台風直撃から数日後。
台風の強風で倒れたりした木を片付けたりなんかの作業が、町で粗方終了した頃。
どうやら被害はそんなに大きくなかったらしく、町はもう完全に復興したが、その間に海開きの日が過ぎた。
で、今日。
これぞまさに海水浴日和、といった日。
数日前の悪天候が嘘のようにとはよく言ったもので、痛いくらいにからりと晴れている。
タクシーを使って、数日前のスマの言葉通りに俺を含めた4人で海に来て、現在俺達は白い砂浜を目の前にしている。
…いや、「砂浜を」というよりは「人混みを」目前にしていると言ってもいいかもしれない。
昼前のこの時間帯、やはり海水浴に丁度良い暑さということもあって人が多い。
日傘を差しているユーリが、そのあまりの混雑ぶりにそっと溜息をついたのを俺は聞いた。
自鳴琴・13
海・前編
〜青い空、白い雲。そして〜
「だっはぁー…凄い人だな…」
俺は見渡す限りの人の波を見ながら、寧ろ感嘆の言葉を零す。
ちなみにユーリ達は簡単な変装をしているが、それ以前にスマイルは透明化して見えなくなっているし、アッシュは犬…いや、狼化して姿を誤魔化している。(満月の日以外は自由に変われるらしい)
ユーリはサングラスに日傘で多少ばれない様に工夫しているだけだが、これでファンにもパッと見でDeuilが揃っているとは分かるまい。
…ユーリファンに囲まれたら終わりだけど。
「さて、どこに荷物置こうか」
俺は、宙に浮いている口…もとい、口だけ残して透明化したスマイルに振り向いて言った。
「何とかスペース見つけるしかないねー」
「うーん」
周囲の人の目には、誰もいない空間から声が出ているように映るのだろう。
こちらを見た何人かが首を傾げて…しかし何事もなかったかのように素通りしてゆく。
この世界には幽霊とか普通にいるからそういう反応にもなるか。
「ま、折角記者やらファンやらにバレずに来る事が成功したんだし、何とかして楽しもう!」
ちなみに皆は記者やらファンやらにバレると人に囲まれて何もできなくなるというのが見つかってはならない理由だが、俺の場合はDeuilと住んでるなんて知られたら面倒なのでDeuilと行動を共にしているのを見られてはならない。
城を出る時は用心に用心を重ねたぞ。
「、そんなに大声で言っちゃダメだよ」
「ほいほいー。おっ、あっちの方スペース空いてるな」
俺はブルーシートと手提げカバン一つを小脇に抱えて、砂浜を駆け出す。
海の家からは遠めだけど、何とかスペースを確保。
ブルーシートを広げて敷いて、飛ばないようにカバンと足で押さえる。
他の荷物はアッシュとユーリが分担して運んでいるので、皆が追いつくまで待つ事にした。
…ちなみに言うと、スマイルは何も持っていない。
透明化する上で何かを持っていたら姿を消す意味がないんだとか言ってたけど…要するに何も持ちたくなかっただけなんじゃなかろうか。(ぇ)
だって、透明化して物持っても荷物が浮いてる様に見えるだけだし。
正体がバレなきゃ、透明人間が歩いてようと別に構わないんじゃ?
まぁいいけど。スマだから。(どういう理屈)
「…暑い………」
間もなく追いついたユーリが、呻く様にぼやいてから大きなカバンやら何やらを重そうにブルーシートに置いた。
アッシュも、背に縛っておいたパラソルをスマイルに降ろして貰って息をつく。
「アッシュもユーリも、お疲れ。…それにしてもユーリ、完全防備だな…」
パラソルを立てているスマイルを尻目に、しゃがんで尚日傘を差しているユーリを見下ろした。
ユーリの服装は、薄手の長袖にジーパンにサングラス、おまけに白い帽子を被った、日焼け対策万全なもの。
ついでに言えば、当然日焼け止めは服の下までたっぷりと塗られている。
「…日に焼けると赤くなって痛いからな…」
「あー、それだけ白ければなぁ」
ユーリの肌は、いっそ不健康なほど青白い。
イコール、焼ければ大ダメージ。(水属性?)
無理矢理連れてきたのはちょっと悪かったか?
スマイルが立てたパラソルの下にごろりと寝転がってから、ユーリはぴくりとも動かなくなった。
「…大丈夫か?」
「……影の下なら丁度いい気温だ」
「ヒッヒッヒ、まるで年寄りだねぇ」
いや、実際人間からすれば年寄りだけどな。
少なくとも200年は生きてるんだろ、ユーリって。
「こりゃ駄目だね。ユーリは無理そうだから僕らで遊ぼうか」
「うーん、いいのか?ユーリ」
「構わない」
…あぁ、でもユーリの水着姿を拝む事はできなかったな…。
夏だよ☆オイル塗りましょうか作戦が!!(何それ)
ユーリの白い肌にオイルを塗り込む野望は潰えた…。
しかもアッシュは見ての通り犬…じゃなくて狼姿だし、スマに至ってはどこに肌があるのかすら分からない。
うわぁぁん!これじゃ海に来た意味が!!(目的はそれだけなのか)
がっくりとうなだれた俺に、下方から「きゅぅん」と聞こえた。
…犬狼アッシュだ。
「あー、ごめんごめん。大丈夫だから。今ビーチボール膨らますから待ってな」
アッシュの頭をがしがしと撫でてから、俺は大きい方のカバンを漁って、しぼんだ状態のビーチボールを取り出す。
あ、そういや風船を膨らますダイエット法とか聞いた事あるぞ。
新品の風船でやる方がいいらしいけど、ビーチボールでも多少は可か?
よし、それなら浮き輪とか全部に頑張って息吹き込んでやるぞ!
ぷふぅ、と力を込めてビーチボールに空気を送り込む。
お、わりとすぐに膨らむな。
まぁビーチボールだし、小さいし。
てことで、俺はビーチボールに栓をしてアッシュにパスをしてから、大きなカバンから浮き輪を3人分(アッシュとスマと俺の分)を取り出そうと手を突っ込む。
…が。
「あれ?3つしかない?」
ユーリの分も入れたはずだから全部で4つあるはずなのに、あったのは3つだけ。
疑問に思っていると、隣から『ぷしゅぅ』と空気の擦れる音。
…よもや。
「あぁっ!!スマ、駄目じゃん!!俺が全部膨らまそうと思ったのにっ」
「ふ?」
あまりに可愛らしすぎて鼻血噴出しそうだから、そんな声出して聞き返すのはやめなさい。
俺の隣では、浮き輪が宙に浮いて勝手に膨らんでゆく。
…つまり、スマイルが俺の隣で浮き輪に空気を入れているのだ。(いつカバンから取ったんだろう)
そして俺がスマイルの可愛さに悶えている間も着々と膨らませてゆく。
「あーもー、残りは俺がやるから。ほらアッシュ、アンタもやっちゃ駄目」
手伝おうとしてくれてるのは嬉しいけど、犬姿(失礼)になってまで浮き輪膨らます努力なんてしなくても大丈夫だって。
寧ろ俺の痩せようとする努力を妨害しないでくれ!
スマが今膨らませている浮き輪と合計して3つになるように後の二つを取って、その場にどっかりと腰を下ろす。
さぁ、準備はできた!
浮き輪の栓を外して少し引っ張り出し、空気の入口を軽く咥えて空気注入開始。
しゅこー、と言う音と共に少しずつ呼気が入り込んでゆく。
うぅ、やっぱり浮き輪は大きいから大変だ。酸欠になりそうだ。
「大丈夫ー?」
もう既に浮き輪を一つ膨らませ終えてしまったらしいスマイルがこちらを見て…いるのか?
透明化してるからいまいち分からない。
けど、心配してくれているのは確かなようだ。
俺は首を何度か縦に振って、一心不乱に鼻から吸った息を口から浮き輪に注ぎ込む。
その内意識が朦朧としてくるが、腹筋を使ってひたすら膨らましまくる。
うおぉっ、ここで負けたら男じゃねぇ!(女じゃん)
「―――っぷはぁ!!!」
ようやく空気で張った浮き輪を口から離して、栓をする。
あ、ああぁ…酸欠が…。地球〜がま〜わ〜るぅ〜♪……(by.ラ○ュタ)
「大丈夫?」
「、それは肺活量のある者でもつらいと思うのだが」
「うへぁ…機長、俺はもう駄目です・・・」
「機長とは誰だ」
そんな細かい事気にしちゃ駄目だよユーリさん。
それじゃストレス溜まってハゲるよ?
……ハゲたユーリなんて想像したくないよ。(しそうになっちゃったよ)
深呼吸を繰り返して、とりあえず何とか復活。
「うぁー、死ぬかと思った」
「もう大丈夫なの?」
「おう。それより早く海に行こう。暑くてしょうがない」
暑いっていうか、もう日差しが熱いって感じなんだが。
泳ぐ事を考えて、どうせ落ちるだろうしと日焼け止めを塗らなかったのが災いして、日に当たっているだけで肌がピリピリする。
こりゃ明日になったら赤くなってるかなー。
……。
……そういえば、スマって肌青いし…日焼けしたらどうなるんだ?
「スマイルって日焼けしたら赤くなるのか?」
「え、…秘密☆」
「何で!!?」
「見てからのお楽しみだよー」
あーもー、またその手かよ。
…しかも日焼けが楽しみっておかしな話だよな。
やっぱ赤くなるんだろうか。
でもそれじゃあ、青い肌と重なって紫色になったりしないんだろーか。
うわぁ、全身が痣みたいに・・・!?
恐いな。
それとも、最初から焼けないとか?
妖怪だから人間の肌と構造が違ってたりして。
…って、それじゃユーリも焼けない事になるからおかしいよな。
あ、でも種族違うじゃん。
俺が考え込んでいると、
『バサッ』
目の前に半袖Tシャツが落っこちてきた。
あ、これ…ここに来る前にスマが着てたやつだ。
…てことは、脱いだのか?
「スマ、今上半身素肌ですか!?」
「うん、海パン一丁」
「!!」
う、うわああぁ!!!透明化したままだから見えないよっ!!
スマの柔肌が見れないなんて…!!
海に来たら水着姿を眺め回す予定だったってのに・・・っ(変態か)
心中で嘆く俺と、軽く頭に疑問符を浮かべるスマと、スマの脱ぎ捨てたTシャツを肉球のついた手(前足とも言う)で丁寧に畳むアッシュ。(器用だ)
プラス、暑さでダウンしたままついに何も言わなくなったユーリ。
「はTシャツ脱がないの?下も普通のズボンだし」
「え?えへへへー」
スマ、そこは突っ込んじゃいけない所ですぜ!
俺の現在の服装は、半袖Tシャツにジーンズ地の短パン。
それは当然、男物の水着なんぞ着けて泳ぐ事が出来ない上、女物の水着を着ても女装扱いされるだけだからである。
ちなみにTシャツは黒なので水に濡れても透けません。
「俺恥ずかしがりやさんだから!もう、普段着のまま泳ごうかと思って」
「えー、それじゃ水着着てるの僕だけじゃん」
「ごめんごめん」
「しょうがないなぁ」
…って、何がしょうがないんだ?(裏手ツッコミ)
そっちも姿見えないんだからおあいこだろ。
「ま、さっさと海に入りますか」
「ハーイ」
俺とスマイルとアッシュは、浮き輪とビーチボールを持って海へと向かった。
「ねぇねぇ、聞くけどさ」
「何?」
「ビーチボール膨らましたって事はビーチバレーするの?それとも、浮き輪持ってるから水泳?」
「あ、考えてなかった」
アッシュが鼻先で押し転がして運んでいるビーチボールに視線を落とした。
そこにあったから膨らましてみただけなのさ!!
「うーん…じゃあ間を取って……海上ビーチバレー!」
「それって間?」
「深いことは考えないで下さい。海に入って泳ぎながらバレーですよ、やってみたくあーりませんか?」
「まぁ、浮き輪使ったら大丈夫だよね。やろっか!」
「OK!」
俺とスマは、浮き輪+ビーチボールを持って海の中へダッシュ。
アッシュも自分の分の浮き輪をビート板のようにしながら海へ。
おー、毛が濡れたらモップみたいだなアッシュ!(ぇ)
「ぐっはぁ、いきなり入ると水冷たすぎて心臓麻痺起こしそうだぞ」
「大袈裟だねー。でもが本当にそんな事になっちゃったら僕泣いちゃーう」
「あっはっは、本当か?」
「本当本当ー」
アッシュが横から「何言ってるんだろうこの人達は」みたいな視線を投げかけてくるから、とりあえず頭をメチャクチャに撫で回しておいた。(酷)
嫌そうに「キューンッ」とか「キャウンッ」とか鳴いてたけど、可愛いから余計に撫でたくなるじゃないか!
「あーもー、可愛い奴めっv」
「、言っとくけどそれ、普段は180cm強の大男…」
「元の姿でも可愛いからいい。」
「「・・・・・。」」
あ、何だよその沈黙。
いいじゃないか、可愛いものは可愛いんだから。
そうしている内に海の底がどんどん深くなってゆき、足が全くつかない場所まで来た。
この辺まで来ると浜辺よりは人が少ないな。
ていうかほとんど居ない。
「ここならもう透明化解いてもいいんじゃないのか?」
「ヒヒヒッ、確かに人は少ないけど、今透明化を解くと前にに訊かれたものの答えが出ちゃうから駄目☆」
「…え。」
…そういや、前にスマの腹が普段から透明なのかそうでないのかで色々言い合った事があるな…。(そしてその時最後まで教えてもらえなかった)
確かに、今透明化を解くと生腹を見ることになるから答えを知る事にもなる。
あぁくそっ!あの時無理矢理にでも知ればよかった!
そしたら今スマの水着姿を見せてもらえたかもしれないのに!
…てか、可能性としては、今透明化を解いても胴体は見えないままの場合があるのか。
うーむ、けどそうでない可能性もあるし、見てみたい気がするんだけどな…。
まぁ、どうせここで駄々こねてもどうせ見せてくれないんだろうから諦めるけど。(今回の目的はそっちじゃないしね)
次は絶対に解明してやる!!(解明って)
「、この辺でできるんじゃない?海上ビーチバレー」
「おー!じゃあ早速やろうか。只今より、海上ビーチバレー大会開催!!」
「はい、司会のアッス君何か一言っ」
「ワンッ」
「ワン、だそうです!」
「捻りのないコメントですねぇスマイルさん!」
「そうですねサン!」
2人で笑うと、アッシュが「ぴすん」と鼻を鳴らした。
あ、怒った?
「ごめんごめん、悪気はなかったんだって。ほれ、パス!」
持っていたビーチボールをアッシュに向けて片手でトスする。
あ、そういやアッシュは浮き輪の上で腹ばいになってるから受け止めようがないんじゃ……?
「うわぁっ、ごめん!避けろアッシュー!!」
慌てて叫ぶが、その言葉が終わるか終わらないか、その間際。
『ぺすっ』
アッシュが、ビーチボールを銜えて受け止めました。
いや、銜えるっていうか大口開けてビーチボールを乗っけてる感じなんだけど。
「おぉっ、アッス君凄い!」
「水族館のアシカみたいだぞ!」
アッシュは、首だけ振り動かしてボールをスマイル(の居るだろう方向)にパスした。
スマイルが軽い音を立ててそれを弾き、今度は俺にパス。
「はい次!そーれっ」
「ほいほいっ!アッシュ行くぞー」
スマがパスしたボールが海に落ちない内に、右手で浮き輪を掴みながら左手でビーチボールをアッシュに向け打ち上げる。
アッシュは今度は鼻先で打ち返した。
何だかこれ、バレーっていうか単なるビーチボール遊びだな。(今更)
でもまぁ、楽しいからいいか。
何巡かして、再びアッシュに向けてパスをする。
まだ1回も落ちていない。
ここで落とせば今までの連続パスは非業の死を遂げることに…!!(何それ)
『ぺすん』
アッシュは無事パスをした!
次はスマイルだ。
「!落とさないで、ねっ!」
『ぱすん』
軽い音を立てて俺に向けボールを飛ばすスマ。
スマの浮き輪から2〜3m離れた位置に居る俺へ、弧を描きながらボールが飛んでくる。
スマはコントロールがうまい為、こっちに来たボールを捕らえるのには然程苦労しない。
俺は上から落ちてくるボールをアッシュに向けて打ち上げる為に両手を伸ばした。
―――が、その瞬間。
「ひぎゃああぁぁぁ!!?」
『バシャッ!!!』
突然俺の脚に何か細長いものが絡みついた!!
何だ!?タコか!?イカか!?ニシキヘビか!?(せめてウミヘビと言え)
その細長いものは、俺の脚をぐいぐいと海中に引っ張ってゆく!
「ぎゃー!!」
「!?」
「ワゥンッ!!」
ぺす、と音がして俺の頭にビーチボールがヒット。
バウンドして海に落ちた。
うああぁくそっ!落としちゃったじゃないか!!
ていうか脚引っ張るな!浮き輪から体が抜けるー!!
「誰か助っ、がぼっ、うごがー!!」
駄目だ、浮き輪から引きずり下ろされる!口の中に海水がっ!
「、つかまって!!」
スマが俺の片手を掴んだ。
俺はもう少しで浸水しそうな顔を何とか海上に出して、もう片方の手でスマの手を掴む。
しかし、水中であるが故に力任せには引っ張り上げられないらしく、徐々にスマごと引きずり込まれてゆく。
アッシュがスマの浮き輪を引っ張るような感じで頑張るが、ほとんど意味が無い。
ていうか、これって簡易式「大きなかぶ」ですか!?(小学校の教科書より)
厄介なのは、引っ張られているという事よりも寧ろそいつが暴れているという事だ。
何とか体制を元に戻そうと奮闘する俺をがっちりと絡め取って、まるで離すまいとするかのように暴れまくる。
魚に食いつかれた餌になった気分です。
つーか、何だか徐々にスマとアッシュの力が弱まってきてる?
そりゃ力一杯引っ張ってりゃ疲れもするだろうけど、このままじゃ引きずり込まれる!
周囲に居るまばらな人達もこっちに注目し始めてるし、早く何とかしないと。
と、
「うおぉあ!!?」
突然スマとは別の手が俺の腕を掴んで物凄い勢いで引きずり上げ、俺は浮き輪をしっかりと掴まされる。
何事かと目を向ければ、そこには元の姿に戻ったアッシュが。
どうやら俺を力任せに引っ張り上げたのはアッシュらしい。
…掴まれた腕が少し痛い。
「、俺が下を見てくるんでちょっと頑張っててほしいっス!」
「な、なるべく早くっ」
「が沈まない内に戻ってきてねー」
「了解!」
アッシュはどぼん、と音を立てて海に潜っていった。
その間にも脚に絡まったヤツに引っ張られ暴れられ、俺は必死に浮き輪にしがみつく。
スマイルは俺の腕を握ったまま、また引きずり込まれないように固定してくれてる。
……数秒が経って。
「…あれ?解けた」
「え?」
「脚に絡まってたやつが解けた!」
本当に突然、するりと脚から解けた細長いもの。
何だったんだ、本当に。
抵抗するのに体力使いまくっちまったじゃないかい。
ぜーはーと切れる息を整え、スマに腕を放してもらってアッシュが潜った地点を見遣る。
・・・よもや。
「今度はアッシュが代わりに引きずり込まれて・・・?」
「アッス君食いでがありそうだもんねー」
「食われる事前提!?ていうか助けようとか思わないのかよ!」
「んー。アッス君なら大丈夫なんじゃナイ?」
「何を根拠に……」
『ザバンッ』
言いかけた所で、水しぶきを上げて緑の物体…もとい、アッシュの頭が浮上。
「ほらねー」
「ほらねって…。ていうか、何か抱えてるぞアッシュ」
アッシュは何かを抱えたまま自分の浮き輪に泳いでいった。
…何持ってるんだ?金色っぽかったけど。
「た、大変ッス…」
「どうしたんだ?」
「それ何?」
俺とスマが泳いで近寄ると、浮き輪に腕を通して浮力を得たアッシュは、片腕で抱えたそれを俺たちに見せた。
「……え」
「…うそん」
腕の中のものを見て思わず呆然と呟く俺とスマイル。
アッシュが抱えていたのは……白い翼を生やした金髪の女の子だった。
女の子はぐったりとしていて、目を閉じたまま動かない。
「もしかして俺を引っ張ってたの…」
「この子ッス。ついさっき気を失ったんスけど…どうも溺れてにしがみついてたっぽいんスよ」
「・・・・・・・・」
お父さんお母さん。
娘は海で天使を釣っちまいました。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
ぐっはあぁ!!?なんてこったい、だいぶ時間を置いての更新ですね!;(滝汗)
おかげで物凄く季節外れですよ。寒そう。
おまけに予定外の前後編です。申し訳ない・・・!
釣った天使の正体は…もう分かりますよね。(何)
次回はもう少しキャラが出てくる…かもしれない。
ではまた会いましょう!
2005.12.3