コロシアム内に戻ってきてすぐ。

 ソラはハデスから貰ったエントリーチケットをフィルに見せた。
 さすがにそんなものまで持ってこられては無下に追い返す事も出来なかったらしく、フィルは渋々ながらも大会予選にエントリーしてくれた。

 間もなく予選が行われる。
 私達は通路に入って、闘技場へと向かった。



「…やれやれ、今回の大会は妙な奴もエントリーしていて危険かもしれんから、出場させたくはなかったというのに…」

 ロビーでフィルが一人呟き、それからゆっくりと私達の後を追った。






割別の鍵・16
発見
〜舞台裏の出来事〜







 ゲームで闘技場のリングを囲むように張っていたバリアみたいなの(場外に出られないようにする為のもの?)は、実際には張らないようで、これなら壁もできないしソラの戦いにも支障が出ない。

 …ちなみに、何で大会に出場せず壁の心配をしていたかというと、ソラが「はリングの外で見てて」とか言ったからだ。
 ついでに、「今度こそ男らしい所を見せる・・・!」と意気込んでいた。
 燃えてますねー。

 あれか。
 私がことごとく見てなかったり、ソラにとって微妙な反応(だったらしい)をしたり、
 ソラが失敗したりで、結局うまくいっていないから火に油を注いじゃったのか。
 今度はちゃんと見てないとねー。

 ソラはドナルドとグーフィー抜き…つまり自分一人で戦おうとしたんだけど、さすがにそれにはストップかけたよ。
 危険だし、怪我してほしくないし。


 そして今、私は観客席にちょこんと座ってます。

 石段だから硬いけど、席は最前列。
 他に観客がいないからだけど。

 まぁ、予選だからね。
 本選なら観客とか来るのかも。
 私はゲームで本選する所までやってないけど。
 …てか、攻略本で本選が存在する事を知っただけだし、内容も知らないんだよね。

 それはいいとして、驚いたのはソラ達やクラウド以外の人が予選に出場していた事。
 まぁ、予ってくらいだから色んな人の中から選んでもおかしくないよね。
 本当に色んな人がいる。

 マッチョだけど動きが遅くて、ちょこまか動くハートレスにファイア当てられて退場した人とか、
 細身なのに素手でじゃんじゃん敵を倒していく人とか、
 綺麗な女の人までいた。

 …そういえば、このコロシアムどうやってハートレスとっ捕まえてリングに出してるんだろ。
 ヘラクレスが掴んで檻に入れてるとか?
 飛ぶのとか影に紛れるのとか色々いるのに大変だなぁ。
 本当にどうやって捕まえてるんだろう。
 私は無性に気になって、ゲームでは聞けなかったことを聞く為に責任者――フィルの元へ歩き出した。

 段を一番下まで……というか1段降りて、右の方へ向かう。
 フィルは近くにいた。
 ……と、

ー!」
 リングの方から声が聞こえて、私は歩を止めて顔を向ける。
 グーフィーがこちらに手を振ってきていた。

「頑張ってー!!」
 私は手を大きく振り返し、にっこりと笑う。
 ちなみにソラは、「やめろよ恥ずかしいな!」とか言っていたが、グーフィーがそれをさらりとスルーして「ソラも手振ったら?」と促した。
 そしてこちらの反応を窺うようにちらりと見てくる。

「ソラ!頑張ってー!」
「!」
 私が呼んで手を振ると、ソラはおずおずと手を振り返してきた。
 結局振るのですね。
 うっ、可愛すぎる・・・!


 和やかに手の振り合いをしていたら、すぐ右側から大きくホイッスルの音がして、続いて「試合始め!」とフィルの大声が張り上げられた。
 皆から見て向こう側にある柵が上に開き、リングへとハートレスが現れる。
 ドナルドがソラとグーフィーに集中するように言って、それから戦闘が始まる。

 ちなみに皆は1戦目。
 飛び入りだからちょっと遅れているらしい。
 他の人は大体3戦目くらい。

 私は数秒皆を見て、それからこっちに歩いてきたのに目的があったことを思い出す。
 ……………。
 ……何だっけ。

 私は、肝心の目的内容を思い出せなかった。
 ど忘れか!?ボケの始まりか!?
 うわぁ、ついさっきの事なのに!

 「うあああぁぁ」と悶えていると、フィルの方から私に近付いてきた。
「どうした?」
「いや、人生という道に迷っちゃって…
「何だそりゃ」

 呆れないで下さい、私は至って本気ですよ!!
 なぜ「人生という道」が絡んでくるのか自分でも微妙に疑問だけど。(をい)

 …そういえばもう一つ気になったけど、私いつからフィルにタメ口聞いてたっけ。
 会った直後は敬語だった気がする。
 でも今の会話からタメ口がスタートしたわけでもない気がする。
 ・・・・・・うわぁ、もう危ない所まで来てるんじゃなかろうか私の脳ミソ。

 私はもういっそ全部気にしないことにして、その場で試合観戦を再開することにした。
 が、1回戦は敵が弱かったらしく、私が振り返ったその直後に終わってしまった。
 な、何か悪い事しましたか私・・・!何も見れませんでしたよ・・・っ!!

 ほろりと涙がこぼれかけたが、リングから降りてくる3人が見えたので両手を広げて駆け寄ってみた。

「皆ー!!」
 私の心を癒してー!!

 私が走っていった直線状にいたのは、グーフィーだった。

「あはひょっ!!?」
 私のタックルに、グーフィーは思い切りぐらりと傾く。
 しかしドナルドが後ろから必死にグーフィーの背を押して何とか体勢を持ち直す。

「ああぁ、癒されるよこの耳ー」
 グーフィーの耳を両手でつまんでプルプルと小刻みに動かしてみる。
 あぁ、この柔らかく波打つ感じがたまらなく可愛いのですよ…!!

「ねぇねぇ、!今の試合見てた?皆凄いチームワークで――」
「あ、ごめん。人生という道に迷ってて見てなかった」
「・・・・・・・・・・・」
 私がドナルドに答えたら、隣に居たソラは思いっきり黙ってしまった。
 そうだ、一番力入れてたのはソラだった。

「うあぁ、ごめんごめんー!!次こそは必ず見るからっ!ソラ頑張ってるみたいだし!」
 慌てて言ってみるが、ソラは目を逸らして口を尖らせるのみ。
 …だ、抱き締めたい…!!!(やめい)

 それにしても、やっぱし見てなかったのは悪かったか。
 そうだよね、自分が頑張ってたのにそれを応援者が見てなかったら嫌だよね。
 まして、あんなに一生懸命になってたのに。
「ごめんねソラ…」
「…何で俺じゃなくてグーフィーなんだよ」
「………は?」

 私は一瞬、言われた事の意味が分からなくて首を傾げる。

「今何て?」
「だからっ、見てなかったのもそうだけど、何で一番頑張った俺じゃなくてグーフィーに飛びついてんだって言ってるんだよ!」

 そっちを気にしてたんですか。

「抱きついて欲しかったの?」
「そ、そうじゃない!違う!全然違うっ!!絶対違うーっ」
 …さっきフィルにからかわれた事が思い出されたらしく、かなり必死になって否定してくるソラさん。
「違うのは分かったけど、そんなに否定されると私傷付いちゃう…っ」
 私はグーフィーの耳をつまんだまま、目の前にあるグーフィーの胸に顔を押し当てて涙を隠すフリをしてみた。
 いや、実際にちょっとは気にしちゃうもんだぞ。女として。


「こらこら、彼女を泣かせちゃいかんだろう」
 突然背後から声がしたので、泣いてるのが演技だってのはバレてもいいからグーフィーの胸から顔を離して振り返ってみると、そこにはフィルが。

「彼女って何だよ!!違うって言ってるだろー!!」
「そうなんですぅ、いつも泣かされて困ってるんですぅ」
「Σ!!」
「ほーれ見ろ、可哀想に」
「おい!!」
 私が乗ってみると、フィルも楽しそうにソラをからかいまくる。
 フィルさんナイスな性格してますね!!(親指グッ!)

「あー、お取り込み中悪いけど、そろそろ観客席に行かない?」
 ドナルドが横から提案して、私達は動きを止める。
 …あ、そういえばここ、リングからちょっと離れただけの場所だから目立ちまくりだよ。
 次の誰かの試合も始まりそうだし。

「…そうだね、行こうか」
「うん」
 グーフィーから離れた私が言って皆が頷き、私達は観客席に向かって歩き出す。
 勿論、審判のフィルは別の方向に。

 ソラ達の試合は次の次だね。
 今度はちゃんと見ていよう。

「今度は泣かせるんじゃないぞー!」
「ちょっと待てよ、彼女じゃないんだって!」
 距離を置いてもまだフィル相手に言い合ってるソラに、ニヤリと笑みながら振り返る。
それから、からかおうと口を開こうとした……が、

 ……視界に入った光景に、私は思わず言葉を失った。


「……」

 ソラの後ろを通り過ぎる長身の人物。
 無言でこちらを一瞥する、金髪のその人。


「…?」
「どうしたの?
 ドナルドとグーフィーが声をかけてくるが、私は呆然としたまま。
 通り過ぎていく彼に視線を釘付けにさせながら、全くの無言状態に。

 いた。彼がいた。
 捜していた人が。

 数秒間呆けていたが、ようやく思考が戻り始める。
 そして次の瞬間、


「ごめん!私ちょっと行ってくるっ!!!」
 大声で言って、ソラ達を置いて猛ダッシュを始める。
 後ろから私を呼ぶ声が聞こえたが、それどころじゃない!!
 さっきから捜しに捜していた彼が見つかったのだ。
 これは行くしかあるまい!!
 ていうか、

 萌え対象発見ーッ!!!

 練習場と構造の違うこの場所には別の部屋に繋がる廊下も多いらしく(さっき知った)、私は彼…クラウドが曲がっていった場所へと普段ではありえないスピードで走っていく。

 ちょっとしか見れなかったけど、かなりかっこよかったです…!!
 長身金髪碧眼、容姿端麗チョコボ頭!(最後のは関係ない)
 待ってろよー!!私の萌えの餌食に・・・!!(危険)


 闘技場内の左側にある細い通路に入る。
 きょろきょろと周りを見回してみるが、通路はちょっと暗くて見えにくい。
 けど、右側は壁ではなく柵みたいので闘技場と繋がってるから光は多少入る。
 ソラが次の対戦をする時も、壁を隔ててないから私が通路内にいてもキーブレードは大丈夫だろう。

 あ、そういえばクラウドってこの後ここら辺でハデスと会うんじゃなかったっけ。
 じゃあハデス出てくるかも。
 そしたら私がここにいる理由何て言おうか………

 ……やっぱし今はそれよりクラウドです。
 よし、欲望の方が勝ったことだし頑張るぞ。(いいのかそれで)

 私は駆け足のまま通路を進む。
 しばらく行ってから、右に曲がった。
 と、

『どすぅっ』
「ぶふっ!!?」

 何かに思いっきりぶつかって思わずバランスを崩しました。
 手をジタバタさせて何とか後ろに下がってみると、それは私より高さのあるもので……
 よくよく見てみると、何とぶつかったものはクラウド…!

 ではなく、ハデス(の背中)だった。


「う、うああぁー!!健全な(?)腐女子の萌えを返せぇっ!!」
 思わずぽかぽかと殴る。
 のっけからこれかよ!ベタな少女マンガみたいな出会い方しちゃったよ!!

 軽く殴られて、ハデスはわずかにこめかみをピクリと動かして私を睨んだ。

「いきなりぶつかっておいて何なんだそれは!」
「だってハデスが邪魔したんじゃん、私はクラウド捜しに来ただけなのにっ」
「俺が何だって?」
「だからクラウド捜しに――」


 ・・・・・。


「Σっ!!?」
 ハデスとは違う声が聞こえて、私は視線を凄い勢いで巡らせた。

 ハデスの向こうに、目的の人物が見えた。
 丁度ハデスとクラウドが話をしていた所だったのだろうか。
 そこに私が突っ込んできた、と?
 …もう何かそれもどうでもいいから、今はクラウド優先だー!!!

「うわぁクラウドー!!」
 嬉々として駆け寄ろうとするが、直前にその首根っこをハデスに掴まれた。
 ……急に止められたせいでプチン、と音がしてカッターシャツのボタンが一つ弾ける。
 胸元が肌蹴て白い下着が少し見えた。

「…っ、うわああぁ!ハデスの変態っ!!」
「誰が変態だ!!
さっきは作戦上言えなかったが、こっちは簡単にお前を消せるんだぞっ」
「それはいいから放して!私はクラウドに……」
「そういえばお前には俺の名もこいつの名も教えた覚えはないが?」
「……!」

 …そうだ、両方教えてもらってなかったんだ。
 また不審者扱いに…ていうか、こいつの場合ラスボスと関係あるし色々知ってるだろうからそんなに不審じゃないんじゃなかろうか。

「私が色々知ってるのはそっちも分かってるんでしょ?じゃあ不審じゃないじゃん」
「お前の能力は未知数だ。…それはどうでもいいからこの場から失せろ」
 ついでに、「ヘラクレスのマントなんぞ身につけてるんじゃない。見ているだけで気分が悪くなる」と付け加え、私は元来た道へぽいっと放られた。
「うわっ!」

 いきなりの事で私はよろめいた。
とりあえず精一杯体勢を立て直して、ボタンが弾けて肌蹴た胸元部分のカッターシャツを握って合わせる。

 ていうか、ヘラクレスが嫌いだからって私が居るだけで気分が悪くなるとは何事か!
 酷い!酷すぎる!!
 現在マントはスカート代わりにしてるから、外すわけにもいかないでしょうが!(そこか)

 クラウドはさっきから黙って壁にもたれかかってるけど、こちらを数秒見てから視線を床に落とした。
 あうー、話がしたいよ…。

「せめてクラウドと話する時間くらいください」
「駄目だ、行け」
「やだ」
「失せろ」
「嫌っ」
「お前っ………、……いや、そうだな…」
「え?」
 いいの?
 私は表情を輝かせる。
 ここから話をするのも距離があってつまんないからね!
 この場に居る権利+クラウドに近寄る権利プリーズ。

 …しかし、ハデスは思いもよらない言葉を吐いた。


「お前が気絶すれば、キーブレードは出せないらしいな。」


 ・・・・・。
 そのセリフ何だか嫌な予感がしますよ?

 ハデスは嫌な笑みを浮かべて私の方に体ごと振り返る。
 私はとっさに逃げようとして、しかし手首を掴まれて止められた。

「…あんのー、私、何だかピンチですか?」
「おとなしく気絶すればさほどピンチでもないぞ」
じゅーぶんピンチですがな!!やめてぇっ!!」
「あのボウズは決勝まで残るだろう…。ならば、お前を気絶させて武器を出せなくしてやる」
「不戦勝で勝っても嬉しくないでしょ!」
「どうでもいい。この男を本選に出してヘラクレスの息の根を止める事だけが俺の目的だ」
「うわーん!!駄目だこいつー!!!」

 卑怯だ!卑怯すぎるぜ死者の国の神!!

 私の右手首を握るハデスの手に、更に力が入る。
 骨が軋むくらいに強く握られて、思わず顔を顰めた。
「痛い…痛いって!やめてよ!!」

 しかしハデスがそれを聞くはずもなく。
 あいてる方の手で拳を握り、逃れられない私の、その腹部に向かって繰り出される―――!

 その時、


『パシンッ』

 乾いた音がして、来るはずの衝撃は来なかった。
 いや、別に目なんて閉じてないから状況は分かってるんだけど。


「……俺は、そんな事をされなくとも勝つ」
 クラウドが、片手でハデスの拳を受け止めていた。
 そういえばさっきからこっちに向かって歩いてきてたような…。
 動揺して気に掛けることもできなかったけど。

 クラウドとハデスはじっと睨み合って、少ししてハデスが拳を下ろした。
「…好きにしろ」

 私の手首も解放されて、ようやく痛みから逃れることが出来た。
 …あー、痕残っちゃってるんだけど。
 くっきりと指型が。
 軽く振ってみるが、痛みが抜けない。
 どんな強さで女の子の手首握ったのさ!

 ハデスは、私とクラウドを一度見てから廊下の奥へと去っていった。
 その姿が見えなくなって、私は大きく息をつく。
 …やっぱりハデスは悪役なのよね。
 ちょっと、いやかなりへっぴり腰だと思ってたけど(失礼)、相手にしたら危険でもあるんだ。
 少しだけ学習。

 てか、これはクラウドに守って貰えたって解釈していいのかな?
 ゲームで見た限りではちょっと冷めた人かなぁとか考えてたけど、そうでもないのかも。

 私がクラウドを見上げると、既にクラウドがこっちを見ていた。
 な、何だ!?めちゃくちゃドッキリしたよ!!

「……さっきから俺がどうのこうのと言っていたが、何の用だ?」
 私の目をまっすぐに見て言うクラウドさん。
 …えーっと、そうやって真面目に言われちゃうと話す事なんて特にないとしか言いようが…。
 まさかこんな風に聞かれて「プロフィール教えて」とか「抱きつきたいです」とかなんて言えやしない。

「………えーと、そのー…、あー、何でもないです;」
「……」
 適当にごまかしたら、やはり不審な目で見られましたよ奥さん。(誰よ)

 あぁー、水色の目で穴が開くほど見られとりますがな。
 だってあんな、脳内が真っピンクだってモロにバレるような発言はさすがに控えたいかなぁとか思ったわけでして!
 うぁ、そんなに見詰められたら萌えるぞ!!(やめい)

 そんな危険な思考を働かせていた所、クラウドは突然私の右手(痛いからまだ時々軽く振ってた)を掴んで持ち上げた。
「!!」

 そそそんな、いきなり掴まれたら萌え萌えドキドキしちゃうじゃありませんか!!
 しかも指に何だか鋭いもの付けてるから、私の手に当たらないように気遣ってくれてるみたいだし。
 腐女子の思考回路はショート寸前ですよ!?

 ていうか、何だか私の手を凝視してます?
 そんなに珍しい手相してますでしょうかワタクシ。
 あ、裏返してきた。
 今度は手の甲見るの?

「あ、あの…?」
 表情を窺いながら呼びかけてみたら、クラウドは一度視線を上げて目を合わせてから私の手のひらを再び上に向けて、別の手に握っていた何かをその上に落とした。
 …さっき弾け落ちたカッターシャツのボタンだった。
 拾ってくれたんだ。

「どうも…」
 お礼を言うと、クラウドは私の手を放して踵を返した。

「もう俺達には関わらない方がいい」
 背を向けたクラウドが言って、私は胸ポケットにボタンを入れる動きを止めた。

「今回のような事になりたくなければ、余計な事に首を突っ込まない事だ」
「余計って何よ。そっちこそ、ハデスと組むのはやめたら? ろくな事ないと思うよ」
「それを承知で奴を利用している」
「……」

 でも、闇の力は借りちゃいけないと思うんだよね。
 必死なのは分かるけどさ。

 クラウドは、私を振り返ることなく歩き始めた。
 私は待ってと声をかけようとしたが、ここから繋げる会話がないことに気付いた。
 …色々知ってるっていうのはハデスとの会話で知られちゃったけど、ハデスとクラウドが組んでる理由とか、これからどうなるかとかが分かってる事が話してる内にバレたら更に変な目で見られるだろうし。
 そして、それだとハデスと組むのをやめて欲しい理由すら言えない。

 一つ溜息をつく。
 色々知ってるくせに結局何もしてあげられてないなぁ、私。

 去っていくクラウドの背を見る。
すると、彼は通路の角を曲がる間際になって一言私に残してくれた。


「手は大丈夫だろう」


 ……あぁ、だから私の手を見てたんだ。(手っていうか実際見てたのは手首だったけど)
 あれはハデスに握られた所に異状がないか調べてたんだね。

 何だか無性に嬉しくなって、「ありがとう」と叫んでみた。
 クラウドは既に角を曲がって行ってしまったけれど、多分聞こえたと思う。

 私は自然に溢れた笑みを抑えることなく浮かべて、右手首を見た。
 やっぱりクラウドは優しいんだ。
 それを見られただけで今は満足かも。

「…さて。服も直さないといけないし、一旦戻ろうかな」
 まさかまだクラウドを追いかけるわけにはいかないし、いつまでもボタンの取れたカッターシャツを握って胸元を隠してるのはちょっと嫌だし。

 あー、ソラ怒ってるかな。
 また試合見られなかったし。
 何て言って謝ろう。
 順調に勝ち進んでれば予選決勝も近付いてるだろうな。

 ……、決勝?


「あ!!?」

 しまった、決勝ってゲーム通りに行ったら、クラウドVSソラじゃん!
 そうなったらどっちが傷付くのもやだよ!
 うぁっちゃー…無理にでもクラウド引き止めとくんだった。

 よし、ソラを引き止めに行くか。
 クラウドを説得するよりは早い気がする。

 私は回れ右をして、もと来た道を駆けていった。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

約2ヶ月も空けてしまって申し訳ない・・・!!
必死で書きました。あうぅ。
しかも、壊れ度が増すとか言って減少してる気が。(致命的)
クラウドの性格が性格ですゆえ、自然にこんな風に…!寧ろ壊れたのは画面前の幻作でした。(コラ)

ようやくクラウドが出ました!!…性格掴めてないのですが…;
大丈夫でしょうか。あれで合ってるんでしょうか…。
KHバージョンはクールだとか書いてありましたし。(攻略本に)
しかし多少クールではあるけども、決して無口でも冷たくもないと思ったのです。

そして結局試合を見てもらえなかったソラ。まだもう何回か機会はある!頑張れソラ!!

次回は…決勝まで辿り着けたらいいなぁと。(弱気)
それでは、これにて失礼!

2005.9.10