「ねえ、罠だったんじゃないの?」
「それでも、を探せるようになったんだ!早く見つけないとっ」
 後ろから喋りかけてきたドナルドにそう返して、ソラはひた走る。
 ドナルドもグーフィーも同じように走りながら、後ろから追ってくる兵士に追いつかれないかと気を配った。

 3人は、を捜しながら城内を奔走していた。
 牢屋からは脱走したわけでなく、一人の兵士が入ってきて、牢屋番の兵士に鍵を開けるように命じたのだ。
 服装が違っていた事からすると、あの兵士は階級か役職が違うのかもしれない。

 つまり兵士によって脱出を助けられた、という事だ。
 しかし、牢屋を出て少し移動すると、脱走者として兵士に追いかけられる状態に陥った。
 これでは脱出を助けた兵士の行動と現状が一致しない。
 どういう事なのか、3人は測りかねていた。

 しかし今はを探す事が最優先事項だ。
 を見つけて奪い返しさえすれば、この世界を離れられる。


 3人は走りに走って、どこにいるのか見当すらつかないを探して、ある廊下に差し掛かった。
 そこには一つの人影が。

 …否。重なっている二人の姿だ。

 はじめに視界に入ったのは、王子の背中。誰かを抱きすくめているように見える。
 そして王子の腕の中に居るのは……?


「…っ!」


 だった。






割別の鍵・EX
囚われの姫君・中編
〜らんなうぇい〜






 王子の吐息が顔にかかる。
 押し返す手も痺れてきて、もう限界だ。
 所詮女の子の力なんてこんなもんだ。男女の力の差なんて誰が作ったんだこんちきしょー!!
 もっと平等なのは無いのか、平等なのは!!

 ………平等な力?


 私はハッとして、思い切り叫んだ。
「『ブリザド』おおぉ!!!」
『ごしゃぁっ!!!』
「へぶふっ!!」


 顔を押し返していた手からブリザドを発射。(さすがに顔面ファイアはヤバいから氷にしといた)
 王子はあっという間に吹っ飛んで壁にぶつかった。
 そのままずるずると床に落ちて倒れ込む。

 一応手加減はしておいたから大怪我はしてないはず。
 ヲトメのファーストキッス奪おうとするから正当防衛をしたまでである。


『王子ーっ!!』

 達成感に浸っていたら、何だか向こうの方から大勢の足音と声が聞こえてきた。こっちに近付いている模様。
 …って、あれは兵士の団体さんじゃないか!!
 そして……

「ソラ!ドナルド!グーフィーっ」
 兵士の前にはこの3人が走ってる。丁度追われてるような感じ。
 何だ何だ、3人が兵士に追われてるって事は、やっぱどこかに監禁されてたのか?
 んで、私と同じく脱走したのかも。

 っていうか、兵士に王子をぶっ飛ばす所見られちゃったよ。
 大丈夫かな……でも正当防衛だし。


 …いいやもう、皆と一緒に逃げちゃえ。(そんな適当な)


 3人が私の横に来た辺りで、私も同じ方向に一緒になって走り始めた。
 後ろの方では、兵士が王子に駆け寄って「自室にお連れしよう」だの何だの立ち止まって騒いでる。
 時間稼ぎになるかと思ったけど、追ってきている兵士の数が半端じゃないから、『王子介抱グループ』と『私達を追うグループ』に分かれただけで状況に変化は皆無。
 何でこんなに兵士がいるのさ!(多分私達をマークするように王子から何か言われてるんだろうけど)

 てゆか私達、偶然とはいえよく合流できたなぁ。
 このクソ広い城の中で。

「それにしても皆、今までどこに居」
っ、さっきのは気にしちゃ駄目だぞ。あれは事故!事故だ!」
「・・・・・・・・・へ?」

 唐突に話が飛んだ。
 ソラさん、言ってる事が良く分かりません。

 私達は、廊下の角を曲がりながら会話を繰り広げた。
「私が王子を誤って暗殺しかけた事?」
「いや、そうじゃなくて…その……。さっき王子と、なんか…してただろ? あれ」
「は?」

 『なんか』とか『あれ』とか随分遠まわしだなぁソラさんよ。
 私が首を傾げると、ソラはドナルドと「まさかさっきの、がOKしてやってたことなのかな」「でもそれなら魔法使ってまで逃げないよ」「そうだよな?」なんて小声で会話しちゃってます。(聞こえてるよ)

 ……って、『あれ』とはよもや、キッス寸止め事件の事か?
 寸止めでぶっ飛ばしたから無事だったし、皆と再会ついでに大量の兵士とご対面したから、そっちの方が意識に残ってて、あの事件の事は『既に終わった事』としか認識してなかったんだけど。

「っていうか普通『事故』って言う程じゃないよねあれは」
「「えっ」」

 えっ、って何さ。
 だってチュー後なら『あれは事故だ!』って表現は似合うけど、寸止めして『事故!』なんて言っても妙だよね?

にとっては大した事じゃなかったみたいだね」
「うん、凄いね…」
「慣れてるのか?」
いやいやいや、慣れてたまるか。あんなに迫られたのは初だ初」

 あーもー、そんなにツッコまれたら思い出して鳥肌立ってきちゃうじゃないか。
 トラウマになったらどうしてくれる。

 体力の無い私は徐々に息を切らしつつ、再び皆と一緒に廊下の角を曲がった。
 途中、私はブリザドを何発か後ろの床にぶちかまして兵士達をスリップ撹乱させまくった。
 そんな風にしながらこの城の出口を探して駆けずり回る。(私が合流したから、もう世界の外に出てもいいよね?)

 …それにしても広い。 広すぎる。

「…ねーっ、いい加減、逃げるの限界…もうこの兵士、ブチ倒しちゃ、駄目かなぁっ」
 呼吸が苦しくて途切れ途切れになりながらも私は皆の意見を仰ぐ。

「あー、それ俺も思った…気絶させるくらいなら、いいんじゃ、ないのか?」
「そうだね、あとはここを出て、グミシップに乗り込むだけだし、強行突破でもいいかもっ…」
「よし、行こう!」

 皆が同意した所で私達は一旦立ち止まって、迎撃すべく兵士の方に振り返った。

 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・。


「却下!逃げた方がまだましっ」
「あいあいさぁっ!!!」



 後ろから追ってくる兵士は、最早倒せる・倒せないとかそういった次元ではなくなってますがな奥さん。
 兵士が廊下を埋め尽くして ま す よ 。
 ありえない、何だこの人数は。逃げてる途中にまた増えたのか。
 私達は一も二も無く逃げの一手に舞い戻った。
「この城の兵士事情は一体どうなってんのー!!」
 廊下に私の叫びがこだました。

 逃げながら、渡り廊下に差し掛かる。
 壁の無い右側には、噴水+花壇付きの綺麗な中庭が見えた。

 あまりに綺麗だからちょっと見て行きたかったけど、現在の状況じゃ素通りする方が賢明だ。
 広い場所に入って人海戦術取られたらと思うと、最早それは自殺行為でしかない。
 中庭を見なかったフリして、そのまま廊下を真っ直ぐ走り抜けようとした。

 が。


「はーっははは!!!待っていたぞ!!」
「うごふっ!!!?」



 何と進行方向にあのタコチュー王子が。

 さ、先回りされた!?
 あぁそうか、王子の方が城の中身に詳しいのは当然じゃないかコンチキショウ。
 こっちがうろちょろしてる内に先回りも出来よう。結構走ったし。
 何で場所が分かったのかは理解不能だけど、この際それは無視だ。(窓から見えたのかな…)

 っていうか手加減したとはいえブリザド顔面ストライクしたのにピンピンしてますね王子。
 随分タフだな、王子の癖に。(偏見)
 髪がまだちょっと部分的に凍ってるけど。

「さぁ、その4人を捕まえろ!は僕の妻になる女性だ、丁重に扱うように!他はどうでもいいぞ」
『はっ!』
 王子の命令にびしっと揃えた返事をする兵士達。
 ど、どうでもいいってアンタ。

「挟まれたっ!」
「皆、中庭に入るよ!!」
 正面には王子(プラスその隣に何人かの兵士)、背後には大量の兵士。
 私達は中庭に入る事を余儀なくされた。

 ドナルドの誘導ですぐ右にある中庭に入ると、そこを突っ切って向こう側の通路に出るべく全力疾走。
 疾走。しっそう…しっそ………げほっ


「も、もう走れない…っ」
 城を出るとか中庭を突っ切るとかいう前に、私の体力が底をついた。
 思いっきりペースダウン。息が苦しい…っ

、頑張れ!」
「捕まったらまた牢屋行きになっちゃうよ!」
「早く逃げなきゃ!頑張ってっ」

 あぁ、皆が励ましてくれてる………って、

 牢屋?


「皆牢屋に入ってたの!?」
「うん。あ、は違ったの?」
「・・・・・」

 私は、問いには答えずぴたりと足を止めた。
 背後から、ダカダカと足音を立てて兵士達が入ってくるのが分かる。

!?」
「早く逃げないと囲まれるぞ!!」
「…悪いけど、用事が出来ちゃった」
「………え?」


 中庭のど真ん中。
 ぴったりと足を止めてる私と、焦る皆。
 そして近付いてくる兵士達と、王子。

「用事なんて今はどうでもいいだろ!逃げる方が先だ!」
「ごめん。ほんとごめん。皆だけでも逃げて」
「何で…」
「王子に言いたいことが出来たから!じゃっ」
「あっ、!!」

 私は踵を返して兵士の群れの中に早足で歩き出した。
 あの王子の元に舞い戻るのは正直生理的に拒否反応出そうだけど、後悔しない為に行かないと。

 …なんて意気込んでいると、ソラ達も私を追い抜いて同じ方向に歩き始めた。

「ちょっ…皆?」
「実は僕らもあの王子様に言う事があるからね。さっきまで逃げてて暇が無かったけど」
「……」

 まぁ…今日色々あったしなぁ。
 『あの王子に言う事が無い人ー』って言ったら多分このメンバー全員沈黙しちゃうとは思う。

 私達は、あっという間に兵士に取り囲まれた。
 ぐるりと円を描く感じで、ともすれば私達の周囲でマイムマイムでも踊りだしそうな陣形だ。

 そして、その円の中にすたすたと入ってきて、私達の目の前で止まる王子。
 ……部下の間を割って入るそのシチュエーション、アニメとかによくある悪の親玉登場シーンそのままだな。

 兵士が作る大きな円の中には、私とソラとドナルドとグーフィー、それから王子。この5人。
 私達と王子は4対1で向かい合うようにして立っている。
 兵士がすぐに飛び掛ってこない所を見ると、私達が逃げてる間に何か命令したんだろうか。
 だとすると、どうやら王子は私達をすぐに捕まえる気はないらしい。


…!先刻は不思議な力を使っていたな。惚れ直したぞ!しかし突然ぶつけられて顔が冷たかった…」
「正当防衛です。何でこの人『冷たい』だけで済んでるんだろ…吹っ飛んだのに」
「何もあの場面で能力を披露する事もあるまいに……折角の良いムードが…。はっ、そうか、恥ずかしかったのだな!そうに違いない!あぁいじらしい…」

 勝手な妄想繰り広げて背後にバラの花散らす王子。
 ……ソラ一行、げんなり。(私含む)

「しかしそんな素晴らしい僕のを攫おうとするとは……貴様ら、如何なる手段で脱走したかは知らんが、この罪、軽くは無いぞ」
 バラ飛ばしから一変して、目を吊り上げてソラ達を睨みつけるタコチュー。(タコ言うな)
 いやいや、私はいつからお前のものになった。

の事は取り戻しただけだし、脱走もしてないぞ」
「兵士が牢屋の外に出してくれたんだ」
「黙れ、そんなはずは無い!!」
「へぇー」
 私は、あまりにこの場にそぐわない平坦且つ無関心な声で相槌を打って、ボタンを叩く仕草をした。(ネタが古いのはご愛嬌)
 こっちに向いた王子の視線を半眼で見返す。

「要するに、私の大切な人達を出してくれる見込みの無い牢屋にぶち込んで、出た途端追い回して、終いにゃ私を助けようとしたから罪人にグレードアップした、と。」

 寧ろこの場合はグレードダウンかしら、と続ける私に、王子はハッとしたように目を見開いたが、言葉が出てこない。
 取り繕う言葉も出ないらしい。
 そんな王子に、私は最上級の笑顔を向けた。

「お・う・じv」
…?」

 見詰め合う二人。王子は表情を焦ったものから若干鼻の下が伸びた暖かなものへ変化させた。
 二人は黙ったまま、恋人のような甘い視線を絡み合わせている。
 ソラ達が何事かと私達を交互に見るが、私と王子はそれらを無視した。

 そして唐突に、
「王子ーっv」
 私は両腕広げながら、3メートル向こうにいる王子へとスキップをかけた。
っ!!」
 王子はそんな私を受け止めようと、頬染めつつ同じように両腕を広げた。

 突然の出来事に混乱したソラ達が私を引きとめようと手を伸ばしたその瞬間―――



 ごしゃぁっ


 金鎚とスイカで野球したような効果音貼っ付けて仰け反る王子。
 倒れないように慌てて背後の兵士がそれを受け止めた。
 完璧なアッパーカット決まりました。いっそ清々しいほどに。

「ななな何をするのだっ」
アフォか貴様は。罪もない人間をあろうことか牢屋に閉じ込めといてこれで済んだだけでも感謝せい。大体私を攫ったのは元はといえばアンタだアンタっ」
 ずびしっ!!と指差して某名探偵の如く高らかに言えば、周囲の兵士が騒ぎ出す。

「暴力に付け加えこのような暴言……。王子!いかにこの方を気に入っておられようと、今すぐ罰を与えた方がよろしいかと存じます!!」
「!」
「う、うええぇっ!?」

 あわわ、そういえばコイツ王族だった!元からタメ口で何か意見できるような立場じゃなかったんだ。
 兵士からすれば今までの方が異常だったのか。
 でも言い過ぎたとは思わない。だってコイツはそれだけの事をやったんだし。
 ああぁ、でも罰とかは流石に恐い…!


「文句なら僕らもあるぞ!!」

 焦っていた私の耳に突然聞こえてきたのは、恐怖を意識外に追い出すかのような大声。
 声の主はドナルドだった。

「王子は、がここに来て約束するまでは町の人を悪く言ってたんだよね?」
 ずい、と。
 大きく前に出て、私を後ろに下がらせるグーフィー。
 その立ち位置は王子と私の間。まるで私を庇うように。

「それに牢屋番の兵士が言ってたぞ。『王子に邪魔者扱いをされて無事でいられただけでも有難いと思え』って。つまり王子が気に入らない人は、罪が無くても酷い扱いを受けてたって事だ!」
 大股で前に出て、グーフィーの右に立つドナルド。

「王子様がどれくらい偉いかはあんまり想像つかないけど、そこまでしていい理由はどこにもないだろ!」

 あんたも町の人も、皆人間なんだ。


 ソラはそう言って、グーフィーの左に立った。
 …あぁ、皆が王子に言いたかった事って、これだったんだ。

 普段は怒らないグーフィーまで参加してるって事は、相当だ。
 多分相手が王族だから、なんだと思う。
 だってドナルドもグーフィーも、王様の許で働いてたんだから。
 直接会った事がなくても、二人の王様は優しいんだって分かるから。
 優しいから、余計にやるせないんだと、そう思う。


「黙れ、僕に指図するな!お前らは家畜同様僕に飼われていればいい!!」
「「「「よくない!」」」」
「…ふん、そうか。不貞の輩から僕自らを恰好良く奪還しようと思っていたが…そこまで言うのなら、変更だ」

 王子は仁王立ちしてふんぞり返った。(っていうかすぐに捕まえなかった理由はそれかよ)


「そこの3人は全員牢屋行きだ!1週間でいい。…ただしその間は食料も水も出さない」

 ……。
 ………それは、もしかしなくても。

「殺す、っていうの…?」
だけは今日連れて行った部屋にしばらく居てもらう。VIP対応をするが、それ以外の場所には行かせない」
「…!!」


 言葉が出ない。
 だって、それはあまりにも……。

 私一人がこんな形で特別視されるなんて、最悪だ。
 こんな人間に選ばれるなんて、最低だ。


 王子が兵士に命令を出して、兵士は私達を捕らえようと動き出す。
 あぁ、逃げないと。
 逃げないと。

 逃げにくくなる事は分かっていたのに、こうなる事は予測していなかった、と言うべきか。
 何だろう、もっと上手くいくと思ってたのに。
 …それは根拠が無さ過ぎたんだ。

 後悔し始めて、
 ソラ達が応戦の準備を始めても私だけ対応できなくて、


 ……そんな馬鹿な。
 そんな馬鹿な話があるわけない。

 徐々に、後悔よりも何よりも、怒りが膨張してゆく。


 王子の馬鹿野郎!!!


 そう叫ぼうと口を開いた。
 ―――刹那、



「静まれ!!」


 中庭に、大きな声が響き渡った。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

あわわわ…!!なぜ中編なんぞというものが出来てしまったのでしょうか…!!(滝汗)
ごめんなさい予想より長引きました…!!
一度思いついたら退くに退けず…。もう少しお付き合い頂ければいいのですが……
こんな長ったらしい贈り物で申し訳ない。実は企画を打ち立てる前から練っていた話だったのです。

ちなみに、前編をUPした日から1日しか経っていませんが、それは後編ができそうになるまで前編をストックしておいたからです。
後編と時間を置かず載せたかったので。(プラス、伏線を見直しながら書きたかった)
しかし結局中編になってしまったので目論見は失敗ですかね…ああぁ……

後編では必ずソラとの絡みが出ますゆえ…ってコレ本当にソラ相手か?(聞くな!!)
頑張って完結させます。宜しくお願いします……
では!(逃亡)

2006.8.15