00.モブよりもモブらしい私について
、高校2年、顔面偏差値は中の下、ほんとの意味での偏差値も中の下。
友達はいるといえばいるし、特別ぼっちな感じでもない。
そして彼氏いない歴=年齢で、流行にもさほど詳しいわけでもない。
もちろん暗い過去だの何だのもない、普通の家庭に育った普通の女子だ。
アニメや漫画だったら主人公の背景にでも描かれそうなほど平々凡々な感じ。
それが私。
そんな私がいつもと同じように学校に行っていつもと同じように普通の学校生活を送ろうと家を出た、その時だった。
玄関前で急な目眩がしてしゃがみこむ。
くらくらするのを目を閉じてじっと耐えて、そうしたら。
なぜか急に気が遠くなって、そのまま倒れこんでしまったのである。
01.異世界へいらっしゃい
なぜか長い夢を見ていたような感覚だった。
というかいつの間にか意識を失っていたらしい。
私は目眩がなくなったのを感じて目を開く。
ああ、やっぱり目眩は全回復してる。
ぼんやりとそんなことを考えながら目の前に広がるだだっ広い廊下を眺めた。
だだっ広い、廊下。
いやちょっと待って下さい、私は自宅の玄関前に居たはず。
それがどこをどう間違ったらファンタジーにでも出てきそうな石畳の上に絨毯が敷かれたような場所に居るんですか。
混乱する頭をひとまず置いといて、現状把握につとめる。
ていうか明かりらしい明かりが燭台にろうそくって混乱に拍車かかるんですがどういうことですか。
ほんとにどこぞのファンタジー映画か。
映画のセットだとしても急に出現するとかわけがわからない。
誘拐…ないない。身代金用意できるほどうちは金持ちじゃないし。
夢遊病…ないと思いたい。家族からそんな話聞いてないし。
ただの夢…いやぁないでしょ。感覚ちゃんとあるし。
じゃあなんだっていうんだ。
結局結論が出なかったところに、誰かが通りかかったのである。
02.住人と鉢合わせ
「だ…誰っスか…?」
「!?」
びっくーん!!!
思いっきり肩が跳ねた。
いやだって思いっきり思考に耽ってたから。
得体のしれない場所で得体のしれない人に声をかけられた場合ってどうしたらいいんでしょう。
とりあえずギギギとでも効果音がつきそうな感じでゆっくりと振り向いた。
そこには―――
「あれ?」
しぱしぱと瞬きをする。
記憶違いでなければ、背後に居る人物には見覚えがあった。
いや、実際に会ったことなんてないはずだけど。
「どこから入ってきたんスか?許可もなしに入ったらいけねぇっスよ?」
「……」
「返事は?」
「あ、…はい」
気もそぞろ。
そいつは「分かればいいんス」と腰に手を当てた。
私はこの人…いや、人じゃないかもしれないけど、こいつを見たことがあった。
……ゲームの中でだけだけど。
リアルに出てきたらこんな感じなんだろうなって思う。
すなわち、ポップンのアッシュである。
03.とりあえず連行される
それが本物のアッシュだと判断する前に私は質問攻めにされた。
玄関から音はしなかったけどどこから入ったのか、何をしに来たのか、一体誰なのか。
私は全部本当のことを喋った。
つまるところ、私にもよく分かっていないのだと。(あ、ちなみに自分が誰なのかは名前と学校名を教えました)
どうにも会話がちぐはぐなのに、何かピンときたものがあったらしく、「こっちに来てください」と案内されたのである。
ついていってみると、色んな部屋の前を通過してとある大きな扉の前に辿り着いた。
猛烈にアッシュに似てるその人は、遠慮無くドアを開いて私を中に招く。
「ユーリ、居るっスかー?」
今何とおっしゃいましたかアッシュさん(心の中ではもう決定)。
ユーリですって?
これはいよいよ核心に近づいたかなと(私の中だけで)感じつつ中に入ると、気だるそうな様子の美青年が居ました。
……うん。
もう認めちゃっていいよね!!
予想通り銀髪美青年が居た事だし!!ついでに赤い羽までついてるし!!
「どうした?アッシュ、………と、誰だ?」
「それが……」
さっき私が喋った経緯を話し始める二人。
それを眺める私、という謎の構図。
04.夢が叶う、と同時に
どこに居たとかどうやって来たらしいとかそういう内容の話を彼らがしている内に、私は脳内ではしゃぎ回る。
だって、これってあれでしょ。
ネットで一時期ハマってたんだけど、要するに……
夢小説の異世界トリップ、ってやつでしょう!!
彼氏いない歴=自分の歳な私だから、ちょっと前までどっぷりと浸かってたんですよ、夢小説。
こんな風に私も二次元の世界に行けたらなあとかずっと思ってましたよ、ええ。
まさに夢のようだと思ってました。
で、気絶したことといい、いつの間にか見知らぬ場所に来たことといい、そういうお話のセオリー真っ只中じゃないですか。
あれですか、こんな平凡オブ平凡な私でも夢小説のヒロインになっちゃったってことでOK!?ファイナルアンサー!?
ヒロイン補正ってやつ、ほんとにあるのかなぁ。ちょっと体験してみたい。
実に邪な思いが胸に広がってゆく。
バラ色人生待ったなし!?
「そうか…それはまた」
そんなことを言われて、一瞬脳内読まれたのかと思ってすくみ上がる。
けど実際は神妙な面持ちでユーリがこちらを見ていたので、別の理由だと気持ちを落ち着かせる。
「あの、さん…でしたっけ」
「あ、は、はい?」
ふおおお、アッシュが私の名前を呼んだ。
マジ素敵。リアル夢小説最高。
「実はさんと似たような境遇の人が、今この城に居るんスよ」
「へ?」
05.軽く紹介
少し待っていてほしいと言われて、アッシュが退室。
ユーリが座るよう勧めてくれたんで、一人掛けのソファに腰を落ち着ける。
まだよく分かってない…というか説明も不十分だから仕方ないんだけど。
「あの」
「どうした?」
「…私と似たような境遇って…」
「会ってみれば分かる。…というのも乱暴な話だな。ふむ……、何と言えばいいのやら。1ヶ月ほど前、お前と同じように突然この城に現れた人間が居るのだ。ひょっとしたら何か繋がりがあるのやもしれん」
「ええっと…それは確かに似てますね」
「どうやらこことは住んでいた世界が丸ごと違うようで、行く宛がないという理由でこの城に仮に住まわせている。名はという」
「女の子です?」
「そうだな」
え。
なんか変な予感がする。
私と似た境遇で、女の子。今は同居人。
………マジですか。
06.ダブルブッキング
しばらく何とも言えない雰囲気のまま(どっちかっていうとコミュ障気味だし)しばらく待って、何か話した方がいいんだろうかと迷い始めた頃、カチャリとドアノブが回って誰かが入ってきた。
というかアッシュだった。
それから、もう一人。
「あの…私と似た境遇の人が来てるって、本当?」
鈴の転がるような声。
そしてひょっこりと顔を覗かせて来たのは―――
「………」
思わず生唾飲み込んだ。
それはもう、後光の差すような素晴らしい美少女だったからである。
そこに居るだけで背景に花でも生えてきそうなほどの。
「さん」
「!!!」
はっ、と我に返る。
アッシュから自己紹介を促されているのだと気付いて、思わずソファから立ち上がった。
「は、は、はいっ!ですっ、高校2年ですっ」
とことこと入ってくる美少女に私は90度のお辞儀をしながらそう言った。
正面に来た彼女は、少し驚いたように「そ、そんなことしなくても!」とお辞儀する私を気遣ってくれた。
んで、お辞儀から直って正面を向いたところで自己紹介してくれる。
「私はっていいます。高校1年です。さんは先輩ですね」
ふおおおおお。
美少女の美しい声で対応された。
これは同性でもぽーっとするわ。
で、肝心なことを思い出す。
「そうだ、さんも突然ここに来たって話ですけど…」
「そうなんです。自室のベッドに入って寝たはずなのに、気付いたらこのお城の空室のベッドに寝ていて…びっくりしました。それでこの城の皆とお話をしている内に、何だか違和感があって。どうやら元居た場所と文字通り世界が違うらしいです。何でも、『ポップンワールド』っていう場所らしくて。私が居たのは地球の日本なんですけど」
「――………」
しばし、思考停止。
あ、夢小説の序盤にありがちな「私、違う世界に来たんだ…」っていう感傷とかそういうのじゃない。
予感が的中したからである。
私と境遇が似てるって聞いた時点から怪しいとは思ってたけど、同じ日本から来た女子高校生ってことで、異世界トリップしてきた人で、更にもう既にこの城に居ついてるってことは。
つまり。
「、立ち話もなんだろう、座るといい」
「そっスよ。俺はお茶でも持ってくるっスから。はいつものハーブティでいいっスか?」
「あ、…ありがとう。お願いするね」
ユーリが分かりにくいけど若干表情を緩めて椅子をすすめる。
アッシュがにこやかに彼女の好きな飲物を持ってくると宣言して部屋を出る。
当のさんも二人には親密度の高そうな対応をする。
場が和む、というか彼女が特別であると肌で感じる。
つまり。
異世界トリップしたと思ったら既にヒロインが一人居ました(しかも限りなく正規ヒロインぽい)―――!?
続く!>>
<あとがき>
ちょっと短いですが、このシリーズはこんなもんでいこうと思います。
これ、ネタとしては随分前から浮かんでいたんです。
特殊というか、特別な設定の夢主さんも好きですが、思いっきり人間味のある夢主もあっていいよねなんて。
なんじゃこりゃぁ、とか思いつつ読んで頂ければ幸い。
2016.6.22