ターゲットロックオン。
私を含めソラやドナルド、グーフィーはそれぞれ別の場所に隠れながら、息を潜めてタイミングを計っていた。
予め決めておいた柱と柱の間を、ターゲットである“奴”が通過するその瞬間に全員で飛び掛かるべく。
…私は声なく溜息をついた。
どうして…どうしてこんな事に……。
計画は密やかに進行されてゆく。
奴――ハデスを狙って。
その計画の名は……『ハデスのスカートを捲るぜプロジェクト』。
割別の鍵・EX
忘らるる鍵穴
〜スカート捲り大計画〜
事の始まりは数時間前。
ソラがグミシップの中で思い出したように呟いたその一言だった。
「そういや、オリンポスコロシアムの鍵穴って結局封印してないよな?」
一同、一旦沈黙。
…確かに、あの当時は鍵穴を封じて回ってるわけじゃなかったから、起きた騒動が落ち着いた時点で退散したんだっけ。
よく覚えてたなぁソラ。
「じゃ、封印しに行く?」
「そうだね、その方がコロシアムの人たちも安全だし」
「行こう行こう」
満場一致でコロシアムへ向かう事に決定。
ドナルドの安全運転(主にワープを使ったんだけど)でコロシアムに到着!
そこから、鍵穴探しが始まった。
それらしい物がないかフィルに尋ね、ヘラクレスに尋ね、壁や柱までじっくり見詰め、遂に床を探索し終えた。
…数時間にも及ぶその作業は、結局無駄だった。
全然見つからない。
ていうかコロシアムって意外と広い。
いっそ諦めてやろうかと幾度か話し合ったけど、それでこの世界の人達が危険に晒されるのも気分が悪いから却下となったわけで。
しかし隅々まで探したっていうのに見つからないのはどういう事か。
よもや入り口に立ってる数十メートルくらいのあの像のてっぺんに有るとか言わないよね。
……で、外の階段で一時休憩しながら作戦タイム。
「…一体どこにあるんだろうね…」
「まさか存在しないわけじゃないだろうしなぁ…」
全員で溜息をつく。あぁ、今絶対幸せが人数分逃げた。
そしてそんな私達を見て、グーフィーが唸る。
「うーん、今までドアノブの口の中にあったり木の幹にあったりしたから、今回も想像のつかない所にあるのかもね?」
「そっか…想像のつかない所か…」
「それってどこだ?」
「簡単に想像できたら語意にそぐわないでしょーが、ソラちゃん」
「ちゃん付けで呼ぶなよ!!」
私の冗談に面白い程過剰に反応するソラをニヤニヤと萌え念の篭る目で眺めつつ、私は鍵穴の在り処を脳みそフル回転で考えた。
……1秒経過。……5秒経過。………10秒経過。
「…だあぁ、思いつかない…。大体、探してない所ってある?」
「それすら分からないよ…」
一同、大きく溜息。
そして最早サジを投げかけた状態で、私が冗談で放った一言。
「……もうハデスのスカートの中くらいしか探す場所思いつかないよー」
――瞬間。
「「それだ」」
ソラとドナルドの声がハモった。
馬鹿な。
「いや、あの、冗談だから…」
「でもワンダーランドではドアノブの口の中にあったんだぞ?分からないじゃないか!」
「そうだぞ、もしかするとハデスのスカートの裏側にあるかも…。何か俺希望が湧いてきた!」
「どこから湧くんだそんな激しく穢れた希望」
っていうかあれがスカートだという事はもう決定事項なのか。(どっちかっていうとローブみたいな気もするんだけど)
いやいや待て待て、その前にこれじゃマジでハデスのスカート捲りに精根尽くさねばならなくなる。
それは何としても止めなければ!
「流石にそれは無いと思うよ?やめようよ」
「が言い出したんだろ!さ、ハデス探しに行くぞー!」
「オー!!」
「待って、あぁっ待っ…」
無視してさっさと行っちゃいましたよ皆さん。
グーフィーは今まで傍観してたくせに向こうにつくんですか、畜生。
これじゃ初代ポ●モンOPみたいじゃないか。
あの子の〜スカートの中〜♪(キャー!)………な状態だ。(限りなく古い)
探す場所が思いつかないのは確かだけど、いいのかそれで!!?
否、良くない。(反語)
けれども、何と言って引き止めればいいのか。
そこに鍵穴が有る可能性が0%だと断言できるわけじゃないから(だって見た事ないし)、結局の所皆を引き止められるような台詞を吐く事は土台無理だったのである。
そうしてうだうだ考えつつも皆について行った所、途中で作戦会議が開かれ、私も作戦に加わらざるを得なくなり、現在に至る。
あぁ、こういう時に限って意思弱いな私…。
そもそもソラ達って行動に出たらわりと一直線になる節があるんだよね。(一般人には止めきれません)
更にさっきハデスの姿確認しちゃったから、そろそろ計画が決行されそうな雰囲気。(幸か不幸か…)
ハデスが私達の正面の柱と柱の間を通ったその瞬間に、全員で一斉に飛び掛かって集団スカート捲りをするのだ。
この作戦、激しく変態臭がするのは気のせいか。
あぁ、そうしてる間にもターゲットは近付いてくる。
隣に居るドナルドがこっちに目で合図をしてきた。って事は、作戦始動まであと5秒を切ったんだな。
心の中でカウントダウンしながら、影からこっそりハデスの位置を見定める。
あと3歩…2歩…1歩……
今だっ!!
ジーザス、もうやるしかない!
既にソラ達は猪突猛進状態だ。
私は皆と一緒にハデスに向かって突撃した!!
「えいやああぁっ!!」
「それっ!!」
「でりゃあああぁ!!!」
「クワー!!」
「何だお前ら、うわ、うわああぁ!!?」
『ずだんっ』
――盛大な音を立てて、私達はアメフトの試合の如くハデスの上に山積みになった。
ついでに、ハデスが顔面直下して、鳴っちゃいけない音が彼の顔から鳴ったような気がしたけど、想像すると痛いから気にしない。
っていうかこんなに簡単に押さえつけられていいのか死者の王。
「今だソラっ、捲るんだー!!」
「よーしっ!!」
ハデスの脚を押さえつけてたソラがドナルドの声でひょいと床に下りて、うつ伏せになってるハデスのスカートの裾を掴んだ。
「くっ……お前らこんな事をしてただで済むと――」
「そーれぇ!」
『ぶわっ』
「!!!?」
勢い良く捲られるスカート(?)。
想像だにしなかったであろう行動に硬直するハデス。(哀れな…)
そして――
「・・・・・」
連動するように硬直してしまった、ソラ。
何だ、何を見たんだ?
よもや本当にスカートの裏に鍵穴があったのか!?
スカート捲り上げたままぴたりと動きを止めてしまったソラを訝しげに思って…というか好奇心が芽生えて、ハデスの背中に大々的に乗っていた私は床に降りてソラに駆け寄る。
そしてスカートの中を覗き込む―――寸前、
「貴様らああぁ!!」
「うわぁっ!」
「クワッ!!」
「あっ」
ようやく思考が追いついたのか、ハデスは勢いよく起き上がって私達を振り払った。
重しが既に半分退いてた事で起き上がるのも比較的楽だったのかもしれない。
左右それぞれの腕を押さえつけてたドナルドとグーフィーは振り落とされて床を転がった。
私とソラはその前に降りてるから無事だ。
しかしそれと同時にスカートも元のようにハデスの足元まで広がり、中身は見えなくなった。
私まだ見てないのに!!!
――という言葉は呑み込んだ。
「このハデス様をここまで侮辱してくれるとは、余程痛い目を見たいらしいな…?」
そう言うハデスの頭の炎は――真っ赤。
肌の色も合わせて――真っ赤。
お、怒ってらっしゃるー!!!
「あわわごめんなさいごめんなさい!!私は止めたんだけど皆が聞かなくてでも鍵穴探さなきゃでスカートの中しか思いつかなくてああぁもうすいませんごめんなさい!!」
戦う相手として対面する時は然程恐怖でもないのに、現在のハデスは何でここまで怖いんだ!!
いや、あれか。怖いっていうより申し訳ないのか!
だって理不尽な行動してるの今回は明らかにこっちだもんな。
平謝りする私に対して、ハデスは頭の炎を更に強くした。
「そんなもので許すと思うな!このガキどもがあぁっ!!!」
「いやああぁ!!」
ハデスがマッハで私に詰め寄って、ドナルドやグーフィーはやむを得ず臨戦態勢に入る。
そうして今まさに死闘開始のゴングが鳴らされるかと思った――瞬間、
「・・・りんごぱんつ」
・・・・・・・・・・・・・・。
おおよそこの場にそぐわない単語に、全員一時停止。
そしてゆっくりと声の発信源へ目をやる。
そこには、まだしゃがんだままのソラがいた。
「ソ、ソラ?何急に…」
「りんごぱんつ…ふわふわのりんごぱんつ……」
「「「「・・・・・・・」」」」
呆然と呟くソラ。
……何となくその言葉の内容と関連するものを想像して………、
一気にハデスへと視線の集中砲火。
ハデスはぷしゅんと頭の炎を赤から青に戻して、わなわなと震える。
「……まさか、見たのか?」
ぽつり、ハデスが問うその言葉が、石造りの廊下にいやに響く。
こっくり、頷くソラ。
「スカートの中身?」
今度は私が尋ねると、再びこっくり頷く。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
アリの歩く音さえ聞こえそうな沈黙がたっぷり5秒くらい続いて、
「でやはははっ!!!死者の国の神がりんごパンツ!!」
「しかもふわふわの!!」
「あひょっ、気持ちよさそうだねぇ」
「・・・ぶっ!!しかも凄く可愛い柄だったんだよな…!!!」
一斉に沈黙を突き破った、笑いの渦。
いやもう、だってあの顔でふわふわりんごパンツとか!!
さっきまで妙に静かだったソラまで、お腹を抱えて笑う始末。
ああぁヤバいお腹痛い!!
そうか、さっきソラが固まった理由はそれか!
背中をくの字に曲げて爆笑する私達だったが、
「黙れ貴様らああぁ!!地獄の業火で焼き尽くしてやる!!!」
突如再燃したハデスに怒鳴り散らされ、我に返る。
し、しまった!一度は危機を覚えてたのに何してるんだ私達!!
びくりと肩を跳ね上がらせて笑いを引っ込め、慌てた視線で皆と一瞬の意思疎通。
そして言葉で確認する前に、私達は同時に床を蹴った。
「逃げるが勝ちぃーっ!!!」
「激しく同意ー!!」
ドナルドの叫びに同じく叫びで返しながら、石造りの廊下を猛ダッシュ。
しかし当然ハデスも追ってくる!!な、何としても逃げねば…!
「ねぇソラ、そういえば結局ハデスのスカートの中に鍵穴はあったの?」
全員で同一方向に逃げながら、私は今回の成果を聞いた。
ソラはさっきの笑いの名残か顔を赤くしながら、首を振った。
「無かった!スカートの裏どころかパンツの上にも無かった」
「ええぇっ、ハズレ!?」
「だから言ったのにー!」
「あひょっ、羽折り損のくびれ儲けだねぇ」
「それを言うなら骨折り損のくたびれ儲け」
「しかも儲けなんて無かったし」
『ごぉっ!!』
…とか言ってる側から何か炎の柱が飛来してるんですけど!!
背後からの攻撃に悲鳴を上げながら、私達は廊下を駆け抜ける。
突き当たりを右に曲がり、奥を左に曲がり……そうして、
「うわっ」
「闘技場に出ちゃった…!」
私達が飛び込みましたるは、普段大会に使用されている戦いの場…闘技場。
しまった、うっかり広い場所に出ちゃったよ!これじゃ隠れる所が無い。
不幸な事に大会は現在開催されてないみたいで、人が全く居ない。人に紛れる事もできないか…!
しかし、
『ごおおぉっ!!!』
「逃げられると思ってるのか!!」
「ひぎぃやああぁ!!!」
「うわぁっ!!」
生きた火炎放射器が待ってくれるはずもなく。
想像するだけで般若の形相がありありと思い浮かぶ陰険炎頭を背に、私達は振り返らずに闘技場のど真ん中を脱兎の如く駆け抜ける。
と、その時!
『ガチャッ』
「何の騒ぎだ…?」
闘技場の柱の影に隠れた、練習場と繋がっていると思しき隠し扉から、見覚えのあるチョコボ頭がひょっこり出てきた。
ああぁっ!!あれは!!
「クラウドーおおぉ!!!」
「!」
般若な炎頭を脱兎で引き連れて一直線に迫ってくる私達を発見して、クラウドは僅かに目を見開いた。
こうなったらクラウドに助けを求めるしか!!
私は先頭きってクラウドに駆け寄る!!!
クラウドは若干迷ってから、「こっちだ」と隠し扉の方へ手招きした。
おぉっ、さすが!状況判断が素早いですね!!
私達とクラウドは隠し扉の向こうへ滑り込んで、何とかハデスが入る前にばたんと締めた。
全員で体重をかけて扉が開かないように踏ん張る。
しかし相手は神。魔法か何かを使ってるのか、すぐに物凄い力で扉に打撃を食らわせてくる。
くっ、これじゃ時間の問題だ!!
「誰かここの鍵とか持ってないのか!?」
「普段鍵かかってるはずなのに(前に開けようとして開かなかった)開いてるって事はクラウド持ってるんじゃ…っ」
「いや、偶然開いていた。だがそれよりもっと手軽な方法があるだろう」
「手軽って…!!」
「お前だ」
「…あっ」
クラウドの視線の先には、ソラが居た。
ソラはその意味を瞬時に察すると、「ちょっとの間頼む!」と言い置いて一旦扉から手を離した。
そしてキーブレードを光と共に具現させ、先端を扉に向ける。
キン、と音がして一瞬扉の鍵穴が光った。
「よし、鍵かけたっ!」
その声に、私を含む全員が力を抜く。
あぁ、便利だよキーブレード。どの鍵穴でも施錠・開錠可能だなんて。
……が。
『ずごおぉんっ!!!』
ほっとしたのも束の間、地響きとセットで大音量が響き渡った。
……ドアの向こうから。
「ぎゃああぁ並の攻撃じゃドアが開かないの分かって遂に大技きたー!!」
「ドアが壊れるー!!」
石の扉は、ハデスの攻撃によって続け様にビリビリと震える。
鍵どころじゃない、扉ごと破壊されそうだ!
アレだ、前に私達がここに来た時、私はこのドアに向かって大ボリュームのファイアかましたんだけど、その程度じゃ壊れなかったんだ。
だから魔法に耐性はあるんだろうけど、それでもこんな大技かましたら壊れるかもしれない。
ハデスめ、壊してフィルに目つけられても知らないんだからー!!!(もう既に目つけられてる気がするけど)
扉の向こうから大技が更に連発され、私達は扉がもたないと判断。現場に背を向け練習場へ駆け出した。
「…って、何でクラウドまで走ってるの?」
「クラウドは何もしてないんだから逃げることないよな?」
「お前達が来た時以降、奴とは極力顔を合わせないようにしている。会えばろくな事にならない。…どうやら奴は色々と根に持っているらしいからな」
「「「「あぁー」」」」
納得。さすが陰険炎頭。
どうせ契約内容失敗した事とか、ねちっこく責め倒してるんだろうな。
っていうかあの時ソラ側についたから、その時点でハデスにとってクラウドは不要なのか。
いい加減限界告げそうな隠し扉を背に、私達は死に物狂いで練習場の出入り口へ駆ける。
そしてあと20メートルくらいという所で――
『ばがんっ!!!』
「待てええぇー!!!」
山を開拓するかの如きダイナマイツ☆エクスプロージョンが響き渡り、もうもうと砂煙が巻き上がる中ハデス突入。
私達は悲鳴と怒号の渦に呑み込まれました。
場内はあっという間に恐慌状態です。泣く子も更に泣きます。
「逃げろ!とにかくロビーに入るんだ!!」
「頑張れ皆ぁー!!!」
泣き言のような励ましをかけあいつつ、ようやく練習場の出口になだれ込む!
そのまま一気に廊下を駆け抜け―――るかと思いきや、
「かふっ、も、ももももう駄目ええぇ…っ」
本当の泣き言が出ました。
悲しい事に私の声であります。
運動能力改善に一生懸命になっているとはいえ、元々インドア派だった人間がこんな短期間でビ●ォーアフターできるはずがない。
以前の私ならもっと早く息が上がってただろうから、一応改善はされてると思うけど。
「、頑張って!」
「ごめん横腹痛いよ…っ、もう、限、界…」
がくんとスピードが落ちる。
脈打つたびに横腹がキリキリ痛むよ。
このワールドに降りる直前まで玉子サンドたらふく食べてたのが災いしてるのか。(だってこんなに運動するなんて思ってなかったんだもんよ…!!)
「…仕方ないな」
速度を緩めて私の斜め前に来たクラウドが、私を引っ張る為か手を伸ばす。
…が、
「、行くぞ!」
クラウドが私の手を取るより早く、いつの間に隣に来たのかソラが私の手を引っ張りスピードを上げた。
え、ええ?何事?
私、奪われました?
スピードを緩めていたクラウドを追い抜く際、ソラはクラウドに向かって鋭い目を向けた。
そして視線を戻し、駆ける。
私はとりあえずクラウドに目線で「ごめん」と謝っておいた。(そこからすぐに先頭まで戻れるクラウドは凄いと思う)
何でこんな強行手段を取ったんだろうかと、ソラの背中を見詰めてみる。
……。
私を引っ張るソラの、背中が語る。
『俺今男らしい俺今男らしい俺今男らしい(エンドレス)』
前回ここに来た時クラウドにおいしい所持って行かれたの、そんなに悔しかったのねソラさん。
クラウドに勝つ、って意気込んでたものね。ええ。
へばった女の子をリードするのって、確かに男らしいよね。ええ。
だからそんなおいしい役目を再びクラウドに譲るのが嫌だったのね、そうなのね。
その後姿が異様に輝いています。
っていうか横腹は現在進行形で痛いよ。
でもソラがぐいぐい引っ張ってくれるから自分で力込めなくて済む分ちょっと楽だ。
そしてやっとこさロビーに到着。
しかし……
「ロビーってドア無いんだね…!!」
廊下とロビーを仕切るドアは無かった。通路がぽっかりと口を広げているだけだ。
これじゃハデスを食い止められない!
他にあるのは、この建物の外へ繋がる出入り口。
これには扉がついてるけど……鍵穴自体が無いから鍵がかけられない。
「いっその事全部通り越してワールドを出ちゃう?」
「ドナルド、それは駄目。クラウドの逃げ道が無いし、ほっとけない」
「こんな事話してる時間が勿体ないって!」
「何か道を塞げるものないかなぁ」
グーフィーの提案で、全員が周囲を見回す。
……あ。
「全員協力して!!タル運び開始っ!!!」
「オッケー!!」
練習場に運ぶ予定のものか、狭いロビー内にはタルがいくつも積んであった。
私達は即決でバケツリレーならぬタルリレーを開始。
ハデスの声が近くまで迫っていたが、そこは死ぬ気で間に合わせるのが私達である。(…いや、私は思いっきり息切れしてたからあんまり使い物にならなかったけど)
あっという間に通路前はタルで固められた。
しかし、いかんせんタルだけじゃ頼りない。
何か重いもので固定しないと……。
「あっ、あそこの台座動かしてバリケード固めようよ!」
私は、ふと見えたものを指差して提案した。
それは大きな直方体の石の台座。
前に来た時、ソラやフィルが全力かけても動かせなかったものだ。
全員でやれば動かせるかも…!
「えぇっ、あれ凄く重いんじゃない!?」
「四の五の言わない!重いからバリケードになるんでしょっ」
「…よし!」
ってことで、台座移動決定!
掛け声をかけながら、全員で込められるだけ力を込めた。(うぅ、まだ横腹痛いよ…っ)
すると、
『ズズズズズ…ッ』
「動いた!!」
「このまま一気に動かすぞ!!」
全員で押して押して押しまくって、嘘のように短時間で通路前に設置完了。
一息ついた…瞬間。
「こんな小細工しやがって!すぐにどけてやるからなっ!!!」
鬼のような声が地を這った。
ヤバい辿りついちゃったよ死者の神。
あわわわ、これも破られたらどうしよう。
っていうか既に逃げ道は無い。…世界を出るしか。
でもクラウド一人を残して行けないし……
あぁもうどうしてこんな時にヘラクレスもフィルも居ないのさ!!
さっきまでロビーに居て鍵穴の場所の質問に答えてくれてたのに!!
…等と切羽詰った思考を繰り広げていると、
「あああぁっ!!!」
「「「!!!?」」」
「?」
突如響き渡るソラの絶叫。
驚きで一旦脳の活動が止まる。
「な、何!?」
「鍵穴が!!」
「!!?」
ソラが指差したのは、台座が元あった場所。
その床には……鍵穴が。
普通の鍵穴とは考え難い場所だ。おまけに一般のものより随分大きい。極めつけにちょっと光ってる。
間違いない、探していた『世界の鍵穴』!!
ソラが素早くキーブレードを鍵穴に向けると、キーブレードの先から発射された光が鍵穴に吸い込まれて――カチャリと鍵の閉まる音がした。
やっぱり世界の鍵穴だった。
思わぬ所で目的達成しちゃったよ。
『だごおぉん!!ごんっ、ごろごろっ』
それはいいとして!!
ハデスが放った魔法か何かで、早速バリケードは崩れつつあります!!
タルが何個か転がり落ちてる。最早時間の問題だ。
「ああぁもう後が無い…!どうしようどうしよう!!」
「ひとまず建物の外に出よう!出入り口に鍵はないけど皆で押さえれば少しくらい時間は稼げる!」
ドナルド、中々冷静だな。
私達はその指示に否も応も言わずとっとと外に出た。
そして全力かけてドアを押さえ込む。
…はっ、私の顔の両側にクラウドの腕が見える。
私の丁度真後ろからクラウドが手を伸ばしてドアを押さえてるから、クラウドとドアの間に私が閉じ込められた感じだ。
ヤヴァい、少女マンガの口説かれシーンみたいで萌える。
隊長、身長差が思いっきり視認できて更に萌えが広がりそうな勢いですがどうしましょう!(何の報告)
一瞬腐女思考モードに転換しかけて、しかしすぐに現実に引き戻される。
ロビーの中で凄い音が響いてるよ!建物ごと破壊する気かよ!!
「このドアを破られるのも時間の問題だね…それまでにクラウドを逃がす方法を考えないと…」
「逃げ道は既に無いと思うが」
「…確かに、後ろにあるワールドの出口を思考から除外すると袋小路だもんね…」
クラウドをグミシップに乗せられたらいいんだけど…。
実はグミシップの座席は4つしかないから、クラウドが乗ると定員オーバーなんだよね。
「…って、クラウドはどうやってこの世界に来たの?」
元々この世界の住人じゃないんだから、何かしら方法を持ってここに来たはず。
なら、この世界を出る方法もあるよね……?
「言う義理はないな」
「ちょっ…」
「俺はまだこの世界を出るつもりは無い」
「……あそ」
一瞬で色々読まれたみたいですハイ。賢い人って素敵。
つまりクラウドはこのワールドの外に出る事以外で逃げる方法を探したい、と。
『ずがああぁん!!!』
凄い音が聞こえて、私やドナルド、ソラは肩を跳ね上がらせる。
どうやら奴はロビー内のバリケードを破壊し終わった模様。
いよいよ終わりか……!!
―――と。
「やあ、皆揃ってどうしたんだい?」
背後から、聞き覚えのある声が。
ドアを全力で押さえつけたまま首だけ振り返って、私達は目を輝かせた。(クラウド除く)
「…っ、ヘラクレス!!」
私達の後ろには、ヘラクレスが居た。
そして今まで彼が乗っていたのか、羽の生えた白い馬…ペガサスも。
「どこに行ってたんだ!!?」
「いやぁ、ちょっと出かけてたんだ。フィルもどこかに出たようだけど、まだ戻ってないのかな?」
「あひょ、ロビーには居なかったよ」
「ってそれはいいから!ヘラクレスが居るなら話は早い!」
ソラは噛み付くほどの勢いでヘラクレスに懇願した。
「ハデスがこの中で暴れてるんだ!頼む、何とかしてくれよ!」
「それは大変だ!すぐに行ってくるよ」
ヘラクレスは私達の近くまで駆け寄って……ふとソラとクラウドを見遣る。
「…今回はモンスターに誰かが飲まれてたり、しない?」
・・・・・・・・。
「…いや」
「今回はない」
前科持ちは慎重だった。
確認が取れると、彼は「よし、じゃあ行くね!」と快活に笑った。
私達はロビーの中を気にしつつもそっとドアから離れる。
ヘラクレスが勢い良くドアを開けて中に飛び込むのを、半径5メートル以上離れた場所で見てから、私達は更にその場から遠ざかった。…いや、何か危険な気がして。
「…さて、これでハデスの事は片付いたし…。私達がワールドの外に出てもクラウドは無事だよね」
「じゃあ出ようか?」
直後、『どがん』とか『ずがん』とか『ごがしゃぁっ!!!』とか大変な音が耳に届いた気がするけど、最早無視である。
これ以上関わってはならない。聞こえない聞こえない。
「うん、出よう。鍵穴も奇跡的に見つかった事だし」
「あっひょ、やっぱり想像のつかない所にあったねぇ」
「だね」
『だごぉっ!!』『ばがんっ!!』『この若造がー!!』『観念しろ!』
……聞こえない聞こえない。
「じゃ、クラウド。私達は行くよ」
「俺に断る必要はない」
「うーん、知り合いに別れの挨拶するのは普通だからいいじゃん。じゃね」
「……」
『ばんっ!!!』
…あ、コロシアムの出入り口吹っ飛んだ。
いや、見えない見えない。私には何も見えない。
クラウドに手を振って、私達は背を向ける。
世界の出口に向かって一歩進んだ所で……
「クラウド!!」
ソラが振り返って呼んだ。
「今回もまた戦えなかったけど、次こそ大会で俺が勝つ!!」
「……興味ないね」
さらりと返されたけど、ソラは決意をするかのように胸の前で拳を握り締めていた。
……まだ忘れてなかったのか…。
それにしても、思い返してみれば今回の一番の被害者はハデスかもしれない。
スカート捲りされて怒って追い回してたら退治専門の人を放り込まれたという、何とも哀れな結末。
うーむ…ちょっと可哀相かな…。
………否。
怪物に一般人を追い回させた挙句丸呑みまでさせちゃった(プラスアルファで制服のボタンぷっちん)という罪と天秤にかければ何とか平衡になるんじゃなかろうか。(根に持ってる)
ということで、心残りは無し。
私は皆に続いて悠々とグミシップのタラップを渡った。
「ぎゃー!!!」
…何か遠くで悲鳴が聞こえた気がしたけれど、気のせいだ。
気のせいだけれど、私は心の中でそっと手を合わせた。
「さあ、出発だ!!」
「オー!!」
キーブレードの勇者、その欠片を持つ者、そして王を捜す者。
4人は、今日も様々な世界を渡り歩く。
〜Fin〜
(その後)
「なぁ、俺あの時男らしかったよな!」
「え?」
グミシップのコックピットで唐突に切り出されたソラの話に、私は目をぱちくりさせた。
………何の事だろう?
正直言って全く思い当たらない。
「…もしかして忘れたとか?」
「……ごめん」
「…」
思いっきり肩を落とすソラ。
あわわわだって思い出せないんだよ!
「じゃあヒント出してよ!思い出すから!」
「…いいやもう…(折角クラウドに負けないように頑張ったのに…)」
「ええぇっ」
…その後、いくら問いただしてもソラが答えてくれる事はなかった。
私は『あの事かな』『この事かな』と色々考えたけれど、結局どれの事なのか分からず。
……ソラ、そんな事言わなくたって貴方は何度も頼れる場面を残してきたと思うんだけどね…。
溜息ひとつ、私はソラの後姿をしばらく眺めていた。
〜おわり〜
--------------------------------------------------------------------------------
<アトガキ。>
物凄く果てしなく遅くなって申し訳ないです…!!(何かいつもそんな事言ってるな)
椿リンカ様からのリクエストで、「連載夢主で、ソラ達やクラウド、その他敵キャラでギャグハー」です。
椿リンカ様のみお持ち帰り可。
クラ様が出てくる時点で敵キャラはハデスに決定していたのですが、思いの外シナリオに悩みました。
ソラのリベンジ話な感じでクラウドとの対決物語にしようかと思ったり(しかしハデスが出ないので却下)、
コロシアムの大会に再び参加する話にしようかと思ったり(しかしハデスが中々出ないので却下)、
それはもう……率直に言うとハデスをどう絡ませようか迷いました。(貴様)
しかし敵キャラがリクエスト内に浮上する事は珍しいので、中々楽しんでシナリオ構成していきました。
で、結局「絡ませ方」より先にインスピレーションを大事にしてみる事に。
すると、本編でこれから先コロシアムに再訪する可能性が薄い事に気付き、鍵穴封印を思いつきました。
しかしただ封印するだけでは『ハデス』『ギャグハー』の条件が満たせないので……
突如思いついたスカート捲り案を即決。(その間に何があった)
それにしても、今回は本編とは別の意味でヴァカな文章です。
普段は夢主の性格のみがアフォなのですが、今回ストーリー展開自体がアフォだからです。
ギャグを、との事なのでギャグを意識してみた結果です。
…はっ、しかし『ギャグハー』の『ハー』の部分が満たせてない気が…!!
……そこはそれ、全員には「ラヴ」な目で見られる事がない作風なんで勘弁…って事で;(おいおい)
では、ここまで読んで下さってありがとうございます。
本編か、もしくは番外でまた会いましょう。
2007.3.18