07.ビー・クール


 とりあえず部屋は無駄に余ってるとのことで、大急ぎで一室掃除して(申し訳ないけど皆にも手伝ってもらった)そこに住まわせてもらう事になった。
 感謝してもしきれない。だって行く宛ないもの。

 というわけでマイルームゲット。
 私は一人で考える時間をも入手した。

 そこで早速考える。
 ベッドの上に寝転がって、窓の外に流れる雲を見ながら。

 落ち着け。そして考えるんだ私。
 さっきは思わず舞い上がってしまったけれど、現実に会った人に対して夢小説を当てはめるのは失礼だ。

 てことで、現状整理。

 私はどうやらポップン世界に来てしまったらしい。
 ユーリとアッシュに会ってこれは偽物なんかじゃないなと思ったから。お城もドラマのセットにしては広すぎる。
 で、もう一人、私の元居た世界から転がり込んできた人が居る。
 絶世の美少女『』ちゃん。
 地球からぶっ飛んできちゃったのは私を含め二人。
 そして私はその子の口添えでさっきこの城に住むことが決定したのである。

 そう――女の子の友達が出来るなんて嬉しい、という彼女の一言で受け入れが決定したようなものなのである。
 んでもって、「私から言うのも何ですが、敬語なしでお話しませんか?友達になりたいんです」なんて言われたので敬語は除去された。
 ついでに妖怪二人の意見も一致したので全員に対して敬語抜き。

 ・・・・・・・・・。
 これってあれじゃないですかね、夢小説で言うところの「敬語解除イベント」………、いや、やめろ私。さっき夢小説扱いはやめると決心したばかりじゃないか。
 いくらヒロインぽいちゃんから宣言されたからといって。

 うん、気のせい気のせい。

 んで、そっからそれぞれ改めて自己紹介があって、お部屋を掃除しまして、今に至るわけです。
 ふむ。

 ・・・・・・・ふむ。


 やることないね!(キリッ


 とりあえず心の整理はついたから、部屋の外に出てみますか。





 08.イベント?


 部屋の外に出ると決めたはいいものの、いざ出てみると思いっきり現在地が不明だったりする。
 なるべくリビングに近い部屋をってことで初心者にやさしい場所をチョイスしてもらったのは記憶してる。
 でも、有識者に案内してもらうのと一人で歩くのとではかなり差があるようで、どの角をどちらへ曲がってどう通ればリビングに行けるのか少し危うい。
 これ…遭難しちゃったりしないよね?

 とりあえず何度か廊下を曲がったのは確かで、そしてここは2階であることも確実。
 なのでリビングを目指すのなら階段を見つけないと。

 というわけで何となくうろ覚えながら歩いてみると、運良く階段発見!
 これはもう降りるしかない。

 鼻歌でも歌いながら降り始めて、ふと気付く。
 階段の下から、誰かが上がり始めたことに。

 よく見るとそれはちゃんだった。

「あ、ちゃん!」
さん?丁度良かった、今部屋に行こうと思っていたの!」
「そうなんだ?何か用?」

 向こうは階段を上がりながら、こっちは下りながら会話を続ける。

「ええっと、実はちょっと暇で。女同士で少しお話でもできたらなと」
「そっか。私も同じような理由でリビングに行こうとしてたんだよ。グッドタイミングだね」

 ちゃんは「ほんと?」と表情を輝かせた。
 美少女の笑顔は本気で眩しい。
 世の中可愛い人や綺麗な人が有利なのも納得だ。

 女だけどデレッとしてると、ちゃんが前の段まで来て更ににこやかに笑った。
 それで「お部屋とリビングどっちがいいかしら?」なんて言うから、私は少し迷う。
 多分ちゃんも私が居るから部屋に向かおうとしてただけだろうし、私も誰か居るだろうからそっちに向かってただけ。
 だからどっちでもいいんだろうけど。

 どうせならユーリやアッシュも居るかもしれないリビングの方がいいかなぁ。
 ていうか今まで思いつかなかったけど、スマイルは居ないのだろうか。
 どうせならDeuil全員揃った所でも見てみたい。
 まぁその辺は成り行きに任せるとして。

「どっちかっていうとリビングがいいかな」
「じゃあ、そっちにしましょ。こっちよ」

 相変わらずにっこり笑いながら、ちゃんは私の手を取る。
 ―――と。

「あっ」
「えっ!?」

 その拍子に私はうっかり階段を踏み外してしまって、背筋がひやっとする。
 あ、これヤバいやつだ。

 重力に抵抗するも、そのままずるっと落ちかけて、反射的に手すりを掴もうとするもぎりぎり届かず、頭が真っ白になった……その瞬間。
 ぐいっとちゃんに引っ張られて立ち位置をぐるんと反転させられた。
 え、でも、それは。

 思った通りちゃんが代わりに階段から脚を踏み外す。
 ヤバい。

 ちゃんの腕を掴もうとして空を切る。
 このままじゃ、彼女が落ちてしまう―――、


 と。


 ばさり、と何か鳥の羽音のようなものが聞こえて、次の瞬間にはちゃんの落下が止まっていた。

 要点だけ言おう。
 ユーリが文字通り飛んできて、ちゃんをキャッチしたのである。

「まったく…無茶をするな」
 ちゃんをゆっくりと階下に下ろして、ユーリは彼女を見つめながら叱る。

「助けるのはいいが、自分が落ちてしまっては元も子もないだろう。私が自室に戻る途中で偶然そこに居たからいいものの」
「は…はい…、」
「…聞いているのか?」
「あ…ごめんなさい。だって、凄く近くて、…ユーリって普段距離が遠いから、ちょっと恥ずかしいなって思ってて」
「………」
「………」

 沈黙する二人。
 心なしか二人とも顔が赤い。


 なにこれ。

 なにこれー!!!


 思いっきりフラグ立ってますよ。
 ていうかちゃんが落っこちる時に限って偶然ユーリが来るとかどんだけご都合主義なの!?
 しかもきっちり姫抱きもあったし密着もアリアリとか思いっきりアレじゃないか。
 例のアレにありがちな唐突に降って湧く好感度上昇イベ……いやいや、考え過ぎ?考え過ぎなのか?


ちゃん、ごめんなさい。私が不用意に手をつなぐから…」
「あ、ううん。結果的に大丈夫だし気にしてない。寧ろ助けてもらってありがとう」
「災難だったな。次から気をつけるといい」


 ユーリが私の横を通りすぎて階段を上がってゆく。

 ・・・・・・・。
 とりあえず今は考えないことにしよう。

 階下で待ってるちゃんに駆け寄る私だった。





 09.いや、イベントでしょ


 今度こそ道順を覚えながらリビングに到着して、お茶会なう。
 アッシュが紅茶とクッキーを用意してくれた。
 ほんと美味しい。

 で、ガールズトークっていうか元居た世界についてとこの世界についてがメインになっちゃってるけど。
 話してる内に何となく気付いたのが、…ちゃんはわりと天然なところがあるかもしれない。
 何だか話が噛み合ったり噛み合わなかったり、そう、敢えて言うならふわふわしてる。
 でもそれがまた可愛かったりして。
 ……そうか、これがヒロイン補正なのk(略

 アッシュは話を振られたら都度返事をするくらいで、テレビを見ながらくつろいでいる様子。
 私にとってはそんな姿も貴重ですよ。
 時々見詰めてしまうのは許してほしい。

 でもちゃんはそれに気付いたらしく。

「アッシュさんのこと、何か気になるの?」
「え?あ、いやー、」
「私も最初は気になったわ、だって耳もモフモフだし髪も緑色だものね」
「…あ、まぁ、そうよね」

 普通はそういうとこに目が行くよね。

「でもとってもいい人なのよ?人じゃないんだけれど。狼男さんなんですって」
「へぇー」
「あと、私はアッシュさんの前髪が気になるのよ。見えにくくない?って聞いたら、そうでもないって言われて終わっちゃって…」
「確かに長いね。でもきっと何か事情が…」
「ね、気になるわよね。ねぇアッシュさん、どうして前髪がそんなに長いの?」

 アッシュの方に向かってちゃんが問う。
 彼は振り向いて「え?」と聞き返した。
 それに対してちゃんは立ち上がって近づきながら「どうして前髪が長いのかなって、聞いたのよ」と優しく問いかけた。

「え…どうしてって、それは……」
 テレビの画面を遮るように正面に立ったちゃんに、アッシュがキョドる。

 それを気にせずちゃんはおもむろにアッシュの前髪に手を伸ばした。

「あ、ちょっと、待っ―――」

 僅かな抵抗もむなしく、ちゃんの手によって前髪は掻き分けられてしまった。


 ・・・・・・・。
 しばしの沈黙。


 アッシュは何を言われるか微かに怯えている様子で、紅玉の瞳で弱々しく彼女を見つめている。
 そして当の彼女は―――


「……綺麗なガーネット色の瞳なのね」
 うっとりとそう告げたのである。

「…
「どうして隠してしまっているの?勿体無いわ」
「それは……怖がられるんじゃないかって思ったんス。前に子供に泣かれて…」
「あら、私は目を見て話せる方が嬉しいのに」
「……」

 アッシュの瞳から怯えの色が消えて、別の何かに置き換わった。

 二人はしばらく見詰め合う。



 ・・・・・・・・・・・・。
 をい。

 これってあれじゃないのか、ポップンの夢小説に超ありがちな「アッシュの目のコンプレックスつついたら好感度上がるイベント」。
 ていうかずばりそのものじゃないか!!
 王道だよね!

 気のせいとか騙し騙しここまで来たけどこんなに直球ど真ん中通過されると私としても見過ごせないぞ!?
 わざとやってるんじゃないかと思うくらいだ。
 これはもう、聞くしかあるまい。


「……ねえ、ちゃん。ちょっと聞くけど……」
「なあに?」
「夢小説って、知ってたり…する?」
「?? 夢…を、小説にするの?」
「いや…やっぱなんでもないや」
「???」

 どうやら夢小説については知らないらしい。


 知 ら ず に こ れ か


 わりと遠い目をしたくなった私である。

 ちなみにその日、アッシュはちゃんによって前髪をヘアピンで留められたまま過ごすことになりました。





 10.もう一人帰還


「たっだいまー」
 がちゃり、リビングのドアが開いて顔を出す人物(妖怪)が一人。

「おかえりなさい」
「おかえりなさい!」
「あ、お邪魔してます」

 返答が三つ。
 それに驚くその人物。主に一番最後に。


 ていうか私は部屋に入ってきたこの人を知ってる。
 青髪に青い肌、赤い目。
 紛うこと無くスマイルである。

「あれ、この子だぁれ?」
 私を見ながら彼は問う。

と同じようにいきなりこっちの世界に飛んできた子っスよ。っていうんス」
「この城に置くの?」
「何かの縁っスからね。ユーリも同意したっスよ」
「そうなんだー。ヒッヒッヒ、僕はスマイル。よろしくねー?」
「あ、はい」

「こらさん!敬語は無しって言ったでしょ!」
 軽く怒ったようなふりをしながらちゃんが言う。
 ていうか皆に対してさん付けしてるあんたが言うか。

 でも元の世界に居た頃からの癖らしくて、それは指摘しないお約束。

 私は言い直しを余儀なくされた。

「…うん。よろしくね、スマイル」
「よくできました!」
 ぱちぱちぱち。拍手された。

ちゃんと仲いいんだね、ちゃーん?」
「あー、まぁ…女の子同士だから」
「そっかそっか。羨ましいなぁ、なんてね」


 それはどういう意味でせうか。


「ていうかね、アッス君その前髪なにー?」
 ヒッヒッヒ、と口に手を当てながらスマイルが笑う。
 勿論掻き分けられたままピンで留められている。
 両目フルオープンな上にとりあえず可愛らしい。

「こ、これは……」
「アッシュさんとの友好の証よ!」
 ふふん、と可愛らしくふんぞり返ってちゃんは言う。
 そんなことをされてしまえばアッシュは照れるしかない。

「えー、いいなぁ。僕にもやってよ」
「いいわ。でもどこを留めようかしら…?」
「適当にいじってよ、僕その間座って休憩するからー」
「はぁい」

 スマイルが座って、ちゃんがにこにこしながらポケットからヘアピンを取り出す。
 微笑ましい光景だ。

 しかしちゃんを取られたアッシュの若干寂しそうな顔が、前髪が無いせいでよく分かる。
 うむ、まさしくヒロインを取り合う男どもの図だ。


 …もうこれ、認めていいよね。


 こいつら、夢小説時空に居やがる……っ!!!





  続く!>>



<あとがき>

どうも、王道踏みまくって再来です。
あるあるネタにも似た爽快感があって中々楽しいです。
夢小説が好きであればあるほど「あー」っとなると思うのです。
夢小説ヒロインの行動をはたから見てたらこんな感じなのでしょうか。
そう考えると中々シュールですよねー。(書き手が言うな)

2016.7.1