「この世界って一体どういう構成で成り立ってんだ?」
森の中を歩きながら、俺は2人に問う。
「どういう、って?」
「いや、『歪み』とかで区切られてたりとか色々有るんだろ?そもそもどういう基準で区切られてるんだ?」
「あぁ。主に、住んでる種族とかが分かれてるかな?」
ミミが顎に指をあてて言う。
ニャミはそれに頷いた。
「そうだね。…この世界は大まかに3つに分けられてるよ」
立ち止まったニャミが、落ちていた枝で地面に何かを書き始める。
大きな丸が、円グラフのように3つに分けられた。
つられて立ち止まった俺とミミは、しゃがんでニャミの絵を見る。
円の中で3つに分けられた内の、1つ目を木の枝で指し示すニャミ。
「これが、人間界。主に人間が住んでるよ。それで、」
次は、線で区切られた2つ目を示す。
「こっちがメルヘン王国。Deuilとかみたいに、主に妖怪とかが住んでるかな。で、最後に、」
残りの1つをとん、と棒で示す。
「これがホワイトランド。天使とかが住んでるよ。…で、この区切り線が『歪み』の境界線。この世界は主にこの3つに区切られて存在してるの」
「なるほど」
「あ、でもこの3つの空間を行き来することは誰でもできるんだよ。ポップンワールドにいる人達なら皆鍵言葉を知ってるから」
ミミが私にひょいと顔を向けて付け加えた。
まぁ、そうだろうなぁ。じゃないとさすがに大変だろう。
何がって、ポップンのメンバー集めとか。
でも神なら簡単に抜けられそうだな。
「それで、3つに分けられた空間の中でも野ざらしにしてたら明らかにヤバい小区間もMZDが区切ったわけ」
「…そのヤバい小空間ってのは…」
「あ、えっとね。ポップンパーティーとかTV出演で異様に人気が出ちゃったりした人達の居住区間。追っかけとかが凄すぎて色々と支障が出たことがあってねぇ…。」
「Deuilもその一例だよ」
やっぱしか・・・。
そんな人気者集合地域にいていいのかね、俺は。
「・・・あれ?てことは俺ら、まだメルヘン王国内?」
メルヘン王国内のユーリ城区間から抜けただけだから、まだ王国内ではあるはず。
「そうだよ。ちなみにお買い物は人間界でするからね。人間界のお店の方が断然品揃えが良いの」
「買い物の為だけに『歪み』を毎日通って往復してる人もザラだよ」
「へぇー。でもメルヘン王国抜けるのって時間かからないか?仮にも一つの小世界みたいなもんだろ?」
「ううん、ここは北部最先端だから、メルヘン王国の中でも人間界に大分近いし。…ほら、そこからちょっと行った所から抜けられる」
ミミが指差したのは、森の出口。
その先には、この世界に来てからあまりお目にかかることが無かったアスファルト。
こっちに来た直後に一度見たきりだ。
あの時は足怪我した上に靴が無くてアッシュの肩に担がれてたっけなー。
・・・・・それで思い出して、俺は足元を見る。
実は、勝手に靴を借りてきていた。
いや、サイズはちょいと大きいんだが。
靴箱の中から最初に選ぼうとしたのが、サイズは合いそうだがどれも皮製。
却下却下。傷でも付けたら合わせる顔が無い。
次に選ぼうとしたのが、履き心地の良さそうな紐靴。・・・が、どれもサイズが大きい。
で、最終的に現在履いてるこの靴になったわけだ。
…少々大きくて細めだが、色も黒だし底は厚くないし、結構履きやすい。
誰のだ?あの3人の内の誰かのだってのは分かるが。
・・・・・まいっか。
勝手に借りてすまん!礼を言う!…思ってるだけだが。
とりあえずこの靴のお陰でスリッパで買い物に出かけるなんて無謀な事をせずに済んだわけですハイ。
傷にも優しいぜ一石二鳥!
皆帰ってきたら誰のものか聞いてちゃんとお礼言おう。
そんなこんなで俺達は森を出てアスファルトの道を歩いていく。
すると、
「!ここは…」
「何?君来た事あるの?」
「あー…まぁ。」
そこに現れたのは、俺がこの世界に初めて来た時にいた公園だった。
「この公園の向こう側が人間界だよ」
俺が昨日使っていたベンチを横目で見ながら、昨日は目も向けていなかったその後ろ側へと進んでゆく。
砂場の横を通り、ジャングルジムを避けて、俺らが来た方向とは反対に位置する公園の入り口へ。
「さ、人間界に繋がる『歪み』はここだよ」
「へぇ?」
正面には、障害物など何も見えない。
遠くにビルやら何やら、建物が見えるだけ。
俺は正面に向かって右手を伸ばした。
が、その手は空を切ることなく、まるでガラスの壁でも触っているかのような感触を捉える。
…これが『歪み』か。
「皆、行くよ!鍵言葉は『Go』!!」
ニャミが拳を振り上げて唱えると、俺達は意気揚々と『歪み』を越え、人間界へ繰り出した。
***
「おー、凄いな!」
広がるのは、建物の海。
車は通るし、人も多い。
俺の世界と何ら変わりのない場所だ。
「あ、結構獣人とかいるな?」
「そりゃそうだよ、行き来自由だもん」
猫耳とか犬の尻尾とか生えてる人間をきょろきょろ見る俺を見上げてミミが言った。
「じゃあ何で世界に区切りなんかあるんだ?」
「さぁ?大昔からこうだったみたいだし…MZDなら何か知ってるかもね」
「ふーん」
今度聞いてみっか。
…スルーされそうな気もするが。
「さ、服屋さんはこっちだよ!」
「行こ行こ!」
「あ、待てって!」
さっさと駆け出す元気っ子2人組み。
俺は慌てて後を追いかける。
が、
『ドンッ』
「!!」
「いっ、」
・・・運悪く、誰かとぶつかってよろけた。
実は、人通りが結構多い。
通勤ラッシュとかとっくに過ぎた時間のはずなのに、何でだ?
もしかして土日どっちかなのか?今日は。
「だ、大丈夫?」
幸い、どちらもよろけるだけで済んだ。
そして先に声をかけたのは俺ではなく、俺とぶつかった相手の方だった。
「何ともないですよ。そっちこそ……・・・、」
・・・言いかけて、俺は止まった。
「どうかした?」
「いや…、」
目の前に立っているのは、よろけた時にずれたと思わしきサングラスに、赤目茶髪の細身な男。
…あれ?何かどっかで見たような・・・・・・
・・・・・。
・・・!!
俺は脳内で、その男に赤のウサ耳と赤服を足してみた。
すると、見事に顔と一致。
「あのー…もしかして、タイぶっ!?」
「しーっ、今日はお忍びで来たから、バレるとまずいんだ」
言い終える前に口をハイスピードで塞がれた俺は、そのまま目の前の人物に注意を受けた。
…この様子だと、本人のようである。
「…あの、タイマーさんですよね?」
「…まぁ…そうだよ」
声を小さくして聞いてみると、ちょっと躊躇いがちに返ってくる答え。
やっぱりそうか!!
ずれたサングラスを元に戻し、タイマーはきょろきょろと辺りを見回す。
周囲の人間の一部が、こっちを見てどよめいている。
今のやり取りは聞かれていなかった筈だが…サングラスずれた時点でアウトだったか。
タイマーって人気あるんだな。
「あー、バレちゃった」
「ごめん、俺がぶつかったから」
「ううん。…でも逃げないと」
「おーい!!君っ」
こんな状況の中、遠くから大声で叫んできたのはミミ。
あ、そういえば先に行ってたんだ。(ていうか俺が置いていかれただけ)
ミミの隣に来たニャミも、俺を呼んだ。
直後、
「タイマーさんーっ!」
「きゃああぁっ!!!」
一斉に黄色い声が飛ぶ。(いや、ピンクか?)
俺が驚いて振り返ると、周囲にいた女性陣が一斉に猛突進してきていた。
どうやら「あれってタイマーさん?」から「それなら突撃!!」に切り替わったらしい。
「ま、マズい!」
「サインとかしてやれよアイドルだろ!!」
俺を含めタイマーも全速力で駆け出した。
何で俺まで同じ方向に逃げてんだ?とか言ってる暇は無い。
どうにもこうにも、女性ファンの迫力が凄すぎて逃げる事にしか専念できない。
「今日はお忍びだって言ったでしょ!ゆっくり羽を伸ばしたいんだ!」
まぁ、あの人の山に捕まったら羽を伸ばすどころじゃなくなるのは確実だよな。
方向的にミミニャミのいる地点へ向かえているのは助かった。
「ミミ!ニャミ!どっか店に入ってやりすご・・・」
「一緒にいる人もカッコイイー!」
「キャー!!」
「待ってー!!」
・・・。
聞こえた黄色い声は、視線をこちらに向けた女性達によるもの。
・・・・・・って、俺?
「君、気に入られちゃったみたいだね?」
「何で俺まで逃げなきゃならなくなるんだよ!!!」
「しょうがないよ。早く早くっ」
俺は、突然の事でおたおたとしているミミニャミを引っ掴んでダッシュし続ける。
ていうか俺はれっきとした女だってのに!!
それでも否定をしないのは、ここでこだわっても仕方が無いからなのだが。
「ななな何事!?」
「ニャミちゃん、今は話してる暇がないんだ!」
パニクってるニャミの手を引くタイマー。
それを見て俺は、掴んでいたニャミの服の端を放した。
ミミは混乱しすぎてまだうまく走れていないようなので、掴んだまま。
「ど、どこまで逃げればいいんだよっ!!」
「とりあえずどこか路地裏にでも…っ」
俺達は、女性群をちょこっと引き離した地点で、爆走しながら路地裏に入れそうな箇所を探す。
が、急ぎに急いでいる為中々見つからない。
全力で走ってるせいで全員の体力がじりじりと限界に近付き始めた、その時。
「こっちだ!」
そんな声が聞こえて、俺達は反射的にそちらへ向かう。
そこは店と店の間の細い道。
俺、ミミ、ニャミ、タイマーが入ったのを確認すると、その人物は「来い!」と言って背を向け走り出した。
その人物に従って、細い道をくねくねと曲がりながら走ること約30秒。
ようやく追っかけの声が聞こえなくなって、足を止める。
「あー・・・。もうだめぇ・・・。」
「私も・・・」
肩で息をする一同。
「大丈夫か?」
ここまで先導してくれた人物が、地面に這う太いパイプへと腰を下ろして言った。
そこで俺はやっとその人物をまともに見る事ができた。
…って、
(六じゃん!!?)
白い着物に、水色の無重力ヘア。
先導してくれたのは六だった。
なぜ六がこんな所に!!?
てか、またしてもポップンキャラとの出会い!!
う、嬉しすぎる・・・っ!
「大丈夫だよ。ていうか、六は何でここに?」
まだ息を切らしているミミが、六に尋ねた。
その横でニャミが俺へ、六を簡単に紹介した。
六は腕を組んで首を傾げる。
「通りでぶらぶらしてたら突然大量の人間が押し寄せてきたもんでな。手近な道に入っただけだ。そこへお前達が通りかかったから引き入れたまでの事」
「・・・あー。」
タイマーは、慣れているのかもう復活している。
俺は駄目だ・・・。
運動神経切れてる上に走るのは苦手だし、おまけに靴のサイズが合わないもんだから足も痛いし。
そもそも傷があるからそっちも痛いし。
その場に腰を下ろして本格的に休憩。
「ところで聞き忘れてたけど、君はニャミちゃんとミミちゃんの知り合い?」
タイマーがしゃがみこんで俺の顔を覗き込む。
…無性に頭を撫でたくなるのは気のせいじゃないと思う。(だってコイツすんごい童顔で可愛いんだもんよ!!)
「さっき知り合った。俺はこの辺の事知らなから、色々教えてもらってたんだ」
「あぁ、そうなんだ…。あ、そういえば君、名前は?」
「。よろしく」
俺が弱々しいながらも親指をぐっと立てて言うと、タイマーはクスッと笑って「よろしく」と返した。(おおおおぉ、芸能人オーラが!美形特有の輝きが!!)
「そもそも何で追いかけられたんだ、お前ら」
六が溜息をつきつつ俺らを見回す。
「いや、ひょんなことから変装タイマーの正体が周囲にバレまして?」
「逃げてたら君の追っかけも出来上がっちゃったようで」
「(俺女なんだがな…)構ってられるほどの数と勢いじゃなかったから逃げた。」
「・・・なるほど」
頷く侍。
…あの怒涛の如き人の波を目の当たりにしたら、やはり納得するしかないらしい。
「それにしても君に追っかけが付いちゃうなんてねぇ」
「いや、タイマーが発見されたから、その勢いだけだろ」
「えぇー?そうかなぁ?」
首を傾げるミミを無視して、俺は上を見上げる。
建物達に切り取られた断片的な青空が見えた。
「何にせよ、こっから出るのはもう少し待った方がいいってことだな」
六は、パイプの上であぐらをかいた。
・・・器用だ・・・。
っていうかふんどし見える!!!
萌える、萌えるぞ!!狙ってやってるのか!!?
俺が鼻血出しそうになっていると、
「六は隠れてなくても大丈夫なんじゃない?」
タイマーが小首を傾げる。
「やることもねぇし、乗りかかった船だ。どうせだからしばらくいる」
「そか」
・・・沈黙。
話す事が何も無い・・・;
そういや俺、服買いに来てたような・・・。
「あー、買い物…。」
俺の呟きが、狭い道に溶けて消えた。
***
約15分後。
俺達はようやく別の場所から表通りへ出た。
勿論、タイマーは変装済み。
「ほら、俺が素顔で出ても誰も追っかけてこないだろ?」
「でも道行く人が振り返ったりしてるよ」
「…そうか?」
それはタイマーの変装が分かりやすいからなんじゃないのか?
俺でも分かったくらいだし。
…まぁ、再び人の群れが襲い掛かってくる様子もないから今はいいか。
「で、これからどうする?」
ミミの問いに、俺は数秒考えてから、
「じゃ、皆で買い物と行きますか?」
ポップンキャラでハーレムだ!!と心の中で付け加える。
すると「楽しそう」と満場一致で採用決定。
やった!!!
そして俺達は、通りを歩き出した。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
…えー。
まだ続くってどういうことなんだろう「買い物編」。
色々書きたいことを詰め込んでいたら長くなってしまいまして…;
前半の世界観、私の捏造ですゆえ!どうも私は細かい事を設定するのが好きらしいです。
ポップンワールドにも日本とかがあるのにメルヘン王国とどうやって分けてるのかなぁとか考えてたらこんな設定ができてしまいました。
それにしても夢主…会う人全員に男と間違われるってどうなんだ・・・?
それなりの格好してたらそんなこともないだろうに。
…そこらへんはまた別の事情が絡んでるようですが。
それでは、また次回で。
2005.2.19
加筆・修正→2008.2.20
はい、今回もあんまり大量に書き換える事なく済ませる事が出来ました。やっほい!
しかしここで伏線の拾い忘れを発見しました…。ぱっと見分からないくらいのプチ伏線なので大した事はないんですが。
ひとまず1日で修正作業終わったので大分楽な文章でした。このまま次も頑張りますー。