ロッカーに置いたブレザーとスカートを回収して、闘技場の観客席に放置してたカッターシャツとヘラクレスのマントを拾い上げて、やっとロビーに戻ってきました。
服って結構質量あるんだなぁ…両手に抱えると歩きにくいよ。
で、とりあえずヘラクレス(とフィル)にお礼言ってマントを返却。
私達はロビーから外に出た。
本来の旅に戻る為に。
……個人的な意見としては、水も滴るいい男なクラウドを拝見しに。(拭いてあるだろうから滴らないかもだけど)
割別の鍵・20
願い
〜無言は雄弁に物語る。曰く、〜
外は快晴。正面に見えるのは、この世界の出口。
その前の階段上に……
フェロモン出まくりクラウドがいらっしゃいました!!!(じゅるり)
ああぁお肌がしっとりな感じで…!
ていうか、
髪は濡れてもピンピン跳ねてるままなんですね・・・・・
その重力無視したヘアスタイルは一体どうやって形成されてるんでしょーか。
…って、それ言ったらソラもそうだよね…?
果てしなく謎だ……。
しかしとりあえず色気が抜群である事には違いないので密かにクラウドへにじり寄ってみる。
私達とクラウドとの距離、およそ5〜6メートル。
が、私が服放り出して飛び掛る前に、
「……クラウド」
ちょっとむっとした様子でソラがクラウドの名を呟きました。
・・・はっ、そういえばさっき『越える』だの『超えない』だの『俺を男にして下さい』だの言ってたんだっけソラ…(最後のはニュアンスが違う気が)
ヤヴァい、闘技場の続き始まったりしないだろーか…?
いや、クラウドが応じないだろうけど。
「ク、クラウド!そういえば手はちゃんと回復したの?」
私は何とかこの空気を脱する為に、テンション変えてクラウドに声かけてみた。(そういえば忘れかけてたんだよねこの事)
するとクラウドは、「ああ」とだけ短く返答した。
…一応回復はしてたのか…安心した。
「…なぁ、クラウドって今回の騒動を誰が起こしたか知ってるみたいだったよな?」
唐突にソラが尋ねた。さっき同様、仏頂面なのかと思えば…そうでもない。真剣な顔。
対して、クラウドは……
僅かに瞠目した。
…って、え? その反応は何だ?
普段見られない反応で嬉しくはあるけども!!
「そいつから聞いていないのか」
明らかに私に視線を向けておっしゃいましたクラウドさん。
あのー……『えっ』って感じの視線を皆に向られちゃうからやめて下さいな…!!
私は何もしてない!!何もしてないから!!私は無実だ!!(投獄された犯罪者か)
確かに今回の騒動の大元とクラウドが一緒に居るのは見たけど!そっち側についてるのも見たけど!
「、何か知ってたのか?」
「え、えぇっと……まぁ、闘技場の裏っかわで諸悪の根源とクラウドが話してるのには立ち会った…かな」
「! 何でそれ言ってくれないの!?」
「だって全部説明しきる時間がなかったし、下手に説明してクラウドが悪い人だって誤解されちゃうと嫌だから…」
「誤解って…クラウドはいい人だよねぇ?」
グーフィーが首を傾げて、ドナルドがそれに頷いた。
「僕らと一緒に戦ってくれたしね」
「っていうか、どういう話をしてたんだ?」
ソラに聞かれて、再び私が口を開きかけて…その前に、クラウドが告げた。
「その『諸悪の根源』…死者の神ハデスの命令を聞いていた。予選で優勝し、本戦でヘラクレスの息の根を止めるようにと」
ソラ達は驚いたようにクラウドを見た。
いやまぁ、殺人未遂だから驚きもすると思うけど。
「ってことは、一番悪い奴と組んでたのか?何でそんな…」
「試合が中止になった途端不要物として切り捨てられたが、そうだ。……人を捜している。その手がかりと引き換えにな」
ゆっくりと立ち上がり、階段を降りてくる。
「闇の力を利用するつもりで取引したが、逆に――」
「闇にとらわれ、光を見失った」
正面に立って私達を見据えて言った彼に、私は視線を投げ返して黙っていた。
…名シーン。名シーンだ…!(この雰囲気の中それかよ)
クラウドラヴァーにとっての名シーン、否、寧ろ命シーン!!
てゆか、このシーンをゲームで見た時から気になってた事が……。
私は、皆が作ってる沈黙を撃破する勢いで言った。
「あのさ、そんなにしてまでクラウドが熱望する人って一体誰?一人?複数人?私気になって夜も寝られない…!」
矢継ぎ早に尋ねると、私以外の一同は反応に窮した。
…ちょっと雰囲気壊したかな……
でも折角会えたなら聞かない手はない。物凄く気になってたんだよ。
「…」
呆れたようにこっちを見るドナルド。
「だ、だって!気になったんだもん!」
「ていうか、夜も寝られないって…クラウドと会ってまだ1日も経ってないよ?」
「細かい事は言っちゃ駄目だよっ、お願い教えてクラウド!!」
「言う必要はないだろう」
「固まってたくせに今度はコンマ数秒置かずに返答!!」
ああくそぅ、これじゃ夜寝られない。
今後眠れないのを理由に私がソラを襲ったらクラウドのせいだからね!!(責任転嫁にも程がある)
「これで捜してるのが恋人だったらは墓穴掘りだよな!」
「にっこり言わんといてくれソラはん!!てか、それだとまるで私がクラウドに恋してるみたい――」
……。
クラウドに、恋。
「それもいいかもなぁ…」
「って、!さっき話した時『違う』って言ってただろ!?」
「それはそれ、これはこれ。改めて考え直すと……ねぇ」
「ねぇって何だよ。俺はに認めてもらう為に一生懸命色々してるのに、ついさっき会った奴の方が気になるのか?」
「え……まぁ、うーん……」
語気を強められて、思わず何も言えなくなる。
確かにソラは色々やってる。こっちが呆気に取られるくらい。
それをサクッと無視してクラウドに走るのはちょっと悪いかな……
例えてみると、二人で魚釣りしてて、一生懸命になってる方より先にのんびり待ってる方にアタリが来た、みたいな感じ?(例えが魚釣りですか)
「でもソラの事だったら既に認めてるよ?いざとなったら頼れるし。いやそもそも、『恋』と『認めてもらう事』は別の話じゃなかったっけ?」
「そ、それは……そうかもしれないけど……」
戸惑ったような表情で口ごもるソラ。
小さな声でぶつぶつと「がクラウドに注目するとそっちばっかりに行って俺が認めてもらえないし…」だの「でも別にの恋をどうこう言うつもりもないし…」だの言って考え込んでしまった模様。
そして、そんな私達を見てクラウドが一言。
「…痴話喧嘩なら他所でしてもらおうか」
・・・・・・。
「「痴話喧嘩!!?」」
私とソラは思いっきりクラウドに振り向いた。
いや、内容だけ聞けばそうかもしれないけど、言うに事欠いて痴話喧嘩ですか!?
ああっ、ドナルド大爆笑してるし!グーフィーまでつられ笑いしてるし!
うーん、ソラが相手なら痴話喧嘩でも別にいいけどね。私は。
「違うのか」
「違う!!ドナルドもグーフィーも笑うな!」
「『恋人同士だ』っていうのが痴話喧嘩の絶対条件だけど、私達恋人じゃなく仲間だからねー」
「そうそう」
「…仲間…か。久しく耳にしない言葉だ」
クラウドは一度私達を見回して、呟いた。それから私達の間をすり抜けて遠ざかっていく。
すれ違いざまに「お前達は光を見失うなよ」と残して。
あ、行っちゃうの!?もうお別れ?
私はそんなの嫌だと言わんばかりに思わず待ったをかけた。
「待って!クラウド、私達の仲間にならない?」
「あっ、駄目だよ勝手に」
ドナルドが私を諌めるが早いか、クラウドは「いや、」と返した。
「俺は一人がいい」
「……」
また即答されちまいましたよ。
何となく分かってたけど…分かってたけど!クラウド美しいし、萌えだし、あと強いから来て欲しかったなぁ。(主な理由をついでのように言うな)
惜しいな…。
私が惜しがっていると、ふとクラウドは立ち止まって顔だけこっちに向けて言った。
「…最後に一つ訊く。お前は初対面で俺の名を言い当てたが―――ぶっ」
「お黙りーぃ!!!」
言いかけた時点で彼が危うい事言い出すと電波キャッチした私はBダッシュかけて、手に持ってたブレザーを思いっきりクラウドの顔面に押し付けた。
ウフフフ!!そればかりはタブーよ!これ以上ソラ達に不審に思われたくないわ流石に!!
けど今のは聞かれた…よね。
「…また言い当てたの?」
「名前に関してはエスパーだよね、って」
「ど、どうしてなのか私にも分からないの!だから不審な目で見ないで…」
「前は『秘密』って言ってなかった?」
「それはその場のノリっ(親指グッ!)」
「ノリって…いや、なら有り得るかも…」
そりゃどういう意味ですか、ドナルド。
ていうかよく前の事なんて覚えてたねグーフィー。
私はブレザーが押し返されるのを感じて、慌てて手を引っ込めた。
しまった、焦ってたとはいえ腐女子臭がするブレザー押し付けたままだったよ!(どんなだ)
とりあえず死んでないから大丈夫だと思うけど。(どういう判断基準だ)
「ごめんクラウド、変なオーラ移ってないよね? あと名前の事は私自身よくわかんないから聞かないで――わっ」
言葉は途中で途切れた。
何を思ったのか、クラウドがいきなり私の肩を引っ掴んでソラ達から遠ざかり始めたのである。
こちとら両腕に服抱えてるもんだから、バランス崩しそうになって大変だよ。
「クラウド?がどうかしたの?」
「少し借りる」
「な、何?ブレザー押し付けた事なら私が悪かった!悪かったから!!」
「違う」
「は?」
借りる、なんて暗に『来るな』って言ってまでソラ達から離して、どうしようっていうんだろう。
クラウドと向き合うようにして立ったら、今度は立ち位置が気になったらしく、向き合う形はそのままに私がソラ達に背を向けるように引っ張られた。
……わざわざ背を向けさせるって事は、唇も読ませたくないって事か?
クラウドはマントがマフラーみたいになってて口元が見えないから、やっぱり唇読めないし。
「……あの、どうしたの?突然」
「俺の名以外にも、お前は俺がこうなる事まで知っていたんじゃないか?」
「え……」
曖昧な言い回し。けれど私には瞬時に理解できた。
あぁ、ソラ達から引き離したり立ち位置気にしたのは私に対する気遣いだったのね。さっき異様なまでに反応したから。
……視線が彷徨う。動揺する。
しまった…ここで動揺したらヤバいって。
「な、に?こうなる事って…」
「……。俺がハデスと組む事を阻止しようとしたな。『勘だ』と誤魔化して試合も妨害した。何の迷いもなく、だ。……お前はハデスの行動パターンを知っていて、あのままではいずれ必ず俺がこうなると分かっていた…違うか?」
「………あのー…、えっと、気のせいだと思うよ!考えすぎ!」
「…知っていたのか…」
・・・・・。
誰か私の正直体質改変して下さい。劇的ビ●ォーアフター並みに。
ていうかこの軽はずみな行動がいけないのか?
でも萌えを正直に求めた結果だし。今更やめようと思ってもやめられない……うーん。
この際「訊きたい事が一つじゃなくなってますよクラウドさん」とは指摘しないけど。
「そもそもお前はハデスに『色々知っている』と自ら言っていたな。ハデスも随分お前を知っているようだった。お前は一体何を知っている?……いや、何者だ?会話からしてハデスの仲間ではないようだったが」
「えぇっと……。うー…」
どうしよう、ここまで見詰められると萌え…じゃなくって、背中に冷や汗が……。
正直に言うとしても、どこまで?
ごまかしは効きそうにないし……。
「ある程度の未来を見ることが出来た、一般人…かな」
「出来『た』?」
「そう。…もう無理なの。力を使い果たしちゃった。気味悪がられるから皆には言わなかったけど」
「…それがなぜハデスに知られている?」
「私にも詳しい事は分からない。あ、でも間違ってもハデスと同列の奴だなんて思わないでよ!私はソラ達の味方!」
クラウドは視線を外して腕を組み、少し思案して…それから再び口を開いた。(こっから口見えないけど)
「色々知っている、と言ったが、お前は何をどこまで知っている?」
「それは……今までの事を知ってたくらいで…。あとその関係で人名と姿と性格をちょこっと。少なくとも誰かの利益になったりする知識はもう持ってない事になるかと」
「……そうか」
組んでいた腕を解いて、一つ溜息をつくクラさん。
…うぅ、納得して貰えただろうか・・・。
「おーい!まだかー?」
ソラがこっちに叫んだ。
どうしよう、という視線をクラウドに向けると、案外とあっさり頷いてくれたからビックリした。
この雰囲気からしてまず『まだ行くな』じゃないよね。
今の話で納得してくれたらしい。
「引き止めて悪かったな」
「いえいえ。…皆ー!終わったよー!」
私はソラ達に向かって駆け出した。
「結構話し込んでたな。…何話してたんだ?」
「いやぁ、まぁ……、私の愛を受け止めてくれるって!」
「「嘘だ」」
「そんな!!何もダブル否定することないじゃん!ドナルドとソラの裏切り者っ」
「裏切り者って…」
顔を見合わせるドナルドとソラから顔を背けて、私はグーフィーに服抱いたまま突撃した。
「グーフィーだけだよねー、否定しないのは」
すりすりと頬ずりすると、頭を撫でてくれました!!
これだからグーフィー大好きv
「でも明らかに嘘じゃん!」
「うっさいなー!そういう時は嘘だと思っても『うん』って言っとくの!」
「」
「何?グーフィー」
「クラウドが『じゃあな』って」
「えっ」
グーフィーの指差す先を見てみれば、クラウドが背を向けて去る所だった。
あぁっ、呼び止めたい!!けど呼び止めるネタがない!!
誰かネタを!ネタを下さい!!(芸人か)
私が悶々としていると、
「クラウド!!今度会ったら試合の続きしような!!絶対に負けないぞ!」
闘魂燃やしたソラが公言した。
うわぁ、こんなシーンあった気がするけど、もうちょっと穏やかな感じだった気も……
…うん、気のせいだった事にする。(故意か)
クラウドからは何のリアクションもなく……いや、ものすっごく小さく『興味ないね』って聞こえたような…(名台詞!!)
遠いからよく聞こえなかった……
ああぅ、どうしても去っちゃうのか。
私達もいい加減ここを出ないといけないけどね。
「クラウドー!!私、クラウドが探してる人に会えるように願ってるから!会えるまでずっとずっと、願ってるから!!頑張ってねー!」
服を抱えてるから手は振れないけど、私は声を張り上げた。
今度こそ、クラウドからは本当に何も聞こえなかった。
けれど、彼は僅かに振り返ってこちらを見て、それからまた歩き出した。
あぁ、聞こえてはいたのね。
それだけで充分だよ。
貴方の場合、無言でも充分だよ。
「さーてっと。こっちも行きますか」
皆を見回すと、それぞれ頷いた。
私達は…そうして世界の出口をくぐった。
***
「…っていうかトラヴァースタウンに戻るだけだよね」
「本来の目的を忘れちゃいそうだったよ」
グミシップの定位置に座って正面の宇宙を見ながら、のんびりと会話する。(ちなみに抱えてた制服は船内の荷物置き場に仕舞った)
そういえば本来の目的は、一つ前の世界(ディープジャングル)で謎のグミを発見したからレオンに使い方を聞いてみよう、って事だったよね。
随分長い時間寄り道してたなぁ。
でも無駄じゃないよ絶対。寧ろ大収穫だよ。
あぁ、クラウドの美麗顔が瞼に焼きついてる…!!
それにしても、私にとってのこれからの旅はかなり心許ない。
実はさっきクラウドに言った事は、一部の嘘以外はほぼ正確な事実だ。(『未来を見る力があった』っていう事が半分嘘。(ゲームで未来を知ってたけど、私に特殊能力があるわけじゃない))
よって、『もう力を使い果たした』……イコール、『これからの事を知らない』。これは事実。
私はこれ以降のストーリーを知らないのである。
KHはまだクリアしてないどころか、かなり中途半端な所までしかやってなかったから。
リクが敵になる事は攻略本をめくってて目に付いたから知ってるけど、それ以外は全く以って知らない。
ちなみになぜ敵になるかなんて更に分からない。だから夢でも訊いたし、もう一度会いたい。
…ていうか前のは単なる夢かもしれないんだけどね…。
回復魔法を覚えた時の白昼夢みたいに形に残る夢だったら、特殊なのかそうじゃないのか分かるんだけど。
…そういえばあの白昼夢は一体何だったんだろう。
「なぁなぁ、本当はクラウドと何話してたんだ?」
左斜め前の席から半分顔を覗かせて、突然尋ねてくるソラ。
おぉう、ビックリするじゃないか!私は真面目に考え事をしてたんだぞ!
「本当は、って何さ。本当だもん」
「えぇー、絶対嘘だろ」
「嘘じゃないよー」
「絶対嘘」
「……何、そ・ん・な・に・気になるの?」
「……何だよ」
私がニヤニヤ笑って言うと、ソラはたじろいで眉間に皺を寄せた。
単純だ…可愛い…っ
頭わしゃわしゃ撫でたい!!
「本当に言っちゃっていいの?ほんっとーに?私お勧めしないよ?」
「ちょ、待てよ。な、何なんだ?」
「あ、僕気になるかも」
「僕も気になる」
「じゃあ言うよ?いいの?この場の空気が生き物一匹生息できないほど極寒の地にある氷山の如く氷結するけどこれから先大丈夫って言える?」
にっこり笑う私と、口を噤むソラ。
無言の攻防戦です。
ドナルドとグーフィーも躊躇い始めている。(ちなみにドナルドはグミシップを操縦しないといけないからこっちに振り向けず、声だけで状況判断している)
…やがて数秒後。
「や、やっぱいい。言わないでいい。ていうか言うな」
ソラはまるで女の子のショッピングに何時間も付き合わされたような顔でげんなりと断った。
いやぁ楽しいね、ソラで遊ぶのは!(人で遊ぶな)
「じゃあ言わないよ。よかったねぇソラ!おめでとうソラ!」
「………何か俺、嵌められた気がする…」
「そんな事ないよ。ドナルド、グーフィー、言えなくてごめんね」
「ううん…いいよ」
「何だか大変そうだしねぇ」
いやいや、実際はさほど大変じゃないよ。…と、心の中だけで言ってみる。
「よし、じゃあ私は今から寝るよ。騒いだら怒るからね!」
ワープ陣(私から見ればセーブ陣とも言う)で体力とMP回復しても、やっぱり眠い時は眠いもんである。
それプラス、前にリクの夢見たのもここで寝た時だったから、また夢に出ないかな、なんて希望もあり。
「でも今からトラヴァースタウンに行くんだから、宿屋で寝ればいいのに」
「もう何日も続けてグミシップの中で寝てるしねぇ」
「何日も…って、そういえば時間感覚麻痺してたけど、私達もう何日旅してるんだろう?」
「それは僕らにも分からないな…」
「俺も何となく寝たいときに寝てただけだし…」
・・・・・・・、
私達って…旅する間に自堕落になってた?(普通は逆だと思うんだけど)
「けど私は一応体内時計が大体合ってるから、私が眠い時は多分夜なんじゃないかな…」
「凄いね!」
「いや、ほんと大体だから。誤差は絶対あるから。…まぁそういう事で、私は寝る!そしてトラヴァースでも寝る!!ふかふかベッド万歳!!安全運転お願いねドナルド」
早口で捲し立てた後、私は全身の力を抜いて目を閉じた。
一言二言呆れたような声が聞こえてきたけど、無視することにした。
…数分後、まどろみの中に私の意識は溶けて消える。
「…あ、もう熟睡してる」
耳についた呼吸音に、ソラは後ろの席を覗き込んで小さく言った。
あまり大きな声で言うと彼女が起きてしまう為、気をつけて。
「気持ちよさそうに寝てるねぇ」
「きっと疲れたんだよ。色々あったからね」
「色々…か。ほんとに色々あったな」
穏やかに呼吸をする。
だらりと力を抜いて、目を閉じて、………。
『死んだように眠る』とは、よく言ったものだ…なんて。
「…生きてるよな、」
「何言ってるのソラ。息してるの聞こえるでしょ」
不意に零れた呟きを聞きつけて、ドナルドが小声で呆れたように返した。
ソラは口に出すつもりがなかった為、ほんの僅かドキリとして、しかし何事もなかったかのように「だよな」と微笑した。
旅が始まったのはたった数日前。
それなのに、ソラはこの3人の中に馴染んでいる自分を感じていた。
ドナルドと喧嘩をした時もあったけれど、その時は確か…が無理矢理自分とドナルドとの仲を修復してしまったのだったか。
そういえば彼女は、初対面の人物でもよく知り合いのように親しげに話す。
男女関係なく。年…は、多少関係あるのだろうけれど。(たまに敬語を話す彼女を見たことがある)
しかしそれでも、楽しそうに話す。
自分もその中の一人。
…その中の…一人?
仲間なのだから、もう少し近い位置に居るかもしれない。
仲間…もしくは、感覚としては友達に近い?
そうか、それだ。
早く認めてもらいたいのも、友達感覚だからに違いない。
元々は、自分よりリクの方が頼られていた事を思い出したから、自分にもやればできるという事を見せたかったのが理由だが、が友達だと思えるなら尚更それを見せたくなるのは当然だろう。
自問自答して納得して…そうすると、今度はの言葉が脳裏に浮かぶ。
『認めてもらう事』について、引っかかった事。
“そもそも、『恋』と『認めてもらう事』は別の話じゃなかったっけ?”
それは間違いなく正解だ。補足する必要もなく正解だ。
しかしそれならなぜ、自分の中でそれが引っかかったのだろう。
が恋をしてしまうと、認めてもらおうにも結局こっちを見てもらえなくなって、これからずっと認められることがなくなってしまうだろう。
今までの苦労を水の泡にしない為にも、それは阻止したい。
そうするとの恋を阻むしかないし、結果的に自分はに恋をさせたくないのかもしれない。
いや、確実にそうだ。
『恋』と『認めてもらう事』は意外と密接な関係にあるらしい。だから頭に引っかかっていたのだ。
けれど、自分の意地が理由で彼女の感情を束縛するのはもっての外だと、同時に思う。
ならば認めてもらうことを諦めるしか。
…彼女は『既に認めた』と言っているが、それは自分の望む形の『認めた』ではないから、納得できない。
実際、クラウドと自分を並べて『どちらの方が強そうに見えるか』と尋ねてみればは迷わず「クラウドだ」と答えるだろう。…自分でもそう思う辺り、面白くない。
束縛はしたくないが、に認められたい。
こうなれば、彼女が誰かに恋をする前に決着をつけるしかない。
そうだ、それだ。
最早『の恋』と自分はライバル関係にあると思っていい。時間が鍵になる競争だ。
さて、これからどうやってそのライバルに打ち勝つか、考えなければ。
――そう思った時、
「ソラ、何考え込んでるの?」
「えっ、ソラが悩み事?珍しい」
グーフィーとドナルドの言葉が頭の中に介入してきて、思考はストップした。
「なんだよ、俺だって悩むし考えるんだからな」
「が起きてたらきっと笑うね」
「ドナルド!!」
「しーっ」
グーフィーが口の前で指を1本立てて『静かに』のポーズをした。
ソラは「あっ」と小さく声を上げ、慌てて後ろの席に居るの方へ顔を覗かせる。
「うー……やーだー…」
寝言を呟いて、身じろぎをする。
が、完全に起ききる様子はなく、また動かなくなる。寝息だけが聞こえる。
「…大丈夫みたいだ」
ほっとして言うと、ソラはまた正面を向いた。
ドナルドとグーフィーも安心したようだった。
「それにしても男ばっかの場所でよく寝られるよなぁ。仮にも女の子なのに」
「『仮にも』は失礼だよソラ。はちゃんと可愛い女の子だよ」
「……そうだよな。まぁ、俺ら以上に勇ましい声上げながら敵に攻撃する所からすると『可愛い』のかどうかは別として」
「「・・・・・」」
…ドナルドとグーフィーは、それについては何も言い返せなかった。
「でも、最初は旅についてくる気がなかったのにはよくついてきてくれてるよね」
「ジャングルでは移動も一苦労だったし、にとって旅は慣れない事でいっぱいみたいだけど、頑張ってるね」
「……、じゃあそんなを立派にサポートできたら、ちゃんと認めてくれるかな。それいい方法じゃないか?」
大声は出せないが希望に満ちた声で言うソラに、ドナルドは(必死だなぁ…)と頭の隅で考える。
グーフィーはソラの意見に「それいい考えだね。やってみなよ」とにこやかに返した。
…理屈抜きで意見できるグーフィーがたまに羨ましい。
ダイヤ型に配置された席の内、一番前に座っているドナルドは、船を操縦しつつ後ろの二人の会話を聞いてそう思った。
「けどその前に、さっき問題発言しなかった?」
「え?何だよドナルド」
「『俺ら以上に勇ましい』って。男らしい所見せたいなら、少なくともよりは男らしくならないとね」
「…!!」
ソラは黙ってしまったが、彼が困っている様子はドナルドにも想像できた。
そしてその想像通りに困っていたソラは、数秒して思いついたように言った。
「…そうだ、俺これからより勇ましい掛け声で戦うよ。普段の振る舞いも変えてみる」
「えぇ?どんな風に?」
「えーっと…こんな感じっ」
言った直後、ソラは肩に力を込めて胸を張り、顎を引いて思い切り厳つい声(ソラが出せる限りの)で「さあ、行くぞ。俺が居る限り、君が恐れる事は何もない」とシミュレーションしてみせた。
しかしどう聞いても、子供がスーパーマンごっこでもして遊んでいるようにしか聞こえない。
勇ましいかどうか以前に、これはセンスがどうなのだろう。
「………ぶ、ぶくくくくく…っ」
「あひゃひゃひゃっ」
間もなく笑い声が聞こえて、ソラはムッとする。
二人とも控えめに笑ってはいるものの、を起こさないように爆笑したいのを堪えているだけである。
「何だよ二人して」
「だ、だっておかしくて…ふふふっ」
「ソラ、似合わないね」
「や、やってみないと分からないじゃないか。なら反応が違うかもっ」
「起きたらやってみなよ」
「そうする」
少しぶすけた顔で頷くソラを見ながら、グーフィーは「起きるのが楽しみだね」と、どちらにともなくそう言った。
……はまだ、当分熟睡していそうだ。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
長らくお待たせしました、KH夢です。今回は書くのにてこずりました…!
色々と小難しい説明を書いたりするのは好きですが、中々難しかったです。
クラウドとの会話辺りとか、最後のソラの思考とか。
筋道立てて、あーでもない、こーでもない、この人ならここも気にするだろうな、この話に穴が出来ないようにしないと…なんて考えるとごっちゃごちゃになってきます。
全部書き上げてから推敲するのに3日かかったってのは秘密です。(ヘタレすぎるよ書き手)
それでもどこか穴がありそうで恐い。うわーん。
そういえば原作ではクラウドとハデスが繋がっている事をどうやって知ったんでしたっけソラ達。
なかった…ような……そんなシーン。フィル辺りが喋ったんですかね?
ケルベロスがいるからハデスが関わってる、とか。
…あ、でもクラ様が繋がってるって事は分かるんだろーか? 記憶が…曖昧…(おいコラ)
ちなみに、題名の意味はこの話の様々な部分に織り込まれているので、どの部分で受け取って頂いても構いません。
クラウドに問い詰められるシーンだったり、別れのシーンだったり、ソラとの無言の攻防戦だったり(それって『願い』あんまり関係ないよね)
あとは「認めてもらいたいなぁ」なんていう思いだったり。
…ソラも色々考えてるんですね。頑張れ男の子。
クラ様と別れちゃいましたね…。オリンポス編はいい加減終わらないと大分続いちゃったからヤヴァいですけど、
彼と別れるのはかんなり惜しかったです。はぁ。
ソラは夢主を『友達だ』と認識した模様。然程日数を重ねずともそう思えるのはソラのいい所ですよね。
さて、次回ではソラの勇ましい(?)立ち振る舞いが見られます。
存分に夢主に笑われるがいいですよ(コラ)
2006.7.29