「うっへぇー、寒いー」
あまりの寒さに、私は呼気を凍らせながら震え上がる。
見渡す限り、木と雪ばかり。
ここは一体どこら辺なのだろうか。
「おーい、皆どこにいるのー?」
叫ぶが、返事はない。
私一人の声だけが森の中にこだますのみ。
人気もないみたいだし、一体どうすればいいのか。
私は、何度目になるか分からない溜息をついた。
割別の鍵・EX
深雪の国
〜男らしさの追求〜
この世界に来たのは、今から大体2時間くらい前の事。
グミシップから見たこの世界は、雪だらけだった。
…こんな場所攻略本にはなかった気がするけど、世界はあれだけじゃないだろうしね。
で、とりあえず降りてみたものの、広がるのは木々と雪のみで人の気配は全くない。
ソラはどこかにリクとカイリが居ないか、ドナルドとグーフィーはどこかに王様のいた痕跡がないかを探しに、
そして私は誰でもいいから人を見つけて元の世界に帰る手がかりを見つける為に、それぞれ別の方向に歩き出した。
1時間経ったらまた元の場所に帰ってくる約束だったんだけど……
この雪と木だけの場所じゃ目印も何もあったもんじゃない上、私は方向音痴だ。
こんな場所で方向なんて分かるかー!
方位磁石持ってても何もできやしないぞー、凄いだろ!(自慢する事じゃない)
結局人っ子一人見つけられなかったし、帰る手がかりも掴めなかったし、待ち合わせ場所にも帰れませんでしたよ!
えぇ、現在迷子ですとも!!
とぼとぼと雪道を歩く。
…ちょっと惨めだ。
にしても、凄い雪だ。
ブーツにしてよかった。
ここに来る前に、グミシップの中でドナルドに魔法で衣装チェンジしてもらった。
厚手のロングコートに、暖かいブーツ。
マフラーと、それから……
…あぁ、手袋だけ出してもらうの忘れてたんだよね。
指がかじかんで赤くなってる。
最早感覚も無くて、動かす度に関節がギシギシ鳴る感じ。
むやみにポケットに突っ込んだり息を吹きかけたりするとずっと暖め続けずにはいられなくなるから、もう諦めた。
あー、それにしても寒い。
もうかれこれ到着直後から2時間弱歩いてるから、さすがに芯まで冷えましたよ。
洗い〜髪はぁ〜芯まで冷えて〜♪ですよ。(洗ってない/しかもネタが古い)
ずぼり、ずぼり。
ぎゅこっ、ぎゅこっ。
私が新雪を踏むと、雪が潰れて音を立てる。
子供の頃はこれが楽しくて、わざわざ新雪のある場所に入っていったっけ。
・・・隣の家の庭とか。(駄目だろ)
うふふふー、楽しいなー。
うふふふふふー。
・・・・・。
なんていつまでも言ってられるか
寒い中これ以上歩くのはちょっと疲れてきたぞ。
待ち合わせ場所はいずこ。
20cmくらい積もってますよここの雪。
歩くのにも普通より疲れるし。
メンバーの誰かがここを通りかかってくれるだけでもいいんだけどなー。
…いや、無理か。
だって約束の時間から1時間も過ぎてるんだから、皆戻ってるに違いない。
あぁー、結局私が元の場所を探すしかないのか。
それか、皆に気付いてもらうか。
さっきから叫んでみてるけど、反応はないなぁ…。
「おーいっ、皆いるー!?」
叫んでから耳を澄ますが、物音一つない。
駄目か…。
と、思ったその時。
『ずぼっ』
「………ん?」
雪が踏まれる音がして、振り返る。
誰か来てくれた!?
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
しかし、私とその相手は黙って数秒見詰めあう。
…なぜなら、相手はパーティーの誰でもなく、ハートレスだったからである。
「ぬをぁ!?ハートレスっ!!?」
しかも大きいやつだよ!
今まで出てこなかったからビックリしたじゃんよ。
私はそいつに向けて手のひらを突き出す。
「出ろファイアっ!!」
『ドンッ、ドンッ、ズガンッ!!』
ファイアを連射して、軽く倒してみる。
へっへーんだ、私だって大きいの一匹くらいちょろいもんねっ!
そして、元の進行方向を向いて歩き出そうとする。
……が。
私は思わず冷や汗をたらす。
「……あのー…多勢に無勢は酷すぎやしませんかい?」
振り返った私の目の前には、ハートレスがずらり。
シャドウやら、さっきのみたいな大きいのやら、それはもう色とりどりの。
「…あ、あははは…は……。」
後ずさりをする。
こんな量のハートレス、魔法だけじゃ相手できない。
しかも、こんなに相手にしてMPもつだろうか。
だって遥か先までぎっしり居ますよハートレス!
いつの間に来たんだこいつら。湧いた?(失礼)
「に、逃げちゃえっ!!!」
私はさっと身を翻して駆け出した。
が、当然後ろのハートレス軍団は追ってくる。
あーもう、雪だらけで走りにくい!
今更、雪がなければいいのにとか都合のいい事を考える。
…ん?なければ?
「そうだ…『ファイア』っ!!」
『ドォンッ!!』
地面に突き出した手のひらから火球が出てきて、雪を溶かした。
よし、通りやすい!
「ファイアファイアファイアっ!!」
私は連続で魔法を地面にぶつけ、雪を溶かしてその上を走り抜ける。
コートに泥が跳ねまくるけどこの際気にしない!!
際限なさそうなハートレスと戦うよりましっ!
…けど、道を開く為とはいえ、いつまでも逃げてたらファイア連発しすぎてやっぱりバテちゃったりして?
ぬあーっ、結局駄目なんかい!
かといって今から戦っても、どう考えたって倒しきれない。
くっ、八方塞がりか。
そして自慢じゃないが、持久走は超ド級に苦手だぞ私。
運動を任せたら間違いなく平均値切りますぜv
だから、
「いやああぁ来るなあぁ!!」
そんな団体さんに追いかけられても逃げられる距離は高が知れてるんですってば!
助けてええぇっ!!
MPが尽きて倒れても困るのでファイアを唱えるのをやめた。
雪が積もっているため余分に太腿を上げながら、雪を蹴散らして走りまくってみる。
が、どういうわけかハートレスはスピードを落とさず追ってくる。
うぅっ、やはり敵キャラだからですか?(どういう理屈だ)
走りに走って、もう息が上がりまくって、更に足が思うように動かなくなってきた。
何かこいつらを倒す方法はないのか…!?
アレコレ考えながら、悲鳴を上げている自分の身体を叱咤する。
すると。
『ズボッ!!』
「にぎゃぁっ!!?」
派手に蹴躓きました。
大転倒です。コントでもここまで大袈裟に転びません。
どうやら、雪で埋まっていて良く見えなかった石に足を引っ掛けた模様。
私は体の二分の一(正面)を雪に埋もれさせながら、皆に『先立つ不幸をお許しください…』とか祈り始めていた。
「…あ、でも私が死んだらソラの心が欠けたままだ」
それはちょっとマズいかな…。
キーブレード出せなくなってKH終わっちゃうよ。
じゃ、急いで応戦しなきゃ…!
ハートレスの足音が大量に近付いてくる中、私は慌てて両腕を立てる。
が、先頭にいるハートレスとの距離は僅か10m弱程度!
魔法で全部倒すにはちょいと近すぎるんじゃありませんこと!!?
「ー!!」
ほら、幻聴まで聞こえてくるし!
・・・・・・。
・・・アレ?
敵と距離が近いのと幻聴って何か関係あったっけ?
…って、そうじゃなくて。
「ーっ!!!」
「!」
ハートレスがいる方向の反対から聞こえた声。
それは間違いなく……
「ソラっ!!」
遠くから、雪を蹴散らしつつ駆けてくるソラ。
た、助かった…!来てくれたんだ!
私は立ち上がって、そっちへ走って行こうとして……
「あっ?」
急にバランスを崩してよろけた。
見てみると、ハートレスの内の一匹が私の足を掴んでいた。
シャ、シャドウだよ!小さいよ!可愛いよっ!!(そんな場合か)
多分ハートレス軍団の先頭にいた奴だ。
追いつかれた…!
「!」
「うああぁんソラぁ!私はもう駄目だーっ!貴方だけでも逃げてっ」
私はオヨヨヨと泣き崩れながらソラに叫んだ。
一度やってみたかったのよね、これ。悲劇のヒロイン台詞。
あ、でも今はシャレになんないんじゃなかろうか。
「何言ってるんだっ!何のために俺が来たと思ってるんだよ!しかもメチャクチャ探した挙句こんな事になってるし」
「ハイ、すいません」
私に追いついてきたハートレス達が、私を取り囲んでいく。
うっかり泣き崩れてしまった為に視界が低くなっていて、何だか余計に敵さんの威圧感倍増。
シャドウに足掴まれてて立ち上がることも出来ず。
「あ、あわわわわ…」
私は四方八方に居るハートレスを見ながら、魔法を撃つ事を忘れて焦りまくる。
雪の上に手を置いているから手が雪と同化したように冷え切っているとか、ブーツの中に雪が入り込んでるとか、もう気にかけられない。
ソラはどこら辺まで来ているのか、ハートレスが邪魔で見えない。
しかもハートレス軍団、攻撃態勢整えてらっしゃる!!?
「ソ、ソラ!助けてぇ!!」
「っだぁ!!」
『ぼごぉっ!!!』
私がSOSを出すのとほぼ同時に、大量のハートレス(全体の一部)が吹き飛んだ。
円の一部分を抜き取ったかのように開かれた道に、ソラの姿が現れる。
その手にはキーブレード。
「、無事か!?」
「まだ何とかー…ぅおっと!?」
一匹のハートレスが攻撃を仕掛けてきて、私は座ったままマト●ックス体勢になって何とか避けた。
が、腹筋も背筋も全く鍛えていない私は、その体勢を保てずそのまま背後に倒れた。
『ぼふっ』
「ぐはぁっ!!冷たいっ」
雪に頭から突っ込んでしまって、首辺りの服の隙間から少し冷たいものが入った。
けど、倒れた方向が方向だったので、私の足を掴んでいたハートレスは潰されないようにさっさと逃げましたよ!
これぞ不幸中の幸い。
私は素早く身を起こし、ハートレスの攻撃を(超ギリギリスレスレで)かわしながらソラの隣に立った。
も、元の世界に帰ったらドッジボールのプロになれるかもしれない・・・!(果てしなくどうでもいい)
「この状況だと逃げられそうもないね…」
容赦なく一斉に襲い掛かってきたハートレス達にソラがキーブレードで応戦し、私はソラの死角からの攻撃を魔法でサポート。
さっきよりもハートレスの人口(?)密度が高くなっていて、突破しにくい状況。
私達の周りをぐるりと取り囲むようにハートレスが居る為、すたこら走って逃げるのも不可。
「ドナルドとグーフィーは?」
「別方向でを探してる」
「うあーん!来ないと思ったら私の所為か!!」
こうなったらソラと2人でどうにかするしか…!
途中でMP尽きたら本気で役立たずだよ私!
それでも、ソラに攻撃が当たりそうになったら迷わず魔法は使うんだけど。
ソラって戦闘中動きまくるから、サポートが微妙に難しいぞ。(あっという間に私の隣から居なくなった)
…って、ソラさん何だか敵側に突っ込んで行ってます?
「、俺が何とか道を開くから、その隙を狙って逃げろ!」
「Σ何ぃ!?」
そう来たか!
確かにソラが押しに押せば少しくらい道は開きそうだけど…
「でもソラが残される可能性高いじゃん!私が抜け出すとしてもそれでギリギリだろうし」
「俺はいいから!…今日こそ男らしい所を見せてやる・・・!!!」
「そこかよ。」
けど実際問題、私が戦闘から抜けたら今よりもっと大変なんじゃないか?
サポート係(+回復役)がいなくなるんだし。
「ソラが危険な目に遭うなら、私抜けないよ!」
「嫌だ、何が何でも逃がす!」
「嫌ってアンタ・・・」
ずんずんと敵中に割り入って戦うソラを冷や汗かきつつ目で追う。
私は自分の正面に飛び掛かってきたハートレスにファイアをぶち込んでから、ソラに駆け寄った。
「駄目だよ、私ソラに傷付いて欲しくない」
「俺だって、には…!」
「!」
言いかけて、ソラは口を閉ざした。
…ソラも、何か思う所があってそんな無茶をしているのだろうか。
ソラが一気に敵を薙ぎ払い、私はそれで倒し損ねたハートレスに魔法を打ち込む。
「は手伝わなくていいから!」
「だって危なっかしいし」
私が言うと、ソラは眉を寄せて振り返った。
「それじゃ意味ないんだって!!もういいから俺に任せて―――」
「時と場合を選んで下さいな!」
もう少しで突っ切れそうだけどもさ、ソラ一人に任せて私だけさっさと逃げちゃうってのはさすがに卑怯の極みだと思うぞ。
「私は…そんな事の為に助けを求めたんじゃない」
「!」
「ソラを盾にする事なんて…望んでない」
「………」
ソラは私へと振り向いて、悲しげに眉を寄せた。
…え?何でそんな顔するの?
……男らしい所また見せそびれるから?(微妙に違う気がするけど)
「俺は―――」
「!ソラっ」
言いかけた所すまんのだけど、ハートレスの相手はちゃんとしてますか!?
何だか数匹飛び掛ってきてますが!!
「うあっ!?」
「ソラ!!」
私の魔法も集中力が乱れたせいで間に合わず、ソラはハートレスに背中を裂かれた。
血はそんなに出てないから深い傷ではないんだろうけど、ケガなんてされたら私でも驚くわけで。
「か、回復っ、回復!!」
私は集中して回復のイメージをしようとする。
…が、今度は周囲にハートレスが居すぎて攻撃されないか不安で集中できない。
ただでさえ回復は難しいしMPも要るってのに!
「俺はいいから、は逃げる事だけ考えて…!」
「やだっ、私のせいだもん!!」
私があれこれ話をしたせいだ。
言っちゃ何だけど、ソラの言葉を最初から丸っきり無視して手伝いまくって、2人で逃げればそれで事足りたのだと今になって思う。(それはそれで酷いが)
ソラにケガさせたのは、私だ…!
今回復魔法を使うのは無理だと判断して、私はハートレスを攻撃する事に決めた。
ハートレスを全滅させてから集中した方がいい。
もうMPなんて無視して、どんどん攻撃していこう。
「のせいじゃない、これは俺が…」
「『ファイア』ああぁっ!!!」
『ダゴンッ!!!』
かなり凄い音を立てて、火球が放たれ―――というか、爆発した。
ハートレスの半分以上が消滅。
私はそれに乗じて同じ威力のファイアをもう2〜3発叩き込んだ。
『ズガッ、ドガッ、ボッゴォン!!』
……地面まで焼け焦げてるけど、そこら辺は気にしない方向で!!(コラ)
「よっしゃ、あと7匹!」
「え、あ、お、俺が行くっ」
かなりどもりながら、ソラは残りの敵に突っ込んでいった。
「ちょっと、ソラは怪我人っ…」
言うが、ソラは既にハートレス相手に駆け回っている。
やっぱしそんなに深い傷じゃないのかな。
でも心配だな…。
…あー、ちょっとくらくらする…。
やっぱしMP使いすぎたか…。
でもソラに回復魔法使わないと。しっかりしなきゃ。
「っ、全部倒したぞ!大丈夫か!?」
「大丈夫か、はこっちのセリフ…。ケガは?」
「かなり浅い。…けど……」
「?」
「…またに男らしい所見せられなかった…」
「この期に及んでそれを言うか。」
危険に晒されてまでやることなのかい?
お姉さん心配で仕方ないですよ。(お姉さん言うな)
「今日は今まで以上にこだわってたみたいだけど、何で?」
「……それは、」
私はさっきの魔法で雪が溶けてすっかり乾いた地面に腰を下ろした。
…まだちょっとあったかい。
ソラは立ったまま、私を見詰めて少しだけ唇を噛んだ。
…あ、またその表情。
さっき見せた、眉を寄せた少し悲しげな表情。
「どうしたの?」
「……俺、さ」
「何?」
そこまで真顔になられるとこっちまで緊張してくるんだけど。
ソラってそういうキャラじゃないし。
…そこまでして言いたい事って何だろう?
私は、じっとソラを見つめ返した。
ソラは、気まずそうにしながら口を開く。
「俺、が居ないと駄目なんだって思ったからさ」
・・・。
・・・・・・・・・・・?
私はしばらく黙った。
え、ちょっと待って。
それって何?
愛の告は…げふんごふん。いやいや、ソラが私にそんな感情抱くはずが。
例えドナルドの毛が全部抜かれて羽毛布団にぶち込まれようとそんな事はありえない。(どういう例えだ)
「…あの、ソラさん?それはどういう意味で?」
「ほら、が居ないとキーブレード出せないだろ?」
「・・・・・・・・あー。」
やはりそうですか。
ああは思ってたけどちょっと期待しちゃってたよ。
腐ってもヲトメですからね!
「魔法もが使ってるし…」
「うん」
「だから頑張らないと…ってさ」
「…うん?」
ソラは、私を見据えて言い放つ。
が、私にはよく意味が分からない。
私がいないとキーブレード出せないのは分かってる事だし、魔法も私が使ってるよ。
けど、それが何なんだろう?
「何が言いたいの?」
「だからさ…魔法はが使うだろ?」
「そうだね」
「で、俺はキーブレードで戦うしかないってことだよな」
「そうなるね」
「…でも、それですらが居ないと駄目なんだ」
「………む?」
え…、もしかして……
「だからせめて、俺が役に立つ所を…俺だって弱くないんだって所を…男らしいところを見せようって」
「………」
やっぱり、そうだったんだ。
私が魔法もキーブレードの出現方法も握っちゃったせいで、ソラは少なからず劣等感を抱いてたんだね。
気付かなかった私も悪いんだけど…ソラが今まで以上に「男らしさ」にこだわってたのはそのせいだったんだ…。
だから戦闘中にあんな無茶を……
「ソラ、確かにソラは私が居ないと戦う術を失うよ。けどね…」
私はソラの白いコートの裾をぐっと引っ張って無理矢理正面に座らせた。
ソラは尻餅ついて痛そうだったけど、そこら辺は気にしない。
「私はソラを非力だとも役立たずだとも思わない。だって私はソラみたいに最初から戦いや喧嘩に慣れてたわけじゃない。だから、今ですら戦闘中の躊躇いは抜けないの」
両手で力一杯ソラを座ったまま回転させて、背中を向けさせる。
私は目を閉じて回復のイメージをした。
・・・・・相変わらず難しいよコレ。
何でこう回復って高度な魔法なんだろうね!!
「あ、別にいいって!疲れてるだろ?コートのお陰でそんなに深い傷は負わなかったし――」
「いいから黙って回復させられなさい!」
目を開いてソラの背に手をかざし、魔力を解放した。
『ぺふん』
いつものごとく、素敵な音を立てて回復魔法『ケアル』発動v
ぐああぁ、やっぱしいつ聞いても恥ずかしいっ!!
「うぅー、なにゆえ改善されないのか・・・。」
やっぱり術自体は成功しているようで、傷は残っていない。
ソラは肩甲骨を動かして背の痛みがないかを確かめ、「よし」とか言ってる。
コートの裂け目と血のあとは残ってるんだけどね。
白いコートだから目立つよ…。
「ソラ、大丈夫?」
「え?今ケアルかけただろ」
「…そういう意味じゃないんだけどね」
「?」
何か血のあとって、見てたら痛々しいじゃないかい。
…あ、しかもコート裂けてるから素肌が微妙に見えてる。
「ていうかその裂け目から風入らない?寒いでしょ」
「微妙に…」
私は裂け目から見えるソラの背中を指でそっとなぞった。
「うわ冷たっ!!」
「あっ、ごめん!」
しまった、私手袋してなくて最強に冷え切ってたんだ。
しばらくどうしようか迷って、私はそのままソラの背中から抱きついた。
「わっ!?」
あー、徐々に体温が伝わってきてあったかい。
子供体温万歳!(コラ)
これならソラの背中も風から守れるし、このまましばらく私をあっためてくれー。
MPの使いすぎでちょっとだるいから、ついでに支えててくれー…。
「…ソラ、見たでしょ?私の魔法も、何だか完璧じゃないんだ。集中しないと駄目だし」
ソラならきっと使いこなせるだろうけど。(ゲームではあんなに素早く使ってたし)
「だから、今日みたいにソラがいないと駄目なの。ソラが私から離れたらキーブレードを使えないのって、そういう意味では理にかなってるかもね」
「けど、が居ないと戦えないのは…俺がに守られてるみたいで男としてやだ」
「んまぁーっ!!そゆこと言う!?あのね、私が言いたいのは要するに今のままで十分じゃないのかって事!」
私が変な風にこの世界に介入してしまった事は申し訳ないと思ってるんだけど。
私がこの世界に関わらなければ、ソラはこんな思いをせずに済んだんだってのは考えたけど。
「キーブレード出現方法も魔法も握ってるくせにいつまで経っても戦い慣れない一般人と、躊躇いなく敵陣に突っ込んでいけるけど戦闘方法が不完全な男の子。これって五分五分じゃない?」
五分五分っていうか、悪く言えば五十歩百歩って事なんだけど。
「とにかく、そんな状態で『役に立つ』だの『そうでない』だの言っても仕方ないの。両方揃ってでしか戦えないなら、揃ってればいいじゃない。それでも嫌?」
さっきからソラの背中が強張ってるみたいだけど、私そんなに緊張する内容の話してるだろうか。
ソラの後ろ頭を見上げて返答を待つと、ソラは首を横に振った。
「…やだ」
「なっ!」
「俺は、を守りたいんだ。五分五分じゃ駄目だ、それより上じゃないと」
「!」
えっ、何?
守りたいって…守りたいって……
……えーと。
「そういう言葉は彼女ができたら言ってあげましょうね」
「!!えっ、俺そんなに変な事言ったか!?」
「明らかに口説き文句でしたとも。」
「嘘だぁっ!!!違う違う!!俺は男だから、を守るのは当然の義務だろ!」
「そうかなー」
ていうか、何でこうも誤解されやすい言葉を吐くかねコイツはv
腐女子にはおいしい事この上ないけど。
「男だからとか女だからって言う前に、私達仲間でしょ?持ちつ持たれつでいきましょうや」
「でもなー…」
まだ何か言いたげなソラを見上げながら、私はそっと体を離した。
そして、
マフラー押しのけてソラの首根っこを両手で掴んだ。
「あー、あったかい」
「ぎゃー!!冷たーっ!!!」
そりゃそうだよ、手袋せずに何時間も銀世界の中にいましたからね!
「放せ放せ!手袋貸すからっ」
「えー」
「えーじゃない!!」
どうやら本気で冷たがっている模様。
うーん、感覚ないからどこまで冷たいのか分かんないんだよね。
私がしぶしぶ手を放すと、ソラはこっちに向き直って自分がつけていた黒い毛糸の手袋を両方外した。
「えー、両方外すの?」
「は?何か悪いのか?」
「べっつにー」
私的には、
『え、手袋片方だけ?』
『もう片方は、こうすればいいだろ』
そう言って、手袋をしていない方の手で私の手を掴むソラ。
ソラは自分の手と一緒に私の手もコートの中に突っ込んだ。
『これなら2人ともあったかい』
『ソラ…v』
みたいなのを期待してたんだけどな!!(少女マンガか)
…いや、ソラがそれを本当にやったら「気持ち悪い!!」って笑い飛ばすけどね!(酷すぎ)
キザだし。キャラに合ってないし。
これがリクなら合ってたのかな。
「…いらないのか?」
手袋を見詰めたままだった私に顔を顰め、手袋を引っ込めようとするソラ。
「い、いるっ」
私は慌てて手袋を掴んで、はめた。
…あ、まだちょっとあったかい。
ソラの温もりーv(げへへへ/気色悪い)
ソラは手を擦り合わせ、はーっと息をかけた。
「うー、寒いな…」
手袋を奪われたソラさん、やはり寒そうです。
んー、ちょっと悪かったかな。
「…手袋返そうか?」
「いや、いい」
「片方返して素手の方は手繋いでコートに入れる!」
「そんな恥ずかしい事できるか!!」
あららー、即行で嫌がられましたよ。
やっぱし男の子としては女の子にそういうことされるの嫌なのかな?
「じゃ、片方返すだけ」
「それじゃ俺が貸した意味ないだろ」
「ソラが寒そうだもん」
「ポケットに両手突っ込むからいい」
「またハートレスが出た時どうするのよ。手塞がってたらキーブレード振り回せないよ」
「……」
ソラは「しょうがないな」と言って右手の手袋を私から受け取った。
それをはめたのを見届けてから、私は有無を言わせずソラの左手を握って、私のコートのポケットに突っ込んだ。
要するにあれです。
さっきの妄想を実現させちまったのですよ。
「!!?」
「よしゃ、このままグミシップまで走るぞー!!」
「Σんなっ!!?」
私は立ち上がって走り出した。
手を繋がれているソラも、引きずられるようにして走り出す。
…が、私は途中で少しよろけた。やっぱMPの使いすぎだ。
「大丈夫か?」
「うー…、大丈夫。ほら早く行くよっ」
「うわぁっ!」
きつく引っ張ると、ソラはバランスを崩しそうになった。
だらだら歩いてたら日が暮れるし、このまま走っちゃえ。
「お、おい待てよ!」
ソラが抗議の声を上げるが、私は無視して走り続ける。
が、ソラは再び叫んだ。
「そっちは反対方向!!!」
***
あれから結局ハートレスには遭遇しなかった。
何度かソラが手を離そうとしてたけど、私がぎゅっと握り締めてたので大丈夫だった。
いや、やってみたかっただけなんだけどね。
ソラは結構嫌がってましたねー。
現在、回復陣兼グミシップへのワープ陣の前に居ます。
そしてまだソラと手を繋いだままですv
もう諦めたらしく、抵抗する気配はない。
ま、実際あったかいしね。
「さーて、ドナルドとグーフィーは帰ってきてるかな」
言って、ワープ陣に踏み入れようとした…その時。
「!ソラ!!」
「やっと見つけたー!!」
遠くの方から知った声が聞こえてくる。
「あ、グーフィー!ドナルド!!」
私は片手を大きく振る。
2人は急いで駆け寄ってきた。
帰ってきてなかったんだね。
「無事だった?」
「ケガは?」
「途中でハートレス軍団に会ったけど、大丈夫だよ。ソラが頑張ってくれたから」
「へぇ…」
会話の途中、ドナルドとグーフィーの視線がある一点に集中しているのに気付いた。
ソラもそれに気付いたらしく、急に慌てだす。
「…ソラ、、その手…」
「うわっ、これはが強引にっ!!」
そう、例の繋いでポケットに突っ込んだ手だった。
「まるで恋人同士だねぇ」
グーフィーがさらりと地雷を踏めば、ソラはあっという間に顔を耳まで赤くした。
「違うって!!!だから嫌だったんだ!」
ポケットの中の手が離れようと暴れだす。
私はすかさず俯いて片手で顔を覆った。
「酷い…!あの口説き文句は嘘だったのね…!」
「おい!!」
「2人ともいつからそんな関係に…!」
「おめでとう」
「違う!しかもおめでとうって何だよグーフィー!!全部冗談だって!」
「えー、じゃあ口説き文句っていうのは?」
ドナルドが疑うようにソラを見て、しかし私はソラが何かを言うより前にそれに答えた。
「『俺、が居ないと駄目なんだ』とか、『を守りたいんだ』とか!!」
「え、それ本当?」
「うふふ、ソラvまさか嘘だとは言わないわよねー」
「本当、だけど…でもそういう意味じゃっ」
「じゃあどういう意味?」
「っ・・・!!!」
真っ赤になりながら滝の汗を流すソラ。
繋いだ手にも汗が滲んでいるのが分かる。
「やっぱりそういう関係…」
「ち、違う!絶対違うー!!」
「否定しても最早証拠は挙がりまくっているんですよ!観念しなさいっ」
「うわああぁー!!!」
ソラは遂に私の手を振り切って、ワープ陣に飛び込んだ。
そして瞬きをする間もなくその場から消える。
グミシップに乗り込んだのだろう。
「あれ?、手袋片方だけ?」
ソラが振り切った拍子にポケットから抜け出た私の手を見て、ドナルドが首をかしげた。
「あぁ、今私がはめてるのはソラの手袋。私、手袋だけドナルドに出してもらうの忘れててさ」
「そっか、なるほど」
ドナルドは今ので全てを理解したようだったけど、グーフィーは疑問符を頭に浮かべるだけだった。
***
「ごめんってばー」
「……」
コックピット内。
王様の手がかりもリクやカイリの手がかりもなかったようなので、そのままあの世界を離れて、次の世界へと移動中。
ソラがあまりにむすっとしているからこうして謝り倒しているのだが、どうも許してくれそうにない。
「いい加減男らしくびしっと許しちゃいなさい!!」
「そういう時だけ言うか!」
「いーじゃんっ」
「まったく…」
溜息をついて、ソラはグミシップのガラス越しに正面の宇宙を見た。
…私はソラの後ろ頭をじっと見続ける。
「……ソラ、」
「あの時」
「!」
唐突にぼそりと呟いたソラに、私は少しだけ驚きながら次の言葉を待つ。
「…あの時『守りたい』って言ったのは、本気なんだからな。…変な意味じゃなくて」
ぶすけた声で、でも真面目に言ってるのが分かった。
だからかもしれないけど、
「…もう!ソラがそういう事言うのってすっごく似合わないー!」
「何ー!!?人が折角っ」
ちょっとだけ『男らしく』見えたんだよ。
「……何でもいいけど、僕らがいること忘れてない?」
「「!」」
ドナルドが会話に入ってきた事で、私とソラは顔を見合わせた。
「…あはは。ソラ!これでまた恋人疑惑が深まったねー!」
「Σ!!!違うって!」
「引っ掛かりやすい人だねー」
「だー、もう!!」
認めないソラに、それをからかう他メンバー。
いつもの、わりとよくある光景。
ドナルドの安全運転に身を任せて、私達は今日も様々な世界を渡り歩く。
報われないソラにどなたか愛の手を!!(ぇ)
〜fin〜
<アトガキ。>
うわー、随分お待たせしてしまった上にこんな駄文で申し訳ないー!!
クレハ様(何だかこの呼び名が定着してしまっているような;)のリクエストですー。
「連載夢主でソラ夢、ソラがからかわれてる感じで男らしい云々」ということで、やっちまいましたよ。
実は本編に入れようかどうしようか迷っていた部分だったのですが、ネタが出ちまったものは仕方がないですね!
ひたすら書きまくりです。…微妙に長いですね今回…
最終的にちょっぴりときめきvな夢主を、との事でそっちもやってみましたが、これっていいのかしら…;
本当はドナルドとグーフィーも、もっと出る予定だったのですが…(戦闘に参加する予定だった)
ていうかソラは本当に、夢主に殆どの戦闘能力を吸い取られている気が。
だからこんなネタが挙がったわけなのですが、ちょっと不憫…
しかし考えるとやっぱり戦闘能力的には平等である気も。
それにしてもソラはかなり誤解されがちなセリフを吐く男ですな。えぇいそこが好きだぞ!(何)
これって時期的にどこら辺なんでしょうね。
少なくともファイラに変わる前ですよね?(聞くな)
それでは、これにて「深雪の国(みゆきのくに)」を終了させて頂きましょうかね。
クレハ様のみお持ち帰り可ですよ。
それでは、また本編で。
2005.10.10