少しずつ慣れ始めた城での生活。
 今日は確か…スマイル以外ソロで仕事があるんだっけ?
 ユーリが「歌詞も書いている途中だというのに…」とかぼやいてた。

 それが昨日言ってた予定で、今日の早朝には城内に姿が見えなくなっていた。
 もう少ししたらゆっくりできるように日程を組むらしいので、それまで少々スケジュールがハードなのだとか。
 寂しいなぁ。

 スマイルは、朝食を食べてから二度寝に入って起きてこない。
 さっきも襲いに様子を見に行ってみたものの、死んだように寝ていて起きる気配は欠片もなかった。
 …これだけ起きないなら、今日はさらし巻くのやめようか…?
 ……いや、でもいつ起きてくるか分からないしな…うーん。


 俺は、洗濯と昨日アッシュに頼まれた玄関の掃除をやり終えてリビングに戻ってきた。
 …この城の玄関は広い。
 ユーリの本置き場を掃除するよりはましだが、結構疲れるものがある。

 ソファにどっかり座って、テレビをつけようとして。


 ある事に、気付いた。






自鳴琴・08
犬?
〜満月〜







 リビングからダイニングへは、1枚の扉で繋がっている。
 それは白い木製の扉なのだが……、

 薄く、開いていた。

「開けっ放しにしてたっけ…?」
 朝食を摂った後こっちに来る時閉めたような気がするんですが。

 不思議に思って近付いてみると、中から物音がする。
 ダイニングの中…っていうより、ダイニングの更に奥にあるキッチン辺りから?
 …でも今は皆出払ってるはずだし、スマイルもこっちに来てないし…。

 ………。
 ど、泥棒!!?

 キッチンにいるのなら、食材でも盗もうと言うのだろうか。
 そんな…アッシュが作ってくれる料理が少なくなるじゃないか!!
 それは断じて許せん!!とっ捕まえてサツに突き出す。(動機が不純)

 俺は目をぎんぎらぎんに光らせながらダイニングに突入。
 やはり、音はキッチンから聞こえてくる。


 …今更だけど、泥棒が筋肉ムキムキのおっちゃんだったりしたらどうしよう…。
 俺一応女だし、鍛えてたわけでもないし、寧ろ泥棒が普通の男でもこっちが圧倒的に不利なんですが・・・!?


 急に戦意喪失した俺は、そっとそっと、足音すら消すようにキッチンへと近寄った。
 …だって泥棒の姿くらいは見ておきたいじゃんよ。
 これで頭に風呂敷被って泥棒結びしてたら笑えるぞ!!

 キッチンの扉も半開きで、俺は静かに中を覗き込んだ。
 そして。


 ・・・・・・・。


 思わず口を半開きにして固まってしまった。
 そこにいたのは、マッチョでも泥棒でもなく、そもそも人間でもなく。


 ……、だった。


 薄茶の毛のその犬は、何やら必死に冷蔵庫のドアの端に前足を掛けて引こうとしている。
 が、肉球やらのせいで滑って結局失敗に終わる。
 それを数度繰り返して、きゅぅん、と尻尾を垂らした。

 な、ななな何だ!?激しく可愛いぞ!!?
 しかし何処から入ってきたんだ?
 まぁ、窓は腐るほどあるから、どれか開いてたんだろうな。

 それにしても、何がしたかったんだろうこの犬。
 冷蔵庫を開けたかったようだが、何か食べたいのか?

 俺は、犬を驚かせないようにゆっくりとドアを開いてキッチンに入った。
 犬は反射的に俺を見上げて、しかし怯える様子もなくその場から動かなかった。
 人馴れしてんのかな?

 …あれ?
 何だかこの犬どっかで見たことあるような…?

 毛のせいで目まで覆われてて、目が3の字状態だ。
 尻尾ふさふさしてるし。
 人畜無害っぽいし。

 …見覚えある気がするんだけどなぁ…。思い出せない。
 ま、犬だし公園かどこかで見た奴と似てるんだろ。
 それ以上深くは考えない事にした。


「何、お前冷蔵庫開けたいの?」
 俺がしゃがんで頭を撫でると、犬は首をかしげた。
 まるで「あれ?」とでも言いたいかのように。
 …何で疑問系なんだよ。

 けど犬がやることにいちいち考えててもしょうがない。多分行動に意味は無い。
 俺は冷蔵庫を開けて犬に見せた。

「何が欲しいんだ?さすがに食べ物はあんましやれないけど」
 アッシュが調理するの楽しみにしてるものもあるから、と付け加え、笑んだ。
 犬は俺を数秒見上げて、やがて尻尾を振る。
 …あ、可愛い。

 犬は自分で冷蔵庫の中の低い位置にあったミネラルウォーターのペットボトルを引きずり出した。
 ん?これが何なのか判断がつくのか?
 普段からペットボトルの水飲んでるんだろうか。

「喉渇いてたのか?」
 冷蔵庫を閉めて、俺は食器棚から皿を出してきた。
 犬が咥えているペットボトルを渡してもらい、キャップを外して皿に水を流し込む。

 どーぞ、と皿を差し出す。
 犬はおいしそうに水を飲み干した。

 つか、頭良い犬だなぁ。
 冷蔵庫にこれが入ってるの分かったのか。

「お前不思議な奴だなー…」
 呟きつつ、俺はミネラルウォーターを冷蔵庫にしまって立ち上がる。
 おいでおいでと言ってリビングまで戻ると、犬はちゃんとついてきていた。
 やっぱし賢いらしい。

 俺はリビングのカーペットにしゃがみ込んで犬の頭をわしわしと撫でた。
 犬は一瞬ビックリしたようにして、やがてイヤイヤをするように頭を振る。
 …む、何で嫌がるんだよ。

「それにしても毛ふさふさなのなー。…ん?」
 構わず撫でていると、ふわりと漂う香り。
 …シャンプーの匂い?
 しかも俺が使ってるのと同じ?

「お前の主人は人間用のシャンプー使うのか?お前の体には悪いだろうに」
 皮膚病になっていないか毛をかき分けて確認するが、一応大丈夫のようだ。凄い犬。

 撫でるのをやめて正面から抱きつく。
 むー、やっぱしフローラル系のいい匂い。
 しかもあったかいし、このままこいつを枕にして寝たい。
「…でも枕にしたって動くよな、こいつ」

 …あれ?『枕』の部分で反応したぞ、この犬。
 枕にされるの嫌なのか?
 つか、人語分かるんか?
 だったら凄い。


「あー、それにしても腹減ったなぁ。昼まだだし」
 言うと、抱き締めてて犬の顔がすぐ横にあるので、耳がぴこんと動くのが分かった。
 何だ?

「お前も腹減ってんの?」
 尋ねるが、反応なし。
 やっぱ人語は分からないのだろうか。
 当然だけど。

 …こんなときアッシュがいてくれたら料理任せるのにな。
 俺は料理はできない。

 ・・・・・・。
 ・・・アッシュ?

 …今何かが頭の中で引っ掛かったような………


 と。


『ヴン…』
 テレビをつける時のような音がして、正面の空間がぐにゃりと歪む。
 透明な歪みは、やがて人の形をとり、徐々に色を持ち始める。
 数秒して、それは完全に姿を現した。

「あ、MZD」
 宙に浮いている状態のMZD。
 ワープしてきたのか。

「よっす」
「…って、また土足!!」
 軽く片手をあげて挨拶をする神に、俺はぱっと指を差して大声を上げた。
 犬は聴力がいいようなので、うるさかったのか、びくりと体を震わせる。

「細かい事言うなよ、浮いてるんだし。つか、城なら靴でいいんじゃね?」
「ユーリはそこんとこ細かいので城内はスリッパ必須です。とりあえず玄関に靴置いてきてくださーい」
「…あそ。」

 MZDは、渋々と言った風に再びワープでその場から消えた。
 で、5秒程で(どこにあるのか分かってたのか)スリッパを履いて戻ってきた。

「それにしても何してんだ?」
「え?」
 俺はMZDに尋ねられ、自分が何をしているのか改めて確かめる。

「…犬抱き締めてるだけだけど?」
 何か変な事してるわけじゃないと思うんだが?

 首を傾げるが、MZDは更に眉を寄せて怪訝な顔をする。
 心なしか、犬が石化した気もする。

「……お前、犬って…」
「あ?この犬知ってるのか?」
 抱き締めたまま背を撫でつつMZDに問う。
 神なら知ってるかもな。

 すると、MZDは「ぶふっ」と吹き出した。

「な、何だよ!?」
「何でもねぇ。あーそいつ犬だよ、ただの犬」
 明らかに笑いを堪えている様子の神に、俺は思わずむっとする。
 …ただの犬じゃないとでも言うのだろうか。
 けどうまく聞きだせる気もしないので、無視をする事にした。

「で、何しに来たんだ?」
「そうむくれんなって。様子を見に来ただけだ。どうだ、この城には馴染めたか?」
「んー、大体慣れた。突然転がり込んだ居候なのに、皆優しいし。最近何とか自分の立ち位置確定したし」

 最初はホテルにいるようで落ち着かなかったんだよなぁ。
 もう2週間ちょい経つし、結構慣れてきた。

「あの三人組とは仲良くやってるか?」
「そーだなぁ、スマは突然抱きついてくるしユーリは言葉が若干不器用だしアッシュはオカンみたいだけど、その辺含めて皆好き。向こうは俺の事どう思ってるのか聞いた事ないけど」
 あれ、今また犬が反応した。耳がぴこんって。
 …とりあえず何を気にしてるのかは分からないから、撫でておこう。

「ほほーう。ま、不自由してねぇって事だな?」
「うん。ていうか寧ろ充実」
「ははっ、そうか。…それと、元の世界に帰る“道”だが」
 溜息をつくMZD。
「…まだ完成しそうにない。もう少し、待っててくれ」
「ういー」

 何だか微妙に『責められるのを覚悟している』って感じのオーラが出ていたので、俺は気にしてない、という意味を込めて適当に答えた。
 MZDは、逸らしていた視線を俺に戻して僅かに目を見開いた。
 そして、口角を上げる。

「お前さ、変わり者だよ。普通は『早く帰りたい』とか言わねぇ?」
「んー。ま、MZDも努力してるみたいだし、なるようにしかならないだろ」
「・・・・・まーな。」

 あ、何だか微妙に顔色悪いぞ神。
 仕事も忙しいのだろうか。

 ソファの上に勝手にどっかりと座り込んだ神に、俺は犬に回していた腕を解いて近寄る。
「体調管理ちゃんとしときなよ、MZD。神なのに過労で寝込むとかシャレになんねーぞ」
「あー…。どうにもなんねぇって。仕事量多すぎ」
「俺何か手伝えないか?」
「無理無理。俺がやんないと意味ねぇ」
「んー、そうか…」

 俺から解放された犬が、その場に伏せた。
 時々尻尾が動く。

「ま、ちょっとでも休んでいきなよ」
「そうする」
 言って、MZDは何を思ったのか立ち上がる。
 犬の前にしゃがみこんで、にやりと笑った。
 何事かぶつぶつと呟くが、俺には聞こえない。


(おいアッシュ、たのしそーだな?)
(……)
はお前だって気付いてないようだが)


 あ、何か犬がこくこく頷いてる。
 犬語で喋ってたりするのか?神。
 …つーか…、犬が人並みの動作をするもんなのか?


(ま、俺も遊ばせてもらうから、そこんとこよろしく。)
(!!?)


 何だか後退してるぞ犬。
 神は神でにやにやしてるし。
 何なんだ?

 MZDは、がしりと犬の前足を捕まえて、俺に振り向いた。

「な、こいつと遊ばないか?」
「え」

 ちょっと意外だった言葉に、俺は少し驚いた。
 にやにやしてるから、もっと禍々しい事言うのかと思った。(だってこの神だし)
 犬は激しく嫌がってるけど。

「いいよ。犬好きだし」
「よしゃ、じゃあ何する?」
 明らかに犬が逃げ出したがっているのだが、いいのか。

「…嫌がってるし、やめた方がいいんじゃ…?」
「大丈夫大丈夫。さっき話したら嫌とは言ってなかった」
「え、やっぱ犬語話せるのか?」
「神だから犬語くらいはちょろいもんだ。まぁ、ちょっとくらいなら遊んでもいいんじゃないか?」

 へぇー、凄いな。犬と話せるなんてやっぱ神だ……。

「フリスビーとか…は、この様子だと逃げ出しかねないかなー。MZD、何か案あるか?」
「んー。…観察とか?」
「は?」
「この犬噛みそうにないだろ?体の隅から隅までじっくり眺めてみるんだよ。
「お、いいなそれ。耳とか可愛いしな!(犬と遊ぶってことにはならない気がするけど)」
 俺は二つ返事でOKした。
 …犬、更に抵抗を激しくしてますが。
 悲鳴に近い鳴き声出してますぞ。

 ……すまん、ちょっとだけ…ちょっとだけ耐えてくれ犬よ!
 可愛いもの見たさには逆らえないのだよ・・・!
 ほんの少しでいいから!

「さーて、何処から観察しようかな」
 MZDが犬を背中から押さえつけて、俺はまず犬の正面に回った。
 耳を人差し指でつんとつつくと、逃げるように動く。
 うあー、可愛いー!!!

「それにしても見事な3の目だなー。のび●並」
「ふさふさしてるからな」

 んー、のび●……
 ・・・・・、

 ん?

「…てことは、眼鏡でもかけたらまともな目になるんだろーか」
「は?」

 俺の突拍子も無い発言に、素っ頓狂な声を上げる神。
 いや、ただの思いつきなんだけどな。

「な、どっか眼鏡ないかな!かけたら3の目からまともになるかもしれない!試したい」
「…それ、微妙だと思うぞ」
「いいじゃんか!やってみたいだけなんだから」
「っつっても、この城に眼鏡なんてあるのか?」
「…あ。」

 この城に住むメンバーは、誰一人として眼鏡をかけない。
 イコール、眼鏡は城内には無い。

「くそ…。MZD!神通力で眼鏡出せ」
「面倒だし嫌」
「むー!!!」

 何で神がこんな面倒くさがりなんだよ。
 いつかそのサングラスひっぺがして素顔見てやる。

 ……、
 …サングラス?


「あ、じゃあそのサングラスでもいいから貸して」
「あぁ?余計やだ。」
「そう言われるとひっぺがしてみたい度が急上昇するのですが。」
「何だよそれ」
「いいから貸してみろって!」
「やだね」
「むーっ」
「第一、俺のサングラス越しじゃ目は見えないだろうが」
「・・・あ。」

 すっかり忘れてた。
 MZDのサングラスはなぜかこちらから目が見えない。
 くそ、諦めるしかないか。

「でもMZDの素顔は見たいなぁ…」
「何でそんなこだわるんだよ」
「いいじゃん、見せてくれよ」
「駄目。言われると見せたくなくなる」
「何だそれ!!」
 俺が眉を寄せると、MZDは喉の奥で笑った。・・・くそ。


「あーもー、慰めてよ犬ー」
 犬の頭に頬を摺り寄せると、「きゅーん」と困ったような声が聞こえてきた。
 俺はふと思いついて頬を離し、犬の前足を持ち上げた。
 そしてそれを裏返し、肉球をぷにぷにとつつく。

「うあぁ、癒されるー…」
「何やってんだお前…」
「肉球柔らかいぞ。MZDも触るか?」
「遠慮する」
「あっそ。」

 ちょっと乗ってくれてもいいじゃんよ。
 ふにふにと肉球を触りつつむくれる。

 と、その時。


『きゅるるるっ、くるるるるぅー…』
 俺のお腹の虫が大合唱をしました。


ぶふっ!!!あーははははっ!!でけぇ音!!!
「うるさい!!」
 俺は顔を真っ赤にして怒鳴る。
 は、恥ずかしい・・・!!

 そういや昼食べてないんだった。
 うあぁ、何か食べておけばよかった…。

「こうなったら犬鍋にして食ってやるー!」
 わしわしと犬を撫で回す。
 犬はビックリしたように「キャンッ!!」と叫んだ。

 …いや冗談だって。
 さすがに犬は食わないよ。


「あ、つーかもうこんな時間なのな。俺帰って仕事再開するわ」
 犬を押さえつける手をどけて立ち上がる神。
 え、でもまだ来てからちょっとしか経ってないんですが?

「もう行くのか?もっと休んでいけばいいのに」
「カミサマは忙しーの。…ご心配どうも。」

 ふわりと浮き上がるMZDが、振り向いて少しだけ笑んで。
 俺は笑みを返して、溜息をついた。

「どういたしまして。」

 心配だから、たまには休みに来い。
 そういう意味も込め、言った。

 MZDは「やっぱお前変わってるわ」と言い残し、その場から消えた。
 恐らく靴を履くために玄関までワープしたのだろう。
 そこから直接帰るんだろうな。
 あー、もう少し会っていたかった。

「うぁー、寂しいー」
 俺は肉球から手を離して犬の胴をわしりと掴んだ。
 そして力を込めてひっくり返す。
 驚いたように声を上げる犬。

 元の体勢に戻らないように、仰向けにした犬の上に俺の上半身を乗せて寝転がる。犬のお腹ってあったかいんだよなぁー。
 犬は慌てるみたいに前足ぱたぱたしてたけど、蹴飛ばされたりとかはしなかった。
 もうちょっと抵抗されたら流石にやめる気でいたんだけど。

「むはー、あったかいなお前」
 全体重は預けないものの、首の力は抜いて犬の胸にぐりぐりと額を押し当てる。
 …そういやカーペットに寝転んでる状態なのだが、こんなことしてていいのだろーか。

 ……まいっか。
 スマイルもしょっちゅう床に座り込んでテレビ見てるし。(特にギャンブラーZ観賞時)

「このまま寝たらお前潰れるかな…。でも気持ちいいし」
 色々あって諦めたのか、犬はもうされるがまま。
 ひすん、と軽く溜息をつくのが聞こえた。
 …犬のくせに溜息つくのか。
 まぁ、くしゃみする犬もいるからなぁ。

 俺は額を犬に当てたままうとうとし始めた。


 ―――その時。


『ガチャ』
「あれ?とアッス君、何してるの?」

 聞こえたその声に、顔を上げる。
 スマイルだった。
 起きてきたのか。

 リビングに入ってきたスマイルは、俺と犬の傍にしゃがみ込む。

「…って、え?アッシュ?どこに?」
 今、スマイルは「アッス君」って言ったよな?

 俺はアッシュが帰ってきたのかときょろきょろ辺りを見回す。
 が、アッシュの姿はどこにもない。

「いないじゃん」
「あ、もしかして気付いてなかった?じゃあ言わない方が面白かったなぁ。…の下にいるの、アッス君だよ」
「・・・・・・・・・」


 スマイルの言葉を理解するまでにたっぷり10秒かかった。


「………アッシュ?」
 犬の顔を覗き込んで尋ねると、犬はこくりと頷いた。
「・・・・・」

 見事に固まる俺に、スマイルは「ヒヒヒッ」と笑う。
「もしかして僕はお邪魔虫かなー?」

 言われて初めて今の体勢を考える。
 …もしかしなくても、俺ってアッシュを押し倒してる!?

「う、うわあぁっ!!アッシュごめんッ!!!」
 がばりと体を起こすと、犬もといアッシュは素早く身を反転させてすぐそばにあったソファに飛び乗った。

 うあー、どこかで見たような犬だと思ってたんだよ!
 いや、アッシュは狼男だから犬じゃなく狼か。
 MZDが何か含んだ物言いしてたのはこのせいか!
 くそ、もっと早くに気付いてればよかった…!!

、疑わないんだねー。そこに居るのがアッス君だって」
「え?」

 …あ、しまった。
 Deuilが全員妖怪だとか、細かい事はまだ本人から聞いてないんだっけ。

「アッス君は狼男で、満月が近くなるとその日1日は狼の姿になるんだよ。今日は丁度その日かな。それで仕事はオフ」
「そうなんだ…。てっきり仕事に行ってるものと…」
「…驚かないね」
「神様とかいる時点で人外が存在するのは納得済み」
「あー」
 なるほど、と頷くスマイル。

「あ、ちなみに僕は透明人間で、ユーリは吸血鬼ね」
「分かりやした!」
 ぐっと親指を立てる。
 …元々知ってるけどね。

「…にしても、アッシュ本当にごめん。犬呼ばわりどころかあんなことまでして」
 絶対に怒らせちゃったよなー…。
 嫌われたかな…。

「ほんっとごめん!ゆ、許して…!」
 両手を合わせて懇願する。
 嫌われるのは本気で勘弁してくれ!
 アッシュ大好きだからそれだけは…!!

 数秒の、間があって。

 アッシュは、ふすんと溜息をついて、膝立ちしている俺を見上げた。
 表情は犬(いや、狼か)なので分からないが、怒っているようには見えない。

「…許してくれる?」
 問うと、アッシュはこくんと頷いた。
「やったぁ!!!」
 俺は立ち上がって万歳。
 良かった…本当に良かった…。


「それはいいけどさ、僕お腹減ったよ…」
 お腹を押さえて言うスマイル。
「あ、それは俺も」
「でもアッス君がこの姿だと、僕らが作るしかないかな。朝ごはんみたいに作り置きは無いし」
「カップ麺はこの城には無いしなぁ」

 理由:アッシュが「体に悪いっス!そんなの食べるくらいなら俺が作るっス」とか言って買わないから。

「ま、パスタくらいなら大丈夫か」
「そうだね」
 頷くスマイル。

「…となると、夕飯もこの状態か?」
 何を作ればいいんだ。
 わけわからん食材とか道具まで揃ってるぞここのキッチン。
 アッシュじゃないと使いこなせない。

「んー。じゃあカレーでも作ろうか」
「それなら簡単でいいかな」
「じゃ、決定!」
 スマイルがにっこり笑った。
 確かスマイルってカレー好きなんだよな。
 よしゃ、晩は気合入れて作るか。

「とりあえず昼飯作るぞー」
「おー!!」

 心配そうなアッシュを尻目に、俺とスマイルはキッチンへと入っていった。





〜To be continued〜




<アトガキ。>

あー!!!ユーリ出てきてない!!!(今更気付く)
ご、ごめんなさい・・・!!遅くなった上こんな風に仕上がってしまいました;

神出てきました。
アッシュ寄り夢になるはずだったのに神シーンが多いというのはどういうことか。
…愛ゆえです。(コラ)

それにしても、えらいことになってますな今回。
実際に、そこにぽつんと犬(違)がいたらアッシュだとは気付かない気がしまして。

それでは、次回はスマ寄り…かな?
そうなることを祈りつつ、これで8話を終了させて頂きます。

2005.4.18





加筆・修正→2008.2.25

ほぼ原型のまま残ってますね、これ。
あー、ようやく3分の1くらい終わった事になるんでしょうか、この加筆・修正の旅。(旅?)
ちなみに第7話の修正日と同じですが、実は半日違う同じ時刻です。(ぶっちゃけ夜の3時&昼の3時)
よく他のサイト様で1日ちょいで1本の小説仕上げちゃう管理人様見かけるんですが、拝み倒したいくらいですとも!
私の場合修正だけでこんなに時間かかっちゃいますからね!orz

…新規で1本書くと1週間はかかる罠。この遅筆、どうにかしたいなぁ…。
さて、次の修正行ってきますー。