『ガ―――――』
掃除機の稼動音が室内に響く。
場所はリビング、昼より少し前。
そこにいるのは私と……
「…ねぇ、どいてって言ってるでしょ」
「んー」
本の虫、約一匹。
stigmata・EX
チェンジ!
〜You’re me!〜
そこかしこに散らばっている本をテーブルの上に乗せながら、掃除機をかけてゆく。
今日は日曜日。
いつものごとく、掃除の行き届いていない部屋を大掃除しにかかる…予定だったが、今日は予定を変更してゆっくりする事にした。
理由はないけど、たまにはのんびりしたいよね。
けど、普段からのんびりなハガレン一行には暇な一日となってしまったらしく、各々のんべんだらりと過ごしている。
大佐はさっき見た時「体がなまるといけないから」と自室で腕立て伏せをしていたが、寝癖が多少付いていたので恐らくその少し前まで寝ていたのだと思う。
アルは家の裏でこっそり猫と戯れてた。…最近牛乳とシーチキンの減りが早いと思ってたら、これが原因だったのか。
エドはリビングで読書。どうやら私が本屋で買ってきてプレゼントした本を気に入ってくれたらしい。
…私には英語だらけで全くわかんないけど。
で、皆の様子を見終わった私は遂に暇になって、結局掃除機で簡易掃除にかかってしまったわけだ。
け・ど………
「ほらエド、どいて!もう、さっきから何度も言ってるのに!」
「んー」
掃除機を掛け始めた直後、思わぬ困難に行き当たった。
エドがそこ(床)で読書をしていたのだ。
それが何か、と思ったそこのアナタ!!
エドは読書してると厄介この上ないのですよ!
それはもう、動かざる事山の如し、本の世界以外には見ざる聞かざる言わざる、挙句の果てには「え?さっき何か言ったか?」だもんね!(聞いて来ればまだ良い方だ)
あ、けどこれだけ集中してるなら、後ろから萌え魂溢れ返らせながら襲い掛かってもバレないって事かしら。
前にやった気がするけど、やった結果を忘れたからもう一度やってみる価値はありそう。
ていうかこれはもうやってみるしか・・・!!(邪)
えぇい、何度でもやってやるさ!!
私は、掃除機のスイッチを切ってエドの背後に回った。
…それにしてもいっつも床で読んでるよね。
いつだったか理由を聞いたけど、ソファで読むと一度に何冊も本を開いたままにできないから、らしい。
私だったらどこに何ていう本を置いたかすら忘れちゃうけどね!(威張るな)
おーおー、集中してるなぁ。
背後から近付く私にも気付いてないっぽい。
床であぐらをかいてるエドにそっと近寄って……
――今だ!!
私は両手を広げて、倒れ込むようにしてエドの背中に急接近!
このままその広いんだか狭いんだか分からない所がたまらなく愛しいその背中に飛び込みます!!
私を受け止めてーv(でも背中)
と、その時。
「おい、腹減っ――」
「!!!」
『ガンッ』
かなりいい音が響いて、私の視界には白い星が飛び交った。
私が抱きつく直前、エドがぐるりと振り返ったのだ。
ベタだけど、私はエドと思いっきり額同士をぶつけてしまった。
痛い…痛いよお兄ちゃん……
勢いつけすぎた私も悪いんだけど、「痛いですか?」って言われたら「そうですねー!」っていい●もみたいに返事しちゃいたいくらい痛いよ!(推測不能)
結局私はエドに抱きつけずにその場に頭抱えてうずくまっている。
あぁ、私の野望が・・・!
「痛ーっ」
「お前のせいだろ!いきなり突っ込んできや…がっ……て?」
・・・。
双方黙った。
いや、私ってこんなに素敵な声してたかな。
エドの声そっくりだったんだけど。
で、エドってあんなに声高かったっけ。
今聞こえたエドの声、女の子だって言っても通じるよ。
裏声でもあんな声が出せるなら今度女装でもさせたいなぁ。
あ、だとしたら髪の毛解いて、黒のミニスカートにブーツとか似合うかな。
でも着てくれないだろうなぁ。
じゃあここは一つロングスカートにして、上を―――
「…おい、」
うずくまって顔を伏せたままだった私を、裏声(?)のままのエドが揺すってくる。
何さー、今貴方に着せる女物衣装の組み合わせ考えてたのよ!(迷惑な恩着せだな)
「何?」
渋々顔を上げて、エドを見た。
………私は、二・三回瞬きをした。
目を細めてから、またじっと見詰めた。
…あのさ、これってさ。
「ぎゃああぁドッペルゲンガー!!!」
「うおっ!!?」
目の前に私がいる!!エドだと思ってたら自分がいたよ!
自分と同じ姿の人(=ドッペルゲンガー)を3人見たら死ぬのよね!?
いやぁっ!!一人目見ちゃった!!
死のカウントダウン三つの内一つ数えちゃった!
あたしゃまだ若いのよーっ!
「二人目の私がー!!うわー!!」
「お前だって二人目の俺だろうが!」
「はぁ!!?」
目の前の私に反論され、私は意味の分からないまま言い返す。
相手はどう見ても、眉を寄せた私。
うわぁ…もう鏡見てるとしか思えないほどそっくりだよー…。
でも今、『俺』って言ったよね?私は一人称『私』だよ?
「何で俺が2人いるんだよ!しかもはどこだ!?」
きょろきょろと辺りを見回す、私とそっくりの二人目さん。
「え、は私だけど」
「は?」
いや、「は?」とか言われましてもですね。
どういう事よ?話が繋がってない気がする。
私はとりあえず深呼吸をして、心を落ち着けた。
それから、顔にかかった長い金の前髪を払う。
……。
………。
…金の?
「!!?」
私は慌てて自分の顔をぺたぺたと触った。
え、右手の感覚無いよ?
パッと手を離して、自分の前に持ってくる。
目の前にいる私の姿をした人が不審そうに見てくるけど、そんなの気にしてる場合じゃない。
…自分の目に写った自分のものであるはずのその右手は、蛍光灯の光を鈍く反射していた。
要するに。
「……オートメイル」
私は素早く立ち上がり、リビング内の姿見へと駆け寄る。
「おい!?」
私の姿をした人物が後ろから制止の声をかけるけど、「ちょっと待ってて」と適当に返して自分の姿を姿見に映した。
鏡の中の自分は…否、これは自分と言っていいのか?
鏡に映ったまま左手を上げる。鏡の中の人物も手を上げた。
足を前後にぷらぷらとさせた。鏡の中の人物もそうした。
…やっぱしこの鏡の中の人が私?
じゃあ……
「まんまエドじゃん私」
何だこりゃ!!待ってよ、私エドになってるよ!
じゃあ私は!?私の体は!!?
…そこまで考えて、ふと振り返る。
背後にはちゃんと自分の姿があった。
つまり、二人目の自分だと思っていたその人物だ。
……。私がエドの体になってるんだよね?
てことは、その法則で行くと……
「……あのさ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「は?」
私の姿をした人は、私の呼びかけに眉を寄せた。
しかし私が手で「おいでおいで」をすると、少し警戒しながら寄ってきた。
「何だよ」
相手は言って、自分の声に違和感を覚えたのか、首を傾げて喉をさする。
「鏡見てよ」
「は?」
「いいから」
私が強く促すと、その人物は私の前に来て姿見に映った。
……数秒の間があって。
「うおぉ!!?」
「あ、やっぱし?」
この驚き加減からして、これはほぼ間違いない。
私は、目の前の人物の肩をとんとんと叩いて振り向かせ、確認をした。
「…ねぇ、エドなの?」
「お前こそ、もしかしてなのか?」
今の問答で確定した。
目の前にいる私の姿をした人物は、私の姿をしたエドだ!
「何でこんな事になってんの!?ていうか何なの!?あーもー訳わかんないー!!」
「落ち着け!!俺だってさっぱり分からん!!」
「うあー、じゃあ考えてよ、どうなってるのさ!」
「座れ。とにかく落ち着け」
「うー…」
私の姿をしたエドに促され、一緒に床に座り込む。
…私の姿なのに、エドはあぐらかいてるし。
「ちょっとエド、あぐらはいいけどどう見てもガサツにしか見えないあぐらはやめて」
もう少し綺麗なあぐらのかき方が有るでしょうが!僧侶みたいな!(自分の姿で僧侶か)
「何だよ、そっちだって俺の姿で女座りはやめろよ」
「…この姿なら可愛いからいいじゃん」
「おい!?」
仕方ないからとりあえず正座に直して、私は私の姿をしているエドを見た。
…うあー、何だか幽体離脱して自分の体見てるみたい…。
「で、だ。考えてみたんだが、どうにも理論が成り立たないんだな…。魂だけを抜き出してどうにかしたにしても、おれは練成陣を描いてもいないし、手を合わせてもいない。第一代価が…」
「…難しいことはいいから」
「……要するに。俺達は中身または外身だけ入れ替わったんだ。…非科学的だけど」
「・・・・・・」
あぁ、非科学的かつ非現実的事実をこうもはっきりと言われると、何だか現実味がますます遠のくね!
「入れ替わったのは多分、頭をぶつけた時だと…思うけど」
「それしか考えられないもんね…」
「ああ」
「…どうする?もう1回ぶつかる?」
自分で言って、私は思いっきり顔を顰めた。
…正直、あの時はかなり痛かった。
ていうか、それを自分からするのは勘弁して欲しい。
「…自分で言っといて何だけど、痛いのやだから却下ね」
「俺もそれは遠慮したい…」
あ、エドも痛かったのか。
そりゃそうだよね、重力に任せて思いっきりぶつかったんだし。
自然の力は凄いよね!(微妙に違う)
「こうなったら大佐かアルに相談するしかねーな」
「……うーん」
そうだね、と言いかけて。
私の腐女子魂がそれにブレーキをかけた。
よく考えたら、これって果てしなくおいしいシチュエーションなのでは?
私ってば今現在エドになってるわけだし、理論知らないから錬金術はできないにしろ……
色 々 で き る よ ね (邪笑)
「おい?」
私は立ち上がってくるりと方向転換。
リビングの出口に向かってダッシュをかけた!!
「ちょっと行って来るー!」
言い残し、バタンとドアを閉める。
「…何なんだよ…」
ぽつり、残されてエドが呟いたのを、私は聞くことなく駆けていった。
***
『バタンッ!!』
息を切らしながらドアを開く。
それは自室のドアで、ここは私の部屋だ。
「うふふふふふふーvv」
私は、エドの姿で果てしなく邪悪な笑い声を漏らしつつずかずかと部屋に入る。
アルやら大佐が見たら何て思うか分からないけど、とりあえず誰も見てないから大丈夫☆(おい)
私は鼻歌を歌いながらクローゼットを開いた。
何をするか?
ふふふ、そんなもの……
女装エドを拝むに決まっている!!(しかも私の服)
エドってば、腕とかお腹とか筋肉付いてるけど、それを隠せばきっと女装が似合うと思うのよね。
あ、ついでに化粧したら完璧じゃん。
よし、カメラに収めて永久保存してやる!
私はささっと衣装を選んでハンガーから外した。
勿論買ってそのまま放置してたミニスカートを選んでみたぞ!(流行物だからとりあえずジーンズを下に穿くつもりで買ってしまったけど、結局穿く機会がなかった)
ふふふ、どうせ私はミニスカートだけを履いて脚を見せる勇気なんぞないさ。
脚をわざわざ周りに見せる自信などないさ。
それを今エドで試してやるー!(何て身勝手な)
よし、まずは上から着替えようか。
上は黒で適当なのを合わせる事にして、私はパーカーを脱ぎ始めた。
うっはー、もしかして裸体エドも拝めますか!?(さすがに全部は脱がないけどさ!)
パーカーを脱いで、その下に着ていたタンクトップも脱ぎ捨てる。
クローゼットのドア裏についている大きな鏡に姿を映すと、そこには逞しいエドの体がv
…ぐはっ、吐血しちゃうよパパン。(何)
上半身裸体の男の人って、何だかカッコイイよね。
いや…アームストロングさんの場合はカッコイイって言うか楽しいけど。(楽しいって何)
私は心臓ドッキンバックンさせながら、左手でそっと腹筋をなぞってみる。
…うわぁ、うわぁ・・・!!!
硬いです!とても硬いですよ!(実況するな)
鍛えてるんだなぁ。
…おっと、本来の目的忘れる所だった。
このままあちこち触りまくってもいいけど、今は女装優先! (どこを触る気だったんだ)
私は用意した黒いカッターシャツやらを着てから、ひらひらしたミニスカートを履く為にズボンを脱ぎ始めた。
………。
・・・ちょっと恥ずかしいんですが・・・!?(今更)
普段エドが目の前で着替えするのは何ら問題ないのに(見せてくれないけど)、自分で脱ぐのは恥ずかしいなんて。
でも何だか今脱ぐのはエドを脱がせるような感じがして……
……それって考えたらかなりヤバいね。
私はズボンをそのまま脱ぐ事を断念して、スカートを穿いてからズボンを抜き取る事にした。
これだったらそんなに恥ずかしくない…はず!
で、穿いてみましたスカート。
短いねー。太ももの半分までしかないよ。
そしてそこからズボンを脱いでみる。
…で、スカート姿になってみましたよ。
「・・・・・・あっれー?」
私は思わずウフフと笑った。
何を隠そう…エドのパンツがスカートから僅かにはみ出てるんですよ。
すいません、エドのパンツがトランクスなの忘れてました。
私はトランクスの裾を折り曲げて完全に隠し、再び鏡を見た。
「おー、何だか脚が逞しいけど結構似合ってるなぁ」
髪を束ねるゴムを解いて、くるりと一回転してみる。
うーん。やっぱり体格が男の子だからちょっと不自然だなぁ。
でも思った以上に良いからオールオッケ!!(親指グッ!!)
棚からデジカメを持ち出して自分で何枚か撮った。
…けど全身が撮れない。
誰かに頼むしかないかな……
うーん、それじゃ誰かに見られることになるし…
…まいっか。(!)
よし、誰かに頼みに行こう!
エドは駄目って言うだろうし、大佐かアルだよね!
そうと決まればレッツゴー!!
私はミニスカートを翻して部屋を出て行った。
***
「…の奴、何考えてるんだ…?」
俺は床に座ったまま溜息をついた。
…声は相変わらず高いまま。
違和感が全く抜けない。
ちらり、と座ったまま鏡を見る。
そこにはやはり、の姿。
…納得がいかない。理論が成り立たない。
もしやこっちの世界ではこれが普通なのか?
いや、は驚いていた。普通である可能性は低い。
両手を見てみた。
…何だよ、この細い指。強く掴んだら折れそうじゃないか…。
右手の感覚があることに少しだけ新鮮味を感じながら、俺はの脆そうな体に少し心配していた。
敵に狙われている身だというのに、これで大丈夫なのか?
鍛えろとは言わないが……やっぱり守ってやらないと。
俺は立ち上がって、姿見の前に立った。
全身を映すと、やっぱり体の違いが目に付く。
男とは全く違った、緩やかで柔らかなラインの体。
……。
そういえば、今は俺がなんだよな。
じゃあ、多少何かしてもバレない…よな?
キョロキョロと辺りを見回す。
誰もいないのを確認してから………
俺は、左手で右腕をぐっと掴んだ。
「…柔らけー」
筋肉ゼロだなこりゃ。
次にほっぺたをつついてみた。こっちも柔らかい。
伸ばしてみたらよく伸びた。
ジーンズの上から太ももをつついてみた。
おー、指がめり込むめり込む。
俺の脚じゃこうはいかない。女って柔らかいんだな。
…は運動してないから余計にそうなんだろうが。
と、ここまでは単純な好奇心から触れていたのだが…自分が男である以上、興味が全くないとは言い切れない箇所が目に留まる。
…さすがに、ここ触ったらヤバいんじゃないだろうか。
けど誰も見てないし……
でも万一バレたら……
手をうろうろさせながら、頭の中で葛藤が始まる。
あーだこーだとブツブツ呟く声が、自分一人しかいないリビング内でしばらく続く。
…そして。
「……ちょっとくらい…いいかな…」
ようやく自己完結して、今一度誰もいないのを確認する。
ごくり、と喉が鳴った。
握り締めた左手に汗が滲む。
ゆっくりと右手を伸ばしてゆく。
もう少しで右手が胸に触れるという、その時。
『ガチャッ』
「!!!」
「さん、兄さん、昼ご飯何に―――って、あれ?」
リビングに入ってきたアルフォンスが見たものは、鏡の前で固まっている。
「さんどうしたの?顔真っ赤だけど」
「ななななな何でもない!!」
「? …あ、そういえば兄さんは?また本散らかしたままにして…」
「え、えっと…トイレじゃないのか?」
「…さん、何か言葉遣い変わった?」
「!! そ、そんな事ね…ないわよ!」
「………」
アルフォンスは黙って首を傾げるが、エドワードはその間滝のような汗をかいていた。
ひたすら、バレませんようにと心の中で懇願する。
「…まいっか。それよりさん、昼ご飯何にしよっか?一緒に作ろうよ」
「ああ…じゃなくて、ええ。何がいいかしら?」
「………」
はこんな口調だっただろうか。
かなり疑問に思ったが、目の前にいるのは確かにだ。
気のせいか?…しかし違和感が強すぎる気もする。
アルフォンスはをじっと見た。…やはりだ。
「ス、スパゲティなんてどうかしら!早く作りましょ!!」
「う、うん」
弟の視線に耐えかねて無理矢理話を進めたエドワード。
しかし言葉遣いの誤りには気付いていない。
アルフォンスはアルフォンスで、当然それが兄だとは気付かない。
エドワードは誤魔化す為にアルフォンスと共に足早にキッチンへと向かったが、それが間違いだったのだと気付くのには…もう少しかかることになる。
***
自分が廊下を歩く音だけが響く。
普段はこうしているだけで誰かに会うのに、今日に限って誰にも会わない。
私は、デジカメを持ってブラブラと振りながら大佐の部屋へと向かっていた。
ここからなら、アルのいる家の裏よりは大佐の部屋の方が近い。
廊下の角を右に曲がった。
と、
「あ、大佐!」
見慣れた横顔を発見して、私は駆け出した。
大佐は丁度階段を下りようとしていた所だった。
私に呼ばれて、大佐はこっちを向いた。
「おや、鋼………のっ?」
語尾が裏返ったぞ、語尾が。
そりゃそうか、今大佐にはエドが女装してるようにしか見えてないんだから。
……あ、いい事思いついたぁ。(ニヤ)
「た・い・さーv」
「うわっ!?」
私は大佐に思い切り飛びついた!
大佐は多少よろけたけど、何とか持ちこたえてミニスカート姿のエド(中身は私)を引き剥がそうと躍起になる。
「な、何だねその格好は!鋼の、君にはそんな趣味があったのか!?」
「何だよ大佐、こういう服好きだろ!」
「それは君が着たら褒め言葉の一つも自然と出てくるものだが、男にミニスカートで迫られても嬉しくはないな」
え、私が着たら褒めてくれるの?
んでもって、ロイエド(もしくは逆)は成り立たないの?
私は大佐に額をぐいぐい押し返されながらも、抱きついたまま放さない様に懸命になっていた。
…おー、さすがエドの体だけあって大佐の力で押されても多少はしがみついてられるらしい。
とりあえず面白いから、もう少しからかってみようと思う。
私は眉を八の字にして、上目遣いで大佐を見てみた。
「…大佐、俺の事嫌いなのか?」
「とりあえず外で出会ったら他人のフリをさせて貰う程度には。」
「即答!?しかも他人のフリ!?」
「…ところでその服はどこで?まさか君の部屋から勝手に…」
「え、そうだけど?」
「!!」
あ、大佐の顔色が変わった。
「鋼の、いくら身長が同じくらいとはいえ君のクローゼットを勝手に見るとは何事かね?」
「え、だってわた…」
私のですもん、とは言いかけてやめる。
もう少しからかってみたい。(どこまでやるつもりだ)
「た・い・さv これで俺のこと撮ってくれないか?」
私はデジカメを差し出して無理矢理握らせ、大佐から離れた。
「鋼の、燃やされたくなかったら早くその服を返して来」
「撮ったら戻す」
「……(はぁ…)分かった」
大佐は盛大な溜息をついて、こっちにレンズを向けてくる。
やった、念願の女装エドの写真!!
「撮るぞ」
「いつでもどーぞv」
クネ、と腰をセクシーに曲げてポーズを決める。
数秒もせずに、カメラのフラッシュが一度だけ点った。
…「はい、チーズ」とか無しですか。
いきなりですねー。確かに「いつでも」とは言ったけど。
「これでいいだろう」
「えー、一枚だけ?」
「早く戻して来い」
「…ぶー。しょうがないなー」
私はデジカメを受け取ってくるりと方向転換。
…何だか背中に痛いほどの黒オーラを感じる気がするけど…気のせい?
…うん、気のせい気のせい。(自己完結)
「大佐、ありがとね!」
私は自室へと走り出した。
「…鋼のめ…後で消し炭にしてくれる・・・」
去ってゆくエドワードを見ながら、一人背景に黒い炎を迸らせるロイだった。
***
自室に戻って元の服に着替えてから、私は携帯で顔を撮って保存したり(友達に見られるとヤバいので待ち受けにはできなかった)、目覚まし時計の録音機能を使って目覚ましのベルをエドの声にしたり、色々やっていた。
やがてやる事がなくなった頃、
『きゅるるるるるー…』
「・・・・・」
…盛大に鳴くお腹の虫。
そういえばエド、私とぶつかる時に「腹減った」って言おうとしてたんだっけ?
時計を見て、はっとする。
昼ごはん作らなきゃ!!もう12時半だよ!?
アルが一人で作り始めてたらどうしよう。
……って、ちょっと待って。
アルが昼ご飯を一緒に作るのは『私』なのよね?
調理の為にアルが呼ぶのは、『私』なのよね?
って事は……
「・・・・・!!!」
私は瞬時に青ざめて、急いで部屋を出た。
現在私の姿をしてるのは、エドだった…!!
***
あちゃー、と右手で額を覆う。
手遅れだった…。
私はキッチンのドアの前で、「ギャー!」とか「そっちは違うって、あー!さんー!」とか、挙句の果てには『バホンッ!』なんていう激しく嫌な連想をさせるような音声を聞いていた。
そう、エドは料理させたら危険なんです・・・。
「どうした、何事だ!?」
あ、大佐だ。
どうやら騒ぎを聞きつけたらしい。
「どうしたもこうしたも…。私が遊んでる間に色々あったみたいなんですよ」
「…鋼の、口調が…?」
「・・・あ。」
しまった、エドの口調に合わせるの忘れてた!
…ま、もう大分遊んだからそろそろいいか…。
「私、エドじゃないですよ」
「は?」
「じゃ、さすがにちょっと危険そうなのでキッチン内の2人を止めてきます」
「あ、こら、ちゃんと説明を――」
『ぱたん。』
説明をすることなく、奇妙な鋼の錬金術師はキッチンへと姿を消した。
「―――で。」
私は思い出したくもない程の凄惨な状況の中からエド(外観は私)&アルを連れ出して、只今皆さん勢揃いでリビングにおります。
片付けは後回しです。
なぜかフライパンが黄土色になってたり、脳ミソぶちまけたかのようなぐちゃぐちゃな液体がシンクにぶちまけられてたり、お約束な事に電子レンジに破裂したと思しき卵の残骸があったりした…っていうのはこの際置いておくのです。
「つまりそういうことなんだけど」
「そういう事って…」
私とエドに起こった事を今し方説明し終えたんだけど、大佐もアルもいまいち納得がいっていない模様。
エドも加わって説明したから説明に不足部分はないと思うんだけど…やっぱり非現実的すぎたか。
そういえばエドは、入れ替わった事実を大佐とアル(主にアル)に言いたがらない様子だったのは何でだろう?
途中から諦めたみたいで説明はすんなり終わったからいいけど。
「いきなり『中身が入れ替わった』と言われてもな…」
「確かに色々と辻褄は合うけど、凄く突拍子もない事だよね」
「うん」
「俺もそう思う」
でも実際に起こってるんだからしょうがないよ。
エドの体になってるのは嬉しいけど、いつまでもこのままだったら困る。
学校とか、友人関係もあるしね。
万が一お兄ちゃんが来たら更に危険だ。
「…まぁ、あれだけ目茶苦茶にされて嘘だとは思いたくないから、兄さんとさんは本当に入れ替わってるとして」
「ハッキリと言うなぁアルフォンスさん。」
私がさりげにツッコミを入れると、アルは「あ、そこら辺やっぱりさんだね」と感心したように言った。
「問題はどうやって戻るか…だろう?」
「ざっつらいと大佐ー」
「このままでいるとトイレすら行けないからな」
「・・・・・・」
…そうだった。トイレもお風呂も着替えすらヤバいんだよね。
着替えは既にやっちゃったけど。
「どうやって戻ろう?」
「やっぱりもう一度ぶつかるしかないのか?」
腕組みをするエド(外観私)と、私(外観エド)。
ちなみにエドと私は同じソファに隣同士に座っていて、アルと大佐は向かいのソファに座っている。
「…口調が逆転すると物凄くおかしいね、兄さんとさん」
「今更だよー。…で、誰か痛くないぶつかり方知らない?」
「鋼の…じゃなく、君。それでは意味がないだろう」
「……うーん」
確かに、あの時目がチカチカするくらい強くぶつかったしね。
それくらいじゃなきゃ駄目か…。
私は視線を天井に向けて考える。
…ん?
今、何か視界がブレたような…?
額に手を当てて眉根を寄せると、隣にいるエドも同じ事をしているのに気付いた。
「エド?どうしたの?」
「ん……あ、いや。ちょっと疲れたのかもしれないな…」
「?」
じっと様子を窺っていると、また視界がブレた。
今度はハッキリと分かる。
「う…」
「鋼の?君?」
「どうしたの?気分悪い?」
大佐とアルに聞かれてるけど、返す暇がない。
視界のブレは、徐々に間隔を狭めて襲ってくる。
何これ…もしかして、中身と外身が合ってないから、ズレが生じたとか?
どうしよう、このまま死んだりなんてしないよね!?
頭を抱え込んで、眩暈に近いブレに耐えようとする。
隣にいるエドも同じように上半身を折って唸っている。
アルと大佐が慌てて立ち上がってこちらに来るが……次の瞬間。
一際大きく視界がブレて、私はぎゅっと目を閉じた。
頭の中が、振り回されるようにぐるぐるする。
数秒それが続いて……
「…あ、治った…」
唐突に治って、目を開ける。
…ん?何だかさっきと座ってる位置が違うような。
……もしかして?
「!」
「エドっ」
隣にいるはずの人物へと振り向く。
すると、隣にはエドが。
私は自分の手の平を見た。
両方生身だ。
「え、どうなったの?兄さん」
「いや、戻ったみたいだからこっちが私でそっちがエドよ」
背中をさすっててくれたらしいアルにそう返して、私は再び自分の手を見た。
…自分の手がこんなに懐かしく見えるなんて、不思議な気分。
「何で元に戻ったんだろう?」
特に何もしてないのに。
大佐がふむ、と吐息混じりに言ってから、私とエドを交互に見た。
「ひょっとすると、精神が元の体に戻りたがっていたのかもしれんな」
「引き合ってたって事?」
「確かに、元々一つのものが引き裂かれたような感じではあるから、自然に戻ろうとしてもおかしくはないよな」
軽くエドが頷いた。
へー、要するに体と中身が磁石みたいになってたって事かな。
「ま、とりあえず一件落着って所だな!」
エドが晴れやかな顔で立ち上がって、伸びをする。
自分の体はいいな、と呟いたのを聞いた。
…ところが、
「…ううん、まだ終わってないよ…」
「「「?」」」
私は沈みまくった声を吐き出しながら、全員を見遣った。
…そう、忘れてはならない事がある……。
「キッチンの掃除、エドがしてねv」
一変して笑顔で命令を飛ばすと、エドの顔が明らかに引きつった。
「何で俺だけなんだよ!」
「だって殆どエドがやったんでしょ?想像つくよ。ていうか何でわざわざ料理引き受けちゃったのよ?私の姿してるからって料理までやる必要ないのに」
「うっ・・・」
・・・何だその反応は。
(まさかセクハラまがいを誤魔化そうとしてアルを押し切ったから…とは言えない…)by.エドワード
「…まぁいいけど、掃除はやってね。その後ろで料理しとくから」
「……分かった」
あ、結構素直に了承してくれた。
やっぱしあの惨劇が自分の所為だって自覚はあるのかな。
「じゃ、行こっか」
私はそう促して、自分が先にキッチンへと向かった。
――がドアの向こうへと消えたのを見計らって、アルフォンスはに続こうとしている兄を「ちょっと」と引き止めた。
「何だよ?」
「…兄さん、セクハラで訴えられると女性が勝つらしいよ」
「・・・・・」
後ろにいるロイに聞こえない程度に囁かれたそれに、エドワードは完全に固まった。
それをどけて、悠々との後を追うアルフォンス。
「…鋼の、どうかしたかね?」
「……」
ロイに尋ねられても、しばらく反応は返せなかった。
数日後、他のカメラと一緒にが写真を現像に出した。
そして受け取った写真をうっかり全員で見てしまい、誰かの悲痛な叫び声が屋敷内に響き渡る事になる。
〜fin〜
<アトガキ。>
大っっっ変お待たせいたしました…!35000hit企画のリクエスト物です。
あると様のリクエストで、「鋼メンバーズの誰かと連載夢主が額ごっつんで入れ替わり」。
見た瞬間、リク内容が素敵過ぎて鼻血噴きそうでした・・・。(汚)
もう、自分の妄想詰め込みすぎました。長いです。
でも前後編にする事も考えていたので、それを考えたら短いのやも?
どうやらうちの大佐はホモップルにはならないようです。(ぇ)
で、エドはちゃんと思春期の男の子なようです。(!)
アルはお母さん役兼ツッコミ役らしいです。(…)
…楽しかったです。
何やらギャグ度満開な物質が出来てしまいましたが、こんなものでしたらお持ちくださいまし…!
あると様のみお持ち帰り可です。
それでは、今回はこれにて失礼します!
2005.11.5