『私』を捨てた

 『俺』になった


 だから、受け入れて

 お願いだから



 ―――お願い、だから。







自鳴琴・03
買い物。・前編
〜朝〜






「・・・っぷは!!?」

 俺は勢いよくベッドから起き上がった。
 が、そこは見慣れた自分の部屋ではなかった。

 …あぁー……
 ・・・・・・。

 ここどこだ?


 ホテルのスイートルームだと言っても過言でないくらい広い部屋を見渡し、後ろ頭をボリボリ掻く。

 ……。
 ・・・・・・あ、

「そっか、ここ…」
 ポップン世界のユーリの城だったんだ。


 小さく息をつく。

 昨日俺の為にと与えられたこの部屋には、客用の予備ベッドと小さなテーブル、それから空のクローゼット以外何も置いていない。
 つか、置いていても掃除等が面倒になるばかりだから本当は全部片付ける気でいたのだとか。

 ギリギリで来たのが俺。
 結構ラッキー。


 それにしても…あぁ、ここはポップン世界なんだなぁ。

 この時点で萌えていてもいいのだが、いかんせんそういう気になれない。
 原因は…まぁ、夢見が悪かったというか。
 どうでもいいけど。

 俺はもそもそとベッドから降り、隙間から薄く漏れる日光を見る。
 …足の傷はちょっと痛んだけど、まぁ我慢できない程ではない。
 窓に近づいて、一気にカーテンを開けた。

「う…わ、」

 思わず感嘆の声を上げる。

 カーテンを開けて目に入ったのは、澄んだ空気の下、風で揺れる木々。
 パステルカラーの青い空。
 綿のような雲。

 こんなに綺麗な景色は結構久しぶりに見たかもしれない。
 俺は、自分の身長より大きいその窓を両手で開き、深呼吸した。
 あー、いい空気。



 …って、こんなことしてる場合か?
 居候の身なのに何かしないで大丈夫なのか?!

 俺は昨日、この城に居候させて貰うことに決定した。
 それから晩飯食べて、風呂に入る時パジャマ貸してもらって。

 ・・・・・

 うわぁ今着てるのユーリのパジャマですよ!!!
 しまった忘れてた!俺としたことがっ!!

 身長が一番近いからってなことで、ユーリに貸してもらったんだ。
 …俺のが若干背低かった。
 でもこのパジャマはぴったりさぁ。
 つーか・・・


 ユーリの香り(香水じゃないのは分かるけどフローラルっぽいのが不思議)がパジャマからしてきて中々寝付けなかったですよ!!
 くそぅ萌える!!!


 あぁ、テンション低かったのにこの事実だけで元に戻っちまいましたよ。
 だって…普段はユーリが着てるんだとか思うだけで萌え・・・(変態)


 しばらくその場で萌え悶え、俺はふと時計を見る。
 時刻は7時。

 …皆起きてる、かな?
 ・・・・・起きてる、よな・・・。
 仕事とかあるのかな。人気バンドだし。

 あぁっ、それなら早く下に行って手伝いか何かしないと!
 けど着替えるものがない!!
 昨日着てた制服はクリーニングに出さなきゃならないもの以外洗濯に出しちゃったし…。

 要するに残ってるのはブレザーとスラックスだけ。カッターシャツ無し。
 これで出たらどんな変態だ!!(いや、自分が変態なのは重々承知してるけど!)
 どうしよう。

 と、その時。


『コンコン』
「あ?」

 ドアではなく、開け放った窓を叩く乾いた音。
 振り返るとそこには、

「よ。おはよーさん」

 ベランダ(いや、バルコニーと言うべきか?)に立ち、既に開けてある窓をノックしたであろうMZD。


「MZD!?」
「昨日ぶり」
 片手を上げてニヒル笑いをするその神に、俺は驚いて駆け寄る。

「てか、不法侵入!?
 仮にも女の部屋に!!

「神だからいいの」
「いいのかよ!」
「悪いか?」
「いや、断然OK!ですが」
 だって朝から神見れるなんて至福この上ない事だし。

「朝からテンション高いなお前」
 片眉を上げるMZD。
「いや、ていうか何でここに?」
 俺が訊くと、MZDはふわりと宙に浮いて部屋に入ってきた。

「あー、土足!!」
「浮いてっからいいじゃねーか?つーか、お前着替えるモンねぇだろ」
「あ?ああ…って何で分かるんだよ」
「まぁ、神だからな。今日はこれ届けに来たんだよ」

 そう言って、手のひらを差し出してくる神。
 その手のひらの上で、『ボン!』と音がして煙が湧き上がる。
 煙が晴れて見えたのは、少々大きめな箱。

「何?」
「服。」
「えっ」

 手渡してきたその箱を数秒間じっと見る。

「…別に怪しい服じゃねぇよ」
 眉を寄せるMZD。
 俺が箱を開けないのを違う意味に解釈したらしい。

「いや、ほんとに神通力ってあるんだなー、とか。ちょっと感動?」

 ていうか神からのプレゼントなんて嬉しい!!!

「疑問系で言うなよ。んじゃ、俺はそろそろ帰る」
「えぇっ!?もう!?」
「カミサマは多忙なんだよ」
「えぇー…。」

 折角会えたのになぁ。
 多忙って事はこれから会えることも中々ないのでは?

「…また会えるか?」
 尋ねてみると。

「何、惚れた?」
 二度目の神のニヒル笑い。
 ええ惚れましたとも!!寧ろ初めから萌え…げふんっ!!

「……ま、会えるんじゃねぇ?どっちにしろお前のことで色々やんねぇと」
「え?」
「帰る方法を調べるっつってんだ。帰りたいんだろ?」
「まぁ。」

 この生活を手放すのは惜しい気もするけど。
 …いや、うーん…


 俺は本当に帰りたいのか?


「んーじゃ」
 ひらひらと手を振って、窓から出て行くサングラス男もといMZD。
 力なく手を振り返した俺だった。



***



「おふぁようー」
 リビングに辿り着いて、俺は少々ふにゃけた声で挨拶。
 まだ朝だってのに実は結構疲れていた。

 いや、だって広いんだもんよ、この城…。
 正直迷った。
 昨日教えてもらった道順をあんまし覚えてなかったのが原因か。
 スリッパ履いてたとはいえ、かなり歩き回ったせいで足の傷がじくじく痛む。ちくしょー。

 MZDから貰った服はシンプルだった。
 長袖の黒いトレーナーに、紺のジーンズ。
 …俺の趣味把握してるっぽい組み合わせが出てきたので寧ろびっくりだ。

 そんでその中にさらしが入ってたのにも驚いた。
 ちなみにそれに引っ付いてたメモには「必要なら巻いとけ☆ by.神様」なんて親指立てつつ思いっきり楽しんでる姿が透けて見えそうな文章が書いてありました。
 フフフ、あのお茶目さんめ。

 まぁ実際必要だし。昨日はブレザーだから体型分からなかったけど今日はトレーナーだから微妙だもんな。
 少し前まで巻いてたから巻き方分かるし。
 てことで、さらし着用中。


おはようー!」
「わっ、」

 唐突に正面から何かが衝突してきた。
 何事かと思いよく見てみると、

「あ、何だスマか。びっくりしたなぁもう」
 とか言いつつ、正面衝突(寧ろタックル?)してきたスマを抱き締めてみる。(この絶好のチャンスを逃してなるものかっ!!)

 うわぁ!!スマ細っ!!!
 全般的に細いけど特に腰が…!!(最早セクハラまがいだ)
 モデル体形スマ万歳っ!!萌えっ!!!

 俺の行動に乗じてスマも俺を抱き締めてきた。(結構甘えん坊なのかな)
 あぁ、こうしてみると身長差あるなぁ。

「ヒッヒッヒ!仕事前にスキンシップとっておこうと思って」
「あー、そうかー…」

 身長差のせいで耳の上辺りに頬ずりしてくるスマイルに、萌えつつも和んでいたのも束の間。

「…って、もう行くのか!?

 手伝いとか考えてたのにその段階すっ飛ばしちゃったのか!?

「そうなんだよー。も不慣れな所が多くて心配だろうけどごめんね?」
「仕事なら仕方ないさぁ。それよか居候のくせして何も出来なかったのが心残りだな…。」
「真面目だねぇ。そんなのいいのにー」
「いや、よくねーよ」
 ツッコミかましつつ、俺はぐるりとリビング内を見渡す。

「…あれ?アッシュとユーリは?」
 さっきから姿が見えないが。

「ん?あの2人だったら準備にいそしんでるけど?」
「え…って、スマイルはいいのか?」
「僕は面倒だからー」


 面倒で済むのか人気バンドベース担当。


「あ、そうだ。朝ごはんはラップかけてダイニングに置いてあるよ。初日から電子レンジで調理って悲しいねぇ」
「んー。でも遅かった俺が悪いんだしなー」

 ぽんぽん、とスマイルの背中を軽く叩いた。
 …その直後。

『カチャッ』
「スマー、そろそろ出発するっスよ!…って、うわぁ何してんスか男同士で!?

 リビングに入ってくるなりツッコんできたのは、アッシュだった。
 いや…片方間違いなくなんですが?(言ってないけど)

「んー?朝のスキンシップ。アッス君もやるー?」
 スマイルがアッシュを見てにやりと笑う。

「遠慮しとくっス…。というよりは迷惑じゃないんスか?」
「んんー?俺は構わんぞ」
 寧ろじゃんじゃかやってくれっ!!
 この勢いでDeuil全員制覇してやるから!!
 「変わった人っス…」なんてアッシュの呟きが聞こえたけど、とりあえずスルーしとこう。

「…あ!スマ、時間!!もうギリギリっスよ!」
「えーっ、もう?って抱き心地いいからもう少しこうしてたかったんだけど」
 腕時計を見て、俺からスマイルを引き剥がすアッシュ。
 それにぶーたれるスマイル。

「…って、それは俺がぷにぷにしているとかそういう意味かい?
 くそぅ、どうせ無駄な脂肪が多いよ!!

「違うよー、何かあったかいのー」
「は…?」
「スマ、早く!!」

 何だ?俺ってそんなに体温高かったっけか?

「…あ、!朝食先に済ませちゃってすまねぇっス…。俺達、今から仕事があるんスよ。夕食はちゃんと全員揃って食べられるっスから」
「ああ、うん。ありがとう」
 スマイルの首根っこ掴んだままにっこりと笑うアッシュに俺は内心ほんわかしつつ、笑みを返して頷いた。

「何をしている、リハーサルが始まるぞっ!に書き置きしろ!」
 開け放されたリビングのドアの向こう、廊下を凄い速さで駆け抜けた人物(多分ユーリ)が、リビングの前を通過する瞬間に言い放った。
 俺には気付いてないらしい。(そんなにヤバいのか、時間…)

「いや、それはもう必要ないっスけど…。…!!ああぁ、遅刻するっスー!!!」
「急げ急げー!」
 そしてダッシュをかける2名。

 遥か向こう…多分玄関の方で、「昼御飯は冷蔵庫に作り置きがあるっスよ!それじゃ行ってきます!」とアッシュの声が響いて、扉が勢いよく閉まる音がして、途端に静かになる。

 いつもこんな感じなのか・・・?
 随分忙しそうだったな。


 とりあえず俺は朝食を摂ることにして、リビング内にあるダイニングへ繋がるドアへと向かった。



***



 あぁ、幸せだ。
 アッシュの料理、美味過ぎ。

 てか、アッシュの手料理食べられるだけで幸福死しそうだよマジで!!
 昨日の夜も食べたんだが、眩暈がしそうなほどうまかったさ!
 さすが料理人志望者…!!
 アッシュが店開いたら絶対俺が客第1号になってやる!!


 ひとしきり幸せをかみしめた所で、ふと我に返る。
 …今から何しよう?やることないし・・・。

 しばし考え。


「掃除、とか…」
 いや、却下。いじっていい場所と悪い場所の判断ができない。
 これは要相談だな。

「洗濯……は、アッシュが昨日全部やっちゃったの見たし、料理はそれこそアッシュの領域…」
 ……って、マジでオカンだなアッシュ!!
 家事全般やっちゃってるのか!


 今日の所は家事以外の事をするとして、じゃあ何があるだろう…?

「・・・・・あ、俺、服ないんだっけか?」

 身一つで来た上、いつまでも制服を着ているわけにもいかない。
 MZDに服を出させ続けるのも悪い気がする。

 じゃあ、買ってくるか。


 俺は買い物に行くことにした。



***



 使った食器を洗って、準備開始。

 とりあえず持っていくものは少ないなぁ。
 財布もないしカバンもないし?

 これだったら通学途中とかにこっちの世界に飛ばされた方がまだマシだった。
 通学カバンの中には財布もあったし。
 …中身は微妙だったが。

 資金は…まぁ、イマイチ信頼薄いけど、昨日MZDに貰ったこのカードを持ってくしかないなぁ。
 「これで必要なモン買え」とか言ってたんだから、クレジットとかそれ系なのだろう。多分。
 激しく不安だが。

 そのカードをポケットに突っ込み、俺はリビングの電気を消した。
 結局持ち物はカードだけだった。ちょっと寂しい。


 玄関へと続く廊下を歩く。

 うわぁ、何度見ても凄い。
 天井高いし壁は石だし、本当にメルヘンだ。

 ていうか、中々玄関に辿り着きゃしない。

 道順は合ってるはずなんだけどなぁ?
 いかんせん広すぎる。



 ようやく玄関に辿り着き、大きな扉を開けて、外に誰もいないか見回して確認。
 外出する時は気をつけるべし、と昨日ユーリと約束したばかりだ。
 よし、誰も居ない。外に出て息をつく。

 …鍵とかってかけたほうがいいのかな?

 扉を調べてみた所、錆びた鍵穴発見。
 使ってない…のか。無用心な。
 でも家主達が全く使ってないなら俺も使う必要は無いんだろう。…多分。
 これって錆びすぎてて鍵入らないだろうし、第一に俺は鍵持ってない。
 …ちょっとなら大丈夫かな。皆帰ってきたら鍵の事聞いてみよう。


 一人納得して、俺は城を背に出発。





 ―――歩き始めてから3分ちょっとくらい過ぎただろうその頃、俺はかなり妙な体験をしていた。

「なんだよこれっ!!あーもう!!」

 場所は森。俺がアッシュに担がれて通ってきた道。
 …人が通った形跡がありまくるから、容易に辿ってこれた。
 多分いつも皆通ってるんだろうな。

 それはいいとして。

 何だよこの変なの!!
 目の前には森が続くのみなのに、なぜか前に進めない。
 透明な壁でもあるみたいだ。
 ファンタジー風に言うと、バリアの中に居るみたいな。

 そしてはっとする。


 確かここら辺でアッシュは一旦立ち止まった…?


 で、ちょっと視界が歪んだり平衡感覚が無くなったりして、この場所を通過したっけ。
 もしかするとあれってアッシュが何か特殊な方法を使ってこの壁を通り抜けたのかも…?

 外出禁止じゃないのにこれじゃ禁止されてるのと同じだよ妖怪バンド…!

 しまったなぁ、あの時の眩暈に似たあれが何なのか聞くのを忘れてた。
 こんな重要な事だなんて思わなかったぜちきしょー!

 溜息をついてしゃがみこむ。

 と。


『ヴン…っ』
 眼前から、テレビをつけたような音。

 ぱっと顔を上げると、そこには。


「あれっ?あなた誰?」
「ポップンパーティにこんな人出てなかったよねぇ?」

 顔を見合わせて不思議がっている、猫耳どころか顔が猫な人(?)と、ウサ耳どころか顔がウサギな人(?)
 あ、あれ?この2人って・・・

「ミミニャミ!?」
「「!!」」

 俺が大声を出したら、2人は驚いたように(実際驚いたんだろうが)目を見開く。

「私たちの事知ってるの?」
「やっぱりポップンパーティに来てる人だったんだ!」
「やだ、私達参加者の名前どころか顔まで忘れてたの!?

 何やら混乱させてしまいました。(てか、パーティ関係者しか出入りできないのかここは)

「いや、俺参加者じゃないから。名前は…えーと、Deuilから教えて貰ったってことで!」
「(ってことで・・・?)でも、それじゃ貴方は誰?」
 ミミが、しゃがんでる俺に合わせてしゃがみつつ訊いてきた。
 ニャミもそれに続いてしゃがむ。

 何だか密会のようだ。

「俺は。異世界から来たんだが、元の世界に帰る方法が見つかるまでユーリの城に居候させて貰う事になったんだ」
 こっちの人は「異世界から来た」って言っても混乱しないようなので正直に言っておいた。
 ミミニャミなら俺が住んでる事言っても大丈夫だろうし。

「そうなんだぁ。あ、私達の事は知ってるみたいだけど改めて自己紹介するね。私はニャミ」
「私はミミ。ポップンパーティ…って言って分かるのかな。まぁ、パーティの司会をやってるよ」

 知ってますともっ!毎度元気に出てくる2人組ですからね!!
 ていうかポップンパーティってどういう事するんだろ?


「…って、そういえば何でここにミミニャミが居るんだ?どうやって入ってきた?」
「ポップンパーティの参加者とか企画者だったら通れる人も多いよ」
「呼びに来ないといけないこともあるからね」
「へぇー」

 今日みたいに遅れそうになる奴がいるから…とか?
 ・・・あの3人組が常習犯のような気がしてならないけど。



「…ああぁっ!!!」
 突如ニャミが大声を上げる。

「どうした?」
「私達、Deuilを呼びに来たんじゃなかったっけ!?」
「あっ!!」
 2人は慌てたように立ち上がる。

「ごめん、私達Deuilを呼びに来てたの!行かなきゃっ」

「いや、もう既に慌ただしく出て行った後だけど?」
「そう、既に……え?
「だから、出て行った後だって」
「うっそ…すれ違っちゃった?」
「そうみたい…」
 耳を垂らすミミニャミ。
 ………その獣耳をちょっと触りたくなったとかいうのは秘密。

「それにしても、すれ違ったって言ったって結構時間経ってないか?」
「んー。途中でアクセサリーショップに寄ったのが悪かったのかなぁ・・・」
 首を傾げるニャミ。
 つか、呼びに来るのに寄り道してたのかよ!!明らかに原因はそれだ!!!


「どうすんだ?戻るのか?」
「ううん、今日は元々オフだったのを呼び出しに駆り出されただけだから、あとは自由」
「予定もないし、どうしよう?」

 悩むミミニャミ。その間約3秒。
 で、

「そういえば君はここで何してたの?」
「え、うーん。買い物に行こうとしてたんだけど」
「買い物?じゃあ一緒に行こうよ!異世界から来たんだったら道分かんないでしょ?」
「それグッドアイディア!!君いい!?」
 ぱっと華やぐ2人の顔。(「君」てことは、やっぱし男だと思われてるのか)
 ていうか、物凄く楽しそうだ。

「勿論OK!!てか、そうして貰えると本当に助かる!」
 道全く知らないし、しかもポップンキャラと歩けるなんてまず断る理由がないしな!!
 ラッキー!!!

「でも俺、こっから出る方法教えてもらうの忘れててさぁ。出られずに悩んでたんだよ」
「あらら…Deuilもうっかりさんだね。じゃあ教えてあげる」

 やった!これで籠の鳥状態から脱出できる!

 ミミが手を差し出してきたので、その手を握って俺は立ち上がる。
 わぁー、手ちっちゃいな…!
 そういえば二人とも背も俺の胸くらいまでしかないし。
 可愛い………

「?どうしたの?」
 俺がいつまで経っても手握ってたもんだから、首を傾げて下から俺の顔を覗いてくるミミ。

「何でもない」
 俺が手を放すと、2人は疑問符を浮かべつつ説明に入る。

「んじゃ、教えるね。ここを通るには特別な力なんかが必要なわけじゃないんだよ」
「え?そうなのか?」
 てっきり魔法か何かかと。

「んーと、まぁ平たく言えば合言葉みたいな感じかな?」
「呪文とも言うかな。『歪み(ひずみ)』の前に立って唱えるの。私達は『鍵言葉』って言ってるけど」
「あ、ちょい待ち。その『歪み』っていうのがよく分かんないんだ」
「え?その説明も無かったの?ほんとにうっかりさんだなぁ、皆」
「いや、聞き忘れた俺も悪いんだけどな」
「でもこれは重要事項だからね」
「じゃあとりあえず、そこから説明しなきゃ」

 ミミニャミは頷き合って、説明を始めた。

「うーん…『歪み』っていうのは別々の空間を結ぶ“見えないドア”みたいなものだよ。例えばDeuilみたいに売れっ子バンドやってると、ファンが押しかけて大変な事になるでしょ?」
「そこで、MZDが神様の力でお城の周りの空間だけ切り取って、そこを『歪み』で囲むの。そうするとお城のある空間には自由に出入りできなくなる」

 要するにこの城の周りだけ空間を切り離してバリアで覆ってるって感じか?
 鉄壁の守りだな。

「それって住人は?」
「そこで使うのが『鍵言葉』。開けゴマ、みたいな感じで、それを唱えると一時的に出入りが出来るようになってるんだ。住人が自由に設定とか変更できるの」
「はーん、そういう事か」

 アッシュが俺を運ぶ時に森で一旦立ち止まったのって、これを密かに唱えてたんだな。
 じゃあ城の鍵を使ってなかったのは、これが鍵代わりになってたからか。空間ごと切り取られていれば確かに城に鍵をかける必要は無い。
 てことは、俺が注意すべきなのは、城から出入りする時じゃなくてこの『歪み』を出入りする時って事?

「要するに『歪み』って、バリアと同じような感じ?」
「うーん、魔法使い風に言うとそんな感じなのかなぁ。ちなみにこの世界では『歪み』で区切ってある場所とか多いから、この世界の住人にとって『歪み』は凄く身近だよ。寧ろ知ってないと自由に行動できないの」
「あー。そうなんだ」

 だから「この世界で『歪み』を知らないなんてあり得ない」とか言ってたのか。
 なるほど確かに重要だ。

「情報ありがとう。凄く助かった」
「ううん。知らなきゃ困るもんね」
「それで、この場所を出入りするには何て唱えればいい?」
「えーとね。『カレー!ギャンブラーZ!ワルドック船長!!』


 ・・・・・。
 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・?


「…それってモロにスマイルが1人で決めただろ
「えぇっ!?何で分かるの!!?」

分からなかったらここまで腐った人間にはなってなかっただろうにな。

「まぁ、とにかく行きますか」
「何処に行く?」
「とりあえず服屋?こっちに来たばっかで服が無いんだ」
「そっか。じゃ、服屋さんに行こう!!」

 そして俺達は、『歪み』の前で一斉に鍵言葉を唱える。

 端から見れば限りなく怪しいんだろうな、とか思いつつ。





〜To be continued〜




<アトガキ。>

えぇー、長いので切りました今回。毎度長くてすいません。

ミミニャミと出会いました!!
Des系はありきたりかなぁ?とか思いまして。

相変わらず神が出張ります。(わぁ)
だって…神好きなんですもの!!

次回はようやく買い物場面ですね。誰かと出会う・・・かも?(かもって何だ)
それでは、また次回で。

2005.1.29





加筆・修正→2008.2.19

前回に比べれば然程無茶な修正はしていない…はず。
でも説明は入れました。前回削った分。
どっからどこまで入れたか頭の中でこんがらがってるのでヤバいんですが…!!
そして相変わらず理解し難い説明ですいません。一生懸命頑張ってるんです…(滝汗)

さて次も張り切って直しに行きます。では!