私達は勿論、王子や兵士達もその声の方向へ振り返って、固まった。
 私達が向かおうとしていた、この中庭の出口。…そこに立っている人物。

 多少華美ではあるが豪奢ではない作りの服。
 距離がある為良く見えないが、その面立ちは厳かだ。
 低い声には威厳が満ちていた。


 その場がしん、と静まった。
 たった一人の、たった一言で。


 その人物は、私達の周囲に居る兵士とは若干違った服装をしている兵を左右に各1名ずつ連れて、こちらへ歩み寄る。
 その歩く姿すら、威圧的だった。

 王子が呟く。


「……父上」






割別の鍵・EX
囚われの姫君・後編
〜終幕の逆転ホームラン〜






 威厳たっぷりなその人が近付いた途端、私達を捕まえようとしていた兵士達は、誰が言ったわけでもないのに海を割るが如くざざざっと両端に避けて道を作った。
 その人と、その左右についている兵が、私達と王子のすぐ近くに来て立ち止まる。

 …ちょっと待って。今さっき王子は何て言った?
 ひょっとしてひょっとしなくてもこの人……

「…王様?」
 私がぽつりと零すと、その人は軽く頷いた。
「いかにも」


 ・・・・・・。
 ちょ、

 ちょっと待ったああぁ!!?

 い、いきなり最高権力者出現!?
 っていうか私ってこの人にお披露目されそうになって逃げたんじゃなかったっけ!?
 どうしようどうしよう、この場で嫁決定とか言われたら…!!
 …ってそんな感じの性格じゃなさそうだけど。


「ディール。このような大人数の兵士を使って何を騒いでおる? 聞けば門番まで駆り出されているそうだな。この国は平和だが、万一の事があった場合どう責任を取るつもりなのだ?」
「す、すいません。しかしこの不届き者共が僕の花嫁を連れ去ろうとしていたのですよ。仕方が無いではありませんか?」
「言い訳をするでない!!」
「…っ!」

 張り上げられた声によって、王子(今更知ったけどディールっていう名前らしい)は肩を竦ませた。
 同様に、私達も。
 だ、だって凄い威厳が…!!雷が…!(雷?)

「以前から行き過ぎた事はあったが、この所、民に対するお前の振る舞いが更に悪化しつつあるのは感づいておった。この二人に調べさせれば、すぐに全容が掴めたぞ」
 そう言って両脇に居る兵を一度ずつ見遣る国王。
 …服装が違うけど、何か特別な役職の兵士なんだろうか……

 と、思っていたら。

「あぁっ、この人!」
 唐突にドナルドが叫んだ。(ビックリした…!)
 王様の右側に居る兵を指差している。
 こらこら、人を指差しちゃ駄目なんだぞ…って、そうじゃなくて。

「この人知ってるの?」
「知ってるよ!」
「俺達を牢屋から出してくれた兵士だよ、
「えぇっ?」
 そういえば『兵士が牢屋の外に出してくれたんだ』とか何とかさっき言ってたような……

「見覚えがあるだろう。私が牢屋へ遣わした者だ」

 王様が遣わした……?
 服装が違うと思ったら、この2人はどうやら国王直属の兵士か何からしい。
 成程、王様が王子(名前で呼ぶ気は無い)に内緒でこの兵を動かしてたから、ソラ達が自力で脱走したと思い込んでたのね。

 そしてきっと、もう片方の兵は、王子に動かされてた兵士の動向とかを見てたんだと思う。じゃないと門番が居ないとかそういうのは分からないだろうし。

「どうやら今までこちらの目に付かぬよう、今は使われぬ西塔の牢屋を使ったり、兵士に口封じをしたりと実に巧妙に誤魔化してきたようだな。今回はこれだけ事を荒立てたのだ、逃れられはせぬぞ、ディール」
「しかし父上…!」
「この者達に罪が無いのも、この娘にお前と結婚するつもりが無いのも既に知れておる。今まではお前を甘やかしすぎたようだ。これからは今までのようにゆかぬと思え。しばらく部屋から出る事も許さぬ」
「………」

 ぱくぱくと、酸欠の金魚のように口を開閉する王子。
 我侭禁止令を出されたその様子は、何だか魂が抜けたようだ。


 王様は、ぐるりと周囲(の兵士)を見回した。
「お前達は持ち場へ戻れ!今回は何の処罰もせぬ。しかし本日以降ディールの命令に従った者には厳罰を処す!よいな!」
『はっ!!』

 うわ、思わず口が開くほど見事に揃った敬礼。(学校のクラス3つ分くらいの人数だから圧巻だ)
 この兵士達は今まで王子の命令で仕方なく動いてたんだろうから、罰さないのは王様の心遣いだな…。

 急いで中庭から出て行く兵士達。
 その過程で王様が両脇の特別な兵士二人に「ディールを部屋へ連れてゆけ」と命令した。
 王子は抵抗するも、その二人に連行されて中庭を出て……

 今ここにいるのは、私達と王様だけ。


「・・・・・・」
 …ヤヴァい。王様と私達オンリーの空間。緊張する。メチャクチャ緊張する。
 っていうか緊張せずにいられるか。
 あんなに厳しく叱ってる場面見たらビビるって。

 もしかしたら私達も騒いだ事を咎められるんじゃなかろうか。
 いやいや、でも元凶は王子だし……あわわわ。


「そんなに硬くならずとも良い」
「「「「!!!」」」」

 王様が向き直って一言発しただけで、硬直する私達。
 だだだってしょうがないじゃないか…!!

「叱ったりはせぬ。お前達には迷惑をかけたな」
「い、いえっ、でんともないっ」

 ・・・・・はっ!言い間違えた・・・!
 よりによってこんな場面で!!

「あわわっ、いいい言い間違えましたっ!!」
「良い良い。…しかし面白い者達だ」
「…はい?」
 首を傾げる一同。
 王様はさっきと一変して微笑んでいる。
 ……何か優しいお父さんって感じがそこはかとなく……

「一国の王子を面と向かって叱り飛ばす者が居るとはな。できれば揃って王子の教官にでもなってほしい位だ」
「お、王様…!」
「ははは、冗談だ」
「そうですよね、元々僕達のような民間人はお城で雇えませんしね」
 ドナルドが珍しく敬語(国王に対する敬語じゃない気がするけど)で笑い事のように言った。
 が、

「いや、私が適していると思えば雇うことは可能だが、お前達にもやりたい事があろう。何せ若い」
 どうやら民間人だという点は気にしないらしい。

 …っていうか叱ったの見てたって、どこらへんから見てたんだろう…?
 まさかアッパーカット目撃してたとか、その情報を兵から聞いたとかは無いよね?
 ……見聞きしてたら顔から火が出る…!!


「教官といえば、ディールの尊大な態度に便乗していた世話係も罰さねばならんな…」
 私が冷や汗かいてる正面で、独り言のように呟く王様。
 世話係って、町で王子と一緒に平民を『卑しい』とか言ってた人の事かな。…つか、私にはそれしか思い浮かばない。

 その独り言が呼び水になった様に、王様は「民に謝罪もせねば…」とか「西塔の地下は封鎖すべきだな…」とかしばらく呟いた。

「王様、忙しそうですねぇ」
 のんびりとした口調でグーフィーが口を挟めば、国王はやっとこさ我に返って「すまぬ」と詫びた。

「考え事をすると長くなる癖があってな。…お前達はこれからどうする?急ぎでなければ今回の償いをしたいのだが…」
「いえ、急ぐので遠慮します。ね?皆」
「うん」
「そうだな」
「そうか…では、馬車を出そう。見慣れぬ服装だ、国外から来たのだろう?目的地まで送ってやろうぞ」
「いえ、それも遠慮させて頂きます」
「え、何でだよ!楽でいいじゃん」
「シャラップ・ソラ!!」

 目的地(グミシップ)まで送ってもらったら驚かれるし、近くまで送ってもらうにしてもグミシップに乗る為のワープ陣は森にあるから不審がられるだろーが!!

 …と、そういう旨を超小声で告げたら、ソラは「あー」なんて言ってポンと手を打った。
 ……畜生可愛いじゃないかその仕草。
 いやいやいや、今ここで萌えを爆発させたら王様に見られる。それは防がねば…!
 堪えろ私。

「では、そういうわけなので私達はこれで失礼させて頂きます!」
 王様がまだ何か言いたげにしているのを他所に、私はくるりと方向転換。皆も私に合わせて中庭の出口へ向いた。

 ………しかし、私はそこでストップした。
 その場に居る全員が不思議そうに私へ視線を注ぐ。


「……………あの、王様。もしよろしければ…このお城の出口を教えて下さいませんか?」


 …数秒の間をあけて。
 王様は、豪快に笑った。



 ***



 グミシップのコックピットで定位置に座りながら、私は大きく息をついた。

 やっと戻って来れた、の意も含む。
 が、それよりも……

「アッパー入れたの知ってたか聞けなかった・・・」

 乙女として聞きたかったなぁ。
 王子に怒鳴ってた時点で変だけど、更に変に思われてないか知っておきたかった。あぁ失敗した…。

「何か言った?
「んーにゃ、何でもない」
 席でだらけてるドナルドの問いに、同じ位だらけながら応じた。

 ちなみにグミシップに戻る過程で『しばらく休んでから出発しよう』って事になったから、現在出発せずにだらけているのである。
 色々あって疲れたしね。

 そんな中、私から見て左斜め前の席にいるソラが、席に横向きに座って私に顔を向けた。
「……あのさ、。ずっと気になってたんだけど…」

「ん?何?」
「あの…その…、言いたくなければ言わなくていいんだけどさ…」
「…何?」

 …何だろう…ソラ、かなり真剣な顔してるよ。
 ソラって猪突猛進な感じだけどたまに的を射た事言うし、何か重要な事を言うんじゃなかろうか。
 見ればドナルドもグーフィーも何事かと私達に顔を向けて、話を聞いている。

 ソラは言い淀んで、数秒して、ようやく口を開いた。


って王子の事好きだったのか?」



 沈黙。



 何て言った今。
 聞き取れなかったよアテクシ。
 ちょ、待って。
 ……おいおいおい!!?

「ソラすわぁーん??」

 What!?とかエセ外国人みたいに言いそうになったぞ今。本気で。

「真剣な顔で何を言うかと思ったら…」
 呆れた顔で溜息をついて、再び正面に向き直ってだらりと足を投げ出すドナルド。

「いや、だって気になってたから」
「へぇ、の事が気になってたんだ」
「あ、いやっ、そういう事じゃなくて!」
 微笑むグーフィーと、焦るソラ。
 最早パパのような顔してますな、グーフィー。

「で、そういう事じゃなくて何?」
 私が尋ねたら、ソラは急に言いにくそうな表情をした。
「…う……。その、王子の事嫌いだったら、あーゆー事になって本当は傷ついてるんじゃないかな…って」
「…あーゆー?」

 あの王子にされて嫌だった事は短期間のくせに多いぞ。
 拉致されて監禁されて追い回されて……挙げたらきりがないじゃないのさ!

「どーゆー?」
「どういうって……ほら、王子がをぎゅってして、それで…」
 もごもごと歯切れ悪いですソラさん。
 ……ぎゅって?

「…ああ、廊下であった事?ソラ、まだ気にしてたの?」
「だって、『あんなに迫られたのは初だ』って言ってたじゃんか!だったら好きでもない奴にされたら、女の子なら傷つくかなとか……」
「まぁ、思い出すと鳥肌たつけどね。でも気にしなきゃ大丈夫よ大丈夫(多分)」

 いやぁ、それにしてもソラがこんなにヲトメ想いだったとはね!
 寸止めチューでこんなに気にかけてくれるとか、凄いなぁホント。ちゃんとそういうの考えててくれるんだ。
 …まぁ、困った人を放っておけないお人よしではあるけど。
 お人よしもここまで来ると罪だよね……天然タラシ?
 ……あながち否定できない・・・・・・


「それにしてもが平気だとは思わなかったよ。混乱するか泣くか大暴走するかだと思ったんだけど」
「いやドナルド、アンタ私の事なんだと思ってるのさ。まぁ純粋培養のお嬢様だったらそうかもしんないけど、私は腐女子よ!」
「それは分かってるよ」

 …あ、今絶対『婦女子』と間違えたなドナルド。
 まぁ発音上は同じだからね。同音異義語って奴?(注:厳密には違う)


「あーぁ、でも見てるこっちがビックリした」
「まぁそうかもね。私だって見る側だったら驚くと思う」
「しかも女の子はそういうの特別だって言うだろ? けどそんなに平気なら俺が同じ事しても大丈夫だったりしてな!」
 あはは、と冗談として笑い飛ばすソラに、私は間髪入れずに(寧ろ考える時間も要さずに)、
「いいよ」
 と返した。


 ……沈黙。


 …え、何この沈黙。何で皆固まってんの?
 だって私、欲望に忠実になっただけだよ?(それが駄目だっての)

「同じ事してもいいよ。要は例の事件を再現するって事でしょ?ブリザドは撃たないけど。っていうか、ソラならいつでも大歓迎って感じ?」
「感じ?
じゃない!、駄目だよそういう事簡単にしちゃ!!」
 正面の席からがばっと振り返って慌てる魔法使いさん。
 よく見るとグーフィーまでおろおろしてます。
「お堅いねぇー。いいじゃんこれくらい!…よっこらせっと」
!!」

 ドナルドの制止の声も聞かず、私は席を立ってソラの方へ。
 席に横向きに座っているソラの正面に来ると、がしっと両手を握って無理矢理立たせた。
 コックピットの中心に二人立ってるって妙な構図だな。でもソラのご要望だから…っv

「ちょ、ちょちょちょっと待てよ!冗談だから!本気じゃないから!そ、そういうのは俺っ…」
「んー、ソラの方が若干背低いから私が王子役した方が良さそうだけど…まいっか!いっきまーすっ(寧ろいただきまーす)
「うわっ!!」

 ぽすん、とソラの胸に飛び込んでみる。
 うわああぁソラの胸っv
 ヤヴァい鼻血出そう。っていうか出させなさい。(やめい)
 ソラの香りーっ!!胸板ちょっと薄いけど、ソラだソラだソラだーっ!!
 忌まわしき王子の記憶がこれで解消できそうだ。

「ほらソラー、早く腰に腕回さなきゃ。再現するんでしょ?早く早く!!」
「ぇあっ、俺本当にそんなつもりじゃ…っ」

 両手で目を覆って指の隙間からこっちの様子を窺ってるドナルド&グーフィーを気にしつつ、徐々にほっぺたを赤くするソラ。
 あああ、可愛いなぁもうっ!お姉さんゲヘヘですよ。

「早くしないと私が王子役やるよ?」
「…っ!それはヤダっ」
 よっぽどタコチューが嫌だったのか、勢いつけて抱き寄せてきましたよ。(ちょっとドッキリ)
 …そして固まりましたよソラさん。

 きっとこっからどうしたらいいのか分からなくなっちゃったんだねぇ。
 可愛いねぇ。可愛いねぇ。(某お笑いネタ)

「ほら、続き続き!徐々に顔寄せてって」
「も、もうホント無理!俺が悪かったからもうやめよう?な?」
「そんなに怯える事?ブリザドは当てないから大丈夫だよ」
「それ以前の問題だって!」

 む、何やら必死だなソラ。これだと本当にやめかねない。
 でも私は折角得られたソラとの萌えタイムを打ち切りたくない。
 ふふふ、しょうがないなぁ。こうなったら私が王子役を!

「じゃ、私が王子役やるからね。えい!」
 ソラの腰に片腕を回して、もう片方の手でソラの頭を固定!
 げっへっへ、夢にまで見た光景・・・!(腐りきってるな)

「えっ、ま、まっ、まま待て!っ!!」
「待たぬ〜v」
 大混乱引き起こして手バタバタしてるソラにニヤニヤしながら、私はぐいっと顔を近づけた。
 そしたらぎゅっと目閉じて硬直しましたよソラさん!ビバ至近距離!!
 私とソラの間の距離は、目測で約10センチ。ぐはっ、自分でやっといてちょっと照れるじゃないか!
 見学者2名(魔法使い&騎士隊長)が息を呑むのが聞こえた。

 うわぁ、ソラの顔綺麗だなぁ。
 卵肌だし、睫毛長いし、唇ぷるぷるじゃねーか。くそ、ヲトメとして妬ましい。

 …あ、ソラ息止めてる?さっきから呼気が顔に当たんない……
 ・・・・・・。

 相手が緊張してたり目閉じてたりすると悪戯心が芽生えてくるよね。

 試しに私の息をふーっとかけてみた。
「!!!」

 おおっ、思いっきりビクついてる。
 …っていうか硬くなりすぎだ。ちょっと可哀相になってきた。

 そろそろ解放しようと、私は腕を解いて一歩退いた。
 うわぁ、凄い。耳まで赤くなってるよソラ。

 ゆっくりと目を開けるソラをニヤニヤしながら眺めていると、横からドナルドが「どうなるかと思った…」なんて呟いた。
 ふふふ、私の理性がぶっ飛んでたらそのままキッスをしてたかもね!

「わーい、ソラ真っ赤だー」
「なっ、おい、!!からかったのか!?」
「いいえー、からかってませーん。忠実に再現しただけです!」
「再現っても途中までしかしてないだろ!最後までしたかったわけじゃないけど。あーもー、本当にキスされるかと思った…。」
「いや、これが最初から最後までなんだけど。まぁ息吹きかけるのは無かったとして」
「………え?」
「………ん?」

 何か話が噛み合ってないぞ。
 さっきのが途中までだって?

「……もしかして、私がキスすると思ってたの?ってか、つまりは私が王子とキスしたと思ってたの?」
「え、してなかったのか……?」

 ・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・。

 ……え。


「ちょっと待ったぁ!?そういえば合流した時、何となく皆の態度が変だなぁとか思ってたけど、それって皆私がキスしたと思ってたって事なの!?」
「クワッ?」
「違ったの?」
「!!!」

 嘘だっ、そんな!!
 それじゃ私、あの事件以降ファーストキス奪われても平気な顔してる無頓着女だと思われてた!?
 これって王様にアッパーカット見られるより大変な事だよね!?

「流石にファーストキスを好きでもない人に奪われて大丈夫なほど私は図太くない!!あの時は寸止めだったの、す・ん・ど・め!!」
「あの角度と王子の体勢じゃ普通キスしてるように見えるって」
「そんな!!っていうか大体私、必死で王子の顔押し返してたんだから。誰がヲトメのキッスをあんな野郎にくれてやるものか」
(((凄い嫌われようだな王子・・・)))


「あー、何かもう一気に疲れた…」
 私がその場にしゃがむと、ソラは「俺だって…」と気が抜けたようにドサッと背後の椅子に座って、額を片手で覆った。顔はまだ赤い。

「ソラ照れすぎーっ」
が平気すぎるんだろ!」
「だって私は最初から寸止めすると思ってたし。ソラが王子役だったら多少は照れたかもしれないけどね」
「あのな!俺、本当にキスするんだと思って……あぁもうっ」
 焦った……。って呟いて、ソラは口を尖らせた。
 どうやら結構本気で身の危険を感じていたらしい。(それも失礼だな)


「…でも私、ソラにならファースト奪われても構わないかも」
「はいはい、また誤解を招く言い方して……。あと5分休憩したら出発するぞ!」
 誤解って、私はわりと本気なんですがドナルドさん。

 まぁいっか、何かもう反論するのも面倒だし。
 実際今日は動き回ったから疲れたしなぁ。
 後の時間はおとなしく休んどこう。

 立ち上がって自分の席に戻った私は、思いっきり伸びをして、それから力を抜いた。
 あー、この席がマッサージチェアだったらいいのにー。

 …なんてアフォな事考えてたら、ソラがちゃんとした方向に座り直して、顔が見えなくなった。
 ソラの席は左斜め前だから、見えるのは席の背中とソラの頭がちょこっとだけ。
 もうちょっとソラの赤い顔眺めていたかったのに!

 しょうがない、代わりに後でからかってやろう。
 私はここを出発した後の事を考えながら、ニヤリと笑った。



 静かな船内、切られているエンジン。
 そのコックピット内に居るのは、ひたすらだらけているドナルドと、うつらうつらし始めているグーフィーと、じっとしているソラと、ぼんやりする私だけ。

 この船が再び旅に出るまで、あと数分。





〜Fin〜






<アトガキ。>

終了っ!!!ようやく終わりましたよハイ。
前・中・後編全部まとめて、霧間ミスト様へ捧げます。
長くてすいません、1本にまとめるつもりだったのですが…;

ああぁー、入れたかった要素が中々入らなかった事に焦りまくっておりました。
けど最後はわりと思い通りになって楽しかったです。伏線も一応拾えました。

本当は、ソラが夢主を抱えて逃げまくって、挙句ガラス突き破って外に出るとかそういうシーン入れたかったんですけども、それだと王子を叱り飛ばせないので敢え無くボツ。
王子があの性格のままだと国が心配で終われないじゃないですか(えぇっ)
それにしても王様が普通の人で良かった。まぁ、そうでないと町の人の活気もとっくに落ちてますよね。

キス云々の部分は、もしかしたらこうなる事を中編で気付かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。
…すいませんめっちゃ楽しませて貰いました。ぐぇへへへ(腐ってる…)
途中で突き飛ばせない辺り、ソラもお人よしです。

ご感想等あれば、拍手またはBBSにお願いします。
では!

2006.8.17