樹海を進むのは、思ったより大変だった。

 木の蔓で飛び移りながら移動する時は、本気で勘弁して欲しいと喚いた。
 結果、比較的進みやすい道を使って進んできたのだが。

 そしてもう少しで辿り着くのは、この世界に来た時にいた場所……家だった。
 どうやらここにゴリラの群れのボスがいるらしい。
 …らしいっていうか、いるんだけどね。知ってる。

 クレイトンもいないし、案外と事はとんとん拍子に進むかもしれない!
 私は表情を緩めた。






割別の鍵・11
男とゴリラ
〜強欲〜







 家に近づくにつれ、私は嫌な予感を覚え始める。

 …非常に胸騒ぎがするのだけど、これはどういうことなのでしょうねぇ。
 何だか家の前に黄色い物体が見えるけど、何故でしょうねぇ。

 私はダッシュで家の前まで近付いた。
 そして、そこには先客が。




 音もなく、家の中に向けて銃の照準を合わせる男。
 その先には、一頭の子供のゴリラ。

 ゴリラは、銃にも男にも気付く素振りを見せない。
 男はゆっくりと、引き金を引き―――


 しかし、銃が鉄の塊を吐き出す直前に、

「おんどりゃぁ!!何しとるかぁッ!!!」
 威勢の良い声が響き渡った。
 男…クレイトンが、驚いて引き金を引く。
 パァン!と音がして、銃弾が斜め上の天井を打ち抜いた。
 ゴリラは走って逃げていく。

 怒鳴った本人…私は、今にも殴りかかりそうな勢いでクレイトンを睨み上げる。
 後ろにいる皆も、冷ややかな視線を向けていた。
 さすがのクレイトンもそれには後ずさる。

 その背後…家の奥の天井付近。
 板が出張っていて、丁度何人か乗れそうな場所。壁には穴が開いていて、そこから直接外に出られるようだ。

 そこには大きなゴリラが1頭、中くらいのゴリラが1頭、さっきの子供ゴリラが1頭いた。
 しかし大きなゴリラが怒った様にのしのしと外へ出て行き、後の2頭もそれを追うようにその場からいなくなった。
 途中、ターザンが制止するように何かを言ったが、ゴリラはこの場には戻らなかった。

 恐らくあの一番大きいのがカーチャック…群れのボス。
 中くらいのはその奥さんで、小さいのが子供?

 ターザンが折角家に案内する為に話をつけようとしてくれたのに、クレイトンが…このオッサンが邪魔しやがって・・・

 鋭さ5割り増しの視線でクレイトンを射抜く。
 クレイトンは小さく「ひっ」と声を上げた。

「そ、そのっ…そうだ、ゴリラの足元に蛇がいたんだ!だから助けようとして…」
「ゴリラだけ向こうに逃がせばいいじゃん」
「うっ…。…迂闊に動かせば蛇が追いかけるだろう」
「ていうか言い訳の前の「そうだ」って何。」
「物凄く作り話っぽいよ」
「・・・・・・。」

 閉口するクレイトンに、私は思わず右手の平を突き出した。
 それに気付いたドナルドとソラ、必死に私を抑えようと奮闘。

「待って!!いきなり魔法は駄目ー!!
「落ち着けー!!」
「だってだってあんな可愛い生物撃とうとするなんて許せないぃぃ!!!特大ファイア56.2発お見舞いしなきゃ気が済まない!!!
「そんなに撃てないでしょ!?」
「ていうか「.2」ってそんな中途半端なっ


 そこんとこは気にしないで下さいソラさん


「それにしても(ゲームでも思ったけど)何で先回りできてるのよクレイトン。」
「(呼び捨てかよこの小娘が)…ちょっとな」

 …あ、顔顰めた。
 呼び捨てが駄目だったか。
 ・・・・・・よし。

「じゃあ何でここにいるのよクレイトン、テントに残るって言ったじゃないクレイトン、ジェーンはどうなってるのクレイトン、もしかしてたった一人にクレイトン、そんなの酷クレイトン」
「呼び捨てで呼ぶなっ!!しかもありえないところで!」
「えー?いいじゃないですかぁvv」

 勿論嫌がらせですから。


 ドナルドが少々呆れているが、気にしない。(しろよ)
 あのゴリラ達から見た人間のイメージを暴落させた罰だ。
 ターザンもかなりしゅんとしている。

「…なぁ、どうする?」
「ん?」
 ソラが溜息つきつつ訊いてきたので、私はクレイトンからそちらに目を向けた。

「ここにいてもしょうがないし」
「…あー。一旦テントまで戻りましょうかね」
 ゴリラたちが去ってしまった以上、ここにいても何もない。
 むやみに捜し歩くよりは、テントに引き返して何か考えるのが得策だろう。

「……ただし、」
「何?」


「木の幹を滑るのだけはやめて…」


 ***


 近道である木の幹を、滑らずに帰ってきましたジェーンのテント。
 少し遠回りだったが、あれだけは本当にもう勘弁して欲しい。

 思えばかなりの大人数で移動していたこのメンバー。
 私、ソラ、グーフィー、ドナルド、ターザン、クレイトンの計6名である。
 このテント、全員が入ってもまだ余裕がある辺りが凄い。


 そして、たった今テントに残っていたジェーンに戻ってきた理由を話した。
 …勿論クレイトンがやったこと含む。

「……クレイトンさん。」
 形の良い眉を寄せて、半眼になるジェーン。

「ご、誤解だよミスジェーン…」
「二度とゴリラに近づかないでちょうだい。いいわね?」
「そんな大げさな。たかがゴリラ一匹で、」

 言いかけて、クレイトンは自分以外が対立していることに気付く。
 誰一人、目が笑っていない。

 引きつった笑いを零しつつ、クレイトンは後ずさった。
 そのまま、テントから逃げるようにして出て行く。


「あんなに可愛いゴリラを撃つなんて信じられない」
 私は半ば吐き出すように言った。

「あら、ちゃんはゴリラの良さを判ってくれるのね!?」
「ええ!!思わず抱き締めたくなるほどの愛嬌を感じますよ!!」
 嬉々とするジェーンに、私は親指をぐっと立てた。
 基本的に動物が好きなので、この世界に出てくるゴリラが人畜無害だと知っているから尚更そう思う。

「あなたとはいい友達になれそうだわ」
「是非親友になってください!!」
 がっしりと握手する私とジェーン。
 うわぁぁい!!ジェーン姉さんとお友達!!
 姐御と呼んでいいかしら!(駄目だろ)

「人間の女の子の友達はここにはいないから嬉しいわ」
「私も嬉しいですv美人の友達なんてそうはいませんから!」
「あら、ちゃんだって十分可愛いじゃないの」
「やだぁvそんなことないですよー」

「あの、僕らこれからどうしたらいいと思…」
 女同士会話に花を咲かせていたら、グーフィーが間に入ってきた。(一応考えてたのね)
 が、それを言い終わる前に。


『ズダーンッ!!』


 重い発砲音が、長く尾を引いて響いた。
 テントの外、恐らくすぐ近くから。

「な、何だ!!?」
「何が起こったんだ!?」
 ソラとドナルドが驚いて顔を見合わせる。
 ジェーンも目を見開いていた。
 ターザンもその場に伏せている。
 …グーフィーは「わほっ!?」とか言っただけで後は落ち着いてるんだけど。

 しまった、クレイトンを外に出すんじゃなかった。
 確か、この時点で奴は……、


「驚いてても仕方ない!皆行くわよ!!」
「う、うんっ」
 ソラが頷いて、ジェーン以外の皆はテントの外へ出る事になった。

 ジェーンはさすがに連れて行けない。
 ゲーム通りに行くとここに残ってても結局危ないんだけど、連れて行ってハートレス戦に付き合わせるよりはましだと思う。


 私達は、何があってもここから外に出ないようにとジェーンに念を押して、テントの外へ出て行った。


 ***


「さっきの、銃声だったよな?」
 ソラが、周囲を見回しながら誰にともなく確認する。
 私とドナルドはそれに首肯した。

「でも、銃を持ってるのは…」
「クレイトンだけ」
 言ったドナルドとグーフィーに、私は「そうね」と頷く。

 この場にクレイトンはいない。
 そして『撃たれたかもしれない何か』も、いなかった。
 何も撃たれていなかったのか、それとも。


 そこまで考えた所で、ターザンが槍を構え直すのが見えた。
 何かが近づいているのか?
 私はいつでも魔法をうてるように、手の平に集中し始めた。

 瞬間、


『ガザッ!!』

 茂みから飛び出す大きな物体。
 プラス、ちっちゃいものが沢山。

 大きなものはゴリラで、ちっちゃいのは猿の姿をしたハートレスだった。
 どうやらあのゴリラはハートレスに追われてきたようである。

「ハートレス…!?」
「しかもゴリラを追いかけてるみたいだけど」

 私達は、そんな会話をしながらハートレスへと向かっていく。
 このままではゴリラが危ない。

 何匹もいるハートレスに、ソラが先頭になって突っ込んだ。
 物理攻撃が苦手なドナルドとできない私は、魔法で援護するために少々離れた位置にいる。

 ちょこまか動き回る猿ハートレス達に、前衛チーム(主にソラとグーフィー)は少しずつ隙ができる。
 初めて見る敵だからだろう。
 ターザンは慣れてるっぽいが。(狩りとかやってるからか?)

 出来た隙を埋めるべく、私とドナルドは魔法を放つ。
 勿論、ゴリラに当たらないように細心の注意を払って。

 練習した甲斐あって、私は魔力の大きさのコントロールと魔法を出す早さが上がった状態だ。
 レベルアップした気分。
 ていうかレベルアップしたよね!確実に!
 これで「してないじゃん」とか言われたら泣きたい所存です。
 死ぬほど練習しましたから。

 私が自分に向かってくるハートレスをファイアで吹っ飛ばし、ターザンが槍で一撃を入れることによって、ここにいる猿ハートレス軍団は全て倒した。
 消滅するのを見送って、意外と早く終わった事に驚く。

 まぁ、ゲーム内では3人でしかパーティー組めないのに現在5人いるっていう反則はやってるけど。
 うへへへ、ゲームとリアルの違いよ。
 諦めなさいハートレス共。(女王?)

 私はゴリラに駆け寄った。
 怪我はないようだ。
 ターザンも横から様子を確かめている。
 …知り合い?

「さっきまではいなかったよね、ハートレス…」
「何で急に?」
 首をかしげるドナルド。

 銃声。襲われたゴリラ。ハートレス。
 メンバーは急な展開についていけないようだ。
 まぁ、何も知らない状態だったら私もそうなのだろうけど。


「銃声がした直後に来たはずだけど、クレイトンさんいなかったよね」
「行方不明…?」
「探してみようか」
 一致団結するKHメンバー。
 私は傍から羨ましいなオーラを漂わせた。(何だそれ)
 私もあの中に入りたい!

…?;」
「何かただならぬ気配を感じるんだけど;」
「お腹減った?」
 約1名見当違いな事言っとりますがな!(勿論グーフィー)
 私は首を左右に振る。

「違うってば。仲がいいみたいだからその中に入って見たいなぁとか思ってたのよv」
「え?入ってるよな?」
「うん」
「ターザンもそうだよね」
 頷きあうKH主要人物。

 知らない内に「お友達」へと格上げされてました!!
 うあーん、嬉しいよー!

「よーし、俄然やる気が出てきたわ。さぁ出発だー!!!」
「(急に元気になったなぁ)オー!」

 やはりソラが右のこぶしを上げてノってくれて、私達は元気よく進みだした。


 ***


「ジャングルにも竹ってあるんだぁ」
 グーフィーが感心したように言う。
 私も初めて見た時は驚いた。

 少しの空間をあけて、周囲に鬱蒼と生える竹。
 国はどこだ、ここ。


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」
 焦ったようなソラの声が飛ぶ。

 現在、先刻とは別のゴリラがハートレスに襲われているのを救助している途中です。
 クレイトンを見つける前にゴリラ見付けちゃったよ。
 でも竹があまりに気になったからちょっと戦闘から意識逸れてましたv(貴様)

 いや、私はちゃんと魔法で援護してますよ。
 ただ、物理攻撃系のメンバーが多すぎてグーフィーの入る隙間がないので、グーフィー一人が余ってるんだけど。
 ソラは休んでいるメンバーがいるのにムッとしたらしい。
 でも正直、あの中にグーフィーが加わったらバーゲンセールに来たおばさんもビックリな事態になりかねないよ…!?

「ソラ、そういうことはグーフィーが入る隙間がある時に言ってね!…ぉわっと!?」
 私の背後から迫ってきていたハートレスを、ターザンが槍で殴り飛ばす。
 き、危機一髪…!
「ありがとうターザン;」

 ターザンはこくりと頷いて、戦闘を再開した。
 うーん、あの戦闘でターザンの腰布がめくれないのが不思議だ・・・(どこ見てるんだ)
 段々その格好には慣れてきたものの、今度はいらん腐女子心が出てきている。
 ふふふ、萌え心は止められないものさ。


!」
 突如響いたドナルドの叫びに、私はぱっと振り向く。
 何、腐女子の心の内容物が見えてしまったか?!


 思った瞬間、


『どさぁっ!!』
「ぐぎょわ!!」


 カエルが潰れるよりもっと酷い声が出た。
 ちなみに私の声。

 私は、ゴリラに上半身をプレスされてます。
 要するに飛びつかれました。

「大丈夫?!」
!」

「むぷー…」
 私は何とか顔面を解放して深呼吸。
 どうやらゴリラは戦闘の渦中から逃げてきたらしい。

 まぁ、助けられてるとはいえあの中にいるのはちょっと嫌だろうしね。
 こっちなら大丈夫だと思ったらしい。
 小さいゴリラでよかった;
 もう少し大きかったら冗談じゃなく潰れてました。
 ゴリラは結構重い生物です。

「で、でも重いからちょっとどいてね」
 私はよっこらせ、とゴリラを私の上からどける。
 うーん、ふさふさしてて可愛いなぁ。

 隙だらけになった私を狙ってくるハートレスを、盾でガードするグーフィー。
 私がそのハートレスをファイアで撃って、ソラがとどめを刺した。
 どうやらそれが最後の一匹だったらしく、一息つく一同。

「クレイトンは一体どこに…」
「見つかる前に疲れそうだよ」
 ソラとドナルドがその場に座る。

「んー、でも進まなきゃなにも始まらないからなぁ」
 クレイトンが見つかるのはもう少しだけ先かな。
 私のMPがもつかちょっと心配だ。

 ていうか、まさか一般人の私が自分のMPの心配なんぞする時が来るとは思ってもみなかった。(メーターが見えない分余計心配なんだけど)
 今更ではあるが、全く持って不可思議な事象である。


「もうちょっと探してみようよ」
 伸びをしてからそう伝えると、皆は「そうだね」と気を取り直して士気を取り戻した様子。
 よし、私も頑張るぞ!
 ガッツポーズを決めた所で、

「あれ?」
 グーフィーが声を上げる。

「何?」
「こんな所にこれが…」

 平らな地面の中で、少し出っ張っていて丁度座れそうな場所。
 土が盛り上がっているそこに、落ちていた物なのか置かれていた物なのか、キセルを発見したグーフィー。
 これは…。

「クレイトンのキセルじゃない?」
「あいつキセル持ってたよな」
 私とソラが言って、残りのメンバーが頷く。

「てことは、近くにいるのかな?」
「そうかも」

 グーフィーがポケットにキセルを入れて、私達は竹やぶの奥へと歩き始めた。
 少し向こうに、大きな岩が竹に隠れてかろうじて見える。

 その岩を左に曲がって、唐突に視界が開けた。


 そして私達がそこで見たものは。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

中途半端な所で区切りましたね今回も。
うあー、長くなりそうだったので切ってしまいました。
楽しみにしてくださるお方がいるというのにこんなに遅くなってすいません!;

最近ギャグが少なくなってる事に気付き。
テンション上げてかかってみました。
結果:狽、まくあがらねぇ!!何でだろう;
部活(文芸)でシリアスばっか書いていたからか?

ちなみに都合によってある程度KH本編のシナリオを省く所が出てきます。
も、萌える場面はきっちし残していくので大丈夫ですよ!(何が)

…それにしても、ゲーム内では3人パーティーなのに小説内では5人。
いなきゃ話が進まないので入れてますが、多人数はつらいですよー!
えぇ、愛と萌えで乗り切りますとも。(何か嫌だぞその表現)

それでは、また次回で会いましょう。

2005.5.1