現実味のない世界で、一人座ってる。
 何一つ頭に入らないせいで、夢の中に居るみたいだ。

 その中では温かな体温に触れられたり、優しく声をかけられたりする。
 本当に、夢の中みたいな。


 ――現実がどうだったかなんて、考えたくなかった。
 だってそれは、身も心も引き裂いてしまいそうだったから。


 だから降り注ぐ温もりを切に求める。


 お願い、夢よ覚めないで。





自鳴琴・28
雨・3
〜時の迫る音〜





「…さて、どうするべきかな。もう間違えたくないんだけど」
 雨でぴっちりと張り付いた服を脱ぎ、包帯を解きながら、スマイルは呟いた。

 の居る場所が分かった。
 ――六の家だ。
 幸いにも、道は知っている。
 だとすると。

「……やっぱ、どっちみち家まで行くべきだよね」

 先程の続きを電話で話す、という事も考えた。
 しかしリュータの家での事があるから、着信音や話し声で不用意に怯えさせるかもしれないし、そうなるとまたどこかへ行ってしまう可能性もある。
 それくらいなら、直接会いに行く方が無難なのだろう。
 幸いにも今回は六の方から連絡を入れてきたのだから、拒まれる心配もない。

 出来るならとも直接話をしたいところだが…無理はさせたくないし、ここはに気付かれないように六とだけ話をして事情を伝えるべきだろう。


 納得がいった所で、あとは一つ二つ、事後処理とでもいうべきものがあったから、バスルームに入る前に携帯を取り出す。…脱ぎ捨てた後の濡れた服から。
 ポケットもびしょびしょに張り付いていたから四苦八苦した。

 パカリ、携帯を開いてアドレス帳を呼び出し、まずは今もを捜しているであろうリュータへ電話をかける。


 幾度かの、電子音。


『――はい!』
「あ、リュータ君?お疲れ。まだ外走ってる?」
『ああ、はい。…町の中を重点的に』
「ん。じゃあそんなキミに朗報。………が見つかったよ」
『――っ!?』

 息を呑む音。
 雨に紛れていても、隠そうとしなかった分わかりやすく聞こえた。

『本当…ですか?』
「うん。さっき城に電話がかかってきたんだ。…どうやら、六の家に居るみたい」
『どうしてそんな所に…』
「僕も詳しくは分かんない。ちょっと話しそびれたんだ。……というわけで、雨の中散々走り回らせてごめんね。もう大丈夫」
『………あの』
「ん?」

 話しながら、擦りガラスのドアを開く。
 脱衣所からバスルームへ入って、真っ直ぐにシャワーへと向かった。
 もうここまで雨に濡れて壊れなかったのなら、シャワーくらいでは何ともない程度の防水なのだろうなんて投げやりに思いながら。

『心配だし、に会いに行ってもいいですかね』
「…んー」
『凄く不安定だったし…それに俺のせいであいつが安心して休めなかったんだと思うと…申し訳ないし、謝りたいんです』
「でも、おすすめしないなぁ」

 キュッ、とシャワーのコックを捻る。
 お湯に変わるまでの間は被らずにじっと見て。

『どういう事ですか?』
「うん…まぁ……、キミなら多少事情は違うんだろうけど、今誰かが会おうとしても大丈夫かなぁって思って」
『怖がらせるかも、って事ですか?』
「ん。もう少ししたら僕も六の家には行こうと思うんだけど、またこんな事になってもいけないし、六にだけこっそり会おうと思ってる」
『でも俺、に何かしようってわけじゃないし、少し会うくらいなら大丈夫なんじゃ…』
「ヒヒヒ、そんなの僕らだって同じなのさ?僕らが何かしたわけじゃない、でも逃げちゃう。…多分今は、そっとしておいた方がいいんだと思う」
『……んん』
 リュータは考え込むように黙ってしまった。

 シャワーが吐き出す水が湯に変わった所で、スマイルはそれを浴び始めた。
 雨水が流されてゆく。

『じゃあ、』
「ん?」
『スマイルさんが六に会いに行く時、俺も一緒に行かせてください。の様子だけでも知りたいですし』
「ああ…うん、分かった。それならいいんじゃないかな」

 携帯を片手に、髪を手櫛で洗う。
 多少声は聞き取りづらいけれど、静まり返った広いバスルームでは意識すれば聞き取れない事もなかった。
 外で大雨の中話していた時と比べれば、実はこちらの方がまだましだったりする。

『?…そういえばスマイルさん、今も外に居るんですか?雨の音がしますけど』
「ああ…まぁ、気にしないでよ。集合場所だけど、どうする?現地集合?」
『そうですね、その方が分かりやすいですし。じゃあ俺、ちょっと着替えてから向かいます』
「うん。じゃあ揃ったら六を呼び出そっか。ってわけで、また後でー」
『はい』

 ボタンを押して通話を終了させる。
 耳から離して真っ暗な画面を少しだけ眺めて……溜息。

 これで事後処理一つ目。
 あとは電話をかけるべき場所がもう一つ。

 電話帳からアッシュの電話番号を探し出して、通話ボタンを押す。
 ユーリも同じ場所に居るだろうから、電話すればアッシュが伝えてくれるはず。
 しかし、この時間では…。

 『――プルルル、プルルル、プルルル、

 …思った通り、何度呼び出し音が流れても電話に出ない。
 仕事の真っ最中なのだろう。

 しばらくして留守番電話に繋がったので、スマイルはそれに伝言を残して通話を切った。
 が見つかって今は六の家に居る事。ただし電話は掛けないで欲しい事。今から六の家に行く事。
 それぞれを手短に説明し、メッセージとして残した。

 パクッと電話を閉じて、壁にある段差に適当に置く。


 これで今出来る事は全て。
 ―――それでも、胸の内に燻ぶるものは晴れない。


 …。キミを見つけても。
 ………この手をすり抜けたまま、僕に出来る事はないんだろうね。


 隻眼の赤い目をゆっくりと閉じた。
 心の蓋を、閉じるように。



 ***



 それから少し経って。


 は、玄関の開閉する音を聞きながら、廊下の暗がりに佇んでいた。
 どうやらスマイルはまた出かけていったらしい。

 ――どうせ見つかりもしないのに、性懲りも無い奴。

 軽く溜息をついて、踵を返す。
 ……と、その時。


「あっれー?何だこれ」

 リビングの方から驚いたような声が漏れ聞こえた。
 は思わず振り向いて、開いたままのリビングの扉を見遣る。

 今この城には誰も居ないはずだ。…自分以外は。
 玄関はたった今スマイルが使用しただけで、前にも後にも誰かが入ってきたような音はしなかった。

 そもそも今の声は誰――
 そう考えて、一度会った事のある人物が脳裏をよぎった、次の瞬間。


「あ、住人めっけ」


 何の前触れもなく、の正面に現れた誰か。
 はぎょっとして後ずさる。
 ――それもそのはず、常識では考えられない出現の仕方をしたのだから。

 ついさっきリビングから聞こえたはずの声の主が、一瞬にして目の前に。

「おお、か。昨日ぶり」
 ひょい、と右手を上げて挨拶をする彼は、たった今が思い浮かべた人物だった。

 サングラスに帽子にパーカー。
 彼は確か、『この世界の神、MZD』。

 一瞬にして現れた上に宙に浮いているという常識破りの事実に気を取られながら、対峙する。

「……MZD、さん」
「おう。ちょっと急いでたから土足のまま上がらせて貰ったけど、浮いてるからいいだろ」
「………」

 浮いている、と本人の口から聞くと余計に不思議なのだが。

「どうやって入ったんですか?玄関からは何の音も…」
「俺様は神だから何の問題もねーの。敢えて言うならワープだけど。…それよりあの部屋、どうしたんだ?泥棒にでも入られたみたいな感じだったぞ」
「気にしないでください」

 ぴしゃりと言いながら、そういえば彼はここから帰る時にも一瞬にして姿を消していたという事を思い出す。
 その要領なのだろう。

「……んー。気になるけどまぁいいか。お前は無事みたいだしな。…で、他の連中はどこ行った?何かこの城、お前しか居なさそうなんだけど」
「ええ、居ません。3人は仕事で、は……出かけてます」
「ふーん?参ったな、確認もせずに来たから最低限も居るもんだと思ってた」
「…何か、用事ですか」
「おうよ、とてつもなく重要な情報を持ってきたんだ。お前にとってもな」

 空中で身を乗り出して、顔を近付けるMZD。
 はそれに一切動じず、身を引くこともない。

「帰る『道』の事ですか?」
「そ。……こっからは真面目な話。けど妖怪共もも居ないんじゃなぁ」
「…私だけでも、今聞いちゃいけませんか」
「んー…。まぁ別に二度手間になるくらいだけど。てかお前、昨日敬語使ってたっけか?」
「覚えてません」
「…あっそ。じゃあ、まぁ立ち話もなんだし、座って――……ああ、そういえばリビングがアレなんだっけか」
 まるで自分の家の事のように言っているMZDに呆れたように目を細めて、は「ダイニングなら」と提案した。

「OK。んー、ダイニングとなると浮いてられるほどスペースは無いな。じゃあ靴置いてくるから、先にダイニングに行っててくれ」
「…はい」
 頷くが早いか、MZDはまた唐突に姿を消した。
 ワープしたのだろう。
 もう気にしない事にした。

 はダイニングへ向かいながら考える。

 ――この城の住人にも、そして何よりにも知らされていない話を、一人だけ聞く。
 軽い優越感があった。
 この世界でやっと、アイツより一歩先に出た感覚。


 荒れたリビングの中へ入り色んなものを踏みながら通過して、隣接したダイニングへの扉を開く。

 ――するとそこには、既にMZDが居た。
 広いテーブルを囲むように置かれている椅子の一つに、悠々と座っている。
 …は、最早驚かなかった。

「おう、来たな。じゃあ手短に話そうか。…わりと、時間もねぇんだ」
「そうですか」
 MZDの正面に座り、無感情に応じる。

 彼は気にした風でもなく、真面目に話を切り出した。

「まず。…俺は『数日後に、二人通れるような道を開く』って言ったな」
「はい」
「……それがな…、――明日、開く事になりそうなんだ」


 そう言った彼の言葉に、は唇を開いたまま止まった。
 MZDはその様子を見て尚も続ける。

「俺はこの世界の神だ。この世界の中の事なら何とかなる。…が、他の世界への干渉ともなると俺の権限だけじゃちょいと難しい。色々『道』の事を探って分かった事だが、意図的に作るにはどうやらそれなりに条件が要るみたいでな。その条件が……『道』を作れそうな日の制限だ」
「その制限内の日が、明日なんですか」
「そゆこと。世界の狭間にある流れだとか世界同士の力のバランスとかそういうものが一致する日だな。…これを逃すとまた大分先に延びそうなんだ。…まぁ、元々超常現象を再現するもんだからな、これでも繋がるだけまだマシなんだろ」
「……そうですか」
 は一度視線を伏せて、息をついた。

「別にこの世界に未練なんてないですから、明日でも構いません」
「ん、そうか。まぁお前は昨日来たばっかだもんな。……で、ここからが本題」

 元々真剣に話してはいたが、MZDは居住まいを直して真正面へ向き直った。

「……何ですか」
「…。よく、聞いてほしい」



「帰れるのは、どちらか一人になりそうなんだ」





 ***



 六の家の程近く。
 傘をさして立っているリュータに、同じく傘をさしながら駆け寄るスマイル。

「お待たせ」
「あ、スマイルさん」
「さっきぶりー。……で、なんだけど」

 純和風の大きな家屋をちらりと見上げ、「うーん」と唸る。

「どうやって六だけ呼び出そうかな」
「電話、はタブーですからね」
「ん。呼び鈴も同じだよね」
「……うーん」

 居場所は分かった、けれど本人に気付かれないように六だけ呼び出す方法が見つからない。
 そんな器用な真似は少なくとも正攻法では無いように思えた。

「…しょうがないね、手っ取り早い方法でいこっか」
「え、何かあるんですか?」
「ちょーっと不法侵入になるけど」

 そう言って、スマイルはすぅっとその姿を消した。
 そこには傘だけが浮いている。

「…まさか」
「うん。そーっと入って、六だけ引っ張ってこようかなって」

 ということは、無断で家に入るという事である。
 それはどうかとも思ったが、他に案もない。

「うーん…」
「別に泥棒しようっていうんじゃないからさ。まぁ、部屋の中は多少見ちゃうけど」
「まぁ、非常時…ですしね」
「そゆこと」

 ヒヒ、と笑いながら傘は六の家へふよふよと近付いてゆく。
 リュータはそれについて歩き、二人とも玄関先の軒下で傘をたたんだ。

「傘、ちょっと預かっててくれる?」
「あ、はい」
 差し出された傘を受け取ると、もうどこにスマイルが居るのか分からない。
 強いて言うなら濡れた足跡がぽつんとあるくらい。

「じゃ、待ってて。見つかったらすぐに連れて戻るから」
 地面に足跡が増える。
 玄関の引き戸がそぅっと開かれ、多少カラリと鳴っても雨の音で誤魔化された。
 ……何だかやっぱりいけない事をしているような。いや、いけない事なのだけれど。

 ある程度戸が開いて、足跡は玄関の中に吸い込まれていった。
 リュータがそっと覗き込めば、たった今スマイルが脱ぎ捨てたであろう靴が置き去りにされていた。


 …その左に、ずぶ濡れになった鞄。


 それには、見覚えがあった。
 ――これ一つを引っ掴んで、は部屋を出て行ったのだ。

 胸が騒いだ。
 はここにいる。
 やっと…その実感が湧いた。

 スマイルがそっと廊下を歩く僅かな音を聞きながら、リュータは今すぐにでも会いに行きたい思いを抑えて佇んでいた。







 何もせず、ぼうっとしている事。
 それ自体は六にとって苦痛でもなかったから、別にいい。

 けれど、隣に居るがずっとそのままだというのは、心配以外の何物でもなかった。
 …本来の性格を知っているだけに、尚更。


 この部屋に戻ってきて再び袖を掴まれた六は、引っ張られるままに隣へ座った。
 傍に居れば、はほっとしたような顔をしてからまたぼんやりし始めた。

 …これが、休息になっていればいいのだけれど。


 ふ、と溜息をついた。
 すると不安そうな視線が隣から注がれたから、六は「何でもない」と空いた右手での頭を撫でた。

 ――そんな時だった。


 雨の音にまぎれて、偶然意識に引っかかったもの。
 ―――すぅ、とどこかでふすまの開くような音。

 それは本当に微かな音で、何か作業でもしていたら気にも留めなかっただろう。
 けれど他に何も集中するものが無い今は、その一点に耳を傾けられる。
 …更に注意して聞けば…何だか徐々にこの部屋へ近付いている気がしなくもない。

 が驚かないように心の中だけで身構えて、この部屋のふすまを注視した。
 ……すると。

『コトン、』

 家鳴り程度の音を立てて、開いたかどうか見ていなければ分からない程度にふすまが開いた。
 そして、……それ以上開かなかった。
 他の部屋から聞こえた音からすると、もう少し開くものと思っていたのだが。

「……」

 しばらく見ていても、変化はない。
 しかし他の部屋へ移ってゆく様子もなかった。

 は相変わらずどこを見ているのか分からない様子でぼんやりしている。
 幸いな事に、気付いていないようだった。
 …ならば。

。…お前の鞄を取ってきてもいいか。玄関でずぶ濡れのままだ」
「―――…、」
 つ、と視線が流れて、数拍遅れで視線が合う。
 「乾かしておいた方がいいだろう」と軽く頭を撫でれば、存外あっさりと袖から手が離れた。

 どうやら、どこにも行かないという事が分かって多少安心しているようだ。

 六はそっと立ち上がって、部屋の出入口へ向かう。
 ……そして一瞬躊躇ってから、ふすまを開いた。


「………」
 廊下には、誰も居ない。
 左右を見渡してから、ふすまを後ろ手に閉じた。
 しんと静まった家の中に雨の音だけが響いて、まるで雨に閉じ込められているようだった。

 ―――と。

 つん、と着物を引っ張られる感触がして振り向く。
 …誰の姿もない。

 いや、訂正しよう。
 ――誰の姿も見えない。

 着物を引かれる感覚は確かにある。
 だから、相手の姿が見えないだけだ。

 ポップンパーティには幽霊だってよく参加する。
 それ自体は珍しくないから簡単に納得だって出来る。
 …だが、それ以上に今現在の状況で『姿の見えない相手』が、『この家に来た』という事で、何となく頭の中で結び付くものがあった。

 その結論から、六は引っ張られるままに廊下を歩く事にした。
 そうして……玄関に辿り着く。

 嘘から出た真、ではないが、戻りにでも鞄を拾って届けられそうだった。

「……ん」
 玄関に自分のものではない靴を見つけた直後、着物を引っ張っていたものが離れた。
 そして。


「…ごめんねぇ、突然」


 降って湧いた声。
 それは覚えのある人物のもの。

 極小の声が六の耳に届いたかと思えば――まるで空気に色が付いていくようにして隣に青髪の青年が現れた。

「スマイルさん、成功したんですか」
 もう一人外に居たらしく、玄関の戸の隙間からひょこりとのぞく顔が一つ。
 六はこの組み合わせに疑問を感じないでもなかったが、敢えて追求しない。

 スマイルがリュータに向けて「しー」と人差し指を立てている横で、六は無言のまま草履を履いた。


「…外で、話した方がいいんだろう」

 そんな風に呟いて、音を立てず玄関の隙間を抜け出た。
 それを追ってスマイルも外へ出たのである。





「六が気付いてくれて良かったよ。あれ以上は流石に打つ手がなかったからね」
「隣にが居たんですよね?様子はどうだったんですか?」
「それなら六に聞いた方が早いじゃん。ねぇ六、どうなのさ?」
「……そうだな、」

 軒先で3人、声をひそめながらの会話。
 玄関の戸は閉めた方が良いには良いが、開閉の音が万が一聞こえてしまったら、六が出掛けてしまったものと思うだろう。
 入る時にも再度開閉する必要が出てくる事だし。
 それならばと、雨に紛れて家の中までは届かない程度の声で話しているのである。
 …六は理由も分からず合わせている状態だが。

「どう言えばいいものか。…まるで糸の切れた人形だ。動かず、一言も口をきかずにぼんやり宙を見上げている。道端で見つけた時には生きている気配すら無かったから冷や冷やした」
「……」
「……」

 その返答に、二人は絶句する。
 怯えきっているものとは思ったが、まさかそんなにまでなっているとは思わなかった。

「なぜああなったのか、理由を聞いてもいいか」
「……リュータの家に居た時はそんなだったの?」
「え?いや…、少なくとも声は聞きましたけど。第一、走って逃げてましたし」
「…んー。考えられるとしたら、逃げてる内に憔悴しきっちゃった可能性くらいだけど…」

 どうやらこの場に居る3人では明確な答えを持ち合わせていないようだった。
 早めに区切りをつけたスマイルは、「じゃあとりあえず、」と切り替えた。

「直接的な原因は分からないけど、何があったのか最初から話そっか。…話せる限りになるけど」
「…ふむ」


 そうして、スマイルはリュータに話した程度のいきさつ、それから捜している最中の事を含めた話を淡々と説明した。
 の事は名前も具体的な行動も伏せての説明。
 …それなのに、なぜか六の表情は強張る一方だったから、スマイルは疑問に思わざるを得なかった。

「……それで、に気付かれるわけにもいかないから透明化して六だけ連れてこようとしたんだ。勝手に上がり込んでごめんね?」
「…そう、か」

 頷いた六は、やはりどこか様子がおかしい。
 それについてスマイルが尋ねようと口を開いた、それと同時に六がぽつりと問う。


「…その『知り合い』とやらは、女か」


 半分確信めいたその問いに、スマイルは開いた口を閉じる。
 ―――彼は、知っている。
 何かを、確実に。

「女かって…それを聞いてどうす、」
「うん、女の子」
 リュータが疑問を口にする前に、スマイルがそう答えると…六は「そうか」と頷いた。

 その遣り取りにリュータは不思議そうな顔をする。
 けれど特に意味は無いとばかりに次の話が始まったから、首を傾げつつもついてゆく。

「で、しばらくを預かってて欲しいんだけど。…どうかな」
「この状況じゃそれ以外に道もないだろう。しかし、しばらくというのはいつまでだ?俺はいつまででも構わんが」
「そうだねぇ……、実は数日後に、」

 帰る道が、と言いかけた……その時。



「よう、こんな所に集まって何してんだ?珍しいメンツだな!」


 雨の音を縫い明るい声が響き渡って、3人は驚き空を振り仰ぐ。
 何に驚いたって、その声量に。
 今は声を抑えなければならない状況だから余計に。

「MZD!?こんな時に!しー、しーーー!!静かにっ」
「あ?…何だ、密談中か?でも時間がねぇんだよ。気配で探知したけど、ここに居るよな?」
 言いながら、MZDは話も聞かず玄関へ浮遊したまま入っていった。

 止める間も、なかった。
 ひやりとしたのは3人全員。

 そうなればMZDを止めるべく六は玄関へ草履を脱ぎ捨てて廊下へ急ぎ、スマイルは咄嗟に透明化しながら六の家へ上がり、リュータも一瞬躊躇ってから二人を追い掛けた。
 てんやわんやの大移動。


 ワープでもしたのか、3人が辿り着く前に部屋の中からMZDの声が聞こえた。
 いつも通りの声の調子が、この時ばかりは酷く恐ろしいもののようだった。






〜To be continued〜




<アトガキ。>

M Z D 何 し て ん ね ーーー ん ! ! (裏手ツッコミっ)
色々撹乱されてます今回。書いてる人は楽しいです。(をい

ごろりと話が動きました、今回書きたかったのは「帰る道のお話」。
収拾つかなくなってるように見えますが一応終わりに近付いている…はず。はず。(大切なので二度ry

リュータは無計画に話に突っ込んでみたら色んな所についていく人になりました。
そしてもう一つ。……「この話の良心」みたいなポジになっててほくそ笑みました(ナニソレ
わりと突飛な人の多いポップン世界です。ええ。
スマがおかしい人なだけかもしれませんが(言った

今まで好き放題書き散らしたツケを清算する的な事を前回の後書きで言うてしまいましたが、なんかその部分は出来ませんでした(うわぁ
次かその次……だと思います。
メモしててよかった、ネタ忘れる所だった。(いやその前に予定通り書けよと

以前に比べて話の密度がぎっちりになってる分、「あれ、この部分後からどうなったんだろうね?」なんて思う所が増えてます。
もっとざっくり書きたいけど、それ以上に書きたいネタが多すぎて詰めたらこんな風になっちまいますよ。
予定だとあと5・6話くらいで終わるはずなのですが、多分延びるんだろうなぁ…。
最大で3倍にまでのばしちゃった経験のある人です(どんだけ

というわけで次は予定にない部分突っ走ります!えいえいおー!(後ろ向きな元気良さ)


2014.5.10