CAST

赤メットちゃん…
猟師…ヘビースモーカー
狼…ヘタレナンパ師
母…三つ編みっ子
おばあちゃん…鎧の中に入っていたにゃんこ
ナレーター…鎧





赤メットちゃん
〜そんな記念日〜





 昔、ある所に一人の女の子がいました。
 女の子は、いつも赤いヘルメットを被っている事から、赤メットちゃんと呼ばれていました。

「…って、頭巾じゃないの!?

 えっと…頭巾が備品室になくて;

「だからってメット…。ていうか赤いメットの方が珍しくない?」
「いつまでナレーターと話してるんだよ、赤メット」
「え?」

 赤メットちゃんが振り返ると、そこには兄さ…じゃなくて、赤メットちゃんのお母さんがいました。
 古臭いワンピースと、汚れたエプロンがとても似合っています。

うるせー!似合ってなんかねえ!!誰だこんな衣装選んだのっ」
「まぁまぁ、…お母さん!それで何か用?」
「(ちっ)あー。ばあさんの家まで………………何だっけか?」

 そこのお母さん、何おもむろに台本開いてるの。
 セリフくらい覚えてきてよ。
「うっせ」

「エ…じゃなかった、お母さん。そのバスケットを病気のおばあちゃんの家まで運べばいいんでしょ」
「あ?あー、そうそう。頼んだぞ」

 お母さんは、赤メットちゃんにワインとパンの入ったバスケットを持たせました。

「……おばあちゃん病気なのに、ワインとかあげて大丈夫なの?」
「知るか。小道具係の少尉(※ブレダ)にでも聞け」
「しょうがないなぁ…。じゃ、そろそろ行ってくるわ。お母さんは隣町までお買い物に行くのよね?気をつけて」

 手を振って、おばあちゃんのいる森へと歩き出す赤メットちゃん。
 ヘルメットの正面に書かれた『安全第一』の文字が光ります。

「赤メットも気をつけろよー!森には狼がいるって話だか……ら…、・・・・・・・・・・。」

 お母さんは、言いかけて何かに気付いたように固まりました。
 そして、

「あ、赤メットー!!戻れ!森には超ド級色事師のケダモノがぁっ!!―――――!!!
(ちょっと、本名出さないでよ兄さん)
 叫びますが、赤メットちゃんは既に森の中へ。
 がくりとうなだれる母。
 しかしお母さんに構っている暇はないので、さっさと赤メットちゃんを追います。





「ふんふふんふふ〜ん♪」
 赤メットちゃんは、鼻歌を歌いながら森を歩きます。
 今の所、好色狼は現れていない様子。

「あ、お花畑!おばあちゃんにお花を摘んでいってあーげよ♪」

 色とりどりの花を摘んで束にし、それを持って立ち上がる赤メットちゃん。
 と、そこへ……

「やぁ君。ごきげんよう」
 黒毛の狼が現れました。

「狼さん、私は赤メットです」
「や、そうだったな。それでは赤メット君、君はここで何をしているのかね?」
 さりげなく赤メットちゃんの手を握る狼。
 …さん、嫌がらないのかな…。

「えぇと、病気のおばあちゃんの家に届け物をするの。綺麗な花が咲いていたから、それもあげようと思って」
「そうか、君は優しい子だね」
「わっ」

 狼は、ぎゅっと赤メットちゃんを抱き締めます。

 そして、もっと先の方に登場するはずの猟師が森に降り立ち、木の影に隠れて銃を構えました。
 大道具係の方々や、小道具係の方々、照明や脚本、衣装の人達等も武器を手に狼を集中攻撃する準備を整え、今まさに……って、本当にやるつもりなんですか!?
 ま、待って!それじゃ大佐が死んじゃいま―――

「ま、ままま待ちたまえ!!!私が悪かった!」
 狼はとっさにさ…赤メットちゃんを放しました。
 赤メットちゃんは突然の事に混乱するばかりです。

「今度やったら容赦しませんよ」
「ったく、劇にかこつけてさんに触れようなんて、いくら大佐とて許せん!」

 ざわざわと騒ぎながら、武器を構えていた人達は持ち場に帰ってゆきます。
 …あー、びっくりした…。

 あ、劇続けるんですか?
 えーと…3ページ目の……あ、ここか。

 狼は、一度ニヤリと笑って手を振ります。
(ほら、大佐!)

「……(はっ!!)そ、それではく…赤メット君!気をつけて行ってきなさい」
「は、はい…」

 寄り道をしてしまった為、少し駆け足になっておばあちゃんの家へ向かいます。
 そして、森の奥深く、少し薄暗い所で……

 おばあちゃんの住む豪邸に辿り着きました。

「…って、ええ!?木造のボロ家とかじゃないの!?おばあちゃんお金持ち…!!」

 早速赤メットちゃんは、バスケットの中の物を届ける為にその豪邸の中へと入ります。

『コンコン』
「おじゃましまーす…」

 おばあちゃんは病気にかかっているので、きっと寝室にいるに違いありません。
 赤メットちゃんは、寝室を探そうと一歩踏み出し……

「…って、何で玄関ホールにベッドがあるの!?
 玄関ホールの中央にあるベッドを見つけて驚きました。

 そのベッドの上では、誰かが横になって咳をしています。
 赤メットちゃんは、それがおばあちゃんだと思って駆け寄りました。

「おばあちゃん!私よ、赤メットよ。ワインとパンを持ってきたわ。途中でお花も摘んできたの」
 赤メットちゃんは花瓶を探しますが、その途中であることに気付きました。

「…あれ?おばあちゃん、何で前に来た時より腕にハリとツヤがあるの?」
「肌のケアを毎日欠かさないからだよ」
「じゃ、何でそんなに声がダンディーなの?」
君を喜ばせる為だよ」
「(だから本名出しちゃ駄目だって…)それなら、何で人の言葉が話せるの?おばあちゃんはぶっちゃけ某人の中に入ってた猫だから『にゃー』しか言えないのに」

 赤メットちゃんとおばあちゃんの間に、少しの沈黙が流れます。
 そして、赤メットちゃんはおばあちゃんを見据えて言いました。

「…うちのおばあちゃん、どこに行ったの」
「君のような勘のいい女性は大好きだよ」

(そんなセリフ台本にあったかな…)おばあちゃんがむくりと起き上がると、枕の下から猫…いえ、本物のおばあちゃんが飛び出してきました。
 …あ。あの子一昨日拾った猫だ。
 いないと思ったらこんな所に…。

「さすがに猫は食べる気になれなかったのでね。…君だけでも頂くとしようかな」
「・・・・・・え?」

 おばあちゃんに変装していた狼は、ベッドから降りて赤メットちゃんに近付きます。
 狼は、赤メットちゃんを抱き締めて、そのまま顎を…持ち上げ、て……
 ……………。



『ゴトン、ゴロゴロゴロ…』



 ―――マイクがオンのまま転がった音が響く。
 ステージ下に立っていたナレーターのアルフォンスは、素早くステージに上がって2人の元を目指す。

 は抵抗をするものの、腰を固定されていてどうにもならない。
 2人の唇は徐々に距離を縮める。


 …しかし、が何事かを呟いて、ロイの動きは一瞬止まった。
 刹那、アルフォンスがロイを横から押して、ロイはバランスを崩してよろける。
 普段であればびくともしないはずだが、何か動じていたのが幸いだった。

 アルフォンスがの腕をとっさに掴んでいたので、は倒れる事もよろける事もなかった。
 そして次の瞬間、舞台上に先刻の武装集団(+お母さん)が一気に集結・ロイに向けての攻撃を開始。
 あっという間にその場は凄い騒ぎとなった。

 その騒ぎに紛れ、人と人との間をすり抜けて、アルフォンスとはステージから降りた。
 気付かれないように壁際を走って、ホールの外へと出る。
 ホールのドアをゆっくりと閉めてから、2人は盛大に溜息をついた。

「な、何だか凄い事になってるよー…」
さん大丈夫?」
「私なら全く何ともないよ。びっくりしたけどね」

 あはは、と笑ったが、のその表情は笑っていなかった。

 は、赤いヘルメットを取って廊下に置いてから、ホール入口の向かい側にある壁へともたれかかった。
 窓から差し込む日光が、彼女の髪に反射して柔らかく光る。
 その隣にアルフォンスが座り、は視線を正面に、アルフォンスはをまっすぐ見て言った。

「…さん、僕……さ、」
「ん?」
「あれから色々考えたんだけど…」

 の頭の中に、ある記憶が甦る。
 丁度一月ほど前、からアルフォンスへ、いわゆる「愛の告白」をしたのだった。
 結局人の目もあったし、返事は聞けず終い。
 お互いの行動がぎこちなくなったのだけは確かだった。
 あの話はうやむやになって終わりかと思っていたのだが。

「何?」
「…僕には…僕らには、取り戻さなきゃいけないものがある。
その為に、家や安全や…時にはプライドだって捨てて頑張ってきたんだ」
「…うん」
「だから、ここで何かを得て立ち止まっちゃ駄目なんじゃないか…って、そう思ったんだ」
「……、うん」

さんの気持ちは嬉しかったけど、そんな理由もあったし、突然だったし…、正直一緒に旅してる女の人、くらいにしか思ってなかったから驚いて…」
「………」

「けど、何だかなぁ…。さっきさんが大佐に…その、キス、されそうになった時、何が何でも止めたくなった」
「…え?」
さんああいうことをしてるの、見たくないんだ。それに今までも一緒に旅をしてきたんだからそれまでと何も変わらないし、さんと僕がそういう関係になっても僕らは立ち止まったりしないって分かった」

「それって…」
「…そういうこと」

 アルフォンスが頷くと、は声にならない声を出した。
 そして背を壁に預けたままずるずると座り込む。

「1ヶ月前のあの時から、さんの事を意識するようになるし色んな面で考え込まされるしで大変だったんだよ。それに2人だけで話す時間も全然作れなかったし…って、わぁ!?」

 ぱたり、とアルフォンスの硬い太腿にうつ伏せにした上半身を倒れ込ませる

「ど、どうしたのいきなり…」
「……結論からはっきり言って」
「?」
「1ヶ月前の告白の、返事は?」
「…あー……」

 ホールの中で時折何かが割れるような音がするのを聞きながら。

「言わなきゃ駄目?」
「うん」
「どうしても?」
「絶対」
「…わかった」

 それから2人ともじっと黙った。
 アルフォンスは一度の髪を優しく撫でていき。
…やがて、決心したようにぴたりと止まった。


「…僕も、さんのこと…好」
『バタンッ!!!』


 言いかけた言葉は、ドアの開く音に阻まれて最後まで聞き取れなかった。

「ここにいたのかちゃん!」
「キミ、さんを独り占めしようなんて言語道断だぞ!」
は無事か!?」

 出てきて早々にまくし立てる、今の今までホール内で騒いでいた者達。
 そしてその男達は、アルフォンスへと殺気を向ける。
 それもそのはず、立場が普通と逆であるとはいえ、膝枕をしているのだ。

「あ、の…さんはもう」
「かかれっ!!」
「オー!!!」

「聞いてくれそうもない…ね」
 はは、と引きつり笑いをして、アルフォンスは素早くを横抱きにし、さっさと逃亡を決め込む。

「逃げた!」
「追えー!!」
「うわ、追ってくるー!!」

 アルフォンスには、体力の限界がない。
 その点ではこのまま逃げるには有利なのだろうが、何しろ向こうは頭数が多い。
 挟み撃ちなんかも容易にできてしまう。
 …それは少々厄介だ。
 どうしたものかと、考えを巡らせる。

 と、その時。


『ドカッ、ドン!ドン!ドチュンッ』


 突然の銃声。
 振り返ってみると、そこには拳銃を構えたホークアイ中尉の姿が。

「早く逃げなさい!ここは私が引き受けるから」
「は、はいっ」

 ありがとうございます、と言い残し、を抱えたアルフォンスは再び軍部内の廊下を走り出す。

「…さん?大丈夫?」
 さっきから黙っているに、アルフォンスは心配になって尋ねた。

「……アル」
「ん?」
「さん付け禁止」
「ん?え?」

「いくら私が年上だからって、エドだって私の事呼び捨てにするのにアルはさん付け?」
「あ、じゃあ…

 慣れない呼び方で、2人共が違和感を覚える。
 それに対して、少しだけ笑って。

「もうね…さっきからドキドキして死にそうなの」
「まぁ、色んな意味で僕もそうだね」


「…アル、好き。大好き」
「僕も、さんが大好きだよ」
「またさん付け!!」
「あっ…。」

 これは呼びなれるのに時間がかかりそうだと思いながら、
それでもちらりと見た恋人の顔が零れんばかりの笑みを作っていたから、

(まぁ…いっか)

 頑張ってみることにした。


 ***


「あー、そんな感じだったわね」
「あれからもう1年だもんね」

 辺り一面砂だらけのそこを歩きながら、とアルフォンスは談笑する。
 日差しも強く、サウナより暑いというのに、話の内容が楽しい為か、まだには余力があるようだ。

「それにしても、よくあんな劇できたよね」
「だって1回やってみたかったんだもん」

 その為にわざわざ大総統にまで電話をするのは凄いと思う、とアルフォンスは密かに心で呟いた。

 丁度事件等がなく、軍部内の時間にほんの少しの余裕があったというのも許可された理由の一つだが、噂では大総統がを気に入っていたからとか何とか…。
 噂でしかないのだが、誰もが口を揃えて言うのだから気味が悪かった。

 許可はされたが仕事時間を削る事はできないので、有志を募い昼休みやら休憩時間を使って準備が進められ、公演時間にも昼休みが丸々使われたのだ。

「準備も大変だったけど、後始末の方が大変だったのよね」
「うん。軍部内で乱闘しちゃった上に、昼休みが終わっても騒いでたから」
「何人か減俸処分くらったんだったよね。…って、エドは大丈夫だったの?廊下での乱闘騒ぎにはいなかった気がするけど、間違われて捕まらなかった?」
「先に逃げたみたい」
「あー。……………って、そのエドは今どこよ?」

 はっとして、辺りを見回す2人。
 さっきまで傍にいたのだが。
 町に着くまでの道のりなので、別行動をとるはずもない。

「…あ!いたっ」

 が、後ろに向かって指を差す。
 その遥か先に、暑さでふらふらになっているエドワードがいた。
 エドワードが追いつくまで待つ。

「兄さん弱ー」
「うるせー…。オートメイルが熱持って余計に暑いんだよ」


 見渡しても3人しかいない、限りのない砂漠の上。
 汽車どころか、馬車も通っていない地。
 …商人も、ここを通るのか怪しい。

「お前よくこんな所までついてくるよな…」
 エドワードが、に向けて言う。

「だって元はといえば、こっちの世界に突然湧いて出た私をエドが人体練成の参考になるかもとか言って引っ張り回したんじゃない。私はそのままついてきてるだけよ。…もうどこかに残るつもりないけど」
「そうだっけか」
「そうよ」

 「そっか」と短く言い、それ以上話す気力もないのか、エドワードは口を閉ざした。
 そして、3人は黙々と歩く。

「…そういえば」
「何?アル」
「ステージの上で、最後大佐に何言ったの?ちょっと動きが止まってたけど」
「………えーと」

 は斜め上を見て、1年前の事を思い出す。

「…あ―――――。」
 ぽんと手を打ち、顔を逸らした。

「……呼んだのよ」
「へ?」
「呼んだの。誰かさんの名前」
「…もしかして、僕の?」
「さーねぇ」
 にやりと笑って口笛を吹いた。



 熱風が吹き付ける。
 そろそろ持っている水も尽きそうだ。


 そして近く、一行はリオールに辿り着く。





〜fin〜




<アトガキ。>

まずお詫びします。こんな物体をキリバン企画リク夢として仕上げてすいません。(土下座)
何でこんなハチャメチャな内容になってしまったんだろう、これ。
でも書いている本人は物凄く楽しんでいた罠。(ぇ)
ラブコメは難しいですハイ…。精進します。

それはそうと、リオールに着く前の話なんですねコレ。
実はその方が融通が利くからとか…げふんげふん。

「アル寄りラブコメ(逆ハーなら尚良し)+年上ヒロイン」とのことで、色々考えました。
ラブコメ→連載ヒロインは無理よね
逆ハー→じゃあ軍部出るよね
世界設定→逆トリップだと連載と変わらないから、普通のトリップ?
…ってな感じです。(ネタ出しヘタクソ)

本当は劇部分だけで書こうと思っていたのですが、それだとラブコメどころか普通のギャグになってしまうのでやめました。
リクエスター様のみお持ち帰り可です。
こんなのでよろしければタグをコピペしてお持ち帰りくださいまし…!
うぅ、ぶっ壊れた文章で申し訳ない…。石は投げないでください…。(切実)
アトガキ。は消しても構いませんよ。
そ、それでは!!(逃走)

2005.7.26