不思議の国・ワンダーランドを出発したのは、あれから大分経ってからだった。
は何度もグミシップ乗り場兼回復地点との間を往復し、精神的に疲れたのだろう、シップに乗った直後に寝てしまった。
グミシップについているナビゲーター機能を頼りに世界と世界の間を進んでいた所、何かが見えてくる。
それは、一面緑に覆われた世界だった。
割別の鍵・09
墜落
〜仲間割れ〜
闇の中。
私は何をするでもなく、ただ立ち尽くすのみ。
…あぁ、以前もここに来た。
そんなことを、思いながら。
「また来たのか」
そんな声が聞こえ、私は声の方を振り向く。
…が、姿は暗くて見えない。
けど、私はもうその声の主を知っていた。
「リク?」
「……」
私の呼びかけに、彼は答えなかった。
でも、リクには違いない。
私の中の何かが、そう告げている。
「あなたは、何をしようとしているの?」
固執しても仕方ないので、別の質問をしてみた。
私は、まだリクの真意を知る所まで見ていない。
興味本位に聞いているのではなく、これから自分の身に関わってくることだろうから。
「…俺は、カイリを―――」
間を置いて、リクが答えようとしたその途端。
別の大きな声によって、その声は聞こえなくなる。
聞こえてくるのは、
「降りるっ!」
「降りないっ!!」
耳をつんざくような2人分の声に、私は眉を顰めつつ目を開いた。
「うー…。何事よ…」
大声のせいで少々頭が痛い。
つか、折角リクとまともに話できてたのにー!!!
くそっ、事と次第によっちゃただでは済まさぬ・・・っ
「ドナルドが降りないって言うんだ!」
「こんな世界行ったって無駄だよ!」
ぎゃあぎゃあ言うドナルドとソラに、双方を見比べるグーフィー。
明らかにグーフィーに迷惑だと思うのだが、どうなんだ勇者と魔法使い。
「あーもー、ちゃんと順を追って話さないと分かんないでしょ!」
「だからこいつが!」
「ソラが!」
「じゃかぁしいわ!!分かりやすくかつ簡潔に順序良く説明しろ!!」
「「狽ヘ、はいっ」」
(怯えているようだが)ようやく話し始める2名。
「次の世界に着いたんだけど…、ドナルドがこの世界には降りないとか言い出して」
「だから、王様がこんな何もないような世界に行くわけがないから!」
「シャラップ!ソラ、続けて」
このままだとまたケンカになりかねないので止めてから、話の続きを促す。
「王様はいないかもしれないけど、リクとカイリはいるかもしれないし…」
「で、ソラは降りたいんだ?」
「そう」
私はグミシップの正面に見える世界を見た。
それは全体を真緑で覆ったような世界で・・・・・
・・・ん?
「…ドナルド、私も降りたいんだけど」
「えぇっ!?」
その世界は、確か…『ディープジャングル』?
ターザンがいるはずだ!!
行きたい!会いたい!
「でも…時間は無駄に出来ないし」
ぶつぶつ言い始めるドナルド。
しかしいい加減焦れたソラは、
「もういい!」
キレつつ操縦桿を握った。
ガクン!とグミシップが変な方へ傾く。
「うわぁっ!!?」
「みぎゃっ!!」
「わほっ」
グーフィー、新種の変叫びだね!(親指グッ!)
・・・じゃなくて。
「落ちる落ちる落ちるーっ!!!」
奇妙な進路の屈折を見せながら、グミシップは猛スピードでディープジャングルへと突っ込んでいく。
もう駄目だぁー!!!
「いやああぁぁぁーっ!!!」
真緑が視界に広がったと思ったら、突如走る衝撃。
船体がどこかにぶつかったのだろう。
そして、操縦席の天井であり壁である半球状のガラスが、上へ大きく開く。
丁度ユーフォーが開くみたいに。
・・・って、開くのかコレ!
どうやら誤ってソラが変なボタンを押してしまったらしい。
私達は、天井が開いたままのその部屋に留まっていられるはずもなく、
「ひぎゃああぁぁーっ・・・・・・」
振り落とされていった。
***
「……う、」
続いて「ぐへ」と奇妙な言葉を発し、私は背中の痛みに眉を寄せる。
ゆっくりと上半身を起こすと、そこはどうやら家の中のようだった。
家と言っても、天井も床も抜けているし、壁に穴は開いているし、全部木で作られてるので所々から植物が生えている。
かろうじて家の形を保っている、ただの倉庫とも言えた。
それにしても私、よく生きてたなぁ…。
あれだけ派手に落下してりゃ死んでてもおかしくない気はするのだが。
そこはやはりファンタジー世界の不思議原理とでも言うべきなのだろーか。
私は天井を見上げる。
…人の通過できそうな大きさの穴が2つ。
あー、私はギャグ漫画よろしく天井ぶち抜いて降ってきたのか。
・・・って、2つ?
「いてて…」
隣で起き上がる誰か。
私は驚いてそちらを見た。
「ソラ!」
私の隣にいたのは、ソラだった。
「あれ…?」
「無事?怪我は?」
「何とか。そっちは?」
「大丈夫。…てか、それより…」
私は周囲を見回して。
「ドナルドとグーフィーがいないんですが・・・」
あぁ、確かゲームでも別々になってたようだけど…実際に体験すると少々不安である。
人数が一気に半減。
ちょっと心配だなぁ…。
「あいつらなんて知るもんか!」
「あいつらって何よ!可愛いものを否定するんじゃない!」
「可愛いものって…」
「ソラは萌えねv(親指グッ)」
「も、燃え?」
「ノンノン!漢字変換違いまーす!」
「?;」
首を傾げるソラ。
んー、そこが萌えだって言ってるのよ。
そんなやり取り(+妄想)をしていると。
『ダンッ!!』
「!!?」
私はいきなり何者かに押し倒されました。
何このまだらの物体!!
私の上に乗っかってる物体を注視してみると、ようやくその正体が分かった。
・・・・・正直、これってピンチなんじゃないかと思う。
「買qョウ!?」
「ヒョー!!!」
私はベタなボケ叫びしつつじたばたもがく。
が、そのヒョウは私の両肩を押さえつけたままじろりと睨みあげるのみ。
ひぃー!!恐い恐いっ!!
私はあまりの怖さに凍りついた。
ヒョウに乗っかられて落ち着ける一般人なんていたら凄いと思うよ!!尊敬するよ!!
恐怖のせいで視界が揺れる。
汗の代わりに涙が目に膜を張った。
こ、殺される・・・!!
『ガンッ!』
瞬きすら出来ずにいた所、突然私の上からヒョウが消える。
…てか、吹っ飛んだ。
「だ、大丈夫か?!」
どうやらソラがキーブレードで殴り飛ばしたらしい。
見かけによらず根性据わってるよ少年。
「あ、あぅああぁ…」
意味不明な言葉を垂れ流しながら、私は倒れたまま脱力。
…って、脱力してる暇はない!!
私は勢いをつけて起き上がった。
瞬間、私の頭があった所へヒョウの爪が突き刺さる。
あ、あぶねぇ・・・!!
私はソラの後ろへ走って逃げた。
ソラの上着の裾をきゅっと握り締めると、ソラは私を庇うように左腕を広げる。
・・・・・・・。
うわぁカッコイイ・・・!(そういう場合でもない)
ジリジリとにらみ合う1人と1匹。
火花が散りそうな勢いだ。
…にらみ合って数秒経つが、決着はつくのだろうか。
と。
『ヒュ、ガンッ!』
突如上の方から降ってきたでっかい塊…じゃなくて、人間?
その人が、ヒョウを長い棒で殴り倒した。
ヒョウは、一度倒れたもののすぐに体勢を立て直し、しかし数秒こちらを睨んだ後に窓を割って逃げていった。
人数が増えた事で状況が悪化したとでも思ったのだろうか。
…頭いいんだなぁ。
それにしても、これでようやく一安心できる…。
いきなり現れた人物に唖然としているソラを、上着をツンと引っ張る事で意識浮上させ、私はソラの後ろから横に出た。
助けてくれた人物にお礼を言おうと思ったのだ。
…思ったのだけど。
「・・・・・・・」
言葉を失ってしまった。
「サボー、きけん」
片言の言葉で私達に告げるその人。
さっきのヒョウはサボーっていうんだなー、とか、あぁやっぱり危険な動物だったんだ、とか今の言葉で思ったんだけど、それどころじゃない。
目の前にいる人物。
大きな槍(棒だと思ってた;)を持っていて、腰布のみ身に纏っている、長身の男。
・・・・・・ああー・・・。
もしかしなくても、ターザンだっ!!!
ていうか半裸どころじゃないから見てて恥ずかし過ぎるんですが!?(滝汗)
慌てて目線をずらす私に、ターザンは首を傾げる。
ごめんよー!でもそんなに露出度の高い男の人はプールとか以外でそうそう見るものじゃないから萌え以前に照れるんだ!!
しかもいい体してるから余計にね!(拳ぐっ/変態か)
できるならその肌に頬ずりしてみたかった・・・!!(コラ)
そんな私に気付かずに、
「助けてくれてありがとう」
普通に言うソラ。
なぜ平気なのでしょう・・・!(格好に驚いてくれ)
お礼を言わないのはやはり失礼なので、私も「ありがとう」と一言。
目線は当てられませんでしたが。(鼻血吹くっ!!)
「あ、そういえばここ、どこ?」
ソラが、どちらにともなく訊く。
うーん、知ってるけど言ったらまた怪しまれる。
「ここ、ここ」
ターザンが私の代わりに答えた。
…ターザンの返答を脳内訳すると:「ここはここです。」
・・・。
「確かにそうだけどさ;」
ターザンは言葉が達者ではないから、しょうがないんだろうけど。
「じゃ、リクとカイリは見なかったかな。友達を探してるんだ」
根気よくたずねるソラ。
…何だか逆に尊敬するよ;
「?」
首を傾げるターザンに、ソラは「と・も・だ・ち」と、一文字ずつ切って言った。
ターザンは何かを思いついたように「ともだち」と同じ言葉を言い返す。
…私が自分の世界を探してるってことも言いたかったけど、ターザンに言っても混乱を招きそうなので中止。
あぁ、何だか自分の事を自分でないがしろにしている気がしてならない。
ま、そこに萌えがあるなら万事OKだけどね!!(親指ぐっ)
「探してるのはリクとカイリだよ」
「アヒルと犬(?)の2人組みも、見かけたことがあったら教えて」
ソラが探している友達の名を告げたので、私も便乗してドナルドとグーフィーの事も言った。
ちょっと一気に話しすぎたかな、とか思ったが、ターザンは「リク、カイリ、アヒル、いぬ…が、ともだち?」と呟き、一人で頷いた。
・・・元々覚えがいいのか。
そういや映画でも抜群の理解力を示していた。
ていうか、覚えられるならドナルドとグーフィーの名前教えりゃ良かった。
「あ、私は」
「?」
「そう!」
やっぱし覚えがいいなぁ。
「ほら、ソラも自己紹介―――って、」
……何だか上の空?
ぼーっとターザンの後ろを見ているソラに、私は首を傾げた。
…。……あ、そういやあのシーンか。
ソラにカイリの幻が見えるシーン。
ゲームやった時は幻かどうかちょっと分かんなかったけど、現在私に見えていないのが何よりの証拠である。
ソラにしか見えていないのだ。
私はソラから視線を外してターザンを見ようとして…やはり天井を見ることにする。
ちょっと上の方を見て、視界にターザンの頭だけが入るようにすればいいのだ。
何だか気分的に微妙ですが。(謝りたい…)
「ともだち、ここにいる」
ターザンが言って、ソラはハッとする。
「本当か!?」
「※&&×%」
「??」
が、続けられたターザンの意味不明な言語は、私とソラには理解できなかった。
…いや、私はこの後の展開を知っているので言葉の意味自体は知っているのだが。
これってゴリラ語だもんね?
「※&&×%、ともだち いる」
「!ホント?!じゃ、つれてって。カイリとリクに会わせて」
不明言葉を地名か何かと解釈したソラが、ぱぁっと表情を輝かせて頼んだ。
私は当然ついていくつもりなので、無言で2人を見ている。
ターザンは自分の両手を胸にあて、
「ターザン。 ターザン、いく」
自己紹介(?)。
「俺、ソラ!ターザン行く、ソラ、行く行く!」
こくこくと頷いてにっこりと笑う少年ソラ。
うーん、生で見るとやはりほんわかするものがあるねぇv
さーて、今からジェーンやらゴリラに会えるんだなぁ。
精一杯愛をぶつけるぞ!!(ぇ)
そして私達は、今いる家の中から外へ出た。
あぁ、日差しが気持ちいい。
空気も澄んでるし。
この家はかなり大きな木の上に建てられたものらしく、随分と高い位置にある。
下の方を見ると、びっしりと木が生えているのが見えた。
木は長さ種類もまちまちで、その中には小さく池らしきものもある。
そして私はふと気付いた。
この中を通っていくの・・・!?
私、自慢じゃないが木登りなんぞしたこともないし、密林とか歩いた事もないですよ。
途端、冷や汗が流れるのが分かった。
あぁ、やっぱり元の世界に帰りたいよ・・・。
陽気に進んで行くターザンとソラの背を見つつ、そう思わずにはいられないのだった。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
随分遅い更新すいません;
他の連載とかもあるんで、どうしても遅くなりまして。
それにしてもまだこのシーンですね。またまた長くなりそうな予感です。
リクとのコンタクトがまたありました。
今の所深いこと考えずに読めば良いかと。
…というか、難しい伏線では全くないので、考える必要すら出てくる事もないでしょうが。(コラ)
さて、夢主はこの密林を超える事ができるのか。
大変そうだ…
それでは、また次回で。
2005.3.29