天気は快晴。
所はデスティニーアイランド。
心地よい風が吹く。
煌めく太陽、白い砂。
打ち寄せる波は、際限なく。
そして丁度波が届くか届かないかの位置に、2つ折りにされた1枚のピンクのカードがあった。
当然元からそこにあったわけでもないそれは、恐らく誰かが落としたものなのだろう。
時折風でゆるくはためくそれを、誰かが拾い上げた。
贈り物・KH ver.
〜カードが伝える想い〜
「…ほう」
感慨深げに一言呟いたのは、横になったパオプの木の幹に腰を下ろした少年。
少年…リクは、先刻拾ったピンクのカードを読み終えて元のように折りたたむ。
「おーい!!リク!!」
そこで聞こえたのは、まだ幼さの残る、リクとは別の少年の声。
その声に振り返ると、そこには幼馴染の姿。ソラだ。
自分のいる小さな島と本島を繋ぐ短い橋を、走って渡ってくる所だった。
「カイリ知らないか―――って、何やってるんだ?」
リクの手元を見たソラは、歩調を緩めて木の前で止まった。
「あぁ、さっきこれを拾ったんだ」
「何だよそれ?」
「見て分からないのか?カードだよ」
「そんなの分かってるって!」
端から見ればからかわれているのがはっきりと分かるものだが、ソラはどうやら真剣に受け取っているらしい。
よく言えば素直、悪く言えば単純。
やれやれ、と肩を竦めたリクが、木から下りてソラに例のカードを差し出す。
「浜に落ちてた。中見てみろよ」
「え?でも誰が落としたか分かんないんだろ?じゃ勝手にみるのは…」
「いいのか?」
ニヤリ、と嫌な笑みをたたえるリク。
ソラはそれにそこはかとなく嫌な予感を覚え、眉を寄せつつもそのカードを受け取った。
ゆっくりとカードを開き、青い瞳を走らせる。
「えーと……『大好きです。あなたとずっと一緒にいられますように。 』…。……へ?」
カードの内容を読み上げたソラは、数秒してようやく言葉を理解できたのか、見る見る内に耳まで赤くなっていく。
カードに書かれていた文字は、幼馴染の一人であるのものだった。
だとすると落としたのもだろう。
海の水に濡れてしまって2行目までインクが滲んで読めないが、残りの文章はソラが読んだそれである。
恐らく字の形からして1行目は受取人の名前、2行目は本文の1行目なのだろう。
「リ、リク…これ…」
「が書いたんだろうな。誰が受け取る予定だったのかはこの通りだ」
「………」
カードを開いたまま、ソラは口を半開きにして沈黙。
「誰宛に書いたカードなのか、気にならないか?」
「!わ、分かるのか!?」
途端に反応するソラを面白そうに見た後、リクは首を横に振る。
「だから分かるわけないって言ってるだろ。字が滲んでる」
「何だよ、それなら分かったような事言うなよ」
ぷぅ、と頬を膨らませるソラ。
それだからに子供っぽいと称されるのだと、本人が無自覚なのだから困ったものだ。
と、その時。
「ソラー!!まださっきの勝負の決着ついとらんでー!」
黄の服を着た少女が、ヌンチャクのような縄跳びを引きずりながら橋の上を駆けてくる。
…そう、引きずって。
「ぐっ…、セル…フィ、やめ……」
セルフィと呼ばれたその黄の服の少女。
彼女が持っている縄跳びの先には、棍棒を右手に青ざめている男子の姿が。
彼の首にはしっかりとセルフィの縄跳びが巻きついている。
「ティ、ティーダ!!」
あまりの光景に思わず声を上げるソラ。
簡略化して言うと、セルフィがティーダの首に縄跳びを巻きつけて引きずってきているのだった。
「あ、忘れとったわぁ。ごめんごめん」
橋を渡りきった所で、ようやく気付いたように歩を止めて縄跳びを解き始めるセルフィ。
何の理由があって首に縄跳びを巻いたのかが気になる所だが、ツッコんではいけない。
恐らくいけない。
・・・・・縄跳び少女、恐るべし。
「ソラ!決着はまだついてへんで!」
解き終わって立ち上がり、ソラに向き直ってふんぞり返る少女セルフィ。
あまりの気迫に一歩下がる少年ソラ。
強弱図式が、今ここに。
「何だソラ、勝負の途中で抜けてきたのか?」
地面に横たわって痙攣を繰り返すティーダを横目で気にしつつ、リクはソラに問いかける。
「いや、抜けたっていうか…」
セルフィがにじり寄ってくる為余裕がないのか、ソラは生返事をする。
そういえばソラがここへ来る時「カイリを知らないか」と言っていたような気がする。
「…あれ?ソラ、その可愛いの何?」
ふとセルフィの目に止まったのは、件のピンクのカード。
「あ、ああ。これか?リクが拾ったらしいけど――」
「見せて!」
「えっ!?けど」
「けども何もあらへん!!」
縄跳びから手を放し、セルフィはソラからぱっとカードを奪った。
「あぁ!」
「どれどれー?」
焦るソラを尻目に、カードに書いてあることを黙読するセルフィ。
やがて読み終えたのか、「わぁー」と感嘆の声を上げた。
「何やのコレ!ラブレター!?」
ぱぁっと表情を輝かせてカードから顔を上げた彼女。
彼女は色恋沙汰が大好きである。
「差出人はちゃんか…。でも受取人がわからんなぁ?」
「それを今考えていたんだ」
冷静に受け答えをするリク。
それをなぜか恨めしそうに見るソラ。
自分だけが焦っているのが気に入らなかったのだろう。
ティーダにようやく血の気が戻ってきたのをリクだけが確認しながら、カードは地面に広げて置かれる。
ソラとセルフィがそれを囲むようにしゃがみこんで、完全に密会状態。
リクも立ったままではあるがそれに参加する。
「ちゃん、好きな人おらん言うとったけど、やっぱしおったんやなぁ」
「だ、誰だと思う?」
「うーん…彼氏にするなら同年代か年上がいいとか本人に聞いたことあるから、リクかワッカ?」
「!!」
聞いた途端、眉根を寄せるソラ。
「そ、そんなの分かんないだろ!年下で元気なのもいいかも、っていうのも俺聞いたからな!」
「えー、それホント?」
ジト目でソラを見るセルフィは、完全に疑ってかかっている。
ソラが何か反論をしようと口を開く。
が、言葉を出す直前に、自分達にかかる影が1つ増えた事に気付いた。
「なーにやってんだ?皆集合して」
「「ワッカ…」」
ボールを抱えた少年・ワッカ。
彼がソラ達の囲んでいるそれを覗き込んだのだった。
「カード…?」
輪の中心にあるのがピンクのカードだと気付き、ワッカは首を傾げる。
「あぁ。が落としたらしい」
「が?」
「書いてあるんは愛の告白やのv誰に渡すつもりやったんか気になるわぁ」
「へぇ」
ボールを小脇に抱えてセルフィの隣にしゃがみこむワッカ。
「へぇって軽く言うけど、お前気にならないのか?」
ソラが問いかけるも、ワッカはふふんと鼻を鳴らして。
「そりゃ、俺様が貰うはずだったんだからな!」
得意げにそう返された。
「なっ、嘘だろぉ!?」
「ホンマ!?」
「…ワッカ、確証は?」
騒ぎ立てる2人を溜息でかわし、いつものトーンでワッカに尋ねたのはリクだ。
「ある!俺はに惚れられてるはずだから当然だろ!」
自信満々に言うワッカに、盛大に溜息をつくその場のティーダを除く全員。
色恋沙汰に対して地獄耳とまで言われたセルフィに全く情報が入っていない時点で、根拠の無い証言だとは薄々思っていたものの。
これほど自信ありげに言われれば数秒でも信じてしまいそうになるものなのであって。
緊張が解ければバカな心配だったとは思うのだけれど。
「な、何だよ!」
「…何かもう同情するわ…」
セルフィにぽんと肩を叩かれ、むっと顔を顰めるワッカ。
そして、
「ぅ…」
ゆっくりと上体を起こす、今まで気絶していた人物。
「ティーダ!」
「…はれ…?俺は今まで…」
何を、と言おうとして止まる。
「・・・・・・・・・」
「どないしたん?」
セルフィの顔がそこにあった為だと思われる。
「いっ、いやっス!!もうやめてくれー!!!」
「な、何言うとるん?もう何もせんから!」
否定しない辺りが恐ろしい。
そう思ったのは恐らくティーダとセルフィ以外の全員。
同時に、座ったままなのに凄い勢いで後ずさったティーダへ哀れみの目を向けざるをえなかった。
一体気絶する前に何があったのか。
…誰も聞くことが出来なかった。
「…とにかく。このカードを誰が受け取るはずだったのかは分からないわけだ」
リクが元の話に戻して、(遠くで震えるティーダからは視線を外して)全員カードを見直す。
「セルフィ、…その…、好きな人がいそうな行動とか取ってなかったか?」
ソラが少々どもりながら話を振る。
いそうな?と、少々不可解な言葉に疑問符を浮かべるが、セルフィは首を横に振った。
「行動どころか、本人の様子が変とかそんなんも全くあらへん。ポーカーフェイスがうまいんかもしれん」
「んー…。」
「手がかり無しかー」
ボールを地面に転がすワッカと、完全に地面に座り込んであぐらまでかいたソラ。
「それならいっそ本人に聞いてみたらどうだ?」
提案をしたリクは、輪の中心ではなく橋の向こうを見ていた。
「「「え?」」」
「皆ー!!」
リクの視線の先を見ると同時に、橋の向こうから走ってくる1人の少女が声を張り上げた。
だった。
「!?」
「そんなとこに集まって何してるの?」
橋を渡り終えて、密会状態のいつものメンツの前で止まる。
「丁度ええとこに来たわぁ、ちゃんコレ…」
「わぁ!!!駄目だってセルフィ!」
慌ててソラが止めようとするが、セルフィはソラを押しのけた。
「ええやん。こうなったら素直に聞いてみるんが一番手っ取り早いし」
セルフィは、さっさとカードを拾い上げてに突き出した。
「コレ、誰に渡すつもりやったん?」
「え?……あ、これ!!探してたの!」
「あ、やっぱり?」
告白に使う大事なカードなのだからそれは探すだろう。
問題はそれを誰に渡すつもりだったのか、だ。
「あー…滲んじゃってる」
「ね、ね、宛先は誰?」
「あ、渡す人?それはね、」
言おうとして。
「ー!!」
例のごとく橋の向こうから叫んできた人物約1名。
「カイリ!!」
が、がばりと振り返って手を振る。
言葉の先を邪魔された一同は少々不満顔だ。
「カイリ!見つかったよカード!!」
「良かったね!」
「うん。皆が見つけてくれてたみたい。やっと渡せるね。でも滲んじゃって…」
「いいのいいの!ありがとう」
「ううん!どうぞ!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・?
さらりと聞き流してしまいそうだったこの会話。
改めて頭の中でリピートしてみると大変な事実を知る事になる。
「…えぇ?!そのカード、カイリに渡す奴だったのか!!?」
真っ先に叫んだのは、ソラだった。
「俺じゃねぇの!?」
と続いたのは、ワッカ。
「え…だってカイリ、今日誕生日でしょ?皆知らなかったの?
で、プレゼントにこのカード挟んで渡そうとしたんだけど、途中で落としちゃったみたいで」
あー、名前の所と1行目が滲んで読めないー、とは眉を顰める。
「じゃ、じゃあ『大好き』とか『ずっと一緒にいられますように』とかって…」
「うん、これからもカイリとは親友でいたいからね。あ、皆ともだよ!」
「あぁー・・・・・」
気の抜けたようにぱったりと後ろへ倒れ込むソラ。
「あ、ソラ。カイリ探してくれてありがとね。結局手間は省けたみたいだけど」
「どーいたしまして・・・。」
ソラは気力の全くない返事をして、溜息をつく。
どうやらここに来る時カイリを探していたのはに頼まれていたかららしい。
「…ちなみに、1行目は何て書いてあったんだ?」
ワッカが、座った状態から見上げて問う。
「え?勿論『誕生日おめでとう』だけど?」
「あー・・・。」
ワッカも、ソラと同様に後ろへと倒れ込む。
もカイリも首を傾げるばかりだ。
「なんやぁ…片思いの相手に愛の告白かと思ったのにー」
2人につられてセルフィもぱったり倒れ込む。
青い空が視界いっぱいに広がった。
「そ、そんな私、好きな人なんていないし」
「ちなみにこれから好きになる可能性がある人物とか気になる人とかいるー?この中の人物で」
「え……」
セルフィが視線だけをに向けて問うが、からは返事が無い。
身を起こして向き直ると、は明らかに頬を染めていた。
「え、ちょ、ちゃんその反応は…」
「あ、あはははは…さいならっ」
問いただそうとしたセルフィの言葉を遮って、そのまま橋を走って渡り、本島に戻ってしまった。
セルフィは口をぽかんと開けてその姿を見ていた。
「…なぁ、あの反応って俺らにもチャンスはあるってことか?」
「少なくともこの中に気になる人物はいるっぽかったよな?」
いつの間にか体を起こしているソラとワッカは、にやりと笑って。
「「いよっしゃー!!」」
ガッツポーズを作った。
「…今の所、の心の内は神のみぞ知る、といった所か?」
「……リク。関心ないフリしててもあの輪の中に入ってた時点で気持ち丸バレだよ?」
「………。」
カイリがそう耳元で呟いたのを、聞いたのはリクのみだった。
〜Fin〜
――おまけ。――
「、本当に好きな人いないの?」
「うん…そのはずだけど」
「はず?」
頼りない返答をする親友に、カイリは尋ね返す。
親友…は、しきりに右へ左へ首をかしげている。
「だって…今までずっと友達だと思ってきた人が気になってきただけだし?」
(それも好きになったっていうことだと思うんだけどなぁ…)
不思議がるを眺めつつ、ぼんやりと考えるカイリ。
「で、気になるのは誰?」
「え、お、教えない!!」
「教えてよ」
「やだ!」
そんな押し問答が繰り返される、の自室。
その翌日から某男子の前での様子がおかしくなっていたのは、誰が見てもすぐに分かった事。
―――終―――
<アトガキ。>
1万ヒット企画一つ目仕上がりました!
短編として見られるようにしてみたのですがどうでしょう?
セルフィの言葉遣いに少々てこずりました…;
そしてティーダが哀れな事に…!!(あわわ)
今回夢主視点ではないドリを書いてみました。
何だか私らしくない文の出来上がり;
色変換も少なかった気が。…というか、1個も無かった!?太さ変換はありましたが…。
やはり壊れ夢主視点でないと壊れた文は出ないようですね。(寧ろこの方がいいのでしょうか?)
それではまたどこかの<アトガキ。>で。
2005.3.10