私が闘技場に戻ってくると、ソラ達は今し方試合を終えたようで、リングから降りてくる所だった。
 観客席付近で待ってみる。

 ソラは私に気付くと、ドナルドとグーフィーと一緒に駆け寄ってきた。
 目の前でブレーキを掛けたソラは、口を尖らせて何か言おうして……固まった。
 そして微妙に頬を染めてそっぽを向いたまま無口になった。

 面白いのでからかいたかったけど(酷)、それよりクラウドとの決勝を止める方が優先順位が高いと判断して、私は話を切り出そうとした。
 が、それより先にグーフィーに突っ込まれた。

、凄い格好だねぇ」
「へ?」

 言われて冷静に見てみれば、ピンで留めただけの型崩れしかけたスカートに、ボタン一つ弾けたせいで握っていないと胸が露出しそうなカッターシャツという格好。
 しょうがないじゃないか!私だって好きでこんな格好してるわけじゃないんだぞ!
 てゆか、半分は君達のしたことだよね!(私が倒れかけたせいもあるけど)

 けど確かにこのままの姿では恥ずかしいことこの上ないので、とりあえず……
「ドナルド、別の服にチェンジしてくれる?」

 頼むと、ドナルドはこくりと頷いた。






割別の鍵・17
決勝戦
〜三つ首ランデヴー〜






「えーっとね、動きやすくて丈夫で余計な装飾がなくて着脱しやすくて…あ、あとスカートはやめて!」
「注文が多くて覚えられないよ;」
「最低限守って欲しい項目だよ!?お願いだからーっ」
「しょうがないなぁ、もう一回言って」
「オッケィ!」

 私は親指立ててからもう一度言い直した。…自分でも微妙に忘れそうになったけど。

 ここは観客席の前。
 次の試合が予選決勝なので、私達とクラウド以外の選手は全員帰った後。
 ついでに、予選なので相変わらず観客が全くおらず、場内は静まり返っている。
 この面子しか残ってないってことは、予選に勝ち残って本戦に出られるのは1人だけなのか。
 挑戦者1名のみの本戦ってちょっと寂しくないかい?

 まぁそれはいいとして、現在私は衣装チェンジをするためにドナルドに衣装のイメージを伝えてます。
 KHの衣装って何だかゴテゴテしたのが多いから、なるべくスッキリしたのを頼むのが目標。
 だってクラウドの衣装なんて何度見ても資料なしじゃ描けないような細やかさじゃないですか!

 他のメンバーを見ても、装飾品がつきまくってたり露出が凄かったり、私の貧相な体系には似合いやしない衣装だってわっさわさ出てきてるし。
 それがこの世界では普通っぽいから、そうならないように注文をつけまくってるわけですハイ。


「どう?できそう?」
「うーん……何とか。やってみるからちょっとそこでじっとしてて」
「分かった」

 私はその場で直立の体勢になった。
 どんな衣装になるんだろうなぁ。

 …って、ちょっと待て。
 確か魔法で服をチェンジする時って着替えるわけじゃないから、このカッターシャツとかマントとかは無くなっちゃうんじゃないだろうか。
 要するに、変身物のアニメみたいに、変身したら衣装が丸ごと変化するので元の衣装は手元には戻らない、と。

「ド、ドナルド待って!!」
「くわ?」
 杖を構えていたドナルドが、首を傾げて止まる。
 傍にいたグーフィーも不思議そうにしてる。
 …ソラは相変わらず視線逸らしてるけど。

「このまま衣装変えたら、今着てるのはどうなるの?」
「え?」
「衣装チェンジしてマントが手元に戻らなくなったら、ヘラクレスにマント返却できなくなっちゃう!カッターシャツも残しておきたいし、そうするとやっぱり両方脱いでからチェンジしないと駄目かなぁ?
ええぇ!?やめてくれよ!頼むから!!」

 ソラさん過敏反応。
 いや、いくら何でもこの場で脱ぎ始めはしないけど…そんなに嫌か?


「大丈夫、衣装を残せるように魔法をかけるから」
「え、出来るんだそんな事?」
 ドナルドの言葉に思わず聞き返すと、ドナルドは「うん」と頷いた。
 意外と応用が利くんだなぁ。
 …横目で見たら、ソラはほっとしているようだった。
 うぅ、何だよ何だよ、どうせ私の体なんぞ見たら目がイっちゃいますよ。(そこまで言ってない)

「じゃ、いくよ」
 ドナルドが杖を構えて、私はじっと動かなくなった。

「えいっ!」
 掛け声が掛かって、私に向けて杖が振られた。
 途端、私の周囲にいろんな色の光が渦を巻いて―――


 数秒後。

、よく似合ってるよ」
「ほへ?」
 光があまりに眩しくて閉じかけていた目を開き、光が収まったのを確認して自分の服を見下ろす。

 ジーンズの短パンに、膝上までのロングブーツ。
 それから………ぴったりとした長袖。(付加イメージ:肩が大きく露出&胸元が少し露出


「こんなにぴったりしてたら運動してないのがモロバレな体のラインが丸見えになる上に、こんな露出してたら恥ずかしいんですが…」
「似合ってるよ?」
「このくらい普通だよねぇ?」

 ドナルドとグーフィーが顔を見合わせる。
 た、確かに露出してるって言っても両肩丸ごとと胸元をちょこっとだけなんだけど…始終これで歩くのはドッキドキですよ。
 肩にキャミソールみたいな紐はかかってるんだけど、心許ないというか…。
 今まで制服だったからかな。
 あ、でもエアリスもこのくらいだったような?

「ねぇソラ、どう思う?」
「え?別に…いいんじゃないのか?」

 …今絶対に話を振られると思ってなくて油断してたな。

「返答がいい加減ー。そんなんじゃ女の子に嫌われるよ」
「そんな事言われても…」
 むっとした表情でソラをじっと眺めてみる。
 ソラは困ったように私を見て、それからちょっと目を逸らして頬を掻いた。

「…ぷふっ、冗談冗談!男の子にそういう事聞いても困るっていうのは重々承知してますよー」
「なっ、からかったのか!?」
「毎回乗るソラもソラだよね。そういう所好きさぁ!」
!!」
 怒りを思い切り表情に出しているソラ。
 いや、それが素直で可愛いんだって。

「あー、?結局服はそれでいいの?まだ変えるの?」
 横からドナルドが尋ねてきて、私は「うーん」と唸った。

 確かに体のラインが出るのとかは気になるけど、腕を曲げ伸ばししてみる限りでは物凄く動きやすいんだよね。
 服が体にジャストフィットしてるっていうか。
 ていうか、その前に折角変えて貰ったのにわざわざ変えさせるのも悪いし。
 ちなみに言うまでもなく、ブーツも思ったよりかなり歩きやすい。

「…動く上ではモウマンタイ(無問題)だから一応これでOK」
「(もうまん…?)分かった」

 私はきょろきょろと辺りを見回して、手近な観客席に今まで着ていたカッターシャツとヘラクレスのマントが置かれているのを見つけた。
 マント返さないとなぁ。

 両方を一度に拾い上げ、フィルを探そうと視線を上げた、その時。
『カツンッ』
 何か軽い物が落ちた音がした。
 見てみると、私の足元にカッターシャツのボタンが。

 あ、これクラウドが拾ってくれたやつだ。
 胸ポケットに入れておいたんだよね。
 ……って、

「忘れかけてた!!ソラ、決勝戦に出るのはやめて!」
「えぇ?」
「試合に?」
「どうして!?」
 いきなり言われて動揺しまくる3名。息ぴったりだ。
 私はボタンを拾ってから理由を述べた。

「いや、決勝の相手が私の知り合いだから、ソラにもその人にも怪我してほしくないっていうか…」
「それってこの世界に来てから探してた人かな?」
 …鋭いねグーフィー。

「そうだよ。皆もさ、知ってる人同士が戦うのって見たくないでしょ?」
「けど俺、本線に出場したいし……不戦勝になるのも嫌だし、酷くはしないからいいだろ?」
「駄目っ!お願いだからやめて」
が試合全然見てなかったから、次こそは見せたいんだよ!」
「うっ…」

 確かに、ことごとく見てなかったよ。
 ありえないほどタイミング外しまくっちゃって、ソラの頑張りを見損ねましたよ。
 …正直すっごく惜しいですとも!ええ!(半泣き

「けどそれとこれとは別っ…」
『ピー!!!』
 言い終わらない内に、遠くからホイッスルの音がした。
 選手集合の合図だ。試合が始まる。

「じゃ、次は見てろよ!!」
「えっ、あ、ちょっと!」
 ソラは振り切るようにリングの方へ走っていってしまった。
 ドナルドが一つ溜息を零す。

「…こうなったら止められないね」
「でも僕らだって知り合い同士が戦うのは見ていられないから、の気持ちは分かるよ。ソラを説得してみる」
「グーフィー…ありがとう!」
 どういたしまして、と言うと、グーフィーもドナルドもリングの方へ走っていった。
 そしてソラに駆け寄った。
 これで説得してくれる!
 ………が。

『ピー!!』
「試合始めー!!」


 二人が駆けつけた途端に試合始めの合図が。
 こ、これじゃ説得する暇なかったよね・・・!?

 いつの間にかリング上にはクラウドもいるし、試合始まっちゃったし、どうすればいいのさ!?
 クラウドは容赦なく攻撃を始めちゃったから、ソラ達も全力で応戦しないと危険だし。
 もう止められないのだろうか?

 ……いや、


「やめいと言っとるでしょーが!!」

 私はカッターシャツとマントを観客席に置いてから、走って思いっきりリングに乱入。
 フィルが「おい!試合中だぞ!!」とか何とか叫んでるけど無視。
 この試合、絶対に止めてみせる!!

 とりあえず真っ向から介入して止めるのは無理なので(武器やら魔法やらが入り乱れて危険)、私は手のひらに魔力を込め、イメージをした。
 はい、発射5秒前ー。
 4、3、2、1、
「リングゼロバースデー!!!」

 かなり妙な掛け声をかけて、目標物に手のひらを向ける!
「ファイアぁぁっ!!」
『ずどがあああぁんっ!!!』


 爆発音と、爆風。
 何名か分の「ぎゃー!!」とかいう叫びが聞こえてきた。
 火球はクラウドとソラ達の間に落ちたから、誰にも直撃はしてない……はず。(おい)

 煙の立ち上る場所に駆け寄ってみる。
 …すると。

「…またお前か」
 煙の中から悠々と抜け出して、私の前に立つ人物。…クラウドだ。
 じっと私を見下ろす水色の双眸は、呆れたように細められた。

 ……呆れてる顔もカッコイイですね・・・!(そういう場合でもない)
 言ってもツッコまれなさそうだから逆に言えないけど。

「俺はハデスとの契約を果たさなければならない。邪魔をするな」
「いや、だから……うーん」
 ハデスは契約を果たしても果たさなくても、クラウドを始末するつもりだろうからなぁ。
 けどそれを言った所で根拠を問われるだけだし…。


 ざぁっと風が吹いて、煙を流した。
 ソラ達が咳き込みながら姿を現す。
 あー、ちょっと悪いことしたかな。
 でも知り合いと試合すんなっつーのに突っ込んでいったソラもどうなの。
 抱きつきの刑執行するよ!!(単に抱きつきたいだけ)

!何するんだよ!!」
 煙のせいか、涙目になって詰め寄ってくるソラさん。
 ・・・・・。

 涙目のソラって 萌 え ですね。(変態か)

 私はソラの頭を撫でたくなる衝動を何とか抑えながら、にこやかに言い返す。
「愛の鞭v」
「・・・。」

 あ、黙った。黙ったね?パパにも黙られたことがないのに!!(注:実際はあります)

 ソラチーム3名は、少々焦げてはいるものの目立った外傷はないっぽい。
 まだ試合が始まって間もなかったからね。
 てか寧ろ、私がファイアで焦がした分のダメージの方が大きい気もするけど。

「とりあえず、私が入った時点で試合は無効!」
ー……何で邪魔するんだよ?折角今度こそ試合見せられると思ったのに!」
「ハイハイ、さっさと諦めるの。男らしさとか頼りになるかとかは、この試合じゃなくても見せられるでしょ?」
「………うー」

 何とかしてソラを丸め込むと、今度はクラウドの方を見た。
 …が、私が何かを言う前にクラウドが口を開いた。
「おい、勝手に終わらせようとするな。そもそもなぜ邪魔をするんだ」
「ヲトメの勘で、邪魔しなきゃ駄目だって出ました!!」
「……勘」
「ええ、勘ですとも」

 言えないなら勘で済ませるしかない。
 例えどんなに呆れられようとも、クラウドならいいのよv(末期)
 それより私は、目の前にあるクラウドの腰に飛びつきたい衝動を抑制するのに必死だ。
 ソラに続いて、何でこうも腐女子衝動の歯止めを利かせなくするようなものが多いんでしょうねぇ。
 私を萌え殺す気なのか。受けて立つぞ。

 私がクラウドの体を舐め回すように見ていると、

「おーい!何をしてるんだ、試合が台無しだぞ!!」
 フィルがリングに上がって走ってきた。
 おーおー、結構速いな。小さいからちょこちょこしてて可愛いぞ。

「この試合はもう一度やり直さなきゃならんな」
「いやいや、そしたら私が何度でも邪魔に入るから、中止した方がいいよ」
?何を言っとるんだ」
 フィルが首を傾げる。
 私は、フィルにしか聞こえないようにしゃがんでから小声で言った。

「この試合には…嫌な奴が関係してるから」
「嫌な奴?」
「某陰険炎頭よ」
「ハデスか?…、あいつと会ったのか?」
「うん。あ、でもクラウドは悪い人じゃないから安心して。とにかくこの試合は中止しなきゃ」
「開始当初からあいつの動きが怪しいとは思っておったが…。分かった、試合は中止しよう」

 フィルが得心したように頷いたのを確認して、私は立ち上がる。
 それとほぼ同時に、フィルがホイッスルを吹いた。

『ピーッ!!』
「この試合は中止!優勝者は無しとする!」
「えぇーっ!!?」

 ソラが悲痛な声で叫んだ。

「何でだよ!?この試合だけやり直せばいいだろ?ていうか、と何を話したんだ?」
「秘密ー。ね、フィル」
「ああ」
「俺も納得がいかない。俺には試合に勝たなければならない理由がある」
「いくらクラウドでもこればっかりは譲れないよ」

 わざわざハデスの企みに乗ってやる事もないしね。
 クラウドもソラも、グーフィーやドナルドまで傷つく可能性があるなら尚更!

「ドナルドとグーフィーも、異議ないよね?」
「あー、うん」
「優勝できないのは残念だけどね」
「よし」

 これで万事解決。
 私はほっと胸をなでおろした。

 …と、その時。


『ズンッ』

 ……何か重い物が地面に乗ったような音が背後から。
 ちょっと待てい、何か嫌な事を思い出しそうなんですが。

 ギギギ、と音が付きそうなくらいぎこちなく背後へ視線を向けてみる。
 すると…何だか大きな顔とご対面v

 …って、

「ぎにゃああぁ!!?」
 背後に居たのは、私の身長程もありそうな黒い獣の顔3つ…もとい、とてつもなく大きな三つ首の怪物!
 私は思わずその場に尻餅をついた。

 しまった、そういえばこの試合、どっちにしてもハデスからこの怪物が送り込まれて滅茶苦茶になるんだった!
 大方、ソラを確実に殺すため(+クラウドが用済みになったから?)なんだろうけど、これじゃ何の為に私が乱入したんだか分からない。
 私の苦労を返せー!!


「地獄の番犬ケルベロス…!まずいぞ、皆逃げろ!!」
 フィルが叫んで、全員ロビーに退却!
 …するはずが。

「こ、腰が抜けて動けませーん…
 情けない声を上げたのは私。
 すいません、振り向いた直後のアップに耐えられませんでした。

!!」
 ソラが私を助けるべく駆けてくる。
 けど、ゲーム通りならここらでヘラクレスが助けに入って、ケルベロスを食い止めるはず。

 私は待った。
 ケルベロスが私に狙いを定めようと、牙を剥いて迫ってこようと、もう間に合わないっぽくなろうとも………、
 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・。

「ちょっと、何で来ないのあの人はーっ!!?」

 一向に姿を現さないヘラクレスに、絶望的な叫びを上げた。
 絶体絶命だ!
 …そう思った瞬間、

『ガギンッ』

 目の前に現れる二つのシルエット。
 一瞬思考がついていかなくて何度かまばたきをすると、それがソラとクラウドだという事が分かった。
 二人がそれぞれ、キーブレードと大剣でケルベロスの歯を受け止めていた。

「今の内に…ドナルド、グーフィー!を連れて逃げろ!!」
「「分かった!」」

 ドナルドとグーフィーが私の両腕を担いで、私を立たせる。
 …ちなみにフィルはもう逃げた後らしく、姿が見えない。


「…え、ていうかソラとクラウドは!?私二人を放って逃げられない!」
「腰が抜けててそれどころじゃないでしょ!早く逃げよう!」
「ええー!!?」
 確かにこのままじゃ役立たずかもしれないけど!
 でもヘラクレスが予定通り来てないこの状態を見てたら、何だか他の事もゲーム通りに行かない気がして……。
 …要するに、ソラ達が負けてしまわないかもちょっとあやふやなわけでして。
 うわーん!そんな状態で退場くらいたくないー!!

「わ、私やっぱりここに残る!ちゃんと立てるから大丈夫!!」
、無理しちゃ駄目!」
「無理じゃないよ!行ってきまーすっ」
「あっ、!!」
 私はドナルドとグーフィーの腕を解いて、笑う膝を叱咤しながら駆け出した。
 と同時に、雷のイメージを頭の中に描く。
 …う、やっぱり難しい。
 けど何とかできそうだ。

「ソラ、クラウド!どいて!!」
「えっ!?」
「!」
 ケルベロスの攻撃を何とか食い止めていた二人に忠告するが、私は二人が退く前に手のひらを向けて魔力を放った。

「『サンダー』!!」
『ズガアァンッ!!』
 光と音を立て、真緑の雷がケルベロスの頭の一つに落ちた。
 …うぅ、やっぱり緑なのは直らないのか・・・。
 つか、どこに撃ったらいいのか全く分からなかったから頭にしてみたけど、これで良かったんだろうか。

 見れば、ケルベロスは首を引っ込めて怯んだようにしている。
 おっ、微妙にでも効果有りか?

、大丈夫なのか?!」
「何とかね!ほら、ソラも戦いに集中しないと!」

 ソラがこっちに向いてる間にケルベロスの別の頭が近付き、ソラに牙を向けるが、寸での所でクラウドがはじき返す。
 ソラは慌てて戦いに取って返し、キーブレードを大きく振り回す。
 何しろケルベロスは大きいので、物理攻撃チームはジャンプをしながらじゃないと攻撃が届かない。
 …寧ろ脚を狙った方がいいんじゃなかろうか。

 ドナルドの魔法が加わってソラもクラウドも少し動きやすくなったようで、戦況は僅かにこっちが有利だ。
 3つも首があるから集中してても攻撃をくらいそうになるけど、グーフィーがフォローしたりして、何とかいけそう。
 私はファイアやサンダーを使って遠距離攻撃を担当。
 ケルベロスの方も、相手が多すぎて誰を先に倒していいのか迷っている模様。
 今の内に一気に倒せば…!

 が、人生そううまくはいかないもので。



「奥に居る女を先に食い殺せ!!」



 どこか遠く、しかし多分場内から、聞いたことのある声が響いた。
 ……あのー。
 これって………

「ハデス!?」
 クラウドが呼んで、辺りを見回した。
 …あ、やっぱりハデスの声だった?聞き違いじゃなくて?
 姿見えないけど。

 ていうかさ、うん。
 ・・・女って?

 クラウドと一緒に視線でハデスを探すのをやめて、私は滝のような汗をかきながら恐る恐る前を向く。
 すると、

「うわっ、何だ!?急に動きが速くっ…!」
「わー!!」
 3つの内真ん中の首を攻撃していたソラが凄い勢いで振り払われ、グーフィーが前足で蹴散らされる。
 まるで積み木を倒すように軽く吹っ飛ばして歩くその様は、犬バージョンゴジラとも言える。(ぇ)

「くっ、やはりこの怪物はハデスが差し向けたのか…。おい、そっちに向かってる!!逃げろ!!」
 クラウドが私に指示を飛ばす。
 その言葉の通り、ケルベロスは他の皆を蹴り退けながら私の方に向かってるご様子。
 私は殺人鬼に追われるより背筋を冷たくしながら、脱兎どころか脱チーターの如く逃げ出した。
 あ、あんなもんに喰われたら肉片も残らない!!

 ドナルドやらグーフィーやらの絶叫が聞こえるその中で、逃げ惑う一人の女子高生。
 そして、でかい図体ゆえに少ない歩数で追いかける三つ首の黒犬。
 勘弁してくださいマジで!!

「何で私が狙われてるのー!?」
 皆が頑張ってるにも関わらず着々と間を詰めてくるケルベロス。
 私は叫んでから、ふとちょっと前に聞いたハデスの言葉を思い出す。


 『お前が気絶すれば、キーブレードは出せないらしいな。』


 ・・・・・・・・・。
 これってやっぱり…あれですか?
 キーブレード出させない作戦ですか?

 確かに私は一般人だから、狙えば一発で気絶どころか逝っちゃいますよ。
 けどさ…それってあまりに卑怯ですぜハデっちゃん!!(号泣)

 しかも私は運動神経が悪い。すこぶる悪い。
 てなわけで、ケルベロスとの追っかけっこなんてそう長く続くものでもなく。
 歩幅云々以前に、私の息が上がった。

「だっ、だだ駄目だぁっ!!もう走れないぃっ!!」
 学校のグラウンドより広い場内を3分の2周くらい全力疾走できただけでも褒めてほしいくらいだ!
 けどここで止まったらマジで食い殺される・・・!!
 なぜに私が三つ首の怪物とアハハウフフなランデヴー死に物狂いで繰り広げなきゃならんのか。

 呼吸が苦しくて、胸を押さえながらのダッシュ。
 あぁ、しかしついにケルベロスは首を伸ばせば食いつけるほど私のすぐ後ろに…!!
 ケルベロスと戦っているはずの皆は、ケルベロスに追い抜かれて見えない。

 てゆか、火を吐かれたら今すぐにでも焼け死んじゃうわけなんですが、どうやらハデスが「食い殺せ」と言ったのを忠実に守っているようで。
 …忠実なのもたまには困ったもんだねー、とか。

 ………考えてる間に首を伸ばして喰いに来ました。


「いやああぁーっ!!!」

 叫ぶ声が、場内にこだまする。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

随分お待たせ致しました…!!第17話です。
文章の変人度が加速しました今回。(ぇ)
衣装チェンジ+三つ首さんなお話ですねー。
衣装は一応設定資料として絵を描いてありますが、言われない限りサイトには載せないと思われ。 →ご要望がありましたので、載せてみました。(夢主紹介部屋)

戦闘シーンは好きですが、人数多いと書きにくいですね;
次でもギャグが先立ってまともに戦闘が書けなさそうですが…それでもまぁいいかと諦め。(おい)
こんな夢小説でもOKだという方のみ付いてきて下さい…。(うわぁ)

さて、次回はもしかするとこのワールド終わりですかね?
それができなかったらそのまた次になるわけですが。(計画性ゼロ)
クラ様と色々話をさせたいから後者になるのかしら。うーん?

では、また次回でお会いしませう。

2005.12.28