シュー、パチパチパチ。
 緑や黄色、赤、様々な色の光が地面に向けて噴射される。

「綺麗ですね…私、花火なんて久し振りです!」
「お、マジで?今回は大人買い通り越して富豪買いしてきたから、思う存分楽しめ!」
 はしゃぐポエットに親指をグッと立てながら、俺はバーベキューの残り火の中に花火を一本突っ込んだ。
 中々火はつかないが、火種が長持ちするのはグッドだ。

 ちなみに言うまでも無く、花火の富豪買いは神のカードにて決行。(まとめ買いに便利だ…!)
 おかげで『こんもり』なんて表現が正しく思えるくらい大量の花火が買えました。
 ……普通に考えるなら何年分あるかなー。…買いすぎたかな。

 まぁでも、残量を気にせず遊べるように買うのが目的だったから、結果オーライっ!
 これだけあって遠慮する奴はまず居まい!

 花火大会、ひとまず順調。





自鳴琴・18
夕食はいかが?・後編
〜花火大会!〜






「綺麗だねー」
「うん、本当……って、何してるのニャミちゃん!?そこだけ光が消防車のホースから大噴射してるみたいになってるんだけど!
「いいでしょー、いっぱいあるからやってみたの!」
「誇らしげに言わないのっ!」

 ぱかん、と実にいい音がした。
 ニャミは危うい所で何とか前のめりに倒れるのを踏みとどまる。
 …それにしても花火の花束とは、中々素敵且つデンジャラスな事をやってくれるでないかい、ニャミ殿。

 俺は火事にならない内にいそいそと水入りバケツ第5号をニャミの近くに置いてから………
 俺もやってみたくて何本かの花火に同時着火。(でも臆病なので3本同時が限界でした)

 シュー、と勢い良く火花が飛び出す。
 おお、凄い量の光だ!
 しゃがみ込んでそれを眺めると、次々色が変わっていく。

「なぁなぁ、その火力ちょっと分けてくれよ」
 不意に言われて見てみれば、俺の隣にいつの間にかリュータが居た。
 その両手には未着火の花火が1本ずつ。

 ああなるほど、俺の花火でそれに火をつけようって事か。
 確かにバーベキューの残り火に突っ込むよりは早く点くだろうな。

「いいぞ、ほれ」
「サンキュ」

 リュータが持っている花火(左手の方)に着火開始。
 花火の先っちょの紙があっという間に燃え尽きた。
 やがて数秒もしない内に、リュータの花火は火を噴き始める。
 その火で今度は右手に持っている花火に着火。

「これぞ二刀流!」
「おおー」
 人に向かって火花が飛ばないように気をつけつつ花火を刀のように振り回すリュータ。
 火花が残像を残しながら軌跡を描く。
 うむ、綺麗だ。


 いつの間にかとっぷりと日が暮れて、辺りは真っ暗。
 花火が明かり代わりになっている。
 これだけの人数が遠慮なく火をつけまくっている為、何も見えなくなることはない。
 風もあんまし無いし、絶好の花火日和である。

 眺めている内に俺の花火束は勢いを減らし、あっけなく鎮火した。
 よし、次の花火を点けに行くか!

 近くにあったバケツに火の消えた花火を突っ込んで、まだまだ大量にある花火の中から適当に選びかけて……

「ねぇねぇ、これやってみないー?」
「え?」
 右から声が掛かったので見てみると、スマイルが花火の山からいくつかの花火を選んで楽しげに笑っていた。

 その手にあるのは……打ち上げ花火。

「お、いいじゃん。やろうぜ?」
 空中からひょいと顔を覗かせたMZDが楽しそうに賛同して、スマイルと一緒に選びにかかる。
 つい、とMZDが指を小さく振り上げると、打ち上げ花火が一つ空中に浮かんだ。
 何度もそれを繰り返して花火を選びまくる神。
 そしてスマイルもひょいひょいと候補追加。

 …よし、こうなったら俺も選んでやる!
「これとこれとー…お、これもいいな!」
、それ凄く危険そうだねぇ」
「試してみるべし!」

「何してるんスか?」
 火の消えた花火をバケツに放り込みながらこっちに視線を向けるアッシュ。
 その瞳はどこか心配げ。
 …いや、何をやらかすかちょっと不安な面子ではあるけど。

「打ち上げ花火選出っ!アッシュも手伝えー!」
「打ち上げっスか?そういえばそのタイプの花火も大量に買ったみたいっスね」
「おうよ!」
「やるなら安全そうなのを選ぶっスよ」
「「「・・・・・・」」」

 思わず視線を逸らして黙り込む神&透明人間&俺。
 既に打ち上げ花火選びに専念しているアッシュは、幸か不幸かそれに気付かなかった。
 …ごめんよアッシュ、お前の心臓縮むかもしんない。


 大量に花火を選びまくった後、それらを花火の山(大分減ったけど)から離れた場所にずらりと並べてみた。
 そしていよいよ火をつけ―――ようとして、

「…あ、ちょっと待て。マッチもチャッカマンも用意するの忘れた」
「なにぃ!!?」

 着火する物がない事に気がついた。
 しまった、打ち上げ花火には必須なのにここぞという所で買い忘れた!
 バーベキューの残り火で点火する事しか考えてなかったよ畜生。
 打ち上げは炭じゃ点火できないよな、そうだよな…。
 誰かこのドジ癖治してくれ・・・!


「ったくしょうがねぇ奴だな…。じゃあ特別に俺様がサービスしてやるよ」
 おろおろしてる俺に、MZDが不敵に笑う。
 え、何だ?サービス?
 もしかして打ち上げ花火見られない代わりにMZDがイヤンバカンあっそこは駄目、なお色気サービスで目を潤してくれるとか・・・?

 …等と激しく邪な思考を巡らせてる間にMZDは「皆、打ち上げ花火やるからこっちこーい!」と集合を掛けた。
 どうやらお色気作戦ではないらしい。(ちっ)

 大体集まったのを確認すると、MZDはまるで運動会の徒競走でピストルを構えるみたいに人差し指を上へ振り上げた。
 そして突然カウントダウン。

「いくぞー!!3・2・1!!」

 ミミニャミは当然の如く一緒にカウントダウンして、
 ゼロ、と同時にMZDが指を振り下ろす。
 ―――瞬間、


『シュンシュンッ』
『ピューン!!』
『ドン、パラパラパラ…』



 正面に並べられた打ち上げ花火の内いくつかが同時に綺麗な火を吹き始めた!!

「えっ、ええええぇ!!?何これ、火つけてないのにどうなってんだ!!?」
「どうって、俺様が火つけてやったんだよ。カミサマパワーって奴?」
 ニヤリ、と笑む神。

 え、つまりマッチいらず!?(ツッコミ所はそこなの?)
 神様がいると凄いな……

 花火が消えるか消えないかの所で新しい花火へ着火して、息つく間もなく行われる打ち上げ花火大会。
 MZDは鼻歌の合間に「次、点火!」なんて楽しそうに人差し指を打ち上げ花火に向けている。
 指を向けられた花火はすぐさま赤や緑の光を噴き出した。

 火花が高く噴き上げられるタイプのものや、光が打ち上げられるタイプ。
 そして打ち上げられた光が低い音と共に炸裂して火花を撒き散らすタイプ―――

 …って、ちょっと待て。


「市販の花火に市で取り行う花火大会みたいな、こんな本格的な打ち上げ花火って存在するのか?何か凄い炸裂してるが」
「いや、存在しないはずだよな?火事になったら大変だもんな?」
 俺と同じ事を考えたのか、リュータが冷や汗かきながら同意見を述べた。(祝!一般人仲間発見っ!!)
 ……そして、その中を這って入るような確信犯めいた低い呟き。

「…神様に不可能は無い」

 ・・・・・・・。
 間違いなく貴様の仕業だなMZD!!!


 まぁこの庭の広さなら城に燃え移るような事はないだろうし、大丈夫だろう。規模も花火師が扱うものよりはプチだし。
 MZDも何も考えずに無茶やらかすような奴じゃないし。…多分。

 ただ、一人最高レベルの心配性が右往左往しているだけで。


「え、MZD…!!火事になっちゃうっス、もうちょっと抑え目の花火にしてほしいっス!!」
 アッシュ、大慌て。
 必死になってMZDを止めにかかるが、それを聞くようなMZDではない。
 寧ろ面白がって花火を3つ同時点火。
 頭を抱えて焦る狼男を横目に、ほくそ笑む中学生サイズの神。

 ・・・・・。
 ビジュアル的にどうなんだろう、これ。
 純真なお兄さんをいたぶってニヤニヤするドS中学生の図。
 何だかマニアなお姉様方が喜びそうな匂いがそこはかとなく。


「そーれ、スペシャル花火に点火っ!!」

『しゅぱーんっ!!どぅっ、ぱらぱらぱらっ!!』


 今までで一番大規模な花火。
 炸裂した光の玉が黄色や赤や緑の火花をキラキラ煌かせる。
 あ、これ俺が選んだ奴だ。一番凄そうなの。

 ……アッシュはその瞬間硬直してしまった。
 哀れ心配性。

 そしてそれとほぼ同時に、俺の服が誰かに引っ張られる。
 …見てみると、背の低いポエットが俺にしがみついている所だった。
「ポエット?」
「あ、あぅ、ごめんなさい!びっくりしちゃって…」

 顔を赤らめながら慌てて手を離す金髪天使。
 ・・・ふふふ、愛い奴よのう。
 「気にすんな」と頭を撫でると、ポエットは更に顔を赤くして俯いてしまった。
 ああぁ、癒される…!!

 そんな風に心癒されていると、


「次ー!!同時点火っ!!!」
「「いっけぇMZDー!!!」」

 MZDとミミニャミがノリ良く叫んで、
 次の瞬間目の前が物凄く明るくなった!!

「うわっ、すげぇ光景・・・」
「何かの祭りか、これは」

 リュータとユーリがそう呟くのも当然、目の前の打ち上げ花火は、残りの約50個くらいが一斉に光を噴射し始めたのだ。
 フェスティバルだフェスティバル!!
 もうこれは一般にとり行う夏の行事どころじゃない。
 ●ッキーやら●ニーやらを呼んでパレードしちゃいたくなるくらい盛大だ。

 流石ポップンパーティーを取り仕切る神。
 場の盛り上げ方は充分ご存知のようです。

「よっと!」
 まるで指揮をするようにMZDが人差し指を振ると、それに合わせて花火の光が色を変えたり揺れたり。
 MZDにかかると、花火も生き物のように変化する。
 まるで夢の中の出来事みたいだ。


「…お前は花火が好きなのか?」
「ん?」
 不意に隣から尋ねられて、見上げるとそこにはこっちをじっと見ている六が。
 …って、いつから見てたんだ?そんなに見詰められたら鼻血が出ちゃうじゃないか。(不潔)

「好きだからバーベキューの後に花火なんてやってるんだよ。何てったって企画者俺だし!」
「そうだな」
 頷いて、視線を花火へ向ける六。
 花火と色男…うーむ、この組み合わせは素敵だ……
 花火と六はビジュアル的にぴったりだと気付く。

 大量の花火によってまるで真昼みたいに明るくなったユーリ宅の庭。
 飛び散る火花はMZDの配慮か、こちらに降りかかることはない。
 MZD…立派な花火師になれるぞ!!


 幾ばくかして、全部の花火が一斉に鎮火した。
 全部の打ち上げ花火に火つけちゃったし、パレード終了か……

 ・・・・・・・。

「うわぁ真っ暗だ!!」
「何も見えない!」
 一同、微妙に焦る。

 光に目が慣れてしまって、暗い部分が全く見えない。
 今まで眩しいまでの花火がその場を占領してただけに、一斉に消えてしまった今、明暗の差が激しすぎた。
 星明りすらうまく見えない。

「ヒヒヒ、こんな事もあろうかと、これを用意しておいたよ!」
 少し遠い位置からスマの声が聞こえたかと思うと、ぱっと一筋の光が差した。

「あっ、懐中電灯!用意がいいなスマ」
「ヒッヒッヒ!」
 あれか、某台風が到来した時に使ったあの懐中電灯か。

 とりあえず明かりを頼りに一同はバーベキューの残り火の元へよたよたと集合。
 僅かな赤い光を囲む。

 …って、あれ?そういえば花火につき物の煙が全く無いな…。
 これだけ大量の花火を一気に消費したら火事の如く煙が大量発生すると思うんだが。
 これもMZDの気遣いだろうか。


 俺は炭の仄かな光の元にすとんとしゃがむと、ふー、と息をついた。
 一大イベント終了って感じだ。

「…とりあえず無事で良かったっス…」
 心底安心したように呟くアッシュ。
 ………大丈夫か心配性主夫。


「さて、打ち上げ花火も終わっちゃったからそろそろ仕上げに入ろうか!」
「そうだねニャミちゃん!」
 心労の溜まりまくるアッシュを他所に、元気っ子二人組みが再びはしゃぎだす。
 おおぅ、何だ何だ次は何が始動されるんだ?

「花火の定番!締め括りの線香花火大会!!」
「全員一斉に点けて、一番最後まで火種が落ちなかった人が勝ち!」
「皆やろうー」
 残り少しになった花火の山を漁って、線香花火の束を引っ張り出すミミニャミ。
 確かにそれは定番だ!よし、俺も参加するぞ。

 ミミニャミが線香花火を全員に配っていって、俺も受け取った。
 よし、絶対優勝してやる!!

 ―――そう意気込んでいると、

「……なぁ
「お?」
 右正面から声が降ってきた。
 しゃがんでる俺にはその人物の脚しか見えない。
 見上げてみると、リュータが俺を見下ろしていた。

「何だ?」
「…ちょっとこの花火大会、抜けるぞ」
「へ?ええ?」
 何だ、何言ってるんだこいつ。
 抜ける?どういう事だ?

 リュータは俺の手を掴んで立たせると、周囲のメンバーに「ちょっと抜けるから先に線香花火やっててくれ」と言い置いて、線香花火持ったままの俺をぐいぐい引っ張りだした。
 な、何事だ!!?

 皆がきょとんと連行されてゆく俺+連行するリュータを見ている中、俺は引きずられるようにしてどんどん移動していく。
 どうやら抜けるのは俺とリュータの二人だけらしい。

「ちょ、リュータ!何があった?俺何かしたか?」
「違うって」

 否定しつつ、リュータの声はちょっと真剣だ。
 何が起こったんだろうか。俺には心当たりが全く無い。

 途中、リュータはスマイルに懐中電灯を借りて、尚俺を引っ張ってゆく。
 そして城の壁を曲がって、誰も居ない暗がりに入った。
 ・・・・・・・・。
 イヤン、もしかして俺襲われる!?

 いやリュータなら許可しちゃうかも。
 うーむ、多人数イベントの中でいきなり誘い出すとは、リュータも大胆な。
 でも俺男だと思われてるはずだから、もしかしてリュータにはそっちの気が?

 懐中電灯で足元を照らしながら、リュータは他の誰にも見えない所まで来て俺の手を離し、止まった。
 そして俺と正面から向き合う。
 ……暗くて見え難いけど、その表情は真面目だ。男を口説く目じゃない。(当然だ)

「………あの、何の御用件で?」
 おずおずと聞いてみると、リュータは懐中電灯を脇に挟んで……


 …いきなり俺の着てるカッターシャツに手を掛けた。


 ・・・・・・・・・・・。

「っえ、ええぇっ、ちょ、まっ、ああああぁ!?」
 待った待った待った、さっきの妄想は冗談でだからして本当に襲われるとは思ってなかったわけで、あああ何だリュータ本気で襲うつもりだったのか!?
 最初から外されている一番上のボタンをスルーして、ぷちりと二番目のボタンが外され、俺は思わずリュータの両手をがしりと鷲掴んだ。

「す、すとっぷー!!ななななんばしよっとですかリュータさん!!」
「いや、そんなに動揺する事か?」
「いきなり剥かれようとすればどんなヲトメも某有名格ゲーの相撲の如く幾重にも張り手を食らわしたくなる!!」
「乙女?お前男だろ?」
はっ、い、いやこの際そんなのはどうでもいい!!」
「(いいのかよ…)とりあえずそれは置いといて、俺が気になってるのはお前のその胸だ」
「胸!!?」

 も、もしかして俺さらし巻き忘れたか!?
 いやいやそんなはずはない。それならもっと前に誰かに気付かれてるはずだ。
 冷静になれ、冷静になれ俺!!
 襲われそうになってるからって動揺したら終わりだ!いや既に動揺してるけど!!

 頭の中でごちゃごちゃ考えてる途中で、リュータは俺に掴まれた手を動かして俺を指差した。
「だから、それ」
「は?」
 リュータが指差す先を見てみると……


 …ボタンが外された部分からちらりと覗く、胸の白いサラシ。


(っあああああぁ!!!?)
 心の中で絶叫する!!
 巻き忘れたんじゃなくて見えてたのか!!
 多分あれだ、さっき俺が炭火の前にしゃがんでた時、上からちょこっとでも見えちゃったんだ。俺しゃがんでたし、リュータ立ってたし。

 サラシが見られたって事は男装バレてる!?
 これはどういうことか、みたいな感じで問い詰める為にここに連れてきたのか!?
 どどどどうする、素直に事情を話すかそれとも白を切るか!!?
 どうする、俺!!!(ライ●カードっ)

「こ…っ、これはその、あー、うー」
「…いつからだ」
「いつから…っていうか、うーん…」
「何で俺に言わなかったんだよ?まぁ知り合ったばっかりの奴には普通言わないかもしれないけど」
「………だって…」

 ああ、もう頭の中真っ白だ。
 これは説明すべきか…。

「あのな、リュータ、」
「そんな大怪我しといて何の報告も無いなんて水臭い」


 ・・・・・・・。


「お、おおけが?」
「大量の包帯巻いて、どんな事故起こしたんだよお前?体は大丈夫なのか?」
「・・・・・」

 …サラシって、どうやら包帯にも見える模様です。
 じゃなくて。
 リュータはサラシを大怪我による包帯ぐるぐる巻きだと勘違いしたらしい。
 これは幸か不幸か・・・?

 つまり最初から怪我の心配をしてここまで連れてきたって事か。
 まぁ確かに皆の前でする話でもないよなぁ……。
 どうやらリュータも大概お人好しらしい。

「あの、別にそんな大したことじゃないから。ほら、アッシュって重度の心配性じゃん?ちょっと擦り傷負っただけなのに凄い包帯巻かれちゃってさ…」
「本当か?」
「ほんとほんと!大体事故起こせるような行動範囲じゃないから。俺、城からほぼ出られないし」
「…それもそうか」

 よし、納得してくれた。
 それにしてもびっくりしたなぁ……いきなりひん剥かれるとは。
 でもよくよく考えると、最初の方に「お前男だろ?」って言われたな。
 その時点で女だと思われてない事に気付け俺。


「…そろそろ手、放してくれないか?」
「あっ」
 リュータの手掴んだままだった。

 手を放して、外されたボタンを今度は一番上まで留める。
 これならサラシ☆チラリズムの恐れもないだろう。

「よし、じゃあ戻るか」
「おう。…の怪我が大した事無くて安心した」
「心配してくれてありがとなー。すんごい嬉しい」
「けど何かあったら言ってくれよ?」
「おっけい」

 リュータは脇に挟んだままだった懐中電灯を手に持ち直して、先に立って歩き出した。
 …何かあったらって、男装の事含めると結局言ってない事になっちゃうんだけどなー…。
 すまん、リュータ。



 俺とリュータは揃って皆の所に戻って、線香花火大会に混ざった。
 地味な大会だが、実は密かに白熱する。
 いかに手を震わせないか、風を読むか!
 まさに沈黙のバトルなのである。

 それから全員で第7ラウンドまで行って、優勝者が決定した。
 優勝者は……何と六。
 何とっていうか、最早納得するしかないような。
 そうして線香花火大会は終結した。



 とにかく、そんなこんなでもう随分遅くなってしまったので、全員帰宅する事に。
 ミミニャミとポエット…つまり女子班はMZDが送っていくとの事。

「じゃ、またねー!」
「またイベントやる時は呼んでね!」
さん、また会いましょう」
「おう!気をつけてなー」

 ミミニャミ&ポエットに手を振る。
 MZDは「何か進歩があったらまた来るわー」と言い残して、3人を先導しつつその場を後にした。

「じゃ、俺も帰るわ。じゃあな!」
「ん。じゃなー」
 手を振るリュータに俺も手を振り返して、庭から出て行くのを見送る。

 残るは六。


「…
「ん?」
 六は、会場の片づけを始めたDeuilが話を聞いていないか視線で確かめて、それから、真正面から俺の目を見た。

「……リュータと何をしていた?」
「え?えーっと…」
「いや、詳細まで聞こうとは思わん。ただ、お前が困っていないかと思ってな」
「あ、その辺は大丈夫。絶妙な所で危険回避」
「…そうか。言い回しが少々気になるが…」
「まぁ、何ともない」
「ならいい」

 そう言うと、六はあっさりと背を向けて「またな」と庭の出口である『歪み』へ歩いていった。
 俺が大きく手を振って「暇があったら来いよ!俺いつでも暇だからー」と叫ぶと、六は振り返らずに小さく手を振り返してくれた。

 …何気に心配してくれてたのか。
 俺の周りっていい人が凄く多いな。

 何だか嬉しくなって、自然に笑みが浮かぶ。
 うーん、俺も皆に何かしてあげられるといいな。


 とりあえず俺はその第一歩なのかどうなのか、片づけを手伝う事にした。
 …いや、片付け手伝うのは当然なんだけど。

 庭の端に寄せていたテーブルの一つを運びながら、小さく息をつく。
 ……今日のバーベキューは成功だ。
 イベントを成功させるのって凄く充実感があるんだな…。
 MZDが何度もポップンパーティーを開くのも何だか分かる気がする。

 けど、ちょっと疲れた。
 微妙に頭がくらくらする…。

 まぁでも後片付けをサボるわけにもいかないし。
 大した事はないから、大丈夫だ。


 そうして後片付けを終えて、今日のイベントは完璧に終了となった。
 突発的な案でここまで盛り上がれるとは、本当に嬉しい限りだ。
 また思いついた時は、もっと大勢呼んで色々やりたいな。

 リビングでDeuilと一緒にだらけながら、俺は一人だけ笑みを零した。





〜To be continued〜




<アトガキ。>

ああああああああ終わったーああぁ!!
バーベキュー編、終わりが見えませんでした。

っていうか出番が無い人を前面に出す事を考えてあーだこーだしていたら随分更新が遅く。
そして結局、「そんな事務的な風に考えてるから書けないんだ!!」と萌えの向くがままに書き始めたら超早かったです。萌え万歳。
そうして何も考えないで書いたら出てこない人が出現。(主にユーリとか)
…ごめんなさい。愛が無いわけではないです。

それにしても、私は予定に無かった場面を書くのが余程好きらしく、リュータとの場面追加です。
男装ならではの場面が書きたかったんです。
っていうか煮え滾る萌えを思い切り書きたかっt(省略)

ちなみに、次回からは大分話の風味が変わると思います。
ターニングポイントです。さあ伏線を拾う時がきました。
書き手としてはここからが大変且つ楽しい所。頑張ります!!

2007.2.16