近付いてきたゴリラ達は、別に害を為すわけじゃないと判っていた。

 群れのボス――カーチャックが、ソラやグーフィー、ドナルドを、掴み上げては岩壁の上に投げ上げていく。
 よじ登るにもつらそうな急斜面。
 登る手間を省いてくれたのだ。
 確かあの上に行ってもう少し進めば、ターザンの「家」に辿り着く。

 それはカーチャックが、そこに行ってもいいと認めてくれた証。
 恐らく、ゴリラ達をハートレスやらクレイトンの銃やらから守った事が彼の理解に繋がったのだろう。

 …いや、それは喜ばしいんだけどさ。
 私、今投げ上げられたら顔面守る体力すら残されてないから非常に危険なんですが。

 魔法の使いすぎだ…;
 私は、いまだ長座した体勢のまま冷や汗をかいた。






割別の鍵・13

〜2つ目の鍵穴〜







「へ?」
 突如ふわりと浮いた私の体。
 それはゴリラに掴み上げられたのではなく、ターザンの肩に担ぎ上げられたのだった。
 えぇ、米俵のように。
 …もうここまで来ると驚けもしません。
 姫抱っこで木の幹滑られるよりは断然マシ。(まだ言うか)

 ターザンはそのまま岩壁に走っていって…
 私を抱えたまま壁をするすると器用に登っていきます。
 凄いぞターザン。片手で私を支えつつもう片方の手で登るとは。

 ていうか私だけこの方法で上がるのか?
 消耗した私への配慮なのだろうか。
 いや、それなら戦闘で疲れた他のメンバーはー……
 ・・・まぁいいか。(いいのか)

 岩壁の上に登った所で、ターザンの肩から下ろされる。
 私はターザンにお礼を言ってから下方にいるゴリラ達に振り向いて、
「ありがとう!」
 笑って手を振った。

 理解してくれたのか真似してきたのか、数頭のゴリラが手を振り返してくる。
 わーいvノリがいいぞ!


 皆が歩き始めて、私はその後ろを追う。
 最後尾に居たドナルドに追いついて、私は先刻疑問に思った事を聞いてみることにした。

「ねぇドナルド」
「ん?」
「さっき私がやった『ケアル』、成功してたの?なんかぺふんって音がしてたし」
「成功してたよ。無駄な魔力は使ってなかったみたいだし、ちゃんと効いてたし。かけたい人にかかってたしね。…音は妙だったけど」
「あれで成功だったんかい・・・」

 緑に光って『シャラーン♪』ってのはないのか。
 何だか微妙に悲しいぞ。

「練習したら直るかな…」
「それはどうだろう…。次第かな」
「頑張るわ」

 絶対に直したる…。
 考えてみたらあんなコミカルな音じゃ困る。
 なぜなら……


 傷を負って倒れるキーブレードの勇者達!
 しかし敵は容赦なく襲い掛かる!
 そこでぎりぎり回復魔法を発動させる少女。
 負傷者は一瞬緑の光に包まれ―――

『ぺふん』

 素敵な音を立てて回復!!


 ・・・・・。
 ・・・激しく嫌だ・・・・・・。

 私は自分の想像した光景にげんなりし、進行方向へと視線を戻す。
 …と。

「おぉ!!滝じゃん!?」
 私は、思わず感嘆の声を上げた。
 滝なんて殆ど見たことがない。
 見たといってもこんな間近ではなかった。

 見上げるほど高くから降ってくる、大量の水。
 その水は透き通っていて、かなり綺麗だ。
 巻き込まれたら落ちて死にそうだ。

「凄いなぁ…」
、行くよ」
「あ、あー…うん」

 滝の迫力に惚けていた所、グーフィーに引き戻されました。
 皆は、滝の後ろへ繋がる道へと進んで行く。
 滝の裏を通っていくらしい。
 うわぁ、秘密基地みたいだ…!!
 ……実際似たような感じの場所に行くんだけど。


 滝の裏に行ってみると、そこには滝の水に濡れた岩盤があって、それが大きな足場となっていた。
 上の方には、所々岩が突出していて丁度飛び移りながら登れそうだった。
 …ソラやターザンくらいの運動神経があれば。
 あぁ、ターザンが道案内するように上へ登っていくー。

「あー、裏から見た滝も美しいわー(現実逃避)」
「…、登れる?」

 ささやかな現実逃避から意識を引き戻したのは、ソラ。
 …そう、毎度の事ながら私はこんな場所登れやしない。
 だ、誰か運動神経プリーズ・・・!!(無理だ)

 ただでさえ魔力消耗して疲れてんのに、へろへろになったこの状態でどうしろと。
 ここで待ってちゃいけないかなー。…いけないよねー。
 この先でキーブレード使って鍵穴封印しなきゃいけないんだし。
 私と距離置いたらキーブレード出せないじゃん。

「何とか頑張るよ…」
「じゃあ俺がを抱いて登る!」
 意気込んで言うソラ。

「・・・え?」
「だぁから、俺だって男なんだし!ターザンばっかりにそういう事頼まれてるのに黙ってられるか!(ガッツポーズ)」
「・・・・・」

 つまりあれか?
 ターザンが男らしいとこばっか見せるから、変な意地張ってるのか。
 対抗意識ってやつですかね。
 男の子って分からぬ。
 でもソラに接近できるなら大歓迎ですよ!!?バッチ来ーい!!

「けどさ、岩から岩に飛び移らなきゃ進めんようなこの場所じゃ無理だと思うんだけど」
「だ、大丈夫だって!!」

「何してるのー?」
「早く行こうよー」
 闘志を燃やすソラに、少し上の岩盤に飛び乗ったドナルドとグーフィーが振り返って叫ぶ。
 滝の音が邪魔しているので、叫ばないと丸っきり聞こえないのだ。

「ちょっと先に行っててー!私、ソラの男の意地に付き合うからー」
「「は・・・?」」
「意地って;」
「はいはい、やるならさっさとやりましょう!」
「え、あ、はぁ…」

 ソラは多少キョドりながらも、私に腕を回して姫抱きに……
 ……に…・・・

 ・・・・・。


「だ、大丈夫?」
「何ともない!このまま行く!!」
 姫抱きできたはいいものの、妙にプルプルしてますソラ。
 わ、私重いのにこんなことするから…!!

「ね、降ろしていいよ?私自分で行けるからさ」
「いいからっ」
「無理しちゃ駄目だよ」
「無理じゃない!」

 つーてもソラさん、重さのあまり早足になってるんですが。
 たたら踏みそうですよ。

「罰ゲームー?」
 グーフィーがソラに向かって叫ぶ。
 私は思わずそれに吹き出した。
ぶふっ!!罰ゲームだって。確かにそう見えるわ。もう寧ろ頑張れソラー」
「何だよ皆して!!言われなくても上まで登るって!絶対負けない…!!」
「(何でそんなにむきになるかなぁ)応援してまーす」

 よろよろと歩き、ソラが岩に近付いて、私はソラの首に回した腕に力を込めた。
 ぎゅっと抱きつくと、ソラは一度硬直する。

「あ、ごめん苦しかった?」
 私が少し力を緩めると、ソラは焦ったように「何でもない!」と大声で言った。
 …あれ?怒らせたかな?
 え、でも何で?

 顔を見ようとしたら、ソラが助走を始めた。
 体の安定を図る間もなくジャンプされてしまったので、私はソラの腕から落っこちそうになる。

 だん、と着地した。
 私は慌ててしがみついて、腕からの落下は必死で防いだ。
 ・・・が。

「ぅわ、あ!!?」
「にぎゃっ!!ちょちょ、ちょっと!!?」
!ソラ!!」

 少々段が高かったのが災いして、ソラが着地したのは随分端の方だった。
 ついでに私の体重がかかって……

 後方へソラごと落っこちかかってます。

 ぎゃー!!こんな所で落ちたらソラが下敷きになる!!
 てゆか、私の体重でソラ押し潰したりしたら大惨事に・・・!!
 この歳で殺人はしたくないですよ奥さん!!(何歳になってもやりたくはないが)

体は子供!頭脳は大人!な少年に犯人だとバレないような証拠隠滅の仕方を誰か教えてー!!!」
「何だよそれー!!!」
 バランス取ろうと必死なソラが、叫ぶようにして鋭いツッコミを入れる。
 うーむ、お主中々お笑いに向いておるな。
 …って、そんな場合じゃなくて。

「ぬあああぁー!!!」
「落ちる落ちる殺しちゃうー!!」

 もう成す術もなく落下―――しそうになったその時。

『タンッ』
 ターザンが上の方から降りてきてソラの腕を力一杯引いた。
 続いて、律儀にも待っていてくれたドナルド、グーフィーの2名も私達の引き戻し作業に加わる。

 3人の力で、私とソラは何とか落ちずに済んだ。
 ソラは私を落とさずに抱えたままで、今度は前のめりになる。
 …そして、

『バシャッ』

 2人まとめて前に倒れたのだった。

「うぁっちゃー…」
「冷たぁ」

 ソラが寸前で体を捻ってくれたから、私が押し潰す事もソラに押し潰される事もなかったんだけど、滝の裏だけにここは水溜りが多い。
 しかも溜まってる水は大量。
 私とソラは、見事その水溜りにはまって全身ぐっしょり濡れてしまった。

 反動で半分解かれたソラの腕から抜け出し、私は濡れた自分の制服を見る。
 …あー、制服なのにこんなにしちゃって大丈夫かな。
 ブレザーの中のカッターシャツまでぐっしょりだ。
 まぁ水は綺麗だし、しばらく旅する予定だったからこれくらいはいっか。

「2人とも大丈夫?」
 グーフィーが声を掛けてきて、私とソラはのろりと立ち上がる。
「んー、大丈夫ー」
「大丈夫…」

 私が制服を軽く絞っていると、ソラが申し訳なさそうにこちらを見た。
、ごめんな。俺…」
「いーのいーの。水綺麗だし、寧ろ涼しくてOK。水遊びなんて小学生以来かなー」
 うひひひ、と笑って、私はソラの髪をわしゃりと撫でる。
 水分を吸って、絡まりやすくなっていた。

「でも、そのままじゃ風邪引くんじゃないか?」
「なら羽毛集めてあったまるよ」
「…原材料は?」
「そこにいる鳥。」
「え…って、僕!!?」
 周囲に鳥が飛んでいないのを確認してから自分を指差して驚くドナルド。
 非常に焦っている。

「冗談冗談ー。ここ暑いから大丈夫!ソラはいいの?」
「俺はこのくらい何ともないけど」
「なら早く先に進もう」

 意気揚々と岩の上を歩き出す私だった。


 ***


 のたくたと登って、ようやく辿り着きました滝の裏のてっぺん。
 岩から岩に飛び移ったり(落ちそうになって何度も引き上げてもらったけど)、蔦に飛び移ったり(うまく掴めなくて落下しかけたけど)、とにかく大変だった。
 勿論私も苦労したんだけど、

「あー、疲れたー」
「死ぬー」
「あひょ」
「・・・・・」

 私と同じくらい疲れてるのが、サポートしてくれた彼らであって。

「ごめん…私が運動オンチなばっかりに」
 こんなことならもっと運動しとくんだった…。
 体が軋むよ…!!

「そんなことないよ…僕らが無理させてるんだよね」
「ごめんね
「うああそんなこと言わないでよ2人共;」

 水浸しなので壁に寄りかかりながらの休憩。
 私は大きく溜息をつく。
 …一般以下の私がここにいるのはどうなんだろう、と時々思う。

「私って足手まとい…。」
は精一杯頑張ってるんだから、僕らはそれを手伝うのが仕事だよ」
「ね、ソラ」
「当然だろ!次こそはやってやる…っ!!


 別の方向で燃えてますソラさん


「…さて、いつまでも休んでたって仕方ないし、行こう!」
 燃えまくったまま、すぐそこにある洞窟っぽい穴へと進んでいくソラ。
 道はそこしかないし、ターザンも「こっち」とか言ってソラを先導してるからそっちであってるんだろう。
 ドナルドに続いて私も重たい体を起こす。

「あー、どっこらせっと」
「オバサンくさいよ
「ウフフvそれ言ったらドナルドも約3名から見ればオヂサンよv
「・・・・・。」

 約3名=三つ子の甥。
 実際ドナルドって歳いくつなんだろう?
 まぁ、歳なんて分からなくてもあの三つ子からすればドナルドは叔父にあたるんだけど。


 岩壁から背を離してソラとターザンを追いかける。
 洞窟に入ると、水が近くに流れているからか、そこはひんやりとした空気が漂っていた。

 どうやって生えたのか蔦も這ってるし、しかも結構暗い。
 …何か、蛇とか出そうで恐い。


 少し歩くと、奥の方からぼんやりとした青い光が見えてきた。
 細い道から普通の部屋くらいの大きさの空間に出て、私達は青い光の元をその目で見ることになる。

「わ…」
 青く光る蝶。
 その空間の一番奥に生えている大きな木に、沢山の光る蝶がとまっていた。
 …ここが、ターザンの『家』にあたる所なのかな?


「※&&×%」
 ターザンが振り返って言った。
「この場所が?じゃあリクとカイリは――」
「みぎゃぁああ!!」

 ソラの声を遮ったのは私だった。

「ど、どうしたの?;」
「何かあった?」
「あ、あー…。いや、かかとに何か当たったと思ったら蝶だったよ…。びっくりしたぁ」
 背後で飛び回る青の蝶。
 さっき「蛇いるかも」とか考えてたせいもあって驚きが倍増していた。

「あ、どーぞ続けて」
 私が会話の続きを促すと、ソラは「あれ?何の話だっけ…」と頭を掻いた。
 しまった、中断させたせいで話が進まなくなったか…?!

「※&&×% ともだち いる ともだち あえる
ともだち ※&&×%同じ クレイトン ※&&×% なくした」
 沈黙しかけた所でターザンが会話を繋いだ。
 そしてそれを聞いたグーフィーが、何かを思いついたように「あぁ」と人差し指を立てる。
「※&&×%って、『こころ』の事だったんだね」


 ・・・あれ?このセリフって他の人が言う奴じゃなかったっけ……
 ・・・・・・。

 買Wェーンだ。

 この場に居ないからだね。
 まいっか。
 …それにしても、何だかセリフの順序も変わってきてる気がするのは気のせいだろうか。
 ……やっぱ私のせい?うーん…。

「心の中の友達――か」
「こ・こ・ろ?」
「何だよ、そういうことか…」
 目当ての人物がここにいなかったことで肩を落とすキーブレードの勇者。
 でも実際リクとカイリがここにいたら凄いって。ここは滝の裏ですよ?

 私は何の気なしに木にそっと近寄って、そこにとまっている蝶の大群を眺めた。
 …と。

『ぶわっ!!』
「!!!?」

 私に向かって蝶が一気に飛来。
 私は驚いて尻餅をつく。

「うわぁ」
「凄いね、懐かれてる?」
こんなに大量に懐いてくれなくても結構なのですが…っ!!へるぷみー!!」
 払うわけにもいかず、頭をブンブン振って叫びまくる私。
 うあー、私何か虫寄せになるようなものつけてる!!?

 ひかり…」
「??;」
 ターザンが何事か呟くが、私はそれどころではない。
 何匹いるんだこの蝶・・・!!

「あっ、鍵穴だ!!」
 ソラが声を上げる。
 視界が遮られてて私には見えないが、どうやら蝶達がいなくなった部分の木の幹に鍵穴があったらしい。

 キーブレードがブンッと空を切る。
 私の周囲に飛んでいた蝶がゆっくりと離れてゆき、視界が開けてきた。
 キーブレードの先から光が放たれ、鍵穴に触れた…瞬間。

『カチャ』

 何かが閉まった音がして、鍵穴が消えた。
 キーブレードで鍵を閉めたのだろう。
 何の鍵なのかは私にはまだよく分からないんだけど、大方「世界の鍵」とかそんな感じなのだと思う。

 同時に、鍵穴があったそこから何かが飛び出てくる。

「何だ?」
「…グミ…」
 拾い上げて確認するグーフィー。
「…あの落ちてたのも、王様のじゃないんだね」
ドナルドは肩を落とす。

「落ち込んじゃ駄目だよ。笑顔じゃなきゃグミシップに乗れないじゃない?」
…。…うん、そうだね」

 グミをポケットに仕舞って、ドナルドはにっこりと笑ってみせた。
 うーん、この笑顔は空元気と取っていいのか、それとも。
 …苦労するねぇ本当に。

「ターザン、案内してくれてありがとうね。…とりあえずずっとここにいても仕方ないから戻ろうか」
「そうだね」

 体力回復装置…もとい、グミシップにワープする為の陣がある場所まで。
 なぜかこのワールドではジェーンのテントにあるんだけど。

「……」
 振り返って、私は一つ溜息。
 ・・・あの道をもう一度通るのか・・・。

 体重をかけるのもつらくなってきた足で、ゆっくりと歩き出した。


 ***


「あー、ワープ陣で回復はしたけど精神的に疲れたわぁ」
 グミシップのコックピット。
 私達は、数分前にターザンやジェーンに別れを告げて出てきた所だった。

 うああぁ、折角ジェーンと友達になったのに…。
 ターザンとも知り合いになれたのに。
 また会いに来たいなぁ。
 そして今度こそジェーンと義姉妹に・・・!!(ぇ)


 来た時に墜落したままだったグミシップ。
 おまけに天井まで開いていた為、色々と体勢を立て直すのが大変だった。
 今でこそちゃんと世界間を飛んでいるものの、グミシップ内部にワープした瞬間床が真横にある状態に陥るって、ある意味凄かったのだと思う。

 現在、私は今まで通り後ろの席に座って、グミシップの外の景色を眺めている。
 …望み薄だけど、地球が見つからないかと思って。
 やっぱり欠片も見つかってないんだけど。

 でも、現在無事なだけでも儲けものだよね。この旅って結構危険だし。
 これもシドのゴーグルのお陰だね。いや、実際的に。
 お守り効果抜群。
 …けどこれ、今はちょっと外しとこう。
 レンズは粉々に砕けてはいないものの、弾丸が食い込んでたせいでちょっとだけヒビ入ってるし、間違って私と席の間に挟んで砕いちゃう訳にもいかないし。

 私はゴーグルを自分の席の頭部に引っ掛けて、レンズ部分を後ろに回した。
 これで、これ以上壊す事はない。万事OK。


「ねぇ、さっき鍵穴から出てきたグミって特殊な形してたよね」
 ふいにグーフィーが、誰にともなくそう訊ねた。
 それに対してドナルドが「うーん」と首を傾げる。
「そうだけど…、何のグミなのかちょっと分からないんだよね」

「え?グミシップ作る材料じゃなかったの?」
「それもグミだけど、さっきのはただの組み立て用じゃなかったみたいなんだ」
「はぁ。じゃあ何なんだろう?」
「うーん…レオンなら何か知ってるかな?」

 ソラに言われ、私を含めた皆は「あー」と納得。
 レオンは最初会った時も色々知っていた。
 それならこのグミについても何か知っているかも。

「じゃ、一度トラヴァースタウンに戻ろうか」
「そだね」
 私が頷いて、ドナルドは「OK」と頷き返し、操縦桿をぐっと傾けた………その時。

「なぁなぁ、俺運転したい!」
 ソラが、ドナルドの左後ろの席から身を乗り出した。
 そして近くにあった副操縦桿を一気に倒す。

「あ、こ、こら!やめろ!!」
「俺はキーブレードに選ばれたんだぞ!」
「え?じゃあ私だって!私がいないとソラはキーブレード出せないんだから!」
 私は立ち上がってソラの元まで歩き、しゃがんで副操縦桿を奪い合う。

 ちなみに操縦桿はソラの握っている副操縦桿と、ドナルドが操作している操縦桿の2つしかない。
 前から運転してみたかったのよ、グミシップ。

「俺が運転するー!」
「私ー!!」
「俺ー!!」

「う、うわわわわわっ!!!?」
 ぐらぐらと揺れる機体。
 グミシップが変な方向に進んでいるのにも気付かずに、私とソラは尚も操縦桿を奪い合う。

 ていうか、こういうのはレディーファーストよ!!寧ろ年上に譲れ!!(何か違う)

「あー、壊れるー!!道筋がずれてるー!!」
「あひょ!」
 パニックを引き起こすドナルド、相変わらず呑気な態度のグーフィー。
 私が現在の状況のヤバさに気付いて副操縦桿から手を引いたときには既に時遅し。
 グミシップは妙に傾いたまま高速で飛び始めた。

「止めてええぇー!!!」
「わー!!!」


 暴走シップは、ターザンのいる世界…ディープジャングルに入る前の時と同じように、ソラの手によって奇妙な進み方で進む。

 道がずれているらしいが、どうなるんだ!!?


 ***


『ガッコン。』
「「「・・・・・・・。」」」

 顔面蒼白(ソラを除く)でグミシップのタラップを渡って降りる私達。
 結局、アリスの世界(ワンダーランド)を横切ってトラヴァースタウンに戻るはずが、道がずれて別の場所に来てしまった。

 ドナルドが操縦桿を奪い返したのがつい10分程前で、ジェットコースター好きも裸足で逃げ出すようなソラの操縦のせいで船酔いどころか気絶しかかった所でこの世界を見つけたのだ。
 そして急遽ここで休む事に決定した。

 大きな門を全員で押して開き、グミシップを泊めてある場所から世界の中に入った。
 …あれ?ここってどの世界?
 何か見たことあるような…。


 ひたすらだだっ広い場所。
 そして正面にある、視界に収まりきらない程大きな扉。
 扉の両サイドの、扉より大きな像。
 ギリシャを思わせる大きな柱。

 …えーと。


「うわっ、ここって…!!」
 ようやく思い当たって、私は驚きの声を零した。

「え?、知ってるの?」
「あ、えーと…知らないけど凄いなぁって!」
「そうだねぇ、中には何があるんだろうね?」
「あははー」

 …ドナルド、観察力ありすぎです。
 気にしてくれてありがたいんだけどね。


 それはそうと、ここは確か…

 血沸き肉躍る闘技場、オリンポスコロシアム…もとい腐女子のオアシスが一人、クラウドの登場する場所なのでは…!!?
 ぐふふ、ここに来たのも何かの運命。
 何としてでも会ってやる・・・!!

 激しく怪しいオーラ飛ばしつつぐふふと笑った私に、ソラが前方でぶるりと震えたのが分かった。
「…何か寒気が…」
「気のせいよv(寧ろ気付いたら恐怖だぞv)」



 ドナルドもグーフィーも気分悪そうなので(私は一気に治ったし、ソラは元々大丈夫だった)、建物内部に行く事にして歩き出す。
 大きさのわりに軽かった扉を押し開けて中に入れば、そこには石を組んで造られた小さめのへやが広がる。
 部屋、というかロビー?
 壁の窪みには、優勝カップと思しきものがいくつも飾られている。

 人がいた。
 …いや、人と言っていいのか?
 脚が茶のヤギになっている、小さな生物。
 それが石の台座に乗って、壁に掛けられたボードに何かを書いている。

「あの、」

 ソラが、その人物(?)……フィルに、声を掛けた。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

やはり妙な所で切れてしまいました。長すぎて重くなりそうだったので切断。(ぇ)
ク、クラウドが出てない…っ!!出したかったなぁ。
しかも前回「近々UPしたい」とか書いておいて遅いし。(禁句)

ソラ、自分に出来ないものが色々あって劣等感感じてますね。
いひひ、それがどうなるかはお楽しみ。(何)

次で出ればいいなあ、クラウド…(希望か)
それではまた次回でお会いしましょう。

2005.5.27