人の多さも手伝って、全員分の食べ物を買うのに手間取った。
 かき氷を最後に買って正解だったと思う。
 何味のかき氷にするかポエットに聞き忘れたけど、オーソドックスにイチゴ味のを買っていったら喜んでくれた。(何味でも喜んでくれそうだけど)

 で、昼食終了後。
 ごみ捨てに行って帰って来た際に聞こえたユーリ達の会話。

 それが俺のやる気に火をつけたのである。





自鳴琴・15
海・後編
〜そんな彼女は金鎚天使〜





「はい、足もっとバタバタしてー」
 俺はポエットの小さな両手を掴みながら、海の中で後退した。
 そう、現在ポエットの水泳特訓をしているのである。


 昼食の時に出たゴミをアッシュと一緒にゴミ箱まで捨てに行って帰ってきたら、泳げないポエットがユーリ達に泳ぎ方のコツをあれやこれやとまるで職員室で教員に取り囲まれた不良のように教え込まれていたので、口で言うより実践した方がいいだろうと俺が連れ出したのだ。

 丁度体力も戻ってたみたいだし、こういう事は行動したもの勝ちである。
 服着たまま泳ぐ事になるから再度びしょ濡れになるけど。(これはポエットも了承済み)
 まぁ、服着たまま泳ぐのは俺も同じだ。

 ちなみに、俺の手のひらに書いてもらった電話番号は消えない内に暗記した。
 油性で消えにくいとはいえ海に浸かってたら消えるだろうし。

 それまでリュータの肉筆だから絶対消すものかとばかりにぎゅっと手を握り締めて保護してたんだけど、ポエットの為なら仕方ない。
 大丈夫、100回弱脳内で繰り返したからちゃんと覚えてるよ!
 も、萌えの為なら……えんやこら…っ!!
 城に帰ったらメモするよ絶対。


「う、うぶぶぶ!!」
「ポエットしっかり!大丈夫俺が掴んでるから、もっと足伸ばして強く水蹴って」
「うぐぶっ、!!!」
「うわっ!?」

 ポエット、水没!!
 何だ何だ、バタ足の練習してるだけなのに(しかも俺が両手持ってる)何で穴の開いた船の如く海中に沈むんだろう。

 慌てて引き上げると、ポエットは胸まで海水に浸かりながら波の中に立って、肩で息をした。
 ちょっと離れた所でアッシュが心配そうにこっちを見てる…。

「なぁ、つかぬ事を聞くけど……天使って水に浮くように出来てる?」
「す、すいません…!!」
 単純に体の構造を尋ねた俺にポエットが謝罪で返したので、俺は慌てて首を横に振った。
「ごめん、そんな意味じゃなくて!ただ体の構造が違ったらいけないなと思って」
 人間と天使だから、違っててもおかしくないし。
 見た目は(翼と頭上の輪以外)同じだけど。

 いやしかし、今の受け答えがあったって事は、浮けない事はないんだな。
 なら安心。もうちょい頑張ってみよう。
 ポエットが溺れないようにする為に。

 ……否、寧ろ溺れてるのを助けるのも萌えだからそのままでもいいような気がしたけど。
 が、ポエットが溺れ死んだらそれこそ嫌だから、素直に教えますハイ。


「なら、伏し浮きから始めようか」
「ふしうき?」
「万歳のポーズで動かずにうつ伏せでそのまま浮く事。浮く練習って感じかな。要するに波にたゆたう漂流物ごっこ」
「……うーん?」
「ま、とりあえず何も考えずにぴったり止まってみな。体の構造上浮くはずだから」
「はい、分かりました」

 ポエットが頷くと、俺の背後から「頑張ってねー」とスマの声が聞こえたので、振り返ってポエットと二人して手を振った。……無人の浮き輪に。
 透明化して泳ぐと見た目がかなり不自然なのですがスマイルさん。
 まぁ実体化するより周囲の注目度は低いんだけど。


「では、早速いきます!」
「頑張れ!」
 意気込む天使にエールを送る。
 そして金髪の天使は『すぉっ』と大きく息を吸い込み……顔を水に浸けた。
 足を海底から離し、うつ伏せで万歳のポーズをとる。

 1秒経過。 まるでベッドにダイブした直後のような姿。
 3秒経過。 …ちょっと沈んだ?気のせい?
 5秒経過。 おい待て、完全沈没じゃー!!!サルベージ!サルベージ!!

 ぶくぶくぶく、と海面に泡をたてながらまるで某石を光らせながら落下するシ●タとパズ●のようにゆったりと海底に沈むポエットを両手でわしっと掴んで思い切り引きずり上げた。

「っぷはぁ!!」
「ポエット……お前いっそ神秘的なほど綺麗に沈むな
「…すいません」
「いやいや、それもまた才能」
「……そんな才能いりません…」
「…ご尤も」

 息止めてて海水は飲んでないらしいけど、多少息切らしてます。
 必死だねポエット。

 てか、伏し浮きも出来ないとなるとどうすればいいのか最早皆目見当がつかないんですが。
 息吸ってから試したはずなのにどうして浮かないんだろーか。
 生命の神秘。(神秘なんて部類か?)

「もう、こうなったら浮き袋を手術によって体に埋め込むしか…」
「えぇっ!?しゅ、手術…っ!?」
「いや冗談だってば。信じちゃうなんて可愛いなあもうv
「!!」

 赤くなる天使さん。(本日二度目)
 ああぁ、反応してくれる所がまた可愛いよ!
 海の中に立ってこっちを見上げてくるその視線が既に犯罪的に可愛い。

 そして、頬の筋肉緩みまくる俺に対して、ポエットは一生懸命言葉を選んで言い放った。
「か、可愛いなんて私はそんな事ないです!あの、それよりさんの方がずっとずっと!……って、あぁ!男の人は可愛いとか言われても嬉しくないですね…っ」
「(一生懸命だなぁ)ポエットが言うなら許すー」

 てゆか、俺女だしね。

「ポエットかーわーいーいー!!」
 俺はもう我慢ならんとばかりにポエットを抱き上げて頬ずりした。
 うわぁん!!柔らかいよポエットのほっぺ!!

「ポエットやわっこーい」
「わわわっ!!さん…!!」

 ん?何だか妙に慌てた声だなポエット。
 そういえば合わせた頬から伝わる体温が徐々に上昇してる気がするし。

 ………。
 って、もしかして。

 ポエットは俺を異性として意識してくれちゃってますか?


 そっと顔を離してポエットを見ると、ポエットは案の定真っ赤になりつつ「恥ずかしいから、こういう事はやめてください…!」と言った。
 あー……男に免疫のなさそうなポエットらしい発言だ。
 てっきり今まで『可愛いって言葉に反応してるだけ』だと思ってた。

 女として見られてるとは最初から思ってなかったけど、いざ男として扱われてみると妙に切ないですね。(元々、誰彼構わず男だと思わせる為に男装してるって訳じゃないし)
 ダメージが大きいのは、勘違いした相手が女の子だからかな……いい友達になれると思ってたからなー。
 異性ってものとは中々どうして同性ほどの深い友人関係は築きにくいものである。
 だからして、ポエットとは『見知った人』止まりになる可能性が高いって事で。
 く、悔しい・・・!!!あわよくば義姉妹の座を戴こうと画策してたのに!!

 いや、もうこのまま口説き落としてポエットを彼女にしても構わないけどね俺は。
 …はっ!いやいや、それじゃ俺の正体がバレた時にポエットがショック受けるぞ。

「………ごめん、俺は今越えてはならない一線の事を考えてたよ」
「?」

 俺はポエットをそっと元通り海の中に立たせて、ぽんぽんと頭を軽く叩いた。
 ああ、まだ頬が赤いままだよポエット。可愛いな。(可愛いって思ったの何度目だろう)


「…にしても、伏し浮き出来なかったら次はどうしたらいいやら…」
「あの、もういいです。泳げなくても、今まで通り泳がなければいいんです」
「また溺れたらどうする?」
「……う…」
「もうちょい頑張ろうよ。とことん付き合うから! な?」
「…はい。さんが迷惑でないなら、お願いします」
「よしゃ」

 俺は今一度気合を入れ直して、いかにしてこの金鎚天使を泳がせようかと思案した。


 ***


「疲れた・・・」
「…私もです」

 スマが「そろそろ帰るよ」ってユーリからの伝言を伝えてくれるまで、ひたすら特訓してたよ。
 特訓を開始してからどのくらい経ったか聞いて「2時間くらい」と返された時には本気で驚いた。

 てなわけで、現在砂浜に向かって歩いてる。
 周囲の人も2時間前に比べると少し減っていて、歩く度にぶつからないよう気をつける必要はなくなっていた。
 あぁー、水を吸った服が重たい………

「けど、ちょっとは泳げるようになって良かったな。大進歩だ」
「はい!ありがとうございました」
 ポエットがにっこり笑って見上げてきたので、俺も微笑み返す。

 ポエットは多少泳げるようになった。
 …犬かきだけど。(ちなみに5mくらい)
 たった2時間の特訓でここまで泳げるようになった事は、俺とポエットからすれば大進歩どころか大進化と評しても違和感ゼロなのである。
 これでとりあえず、水に浸かった瞬間溺死確定なんて危険なステータスは薄らいだはず。


「にしても、充実した海水浴だったなー」
「そうですね。私もこれだけ長く水に浸かったのは久しぶり…、………」
「これからもちょっとずつ練習すれば泳げるようになるんじゃないのか?」
「………」
「ポエットなら大丈夫だろ。な?」
「………」
「……。…?」

 ポエットからの返事がない。
 そこで俺はようやくポエットの顔と視線に気付いた。
 …ポエット、無言のままじっと俺を見詰めてます?

「ポエット?」
「……さん、特訓に付き合って下さったからでしょうか、胸板が・・・」
「・・・・・え。」


 ポエットの視線を辿って自分の胸を見てみると、ぴったり張り付いた黒のTシャツに僅かな膨らみが。
 よ、よもや……っ!!

 Tシャツを肌から引き剥がして、首元から中を覗き込む。
 ………。
 ………………。


 し ま っ た


 ヤバい。ピンチだ。
 さらしがズレてて半チチになってる。
 あれだ。きっと泳いでる時に水圧がかかって少しずつズレて(しかも気付かず長時間海中に居た)、その上水を吸って重くなってたから歩く時の上下運動がトドメの一撃になって布の自重で下がっちゃったんだ。

 確かに、どんなにキツく巻いても所詮布だからズレもするよ。
 水の中に居るとわりと気付きにくいよ。
 んで、半チチくらいならTシャツ越しに男性の胸板に見えなくもないよ。(マッチョの胸板想像すると、普通の女の人よりボインだったりするからなー)
 その様子が急に出現した胸筋に見えたんだな。さすが天然ポエット。
 が、しかーし。

 このままユーリ達の元に戻ったら怪しまれるよな?
 さすがにDeuil全員がポエット並みに天然、なんて事はありえないもんな?
 つか、辿り着くまでにさらしが全部下がりきるかもしれない。
 このシチュエーションでバレるのも素敵な気がするけど(何となくユーリ達の慌てる姿が目に浮かんだから)、でももうちょい男装生活をエンジョイしてみたい気もしたりなんかして……!!


さん、どうかしたんですか?」
「え?あ、いや、何でもない! そうだよこれは胸板だよー。運動したから今日の内に鍛えられたんだよー」
「凄いですね…!!」

 んなアホな。
 目をキラキラさせるポエットに内心でスクリュー裏手突っ込みかましつつ、俺はその天然記念物級のボケをそのまま使わせてもらう事にした。

「けどなポエット、これはこの後すぐにしぼむんだ。急に出来た筋肉だから、本当の筋肉じゃないんだよ。何回も運動を繰り返していく内に段々しぼまなくなって、ちゃんとした本物の筋肉がついていくんだ」
「そうなんですか!?」

 し、信じちゃった。
 ごめん、俺この世にこんなに純白な生き物が存在するなんて知らなかったよ。
 さすが天使……っていうかそれ以前の問題な気がするけど、もう寧ろ騙してごめんなさい。


「じゃ、俺ちょーっと向こうに行ってくるから、ポエットは先にユーリ達の所に戻っててくれ」
「どこに行くんですか?私も一緒に…」
「トイレ。」
「す、すいません!先に戻ります」

 慌てて俺より先をじゃぼじゃぼと歩くポエット。
 俺はそれに軽く手を振って、別方向へ別れて進んだ。
 …Tシャツ越しにさらしを押さえながら。


 ***


 仮設トイレで悪戦苦闘しながら水浸しのさらしを巻き直して、ユーリ達のいるブルーシートへ戻ってきました。
 仮設トイレって男女分けられてないから怪しまれなくて良かったなー。

 それにしてもユーリ、全然焼けてないな。
 ずっとパラソルの下にいたから当然だけど。

 俺以外の全員が集まっている大きなブルーシートに、俺もひょいっと座る。
「たっだいまー」
「おかえりー」
「ポエットの特訓は想像以上に成果を上げたようだな」
「おー、いえーす」
 ユーリが微笑んで言ったので(ポエットから聞いたのかな)、俺は親指をグッと上に向けた。
 そうさ、凄い成果を上げたのさ。
 …そして、そんな遣り取りをしていると。

「……しぼんでる」
 横から小さくそんな言葉が聞こえて、俺は思わず目を泳がせた。
 勿論言ったのはポエットである。(胸への視線付き)
 Deuilのお三方は首を傾げた。

「…さ、さーてっと。シャワー浴びて着替えようか」
「ポエット、今のはどういう意」
「ユーリは着替えなくていいんだから荷物まとめる役なっ!!」

 俺はかなり強引に仕事を押し付けて(若干睨みを利かせつつ)頷かせると、全員分の着替えが入ったカバンを持ち上げて立った。
 ユーリは俺の眼力のおかげで、何とか思惑通り黙ってくれたようだ。

 ごめんよユーリ、これは男装がバレる云々以前にポエットについた嘘が幼稚すぎて、知れると恥ずかしいんだ。だから聞かないでくれ。
 だって筋肉がしぼむってどうよ。何で俺こんなナイス小学生な嘘ついちゃったんだ。

「ポエットには俺の予備の着替え貸すよ。余分に持ってきてたから。 さ、行こうか」
「えー、僕もポエットの言葉の意味が気になるんだけどなー」
いいから!!さあダッシュだ!!」

 これ以上何か聞かれる前に!
 ていうか、アフォ話がバレる前に!!


 ***


 本当に駆け足で海の家まで来て、着替えを渡してからシャワータイムに突入。
 勿論シャワー室が全個室になってる海の家を選びましたよ。
 …それでも俺は「男用」の張り紙がついた個室を選ばざるを得なかったわけだけど。

 髪をじゃかじゃか洗って、タオルでがしがし拭いて、さらしをぎゅうぎゅうに巻く。
 く…っ、きつい。 まるで腰のコルセットをそのまま胸に巻いてる気分だ。
 ……あながち間違ってない。気付くんじゃなかった。

 これは本気で胸痩せを計画せねば。
 女としてある意味つらいけど、元々男装してたんだからいっか。
 ダイエットしたらまず胸が減るっていうし、ちょっと城の中でランニングしてみよう。
 大体俺、最近城の中に篭りっぱなしで運動不足だったし。丁度いいかな。
 ランニングできる広さがあるってどうなんだマイ居候ホーム。凄いじゃないかオイ。


 着替え終えて、濡れた服をビニール袋にまとめて、個室から出る。
 俺のいた個室の右側にアッシュが、左側にスマが入っていったのを確認してるから、ちょっとここで待っていよう。

 ちなみに、シャワー浴びてる間耳を澄ましきって両隣のシャワーの音やら何やら聞きまくってましたぜ。
 右隣からシャワーの角度を変えたであろう微妙な音が聞こえて「ああ、人型化してシャワー浴びてるんだv」とか思ったり、左隣から『ベシャッ』って音がして「あ、今海パン脱いだな」とか考えたり、そりゃもうめくるめく妄想が・・・っ!!
 あっはっは、今更俺の事を「きゃー、変態がいるー」とか突っ込んじゃいけませんぜ奥さん。俺は随分前から変態だ。(公言しちゃったよこの人)


 近くに置いてあったプラスチック製の椅子の一つに腰掛けて、待つ。
 シャワーの音は(アッシュとスマの居る所からは)鳴り止んでるから、もう着替えに入ってるんだと思う。

 ポエットはここからもう少し左に行った所にある「女用」の張り紙が張ってある個室に入ってる。
 いやー、俺が渡した予備の服、大丈夫かな……
 服を借りる事自体遠慮してたから無理矢理押し付けたけど(濡れた服のまま帰らせるのは酷だったから)、あの服の選択はほぼ俺の趣味だったしな……
 等と考えていると。

『ガチャッ』
「ワン!」
「お待たせー」

 正面の個室から犬が + 誰も居ない個室のドアがオープン(ボイス付)。
 端から見たら滑稽この上ない。

「うっふふふ、おかしな光景だー」
「ヒヒヒ!プライベート行動は中々大変なんだよー。アンダスタン?
「オッケ!!(親指グッ!!)」
 スマが言うなら理解しちゃいます!


「あ、ポエットも来たみたいだよー」
「え?」
 言われて左の方を見てみると、金髪の女の子が裸足で歩いてるのが見え………って、

「がはッ!!?」
 吐血・鼻血・脳出血!!
 萌エがメーター振り切れますよ!!


 ポエットが着用してるものが……
 Tシャツ オ ン リ ー 。
 アッシュが「嘘っ」て顔してるのが犬なのに分かった。

「あの、あの、さん……服、変じゃないですか?」
 こっちに駆け寄ってきたポエットが、膝下まで届く大きなTシャツをちょっと引っ張って首を傾げた。

「変じゃないとも!!寧ろグッジョブッ!! けど、世のロリ萌え野郎共に攫われないように気をつけないとな」
「ろりもえ?」
「まあ、危険人物って事だ!」
「はぁ……」

 つーか、危険人物は寧ろ俺だけどな!

 俺がポエットに渡した着替えは、このTシャツだったのである。
 ズボンは渡してもウエストが合わないだろうし、これならワンピース並みに長いから代用できるかと思って。
 俺が着てもかなり大きいし。(大きいの好きだから男物の大きいのを選んだ結果だ)
 そしたら…ある意味見事に着こなしてくれちゃって…!!

「ヒヒヒ!仮の服としては大丈夫だと思うけど、長時間そのままだと本当にある意味危険な人に大変な目に遭わされるよー。中身はちゃんと着てる?」
「あ、はい。絞りましたから!」
「なら飛んでも大丈夫だねー」

 絞って下着着けたんかい、とかいうツッコミは無しですか。

 俺は濡れた服の入ったビニール袋をスマとアッシュから受け取って大きな袋にまとめつつ、心の中で思いっきり突っ込んだ。
 アッシュが喋れたらアッシュが突っ込んでくれてたような気がするけど。

「あ、すいません。このビニール袋、このまま私にくれませんか?服を持って帰る時に便利なので」
「いいよいいよ、それくらい。ポエットの好きなようにしなよ」
「ありがとうございます」
 ポエットは、自分の服が入った小さなビニール袋を抱きかかえてにっこり笑った。
 くっ、悩殺だ・・・っ!!(ガッツポーズ)


「とりあえず、こんな所に長居するのも何だから行こっか」
 スマが促して、俺達は再び海水浴場へ出た。


 ***


「二度目のただいまー!!……って、おお!ユーリ、重労働ご苦労様」
 ユーリの元へ戻ってきたら、ブルーシートもパラソルもきちんと畳まれてあった。
 あれってかなりの重労働なのに、一人でやってのけるとは流石だ。
 そして日傘をちゃんと持参して差してる辺りが素敵だ。(どこに持ってたんだろう)

「お前達の帰りが遅かったのでな…片付けていたら全て片付いてしまった」
「ごめんごめん。けどユーリって結構力持ちなのなー。パラソル重かっただろ?」
「…、私の性別を見誤ってはいないか?」
「え、だって細いじゃんユーリ」
「お前やスマイルほどではない」

 スマが「あっれー、いつの間にか僕まで引き合いに出されちゃってるよー」なんて言いつつ、ここへ来た時と同じように犬アッシュの背中にパラソルを括りつけている。
 …いや、ちょっと待て。
 何だかさっき聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするぞ。

「ユーリが俺より太いわけないじゃんか!自信あるぞ!」
「そんな自信があってどうする」
「非常に重要な事項なんだぞ!そして絶対ユーリの方が細いっ」
「そんな事はない」
「ハイハイ、腕の直径対決してないで帰る支度手伝ってねー」
「ケンカは駄目ですっ!」
「「・・・・・・。」」

 スマイルとポエットに遮られて、双方黙りました。
 いや、てゆーか直径対決って何だ。響きが数学っぽいぞ。

 俺もユーリも『納得してません』って顔のまま、帰りの準備を手伝った。
 うーん、絶対ユーリの方が細いだろうに。
 ついでに言うと、その細さと白さはヲトメ並みだろうに。(ああ麗しや)
 …勿論これは、言えば確実にユーリに怒られると思うので口外しない。



 大きい荷物を整理し終えて、それぞれが持つ。
 よし、帰宅準備完了。

「ポエット、ここでお別れだな…」
「あ、でもこの服を洗って返したいのでまた会う事になると思います」
 俺が貸したTシャツをちょっと摘んで示すポエット。
「マジで?やった!(貸しといてよかった!!)」
「私から届けに行くので、さんの家を教えてくれませんか?」
「・・・・・・」

 ……思わず閉口。
 ポエットがそう言ってくれる事は嬉しいんだけど……
 け・ど……!

 俺は妖怪3人衆を見遣った。
 それは視線での問いかけ。
 視線はこう問うた。 『俺がDeuilと一緒に住んでるって事、言っていいか?』と。

 答えて曰く。


「いいんじゃない?ポエットなら大丈夫でしょ」
「ワン!」
「誰にも口外しないというのなら」

 視線に対し、声に出して返答して下さいました皆さん。
 よしゃ、満場一致!(若干一名よくわからないけどそこは無視の方向で!)

 ポエットは何がどうなっているのかよく理解できないらしく、首を傾げる。
 確かに、住所聞いたのに話題を回覧板にされたら首も傾げたくなるよ。

「ポエット、俺が住んでる所はちょっと特殊だ。だから誰にも言わないでくれ」
「? はい」
「実は…俺、訳があってDeuilと一緒に住んでるんだ」
「え……そうなんですか!? でもバンド仲間じゃないって…」
「バンドは組んでないけど、居候みたいな感じだな」

 告げ終えると、ポエットは「へぇー」とか「はぁー」とか、しきりに感嘆したような声を上げた。
 やっぱし有名バンドの自宅に居候している事は珍しい事らしい。
 …てゆか、普通はありえない。
 これも俺の居候を大決定した神のお蔭だね!!

「そういう訳だからな、情報が漏れないよう注意してくれ。お前なら口外しないと信じて打ち明けたのだ」
「はい。分かりました」
 ユーリが言った事に頷いて、それからポエットは俺達全員を見回した。

「では、また後日この服を届けに行きますね!今日は楽しかったです。ありがとうございました!」
「ヒヒヒ!こっちこそ楽しかったよ。色んな意味でね」
「城に篭ってるとこういう出会いも夏の降水確率より少ないっていうか、ほぼ皆無だからなー。ポエットとの出会いに乾杯」



 それから簡単に別れの言葉を告げて、ポエットは空に舞い上がった。
 ポエットが空の向こうへ飛んでいったのを確認して(天使の住む『ホワイトランド』は空の向こうにあるんだろうか)、俺達は浜を歩き出した。


 今日はリュータと会って電話番号を知った。
 ポエットとまた会う約束をした。
 凄いぞ俺、大収穫だ!

 ビーチサンダルで砂の上を歩きながら、始終顔がにやけて仕方が無かった。


 ***


 タクシーを呼んで帰宅した後、俺は自室に入って速攻で寝た。
 どうやら思ったより体が疲れていたらしい。

 勿論、海水浴で水浸しになった服は俺の分だけ全部持ってきた。
 その中で見つかってヤバいのは下着とサラシだけだが、それだけ抜いて持ってくるのも変だし。
 これなら間違ってもアッシュに洗濯はされまい。
 後で自分で洗濯しよう。


 リュータから聞いた電話番号をメモしておかなければと、眠る直前のでろりとした意識の中で考えたが、

 …とりあえず眠るのを優先する事にした。





 次に起きたのは夕食直前(しかも準備完了状態)で、俺は『最近自分の仕事が減ってるのにまたアッシュに家事を任せちまったー!!』と嘆く事になる。





〜To be continued〜




<アトガキ。>

以前よりブランクは短けれども、遅くなって申し訳ない!!仕上げました「海・後編」。
実は何日も前に終了間際まで書き上がっていたのですが、思ったよりテスト勉強が切羽詰まっていて仕上がりが遅くなりました。(吐血)

書いていたら、いつの間にかポエット溺愛小説に!!純情っ子大好きです。
アッシュが始終犬化していたのでセリフが全く無くて残念。アッシュもっと出したかったー!!

さて、次回は多人数が集合してバーベキューです。夏の風物詩(?)。
またアフォ文章になりますが、お楽しみに。

2006.07.06