笑顔で見送ろうって思ってたその子が、やっぱ帰らないってなったら…動揺くらいするよね。
これで金輪際さようならだって思ってたのに、これからずっと一緒に居られるなんて差が激しすぎる。
喜んでいいのか悪いのか、現実なのか妄想なのか、怖くなる。
しかもその子のことが好きなんだから気持ちの整理とか中々つくわけないって。
どうしてくれるのさ、この何ともいえない感じ。
まあ本人が納得してる分モヤモヤはしないけどさ。
言わずにそっと捨てる予定だったこの気持ちはどうしたらいいっていうのさ。
「はいはいごめんよちょっとどいてー」
ガーッ
掃除機が僕の足元を通り過ぎる。
今日も今日とては『主夫』の仕事をこなしてる。要するに家事。
ちなみに手伝おうとしたら「スマはたまの休みなんだからゆーっくりするべし!」と断られてしまった。
ので、とりあえずリビングのソファでだらだら中。がここを掃除する時間と被ったのは別に意図してないけど、眺めてられるのはラッキー。
アッシュとユーリはそれぞれソロの仕事で出払ってる。
というわけで今はと二人っきり。
二人っきりって、響きはいいんだけどなあ。
「ー」
「んー?なんか言ったかー?ごめん掃除機で聞こえない」
とか言いながらその手は止めない。
その辺は相変わらず適当。
だから少し大きめの声を出すことにした。
「は僕が今日休みだから休むべきって言ったけどさー」
「うんー」
「『主夫』って休みなくなぁい?たまには隙見て休むことも重要だと思うんだよねー」
「ん?んー……」
そこでようやくこの広いリビングに掃除機をかける作業が終わったのか、電源を切る。
「都合つけて遊びに行ったりもしてるから、それが休みなんじゃないのか?」
「それはそれ、これはこれ。ここ最近がのんびりしてるの見てない気がするよ?」
「どうだろう。そうかもなぁ。だってこの城無駄に広いからやる事ありすぎるんだよ」
「ってことで僕と休憩しなーい?丁度貰い物のクッキーもあることだしさ」
「うーん…。スマと休憩かぁ、すんごく魅力的…いや、うん。でも庭の花に水やり終わったらな。ユーリの花だからしなびたら困るし」
すたすたすた。
言い終わる前にリビングを出てゆく。
振られた。
時々は城の住人を意識してるような発言をする。堂々とじゃなくて、うっかりこぼれた、ってな具合に。
こっちを全く意識していないわけじゃないみたいだ。
でも、個人を特別視しているようには見えない。
例えばさっきのだって、相手が僕だから魅力的だっていうことではないようだ。きっと他のメンバーでも同じことを言う。
そう、二人っきりっていうのは響きのいいことなんだけど、一人の男として…ひいては恋愛対象として見てもらえないから少し切ないというか、意味が無いというか。
は心のどこかで「自分がそんな風に思われることなんか無い」とでも思っていそうだ。
もっと頑張るべきなんだろうか。
「…でもなぁ」
ふー、と長い溜息。
そう簡単にもいかない。
何せそれを自分自身がよしとしないのだ。
ただでさえが長く身を寄せることになった事に実感が伴わないのに、完璧に捨て去ると決め込んでいたこの気持ちをもう一度持ち出すことには抵抗があった。
どうせいつか帰ることには違いないのだし、と、でもでもだって状態。かといって他の誰かに渡したりはしたくないけど。
一度固めた決意はそう簡単にはほどけない。
自分にだって踏ん切りのつかない時くらいある。
誤魔化すのは得意だけど。
そもそも踏ん切りがついたとしたっての気持ちはどうなのだろう。
最近だとリュータと親しいし、同年代でもあるようだが。
年代。それは考えるとどうしようもない。
いやいや、その前に自分がそのように動くことを城主が許さないだろう。
六と何か約束もしていたことだし。
説得くらいで何とかなるだろうか。
……どうだろうか。
悩みは尽きない。
仮に両思いになれたならば、誰の反対も意味は成さないだろうからそれでセーフなのか。
そんな考えに至って、勝手な妄想をする。
(両思いかぁ)
一息に恋人同士になったとして、どんな風になるだろう。
まずあの笑顔を独り占め。
照れたような顔だって見ることができるかもしれない。堂々と抱き締めることだってできる。
色んな面を知って、それで。
ああきっと楽しいんだろうなぁ。
「…やだねぇ、頭の中だけは饒舌でさ」
呟いたのとほぼ同時に、ごろんとソファに寝転ぶ。
やることがないのもそうだけど、主に心を落ち着かせる為に目を閉じた。
…ごろんごろんと寝返りをうちつつ、格闘する。
そうしてどれくらい経っただろうか、この部屋に近付く足音がひとつ。
「水やり終わったー」
だった。
完璧に休憩を断られたわけではなかったらしい。
「ごめんごめん、用意しとけばよかったねぇ」
「あれ、寝てた?ごめん起こしちまったな」
「ううん、やってたことは瞑想に近いから」
「なんじゃそりゃ?てか、用意なら二人ですれば素早く済んでまるっとOKじゃないか?」
「よーし、じゃあやっちゃうかー」
「おうよ!」
二人してキッチンに入って、お湯を沸かしたりクッキーを引っ張り出したり。
コーヒーと紅茶どっちがいい?なんて聞かれてココアと答えたら、ああじゃあ俺もー、などと「名案じゃないか」って顔して言われるもんだから、こっちまで嬉しくなってしまう。
何だか夫婦みたいだなあとか、そんな目で見られてるのには全く気付かない。
僕の頭の中全部見られたら、どういう反応をするのかなぁ。
マグカップとお湯と牛乳と、チョコチップクッキー。
甘い匂いがキッチンに充満する。
「いっそ牛乳をあっためた方が良かったかなぁ」
「半々くらいでチンすればいいんじゃない?ココア溶かさなきゃいけないし」
「そっか」
無意識なのか、が鼻歌を歌いながらココアを用意する。
その間僕はお盆を出してきて、ついでとばかりに先日がゲーセンから持ち帰った駄菓子も用意。
「かんせーい」
「わーぱちぱち」
お盆の上に全てが乗せられたら、二人して拍手した。
休憩セット、完成。
よいせっと持ち上げて、バランスを崩さないようにダイニングへ移動。そこから更にリビングへ入った。
は「ぶつけるなよー、こぼすなよー」とおまじないのように唱えつつそれに続く。
テーブルに無事到着すると、二度目の拍手。アンドハイタッチ。
「じゃあ、いただきまーす!」
「いただきまぁす」
まずは二人ともココアを一口。
甘くて暖かくて、ほっとする。
「やっぱ休憩には甘いものだよなー」
「それは僕も賛成ー」
適当な席について、二人で堪能。
「うーん、労働の後のココアはたまりませんなぁ」
「、それオヤジくさい」
「えー!気のせい気のせい。誰しも少しはあるはずだよ、うむ」
あるとは思うけど発想がそれくさい。
まあ年齢に関しては圧倒的にのが若いけど。
え、僕ってロリコンじゃないよね?
じゃないけど、気のせい。きっと気のせい。
ココアを飲んで、お菓子を食べて、落ち着いた頃に僕は問いかける。
「ってさぁ」
「んー?」
「リュータのこと好きなの?」
「ふぶっ!?」
丁度ココアに口をつけたところだったらしく、盛大に噴いた。
慌ててティッシュを探してきて手渡すと、は光の速さで拭きまくった。
「な、な、なんでそうなる!?」
「いやー、だって年頃の男女が最近よく連絡して会うもんだからさぁ。青春ってやつ?」
「な、無い無い!ぜーーーったいに無い!大体リュータは俺のこと男だと思ってるし!」
「あれ?とっくに明かしてるものだと思ってたんだけど」
「えー…っと、まぁそれには事情がありまして」
もにょもにょ。口ごもる。
なのであえてそれには触れずに話を進めてみた。
「じゃああくまで『男友達』ってことー?」
「そう。マブダチってやつ。ていうか何で急にそんな…」
「えー?女の子ならコイバナってやつは普通なんじゃないの?」
「部分的な女扱いはやめてくれよほんとに…。」
「ヒヒヒ、気をつけるー」
ティッシュを捨てて元の席に着席。
やけ食いなのか、クッキーを一気に3枚頬張ってもっしゃもしゃと音を立ててる。
うん、あれだね。こんなことで確かめちゃうなんて自分の性格の悪さが際立つね。
とりあえずリュータは今のところセーフ、と。でも油断ならない。
「『主夫』の仕事はどう?慣れた?」
「んー。まあ前の手伝いの延長線だからな。やることは多いけど苦じゃないよ。それに、」
「それに?」
「早いとこ本当の『凄腕の家政夫』にならなきゃいかんからな」
「んん?そりゃまた何で」
「いやー、世間に知られてる俺と実際の俺を少しでも近づけなきゃと思って」
「へぇ…。でもたまに休憩くらいはしようよ、無理されると落ち着かないからさ」
「うーん…そっか。そりゃそうだな」
えへへ、と照れ笑いするに、いつものように笑って返す。
無理されたら、個人的に凄く困る。
そんなことをする為にここに住まわせてるわけじゃないし。
「それには一つ思い違いをしてると思うんだけど」
「何が?」
「が心苦しくないように前から手伝いをやってもらってるけど、本当は仲間…というか家族のようなものなんだから、仕事っていっても義務はないんだからね?やってくれると助かるのは確かなんだけどさ」
「あー…えっと、それはありがたいんだけど、やっぱやるからには本気出したいんだ。てゆか、皆が喜んでる顔を見るのが楽しい」
「そっか。なら何も言わないよ」
「あ、うん。気遣ってくれてありがとう」
ヒヒヒ、なんて僕の真似をしてが笑う。
ああもう、そのまま抱き締めてしまいたい。
普段から唐突なハグはしてるけど、今だとさすがに意味合いが違うし誤魔化せる自信もない。自分の気持ち的に。
「はほんとに頑張り屋さんなんだねぇ」
「そうか?それを言ったら休みも休憩も不定期な皆のが頑張り屋だと思うけどな」
「僕らのはある程度趣味だからねー。はまさか『主夫』が趣味ってことはないだろうし」
「さすがにそれは…うーん、でも皆が帰ってきて何の支障もなくくつろげてるのを見るのは好きだし、ある意味趣味の範囲なのかも」
「アッス君の料理的な?」
「そうだなぁ。何ていうか、皆の安心できる場所を用意できるのが嬉しいんだ。帰ってきたーって思えるような、そんな感じの」
「居場所、みたいな?」
「居候の俺が言えたことじゃないのかもしんないけど、そうだな。居場所…うん。居場所を作るのが好き、かな」
趣味・居場所づくり。
そりゃまた不思議なご趣味で。
でもなら出来てしまうような気がする。
だっては僕にだって心地よい居場所をくれた。
ひょっとしなくとも適任なのかもしれない。
「えっと。勘違いだったら恥ずかしいんだけどさ」
「ん?なぁにー」
「スマイルは特にそういうの喜んでくれてる気がして、俺もよく嬉しくなるんだ」
「――…」
あれ。あれれ。
、キミはいつの間に心を読む術を身につけたんだい。
もっとも、他でもないがしてくれることだから更に嬉しいっていうのもあるんだけど。
「あ、やっぱり勘違いかな!あははは――」
「ううん。よく分かったなぁって感心してた」
「え、じゃあ」
「僕も元は放浪癖があるような奴だったのにね。どうやら安心できる場所は必要みたいだよ」
「そっか。…なんか面と向かって言われるとちょっと気恥ずかしいな」
にやついた顔を誤魔化すみたいにマグカップに口をつけるを見ながら、困ったことに僕もつられて右手で口元を覆った。
…この口は、今普段みたいに笑えているだろうか。
ニヤニヤはいつものことだけど、崩れてしまっていないだろうか。
幸せがこぼれてしまっていないだろうか。
そう考えてから、
(…ああ、やっぱりキミを諦めることなんて出来ないや)
心がそっと呟いた。
たまらなくキミが――が欲しくなって、密やかに決意する。
諦めるって決めたその気持ち、やっと今撤回できたよ。
いきなりは無理だけど(障害が多すぎる)、外堀から埋めていこうかなぁ。
上手いこと、こう…気付かない内に。
僕には僕の、やり方があるからね。
「なぁ、スマ」
「んー?」
なんでもないような顔を繕って、視線を上向かせる。僕の得意技。
「アッシュとユーリって今日はいつ頃帰るのか分かるか?」
「そうだねぇ、直接聞いてはいないから予想だけど、深夜過ぎるんじゃないかなー?」
「そっか。じゃあ夜食とか作った方が……」
・・・・・・・。
「や、さすがに俺もサンドイッチくらいは作れるって!」
「何も言ってないってー。大丈夫だから作っちゃいなよ、ヒヒヒヒヒ」
「っちょ!だ、大丈夫だからな!本当にっ」
保証はしないけど。
だっての作り出した悲惨な現場を見ちゃってるからねぇ。
申し訳無さそうな顔のも可愛いけど、これはいつかアッス君に一から教えてもらわなきゃならないかな?
「うう……信じてくれない…」
「ヒッヒヒヒ!功績を上げたら皆見直すと思うよー?」
「そっか。…でも慎重にだな……」
何やらぶつぶつと言い始めたと、観察する僕。
うん、やっぱりは可愛いと思うんだ。料理以外。
ちなみにサンドイッチは卵の茹で時間を失敗して悲惨なことになったとさ。
〜おしまい〜
あとがき→
本編で拾いきれなかった部分を拾う、の巻。
スマ視点の話ってどうしてこう筆が進むんでしょうね。愛ですかね。
というわけでスマの気持ちを整理してみました。タイトル通り多めの独り言のようなお話となっております。
これでフラグまた1本ゲットですね。
本当に本編の外でフラグの乱立する夢主さんです。(誰のせいだ
個人的にココアとクッキーはたった今管理人が欲しいメニューでしたとさ。
2016.5.20