36.申し立ててみる
 
 
「あのー…たいっへん申し訳ないことを言うんだけど」
「んー?どしたの?ちゃん」

 今日はアッシュとユーリがそれぞれソロ活動をしてて、スマイルだけがお休みな日。
 だからちゃんとアッシュをくっつける作戦もお休みだ。
 というわけで幾分か気を抜いてたら、ちょっとやっておきたいことが浮上した。
 
「できれば生活必需品を買いに行きたいんだけど…いつまでもちゃんから服を借りてるわけにもいかないし」

 そう。実は着替えなんかはちゃんから借りたりしていた。
 歯ブラシやらお風呂で使うものなんかは新品の買い置きを貰って何とかしのいでたんだけど、欲しいといえば欲しいものがわりと積もってきてる。
 かといって私にはお金がないもので。というかどこにお店があるのかすら知らなかったりして。
 それで相談、というわけである。
 
「そっかそっか。それならこの城の住人共用のお財布があるから、そこから使っちゃえば問題ないよ」
「共用?の、お財布?」
「そそ。本来は食費とか城の維持費なんかに使われるのをまとめて入れてたんだけどね。3人とも関係ある部分って意味合いで。この城のお手伝いさんってことでちゃんの個人的な買い物もそこに含むことにしてたんだ。ちゃんも同じ扱いになるね」
「なるほど、お手伝いさんってことは維持費に近いものがあるもんね」
「そゆこと。本当はお給料を払ってもいいんだけど、ちゃんがそれを断ったからね。ちゃんはどう?」
「あ、私もそれはいいよ。わざわざ置いてもらってるのに給料とか申し訳なさすぎるし」
「じゃあちゃんと同じように共用の財布でお買い物することになるけど、今は…たぶんちゃんが持ってるから、呼んできたらいいんじゃないかな?実は食材なんかは最近ちゃんに任せてるから」
「あ、そうなんだ?わかった、ちょっと話してきてみるよ」
「はーい」

 てなことで、ちゃんの部屋にGO。
 
 
 
 
 
 37.お誘い
 
 
「そっかあ、じゃあ私もそろそろ食べ物買ってこなきゃなぁって思ってたから、一緒に行きましょ!」
 ちゃんに相談したら、こんなあんばいで一緒に行くことに決定した。
 なので私は頷いてありがたく同行してもらうことにしたのである。
 
 それが間違いだとは、この時つゆほども思っていなかった。
 イベントホイホイな彼女のことを、今更ながら甘く見ていたのかもしれない。





 38.いざ出発
 
 
 スマイルに行ってきますと告げて、出てきました城の外。
 ちゃんに案内されつつ道順を覚える。
 少し歩いたら大きめのショッピングモールがあるのだそうだ。

 でも今んとこめっさ森なんですが、ほんとにこれで買い物できるような所にたどり着くんだろうか。
 
「…それで、この世界には天使も悪魔もいるの。私も最初は半信半疑だったんだけど、外を歩いたらビックリするほどその通りで。改めて異世界なんだって気付かされたのよ」
「そうなんだ。私も覚悟しとくかな」
「それがいいと思うわ」

 などと雑談しつつ歩く。
 道を歩けば悪魔に当たるってか。
 ポップンワールドだからあり得るんだろうけど、実感ないなぁ。
 一回出会えばそうでもなくなるのかな。
 
 とか思ってると。
 
 
 どしゃり。
 
 
 いきなり目の前に落ちてきた塊のような何か。
 え、降ってきた?
 二人してそれと上を見比べる。
 木の上から落ちてきたんだろうけどそれ以外の何も分かんない。
 
「……え」
「…えっと」

 …どうやらそれは人のようだった。
 ていうかよくよく見たらこれって、
 
「……ぅ」

 落ちてきた人がくぐもった声を零す。
 ちゃんがそれを聞いて弾かれたようにその人物へ駆け寄った。

「だっ、大丈夫ですか!?」
 重そうにしながらも助け起こす。

「…何とも、ない」
 折角助け起こしてくれたちゃんを振り払うようにして自力で身を起こしたそいつは、わりと乱暴にそう言った。

 銀髪。ガスマスク(外してるけど)。半素足。極の一文字が書かれたTシャツ。


 …うん。
 ……すごく、ジャックです。
 

「起きても平気ですか?」
「…ああ」
「いきなり落ちてきましたけど、何かあったんですか?」
「……」
「あ…怪我、してるじゃないですか!」
「…うるさい、俺にかまう、」

 な、という一番最後の発音が小さくこぼれた。
 がばっと振り向いたその先に居るちゃんを見た矢先の出来事だった。
 
 代わりに彼は食い入るようにちゃんを見つめる。
 
 …あれ、このシチュエーションってフラグの立つ音が聞こえなくもないような。
 さすがヒロイン。外出しててもマッハでイベント打ち立てちゃうんですね。(棒読み
 
 
「駄目ですよ、傷自体はそんなに大きくなくても、ほっといちゃ…。今何も持ってないですけど、応急処置だけでも」
 ちゃんはごそごそとスカートのポケットから一枚の白いハンカチを取り出して、広げる。
 それをためらいなく彼の負傷箇所…右腕にきゅっと結ぶと、心配そうな顔をした。
 
「……」
「すぐそこにお城があるんです。そこでなら消毒もできるので、ついてきてもらえますか?」

 ちゃんの問いかけに、しかしジャックは無言で腕をそろっと撫でて、ぼんやり。
 視線はいまだにちゃんの方へ。
 見つめ合うことしばし。
 
 徐々に彼のほっぺたから耳にかけてが赤くなっていくのが見えますが、気の所為でしょうか。
 夢小説(特に逆ハーもの)って一目ぼれが多いけど、マジでフラグ立つんかい。高速で建設なう。攻略対象が増える気配がゆんゆんだ。
 

 ――と。フラグ建設さなかの甘酸っぱい雰囲気を切り裂くように、
 
 
「どこだ、ジャック!!」
 遠くから聞こえてくる声。


「…まずい」

 それを聞いたジャックは素早く視線を巡らせ、多少無理をしながらも立ち上がる。
 そうしてちらりともう一度だけちゃんを見て、何を言うでもなく(あとちゃんも私も声をかける間もなく)駆け出してしまった。
 やがて忍者もびっくりするほどの跳躍力でもって木の枝へと上り、木と木を飛び移りながら去ってゆく。
 
 んで、私達が顔を見合わせている内にここまで辿り着いた人物が約一名。
 
「…くっ、ジャックめ…どこに消えた」
 そいつはマントをなびかせ、すたっと目の前に降り立つ。
 カニパンのようなものを被って。
 
(続いてヴィルヘルムだぁーっ!?)


「…失礼、お嬢さん方、ここに銀髪の男が――」

 言いかけて止まる。ついさっきもあったようなシチュ。
 が、さっきとは違うことがひとつ。
 

「――美しき魂の者よ!!」


 向こうからちゃんに近寄ってきたことである。
 
「久しいな、ここで会ったのも何かの縁。私にその美しき魂の炎を差し出す気になったか?」
「え、あ、あの」
ちゃん…?知り合い?」
「うん…、前に買い物に出た時知り合ったの。ヴィルヘルムさんっていうんだけど、」
「覚えていたのだな、運命の女(ひと)よ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!」

 私なんぞ見えてないような様子でちゃんの肩を掴むカニパン。
 え、ちょっとこれ好感度最初からバリ高くない!?
 しかも出会いイベント既に済ませちゃってるようだし。
 ていうか私 蚊 帳 の 外 。

「魂って、差し出したら私死んじゃうんですよね?」
「必然的にそうなるな」
「い、嫌です!私は…」
「怖がることはない、魂は永遠に生き続けるだろう。私の元でな」
「嫌ですー!」

 ぐいぐいと迫るカニパンマントと嫌がる美少女。
 私は既に立ってるフラグ(ちょっといびつそうだな)を目の当たりにして、ぼんやりしていたのがはっと解ける。

「ちょっと、嫌がってるじゃないですか!やめてください」
 割って入ると、カニパンの奥から不機嫌そうな視線を寄越してきた。
 
「邪魔しないでくれたまえ。並の魂の炎の持ち主よ」


 並 と か 言 わ れ た 。
 
 
「って、それは関係ないじゃないですか!!嫌がってるなら放すべきでしょ!!」
「ふ、私は紳士だからな。ちゃんと手加減はしている」
「そこじゃなくて!!」

「あの」

 おずおずと発言する美少女一人。
 
「ふと思ったんですけど、ヴィルヘルムさんってさっきの人を追いかけてるんですか?」
「なに、ジャックを見たのか!?」
「ジャックさんっていうんですね。あの人怪我をしてたんですけど…、」
「どっちに行ったか教えてくれ!」
「あの、」
「あいつはとんでもないことをしでかしおったんだ!!どうしても追わねばならん!!」
「あの」
「さぁ、どちらの方角へ向かったんだ?」
「あの!!!」

 渾身の力を込めて話を遮るちゃん。
 紳士(仮)はやっと気づいたように黙る。
 
「ジャックさん、怪我してたんですけど。まさかヴィルヘルムさんが何かしたんですか?」
「抵抗したからな。さっさと捕まればいいものを」
「!!」

 ちゃん一瞬言葉に詰まって、
 

『パシン!!』


 代わりにその色白な手の平で返答した。
 つまり平手打ちだ。(カニパン兜が若干揺れる)
 OH……珍しい反応。
 
「酷い!なんてことを…!!」
「…!?」
「平気でそんなことする人、私大っ嫌いです!!何も教えませんし、魂だってあげません!!」
 泣きそうな顔できっぱりとそう言うと、ちゃんはそっぽを向いた。
 ヴィルヘルムは呆然としたように動かない。
 
「行きましょ、さん」
「え、いや、あの」
 いいんだろうか。色々。
 ちらちらとカニパンの方を見遣るも、ちゃんに手を引っ掴まれて歩きだすしかない。

 ちなみに追ってこない。
 
「…ちゃん」
「…」
ちゃん」
「……ごめんなさい、変なとこ見せちゃって」
「いやいいんだけど…ヴィルヘルムさんとはどんな関係で?」

 早足で歩きながら聞いてみると、ちゃんはむっと膨れながらそれでも返答した。
「私の魂?を気に入ってるらしいの。それで時々付いてくるんだけど…困ることばっかり言って」

 (出会えば)半ストーカーですか。

「そうなんだ…大変だね」
「ジャックさん、大丈夫かしら…」
「そうだねえ…」

 それも心配なんだけど、外出して10分も経たない内にこの有様とかこの先が思いやられるんですが。
 
 歩けば悪魔に当たるっていうか、ジャックとヴィルヘルムに会った。
 
 
 見つけられればもっかい手当てのお誘いを、と二人で決めたんだけど、再び出会うことはなかった。
 
 
 
 
 
 39.道のりは長い
 
 
 それから森を抜けるとともに住宅が増えてきて、更に進むと店の立ち並ぶ街に出た。
 
 ていうか曲がり角でパンをくわえた人と正面衝突したり(朝でもないのに)、横断歩道のボタン押すのに手が触れあって「あ…」ってなったり(もちろん相手は男)、ティッシュ落として「落とし物ですよ」って追いかけられたり(当然ちゃんが)、フラグのフルコース。
 げんなり通り越して呆れた。
 
 更に言えば、全員ポプキャラだ。
 どんな運してるんだヒロインよ。私は心臓がもたないよ。
 
 しかもこんな調子だから中々目的地につきやしない。
 一応遠くに見えてはいるんだけど。ショッピングモール。
 

「いろんな人と出会うねえ」
「前の買い物の時もこんなだったから、この世界では普通なのかと思ってたんだけど…」
「いや、おかしいって」

 とか言いつつ次のフラグが降って湧かないか警戒中。
 …ところがそんな警戒も実を結ばず、
 
 
「ねぇ、かーのーじょ」
「女の子だけ?俺らと一緒に遊ばない?」


 ヤンキーっぽい男ども(見覚えないので珍しくポプキャラではない)3名が通せんぼをしてきた。
 丁度ゲーセンの前で、そこから出てきたらしかった。
 
 これは……ナンパか!!
 
「…え、あの…」
「いいじゃーん、ちょっとだけ。な!」

 こんなものに出会ったことないから頭の中こんがらがってる。
 えっと、お断りするにはどうしたら!?
 
「カラオケいこーよ、ね?」
「用事があるんだったらそっちの君だけでもいいからさぁ」

 そしていずれも視線の先に居るのはちゃん。
 ・・・・・・・・。
 
 
 ああそうですか。そ う で す よ ね 。
 
 
 多少がっかりしたというか、失礼な。
 
「お断りします。迷惑です、どっか行ってください」
「あぁ!?アンタに言ってんじゃねぇし。そっちの可愛い子に言ってんだよ」
「何勘違いしてんだよ、俺らそっちの子に用があーるーの」
「知ってます!!それを踏まえて迷惑だっつってんですよ」
「あぁん!?」

 イラついて強めに出たけど、ガンつけられたらこっちも為す術はない。
 苛立ちがたじろぎに変化して、じりっと一歩下がる。
 ちゃんも私の服の袖をぎゅっと握りしめて怯えているようだ。
 
 あれこれ何気にピンチなんじゃ。
 
 
「――おう、ちょっと待ちな、お兄さん方」

 唐突に現れた誰かが、ナンパ男どもの後ろから内一人の肩にポンと手を置く。
 「あぁ!?」と不機嫌そうに振り向くその鼻先に、銃を模した右手の人差し指を突きつける。

「嫌がってるじゃねえか。あんま悪さすると……さて、どうなるだろうな」

 残りの男が体ごと振り向いて、そこに見えたのは……


 青いツナギにドクロマーク、目深にかぶった帽子にヘッドホン、無精髭。
 
 Mr.KK で す か(今日一日でポプキャラに会いすぎて感覚がマヒしてきてる)
 あ、これ詰んだ。男どもが。
 

「何だてめぇ」
「邪魔すんじゃねえよ」
「馬鹿にしてんのか!?」
 突きつけられた手をパシッと叩き落とし、今度はそっちに鋭い視線が向く。
 いつ喧嘩になってもおかしくない雰囲気だ。
 
さん……」
「…あー、多分大丈夫だよちゃん」
「え?」
 小さい声でごにょごにょ会話する。
 寧ろ男どものが大丈夫じゃないと思う。
 
 言った端から男の内一人がKKの肩を突きとばそうとして、それがひらりと避けられる。
 多少混乱したのかたたらを踏んで、その横から別の男がKKの胸倉を掴み上げようとしてそれも失敗。
 残った男がやけっぱちに殴り掛かって、それは正面から受け止められてしまった。
 
 そして仕返しとばかりに足払い。しかも範囲が広い。
 一度に全分の足を薙ぐとは思ってなかったから壮観だった。
 ずどどっ、と男どもが地面に伏す。
 
 
「さてと……怪我がねぇ内に退散した方がいいんじゃねぇか?」


 涼しい顔して言い放つから、男どもは慌てて立ち上がりじりじりと後退して……舌打ちが聞こえたと思ったら全員ぱっと逃げ出した。
 


「ふう。お嬢さん方、平気か?」
「あ…はい」
 ちゃんがおずおずと頷く。
 
「そっちは?」
「え?私?」
 自分を指さして尋ねたら、もちろん、と頷かれた。
 今までのポプキャラにこっちの存在を意識されたことがなかったから思わず戸惑った。
 
「は…はい。指一本触れられてないです」
「そうか。そいつは良かった」
 にっと笑みが浮かんで、それに釣られて……ほっとした。
 
 ああ、やっぱ怖かったんだなぁ、自分。
 
「まぁ、なんだ。さっきの奴らがリベンジに来ないとも限らねえし、送って行こうか」
「いいえ、実はこれから買い物に行く所だったんです。…それに悪いですし」
「いや、困ってるなら助けるのが男の務めってもんだろう。一緒に行くぜ」

 ………。
 実際戻ってこられたらすごく困るしなぁ。
 
 と、いうわけで。
 
「…宜しくお願いします」


 同行をお願いしたのだった。





  続く!>>



<あとがき>

あっれ、続いちゃった!?
外出すると長くなるんですよねー……

ヒロインが外に出るとポプキャラに出会うのがセオリーですな。
というわけでボロボロ出してみました。
名前の出てない所は色んな妄想で補ってくださればと思います。

カニパンの扱いがひどいって?
プロフ見たらこんな性格でしか思いつきませんでした。愉快すぎる。

ではまた次回で!