『どどどどっ、だぁんっ!!!』


 小鳥さえずる早朝。
 盛大な物音に、私は瞬時に顔を蒼くした。





stigmata・EX
記憶よカムバック
〜amnesia〜





「っく……ふぇ…!!大佐っ…」
「泣くな!気絶してるだけだって。ちゃんと息してんだろうが、ほら」
「でも大佐が気を失うなんてそんなの普通じゃありえないじゃん!このまま目ぇ覚めなかったらどうしよう…!」

 リビングのソファーの上で静かに目を閉じている大佐を前に、私達はかなり焦っていた。
 …いや、『私は』の間違いかもしれない。エドとアルはわりと冷静だ。
 っていうかこっちの世界じゃ気を失う事なんて大事中の大事なんだってば!もっと焦れ!!(そんな無茶な)

さん、それでも落ち着かなきゃ。焦っても何も解決できないよ」
「うううぅぅ…っ!アルーっ」
 ソファー前の床の上に泣き崩れていた私は、右隣に座っているアル(の腕)に抱きついた。
 君は癒しだ。紛う事無き癒しだ。

「…で、。何でこんな事になってんだ?」
 私の左隣に座ってるエドが、ちらちらとこちらを気にしながら指で大佐を指す。
 多少不機嫌が入ってるよ。確かにこんなにうじうじしてる奴が居たら苛つきもするだろうけど。
 …あぁー、落ち着かなきゃ…思い出せ思い出せ。
 私はアルの腕を放して涙を拭った。


「……昨日、階段上った所でゴキブリ退治したよね?」
「ああ」
「夜遅かったから、朝片付けようって事にして残骸の上に殺虫剤置いて見えないようにして、そのまま寝たよね?段ぎりぎりの所に」
「うん、そうだよ。………ってまさか」
「うん…。殺虫剤の存在忘れてたみたいで…しかも寝ぼけてたみたいだし……」

 全員分の視線が大佐に集中。
 半ば呆れ、半ば哀れみの視線が。

「……落ちたんだな。殺虫剤に蹴躓いて
「そうなの…私間近で見ちゃって」
「大佐の癖に大ドジ」
「救えねぇ」
「いや、でも受身はとってたよ。ちょっと体勢崩れてたけど。…平和ボケしたのかもしんないなぁ…」

 しかし受身をとったのにこの有様。高さがあるしな…。
 やっぱ病院に連れて行った方がいいのかな。

「どっか脳に傷が入ったとか、そんなのだったらどうしよう。ねぇどうしようエド!!」
「そ、そんなの…俺に言われても…」
「呼吸は正常だし、ただ気を失ってるだけ…だとは思うけどね……うーん…」
「そんな曖昧な!うわーん恐いよ!!」

 国家錬金術師兼軍の大佐・殺虫剤に躓いて死去。
 ・・・殉職にも当て嵌んない上、冗談にすらなんねぇ・・・!


 再びじわりと涙が浮かんで、そんな私に何か言おうと慌ててエドが口を開いた。

 …その時。



「……はっ」
 がばり。


 声と音がして、ソファが揺れた。



「たっ、たた大佐ああぁ!!!」
 大佐が起き上がった!
 あぁとりあえず死因が殺虫剤になるのは避けられた。

 っていうか突然起きたからびっくりした。
 仮にも気絶してたのに、そんな風に飛び起きて大丈夫なんだろうか?

「無事だったのか」
「大佐っ、痛いとこありませんか?体が動かしにくいとか息がし難いとか頭がおかしいとか!」
さん、最後のは…」

 細かい所は突っ込んじゃ駄目よアル!じゃないと大きくなれないわよ!(それ以上大きくなってもな…)


 大佐は私達をぐるりと見回して、一度ぱちりと瞬きした。
「いや、どこも…おかしくはない、かな…」
「そうですか…よかった」

 何だか今大佐の言葉遣いがちょこっとおかしかった気がするけど、多分まだ混乱してるんだ。
 キョロキョロしてるしね。状況が把握できてないのかも。

「大佐、階段から落ちた時の事覚えてます?…っていうかちゃんと意識はっきりしてますか?」
「……落ちた?」
「あ、やっぱりぼんやりしてますね…」
「気絶してたくらいだから、やっぱり頭も打っちゃってるんじゃ…」

 アルが心配そうに(表情はないけど雰囲気が物語る)大佐の顔を覗き込む。
 大佐は不思議そうに首を傾げてから、後頭部をさすった。
 そして一言。
「…痛い……」

 ……。
 ………すいません、萌えの衝動が臨界点に達しそうです。
 大佐がぼんやりしながら「痛い…」って、可愛くて仕方ないじゃないか!

「大佐可愛い! 無事でよかった!」
 次の瞬間、臨界点を軽く突破した私は思わず立ち上がって大佐に抱きついた!
 エドとアルが「あっ!」と驚いたけど、とりあえず弁明は後回しだ。
 うーん、突然飛びついても持ちこたえられるこの屈強さが好きだよ大佐。

さん、離れて!大佐にそんな事したら危険だよ!」
「なあ」
「(危険?)うーん、もうちょいこのままー」
「おい」
「今更言うまでもないけど、コイツ女好きなんだぞ!図に乗るからやめとけって!」
「だってー……」
「おいってば」
「「「ん?」」」

 会話を遮られて、振り向いた。
 声に振り向いたのは、私・エド・アルの3人。
 声の発信源は、大佐。……にしては口調が…?

 大佐はまだぼんやりとした目つきで私達を見ながら、そっと口を開いた。


「……ここはどこだ?」


 ・・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 長い長い、それはもう長い沈黙が続いた。
 そして。

「……僕は『タイサ』という名前なのか?」


 それは見事な追撃でした。



「いや『大佐』は地位の事ですけど……まさか大佐、記憶が…?」
「記憶……そうか、僕の記憶が抜け落ちてしまったのか」
「……」
「う、嘘だろ……」
「マジですか…?」

 一同、唖然。
 大佐が記憶喪失…?

 大佐が『僕』って言ってるー、とか、表情が一般人並みにヘタレてるー、とか、そんな事が脳裏を駆け巡りまくって解決策をはじき出そうとしない。
 これが世に言う現実逃避か。

「と、とりあえず字は書けるんですか?名前…は分からないだろうから、簡単な挨拶を書いてみて下さい」
 私は腕を解いて(抱きついたままだった…)立ち上がり、テーブルから簡単なメモを取って渡す。
 大佐はメモに付いているペンを取って、さらさらと英文を書いた。

「文字は大丈夫みたい…」
「じゃあ、日常動作は大丈夫、って事かな…」
「俺ら医者じゃないから分かんねーよ、そんなの」
 メモをテーブルに戻しながら大佐の顔を見る。…別に、記憶が無くて苦しんでる風には見えない。

「えぇっとですね…貴方の名前はロイ・マスタングで、現在この家に居候中。僕らも同じ境遇です。それでこの人…さんが、この家の主です」
「家主…この女の子がか?ご両親は?」
「……えぇと」

 超が付く程丁寧な説明をしていたアルだけど、この部分に至って躊躇うように私に視線を送ってきた。
 このくらいなら別に説明しても私は傷ついたりしないけど…こうなると細かい所まで説明しなきゃなんなくなるから面倒だなぁ。

「説明が面倒だからそこら辺は省略!すぐ記憶が戻るかもしんないしね。でもとりあえず自己紹介はしとこう。私は
 名乗ってから、私はエドを指で突っついた。
「え、俺も言うのかよ?」
「当然!」
「…なんか妙な事になったなぁ…。俺はエドワード・エルリック。で、右に居るのが…」
「弟のアルフォンス・エルリックです」
「弟!?」

 …びっくら仰天してますよロイさん。
 大佐がこんなに直情的だなんて、性格がリセットされてるのか?
 少しの事じゃ動揺しない精神は軍で養われたものなのかもしれないなぁ…。
 『記憶によって培われた性格』が無くなった状態なら、これも頷けるかもしれない。

 でも動揺する大佐ってメチャ新鮮なんですが!!
 萌え!!!(この状態でそれを言うか)

「こっちが弟とは、何かの間違いだろう?こんなに――」
「あーハイハイ、それ以上は多分タブーだから言わないようにして下さいねー」
 大佐の口から身長についてのワードが出てきそうな気配がしたから、遮っておく。
 これもこの兄弟を初めて見た人なら言う確率が高いからなんだけど、それ以外の事を言おうとしてたならすいません大佐!

 同じ言葉を予測していたらしいエドが若干眉間に皺を寄せてる。
 おお、耳聡いなぁ。


「……なら、別の事を聞くよ。さっきから君は僕を『大佐』と呼んでいるが、僕は軍人なのかい?」
「はい。…っていうかその事ならエドとかアルの方が良く知ってるかと…」
 ちらりと二人を見れば、仕方ないな、とエドが口を開いた。
「アンタは軍の司令官だ。で、女ったらしで……」

 ……。
 何だエド、台詞を尻切れトンボにしたら続きが気になるじゃないか。

「エド?」
「…そうだ、女にも男にも紳士的で、且つ誰にも頭が上がらない駄目上司だったんだぞ!」
「に、兄さん?」
「ちょっと理由があってここに来てからは家事全般を請け負って、そりゃもう苦労してたな。記憶を失ったなら、戻るまで休んどくか?けど俺ら家事できねぇから困るなぁー」
「家事……」

 うーん、と俯いて考え込んだ大佐。
 その隙に私は何だか悪魔の尻尾が生えてるように見えるエドを引っ張り、耳打ちした。

「ちょっとエド、どういう事?」
「忘れたんなら、この際性格改善を試みようと思っただけだ」
性格改善に家事は小指の爪の先程も関係ないと思う
「そこは日頃の鬱憤晴らしって事で」
「うわー、エド悪党」
「兄さん、悪」

 途中からアルも内緒話に加わったけど、エドは得意げにニヤリと笑うだけ。
 うーむ、これは遊ぶつもりだな……

 …まぁ、でも考えてみれば面白いかもしんない。
 立場とか性格とか全部リセットされてるんだったら、自分の萌えに都合の言いように改変する事もできるよね…っ!
 うわ、もしかしてこれってラッキー?

「よし、私も協力する」
さんまで!」
「何だよ、アルは大佐の性格どうにかしたいと思った事ないのか?」
「………それは、」

 アルは少し上を見て考えてから、呟いた。
「……ある、かもね」

 あるんですか

 いつの間にかしゃがんで円になっていた私達は、最早密談状態だ。
 それに気付いたか気付かないか、大佐は視線をこちらに向けて言った。

「よし、家事は今まで通り僕が引き受ける。僕のせいで君達を困らせるわけにもいかないし」
「ぅえっ?マジですか大佐!記憶が無いのに大変じゃないですか!?」
「大丈夫さ。……というか、その『大佐』というのはやめて貰えないか?僕は今、大佐という役職にはついていない状態だしな」
「えっ……じゃあ何て呼べば?」
「名前でいい」
「……、ロイ?」

 私が呼ぶと、大佐は満足げに頷いた。
 …う、うわああぁ、これってナチュラルな羞恥プレイですね。(プレイ言うな)
 でも私、階級があるから『大佐』って呼んでたわけじゃないんだけどな…。

「…呼び方なんかどうでもいいだろ!それよりお前は家事!!朝飯まだだから作りに行け!」
「(今まで名前呼びじゃなかっただけに聞き捨てならない…!)さ、キッチンには僕が案内しますから」
「?あ、ああ。頼むよ」

 連行されゆく大佐。
 朝ごはんまだだから、エドお腹が減ってるんだろうなぁ。怒鳴るくらいだから相当だ。
 っていうかそんなに急がなくてもいいのに。もうちょい大佐をいじりたかった。


 私もキッチンについて行こうとして、エドに「お前が料理慣れてるのバレたら作戦がパーだろ」って引き止められました。



 ***



 大佐の料理は美味しかった!
 が、エド達に言わせると「微妙…」らしい。
 前にもこんな事があったなぁ…っていうか大佐が料理を作ると毎度こんな事になってるよね。

 それにしてもやっぱり記憶を失ってるだけあって、料理の慣れは無くなってて、料理が出来るまでの時間が長かった。
 長かったって言っても、まぁそれほどでもないけど。



 で。
 現在時間は流れに流れまして。
 実の所すっかり忘れてたけど、本日は水曜日なのできっちりと学校の授業がありました。

 遅刻しそうになりながらも登校して、授業を受けて参りましたとも。
 チクショー、大佐の性格改変に加担したかったのに…!!
 学校の馬鹿野郎ー!!(学校に罪はないはずだぞ)

 一日中大佐が気になってソワソワして、ようやく学校から解放されて帰路につけました。
 目の前には我が家の玄関ドア。この先にはきっと萌えが待っているはず…!
 大佐の記憶が戻ってませんようにとタチの悪い事この上ない願いを抱きつつ、桃色の片想い歌い出しそうな勢いでドアを開いた。

 すると。


「お帰り、さん」

 玄関に佇む、満面の笑顔を浮かべた大佐。(っていうか私の事「さん」付け?)
 彼の装備:限りなく純粋且つ爽やかな笑顔

「たっ、たたたただいまマイハニーっ」
「ハニー?」

 …はっ、しまった!
 あまりに「お帰りなさいあなたv お風呂にします?御飯にします?それとも…わ・た・し?」的なシチュエーションだったから萌えがあっという間にカンストしてしまいました。

「いや、何でもないです…。それよりわざわざお出迎えなんてどうしたんですか?」
「エドワード君に僕がいつもこうしてると言われたからしただけだが?」
「・・・・・・」

 …何を教えたんですかエドワード君。

 ちょっと待って、この分だと私が見てない間に大分性格改変が進んでるんじゃ…?
 記憶はまだ戻ってないみたいだけど。

「他には誰に何を教えて貰いました?」
 私服に着替える為、2階へ続く階段に向かって歩きながらの質問。
 大佐はちょっと考えてから、思い出しつつ言い連ねた。
「えぇと…エドワード君からは主に家事についての指導があったかな。あとは、以前の僕がエドワード君を尊敬していたとか、頼まれた事は断れない性格だったとか……」

 ・・・エドよ、思いっきり利己心の塊だな。
 大佐も気付かないのね。
 いっそ退化したんじゃなかろうか大佐の精神。純粋すぎる。

「で、アルからは?」
「僕は故郷に愛する婚約者を残してここに来ているから、さんを含む女性には深入りしないようにと。それだけ」
「……」

 私を含むんですか。
 まぁ、これは女好きを直させる為の策なんだろうけどね。私を含まなかったらおかしいし。
 でもちょっと寂しいんですが…!!


「荷物、部屋まで持とうか。重たいだろう」
「え、いや、でも悪いです。ていうかここまで付き合わせてすいません!リビングに戻ってていいですよ?」
「いいから。…よっと」
「あ…うーん。じゃあお願いします」

 …フェミニストはそのままですか大佐。
 私達は階段を上りながら、荷物の受け渡しをした。
 あー、肩が軽くなった…。


「…さん」
「ん?」
 私は足を止めて、くるりと振り返って見下ろした。
 私のカバンを肩にかけて、下の段から私を見上げる大佐。…何か言い難そうにしてる。

「何?」
「…僕は……故郷に婚約者が居る身らしいから、こんな事を言うのがおかしい事は分かっている。けど…」
 大佐は私がいる段の一つ下まで上って来て、私の目をじっと見詰めた。

 …真剣な目つき。
 記憶を失う前の大佐の表情と重なる。……全てを見透かしそうな、鋭い目。

「なぜかそう意識すればするほど、さんの事が気になって仕方が無いんだ…」
 大佐の腕が私に向かって伸びた。

 不意に、私の視界は黒色で埋まった。
 数度瞬きをする。
 …聞こえるのは、規則正しく刻まれる鼓動の音。そして呼吸の音。
 私の視界を埋めたのは大佐の胸板(正確には服だけど)だった。

 ……なんだこの状況。
 萌え、っていうか。
 ちょっと待って。待ちなさい。
 把握できません。

 背中に大佐の片腕が回ってて、抱き寄せられてる事は分かる。
 ここが階段で、しかも結構上の方で、ちょっと薄暗いって事も分かってる。
 私は何で抱き寄せられてる?

「大佐…?」
「ロイだ」
「…ロイ」

 ぎゅっ、と抱き締める力を強くする大佐に、私は思わずドキリとした。
 じわじわ移ってくる体温とか。鍛えられた胸板とか。心臓の音とか。…相手は男の人なんだな、っていう事が、確実に伝わってきて。

 薄暗いから、っていうのもあるかもしれない。
 何だか雰囲気に呑み込まれそうだ。

さんとは僕の記憶の中で短時間しか会っていないのに…。記憶を失っている身としては無責任な事かもしれない。それでも僕は、知らない婚約者よりも君の事が…」

 …言った、直後。
 私は少し苦しくて、体勢を整えようと身じろぎをして……


「っわ!!?」
「!!」

 ここは階段。しかも抱き締められることに慣れていない私は、意識していたのにバランスを崩してしまった。足を踏み外したのだ。
 一気に大佐へと体重がかかる。
 いくら大佐が鍛えてるといっても、人一人の体重を階段で支えきれるほど超人的ではない。

 結果……

 ぐらり。
 私達は、一緒になって階下へ傾いた。


 目を見開く大佐。
 思考が真っ白になる私。

 一瞬の…落下時特有の浮遊感。


『どどどどっ!!どすんっ』


 ―――。

 感じたのは、重力に逆らう、ぐんとした力。
 私を支える力強い腕。

「…あれ?」
 完全に落ちきってない。っていうか全然落ちてない。

 状況を把握しようと視線を走らせると、大佐が私を支えながら手摺りを持っているのが見えた。
 どうやら、落ちる瞬間に大佐が手摺りを掴んで持ちこたえたらしい。
 音は、荷物が階下まで落ちきった音。
 そっか、手摺りがあったね…。

「………大丈夫か?」
「…はい」

 実は踏み外した足がちょっと痛かったけど(打ったから)、この際それはどうでもいい。
 大佐がまた落ちちゃう事にならなくて良かった。

 大佐が私ごと体勢を立て直して、二人揃って階段に座った。

「落ちなくてよかった…」
「ああ、そうだな」

 私は再び抱き寄せられ、ついでに顎を持ち上げられた。
 ……少女マンガとかでありそうなシチュエーションだなぁ。
 タラシのスキルもご健在なのか?

「荷物は落ちてしまったが、君が無事で良かった」
「……………」

 …あれ?

「大佐、口調と私の呼び方が…」
「ああ、先刻落ちそうになった瞬間に記憶が全て戻った。記憶を失う時と同じような体験をしたからだな」
「マジですか!?」

 うわーんそんなっ!!
 私まだ大佐に性格改変させるような事言ってないのに!!
 っていうか寧ろ弄り倒すつもりだったのに!!(最悪な人がここに居ます)

 あぁ、おめでたいんだかおめでたくないんだか…。
 戻っちゃうと残念さが勝つけど。

「…君。そんな事よりも続きを…」
「あ、じゃあエドとアルに記憶戻ったって報告してこないと(これ以上改変運動されたらヤヴァいし)」

 私は大佐の腕を解いて立ち上がった。
 …う、さっき打った足が痛い……。
 でもこれは、大佐が暗闇で抱き締めた証。そう考えたらちょっと萌え衝動が・・・(根っこから腐ってるな)

「大佐はちょっと遅れて来て下さいな!じゃ!」
 トントンと階段を下りて、リビングへ向かう。
 大佐が一緒に来ると今までの画策が明るみに出ちゃうから、先に行かないと!

 『君!』と呼ぶ大佐を置いて、私は廊下を早足で歩いた。



 ***



 その後。
 大佐は記憶を失ってた間の出来事を覚えてて、エドやアルに色々嫌味やら何やら言いまくってた。
 私は結局何もできなかったから、お咎めなし。(案外ラッキー?)
 グルだったって事もバレなかったから、エドとアルへのお小言も軽減されてるんじゃないかな…分かんないけど。

 さっき、階段で抱き寄せた意味と言葉の先を聞いてみようと思ったけど、まぁ、大切な事なら自分から話すだろうと放置することに決定。
 だって記憶喪失中の記憶はあるんだもんね?


 現在、夕食の後片付けが終わってリビングで全員がまったりしてる最中。
 ちなみに一番まったりしてるのは、お酒(エドに持ってこさせた)を片手に、マッサージ(アルによる)をしてもらってる大佐である。
 …悪事はバレると大変ですな。(私が咎められなかったのが逆に悪いなぁ…)
 しかしアルが言った事は大佐の女癖を治す為だから、悪い事ではない気がするんだけど。

君」
「はい?」
 ソファーで隣に座ってる大佐を見上げて、返事する。

「私の事はあのまま『ロイ』と呼んでも構わないのだが」
「…いえ、慣れてないので大佐のままにします」
「……私が頼んでもか?」
「頼んでも!慣れないと呼ばなくなっちゃいますから」
「・・・・・」

 ……あれ?今エドとアルが「くすっ」って笑ったような…?
 いや、気のせいか。
 っていうか大佐黙っちゃったんですけど。
 そんなに名前呼びがよかったんだろーか。
 …けど大佐がそんなの気にするようには思えないし…。

 結局何が何だか分かんないまま、それは私の脳内で「まあいっか」と結論付けられた。



 そしてその後数日間、エドとアルは大佐のパシリとなったそうな。





〜fin〜




<アトガキ。>

まずは、お待たせして申し訳ない…っ!!!
サイト1周年記念企画の、あると様からのリクエストで「連載番外、4人の内誰かが記憶喪失」でした。
前の番外でエド中心だったので、今度は大佐にしてみました。
アルでも良かったんですが、アルは記憶のサイクルがちょっとばかり複雑なので断念;

久しぶりに甘めなのを書いた気がします。(甘いか?これ)
そして大佐が毎度ながらドジっ子でした。すいません。
殺虫剤に躓くとか、ありえませんね。寝ぼけてたからって事にしといて下さい;
…にしても、大佐の口調に悪戦苦闘しました。記憶喪失中の。
中々確定せず。うーむ、大佐はやっぱりあのお偉い方口調でないと。(何)

楽しいリクエストをありがとうございました!あると様のリクは楽しくて好きです。
随分お待たせしましたが、どうぞお納め下さいませ…!
あると様のみお持ち帰り可です。

では、また作品が仕上がった時に会いましょう。

2006.8.31