今後の方針が決まった所で、とりあえず片付けをすることになった。
花瓶割れてるし椅子もテーブルもずれてるし。
さほど大変じゃないとは思うんだけど。
ちなみにMZDは声かけても音立ててもぐっすり寝てたんで、そのまま放置。
と、片付けしててふと気づく。
……あれ、凄く自然な動きしかしてなかったから考えが回らなかったけど、に色々されてたユーリは平気なんだろうか。あいつ思いっきり手も足も出てたし。
ってわけで今更ながらユーリに確認してみたら、「もう治った」だそうで。………え。
カッターシャツの袖を無理矢理めくって腕を凝視してみたけど、痣はできてない。
まださほど時間が経ってないせいだろうかとも思ったけど、違うんだそうな。どうやら嘘は言ってない様子だったから混乱しながらも納得した。
俺が思ってるより妖怪って凄い。
でも『治った』ってことは少なくとも傷がついてたんだろうからほぼ土下座する勢いで謝った。ほんと迷惑かけてすみません。あとファンに殺される。
ちなみにテーブルの上に畳まれてた俺の服については触られるとヤバそうなので(今は見えないけど多分中に包まれてる一点が爆弾すぎる)、片付けが終わりに差し掛かったところでごっそり抱えて「ちょっと部屋に置いてくる!」と持ち出したのである。
それで今、廊下を歩いてる。
服抱えながら。
爆弾処理みたいな勢いで出てきたけど、そういえば俺の部屋って久しぶりに向かうなぁ。
こんな一般人が使わせてもらうには勿体無いくらいの広い部屋。
今もそのままなのかな。…案外アッシュが掃除してたりして。何か変なもの置いてたっけ?
とか思いつつ廊下を突き進む。
そしたら。
『ゴンゴンゴン、ガチャッ……バァン!!!』
「おじゃましますっ!!!」
え。
何今の音。ついでに声。距離としてはちょっと遠い。
発声練習かと思うくらい張り上げてるけどその声、なんか聞き覚えがある。
そしてその方向は…玄関か。ならば客?
現状把握に手間取ってたら石造りの廊下をスリッパでぺたしぺたしと早足で歩く音が近づいてくる。
おおう、これはユーリのおふれ『土足厳禁』を知ってる人とみた。ていうかここに入ってこれてる時点で誰かの知り合いか。
で、何となく立ち止まってその足音の主を待ってみた。
すると長い廊下の柱の陰から出てきたのは………
「……」
「……」
目が合って沈黙。
別に困る相手じゃなかったけど向こうがなんかこっち見て固まってるからつられて。
っていうか制服姿初めてなんじゃないかな、
「リュータ?」
「…!」
呼ばれて我に返ったらしいリュータが、制服にスリッパという出で立ちで駆けてくる。
そう、全力で。…全力で!?
徐々に速くなってるけどちょっと待ったそれスリッパ履きながら出る速度じゃないよ!!何でそんな持てる力全て出し尽くす勢いで走ってんの!?
ライオンに捕食対象としてロックオンされた小動物の如く縮み上がる俺!運命やいかに!!?
「!!!」
「ぴぃっ!!!?」
走ってきた勢いそのままに、肩をがしぃぃっ!!と掴まれました。
お陰で反動によろめいた上なさけない声が出た。
ひ、轢き殺されるかと思ったぁぁ!!
「あ、わりぃ、お前がここに居ると思ったらつい」
「びびびっくりした、正面衝突ひき逃げで人生サヨナラホームランかと思ったじゃないかもう」
「何だそれ」
自分でもわけわかめだよどうしてくれるんだ。
そしてよろめいたついでに腕の中の物がぶわさぁっと落ちる。
「おっと、ごめんごめん」
言いながらリュータがそれを拾おうとかがむ。
「!! ちょ、ちょっと待っ、」
それ触っちゃ、
「………」
リュータが不思議そうに摘み上げたのは、女物の服。
俺が持ってるには謎すぎるとはいえ、懸念してた部分じゃなくて若干ホッとした……のも束の間。
「…お前これ、何でこんな…」
言いながら引っ張りあげたその拍子に、今度こそ隙間からぽろんと落ちる繊細な造りの何か。
そう、レースの。真ん中にちっちゃなリボンがあしらわれてるやつ。どうせなら歳相応のをと思ってそこそこ可愛らしく、且つ女性らしさをなるべく主張できるように寄せて上げるタイプの。
・・・・・・・・・。
「お、おまっ、えええええぇ!!!?」
「うわあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
あまりの恥ずかしさにリュータが持ってるのと床に落ちてるのを半ば強奪するみたいにかき集めて脱兎のごとく逃げ出す!!
ばかばかばかアホアホやっぱり入ってた上にこんなん見られるなんて信じらんない顔から火炎放射あああああああ!!!!
脳内でリュータを謂れのない罵倒に晒しながら俺は自室へ逃げていったのだった。
自鳴琴・36 -終-
自鳴琴(オルゴール)
〜一周回って再スタート〜
「あー……気が重い……」
廊下を歩きながらぼやく。
だってさっきのあれ、どう考えてもばっちり見ちゃってるだろ。
俺が出てった時と何も変わってなかった自室の、クローゼットの中に適当に服を放り込んで、俺はすぐにUターンした。
本当はちょっとだけ引きこもって頭ん中整理してから出ようかとも思ったけど、六の家での俺の引き篭もりっぷりを見てる人物が勢揃いしてるんだ。それはいかん。
でもどうすりゃええっちゅーねん。どんな顔せぇと。
よくよく考えればあの状況って、俺にしてみればただ恥ずかしいだけだったけど、リュータからしたら同年代の男子が何故かワンピースなんぞ抱えてて、しかもその中からぶらぢゃあが出てくるという勇者極まりない光景が広がってたわけでして。
・・・・・・・・。
変 態 決 定
いやだあああああぁ!!女物の服とブラをセットで持っていそいそと自室に向かってた変態なんてあんまりだよ!!酷すぎるよ!!
どうやって弁解すればいいというんだマイガッ!!
…あ。
そうだ、そういう時こそ俺が女だったって知らせれば……(用途が間違ってる気がするけど)
元々リュータには伝えるつもりだったし、これでいこう。
ちょっと元気でた。
でも早速1名ばらさざるをえない状況とかダメダメだよなぁ。まぁ相手がリュータだったから良かったけど。
さて。リュータは玄関入って迷いなくあそこを通ってたとすると、多分みんなが居るリビングに来てるかな。
すっかり慣れた道順を辿ってリビングの前に到着。
…だ、大丈夫。うん。
「ただいまー」
ガチャリ。
リビングのドアを開けて入る。
そこにはやっぱり皆と一緒にリュータが居て、…あれ、すんごい平然としてる。
さっきあったことが嘘みたいに何てことなく「よっ」なんて挨拶されて、寧ろこっちの方がキョドる。
あれ…?てっきり動揺するとか目を合わせてくれないとか想像したんだけど。
でもそうされたいわけじゃないしこれはラッキーと言うべき…?
と思ってたら。
そこそこ入り口に近かったリュータがこっちに近づいてひそひそと耳打ちをしてくる。
「まぁ…さっきのは見なかったことにするよ。誰しも隠してる趣味の一つや二つあるもんな」
ぽん、と肩に手を置かれて悟りきった顔をされました。
爽やかすぎる笑顔のせいで手遅れ感満載です。
「え、いや、」
「みなまで言うな、分かってる。俺の知り合いにハニーさんって居るけど、その人で慣れてるから」
「!!? ま…待ってくれリュータ」
「…あ、一応聞くけど、どっかの家からとってきたわけじゃ…ないよな?」
「ない。それはない。断じて違う。けど!」
「そっか。ならいいんじゃないのか?俺も気にしないし。な?」
な?じゃない!!!
そのウィンナーコーヒーにウィンナー入ってると信じてるくらいのアルティメット勘違いを訂正させてもくれぬのか!!
でもこれまさか、「実は俺女なんだ!!」とか今弁明しても「…うん」って痛い子見る目で見られるだけ!!?
T H E ☆ ド ツ ボ 。
「、何話してたのー?内緒話?」
「…あ、いや、ナンデモナイデス」
最早砂になりかけた俺をスマイルが現実に引っ張り戻す。
うう。女装癖があると思われたなんてどうして伝えられようか。女なのに。女なのに!!
どうしてこうなった。
でも(多分気を遣ってくれてのことなんだろうけど)リュータは極普通の雰囲気に戻ってていかにも「何もなかったですよ」みたいな感じを演出してくれてるせいで最早女装だの誤解だのあまつさえ下着がどうのなんて切り出せない。うううううう。
「……そういえば何でリュータがここに?」
無理にでも気分を変えようと(半ばやけっぱちになりながら)話題を振ったら、リュータはもうさっきまでの事が無かったみたいに受け答えしてくれた。
「いや来るだろ、昨日時間聞いたんだから。見送り…になるかは知らないけどな」
あぁ、そういえばあの時は色々安定してなくて頭が回ってなかった部分も多いや。
よく考えたらリュータもあの場で聞いてたんだからそう不自然なことでもない。
寧ろわざわざ来てくれるなんてありがたい……はずなのにさっきのことでどうしてもそう思いきれない。リュータのせいじゃないけど。
「あれ、でも学校は?今日確か…月曜日だろ?」
「MZDが俺の影武者作ってくれたから途中で放り出してきた」
「は?影武者……って?」
「読んで字のごとく。どういう、っていうとMZDのやることだから上手く説明は出来ないけど、平たく言えば今日限りの俺の分身とかコピー的なやつ。来たいなら使えってさ。…まぁ俺はそれが無くってもこっそり見届けに来るつもりだったけどな。ちなみにMZDは俺以外にも、お前の知り合いには今日のことを伝えるついでにもれなく影武者を作っていってたんだと」
「え?」
思わずMZDの方を見る。
でもぐぅぐぅ寝てるだけ。
…ってことはなにか、今日のことで皆がここに集合できるようにMZDが神パワー使ってコピー人間作って回ってたってことか。
それはまたVIP待遇というか何というか。
じゃあ予定の時間近辺になったら何人か来るかもしれないんだな。
あれ?でも『見送り(仮)』っていってももう何もかも終わった後なんですが。
俺帰らないし今まで通りここに居まっす!てだけの状況だし、そう宣言したら終わりじゃまいか。
そこに涙のお別れやら何やらは発生しない。
いいんだろうかそれ、時間と労力を割いてもらっただけ迷惑だったんじゃないか、なんてじわじわ焦り始めてると。
「それで。例の『アイツ』は、今どこに居るんだ?この城の中なんだろ?」
「……あ」
早速言っちゃいますか。言っちゃいますかソレ。
「えっと。・・・・・・ごめん、それもう全部終わった」
「・・・え?」
間。
「……終わったって、…何が?」
「うん、・・・どっちが帰ってどっちが残るとか、との因縁とか諸々全部。簡単に説明するならが帰って俺が残って、話し合いも皆のお陰で沢山できて、ついでにこの城にまた住み直すってことで完結した」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
更に、間。
「えええええええええええええ!!!」
その叫びの響くこと響くこと。
***
「はぁ…俺が早く来た意味って……。いや、決着が付いてよかったよ。…ん?良かったのか?帰れなかったわけだよな」
「あーうん、でも自分で選んだんだし、俺としては楽しい期間が伸びたみたいで嬉しい」
「そっか。じゃあよかったな」
「ん。ありがとう」
落ち着かせるためにソファに座ってもらってじっくり説明したら、何とか状況を飲み込んでくれた。
まあそりゃそうか。昼までもう少しあるし、リュータとしては今日起こるであろう出来事の最初から最後まで付き合うつもりで来たのに既に終わってたっていうんだから。
ぽかーんって擬音がつきそうだったのも仕方ない。
「にしても、昨日あの様子だったから今日ここに自力で来るかすら危ういと思ってたんだけどな」
「俺とユーリはその時会う機会がなかったんスけど、そんなに酷かったんスか?」
「そりゃもう…この世の終わりかってくらいに」
「も、もう言わないでくれ恥ずかしい」
自分ですらあんまり覚えてないくらいぶっ壊れてた時の報告なんてされとうない。
黒歴史公開みたいで焦る。あの時は真剣だったんです、ってな具合。ふおお。
「恥ずかしがらなくてもいいじゃんか、今は元気みたいだし。まさかこんなに早く、しかも自力で来て全部終わらせるほどだとは思ってなかったけどな」
「あー、…まぁ、ごめんな」
「いやいや、責めてるんじゃなくて。寧ろ復活してくれて嬉しいっつーか。敢えて言うなら、よく頑張ったな、ってことだな!」
はじけるような笑顔につられて俺も笑う。
褒められたみたいな感じでなんか嬉しい。よくできました!のスタンプが心の中で一つぺたり。
「うん。…ありがとう!」
色々あったけどとりあえず和やかな空気が戻ってきてくれました。
今更だけどリュータってお兄ちゃんポジだよなぁ。
「ところでこれからどうする?多分何人も見送りに来ると思うけど」
「う…、うーん。そこなんだよなぁ」
こんなことならを送り返すのもう少し遅らせれば……いやいや、それは流石に嘘。
しかもあれ以上は無理だった。俺と皆のHPやらSAN値やらがゴリゴリとだな。
じゃなくて。
無駄足になるのは分かってるから今から連絡でも入れて……、
「だーいじょーぶ、そっから先は俺様に任せときな」
不意に気だるげな声が聞こえて振り向くと、今まで寝てたMZDがぐいーっと伸びをしてる最中だった。
からかい混じりにスマイルが「おはよー」って挨拶してMZDもそれに「っはよ」と適当に返す。
「まぁ、とはいえ俺様が手を下すまでもなく皆喜んで路線変更すると思うけどな」
「?」
それって、どういう。
ユーリとアッシュだけはどうやらピンとくるものがあったみたいでちらっと視線を合わせてたけど、教えてくれることはなかった。
とりあえずMZDからは「このまま皆ここに集合で大丈夫だ」って言われたから集まるに任せることにした。
***
それからというもの、昼が近付くにつれて続々と集まる見送り班。
まずはニャミ。
俺の姿を発見して突撃してきた。
どんな予備知識が与えられてたのかは知らないけど、なぜかここに居ない誰かさんに超警戒してたから事の次第を教えたら別の意味で驚愕。
いろんな事に立ち会えなかったってしょぼくれて、俺がなぐさめて、そんで切り替えも早かった。
立ち直ったと思ったら、何やら「よしっ、決めた!やるぞ!!」なんて意気込んでた。
次に来たのがミミ。
ニャミと同じようにエンダアアアアアァァとばかりに飛び込んできた。
けどそんなミミにニャミが手招きして(招き猫、とひっそり思わないでもない)、二人して何か打ち合わせするみたいにひそひそして、しばらくしてミミが飛び上がって驚愕。
多分説明代わってくれた…のか?
そっからもしばらくキャッキャウフフしてたのが気になるけど。なんか楽しそうだったから邪魔しない。
この二人元々いつでもはしゃいでるしな。
俺からの説明は全員が集まってからもう一回するつもりだし。
その次がポエット。
リビングにそっと入ったと思ったら目に涙たっぷりためて俺の周りをくるくるした後そっと袖を引っ張ってきた。
そんなまさに天使すぎる天使に慰めがてら説明を始めようとした所で、横からミミニャミが彼女に何かを耳打ちしてそれでぱっと表情が輝く。
「ここに居るの?また会えるの?」なんてキラッキラな目をして聞かれたから「うん」って返事しといた。そしたら快晴の笑顔が戻ってきて癒された。
元気になったポエットとミミニャミの3人で女子ワールド繰り広げてて俺若干蚊帳の外。
そこに堂々到着したのが何とタイマー。
あんまり接点なかったのにびっくりしたけど、どうやらミミニャミから誘われる形で来たらしい。一緒に買物行ったのはいつだったかなぁ。
ざっくりと今日の出来事を教えると「そっか、よかったね!」と素直に祝ってくれたからほっとした。
そして彼も例に漏れずニャミとミミに引っ張り込まれて会談。でもわりとすぐ釈放。
ふむ。
………凄いカオスだ。
ここにユーリもアッシュもスマも六もMZDも居るんだから、軽くごった返してる勢い。
こんだけ収容してもまだスペース大丈夫なこのリビングもどんだけ広いんだと。
んで、そろそろ昼。
本来の予定時刻。
それを見計らって、俺は皆の注目を集めた。
「はい皆注目ー!そろそろ時間だから、ここらで区切りをつけるぞ。既に簡単な説明聞いてる奴も居ると思うけど、今度は何も省かず説明するからな。今日はそれで終わりにする」
ざわつく部屋でやや大きめに声を上げたら、まるで待ってたみたいに全員分の視線が大集合。
うお、これだけ人数多いと緊張する。
てか軽くホームパーティくらい開ける人数だから無理もない。
ちょっとまごつきながら、俺は説明を開始する。
「ええと。…まず皆、それぞれ用事があるのに来てくれてありがとう。でもごめん、こんだけしてもらってるのに、実はもう何も起こらないんだ。延期したんでもなく、皆が遅れたんでもない。率直に言うとこっちの予定が狂って少し前に全部終わっちまったんだ。順を追って説明すると……」
俺は無い頭フル回転させながら、皆に説明すべき所、多分すべきじゃない所、ぼかして伝えるべき所なんかを選り分けて話した。
特に話し上手ってわけでもないから苦労したけど、伝えたい気持ちのが勝ってたので頑張った。
まとまってるかどうかは別として、話したいこと話して、質問受け付けて、特に困るような質問が無かったのにほっとして、大体終わり。
皆納得してれたみたいでよかった。
というわけで。
「よし。そんじゃ俺からの説明は終わりだ。予期せずまだまだこれから先もこの世界に留まることになったけど、宜しくな!」
そう言って、お辞儀をひとつ。ぺこり。
軽く拍手が巻き起こってちょっと恥ずかしい。
あー、これで一段落ついた。
「皆、無駄足踏ませてごめんな。結果的に見送りも何もなかったわけだし」
MZDが影武者を作って回ってたってことは、それぞれ用事があったってことだ。
時間を割いて来てくれたのにこれで終わりって、やっぱ申し訳ない。だが何もないんだぜ。
「こっから先は何があるわけでもないから、各自解散ってことで、今日はありが―――」
とう、と続けようとした、その時だった。
発言権を横から奪うようにして俺の前に踊り出た二人組。
そいつらは皆に向けて元気よく声を張り上げる!!
「さぁーて、皆そろそろ準備はいいかな!?」
「駄目って言ってもやっちゃうから、覚悟しといてね!!」
予想外の 司 会 乗 っ 取 り が起きた。
わっつはぷにんぐ。
混乱する俺の目の前でウサ耳とネコ耳の彼女達二人は尚も続ける。
「お見送りも、現場に居合わせることも出来なかった。でもやれることがまだ1つある!!」
「私達からの心からの贈り物!!」
「今から君の『帰れなくて残念&これからもよろしく歓迎会』を開くよ!!」
「「レッツパーティ!!!」」
な ん だ と 。
ポップンの看板娘が二人して拳を突き上げながら大宣言して、部屋の中は拍手喝采。
どうやらここに来た時からひそひそと耳打ちしてたのは軽い打ち合わせだったらしく、皆分かってたみたいに盛り上がる。
Deuilにも根回しがあったみたいで「会場へようこそ」なんてまるで最初からそのつもりだったかのごとく受け入れる。
何が何やらわからない俺は誘導されるまま一番ふかふかな席に座らされて、MZDが指パッチン一つで一瞬にしてキラッキラに飾りつけた部屋の中で主賓として扱われることになったのである。
そしてどこからか流れてくる楽しげな音楽を聞きながら思う。
……路線変更って こ れ か 。 (ていうか何人か最初からこの目論見知ってたなコレ)
見届けも見送りも全部予定が変わって、あっという間に歓迎会。
MZDあんた疲れてたんじゃなかったのかと突っ込みたくなるくらい演出の大盤振る舞いされつつ、皆で騒いで踊って時々歌って、そりゃもう豪華なんてもんじゃなかった。だって現役バリバリの芸能人まみれなんだから。
見てる側だった俺も踊りには参加。いや適当だけど。
皆に合わせたらそれなりになったくらい、場のテンションは凄いものだった。
いつの間にかDeuilのそれぞれが個人的に持ってる楽器を持ち寄って、気ままというにはあまりに洗練されすぎた演奏が始まったりもした。
今日限りのコラボレーションとかもアリアリで。
六に関しては音楽が関わるとノリとテンションが変わるんだってことが分かった。さすがヒップロック侍。
最終的には神パワーでどこからともなく出現させたらしいDJグッズで本格的にクラブ・ディスコ化。ミラーボールないのに照明も何故かがっつり入って。
もはやお祭り騒ぎだ。
MZD自身「やっぱ楽しいのが一番だよな!」とか言ってたから、疲れてても苦じゃないのかもしんない。(とりあえず世界と世界を繋げるなんて大それた神力よりは負担が軽そうだ)
まぁポップンパーティが趣味みたいなもんだしなぁ、この神様。お祭り騒ぎなんて大好物なんだろう。
というかもしかしてコレをやるために体力回復に努めてたんじゃなかろうかって邪推するくらいノリノリだった。
そして全員がはしゃぎ疲れた頃、これもどこから出てきたのかマイクを寄越され「最後に一言どうぞ!」なんて言われたので、
「最高だった!!ありがとう!!!」
と全身全霊でこの喜びを伝えた次第である。
うむ、悔いなし!!!
こんな風にして俺の歓迎会は幕を閉じた。
***
「あぁ…楽しかったぁ……」
まだ余韻の残る頭でぼんやりしながら呟いたら、MZDが「そりゃよかった」と片付けしながら口角を上げた。
片付けっていっても、神パワーで出した色々をこれまた神パワーで次々消してくだけ。
残ったのはDeuil所持の楽器の類だけど、これもMZDがまとめて元の場所に戻しといてくれた。
ちなみにちらほらと帰るメンバーも出だした。
どうせなら二次会とかしようかっていう案もあったんだけど、当の俺がかなりの寝不足だったんでギブアップ。
申し訳ないけど次の機会に、またバーベキューの時みたいにして集まろうって約束して解散の流れに。
「」
「あ、六。何だ?」
振り向いて尋ねたら、六はすっかり戻ったテンションで物静かに話を切り出した。(あの激しい六も面白かったのになぁ)
「荷物はどうする。取りに来るか?」
「あぁそっかそっか、忘れてた」
鞄、六の家に放置してきたんだっけ。
この城を飛び出した時に持ってた、少し大きい俺の荷物。服とかが入ってるんだけど、雨でずぶ濡れになって今は六宅の玄関に放置。
もっかい城に住める保証もなかったし、身軽な方がいいと思って置いてきたんだ。…っていうか、ひょっとして六の家に住むことになるんじゃないかとも思ってたしな。
城に戻ってこれることになったから、持ってこないとなぁ。
「六は今から帰るんだろ?じゃあ一緒に行くよ」
「分かった」
てなことで荷物を取りに行く事に。
「、僕も一緒に行くよー」
そんな俺に間延びした口調で提案してきた奴が一人。ご想像の通りスマイル。
「ん?自分の荷物持ってくるだけだから大丈夫だぞ。すぐ戻ってくるし、道順も多分平気だ」
「何となく外を歩きたいだけー。あと荷物持ちね」
「や、申し訳ねぇよ。一人で持てるし、しかも鞄ずぶ濡れだし」
「いいのいいの」
「でも」
「いいのったらいいのー」
なんか押し切られましたけど。
まぁいっか。
そんなに外に出たいなら一緒に散歩するノリで行けばいいし。
ユーリとアッシュに言い置いて部屋を出ようとしたら、リュータからすれ違いざまに「また遊ぼうな!」とか「何かあれば遠慮なく頼れよ!」とか爽やか過ぎる台詞を頂戴してマジお兄ちゃんだなウフフと脳内ハッピー。
今日は本当に幸せだー。
そんな裏で、
「…おい」
「……」
「おい透明人間」
「え、僕ー?」
「他に誰が居るってんだ。…しかしお前も必死だよなぁ。まあ無理もねえか、あんだけ人気者だと多少強引な手段を取らねぇとな」
「…何の話か僕さーっぱりわかんないなぁ?」
「六をマークすんのは個人的に正解かなと思ってるぜ?本人は保護者のつもりだが時間の問題だと踏んでんだろ?」
「んー。カミサマは不思議なことばっかり言うんだねぇ」
「不思議で結構だが。…知ってるか?神様の目には透明化なんてあんまり意味がねぇってこと。単純な視覚以外でも見てるからな。…昨日のあれ、全部見えてたんだぜ?」
「………、ヒヒヒ」
雑音に紛れる程度に、謎の雰囲気を醸し出す会話があったのを俺は知らない。
荷物を持って戻った時、「おかえり」をごく自然に言われながら、俺はここでの生活が再開されるのを実感した。
ただいま、第二の家。
異世界に飛ばされた俺はずっとここで帰還を夢見て、
けれど叶うことはなかった。
それは俺の意思で、望みで、…色んな事の結果。
これから先何が起こるかは分からない。
でもきっと、楽しいと思うんだ。
新しい生活にワクワクしながら、俺は一歩を踏み出した。
〜 END 〜
<アトガキ。>
終わっ……た?
ええ終わりました、これにて完結でございます!祝☆完結!!
ちょっと実感ないです。ここに辿り着くまで時間がかかりすぎましたね(笑
というか思ったんですけど、これっていわゆる『俺達の戦いは、これからだ!』オチなんじゃ……(モゴ
ともかく、随分間を開いてすみません。やっと出せました。
色々美味しそうな要素を残しまくっての終了なのですが、これは意図してなかったです…(笑
でも前回の後書きでも言った通り、Afterと称して後日談をちょびちょび出していきたいので結果オーライなんでしょうか。
今のところリュータの出てくるお話を書きたいでござる。(誰
さて。
異世界トリップの末、修羅場りながら恋愛フラグをほんのちょっぴり立てて居残りENDとなりました。
こんなんで良かったのかなぁと思いつつ、いややっぱ書きたかったのはこれだなと。
残りのフラグはどこいったって聞かれますと、ほんとはそれも書きたかったりします(笑
Afterに夢見てもいいんですかね。どうでしょうね。
というわけで、この話での後書きはこのくらいで。
裏話とかその他諸々はまた別のページにでもまとめたいと思います。どうせ大したこと書きませんが!!(キリッ
ひとまず、予定通りギャグにテンション戻しての完結となって個人的には満足です。
ではでは、ここまで読んで下さりありがとうございました!!
2015.5.12