通路を抜けると、そこにはずらりとならぶ人間大のトランプ、偉そうな態度のオバサン、金髪の少女がいた。

 オバサンと少女は、法廷のような場所で向かい合っている。
 少女は証言台できょろきょろと辺りを見回す。
 私達は少女のかなり後ろの方にいるので、気付かれていない。

 裁判官席の左側についている短い階段を、先刻の白いウサギが息を切らせながら登った。
 登りきったと同時に金色のラッパを大きく吹き鳴らす。

「只今より開廷する!!」

 ウサギが叫び、少女は首をかしげた。
「裁判をするの?どうして?」

 それに答えることなく、ウサギは言葉を続けた。
「裁判長は、ハートの女王陛下!」

 そしてハートの女王と呼ばれたそのオバサンは、裁判官席で声高らかに「少女が犯人であることに間違いはない」と宣言した。

 少女――アリスは、証言台で「えぇ?」と声を上げた。






割別の鍵・07
逃げない。
〜私なりの答え〜







「駄目!」
 『私が決めたからお前が犯人だ』という、女王の無茶苦茶な理由で罪を着せられたアリスをソラが助けようとして、ドナルドが小声で制止した。

「僕らは他の世界に干渉しちゃ駄目なんだ」
「そんなのかわいそうじゃないか!」
 アリスを視線に捉えつつ、ソラはドナルドに反論。
 そうだよ!と、私も参戦。
 そんな小さなやり取りをしている間に、

「被告アリス、有罪!!
ハートの女王である私を襲ってハートを奪おうとした罪で、この娘の首を刎ねよ!!」

 ハートの女王は判決を下した。
 アリスは驚いて声も出ない様子。
 そして、


「ちょっと待ちやがれぇいっ!!」


 その裁判に割って入った約1名。
 勿論グーフィーやドナルドではない。
 ソラでもない。

 私です。

「そこのオバサン!!自分が女王だからってふんぞり返るんじゃない!!
大体アリスは何も盗んでない!」

 私はずかずかと前方に進み出て、証言台と裁判官席の間に来てからびしぃっ!!とハートの女王を指差した。
 後ろのほうからドナルドが「あぁ・・・」とか溜息をついてるけど、お構いなしさ!(コラ)

「何だこの生意気な娘は!」
 女王がヒステリックに叫ぶ。
 私は涼しい顔で「よ」と答えた。…いや、何か間違ってるけど気にしない気にしない。

 後ろの方からドナルド、グーフィー、ソラの3人が歩いてくるのを気配で感じながら、私は両手を腰に当ててふんぞり返った。
「とにかく!アリスは犯人じゃないの!!」
「そうそう、ハートを盗もうとしたんだったらハートレ…」
 グーフィーが、自分で自分の口を押さえて言葉を遮る。
 別の世界の情報は口外厳禁ですからね。
 恐らく「ハートレスの仕業だ」とでも言いたかったのだろう。

 ハートの女王はふん、と鼻を鳴らして言い放つ。
「証拠はあるのかね?」
「無いけど、それはそれで今から集めに行くからいいでしょう!」
 私はのっけから突っ返した。

 バチバチバチっ!!!

 私とハートの女王の間に散った火花は、どうやらその場にいた全員にも見えていたらしい。


 ***


 で。

 証拠を集めに参りました、ハスの森。
 そこかしこに生えているハスの葉は、平均して私達の身長の5〜6倍はある。
 裁判所を抜けて、出てきたのがここなのだった。

 アリスはまだ犯人として扱われているので、裁判所で大きい鳥かごのような檻に入れられていた。
 おまけにその檻は高い位置に吊り下げられ。
 あんな金髪美少女を檻に入れて吊り下げてどうするつもりだ!
 ハートの女王め、後で見てろよ・・・!!

「それにしても、何であんなにムキになったんだ?」
 ソラが私の右につきながら言う。

「だってさぁー。無実なのに疑われてるのって見てると嫌じゃない?」
「それは分かるけど、かなり必死だっただろ」
「うーん…、ソラだって私が突っ込まなきゃ突撃するつもりだったでしょ?」
「…まぁ、それは。」
 もごもごと、歯切れ悪く会話停止。

 なんて雑談をしていると。

「♪」
 微妙に聞こえる鼻歌。
 が、姿は見えない。

 仲間内の誰が歌っているわけでもなさそうだし、
 …って、よもやこれは・・・!!
 私は慌てて辺りを見回す。

「かわいそうなアリス。もうすぐ頭と体がサヨナラだ」

 今度ははっきりと聞こえたその声。
 私達は一斉に声の方向を振り向いた。

「ハートなんて盗んでないのに」
 切り株の上で、自身の頭をひょいひょいと弄ぶ紫の猫。
 はたから見れば滑稽でしかないその動作は―――
 ま、間違いない!!!

「どどどどうもこんにちは!!!」
 
チシャ猫さん!!と名前を叫びたかったが、名乗る前に呼ぶと疑われるのは痛いほど分かっている。(経験により)

 勢いよく背を90度まで折り曲げた私に、チシャ猫は「ふむ」とか何とか言って姿を消す。
「!?」

 ま、待って下さい!
 まだ全然話すらしてないよ!!
 不思議会話やらせてくださいー!!(何)

「わっ、」
 数秒の間を置くことなく、ソラが声を上げた。
 ソラの頭にチシャ猫が仰向けに寝そべっていた。

「何だコイツ!?」
 ソラがチシャ猫を掴もうとするが、チシャ猫はジャンプで立ち上がってひょいひょいと身軽にソラの手を避ける。


「こんな遠い所までようこそ、異邦人?」
 チシャ猫は、明らかに私だけを見て言った。


 …え?

「それどういう…、」
「犯人はこの森を通って出て行ったよ。証拠ならすぐ見つかるはずさ」

 言い終わらない内に、チシャ猫はその姿を再び霧のように消した。
 そして声だけが響く。

「…犯人は闇の中、チシャ猫も闇の中―――」

 遠ざかる独特な声に、私は追おうとして方向を見失う。
 どっちに行ってるの?
 不思議な事に、声の方向からじゃ分からない。何処から聞こえてるのか分からない。

「頑張る事だね、異邦人」

 最後にそれだけ聞こえて、それ以降は何も行ってこなくなるチシャ猫。
 …いなくなった?


「なぁ、イホウジンって俺らの事?」
「確かに、違う星から来たし…」
「あっひょ、分かるんだねぇ」
「……」

 いや、私の方だけを見て言っていたんだと思ったんだけど…。
 見間違いなの?
 でも確かに…、

 じゃあ、異邦人は私?

 チシャ猫は私が「外の世界」から来たのを悟ったのだろうか?
 まぁ、ゲーム内でも「チシャ猫は何でも知ってる」って言ってたしなぁ。


「…って、それより証拠品!!」
 私は男性陣を振り返る。

「さっさと探すよ!」
「おー!!」
 ソラが右手を上げて賛成。
 ドナルドは「干渉が・・・」とかブツブツ言ってるが、この際無視。(酷)
 グーフィーは別に何も言わない。
 無関心なのかツッコむと面倒な事になるのを知っているのか。
 ・・・両方?

「さーて、まずはあの上っ」
 背の高いハスの葉の上を指差す。
 私はこの面を既にクリアしていたので、証拠の品の在り処は全て覚えている。
 1回やっただけだけど、ゲームの覚えなら負けませんぞ!!

「よし、行くぞ!」
 張り切ったソラが、自分の身長とほぼ同じ大きさのキノコに登る。
 …って、ちょっと待てぃ。

「そんなの無理じゃん…!!」
 言ってから気付いたが、私は一般人である。
 ソラのようにジャンプ力凄かったり落ちても平気だったりはしないのですよ。
 というか、こんな普通のアスレチックより遥かに凄い場所で普通の女子高生にどうしろと?
 さっきチシャ猫に言われた「頑張る事だね」はこの事か!?

「どうしたのー?」
「早くおいでよー」
 ドナルドやグーフィーまでもが、キノコに登って背の高いハスの上に飛び移り、手を振ってくる。

「ま、待ってよ!!私登れないっ…」
「「「えぇ!?」」」

 どうしようどうしよう…。
 ワンダーランドでこれだったら、これから旅をしていく自信が無いよ!!?
 他の世界にはもっと過酷な場所があるし。

「ったく、しょうがないなぁ」
 ソラが目の前のキノコの上まで降りてきて、私に両手を差し出した。

「え?」
「早く登って来いよ」
 ちょっとそっぽを向いて言うソラ。
 ・・・。

 な、何て可愛いんだろう・・・!!

 あぁ、恥じらいですか?!恥じらいですか!!?
 そりゃあれですよね、真正面から異性見据えて引き上げるのはやりにくいですもんね。
 少年よ萌えをどうもありがとう!!!

 私はがしっと両手を掴み、何とか上に登ろうと頑張ってみる。
 運動神経が切れている私には果てしなく重労働だったが、何とか登れた。
 自分の体重を腕と足だけで持ち上げられる人、尊敬。

「こんなんで旅できるのかなぁ・・・。」
「言わないでよ、私だって限りなく心配だよ・・・。」
 出発初っ端から弱音を吐く『選ばれた人』と『それにくっついていく羽目になった女子高生』。

「こっち!何かあるよ!!」
 ドナルドの叫びに、私達は溜息をつきながら立ち上がった。


***


 あれからあちこち探しまくって、何だか怪しい箱を何個か見つけた。
 確かこれが証拠となるはず。

 私は、ハスに飛び移ったりキノコによじ登ったり、果てはどこかの隠し通路から落っこちたりで相当バテていた。
 ていうかこれでバテない女子高生を見てみたい。
 運動部だってキツいよこれ。
 明日は筋肉痛だ・・・。(貧弱)

 疲労でぜぇはぁ言いながら、私達は女王の元へと戻ってきた。
 …尤も、息を切らしているのは私だけだったが。


「証拠は集まったのかい!?」
「あ、あつ、まっ…げほんっ!!集まったわよっ!!」
 必死で息を整える私。
 あぁ格好悪い・・・。

「くらえぃっ!!!」
 私は箱を一つ開けて女王へ投げつけた。(某法廷?)
 箱の中からハートレスが出てきて、すぐに消える。
 …残像?何だろう。
 とにかくこれが犯人像だ!!

「どうだっ!」
「アリスは犯人じゃないよ」
 ドナルドとグーフィーが女王にびしっと言った。
 …何だ、2人も言いたかったのか・・・(違)

「むむむ…っ、」
 女王は悔しそうに唇を噛む。
 よしゃ、これでアリスは晴れて無罪!
 …って、何か忘れてるような?

 それがなんだったか考える暇も無く、

「第29条!女王に逆らう者は有罪!!ひっとらえろっ!!!
「「「「えええぇぇぇ!!!?」」」」
 女王がトランプ兵に命令を飛ばす。
 私達はあっという間に取り囲まれた。

 待て!犯人突き出したら今度は反逆罪ですか!?
 いくら自分の挙げた犯人と違う奴を突き出したからって即行で有罪判決にするか!?
 若干十代後半で牢獄行きはいやああぁ!!
 てか、証拠品何個も集めた意味無いー!!!(そこか)

「かかれー!!」
 掛け声と共に一斉に飛びかかってくるトランプたち。
 私は思わず目を閉じた。

 恐い。
 事故にあう直前と同じような感じがして目を閉じてしまった私は、しかしそれで納まるわけでもないと知っていた。
 だから目を開けようとした、その瞬間。

『ガキンッ!!』
『ドンッ!!』
『ガンッ!』
 …何だか様々な音が、間近で響く。

!目を閉じたら駄目だ!」

 目を開いてはじめに見たのは、武器で戦っている皆。
 …あぁ、私だけ守られてしまったのだと。
 奇妙な罪悪感が私を支配する。

 でも。

「ど、どうすればいいのよ…っ」
 戦い方なんて、分からない。
 まともなケンカすらしたことがないのに。

「集中して!」
 ドナルドは魔法で応戦しながら、後ろにいる私に向かって叫ぶ。
 グーフィーの攻撃でトランプ兵が1人目を回す。

「で…っ、できないよ…!!」
 こんな状況でどうやって集中しろっていうのよ!
 ゲーム中のソラはよく魔法なんて使えたものだわ。

 いつ自分がやられるか分からないその中で。
 避ける事も考えずに?

 恐い。恐すぎる。
 一般人には無理ですってば!!(言うの何度目だろう…)

っ!!」
「無理!!」
!」
「駄目だってば!」
ー!!」
「嫌ー!!!」

「違う!後ろ!!」
「!?」

 私は驚いて振り返る、―――暇も無く。

『ガッ!!』

 トランプ兵の持つハートの槍の柄で、背を殴打された。

「ぃ……っ!!」
 本当に痛いときには声など出ない。
 マジで痛い。

 私はその場に膝をついた。
 …あぁくそぅ、これじゃ前と変わらないよ私。
 皆の足を引っ張るだけ。


 あんなに、嫌だったでしょう?

 ほら今も。


 …あーもう。
 進歩しないよ私。
 魔法貰ってどこか喜んだでしょう?
 皆の足手まといにならなくなるかも、って。

 それなら…



 少しくらいは根性出してみなきゃ始まんないって知ってるだろ私!!!



、回復魔法を…っ」
「今助ける!!」

 ゆらり。
 私は立ち上がる。

「んーん、いらない。」

 俯いたまま、微笑をたたえて。

「…?」
 グーフィーが、アリスの檻の上げ下げを操作するためのハンドルを壊す合間に、こちらを見て「どうしたの?」と表情で問いかけた。

 私は、
「……―――――」
 ぼそりと呟いた。

「え?」
 聞こえなかったのか、ソラが聞き返す。
 …近くにいたドナルドには聞こえたらしく、思いっきり目を見開きましたが。(その顔で更に開けるのかその目)

 聞こえなかっただろうその言葉を、私はわざわざ大声で繰り返してみる事にした。


「…おんどりゃ、ええ加減にせぇよこのトランプ共がー!!!」
ダゴンッ!ドンッ!!ダダダダダダガンッ!!!』

 叫びと共に大量の火球。
 そう、私が根性で集中して乱射しまくった物だった。

 何やら大勢の悲鳴が聞こえるが、すっきりしたのでオールOK!(コラ)


 爆煙が去った後見てみると、見事に幾つもの小クレーターが出来てました。
 トランプ兵は壊滅状態。
 ソラたちは私が避けて撃ったので、一応は無傷。
が、

「「「・・・・・・」」」

 固まってます。


 そして、檻を操作するためのハンドルが私の魔法によって壊れてしまったため、上のほうに上げられていた檻がゆっくりと降りてきた。
 …しかし、そこには。


「……・・・・・・・・狽ヘっ、小娘は何処へ行った!?」
 一番はじめに我に返った女王は、檻の中を見て声を荒げる。
 アンタ…指導者がぼーっとしててどうするよ・・・。

 それはそうと、檻の中にいたアリスは影も形もなくなっていた。
 つまり、行方不明。
 女王も何処に行ったか知らないようである。
 …ゲーム通りなんだけど、途中までしか攻略してない私にはどこに行っちゃったか分からない。

「被告人を探せぇっ!!」
 ハートの女王が命令を飛ばす。
 それによって、ほぼ焼却されきったトランプ兵達はヨレながらも必死に駆けていった。
 あーあー、墨になってるんだから風吹いたら崩れちゃうぞー?

「ソラ!ドナルド!グーフィー!!」
 私が呼ぶと、皆はようやく気付いたようにびくりと肩を震わせた。

「ぼーっとしてないでアリスを探しに行…」
 言いかけて、私は違和感を覚える。

 …体に力が入らない。

「…?」
「・・・・・・う・・・、」

 あれ?何で?
 私何もしてないよね?

 なのに力は抜ける一方。
 な、何!?何事・・・?!

 私はその場にへたり込んだ。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

終わるとか言っといて終わりませんよ!わぁ!!(コラ)

ゲーム内でソラは登ったり降りたり飛んだり跳ねたりしてますが、夢主さんは無理だろ!!
寧ろ、あれだけ動いて疲れないソラ達は凄い。

…それにしても夢主、暴れたなぁ・・・。
暴れられるだけで、強くは無い気がするのですが…。

それでは次回で会いましょう!

2005.2.26