…すいません。
 今ひっじょーに叫びたい状況にあるのですが、どうしたらいいのでしょう。


 ………もういいです、素直に叫びます。






割別の鍵・10
大自然
〜あぁ果てしない樹海突き抜けて〜







「ひぎぃやああぁっ!!あああぁぁ!!」

 非常に色気のない叫びが、ジャングルの中に木霊する。…ターザンの腕の中から。

 あれから、ターザンが私たちをどこかへ導くかのように歩き出したのでついていったのだが、その先は人が落下しないように張られた網の端。
 下を見れば、大自然が広がっているのが見渡せる。

 そこからどうするのかと思いきや、ターザンはいきなり私をプリンセスホールドもといお姫様抱っこして、高層ビル並みのその高さからジャングルに向けて飛び降りたのだ。
 途中で器用に手足を使って(姫抱っこ中だから手は使いにくそうだったが)、衝撃を緩めてうまく着地したからいいようなものの、普通の人ならヤバいって。

 ソラも後からついてきて(やっぱ常人じゃないよ…)ほっとしたのも束の間、降ろしてくれるのかと思いきや今度は身軽に移動を初め、挙句私を抱えたままスノボの構えで、横(斜め?)倒しになった木を滑り降りだしたのだから驚きだ。(勿論ボードはない)

 私だけを抱えたのは、私が自力で飛び降りる事も木をスノボ滑りすることもできないと判断したためなのだろう。
 確かに私じゃできやしない。

 ちゃんとソラもついてきているが、それにしてもよく滑るなこの木。
 ターザンなんて素足なのに痛くないの?
 ・・・・・じゃなくて。

 ゲームにも映画にも出てきた場面だけど、実際に体験すると恐い!!!

 要するにターザンに抱きかかえられながら高速移動してるんだから、下手なジェットコースターよりマジ恐いんだって。
 安全装置無しですぜオヤビン。(誰)

 私は必死でターザンの首に抱きついて、ひたすら絶叫。
 …この役、この作品のヒロインがやんなきゃなんない気がするんですが…。

 あぁっ!!しかもターザンの素肌にピッタリくっついてる状態なんですけど!!
 更に言うと私、制服のままだからスカートめくれるし!!

 一瞬一瞬の間にどーでもいい事やら何やらが巡る中、私の視界では正確に確認できない程速く木々の緑が過ぎていく。
 元々絶叫マシーン等が苦手な私は、最早魂抜けそうになっていた。
 死人・・・死人出ますぜターザン・・・・・!!

 死んだひいおばあちゃんが川の向こう側で「おいでおいで」してるのが垣間見えて、思わずそっちに行きかけた…その時。


『ストンッ』
「到着ー♪」
 目まぐるしいまでの動きが止まって、すぐに後ろからソラがそう言った。
 どうやら私達は木滑りが終わって地面に降り立ったらしい。

 私はあまりの出来事に目を回して、正面すらまともに見られない状況にあった。
 そもそもソラはなんで大丈夫なんだ。
 凄いぞソラ。さすがわんぱく少年だ。


 ターザンは私の様子のおかしさに気付いたのか、顔を覗き込んできたのが気配で分かる。
 ソラも傍に寄ってきて、
「だ、大丈夫か?」
 と言った。…意識グラグラしててあんまりはっきりとは聞き取れてないけど。

「むはぁー……目回ったよー…」
 強風のせいで溜まった涙を拭いつつ、私はターザンの腕の中でだらりと首の力を抜いた。
 …が、頭が重くなる感じがして余計に気分が悪くなったので、すぐに頭を起こす。

?」
 ターザンが心配そうに呼んでくる。
 ・・・・・・って、顔近いって!!

 私が赤くなって慌てると、顔を近づけていたターザンは首をかしげて元の姿勢に戻った。

 少しずつ平衡感覚が戻ってきて、私はターザンに腕から降ろしてもらった。
 何だかソラがさっきからむっとしてるような気がするけど、なんでだろう。


 ・・・・・・・はっはーん。


「ソラ、もしかして『姫抱っこくらいなら俺にも出来たのにー』とか思ってる?イヤンおませさんっv
違っ!!た、ただ……島ではリクばっかりが頼られてたし、俺だって男なのに…」
 最後の方が音声小さめだったのですが、やはりそういうのは異性には言いにくいことなのでしょーか。

 つか、やっぱし頼られてたのかリク。
 そりゃ頼り甲斐ありそうだもんね?
 …しかし、多少鍛えるだけでリクに模擬バトルで簡単に勝てるようになるソラも(戦闘面では)凄いと思うんだが。(ゲームでだけど)

 性格面ではやっぱしリクが大人なのかなー。
 ソラは猪突猛進的な所があるし。
 いや、それが激しく萌えなのですが!!
 要するに両方萌えです。(コラ)

 …って、私が考えてても仕方ない。

「今回はたまたまターザンにそういう役割が回っただけじゃない。私は普段からソラを頼りにしてるよ」
 ……そりゃもう色んな意味で。
 私は頼らなきゃこの世界で生きていけませんから。
 …何だか情けないけど。

「…そう、かな」
「そうだよ。ほら、行こ?」
 私は制服を直しながら、にっこりと笑う。
 ソラはそれに機嫌を良くしたらしく、大きく頷いた。


 改めて周囲を見渡す。
 そこは、ちょっとした広場だった。
 木々に覆われてはおらず、日当たりがいい。

 すぐ傍に低い木製のテーブルがあり、その上には試験管やフラスコ等が置いてある。
 …ん?こんなジャングルに実験道具……

 私はテーブルの向こう側を見た。
 あったのは……


 四角いテント。
 しかも何か中から物音がした。


「あ、誰かいるのかな!」
 ソラがはしゃぐ。
 ターザンがそのテントに向けて進みだした。

 私はその場で一人ガッツポーズ。
 よっしゃ美人さんと会えますぜ!!

 こんな樹海にテントたてて中に入ってる人なんて、KHではあの人しかいない。
 テントの中にいるだろう女性を思い浮かべ、軽い足取りで2人の後を追った。


 ***


「ジェーン」
 ターザンが最初にテントに入り、私とソラもそれに続く。

 テントの中にいたのは、若い女性1人。
 何やら機械(ていうか映写機)を点検していた模様。

 ターザンにジェーンと呼ばれたその女性は、すぐに振り返って
「ターザン!」
 笑みを向けてきた。
 が、見慣れない人物(私達)の姿を認めると、きょとんとした表情になる。

「あなたたちは?」
「こんにちは。今しがたターザンと友達になった(?)です」
「あ、俺ソラ」
「そう。ところであなた達は何をしにここへ?もしかしてあなた達もゴリラの調査に?」
 はつらつとした感じでいう『ターザン』のヒロイン…もといジェーンに、私は「寧ろターザンの調査に!」と言いたかったが怪しまれるのは火を見るより明らかだったのでやめた。

「うーん…。強いて言うなら人探しと星探しですかねっ!」
「・・・?;」

 更に正直な所を言ってみたのだが、やはり怪しまれた模様。(当然だ)
 私が慌てて言い直そうとして、


「あぁっ!!」
「無事だったんだね!」
 聞きなれた声がテントの入り口から聞こえた。

「あっ、ドナルドにグーフィー!!」
 2人がテントに入ってくる所だった。
 私は駆け寄って2人に抱きつく。

「もーっ、『無事だったの』はこっちのセリフ!」
「あっひょ、ソラも大丈夫みたいだね」
「ああ!」
 4人(私含む)の感動のご対面。
 本当に全員無事なのが奇跡だよ。

「「…あ、」」
 そして気付いたようにその輪から後ずさる、ソラとドナルド。
 …あー。この2人ってケンカしてたんだっけ?
 こんな時くらい喜んでたっていいのにー…。

 ふん、とそっぽを向き合うソラとドナルド。
 その後ろから、もう1名男がテントに入ってきた。
 男は長身で、いかにもって感じの悪役面をしている。つーか悪役だろ貴様!白状しろ!(何を)
 銃を持っている辺りが更にそれっぽさを強調している。

「クレイトンさん!」
 ジェーンが男の名前を呼ぶ。
 …あぁ、そんな名前だったねこの人。(酷い言い様だな)
 どうやらゲーム通り、こいつがグーフィーとドナルドを連れてきてくれたらしい。

 クレイトンは、ぐるりと私達を見回す。
「おかしな奴らだ。ゴリラの捕獲には役立ちそうもない」
 ふぅと溜息をつくクレイトンに、ジェーンはむっとした。
「捕獲じゃなくて調査でしょ、クレイトンさん。学術的な調査」

 そして私達に向けて再び笑む。
「でも賑やかなのはいいことじゃない?皆ゆっくりしていってね」
「はーいv」
 右手を挙げて返事。
 …返事をしたのは私だけだった。

 ソラとドナルドが険悪なムードになってますがな。
 それをどうにかしようとして出来ないでいるグーフィー。
 …あーもー。
 ほんっとにそれでいいのか勇者と魔法使い。

「コラ、迷惑かけっぱなしにしてんじゃないの!いい加減仲直りしなさいな、男の子でしょ?」
「男の子は関係ないだろ!」
「そうだよ!」
 ふん、と再度そっぽを向く2名。


 ・・・・・・・すいません、この世界クリアする直前に2人とも仲直りするって分かってて口出ししたのは正直おせっかいだったって理解してるんですが…

 どうしてもカチンとくることってないですかね。


「…どうしても仲直りしないっての?」
「するもんか!」
「絶対嫌だね」
「・・・いい加減私も怒るわよ。」
「「狽ヲっ、」」

 途端鎮静化するテント内。
 …てか、凍りついた?

…;」
「あのね。」
 恐る恐る、といった感じで私の顔を覗き込むドナルド・グーフィー・ソラを無視して、私は無表情のまま切り出す。

「…私には、頼れる人はあなた達しかいないの。ていうかあなた達全員、今の状況を細かく理解し合えてるのはこのメンバーだけなんでしょ。それを自らぶち壊すってどういうこと?」
 にっこりと、表面には限りなく友好的な笑みを貼り付けて。

「たまにはケンカしていいのかもしれないけどさ、いつもいつも…!」
 段々、作り笑いが崩れていく。
 再び無表情に、なっていく。

「私は…」


 言おうとして、気付く。
 私は、本当は。


「私は、不安なんだから」


 不安、なんだから。

 もしゲーム通りに進まなくて、このまま不仲なままになったら。
 旅もまともにできなくなって、元の世界に戻る方法も探す事すらできず。
 最悪のエンディングを迎えたり、したら。

 考えすぎなのは分かってるけど。
 だって、目の前で何度もケンカなんてされたら。
 今みたいに仲間割れなんてされたら。



「…ごめん」
 ぽつりと謝ってきたのは、ソラ。
「僕もごめん。…仲直りするから、そんな悲しい顔しないで」
 ドナルドが、固く握り締めてしまっていた私の手にそっと触れた。

 …私、そんなに悲しそうな顔してただろうか。
 でもすぐには表情を変えられそうになくて、戸惑う。


「仲直りしてくれるなら、いいの。…ごめん、何か急に変な事言って」
、僕らは仲間だから大丈夫だよ」
 私より遥かに背の高いグーフィーに、くしゃりと頭を撫でられる。
 …結構何でも許容できてるグーフィーって、ある意味大人なんだと思う。(呑気なだけかもしんないけど)

 あ、今更になってジェーンがおろおろしてることに気付いた。
 うわぁん、気遣わせてしまった…!!

 私は素早くジェーンに向かって謝った。
 あぁ、本当に申し訳ない…!
 というかこっちのことをあまり知らない人が見てる前でこんな微妙な事になってたのが恥ずかしい。
 ターザンにも(一応)クレイトンにも謝っておいた。…後者、つまんなそうに鼻鳴らしましたが。

 一瞬睨みあげてやろうかとも考えたが、これ以上失礼な行動を(ターザンとジェーンの前で)取ることはちょっと嫌だったのでやめておいた。


「(畜生この刈り上げモミーめ…)それで皆、これからどうするの?」
 私は、溢れそうになる怒りをこらえて、皆に問う。

「僕らはここで王様を探すよ」
「さっきこんなのを見つけたんだ」
 グーフィーが、手のひらに乗せた何かを私とソラに見せてきた。
 それは、カラフルで小さい物体。

「これって…」
「グミ?」

 グミは私達が乗っている船「グミシップ」の素材となるもの。
 シップは世界と世界を渡る為に使うものだ。

「てことは、王様もグミシップを使ってここに来たかもしれないんだ?」
「そういうこと。重要な手がかりだよ!」
 胸を張って言うドナルド。
 …うーん、偉そうにしてても身長低いから可愛いだけなんですが。


「俺はターザンにリクとカイリのいる場所まで連れてってもらうんだ」
 ソラは、この上なく嬉しそうに説明した。

 …オチを知ってる私としては、その笑顔を見ているのがちょっとつらかったけど。
 この世界では見つからないって、言うのは簡単だけど納得させるのは難しいだろうし、何より私が言う事でソラの笑顔を曇らせるのは嫌だった。

 ソラって綺麗に笑うんだなぁ。
 羨ましいや。
 私みたいな腐女子には到底真似できません。(ぇ)


「じゃ、王様探すって言ったってルートが決まってるわけじゃないんだから、ソラとターザンに同行しながら探すってことでOK?」
「うん。それでいいよ」

 おぉ、ゲームと違って刺々しく決まる事はなかったぞ。
 …てか、ストーリー変えてよかったのだろうか…。
 何らかの歪みとかしわ寄せとか来ちゃったりしないかな;

「ターザン、リクとカイリはどこにいるんだ?」
 ソラが尋ねると、ターザンが反応をする前にクレイトンが口を開いた。
「ゴリラの巣じゃないのか?」

「ゴリラの?」
「ターザンはゴリラに育てられたの。彼にとっての家族はゴリラなのよ」
 ジェーンは、ターザンをちらりと見つつ説明した。
 それにソラは「上の家でターザンが言ってた意味不明な言葉はゴリラ語だったんだ…」と納得する。


 それまで黙っていたクレイトンが、組んでいた腕を解いてテント内の人物(主に私達)をぐるりと見回した。
「我々は君達が来る前からこのジャングルにいるんだ。しかし君の友人を見かけたことなど一度もない。
とすれば、残るはターザンが隠しているゴリラの巣しかない」

「クレイトンさん、ターザンは別に隠してるわけじゃ―――」
「案内してくれるだろうね、君の家だよ イエ」
 ジェーンの抗議も聞かずにターザンに詰め寄るオッサン。

 …うふふ、このオッサンが私達の為に動いてくれるはずないよねー。
 問えばソラの友達(リクとカイリ)を見つけるための助言だとか抜かすんだろうけど、じゃあ何だその期待に満ちた目は。
 絶対私利私欲だけの為に一生懸命になってるよこの人。
 ゲームやってなくても分かるぞこの表情見てれば。

 さて、どうやって引き離そうかこのオッサン。


「……」
 頷いて、家まで案内する事を了承したターザン。
 勿論、クレイトンはにやりと微笑。

「でもいいの?ターザン。家に案内なんてして」
「ターザン カーチャック 会う」
「カーチャック?」
 ジェーンが首をかしげる。
 クレイトンは、嫌な笑みを浮かべながら銃を担ぎなおした。
「群れのボスの事だろう。丁度いい、俺も同行しよう」


「『何せジャングルは危険だからな』?」
 私は、本来ならクレイトンが言うはずだったセリフを先回りして吐き出した。
 クレイトンは、驚いたように振り返る。
 言おうとしていた言葉を言われて驚いたのだろう。

「………」
 眉を顰めて私をじっと見るクレイトン。
 私はその視線を跳ね返すように、冷ややかな目で見返した。

 この人は、ゴリラ捕獲が目当てだ。
 私はそれを知っている。

 この人を置いていきたい。
 ていうか、こいつが同行するなんてむさ苦しさが増して嫌だ。(そういう問題でも)

 そもそも、ゴリラを見つけては銃で撃とうとするのはどうにも頂けない。


 ソラ達が私とクレイトンを交互に見て、この不穏な空気に戸惑っている。
 まぁ、そりゃ私とクレイトンにしかこの雰囲気の理由は分からないだろうしね。
 まさか「私がクレイトンの言葉を本人が言う前に言っちゃったからーv」なんて言っても信じてもらえないのだろうが。
 何だか簡易エスパーになった気分だ。

「…お前、何者だ?」
「普通の人間の女の子ですけど?…ていうか、ジャングルが危険ならジェーンを一人置いていくのはどうかと思いますよ。女性一人きりなんて正に危険ですから。」
 ふふ、と笑って首を右に傾ける私。…顔は笑ってないけど。

…何か恐いよ…?;」
 ドナルドが冷や汗をかきつつ間に入るが、私は構わずクレイトンをじっと視線で射る。
 そして唐突に目を細めて普段の笑みを浮かべ、凍りついた雰囲気を転換させてみた。

「…貴方が付いていかなくても、私達は強いですから。大丈夫ですv」
 ぐっと親指を立てて「いぇあ!!」と付け足すと、クレイトンはますます怪しそうに瞳を細めた。

「……分かった、君達だけで行ってくるといい」
 銃をテントの壁に立てかけて、ふぅと溜息をつくクレイトン。
 私は皆に見えないように小さくガッツポーズをした。

「じゃ、行こっか」
「オー!!」
 ソラが元気な返事をして、私含むいつものメンバーとターザンはテントの外に出た。

 眩しい日の光が、私達を照らした。



 私達の足音が遠ざかるのをクレイトンが耳を澄まして待っているということは、まだ私達の知らない事。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

何だかゲームと違う事になりましたね。仲直りしてよかったのかあの人達。
ていうかターザンの存在が濃かったり薄かったり。
ターザン好きなのでもっと書きたかったのですけどね。
友人に「夢主はKHのどこまでのストーリーを攻略したの?」と聞かれたのですが、近々明かされます。

次回…幻作にもどうなるのか分かりませんな。(何だと)
ただ、ディープジャングル抜けたらオリンポスに行くというのは確定ですよー。
それでは次回をお楽しみに。

2005.4.12