を現し、走ってきた。

ニャミ「お疲れ様。何か私、役立たずでごめんね…」
アッシュ「そんな事ないっスよ。ニャミさんには戦闘が専門外なだけで、他の所で活躍してもらってるっスから」
スマイル「女の子としてはそれが普通だもんねぇ」
ムラサキ「…あら、それは遠まわしに私が普通じゃないって言っているのかしら?」
スマイル「ヒヒヒ!!魔法が使える時点で普通の人間じゃないでしょ!」
ムラサキ「それもそうね。この世界じゃ魔法の使える人間なんておかしい事この上ないし」
 ふぅ、とムラサキが溜息をつくと、少しの間話題が見当たらず全員沈黙する。

 そんな中、ふと思い出したようにアッシュが言った。
アッシュ「…それで、結局このモンスターは何だったんスか?」
 その言葉で、ポップン界のメンバーは現状を把握していなかった事を思い出した。
 説明を求める様に、スマデラ界のメンバーに視線が集まる。
 …そして。

ニャミ「何でもいいけど、このオアシスで話をするんだったらこれを先にどうにかしてほしい…」
 ニャミが指差したのは、緑色の体液にまみれた巨大な死骸だった。





ムラサキ「それで、そのクレイジーハンドっていうのが今回の事に関わってるのね?」
フォックス「あぁ、間違いない」

 ユーリに頼んで、物を亜空間に仕舞う魔法でオアシスから少し離れた所にサソリの死骸を運んで捨ててきて貰ってから(生き物は運べないと言っていたが、既に死んでいるので大丈夫だったらしい)、説明を聞くポップン界のメンバー。

ユーリ「そして奴…ビトレイと接点が有る可能性が高い、と」
リンク「あの言動と使っていたモンスターからしてそうだと思います」
マルス「クレイジーハンドなら、元のモンスターから今回みたいなのを生み出すことも可能だろうね」

スマイル「…ねぇ、そのクレイジーハンドってそんなに凄いの?生み出す、って事はあのモンスターを作ったって事でしょ?」

 その言葉に4人は軽く顔を見合わせる。

ロイ「凄いっつーより…ヤバイ、だよな。あいつは。」
フォックス「ああ。無邪気な子供みたいな顔してるが…あいつが本気を出した状態で5分生きていられたら奇跡だろうな。」
スマイル「うっわ…。」
 遠回しだが妙に真実味のある一言にスマイルが嫌そうな声を出す。
 言った相手が冗談を口にしなさそうな相手だったので余計にリアルな一言だった。

アッシュ「クレイジーハンドって一体何者なんスか?」
マルス「…神。」
アッシュ「なっ!?」
 ポツリ、と呟く様に言われたその一言にアッシュが、そして他のポップン界のメンバーがマルスに視線を向ける。

マルス「少なくても、自分達ではそう名乗ってたよ。」
ムラサキ「…自分『達』?」
マルス「そう。僕等が居た世界には2人の神が居るんだ。クレイジーハンドと、そしてマスターハンドっていうんだけど。」
ロイ「俺達は『マスター』『クレイジー』って呼んでるけどな。長いから。」
 笑いながら茶々をロイが入れるが、すぐに真剣な表情になる。

フォックス「俺達もあまり詳しくは知らないんだが…マスターは創造を司る『創造神』、クレイジーは破壊を司る『破壊神』…らしい。」
ユーリ「破壊…神。」
 話を聞いていたユーリが呟く。

 神と破壊…MZDも結構好き勝手やっている(気がする)が、どうもその2つの単語が繋がらない。
 するとその様子に気がついたのかリンクが口を開く。

リンク「普通、神というものは、創造と破壊の両方を司るそうです。世界を構築していく上で、破壊も必要になりますから。」
ユーリ「それは…確かにそうだな。」
リンク「それでも、神が行う事の大半は創造です。だから破壊神、という神は存在しません。」
 「普通なら」と付け加えて軽く息をつく。
 そんなリンクに目を合わせて頷き、今度はロイが話を引き継ぐ。

ロイ「マスターとクレイジーは双子なんだ。だからなのかは分からないけど、その創造と破壊の力が二分されて強化されてるらしい。」
スマイル「だから『創造神』と『破壊神』なんだ。」
フォックス「そうだ。だが…何であいつがここに…しかも1人で?」
ニャミ「え?どういう事?」
 ありえない、という風に考え込んでしまったフォックスにニャミが尋ねる。

 そういえば、戦闘の前にもそのような事を言っていた。
 しかし、フォックスから返ってきた言葉はニャミが期待していた様なものではなかった。

フォックス「なぁ、ニャミ。MZDは…危険だと分かっている様な奴と手を結んだりするか?」
ニャミ「な、何言ってるの!?MZDはそんな事しないよ!確かにふざけてる所はあるけど…そんな相手と手を結んだりしない!」
フォックス「…だろうな。」
 怒った様に言うニャミに頷いてみせる。
 そして視線をマルスに移す。

フォックス「マルス、どう思う。」
マルス「…多分、同じ事思ってるよ。」
 そう言うと、不思議そうな顔をしているメンバーに向き直る。

マルス「僕は直接聞いたわけじゃないけど…えぇと、MD…だっけ?」
ムラサキ「…MZDよ。」

 肝心な所で名前を間違う(マルスはロイに事情を聞いていたので、本当はロイの覚え違いだが)マルスに溜息をつきながらムラサキが訂正を入れた。
 案の定「あれ?」といった顔をしたマルスだったが、すぐに気を取り直して話を続ける。

マルス「そのMZDが僕等の世界の神と何かの企画をしようとして2つの世界を繋いだんだよね?」
アッシュ「そうみたいっスよ。」
マルス「だから僕は…僕等はその神は当然マスターだと思ったんだ。」
 その言葉に全員が心の中で同意する。
 ニャミも言った通り、MZDが『破壊神』と称されているような神と手を結ぶとは思えない。

マルス「でもね、そうなるとクレイジーが1人で居るのはおかしいんだ。マスターは危険な存在であるクレイジーをこっちに連れてきたりはしないはず。もし、連れてきたとしても絶対に側から離さないよ。」
ムラサキ「けれど、1人で居る。」
マルス「そう。じゃあ問題。どうしてマスターはクレイジーの側にいないのか、そしてどうして僕等の前に姿を現してその辺りの説明をしないのか…分かる?」
 そう問いかけられて、その場に沈黙が広がる。
 それを破ったのはユーリだった。

ユーリ「…それが出来ない状況下に置かれているという事か。」
ロイ「だろうな。最悪…あいつを抑えれるのはマスターだけだってのに。」
 軽く頭を押さえてロイがぼやく。

 つまり、理由は分からないがマスターハンドは現在コンタクトが取れない状況にあり、ストッパーの無くなったクレイジーハンドが、こちらも理由は不明だがビトレイと手を組み自分達の妨害をしている可能性が高いという事だ。
 …肝心の、玉を破壊した人物やビトレイの目的は全く分からないが。

ニャミ「何かとんでもない事になってるじゃん!MZDに報告…したいけどそれ受信専用だもんね。」
 ムラサキの方を見ながらニャミが言う。


ムラサキ「えぇ、困った事にね。次に向こうから連絡が来るのを待つしかないわ」
 通信鏡を取り出して一度パカリと開くが、画面は黒いまま何も言わない。
 懐へ仕舞い直して、溜息をついた。

アッシュ「『忙しい』とか言って欠片探しを他人に任せたから、裏で何かやってるんだろうと思えば、別にそうでもない…実際クレイジーハンドの横行も止める気配すら見せてねぇっス。この世界の神は一体どうしてるんスかね?」
ムラサキ・スマイル「・・・・・・」

 ここでムラサキとスマイルが、ちらと視線を上向けて何かを思ったのは、当人しか知らない話。

ユーリ「戦闘に長じた神ではないが、それでもMZDの総合的能力は我々と比べようも無い程、上だ。クレイジーハンドの事も、モンスターを送り込んだ張本人であるビトレイの事も、何かしら感じ取っているはずだが…全く動かないな」
ニャミ「それとはまた違う所で動いてる…とか?」
アッシュ「自分の創った世界なんスから守らないわけが無いでしょうし、その辺の事も多分その内連絡があるんじゃないスか?」
ニャミ「そうだね」

 リンクは、MZDに関してあまり知っている事は多くないが、出会った当初のいい加減なイメージのわりにポップン世界のメンバーには随分信用されている事を何となく感じて、少し認識を改めた。

ロイ「変な男と神がタッグ組んだ状態、か…妙な事になったな」
フォックス「追加でモンスターの仕送りだ。もう何が何やら」

 元の世界に戻る為のちょっとした旅のつもりがモンスターが出、モンスター出現の元凶が出、挙句には破壊神ときた。
 どんどん話が大きくなっている気がする。

スマイル「でもとりあえず僕らの目的は世界を繋ぐ玉の欠片を探す事だし、色んなことに対策は必要になるけど混乱する事は無いよ」
マルス「対策…か。クレイジーへの対策って、立てようが無い気がするけど…」
スマイル「だからこそ混乱しちゃダメなんだ。何の因果か敵対することになった今は、もう現実逃避してる場合じゃないと思うよ」

ユーリ「とはいえ、落ち着いて対策を練ろうが相手は神だ。策といっても逃げる算段程度になるだろう」
リンク「それだけでも出来れば上等です」
 はぁ、と沈痛な溜息をつく一同。

 モンスターだけでも厄介だったというのに、神まで出て来ては気も滅入るというものだ。
 まったく、とんだプチ旅行である。

フォックス「とにかく、クレイジーに直接対決を挑まれたら逃げの一手に回る。それでいいな?」
アッシュ「ガチンコ勝負なんて、それこそ応じた時点でアウトっスからね」
ロイ「じゃ、早速作戦立てっか」

 泉の傍に集まって座っている一同は、そうしてあれやこれやと作戦を練り始めた。
 それを聞きながら、ただ1人ニャミだけが躊躇ったような顔をしていた。

ニャミ(作戦のメインに私の名前が出ないのは…非戦闘員だからしょうがない事だって分かってるけど…)
 作戦の最後に「その場合は自分がニャミを連れて逃げる」と作戦会議中の1人に締め括られるが、ニャミは「分かった」と頷きつつあまり納得していなかった。

 1つの作戦を立て終えて別のパターンの作戦を立てにかかるメンバーと、真剣に聞いているが別の所にも意識を飛ばすニャミ。

ニャミ(私、この旅でこんなにお荷物になるとは思ってなかったよ)
 ここまで戦いの多い旅になる事は想定していなかった。
 否、それ以前に話が大きくなりすぎだ。

 元々一般人と大差ない自分が、こんな大事に関わっても良いのだろうか。
 皆の行動の邪魔になっていないだろうか…。
 困惑のような後悔のようなものが胸の奥に沈んで重い。
 しかしその事を誰かに言うのも、何だか怖い事のように思えた。

ムラサキ「…じゃ、ひとまず今立てられる作戦はこれくらいとして、そろそろ体を休めましょう。同じ所にとどまっているのは危険かもしれないけど、無理をして進んでも体力がもたない分、更に危険よ」
ロイ「砂漠で野垂れ死にはやだもんなぁ…」
アッシュ「そっスね。とりあえず休みましょう」

 そうして作戦会議は打ち切られ、ようやく場の空気が緩んだ。

ユーリ「最初に予定していたように、日暮れまでここで休んで、それから出発。それでいいな?」
 ユーリが確認を取って、一同は頷いた。

 ――その中でニャミだけが、遅れて首を上下に振った。







〜To be continued〜




<幻作の呟き。>

頑張ったわりに戦闘シーンに迫力が無かったとか、そういうツッコミは無しの方向で。(おいおい)
しかし徐々に話の主線が見え始めてます。
…っていうかまだ主線すら見えてない状態でしたか…先は長い…。

オフで交換日記式にノートを回していたのは次回の初めの方までです。
学校を卒業してしまいましたからね。ノート交換が出来なくなりました。
だからといってこの連載は終わりませんよ!
オンライン上での付き合いは続くので、BBS借りて続きを書きますv(因みにそのアドレスはサイトに載せません)
ある程度溜まったらサイトにUPするのでよろしくお願いします。

さーて、表舞台に役者が揃いだした所で、次回からRPGの基本!遺跡探索が始まります。
お楽しみに。

UPした日:2007.3.5



それでは、ここから先はいつもの様にリアルタイムのアトガキを。
ちなみにネタバレになるような部分等は例によって消しておきますゆえ。


<リアルタイムなアトガキ。>

幻:イヤンバカン!オアシスまで来たけどまたビミョーな進み方!な幻Death。
  敵チームはほんの少し出しちまいました。うおあー、どうなるんだろ。
  オアシスに忍び寄る影!欠片探しメンバーの運命やいかに!!マルスがちょっと鋭い感じに仕上がってウフフです。(何)
  さーて次回は戦いか!? 降臨した闇やんと運命の再会!幻作は友情のアッパーを繰り出したっ!!  2006.10.23

闇:再び戦闘シーンな予感なヤミボシです。
  でも上手い具合に自分は戦闘シーン避けました。イェーvv(逝け
  サソリちゃんとの戦いに苦戦確実ですが頑張って下さい! んだば短いケドこの辺でっ!!
  闇星は友情アッパーを受け止めた!(何


幻:ハーイ、結局戦闘シーン丸々引き受けちまった幻作デヴォス。
  んあー、ちょっとあっさり片付きすぎたか…もうちょい誰かがピンチになるとかすりゃよかった。まぁプチボスだからいいけど。
  実はケガする人出そうかと思ったんだけど、現時点じゃ回復できる人がいないしねー。
  毒とか食らわそうとも思った。でも、そのネタはもーちょい後にしたい。(何故)
  いや…砂漠だし休める場所ないからね。
  しっかしこんだけ人数多いと動かすの大変NE!!涙出ちゃう。説明はそっちに託すよ!もー私は力尽きた。
  アッパーに続いてミドルキックを繰り出す!!  2006.11.12


闇:私的にありえない長さ書きました闇星でございます。
  あーもー受験まであと6日なのに何やってんだアタシは(うわぁ)
  まぁ説明シーンだったから長いのは仕方ないよねっ♪ 結構最初の頃から謎だった神様ズについて書けて少し満足。
  そして他であんまメインシーンの無い狐と王子様をなるべく出そうとする自分の魂胆丸見えデス…orz|||
  ミドルキックをサラリとかわした!俺スゲー!(誰