後悔なんかしていない

 こうして外の世界に来られたじゃないか

 俺は、闇を恐れない



 聞きなれたような、そうでないような、テノールの声。
 姿は見えないのに、不安になる事はなかった。

 視界は真っ暗、闇の底。
 けれどどこか落ち着ける場所。

 あぁ、これは夢?


 お前は誰だ

 なぜキーブレードを持つ資格を与えられた?



 私?
 私の事?

 私には資格なんてない。
 ただ、欠片を持つだけ。

 …貴方は誰?


 俺は―――


 暗闇が少しだけ照らされて、私は正面に誰かがいる事にはじめて気付いた。

 私より拳一つくらい高めの身長、逆光で中途半端なシルエットしか見えないけど、結構鍛えられているんだろう身体。
 …覚えがある気がするのに、頭に霞がかかったようで思い出せない。

 誰、なの?


 ――――――、
 ――――………


 聞こえない。
 何で?

 瞬間、何も見えなくなるほどの強烈な光が辺りを満たす。
 私は思わず目を閉じて、それから。

 はっきりと、思い出した。






割別の鍵・06
ハート
〜不思議ワールドへご招待〜







「リクっ!!!」
 私は飛び起きて早々叫んだ。

「な、なな何だ?」
「お友達の夢?」
 向かって正面の席と、斜め前の席から私に声をかけてきた2名。
 ドナルドとグーフィー。

 私は周囲を見回した。
 この部屋……操縦室を覆っている、ドーム状になっているガラスの外には、何だか星っぽいカラフルなものが浮遊。
 …あぁ、世界と世界の間を船で移動している内に寝ちゃったんだ、私。

、リクを知ってるのか!?」
 斜め左前の席から振り返って身を乗り出すソラ。
 ちなみに私は後ろの席に位置しているので、誰かが振り返らない限り皆の後頭部しか見る事はできない。

「え、いや…そのっ」
って色んな事を知ってるよな?じゃあ居場所とか分からないのか?」
「それはちょっと…分かんない。知ってるのは名前だけだから」
「そ…か」
 残念そうに、正面に向きなおすソラ。

 …ごめん、私も最後まで知らないから。
 名前だけを知ってる、なんて嘘だけど。本当は他にも知ってるけど。
 私が知っている事もまた、一部でしかない。

 というか、そこまで教えちゃったら何かしらのシワ寄せが来そうで恐い。
 結果的に未来を教える事になるんだから。


「皆、見て!」
「え?」

 私が微妙に考え込んでいると、グーフィーが前方を指差して言った。
 その先には、

「なっ、何だアレ!?」

 奇妙にピンクな……、…星?
 いや、あれが一つの世界なんだけど。
 ソラが驚くのも無理は無い。
 宇宙のようなこの空間に、ぽっかりとチェック柄の不思議物体が浮いているのだから。

「この世界には誰かいそうだね。よし、降りてみよう!」
 操縦桿を巧みに操るドナルド。
 …誰もいなかった世界があるのか。
 まぁ、色々とごたごたしてるみたいだからなぁ。

 グミシップが着陸したのを確認し、私はシートベルトを外して真っ先に船の出口へと向かっていく。
 ワンダーランドだアリスだチシャ猫だー!!
 私はこのワールドで会える登場人物達を想像しながらうふふと笑った。(わぁ)

 タラップが降りるのをその場で駆け足しながら待ち、開いた瞬間にダッシュをかける。
 後ろでドナルドやグーフィーが待ったをかけるのも聞かずに。

 瞬間、

「!!?」
「「「っ!!!」」」

 私は片足の足場がなくなるのを感じた。
 …否、足場の無い場所に自ら突っ込んだ。

 つまり、船は着陸したはずなのに、外に出た私は落ちかけたわけで。

「いっ、いやあああぁぁ!!!?」
 既にパニック。
 誰か助けてーっ!!

 ぐらつくつま先。このまま少しでもバランス崩せば真っ逆様・・・!!

「くっ!!」
 ソラが私の服(制服)を掴む。
 が、とっさのことでうまく掴めなかったらしい。
 逆にバランス崩して2人もろともぐらついた。

「「ソラ!!!!」」
 ドナルドとグーフィーが私達を助けにかかる。
 あぁ、頼れるのはあなた達だけ・・・!!
 んが。

 ドナルドは身長足りずに突っ込んだだけ。
 グーフィーだけじゃ勿論力が足りずに・・・

「いやあああぁぁー!!」
「わぁっ!!」
「うわーっ!」

「あひょっ!」

 
結局落ちました。(妙なリアクションにはもう突っ込むまい…)

 あぁ、これはバチが当たったのでしょうか…。
 世のKHファンを差し置いて毎度毎度萌えててすいません・・・!!
 それともあれかしら、
 以前友達の誕生日をきっかり1ヵ月間違えた報いでしょうか・・・!!?(実話)

 ・・・って、そんなモンで死んでたまるか。(そんなモンってアンタ)

 私は必死にもがこうとして、そしてふと気付く。
 …あれ?
 何だか落ちる速度がゆっくりだよ。

 ・・・あぁっ、そうだった!
 この世界…ワンダーランドに入る時は落ちながら入るんだ!
 すっかり忘れてた。

「フワフワする」
「とりあえず落下死は免れたわ・・・。」

 円筒形の細長い空間を、ゆっくりと降りてゆく私達。
 壁には無数の時計。
 針を刻む音を聞きながら、私達はようやく床に到着した。

 ふわりと降り立つ私達。
 ・・・グーフィーだけは「ドタッ!!」とか良い音立てて顔面直下してましたが。

「グーフィー大丈夫?」
「あひょっ、大丈夫!」
 しゃがんで声をかけると、案外と平気そうに起き上がるグーフィー。
 打たれ強い・・・!

 と、そこへ。

「遅刻だ遅刻だー!!」
 物凄い勢いで駆け抜けて行く何か。
 慌てて見てみると、何やらコートとチョッキ着てる白い物体がダバダバ走っていた。

 ウ・・・ウ・・・・・
 ウサギだぁ!?

「あぁ、しっちゃかめっちゃか遅れちまって、歩いてたんじゃ間に合わない!!」
 大きな懐中時計を見ながら駆けていくウサギ。
 進行方向からしてどこから現れたのか少々不思議だが、まぁそこは不思議世界ワンダーランド。
 気にしない気にしない。

「何だ、あのウサギ?」
「追おう!」
 私は真っ先にウサギを追い始めた。

「ま、待てよ!」
 後に続く3名。
 ウサギがいつの間にかどこかへ行ってしまっていたので、私はこの部屋唯一のドアを開ける。
 開ける。開ける。開け―――

 何枚あるんだこのドア

 私は立て続けに現れる何枚ものドアを開け、中に入る。
 するとそこは。

「うわぁ…」
「何だ!?部屋が小さい!」
「えぇっ」

 全体的に妙に小さい部屋。
 まるでミニチュアの家の中にいるようだ。

 私は手近にあった小さなベッドをふにふにと触る。
 ・・・・・、ふかふかだ…!!!

 …じゃなくて。
 確かこの辺に…

「ふあぁ・・・」

 私が辺りを見回すと、どこからともなくあくびの声が。

「誰だ!?」
 ソラが辺りを見回す。
 声は私達の誰の声でもなかった。

「全く、うるさくて眠れやしない」

 のんびりとしたその声は、とても低い位置から聞こえていた。
 私はそれに思い当たるものがあった。

「そこかぁっ!!」
 がばっとしゃがみこんで覗くと、壁の低い位置に顔のついたドアノブがいた。
 ドアノブは、睡眠妨害をされて少々むっとしているようだった。

 でたぁっ!不思議の国のアリスのドアノブ!!!
 私は人差し指でノブを突っつきまくってみる。

「あだっ、お嬢さ、やめっ、ふぶっ!や、やめんかね!!!
「え?あはっv 突っつくの昔からの夢だったんで!
 そりゃもう絵本を読んだ当時から!!
「どういう夢だよ・・・」
「そこのソラ、ツッコミは却下よ。」

 うふふと笑って振り向けば、ソラは呆れたように肩を竦めた。
 ・・・ソラに呆れられるような性格じゃないと思うんだけどなぁー。(性格の問題でもないと思うが)

「ところで、何でこの部屋はこんなに小さいの?」
 ドナルドがドアノブに尋ねる。
 ドアノブは、人間で言う鼻に当たる部分を(手が無いので)痛そうに見つめながら、ドナルドに答えた。
「お前さんたちが大きいだけさ」
「えぇ?」
「どうすればいいんだ?」

 ソラが首を傾げる。
 私はドアノブの「そこに薬があるじゃないか」発言を期待していた(単に声を聞きたいだけ)のだが、

『ボンッ!!』

 ドアノブが言った直後、背後から爆発音。
 待て!!最早言うのも面倒なのか!!?
 ドアノブを見てみると、既に二度寝の体制へ入っていた。(というか爆睡
 怒ったの?怒ったの!?(滝汗)

「テーブルだ…」
「あ、その上に何かビンがある」
 先刻の爆発の煙と共に現れたのは、ラベル色の違うビン2本とテーブルだった。
 ビンの中には、何やら液体が。

「あひょっ、飲んでみたらいいんじゃない?」
 グーフィーが、その内の一つを手に取る。

「え?」
 私はそのビンを凝視する。

 ・・・・・・ちょっと待て。

「まままま待ってええぇ!!!」
 私は必死でグーフィーに制止の声をかける。
 が、時既に遅し。

 グーフィーが飲んだのは、赤のラベルと青のラベルのビンの内、赤だった。
 待ってよそのビンの中身って、大きくなる方の・・・っ!?


『ズオオオオオォッ!!』
「あひょっ!!?」

「「「ぎゃああぁ!!!」」」



 案の定、グーフィーは部屋半分を占領するほどの大男になりました。
 私達がいるので狭いのなんのって。

「何だこれ!?グーフィーがでっかくなった!」
「大変だ!!」
「グーフィー、これ飲んでっ!!!」
 2人が大騒ぎをしている中、私は遥か上にあるグーフィーの眼前めがけて青いラベルのビンを投げた。
 グーフィーは何とか親指と人差し指でそれをキャッチした。

 ビンを傾けて中身をちょこっと舌先にたらすと、グーフィーは今度は私達より小さくなった。
 ・・・不便だ、この薬。

 手のひらサイズになったグーフィーが手を振る。
 落ちてきた青いラベルのビンを、私が受け取った。

「何だか妙な世界に来ちゃったなぁ・・・」
 ドナルドが、うーんと唸りながら言った。
 ソラがそれに首肯する。

「とりあえずあの薬飲まないと先に進めないでしょ?全部小さくて」
 私は、通路の邪魔をしているベッドを押しのけ、それから青いラベルのビンに入っている薬を飲んだ。
 途端に、世界が大きくなってゆく。
 …否、私が小さくなっているのだが。

 薬ビンが『ゴトン』と音を立てて落ちた。
 私は、自分と比率が同じになったグーフィーに「お待たせ」と挨拶。
 グーフィーも右手を上げてノってくれた。わーいv

「ほら、早く2人も飲んでー!!」
 口に両手をあてて叫ぶ。
 が、ソラとドナルドは妙に戸惑っている。


(・・・なぁ。こ、これって、かかか間接・・・っ
(それを言ったらグーフィーも…)
(いや、グーフィーは口付けてないじゃんか!問題は・・・)


 何が話されているのか聞きづらい。
 ていうか、何でこっちを見る?
 しかも微妙に赤くなってないか?

「何してるの!早くー!!」

 …そう急かしてから、気付く。
 あれ?この状況・・・ソラのズボンの隙間見放題?

 私はダッシュでソラの真下へ。
 さぁズボンの中身見せてください!!!
 意気込んで上を見上げた、その時。

『しゅるんっ』

 ソラとドナルドは私と同じ比率の大きさに縮んだ。
 私は思わず後ろを向いて地団太を踏んだ。

「皆、道があるよ。行こう」
 グーフィーが指差したのは、先刻私が開いておいた通路。
 私は何とか立ち直ってそちらに向かう。
 …が、

「何してるのよ男性陣」

 一向に進もうとしないソラとドナルド。
 それどころか俯いてるんですが。

(…め、目が合わせられない・・・!!)
(デイジー許して・・・!!!/半泣)


「?」
 不可思議な2人の行動に、ただ首を傾げる私だった。





〜To be continued〜






<アトガキ。>

ワンダーランド編ですね!
毎度恒例、長いので切ってみました。
ギャグが入って楽しかったです。
いや、この世界はそんなに長くならないつもりなので生暖かく見守ってやってください・・・!!(汗)

題名の前のあれは、……まぁ、あれです。(何)
後に何か関係があるというか。これからもちょこちょこ出てきます。

それでは、次回をお楽しみに!

2005.2.9