11.ヒロインの友人枠?


 それからもちゃんの居る所にはイベントが多発して、彼女の行く所へついていけばフラグの立つ音が掃いて捨てるほど聞けるという状況。
 私はそれに……若干辟易していた。

 だってあれだよ、本人の望む望まないに関わらず他人のラブシーン見せつけられるんですよ。
 甘すぎて砂糖でも吐きそう。ていうかこっちが恥ずかしい。

 だがしかしおかし、ちゃんは私のことをかなり親しい友達として認識してるのだ。
 友達になる事自体は別にいい。だって異世界で友達になってくれる子とか貴重過ぎるし実際根はいい子だし。
 ただ、あっちこっちに引っ張り回された挙句イベントにほぼ無理矢理巻き込むのはやめてほしい。
 人の目前で何て恥ずかしい光景見せびらかしてくれとんじゃい。
 勿論わざとじゃないようだけど。
 イベントに引力でも働いてるとしか思えない。

 というわけで若干距離を開けたい……のだが良い言い訳も見つからず。
 今日も今日とてどれほどのイベントに立ち会わされるのかと思うと溜息しか出ない私だった。





 12.第一級フラグ建築士


 ちゃんはこの城に置かせてもらう代わりに家事手伝いをしているのだそうだ。
 ってわけで、私も居候の身なので人員増加ってあんばいに家事をすることにした。
 …よく考えなくてもこれだって王道だよね。居候の代わりに家事手伝い。

 それで、ここ数日分担してやってみて、大体の役割が決まってきた。
 基本は二人で一緒にやる。このだだっ広い城では一番厄介なのが掃除。晴れれば私が洗濯に回り、アッシュが居ない時はちゃんが調理に回る。
 食べてみてビックリしたけど、ちゃんの料理は驚くほど美味しい。アッシュに負けてない。さすがヒロインポジ。
 ちなみに本人が言うには「お菓子の方が得意なんだけど」とのこと。女子力無駄に高い。

 ちなみに一番最近起きたイベントは、スマイルが「僕カレーが食べたいなぁ」なんて言い出して、ちゃんが「じゃあ一緒に作りましょ」ってな感じでスマイルと二人きりで料理したことである。
 中々素晴らしい甘々イベントだ。

 え、私にイベント?そんなのあるわけないじゃないですか、やだー。
 下手すると私がちゃんにメロメロになっちゃいそうなくらいなのに。
 アッシュが手を滑らせて落っことしたテレビのリモコンを渡した時ちょっと手が触れた程度ですよ。
 大体、私がイベントなんて起こしたらすんごくわざとらしくなっちゃいそうだしね。


 さて、現在の時刻は22時。
 家事もひとしきり終わって、晩ごはんも食べた後。

 やることがなくなって、あとはまだ帰ってきていないユーリでも待つかな、といった所。
 そこでちゃんがとある提案をする。

「ねぇさん。今日は月が綺麗だし、ちょっとだけ夜の散歩に行かない?」

 そこで私はピンとくる。
 月、夜、散歩。そして仕事からまだ帰ってきていないユーリ。
 これはイベントの香り。

「あ、いやー、私は遠慮しようかな?食べ過ぎて歩くのつらくって」

 予感ていうか確信。このままついてったら多分イベントに巻き込まれる。
 warning warning。脳内警告発令。

「じゃあ余計に行かなきゃ。食べ過ぎと運動不足は体に毒よ?」
「あ…うー、でも」
「ちょっとだけだから」

 わりと万事こんな感じである。
 特にきっぱり断るでもなく理由がふわふわしてるとちゃんには押し切られることが多い。
 そして私も口が上手い方ではないから、断り切れない。

 とういわけで私も夜の散歩に出かけることとなった。





 13.フラグ回収早すぎやしないか


 というわけで城の外周…というか外庭を散歩中。
 某口説き文句じゃないけどほんとに月が綺麗。
 これもうちょっとで満月なんじゃないかなあ。夜なのに明るい。
 散歩をしたくなるのも無理はなかった。

 他愛のないことを喋りながらてくてく。
 所々花が植えてあって、月光に照らされてる姿は何ともいえず素敵だ。

 で、半周くらい行ったかなって時だった。


「お嬢さん達、月夜の散歩とはいいセンスをしているとは思うが…些か不用心過ぎはしないか?」

 上から声が降ってきて、二人して見上げる。
 すると、赤い翼をはばたかせながらユーリが空から降りてきた。

 や っ ぱ り き た

 何、フラグ回収早くない!?
 ユーリといえば公式で月夜の散歩が好きって公言されてるから絶対くるよこれとか思ってはいたけどその端から来るってどんだけ!?
 未来予知者にでもなった気分だ。

「ユーリさん…」
「私もこういった日に散歩をするのは好きでな、仕事帰りにここまで楽しんでいたというわけだ。しかし二人は女性なのだからもう少し用心したほうがいい。散歩を続けるのなら私もついて行こう」
「そんな、心配するほど何にもないとは思うんだけれど……さんはいい?」
「あ…うん。勿論」

 イベントを見たくないからとはいえ追い払うのは失礼すぎるので拒否はしない。
 一緒に居るのヤダとかユーリにしてみれば悲しすぎるじゃないか。
 理由も思いつかないし。

 てことで、ユーリさんの同伴開始。

 早速二人で楽しそうに会話してて、今にも何かイベントが起きるんじゃないかという雰囲気。
 ふおおおお、さりげに寂しいぞこれ。這い寄る置いてきぼり感。
 でも横から見る二人は美男美女でかなりお似合い。
 部外者は寧ろ自分なんじゃないだろうか。

「そうだ、ユーリさん。西側の薔薇がやっと咲いたのよ。見た?」
「いや、咲きそうなのは分かっていたが、まだ見ていない。今日開いたのか?」
「ええ。とっても綺麗なピンクだったわ」
「そうか…」

 ふ、と笑ってちゃんの顔を見るユーリは、凄く優しげな顔をしていた。
 ふおおぅ、イベント?イベントなう?
 もうどこからがイベントなのか分からない状態だ。
 もし始まる前なのだとしたら今からでも抜けられないだろうか。


「あ、あの!」
 私が少し強めに発言すると、二人ともこっちを見た。

 …えーっと、そんなに見られてると逆に言いづらいんだけども。

「私、そろそろ中に戻るね。二人はゆっくり歩いておいでよ」
「え?どうして?そんな急に…」
「いいから。ユーリも話したいことあるみたいだし」
「む、」

 ダシにされたユーリは目をしばたたかせた。
 いやー、出歯亀回避するにはこれくらい強引じゃないと無理じゃない?

 そしたら、

「…。何やらいらぬ気遣いをしようとしているようだが」
「……う」
「それは私の本意ではない。できるなら一緒に来てはもらえないか?その方がも喜ぶ」
「……ううう」

 首を傾けながら目を細められたら、もう断れない。
 さりげにちゃんのためってことになってる辺り巧妙過ぎる。

 そんなわけで、折れるしかなくなったのである。

 ていうか、私のポジって一体なんなの。





 14.そして考える


 結局あれから「月が綺麗ですね!」とか「…そうだな、月が綺麗だ」なんて応酬があったり、それがちゃんの顔を見ながらだったりして、やっぱり砂糖吐きそうだった。
 彼女の居る所にイベントあり。
 今のところ命中率100%である。

 そこで、自室に戻ってきた私は考えた。
 誰と居てもどんな時でもイベントを引き寄せてしまうのは、未だに誰落ちにもなってないせいなんじゃないかと。
 いわゆる逆ハーってやつになってるせいで誰とでもイベントに直行してしまうのではないか、と。

 てことは、誰か一人に相手が限定されてしまえばその分イベントも減るんじゃなかろうか。

 例えば相手がユーリに確定したら、他の誰かとイベントが起きることもない…と思う。
 だって普通に浮気になっちゃうからね。

 ならば私に出来る最大の防衛法は……ちゃんと誰かをひっつけちゃうことである。


 今のところ好感度が一番高い人って誰なんだろう。
 私はこの世界に来てイベントの起きてるところをDeuilの誰かしか見てない。
 すると必然的にDeuilの誰かが一番好感度高いんじゃないかと思う。
 身近=好感度UPイベントが起こりやすいからね。

 3分の1。ううむ、でもここに来てまだ日が浅いからなぁ。
 私が来る前のことまでは分からない。

 こうなったらイベントが起こる度に誰でもいいから焚き付けてみるかなぁ。


 ・・・・・・・。


 複雑だ。心境が複雑過ぎる。
 だって私も夢小説が大好きだったわけだから、Deuilがお相手のものだって読んだことは腐るほどある。
 こんな風になれたら、って気持ちも抱いたことがある。
 それが今は夢小説ばりの状況になったというのに、やれることは友達と誰かをくっつけること。

 私だって、恋したかったよう。

 やるせない思いを胸に、枕をぎゅーっと抱き締める。
 でもやるしかないよね。こっ恥ずかしいイベントを見まくることも無くせるよね。
 世の中にこれほど目のやり場に困ることも早々無いもんね。

 ふはははは。
 私は夢小説イベントの狭間に闇堕ちするのだ。


 っていうか、誰プッシュしようかなぁ。

 そんなことで迷う真夜中の話。





 15.チャンス到来


「え、部屋にこもる?」
「そうだよー。っていうかもう引きこもってると思うんだけどね?」

 翌朝、スマイルしかダイニングに現れなかったのでちゃんと一緒になって尋ねたら、返ってきたのは「今日は二人とも部屋にこもるよ」という答えだった。
 なぜに急にヒッキーになるんだ。

 と、思ってたら。

「今夜は満月だからね…二人ともうっかり忘れてて、言いそびれたんじゃない?」

 なるほど納得。
 夢小説にもままあるんだけど、満月の日は特別なのはどこも一緒。
 だから何か体に変調をきたしてるんだろうなという認識で私は納得した。
 ただし事情を知らないちゃんは首を傾げる。

「満月…が、何かあるの?」
「ヒヒヒ、まぁ、妖怪だからね。元々月には影響されやすいのさ。アッシュは狼人間だから狼の部分が強くなったり、ユーリは吸血鬼だから吸血衝動が強くなったりね。僕は…まぁ透明人間だし、多少気分が高揚する程度だけど」
「それと部屋にこもるのと関係があるの?」
「そうだねぇ。……二人とも、誰かが一緒に居ると困る状況なのは間違いないね」

 言いつつスープを飲み干す。
 アッシュが来ないから朝ごはんはちゃんが作ってくれた。

「キミらも二人の部屋には近づかないようにね?…例え苦しそうな声が聞こえても、入っちゃったら最後、大変なことになっちゃうから」
「え…でも、二人とも朝ごはんも食べてないのよね?食事くらい持って行かないと」
ちゃん。妖怪は数日くらいご飯抜いてもなんともないよ。もちろんお腹は減るけどさ。それとも、キミのその首から血を吸い上げられたい?今日の二人は普段の二人じゃないんだから。それは理解して」
「………」

 スマイルにしてはいつもより強めの語調。
 これにはいくらちゃんといえど黙るしか無かった模様。

「ってわけで、二人とも注意してね。特にちゃん、キミは……ヒヒッ、なんでもない。まぁ近寄らないならそれ以外は何しててもいいからさ」

 パンにバターをつけて齧りつく。

「そういえば、ユーリが血を吸いたくなるっていうのは分かったけど…、アッシュは具体的にどうなるの?」
「それはねー、……まぁ、女の子には言いづらいから聞かないでもらえると嬉しいなぁ」
「え?…どうして?」
「どうしても」

 ほほう。
 なるほど、あっち方面なのですね。
 頭上に「?」を浮かべるちゃんそっちのけで一人納得してしまう。
 けど、それを悟られないように朝食をぱくつく。私何モ聞イテナーイ。


 っていうかね、今日はチャンスなんじゃなかろうか。
 ちゃんと誰かくっつけるための。

 見てた感じどっちもちゃんに気があるのは確かだし、満月のせいにして何かアクション起こせば………


 ……ごくり。
 生唾じゃなくて、朝食を飲み込んだ。





  続く!>>



<あとがき>

こんなとこでぶった切っちゃう不届き者です。こんにちは。
ようやくこの小説での方向性が決まってきたような気がします。
あ、いや、流石にさんと誰かをくっつけるだけで終わるような感じではないです。
それじゃああんまりですから。
てわけで、また次でお会いしませう。

2016.7.6