Deuilの仕事が大変なのは分かる。
 昨日も明け方まで仕事やってて、帰ったのが実質今日の朝だったって事も、玄関の扉が開閉する音が聞こえてうっすら起きたから知ってる。

 普段なら起きる可能性低いんだけど。
 誰も居ない城で「おやすみなさい」を言う相手も居ないまま眠りについたから、何となく眠りが浅かったんだ。
 …皆が帰ってきたのが分かった途端に今度こそぐっすり数時間の夢の旅に出ちゃったのはまぁ、置いといて。


 あの3人は忙しいんだよな。
 で、事前に聞いた所によると今日は久々のオフだよな。

 …いや、けどさ。

 朝帰ってから今(夜8時)まで誰も起きてこないってどうよ。

 先刻から鳴り続けているお腹の虫を何とか静めようと念じてみるが、効果無し。
 俺は、一度溜息をついてから、決心したように立ち上がってリビングを出る。
 スマから貰った城内地図を、広げた。






自鳴琴・10
寝起きドッキリ
〜寝室パラダイス〜







 えーと。
 とりあえず晩御飯を作ってくれる奴を起こせばいいんだから、アッシュを起こしに行くか。

 …いや、3人とも朝7時に帰ってきてそれからずっと寝てるんだ。
 かれこれ13時間も寝ている。
 さすがにこれ以上寝かせておくのは寧ろ体に悪いような気がする。
 ………かつて200年も寝こけてた某吸血鬼のケースは置いといて。

 よし、全員起こそう。

 もう起きていて、部屋で何かしているだけなのかもしれないが、そうでない可能性もあるので3人の部屋を全て回る事にした。
 …つーか、全員の寝室を巡りたい。(ここ重要)
 Deuil寝室一周ツアー最高!!!(親指グッ!)

 朝・昼と俺の食事をトーストで済まさせた上に夕食まで無視しかねない勢いでいる酬いだ!!(料理できない)
 寝顔バッチリ見てやるもんね!
 ……カメラ買っておくべきだった。


 広げた地図を見る。
 えーと、ここから一番近い部屋は……
「スマの部屋かぁ」

 スマの部屋は1階。前に来た事があるなぁ。
 …あの時は道順全然分かんなかったけど。

「ここを左…」
 入り組んだ廊下を進んでいく。

 少しして、そこに辿り着いた。

 えーと、ここで合ってる…ね。
 右から8番目の部屋だし。

 俺は深呼吸をして、そっとドアノブに手を掛ける。
 …ノックなしで入るのは失礼だと分かっていたが、ここはあれだ。ドッキリのノリで。

(おっじゃましまーす)
 吐息に乗せる程度の声で言いながら、ドアを開ける。
 寝顔拝見しますっ!!
 …と。

「何してるの?」
「うへぁおあぇっ!!?」
 部屋の中にいた人物に、俺は女子としてありえない奇声を上げる。

「そんなに驚かなくてもいいじゃん」
 気が動転しておろおろしている俺に、正面の人物はむくれた。
「…へ?あれ?スマ?」
「僕の部屋に僕が居たら悪い?」
「え、あ、いや…」

 てっきり寝てると思ってたからかなり驚いたよ…。
 …冷静に認識したらスマ以外の何者にも見えないんだけど。

「えーと、皆起きないから起こしに来たんだ。スマは起きてたみたいだねぇ」
「そりゃもう!ギャンブラーZの放送時間には起きてたよ」
「あー。…って言うと、1時間前?」
「うん。で、今終わった所。スペシャルだったんだ」
「へぇー」
 ていうか自室にテレビ置いてるのか。

 …ちっ!!あと1時間早く来てたらスマの寝顔が拝めたのに!!何か凄い敗北感!!
 くそぅ、次の部屋でリベンジだ!

「じゃ、俺次の部屋に行くから」
「僕もついて行こうか?」
「……………、いい。スマはリビングに行っててくれるか?アッシュ呼んで晩御飯作らせるから待機しててほしいんだ」
「えー、二人にイタズラする絶好の機会なのにー」

 納得のいかない顔をするスマイル。(ってかイタズラの為なのか)
 あぁ、けど連れて行ったら俺の萌えに歪んだ奇妙な表情見られて大変な事になるし…!

 ちなみに晩御飯を作らせずに待機させるのは、スマに作らせるとメニューが99%の確率でカレーライスになるからだ。
 残念ながら昨日も一昨日もスマのリクエストでカレーを食べたので、少々飽きてしまった。
 おいしいから結局不平は言わなかったんだけどね!!

「ほら、行った行った」
「…はーい」
 部屋から引きずり出して背を押すと、しぶしぶリビングの方へ向かうスマ。
 ごめんよ…!


 俺は再度地図を広げて、次に行く部屋を調べた。
 …えーと、ここから近い部屋は…、

「おー!アッシュの部屋か」
 行くのは初めてだな。
 …って、スマ以外のメンバーの部屋は行った事ないんだけど。

 アッシュの部屋はここと同じ1階だな。
「えー、ここを左、ここを右、ここを…」

 …入り組んでるなぁ、この城。まるで迷路だ。
 確かに、侵入者には効果抜群かもしれない。城とは本来そういうものだ。
 ……地図なくしたら一気に迷子になること確定だな…。
 城の中で遭難ってどうよ!?
 ……シャレになんない・・・。

「…なくさないようにしないと…」
 地図の貴重性をひしひしと感じながら、進む。

 と、並ぶドアの中に1つだけ、半開きのものがあった。
「…?」
 地図とその部屋を見比べる。
 …えーと。

「…ここがアッシュの部屋じゃん…!!」
 地図を折り畳んでポケットの中に入れ、俺はアッシュの部屋のドアに近付く。
 こ、今度は起きてないよね…?
 そっと隙間から覗いてみるが、俺に気付いてドアのすぐ近くに立っているというような気配は感じない。

 今度こそ寝顔拝見!!
 あわよくばそのまま襲(以下省略)

(お邪魔しまーす)
 呟いて、半開きのドアをゆっくり引く。
 ドアは音もなく開いた。

 うっわぁ、綺麗だ…!!

 思わず室内をきょろきょろと見回す。
 男性らしい、必要なものだけが置いてあるシンプルな部屋。
 しかし整理整頓はきっちりと為されていて、下手しなくても元の世界の俺の部屋より綺麗。
 さすがアッシュだ!(親指グッ!!)

 しかし電気がついたままなのだが、本当にアッシュは寝ているのか?
 ドアも半開きだったし。
 几帳面なアッシュのことだから、きちんと寝る準備をしてから寝そうな気がするが。

 ベッドが見当たらないので、奥の部屋の方にあるのだろう。
 壁からドアだけ取り外されたようなそこをくぐり、俺は奥の部屋に入った。

 ベッド発見。
 その上にアッシュは………いた!!
 思わずその場で大きくガッツポーズ。
 接近しますよ!!

 音を立てずに素早くベッドサイドに来ると、俺はしゃがんだ。
 ベッドの上を見る。

 アッシュは、コートを脱いでそのまま力尽きたらしく、上に何も掛けることなく仰向けに寝ていた。(風邪引くぞ…)
 少し斜めに寝ている為、片足がはみ出てベッドから落ちている。

 ……。
 …あのー。

 本気で襲っていいですか?

 無防備すぎだ!
 つか、可愛すぎる!!

 死んだように寝てるけど、上下してる胸とか微かに聞こえる呼吸音とかで健やかに寝てるだけなのは確認済み。
 このままベッドの上に乗って抱き締めてちゅーするくらいなら・・・!!
 いや、それじゃ起きるか。…じゃあ頬ずりくらいなら許されるだろうか…!

 ベッドサイドで鼻息荒くしてしゃがんでる女子高生っていかがなもんだろーか。

 俺は欲望と萌えを抑えつつ、取り敢えずはそっと髪を梳いてみる。
 …わぁー、やっぱこの色は地だったのか。
 指通りいいなぁ。若干剛毛っぽいけど。

 普段見ることのできないアッシュの瞼が姿を現す。
 いつも前髪で隠してるから目は見られないんだよなー。勿体無い。

 頬を指でつつくと、大福のような柔らかい感触が。
 …くぁーっ…!!可愛い・・・っ!!

 次は何処を触ってみようかとウキウキしながら手を彷徨わせる。
 …が、

「ん…、ん?」
 掠れた声を零し、両の瞳を薄く開くアッシュ。
 あーっ、しまった、起きたか!
 …もっと大胆に触っときゃよかった。(どこを、とかは聞かないで!)

 アッシュの視線が、数秒間宙を漂う。
 いつも両目を隠している前髪は、俺の手によって掻き分けられていた。
 よって、現在アッシュの瞳は俺によく見えるわけで。

 アッシュの瞳は、ガーネットのような深紅だった。
 …珍しい、というか。
 スマイルもユーリも赤の瞳を持ってるんだけど……、アッシュの目は黒に近くて、光の加減によって燃えるような紅が見える、っていうか。
 陳腐な言葉を使って言うと、“宝石みたい”。

「おはよー」
 俺がにっこり笑って言うと、アッシュはようやく俺に視線を向けて。
「!!」
 慌てて前髪で目を隠しながら上半身を起こす。

…っ!?何でここにっ」
「もう夜の8時だよー。お腹減った」
「あ…?」
 壁に掛けられた時計を見て、「うわぁ」と呟くアッシュ。
 その後に「電気つけっぱなし…」とか「もう外が暗いっス…!」とか聞こえる。
 …あれだけ寝ていては時間感覚ずれてしまっているのではなかろーか。

「さ、スマもリビングで待ってるから早いとこ何か作って下さいなー。こればっかりは俺じゃどうにもならない」
「あ、はい」
 アッシュはわたわたとベッドから降り、少し乱れた服を整える。
 俺は立ち上がって、先にドアの方へ歩き出した。

「…
「ん?」
 ふいに声を掛けられて、振り向いた。

「俺の目…見た、っスよね?」
「うん。びっくりした」
「……」
「宝石みたいだった」
「……、は?」
「何で隠すのさ、勿体無い。ていうか前髪で視界遮ってると目悪くなるよ?」
「は、はぁ…」

 呆けたような表情で首を傾げる人狼。
 おーい、まだ寝ぼけてるのか?

「眼鏡掛ける事になってもアッシュなら似合うと思うけど、目は大切に!」
 びしっと指差して言って、俺は部屋から出る。
 アッシュも、蛍光灯の電源を切ってから遅れて出てきた。

「あの…。俺の目、恐くなかったっスか?」
「………は?」
 ドアを閉めながら小さく問いかけてくるアッシュと、問いかけの意味が分からず首を傾げる俺。
 寧ろ今はその垂れた耳を愛でたい気持ちで一杯なんですが。

「ずっと前、小さい子に恐がられた事があるんス。傍にユーリもスマも居たんスけど、その子は俺と目が合った時だけ泣いちゃって。…良く考えたらファンの中でも俺と目が合うとちょっと引く人も居たっス」

 言って、しょぼくれる狼男さん。
 あー、うーん。それで前髪で目隠してたって事かい?
 主夫で保父なアッシュならあり得る話だねぇ。

「そーだなぁ…。その人達の気持ちは俺には理解しようがないけど、俺の意見だけ言わせて貰うとアッシュの目は恐いどころか見惚れるほど綺麗だ。どこの高級な宝石ですか」
「………」
「ちょこっと思い当たるのは、予想に反して微妙に釣り目だったって所かな?その巨体にプラスすると、少しばかり恐いかもしんない」
「…やっぱり、恐いんスか」
「でもそんなの、アッシュの事全然知らない人だけだ」

 きっぱり言い放つと、アッシュは小首を傾げた。
 …いや、だから。萌えるしかないじゃないか、そんな仕草されたら。

「アッシュの事をちょっとでも知ってたら、恐がるとかそんな芸当誰ができるかっての。ただでさえオカン気質で、身の丈に反比例するが如くこんなにも気が小さいのに。こんなヘタレを目だけで恐がれたらそれこそ仰天だ」
「……何か微妙に聞き捨てなら無い気が」
シャラップ!!とにかく、アッシュの事微塵も知らずに恐がるそんな人達の事は知らん!放っとけ!!アッシュの目が本当は凄く綺麗で穏やかだって分かるのは、アッシュの中身を少しでも知ってる人達だけでいい。…そうじゃないか?」
「………」

 口を半開きにした状態で数秒固まる背の高い狼男。
 「おーい」と顔の前で手を振ったら、アッシュは呆然としたような口調で呟いた。

「何か、そんな事言われたの初めてっス…」
「あっはっはぁ、確かに『ファンの子切り捨てろ』なんて直球で言うような輩は俺だけだろうなぁ。…ま、要するに気の持ちようだ。見られて何ぼの職業だからやっぱ本当に割り切る事はできないだろうし、何も知らない人から恐がられるのが嫌なら精神衛生上今まで通り前髪で隠しててもいいと思うけど、必死になって隠す程じゃない。それだけは覚えておいてほしい。…理解したかい、狼男さん?」
「はい。とにかくが一般に見られないくらい妙な考え方の持ち主だって事は分かったっス!」
「うおおぉい!!?」
「あはは、冗談っスよ。何か凄く嬉しいっス。ありがとう」
「(冗談に聞こえないよ…)いやいや。寧ろ俺の主張聞いてくれてありがとう」

 互いに微笑み合う。
 あーもー、ほんとにこんな繊細な心の持ち主にどこの誰が恐いなんて抜かすんだか。
 機嫌良さげに耳がぴこんと上向いてる様子なんて、可愛い事この上ない!

「さて、そろそろ夕飯作りに行くっスよ」
「あ、俺はユーリも起こしてくるから。料理よろしく!」
 ぴっと手を挙げて宣言して、アッシュが「分かった」と言うのを待つ間もなく俺は歩き出す。



「……何というかもう、敵わないっスねぇ」
 俺が去った後、小さな声でぽつりと漏らしたアッシュのその言葉も、その一皮向けたような晴れた笑みも、俺の知らない事。



 ***



「ここかぁ」
 ユーリの部屋。現在6つ目の。
 …本の海になっていた元部屋5つから考えると、何だか危険な感じがしないでもないが。

 ここは、アッシュの部屋から階段を上がって2階。
 少し見つけにくい場所だ。
 地図があってよかった。

 俺は、小さく「お邪魔しますー」と言ってから、音を立てずにドアノブを回した。
 ドアノブを握る手に、精一杯の力を込める。
 …万が一、室内に大量の本が溢れかえっていて、開いた瞬間に雪崩が起きても多少は耐えられるように。

 が、ドアは圧される事なく普通に開いた。
 ほっとしながら部屋に入ると、

「!!」
 何とびっくり、真正面にベッドがあった。
 奥に置いてないって事は俺と同じか。
 ……ユーリは棺桶で寝てるかと思った。(「吸血鬼=棺桶」なイメージ)

 ドアの外の廊下には俺が明かりをつけたので、ドアを開いた状態なら漏れ入る光で室内を少々見渡す事が出来たのだが、閉じれば暗い。
 開け放たれた窓から月光が差し込むのみ。
 襲うには絶好のシチュエーs(以下省略)

 うーん、でもちょっと暗いかなぁ。見えなくもないけど。
 いや、でも明るくしたらしたで起きそうな気が……。
 …起こしに来たんだろ、というツッコミは無しの方向で。
 まず先に寝顔を拝まねば来た意味がない!!


 考えていると窓から、ヒュゥ、と風が入り込んできた。
 …少し寒い。
 夏に近付いてはいるようだが、夜になるとまだ肌寒いくらいだ。

 多分朝に寝始めたから窓開けっ放しだったんだろうな。
 まったく、アッシュといいユーリといい、風邪ひくぞ。
 ……それとも妖怪は風邪ひかないんだろうか…?

 ベッドの横に来て、そっと大きな窓を閉める。
 夜だしついでに鍵も閉めておこうと手を伸ばすが、月が丁度雲に隠れて真っ暗になってしまって、出来なかった。

 って、あー!!これじゃユーリの寝顔見れない!!
 ユーリが寝ているはずのベッドを振り返るが、何も見えない。
 さっきの時点で見ておくべきだった…!

 うー、もうさっさと起こして連れて行くしかないのだろうか…。
 あんまり時間くってると怪しまれるし。

 あぁでも折角のチャンスなのに勿体無い…。
 どうしよう。うー…。………。
 …よし。

 こうなったら部屋を明るくして、起きるまでの数秒間穴が開く程見詰めるしか・・・!!
 決意して、部屋の電気をつけようと見回す。……が。


 ス、スイッチが見えない・・・!!


 俺の部屋と同じ構造だからスイッチのある場所自体は分かるんだけど、暗くて正確な位置が掴めない。手探りで分かる程部屋の構造に慣れてるわけでもなし。
 ならば部屋のドアを開けて廊下の明かりを取り込もうと、俺は恐らくドアがあるだろう方向に向かってそろそろと歩いてみる。
 …うっかりベッドに足引っ掛けて転んだりしたら終わりだ。
 まだ起きないでくれユーリ!!

 中に入った時と違って月明かりがないのが厳しい。
 何とか行けるか…?

 …しかし、俺はこの部屋に来たのは初めてだ。
 見慣れない部屋で真っ暗な状態。これで正確に動けと言う方が無理なのであって。
 壁にぶち当たったり、つま先に何かが当たったりで本当に動きづらい。
 ドアは何処だー!!

 …と、

「!」

 すぅ、と柔らかい光が差し込む。
 月光が戻ってきたのだった。

 やった!これでドアに辿り着ける……
 …じゃなくて、
 ユーリの寝顔が見られる!

 がばっと振り返り、ベッドの上を凝視する。
 ユーリは、寝た時の姿勢から動いていないのだろうか、まっすぐな体勢で寝ていた。
 いや、13時間も寝てて動いてないんだとしたら凄いぞ…!?
 寝返りうった後、元に戻ったとか?

 足早にベッドサイドに来て、膝立ちになる。
 ユーリは……
 …まるで人形のように綺麗な顔をして寝ていた。

 うわ、これ等身大の人形だって言っても通じるくらい美しいですよ・・・!?

 ぼんやりとした光を照らし返す、絹のような銀髪。
 少女マンガのヒロイン並みに長い睫毛。
 僅かに月光に照らされた肌が、白すぎるくらい白い。

 思わず嘆息すると、ユーリは小さく呻いた。
 ヤバい、起きたか?

「む…、……もう少し寝かせろ…」
「はっ、?」
 ユーリが言った直後、俺は後頭部をユーリの左手で捕らえられる。
 反応を返す前に、俺の顔面はベッドに押さえつけられた。
 な、なな何事!!?

もが!?むふー!!」
 苦しくて後頭部の手をはがそうと奮闘してみるものの、どこからそんなに力が出るのか、どんなに頑張っても駄目だった。
 さすが男の人だ…(ウフフフ)

 ・・・・・・・・・・じゃなくてだな。
 このままじゃ窒息するー!!
 殺人しちゃ駄目でしょ有名バンドリーダー!!

「んむー!!むごぉーっ!!!」
 殆ど人外の雄叫びのような声を出しつつ、俺はじたばたともがく。
 するとユーリは手の力を緩めた。
 あ、ようやく解放されるか…?

 と、思ったら。

「うるさいぞアッシュ…」
「ぶほぅっ!!!」
 更に強い力でベッドに沈められました。

 ていうか「アッシュ」!?
 完全に寝惚けてらっしゃるようですが!!

「もぶ…っ、ぷふーっ!」
 …押し付けられてから1分は経過しただろうか。
 叫ぶのも無理っぽくなってきた。
 酸素足りない…!

 うあー、頭がぼーっとしてきた。
 し、死ぬ……。


 拝啓、元の世界及びこの世界の知人達。お元気ですか?
 先行く不幸をお許し下さい…。

 走馬灯は見えませんでしたが、このお方に殺されるなら本望だとワタクシの萌え魂が叫んでおります。
 ですので、どうかユーリを逮捕するのはやめてください。

 短い人生でしたが、今までどうもありがとうございました。

 敬具


 そしてそっと意識がフェードアウト……
 …する前に。

『ガチャッ』
、いい忘れてたんスけど…」

 ちょっと焦った声で言いながら、誰かが入ってきた気配がして。

「って、うわああぁ!?!!
「………」

 既にぐったりとしている俺に駆け寄った。


 ***


「うあーん、本気で死ぬかと思ったああぁ」
 涙目になってスマイルに縋りつく俺。

「もう大丈夫だって。ユーリも悪気があってやったことじゃ………ないんだし、…ねぇ?」
「その間は何だ。悪気はない。」
 正面のソファに座ったユーリがツッコむ。
 それにスマイルがヒヒヒッと笑った。

 ここはリビング。
 アッシュが何とか俺を救出して、ユーリを起こしてから一緒に来たのだった。

 ここに来るまで、ユーリはひたすら俺に謝っていた。
 アッシュ曰く、どうやらユーリには至近距離から起こそうとすると誰彼構わずああいう目に遭わせてしまう癖があるらしい。
 元は毎朝スマイルがうるさく起こしていたのが原因らしいが、その時の条件反射が癖になって今も抜けないのだとか。

 最近起こす側の人物がアッシュに切り替わったのだが、至近距離からの呼びかけ等は現在も最高に危険らしい。
 アッシュは引き返してそれを言いに来たのだ。

「…そういや何でスマはこの事言ってくれなかったんだよ」
「え?忘れてたんだよ、ヒヒヒ!」

 ・・・それは本当かい?

「すまなかった、。この癖は直そうとしているのだが、中々…」
「いやー、いいって。気にすんな」

 助かったんだし。
 …てか、それより重要なのが……

 これってユーリに夜這い仕掛けられないって事でしょうか。

「…やっぱ一応努力して」
「ああ、そうする」
 …ユーリが素直に頷いたので、俺は不純な理由で言った事に少し罪悪感を感じる。
 せ、責任もって襲いに行きますね!!


 リビングに隣接するダイニング、その奥のキッチンからいい匂いが漂ってきた。

 …スマイルやアッシュは今までどうやってユーリの手から抜け出したのだろう、と考えながら、キッチンで夕食を作るアッシュの手伝いをする為に立ち上がる俺だった。





〜To be continued〜




<アトガキ。>

寝室巡りは一度やってみたかったネタです。楽しかった…!
それにしてもユーリ、普段はどういう起こされ方してるんでしょうね?
至近距離が駄目なら、距離をとって叫んだりして起こすとか?うーん。

13時間も寝ていたら、寝すぎて余計に眠いような気がするのですが。
というかそんなに寝ていられるって、どれだけ疲れていたのでしょう、あのお三方。

さて、次回は六さんが出てくる模様。
夢主の過去が少しだけ明かされる…かも?(何)
それではまた次回で会いましょう。

2005.6.5





加筆・修正→2008.2.26

っぷはーぁ。完了ー!
若干追加シーンありました。アッシュの目あれこれ。
あまりに手間取るのでさじ投げそうになりましたが、ポップンへの愛で持ち直ーす。
それにしても昔と比べて文章のテンションが若干変わった気がしますが、変わらないのは全員を愛してる事ですかね。
愛でる人数多すぎて中々全員に行き渡らないのが難ですが。
さて次も張り切っていきまーす。