好き。
 大好き。

 伝えたのは私。
 伝えるのは私。
 それで満足してた。

 けどさ、私も一応女の子なんだよ?
 心配になるの。
 お願いだから、ねぇ。

 あなたの声で、あなたの言葉で。
 言ってほしいの――――。






011 : voice






「だらっしゃあああぁぁ!!!」
 私は、気合い(?)を入れつつプリントの束を持ち上げた。
 OPの可愛らしさの欠片も残っていない掛け声は、職員室前の廊下に響き渡る。
 先生にプリントを運べと頼まれた(命令された?)ので、職員室前の廊下のプリント置き場(机)まで取りに来たのだ。

 時刻は昼。
 昼休みの只中である。
 お弁当をマッハで食べ終え、ここまで来た。
 …そうでもしないと昼休み終了までに運びきれないと思ったのだ。
 量が多いと聞いたし、途中で休みつつ運んでたら時間も食うだろう。
 友達に手伝いを頼もうとしたが、昼練があるとかで断られてしまった。
 合唱部…大変なんだなぁ。

「ああぁ重いっ!!」
 本とかもそうだけど、こういう紙って重たいのよ。
 しかもこんなに大量に。
 いや、何もマンガみたいに前が見えなくなる程積んでるわけじゃないのよ。
 それだけあったらまず持ち上がらないだろうし。
 はたから見れば軽そうに見えるかもしれないが、実際女子にはキツい。
 つか、女子にこんなモン頼むな。
 はぁ…。

「っ、と!?」
 驚いた。
 いきなり紙束が軽くなった。
 何、誰か浮遊魔法でもプリントにかけたのか!?
 ってか、紙束の存在自体私の手から消えてるよ!!

「!」
 視線を巡らせると、私の右斜め前に私の持ってた紙束を両手に抱えてるデカ物発見。(をい)
 青髪にサングラス。
 いつもヘッドホンをしている、無口さん。

「司馬君…持ってくれるの?」
「……(こくり)」
 頷く司馬君。
「あ、でも全部は悪いし、ちょっとくらいは…」
「…((ふるふる))」
「おんどりゃ貸せゆうとろーがアフォ者。」
「!!……(((ビクビク)))」
 取り敢えず渡してくれたけど、それでも5分の1程度。
 優しいのはいいけど、全部任せてしまうのは私の性に合わない。

 彼…司馬 葵は、私のクラスメイトであり、恋人だ。
 司馬君とは席が近くて、よくノートを見せてた。
 …司馬君の方が、私に。
 いやぁ、私勉強はからっきしなのよねぇ。
 休み時間なんかは兎丸君も混ざって勉強会。
 ちなみにちゃんと女子の友達もいるけど、クラス違うのよね。
 その内に何だか一緒にいる時間が長くなって、気付けば司馬君が好きになってて。
 …で、告白した。
 誰がって、私が。
 両想いだったみたいだけど司馬君は見ての通り無口だし、何も言ってくれなくて。(いや、赤面&抱きしめがあったからOKとみなしたが)
 それでも好きだからまぁいいんだけど、私が好きって言ったきり司馬君は好きとも何とも言ってくれない。
 付き合うのをOKはしてくれた。
けど、本当に私のこと好きなの?
 ちょっとそれ疑問になってきたよ。
 確かに以前以上に一緒にいるよ。
 抱きしめてくれたりとかもするよ。
 でもなぁ…。
 不安になるものなんですよ、これが。
 告白したのが自分からだってのもあるし。

「ところで司馬君は何でこんな所に?」
 職員室の前なんて、用がなければ来ない場所に。
「……」
「……」
「…(汗)」
「・・・・・・・・・通訳は?」
「…」
 指をさす司馬君。
 その先には、職員室。
 ……もしかして。
「兎丸君、職員室に呼び出し?」
「……(こく。)」
「で、付き添い?」
「……(こくこく。)」
「んで、長引きそうだから先に教室に帰れと?」
「……(こくん。)」
 あー、それでこんな所にねぇ。
 教育相談が始まって2日目。
 兎丸君の番は今日だった気が。

「…あのさ、」
「?」
 廊下を歩きながら言うと、司馬君は私を見下ろして小さく首を傾げる。
 あぁー、カワイイ!!
 ・・・・・じゃなくて。
「司馬君って私のこと、どう思ってる?」
「!!」
 バサ、と司馬君の持ってたプリントが1部落ちる。
 慌ててしゃがんで拾う司馬君のその顔は、真っ赤。
 うーん、カワイイけどちゃんと言ってほしい…。

 私も手伝ってプリントを拾い終え、再びゆっくりと歩き出す私と司馬君。
「ねぇ。どう思ってるの?」
「……(滝汗困赤)」
 何だかカッコ内の文字が異様に増えとりますがな。
「言ってよ!ねえってばさぁ」
「……(困)」
 あ、一文字に減った。(見えるんか)
 困ってる…。
 でもそれって言えないってこと?
 何で?

 不安が、募る。

「…言えないの?」
「……(困惑)」
 階段を登る。
 教室は、まだ遠い。

「もしかして、嫌い?」
「!!(((ブンブンッ)))」
「…司馬君、女子に人気だからさ。何も私じゃなくったってもっと可愛い娘いるし。告白したのも私からだし?司馬君だったら断りきれずにOKとかもしそうじゃない。司馬君何も言ってくれなかったし…」
「……!」

 何してるんだろう、私。
 これじゃ通訳がいないのをいいことに司馬君をいじめてるようなもんじゃない。
 かなりヒドいと思う。
 でも…これが、私の本音。
 今まで言えなかった、私の心の内。

「怖いの…私なんか本当はいらないんじゃないかって、怖くて…」
「……っ」

 あ、ヤバい。
 自分で言ってて泣きそう。
 ここまで司馬君を困らせるつもりはなかったのに。
 …ていうか、本当に私のこと好きじゃない場合、私が泣いたら本気でウザいよね。
 やだ、嫌われる!?
 私は司馬君が好きだし、嫌われたくはない。
 止まれ、止まれ…!!

「……あ。」
 どうして。
 こんな時に限って涙は止まってくれないんだろう。
 溢れた涙は、頬を伝って廊下に落ちた。
 慌てて司馬君のいる方から反対に顔を向ける私。
 どうしよう…見られて、ないよね?
 見られたら終わりだ。
 ―――と。

「はわぁっ!!?」
 いきなり腕を掴んで引っ張られる。
 半ば引きずられながら猛スピードで階段を駆け上がり、着いた先は屋上。

「な…何事…?」
 息を切らす私に対して、やっぱり司馬君は呼吸の乱れすら全くない。
 司馬君はドアを閉め、私の目の前まで来てその場にプリントを置く。
 私もつられて置いて、・・・・・沈黙。
 何でこんな所まで引っ張られたんだ、私は。

「あの、司馬君…?」
 もしかして、正式に付き合い解消?
 うわぁ…シャレになんない…。

 私が内心焦っていると、司馬君が私の顔に手を伸ばしてきた。
 その指先で、私の頬と目尻を拭う。
「あ…。」
 私、泣いてるんだっけ。
 忘れてた。(をい)
 あーぁ、見られちゃった。
 終わりだ―――。

「…あの、ごめんね泣いたりして…すぐに泣き止むから…。だから嫌いにならな―――」
 『いで』。
 続けようとした言葉が、中断した。

「―――っ、」
 私の瞳に映ったのは、司馬君の顔のアップ。
 唇に感じる体温、腰と後頭部に回された手。

 ほんの2〜3秒。
 顔を離された時にはもう、涙すら止まっていた。
 …もう、顔どころか全身が熱い。
恥ずかしいから下を向こうとしたら、その前に司馬君の顔が見えなくなる程きつく抱きしめられた。
 私の肩に司馬君の顎が乗る。

 焦ったのは私。
 実はファーストキスだった。
 私は、ただ視線を泳がせるばかり。

『キーンコーンカーンコーン…』
 予鈴…
「司馬君、授業始まっちゃ…」
 言おうとした、次の瞬間。

「   」

 予鈴の続きが聞こえなくなる。
 今、何が起こった?

 耳にかかった、暖かな吐息。
 微かだけど確かに響いた、その声。

「司馬君…」
 再び唇を掠め取られ、私はどうしようもない程に鼓動を早めていた。


     「好き。」


 聞こえたのはたった一言。
 でも、これ以上嬉しいものはない。

 あなたの声、あなたの言葉。
 少し低めのその声は、私の耳に残って決して消えない。
 きっとこれだけ言うのに相当勇気がいったことだろう。

 唇が離れ、私は司馬君の背で両手を交差させて。
「私も」
 あなたの胸に顔をうずめて、にっこりと笑った。

 ごめんね、疑ったりして。
 ごめんね、変なこと言って。
 もう大丈夫だよ。
 ありがとう―――――。

 降り注ぐ太陽の光とあなたの体温が、暖かかった。





〜fin〜



―――――その後。

「おい、2人してどこ行ってたんだ?」
「まさかもう最後まで…」
「違うって!!屋上で話してただけ!!」
「……(汗)」
 結局あの後本鈴が鳴っちゃって、遅れて教室に入って注目されるのは嫌だから教室には戻らなかった。
 司馬君は戻ろうとしたけどね。(真面目だなぁ)
 結果、クラスの全員に疑われる始末。
 只今休み時間、クラスの皆に集合されてます。
「兎丸君、何とかしてぇー!!」
「本当に話してただけなの〜?」
「うわぁん兎丸君までー!!」
「ねぇ、本当なの?」
「……………うん。」
「何その間。司馬君、本当?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ふい、とそっぽを向く司馬 葵。
 ついでに頬も赤い。
「やっぱりちゃんと何かあったんだ!!司馬君やるぅ!!」
 肘でつつく兎丸君。
 ピュー、と口笛を鳴らすクラスの男子。
 騒ぐクラスメイト。
 あぁ、平穏よさようなら・・・・・。





〜完〜




<アトガキ。>

終わりました、ミスフルドリ第1弾!!!
初!ミスフル!!
…変換が1箇所しかない…(貴様)
しかも兎丸さんから呼ばれてるのみですよ…(死)

司馬さん大好きです!!!
無口だけど優しくて、カワイイんです!!!(力説)

よくサイト様でかなり喋ってる司馬さん発見しますが、あれはどうも…。
いや、いいんですが、私の中でキャラと一致しないというか。(個人的意見)
無口だからこその司馬さんでしょう。というイメージが強いので。
だから敢えて長くは語らせず(謝罪の言葉も入れず)立った一言。
その一言に謝罪も全部含んでるんでしょう。

初めてのミスフルということもあってかなり緊張してたんですが、わりとアッサリ進んで驚き。
半日でできました。(キー打ち続けだけども/遅)
司馬さんは比較的簡単でした。できないと思ってたのに。
打ってて気付いたんですが、何と私のキャラの中の某人にそっくりだったのですよ、司馬さんが。
その人、無口で恥ずかしがり屋なんです。(他にも似ている点が多々ある)
だからその人を書く要領で書いたらもう詰まることはなかったですね。

次…誰を書こうかしら…。
それにしてもこの2人…バカップル・・・・(禁句)

では、また何か書いた時にでもお会いしましょうか。

2004.7.24〜25