「おっじゃましまーす」
「、お前それ今日二度目」
「ああうん、何となく」
おいリュータ、水を差すでない。
一回目のことは早々に忘れたいんだよ。
だってピンポン押してリュータが出てきたと思ったからテンションMAX状態で『遊びに来たぜ!!お邪魔しまあぁぁす!!』って言ったのに出たのはリュータのオカンだったとかそんな。何の罠だよ。
幸いにも不審者扱いはされなかったものの……というか寧ろ超ウケてたけど。笑いこらえるつもりなかっただろアレ。
というわけでぶっちゃけ今日リュータんちに来てから確かに二度言った。だがしかし、一回目は記憶から消去したいです!
しかもリュータは一部始終見てたとか酷すぎる。
初対面の時然り、恥かいてるとこばっか見られてる気がするよ。
そんな経緯があって俺はTAKE2でもやるかのごとくリュータの部屋の前で二度目を言ったのである。
早々に突っ込まれたけど。
「そういえばここに来るのも二度目だったよな」
「も、っていうな。も、って。…でもあの時は非常時だったからなぁ」
「だよなぁ」
「今日は純粋に遊びに来たんだぞ!くっそ忙しくて捕まらなかったの誰だよ、やーっと会えた」
「あーごめんごめん。でもその様子だと元気そうだな」
「もう平常運転でございますよハイ」
「そりゃよかった。んじゃ、遠慮せず入りな」
リュータがドアを開く。
俺は一瞬だけあの日を思い出した。
城に引き篭ってた俺は、ある時思った。
……ユーリのお許しも出たんだし、そろそろ外出してもよくね?
てことで俺の独断と偏見と気分により、リュータに電話。
けどこれが中々繋がらなかった。そういえばリュータってバイト忙しいんだっけか。
で、ようやく繋がったと思ったらやっぱし忙しくて、会えるのは次の週だとか何とか言われたりして。
約束取り付けられたこと自体嬉しかったから何ともなかったけどな。
その日まで暇だったんで道を思い出しがてら散歩にも出たりした。
…最早リハビリに近かった気がする。花の水やり以外だと外出てなかったし。外出禁止の時はそれすらユーリがやってたし。
そんで、予定通り遊べそうだって連絡があったのが昨日。
ギリギリまで分からなかったらしい。こっちは時間あけようと思えばいつでも融通がきくから全く平気だ。強いて言うなら連絡くるまでそわそわしてたけど。
まぁ遊ぶって言ってもリュータの部屋でだらだらごろごろしようかという算段。引き篭りが人の家で引き篭るだけじゃないかとか的確なツッコミはやめていただきたい。
同年代男子の部屋に堂々と上がるなというツッコミは寧ろ自分でやった。
んで、何やかんやあってリュータの部屋まで案内された。
ドアを開いてくれて、中が見える。
そこそこ片付いてる部屋。
ここからでも見えるベッド。
あの時あれの上で俺は、後ずさって―――
「?」
「―――あ、…何でもない。改めて見ると部屋綺麗なんだな」
「何じっくり見てんだよ。ほら適当に座った座った」
「ほーい」
しまったぼんやりしてた。
最初に来た時も多分部屋の中じっくり見てたはずなんだけどいまいち不明瞭。だから記憶の中の出来事と部屋の風景とを合致させていくと妙に感慨深くて。
あぁ俺あの時ここでリュータに助けてもらったんだなぁと。ふむふむ。
同年代の男子の部屋なんて早々入る機会ないけど、もっとごっちゃりしてると思ってた。あと汗臭いとか。だって男子高生だろ!
と思ってたのに、椅子に制服がぽいぽいっと掛けられてる形跡こそあっても他は片付いてて、置いてあるものも実にシンプルで、物があんまりないような感じ。
うーむ、リュータって几帳面なのかな。いや色々考えても几帳面で気遣い性で貧乏くじ引きそうな感じだけど(最後が余計
制服だけ適当なのが何ともコイツらしいというか。
「…はー」
「だーからあんまキョロキョロすんなって。見て楽しいものなんてないぞ」
「そっかー?部屋は持ち主の心象風景とか聞くけどな」
「じゃあ俺はどんな風なんだ?」
「漫画に出てきそうなくらい超普通」
「……あっそ」
ベッドに座った俺を置いてリュータはUターン。「飲み物でも持ってくる」だって。
部屋を出る直前に、ふと気付いて、ってな感じでなぜか振り返ってこっちを見たけど、意図が分からなかったので何か言われるのを待ってたらそのまま何も言わず視線を戻して出てった。
…ええと。リュータってあんな謎の行動するような奴だっけか。
階段を降りてく足音を聞きながら、懲りずにキョロキョロ。
ほんっとに普通だな。まるっきり一般ぴーぽー。
というか比較対象が元の世界での俺のオタク部屋と、城でのちょっと生活感が出てきた風景と、あとはユーリの本だらけ部屋にスマのオモチャ&弦楽器だらけ部屋に……あ、アッシュの部屋は凄く普通だった。どっちかっていうと主夫の住む部屋らしい小綺麗さだったけどな!!
とにかく多少汚いくらいで慣れてるせいか片付いてるだけでなんか落ち着かない。
何で机の上まで何も置かれてないんだよ。借りてきた猫気分。
あーあーこちら、只今非常に綺麗な部屋でそわそわしております、どーぞ。
なんだと、それでは見つからない程度に部屋の中を物色してへぇリュータこんなの好きなんだとかこんなとこに下着放置してーチラッチラッとかが出来ないではないか!
そうなんですよマジどうしましょうかねー男だと思ってるなら油断して色んなもの放置してると思ったんですがねー。
そうか、非常に任務を遂行しにくい環境にあることは理解した。―――だがしかし少尉よ、そこで諦めて何とする!!
俺はリュータの足音がまだ戻ってこないのを確認しつつ、そぉっとベッドの下に降りてしゃがみこんだ。
そうともここはリュータの部屋なのだ。諦めるな、宝が眠っているやもしれん!お前がやらずに誰がやる!探せこの世のすべてをそこに置いてきた!!
サー・イエッサー!!
心の中の指揮官に敬礼して、俺は新たなる決意をした!放置されてる物がなければ探せばいいじゃない!!
というわけでこの際エ■本でもないか探してみることにした。
引き出しとか開けるのは流石にいかんし、手始めにベッド下から。
いいじゃない、健全な男子高生なら多少けしからん本があったって い い じ ゃ な い ☆
さーてベッド下からはいけーん!!!
どきどきどきどきどき……
「何してんだ…」
「ふごぉぉっ!!?」
いいいいつからそこに居たリュータよ!!
口から心臓コンニチハするかと思ったじゃないか!!
「えーっと、これはそのー」
「言っとくけどベッドの下とか何もないからな」
「なぜバレた!!」
「なぜもなにもその体勢で他に何があるんだっつの。ほらオレンジジュース」
「あぅ…ありがと……。ていうか足音しなかったんだけどいつからゴキ○リに転職を?」
「誰がゴキ○リだ。零れないようにそーっと登ってたんだよ」
「あー、そー。…あれ、もしかして部屋出る時振り返ったのって俺が物色するの何となく分かってたから?」
「…いや、違うけどさ」
え、何ですかその微妙な雰囲気は。急に真顔に戻るなよ怖いじゃないか。
でもそれ以上言わずにリュータがおぼんに残ったグラスを引っ掴んでぐいーっとジュースを飲むから俺もそれに倣ってさっき受け取ったのをごくごく。
キンキンに冷えてて凄く美味しい。
「っかー!生き返るー」
「オヤジかお前は」
「へへへ」
まぁ心の中身はオヤジ級に下品ですぜうへへへ。…女子高生なんですけどね。
あ、でもこっちの世界で学校に通ってないから女子高生ですらないのか。なんか複雑!!
「それにしてもお前、ベッド下なんてどうして探ろうとしてたんだよ。何となく分かるけど」
「う……!ま、まぁ予想通りだろうけどセクシーなお姉さんが写った本がどっかに転がってるんじゃないかななんて」
「やっぱりかよ。つーかお前そういうの興味あるのか?」
「ふぉ!?えーと…うーん?」
オブラートに包まれてるけどこれはR-18な本のことですよね。
まじまじと『興味あるのか』なんて聞かれましても。(女子だと分かってたら聞かないよねうん)
寧ろリュータが興味もってるものに興味があるわけですが。
「んー…あるかないかって言われたら無くもないんだけど…」
「そうなのか?いや、だってって……心は女なんだとばかり」
「!!?」
待て、やんわりした表現を選んでくれてる辺り気遣いを感じるけど要するに女体に興味のないアッチ方面の男だと思ってたということですか。女装趣味がある(ということになってる)もんな!!
ならば寧ろお前はこの状況に身の危険感じないんだろうかと小一時間問い詰めたい気もするがそれ以前に い ろ い ろ ひ ど い 。
「おいこらリュータ、今度こそ言うけど――」
「ああ悪い、突っ込んで聞く話じゃなかったな。お前がどうであれ俺の友達ってことには違いない」
「…あの、」
「体が男ならまあ普通だよな。変な話してごめん!」
「……ぅえっと…」
…もういっか……(白目
どうせ「実は女なんです」って言っても「そうだな、心はしっかり女なんだな」って返されそうだし。…って前も同じこと考えたよな。
この方向に話が流れる度に深みに嵌っていってる気がするが気のせいだと思いたい。
「で、今日何する?」
「んー。実は特になんもないんだけどなー」
ベッドにもっかい腰掛けながらうーんと唸る。
リュータも机におぼんとコースター置いてから隣に座った。
「俺折角リュータと友達なのに家に行ったのがあれだけとか切ないなと思ってさ。どうせなら100%遊びだけで来たいと思って来てみた」
「あー、そっか。でも別に負い目に感じることはないからな?頼るならいつでも頼れよ」
「ありがとう。さすがにあれほどのはもう無いと思いたいけど」
「ははっ、言えてる」
「あとは、やっと城の外に出られる状況になってきたから何となく来てみようかと思って」
「……なるほどなぁ」
リュータも騒ぎについては知ってるらしく、それ以上話を引き出そうとしない。
最低でもテレビにまで取り上げられてたわけで、それなりに知名度の高い噂だったみたいだしな。
きっと苦労も透けて見えたんだろう。追及してこないのは素直に嬉しい。
「まぁ、今日は何もない代わりにのーんびり話でもできたら嬉しい」
「そうだな、そういう日があってもいっか」
カラン。グラスに入ってる氷が溶けて音を立てる。
全部飲み干して机の上にあるコースターへ置きに行った。
リュータも若干氷で薄まったジュースを飲みきったみたいだからついでに受け取って置く。
持ってきてもらったのにとっとと飲んじゃったなぁ。
「おかわりいるか?」
「や、しばらくいいや」
「いらないって言わない辺りがお前だよな」
「だって俺とリュータの仲だろー?」
「まぁな」
おおっふ、調子に乗って言ってみただけなのに即答されてキュン死しそうです。
鼻血だけは我慢せねば……。
内心瀕死になりながらリュータの隣へ戻る。
この距離っていうだけでも素晴らしいというのに!
今日はいい日だなぁ。
「それにしてもリュータって本当に忙しいんだな。前までバーベキューとか普通に呼んでたのに」
「お前と会う時はわりと偶然が重なってたしな。実はこれが普通だったりする」
「そっか。そういえば最初に会った時ってバイト中だったか」
海の家で焼き鳥買ったのが最初。………あ、台詞噛んだの思い出した。くっそうやっぱ恥ずかしいとこばっか見られてる。
「少なくとも俺に助けを求めてきた時に用事がなくてよかったよ。バイト先の先輩にシフト代わってくれって言われてなかったら危なかった」
「え、わりと奇跡だったんだな。凄くありがたい」
「そうかー?俺ができたことなんてほとんど無かったけどな」
「いやいや。頼れる友達がいて俺は幸せだよ」
結構真剣に言ったのに、当のリュータはちょっと笑っただけだった。
いつか恩返ししてやる。
「…あれから少ーし経ったわけだけど。俺って多少は変われたかなぁ。あの時はほんと、現実逃避しまくる駄目人間だったもんなー。ほら丁度このベッドの上で俺、リュータから後退りしてたんだよな。覚えてるか?」
「忘れられるかよ。電話してたのが分かって、お前すんごい青ざめてた。そんで荷物掻っ攫って、」
リュータの指が床を指さして、部屋の出入口までをなぞる。
「全速力で出てったんだ。一瞬何が起きたのか分かんなくて、追っかけるのが少しだけ遅れた。あの時は焦った焦った」
「……そうか」
追いつかれそうなくらい近くに迫ってるのは分かってた。
それでも死に物狂いで逃げて外へ出た。
捕まることに恐怖しかなかったもんな、あの時は。我ながら馬鹿だ。
「でもな、怖いものも逃げたいこともあって当然なんじゃないのか?人間なんだから。お前本当に頼るの下手だよな」
「いや…それにしたってあれは迷惑以外の何物でもないと思うんだけど。引っ掻き回して挙句逃走するとか」
「たまには巻き込めよ、そんだけ大変だったんだろ?」
「……うん」
頷きながらも実際は手放しで寄っかかれる所なんて長いことなかったからよく分からない。
両親はアレだし元親友はソレだしこっちの世界では居候だし。
…こうやって少しずつ、皆と話をしながらどこまで踏み入っていいのか探ってる自分が居る。
多分探ることが出来るようになっただけマシなんだろうな。
「リュータも六も城の皆も、みーんな世話焼きなんだなぁ」
「俺は自覚症状アリだな。あとは……この流れだから言うけど、今回は飲み物持ってくる余裕があると思ったら、ひとまず安心した。間違いなくお前は前進してる」
…あ。
何となく分かった。
さっき部屋を出る時振り向いたのって、もしかしたらそれなのか。
そっか。
前の時はその瞬間に裾を引いて引き止めた。
「……この世界、少しずつ順応してるよ。なんもかんも違うわけじゃないし、楽しいことも嬉しい事も沢山ある」
「そいつはよかった。今度暇な時にでもゲーセン行こうぜ!この世界の住人は皆ポップンってゲームが好きなんだ。楽しいぞ」
「! お、おぅふ、ええっと」
リュータの口から『ポップン』て単語が出てきたことに思わずキョドったんだぜ。
何せゲームの知識で皆のこと知ってるってのはずっと封印してきたからな。
んでもそういえばポップン世界では皆ポップン上手いんだっけ。ポップンバトルをやるとか何とか。
「何だ?ゲームに馴染みがないとかか?」
「いや、それはない!ゲーム大好きだぞ、俺こう見えても部屋の景観悪くするくらい集めまくってたんだからな。ただその……アーケードは不慣れだなーと」
「アーケード自体はお前の世界にもあったんだな。ゲームが好きなら何とかなるって、簡単なモードもあるから一緒にやろうぜ」
それって3ボタンバトルをやるってことでしょうか、それとも5ボタンにして傍でそっと見守っててくれるんでしょうか。
9ボタンで分担して協力プしてくれるっていうなら公式で『赤ボタンは2人の手が重なり合うラブラブボタン』なんて言われるくらいだから大接近(物理)且つときめきチャンス有りってことで よ ろ し い か 。
とりあえず期待に満ち満ちた顔でぶんぶんと顔を縦に振ったら「じゃあ今度誘うからな!」って次会う約束までできました。
幸せだ。ガチで幸せだ。
「どんな曲がいいかなー…最初ならあれかなー…今からすっげぇ楽しみだ」
「俺も楽しみ。つーか暇な時って俺基準じゃなくてリュータ次第だよなー」
「そこなんだよなぁー!とりあえず連絡はするけどって固定電話で受けるだろ、外出できるようになったなら取れない可能性あるよな」
「あ、そこは抜かりない!」
今の言葉で思い出して、俺はカーゴパンツのサイドについてるでっかいポケットを漁った。
で、取り出した物を印籠のごとく掲げる!
「じゃじゃじゃーんっ!!!この度GETしちゃいました、スマホってやつでーっす!!」
「おおおお!!?それって最新のやつじゃねーか!俺も今度ソレにしようと思ってんだ」
いいなー羨ましいとか言われつつ俺もしげしげと眺める。
不便だからそろそろ携帯買っちまえー、と思ってショップに行ったらこんな形の携帯が流行ってるってんでそっちにした。どうやらそれはスマホっていうらしい。
「これなら電話できるしメールもできる!いつでも連絡出来るんだぜ!!」
「ついにも固定電話卒業か。っつかそれちょっと見せてくんね?」
「まだなーんも入ってないから遠慮なくどうぞどうぞ。ついでにリュータの連絡先入れといてくれると助かる」
「オッケー任せとけ」
スマホを受け取ったリュータがベッドにダイブ。
腹ばいになったリュータの隣に俺も続けてダイブ。
ベッドの上に見やすく置いたスマホを二人して覗きこんで、あれやこれやといじくり倒す。
「よっしゃこれで連絡取れるぞ。俺の方にもの連絡先入れたから完璧だな」
「おう、ありが……」
お礼を言いながら顔を上げる。
そしたら思ったより顔が近くて、ついでに体も近くて、思わず動作停止。
肩が触れそうな距離。うっかりすると体温まで分かりそう。
なんも考えずに一緒になってダイブしてたけどこれってかなりの大接近!?
あわわわわ、急に意識して多分俺変な顔してる。耳が熱い!
「? どうした、なんか変なとこ弄ったか?」
「ななななんでもない!!とりあえず俺とはいつでも連絡可能ってことだし、じゃんじゃんかけてくれていいからな!」
「あ、ああ…分かった。メール好きだしバシバシ送るけどいいか?」
「おうよいつでもカモン」
「分かった。覚悟しとけよ?」
素敵な覚悟ですね!
でもこの距離はちょっと落ち着かないからさりげにじりじりと動いてみる。パーソナルスペース大事。
それにしても至近距離で見てみると同年代だけに体格差が分かるなぁ。
男子ってこんなに肩幅広くて骨ばってんだな。それに比べて俺は……、
自分の背中(とその更に向こうに見える尻)をチラリ。…うーん、無駄にぷにぷにしてる。肉的な意味で。
服装で誤魔化してるけどじっくり見たら分かりそうだ。
って、体型さえ分かってもらえたら俺が女だって理解してくれるんじゃ―――
「そういえばお前、包帯は?」
「ふぎゃぁ!!?」
なまじ服の中身のことを考えてただけに驚いた。
ななななんだねチミィ!!今どこを見せれば女だって証明できるか考えてたんだぜ!!
「どうしたんだよ、さっきから様子がおかしいぞ」
「いや…ほんとに何でもないんだ……。てか包帯って何だ」
「ん?あれだよ、バーベキューの時見たやつ。胸に包帯ぐるぐる巻いてただろ?大したことないって言ってたけどあれからどうなったんだろうなと思って」
「あ……ああー」
サラシか。そうだったリュータは包帯だと思ってたんだったな。
ここに来る道中のことを考えて今も巻いてるには巻いてる。
…もしかして、これがサラシで本当は怪我なんかじゃなかったんだぜーなんてことになれば証明できる…?
いやいや待て待て落ち着け、これで証明するってことはすなわちサラシを解いて中身を見せるってことになるじゃないか。
うわ何それ恥ずかしい、下着すら無しの柔肌ご開帳ってことですか、やだやだ無理無理俺そこまでオープンじゃない。
どこを見せればとか考えてたけどさすがにそれは無い!!
単純にサラシだけ抜き取って服越しにふっくらしたものを見せるって手もあるんだろうけど仮にも男子の前でノーブラになるってことですか何それヤバい。アニメとか漫画だと更に感触で確かめさせるとか王道ですけど実際には無理っ!!
何かもう色々無理ーー!!
というわけで誤魔化すしかない!
「あーっと…あれは、うん、なんかハードボイルドっぽくて気に入ったからあのまま巻き続けてる!ってことで今も巻いてるけど気にすんな!怪我は治ったけどな!」
「気に入った…って、変わった趣味してるな。見た目的にはハードボイルドっつーより番長じゃないのか?」
「まぁそれはそれ。趣味なんだから突っ込まないでくれ」
「あーはいはい、分かった分かった」
超適当だなオイ。
気になって突っ込まれるよりマシだけど。
とか思ってたら。
「ったくお前男らしいのが好きなのか女らしいのが好きなのかよく分からないよなー。若干息がしづらそうだと思ってたけどコレのせいだったのか」
なんて言いつついきなりぐいっと襟元引っ張って広げつつ中を覗きこんできた。
ぎゃああああああ!!?
サラシ巻いてるとはいえ服の中身いきなり覗き見ですかこの変態!!
いやリュータとしては同性の友達だしちょっと服引っ張って包帯(サラシ)見てるだけなんだろうけど!!けど!!
これは振りほどくべき!?いやちょっと待て!
男ってことになってるから駄目なのか?いや女だって言いたいからいいのか?
あわよくばリュータが今見てるものでこのまま女だって分かってくれたらとか一瞬思ったけどやっぱ無理だ下着もどき一枚身につけたとこなんて見せるに耐えられるわけないだろアホオオオオ!!
きゃーのびたさんのえっちーみたいな勢いで迎撃体制に入ろうとした……ら、思考の間に終わったみたいでリュータの手と顔が離れて一言。
「番長とは言ったけどこれマジでサラシじゃんか。お前ってわりと凝り性?」
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
これは状況が変わらなかった事にほっとしたらいいの?
それともサラシ巻いてるとはいえこんだけガッツリ見られてバレなかったのを悔しがればいいの?
どっちかっていうと敗北感満載なんですがどうしたらいいんですかアンサープリーズ。
え、ほんのり潰しきれてない胸とか女子らしい柔らかいラインとか色々…色々……………
どうせ女らしさの欠片もないですよーだ!!うわああああん!!!
「まぁ………死活問題ですんで」
「は?趣味が死活問題ってどういう…」
「…うん、とりあえずリュータのばーか」
「何だよいきなり!?」
「ばーかばーかあーほ。罰としてジュースのおかわり持って来なさい」
「お、おいわけがわかんねーよ…持ってくるけどさ」
「コーラな」
「今家にないって」
「じゃあオレンジでいい。氷少なめで」
「?? …はいはい、じゃあ持ってきますよー」
目一杯むくれつつ威嚇してみたら素直におぼん持ってジュースつぎに行ってくれた。
すんごい不思議そうだったけどこのくらい許せ。
ミクロ単位で微かに残ってたプライドがサヨナラバイバイ元気でいてね状態になったんだ。
何だ、女らしい柔らかさなど微塵もなかったというのか。くっそう。(八つ当たり
一人取り残された部屋のベッドの上でごろごろ転がりながらスマホを枕の方へぽいっと放った。
「あーあ……何で話すたびに泥沼化していくんだよう……」
もう諦めたほうがいいのかなぁ。
いやまだ諦めたくないなぁ。リュータには話そうってチラッとでも思ったんだし。
でもこれ、簡単じゃないぞ…。
ひっそりついた溜息はベッドの掛け布団に吸い込まれた。
「あらリュータ、そんなに入れたらジュースこぼれるわよー」
「え、――うわっ、やっべ!!」
時既に遅し、コップからはオレンジジュースが溢れてテーブルに少しだけ水たまりを作っていた。
しょうがないわね、と母親が適当に布巾を出してくれたのでそれで拭く。
拭きながらもぼんやりする。
(同性に『柔らかそうな体だな』なんて感想普通持たないし言えないよなー…)
しかもなぜかそれがセクハラになるような気がして軽く首を振る。
おかしい。思考回路がおかしい。
夏の暑さにやられたのだろうか。
いくら城で女物の服を抱えてたとはいえ。
…でも、案外似合うのかもしれない。
「…って、だから俺何考えてんだ!!」
「こらリュータ!テレビ聞こえないでしょ!!」
ひそかに混乱を呼んでいたり、そうじゃなかったり。
〜 おしまい 〜
あとがき→
その後の彼らです。ガッツリ友達でありながら水面下で色々ゆらいでたり。
ドラマとかアニメとかのエンディング後にちょっぴり続くお話をイメージすると、本編で出てきた人達それぞれのちょっとしたワンシーンが思いつくので、そんな感じで書いてみました。
…のはずが、フラグゲット……?
ほんとに『その後』の方が夢要素多いの何でですかね!?
本編では書いてる時期的に『携帯』でしたが、この際時代に追い付かせるかー、と思って何となくスマホ移行期にしてみました。
ポップン世界でもスマホ流行。でもLI○Eはどうなんだろう。
これ書いてて思ったんですが、IF設定で各キャラのルートの入った後の話とか書いてもいいですね☆(ヲイコラ
なぜかユーリさんとの個別ルートを書きたくて仕方ないです。ネタは他のキャラのが湧いてるのに。
でも次に書く話は決めてるのでした。あ、まだIF設定の話じゃないです。
てことでまた次で!
2015.6.20