「き〜みのっ手で〜切〜り裂っいって〜♪」
 口ずさみながら、ホースの水をザカザカと撒く。

 所は中庭、時は昼食後。
 ギラギラと照りつける太陽。日差しが少し痛い。

「うーん、やっぱこの歌好きだなーv」
 壁際の植物は、次々と水で濡れていく。

 結構育ってきたなぁ、アサガオ。
 少し前に植えておいた種が、芽を出して蔓を伸ばしている。
 アサガオは一度芽が出ると成長早いや。…誰かと違って。(禁句)

 支柱ごとアサガオを濡らしつつ歩いていると、

ー」

 後ろから呼ぶ声が聞こえて、振り返る。





stigmata・EX
水遊び
〜splash!〜





 私を呼んだのはエドだった。

「何ー?」
 中庭の入り口に向けて叫ぶ。

「俺のペン知らねぇかー?」
「あ、さっき洗濯した時に胸ポケットから抜いたよ!今持ってる!」
 私は、自分の短パンのポケットを漁ってエドの黒ボールペンを取り出した。
 エドの所まで走ろうとして、「俺がそっちに行く」と制される。

 …うげ、水出しっぱなしだった。
 止めなきゃこの場が洪水に!!
 しかしここから蛇口まで10mちょっとある。
 今そっちに行くと、エドから逃げるような構図になってしまうので、混乱させない為に動かない事にした。

 えーと、水はどうしよう。
 ……そうだ、いい事思いついた。

 私はホースを上に向けて、水を遠くに飛ばしてみた。

『じゃぼぼぼ……』
 おー、盛大に水しぶきが上がっとりますがな。

「…何してんだよ」
「池の水追加。」
「は?」
 私の元に歩いてきたエドは、ホースからの水と、その水の行き先である池を交互に見て眉を寄せる。
 いや…チミの為なんだよ?


「あ、そうだ。これ」
「ああ」
 ペンを手渡し、エドはそれを着ているカッターシャツの胸ポケットへ。

 …また洗濯の時出し忘れて、今度こそ私が気付かなかったらどうするんだろ。
 全員の服が黒く…!?
 …エドの服のポケットは注意して探ろう。
 でないと簡易メン・イン・ブラックが出来上がってしまう。(一部ウーマン・イン・ブラック)

「洗濯に出す時はポケットから物出しといてよ」
「分かった、気をつける」
「それ前も言ってたじゃん!」
「そうだっけか?」
「そうなの!」

 まったく、そういう所はズボラだなぁエドって。
 …ていうか、何だかやり取りが新婚さんのようですよ・・・!!
 頑張れエドパパ!お腹の子は5ヶ月よ!!

 ……そういや実際私、体重増えたのよね…。
 運動怠けてたからなぁ。
 ダイエットしないと…;

「…何急にしおれてんだよ」
「べっつにぃー…。ヲトメの事情。
「あ、そ…。…ところで」
「ん?」

「池の水が溢れてるぞ」

 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・

ギャース!!そういう事は早く言ってよ、もうっ」
「俺のせいかよ!」

 エドの鋭いツッコミはこの際無視して(酷)、蛇口のある方へ踵を返す。
 …そう、ホースを持ったまま。

 ホースを持ったまま向きを変えるとどうなるか。
 それは当然……

『びしゃあっ』
「ぎゃっ!!?」
「!!?」

 水の出口の向きも変わるわけで。
 そしてその水は見事エドに命中!
 エドはあっという間に水もしたたるいい男に。(そういう問題か)
 ・・・じゃなくて。

「ご、ごめんエド!悪気はないの!」
「あってたまるか!冷てぇー…」

 未だにじょろじょろと水の流れているホースを持ちながら、エドに再度「ごめん」と謝る。
 エドは雫を払いながら「もういいよ」と溜息一つ。

「つーか、何でホースで水やってんだよ。この前テレビでやってたぞ、金持ちは花の水遣りを…すくりんぷらー?とかいうので済ますって」


 ・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・
 ・・・すくりんぷらぁ?


「あ、もしかしてスプリンクラーのこと?」
「・・・・・」

 少しの沈黙。
 水の落ちる音がやけに響く。
 そして、

「………ぶッ(笑)
「な、何だよっ!!聞き慣れてないんだから仕方ないだろ!!」
 力一杯吹き出した私に、エドは顔を耳まで真っ赤にして怒鳴った。

「そ、それにしたって…文字間違いは仕方ないにしろ、マロングラッセと同じ発音の仕方はないと思うんだけど…!!」
「なんだよその、まろんぐろっせとかいうのは!」
「グロッセ・・・!!」
 何だか凄くグロそうだよその栗菓子!!

 もう引っ込まない所まで来ましたよ大爆笑。
 エドとは別の意味で真っ赤になってますワタクシ。

「くそっ、笑うなぁっ!!」
「だ、だって…いひひひひひひひ!!ひひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

 最早「あはは」でもなくなってきましたぞ。

「このやろ・・・。いーかげん笑いを止めろ!!」
『びしゃっ』
「!」
 エドが私の腕を掴んでホースの水をかけてきた。

「ぎにゃあ!!鼻に入ったじゃんっ!何すんのさぁっ」
「自業自得。」
 顔面から水をボタボタたらしてむくれる私に、エドは同じく水浸しになりながらニッと笑った。
 くそっ、何か悔しいぞ!?

「えいっ」
『ばしゃっ』
「うぶっ!!」

 ホースの先をつまんで、勢いよく水を噴射。
 水はエドのほっぺたを殴りました。

「くっそ、貸せ!」
 私の手からホースを奪おうと、手を伸ばしてくる。
 私は、そうはさせないとホースを握った手を後ろに隠した。

「水掛けられるって分かってて渡す程バカじゃないもーん♪」
「…ならいい」
 エドは、ぼそっと呟いて駆け出した。

 え、何?そんなに傷付いた?;
 …と、思ったら。

「おりゃ!!」
『ばっしゃあ!!』
「うぎゃっ!!」


 なみなみと水の溜まった池から、水を掬い上げてかけてきた。池に駆け寄っただけかい!
 そういやさっきホースで水補充しちゃったもんなぁ。
 敵は強大だ。(敵?)

「そんならこっちも容赦しないもんねー!」
 1〜2m離れた位置にいるエドに向けて、ホースの水を発射!!
「こっちだって!」
 連続で池からバシャバシャと大量に水を掻き揚げるエド。
 ぐああぁ冷たい!!

 私は、ホースをエドに向けたまま横に逃げた。
 と、その時。

『ガラッ』
「さっきから騒がしいが、何かあっ―――」
『ばしゃ。』
「・・・・・・・・・」

 私のすぐ後ろにあったのは、窓。
 私が水を避けたから、そっちにエドの飛ばした水が降りかかったんだけど……

 グッドタイミ…げふん!!バッドタイミングですね大佐!!(親指グッ!)
 でも、エドも大佐も着てるのは暗色の半袖カッターシャツ。
 どっちか白着てくんなきゃ駄目じゃん。せっかく水かけても透けないよ。(邪)

「何をするんだ、鋼の。」
「俺が始めたわけじゃねーよ。無能大佐
「無能ではない!」
「あー、ほんとだー。水被って無能になってるー」
君までっ」

 あ、でも手袋は無事(はめてない)だから別に発火能力が封じられたわけでもないし、実際は無能になってないか。(エドも多分わざと言ったんだな)
 …ま、ヘタレには違いなさそうだけど!!(コラ)

「くっ…鋼のこそ何だ!水遊びなど、子供のする事だぞ」
「発端はだ」
「!」
「大佐もやりましょうよ!結構楽しいですよ?」
「しかしだな…大の大人が…」
「えい。」

 びしゃびしゃびしゃっと音を立てて、大佐へと盛大にホースの水がぶつかる。
 あ、廊下濡れちゃったかな。

「ぷふっ! な、何をするん…ぶっ」
 追加攻撃:エドから繰り出された池の水
 大佐は最早ずぶ濡れだ。

 うわぁー、服が肌に張り付いてて色っぽいv
 い、今すぐ襲いに行きたい・・・!!

 萌えに負けて窓へと近付いていくと……

『とんっ』
「仕方がないな…」
 私が窓へ辿り着く前に、大佐が窓枠を超えて中庭へと降りてきた。
 も……萌えがご降臨された・・・!!!

 じゅるりと涎をたらしながら大佐へと迫る私。
 えぇ、大人の色気にやられました。
 と、


 私の背を、一筋の液体がつつぅ―――っと滑り落ちた。


「ぎ、ぎにょああぁ!!?
 あぁっ、鳥肌が!!チキン肌が!!!
 気持ち悪いっ!!

「隙あり。」
 声がして振り返ってみると、そこにはびしょ濡れのエド。
 どうやらエドが私の服の中に水を流し込んだらしい。

「鋼の、それは微妙にセクハラだぞ」
「なっ」
「やーいセクハラエドー」
「違っ!!」

 あはははー、可愛いなぁもう。
 今度は私がセクハラしてあげるからね。(危険)


「…あー、日差しは熱いのに服が水吸ってて、涼しいのか暑いのか微妙ー」
「誰がそんな状態にしたんだよ」
「えへー、私。」

 私は、池にダッシュで近付いて、躊躇うことなくジャンプで入った。
 辺りに水飛沫が舞う。

「うわ!」
「!」
「あっはっは!!これで『涼しい』に傾いたーv」

 こまめに掃除をしているこの池は、石で囲まれたプールとも言える。
 ちょっと日光であったかくなってるけど、さっき継ぎ足した水のお陰で結構冷たくなってる。

「えいやっ!!」
 私は、右手でホースの水を大佐にかけながら、左手でエドに池の水をバシャバシャと放った。
「うわ冷て!!」
「わっ」

 これぞ二刀流!!(刀?)
 どうだ太刀打ちできまい!

「…やられっ放しでいられるか!」
「え?」
『ザポンッ!!』

 私の攻撃の中を突き進み、ダッシュでエドは池の中に進入!
 両手で水をかけてきた!!

「っぷわ!!!」
「お返しだ!」
 連続で水をかけてくるものだから、私は片腕で顔を覆って防御。
 そ、その速度は反則ー!!
 目を閉じて「ぎゃー!」叫ぶ。


『ザバッ』
 水に入った音がしたと思って目を開けたら、
「鋼の、婦女子をそこまで苛めるものではないよ」
『ザン。』
「ぶへっ!!?」
 いつの間にか池に入ってた大佐が、エドに頭から水を被せた。

 エドからの攻撃は中断。
 大佐ありがとう!!
 でも私は婦女子じゃなくて腐女子ですv

「この女好きが」
「フェミニストと言ってほしいね」
「どっちも同じだろが。くらえっ」
 エドが大佐に水をかける。
 が、大佐は右腕でそれを防いだ。

 あー、始まっちゃったよ口論。
 毎度よく飽きないねぇ。

 私は、池の縁に座って傍観。
 右手に持ったホースがジャボジャボと池の水を追加する。

「…あ、そろそろ勿体無いからホースの水止めてくるね」
 私は2人をほったらかしにして池から上がり、蛇口へと走る。
 節水を心がけましょう!!(ここまで出しといて節水も何もない気がするが)

 何だか2人とも聞いてなかったっぽいけど、支障はないだろう。
 ジャバジャバと水が流れるホースを引きずりながらダッシュ。
 うーん、ホースって結構重たい。

 履いていたサンダルが池の中で脱げていたようで、今更素足だった事に気付いた。
 あ、でも柔らかい芝生だから却って気持ちいい。


 ホースの端と連結した蛇口の元まで辿り着き、水を止めにかかる。
 何度も捻ってようやく水を止めると、私はホースをその場に置いて池の方に走って戻った。
 と。

『ばしゃっ』
「おらおらおらーっ!!」
「ははは、その程度かね!!」
『ザバシャァッ!!』
「うあ!この野郎っ」

 ・・・何だか口論からバトルに発展しとりますがな。
 これぞ本当の水掛け論!!(違)

「私も混ぜて!!」
 2人の間に思い切りジャンピング!!
 私はプールでやったら激しく迷惑だろうと思われるくらいの飛沫を上げながら池に着水した!
 深さは膝上5〜6cmくらいあるから、底に打ったりはしなかった。

!もう少し考えて入れよ!!」
「えー、だってわざとだもん。」
君;」
「めんどくさいことは無し無し!ケンカも無しね!ほらいっくよー」
「「!!」」
 力任せに水を押し上げると、大きな飛沫を上げて水が舞った。

「加減しねーぞ!」
「望む所よ!」
「私は少し休むよ」
 大佐は池の縁に座った。

「「あー、もう歳だもんね(な)」」
違う!3人も一気に暴れたら周りが大変な事になるだろう」

 まぁ、水浸しにはなるね。
 …って、もう遅いと思うんだけど。
 更にひどい事になるよりましか。


「よっしゃ、気合入れてやるよー!」
「かかって来い!!」

 手を水に差し入れ、準備は整った。
 そして2人同時に、水をかき上げ―――ようとした、その時。


「あーっ!!!」


 頭上からの叫び声。
 私達3人が上を見上げて間もなく、

『べしっ!』
「ぶべっ!!」

 エドは潰れたカエルでも出さないような声を出して水中に倒れこんだ。
 どうやらエドの頭に何かが落ちてきた模様。

「ごめーん!落としちゃった!!」
 頭上から聞こえるその声は……

「アル?」
「うん!皆そこにいたんだね。見かけないからどこにいるのかと…」
 私達の頭上にある、2階の渡り廊下。
 アルはそこから私達を見下ろしていた。

『ザバッ!!』
ぶはっ…こらアル!!何してんだよ!!」
 エドが後頭部に素敵なタンコブこさえて涙目になりながら叫んだ。

「兄さんこそ何してるのさ。そんなずぶ濡れになっちゃって」
「うるせー!」

 私は、アルが落としたものを池の底から拾い上げた。
 …あ、本だ。資料?

「…って、水に濡れてしおしおだよ!?」
「ごめんね!書斎に直しがてら日光浴しようと思ってここに来たんだけど…」
「てことは読後?ならいいよ、そっちが読めるかどうか心配してただけだから」
 ただし捨てないでね、と付け足して、私は本の水をきってから芝生の上に置いた。

「そろそろ上がりなよ。体冷えちゃうからね」
 アルは大量の本を抱えながら、頭上の渡り廊下を歩いていく。
 最後に「その本後で取りに来るよ」と言い残して、屋内へと姿を消した。


「………」
「………」
「…うーん、もう上がっちゃおっか」
 何となく水遊びを続行する気の削げた私は、2人に提案。
 エドも大佐も、素直に頷いた。

 池から上がって、ふと私はエドの方に振り返る。


「…私がホースで水遣りやってたのはね、1本1本に水遣った方が元気に育ってくれるんじゃないかって…ただ、そう思っただけなの」
「……」


「…そか」
 エドの金髪から滴った水が、池に落ちて波紋を作った。


 ***


「あー、楽しかったぁ」
 リビングのソファでくつろぎながら、笑ってそう言った。

 あれから、服に染みた水分を出来る限り絞って、本を持って屋内に戻った。
 ジャンケンで1人に全員分の服を持ってこさせようとしたんだけど、エドにも大佐にも猛反対された。
 エド談:下着も持ってこなきゃなんねぇんだろ…。
 大佐談:君に運ばせる事になったら、鋼のの服まで運ばせる事になるしな。

 あのー、エド。そんなに嫌なのかい?恥ずかしがりやだなぁもう!(肘でドツき)
大佐。いつも服洗濯して運んでるの半分私なんですが。(残り半分はアル)

 まぁ、そんなこと言ってても仕方ないので、各々で着替えを持ってきてレッツシャワータイム。
 大佐の計らい(レディーファースト)で、私は一番にシャワーを浴びて上がってきた。

 エドはさっき上がってきたし、後は大佐だけ。
 …何気に一番最後なのか。
 順番はジャンケンか?それとも権力か?
 いやいや、それだと大佐が下ってことになっちゃうよ。


『ガチャッ』
 リビングのドアが開いて、私はそっちを振り向いた。

「あ、ここにいた」
「アル」
 リビングに入ってきたのは、アルだった。

「本なら窓際に置いて今乾かしてるよー」
「分かった。ありがとう」

 アルは私の前を通り過ぎて、向かいにいるエドの方へ歩いていった。
「兄さん大丈夫?打ったとこ」
「あー、大丈夫大丈夫ー」
「明らかに頭変形するくらいおっきなタンコブできてるんですが。」
「うっせ」

 開け放った窓から、心地よい風が吹き入ってくる。
 本は窓際に置いてあるが、濡れている為ページがめくれない。

「冷やす?」
「いい」
 エドはそっけなく答えてだらりと力を抜いた。

「……エドー?」
「…あー?」
 生返事。
 何か気だるそう。

「もしかして兄さん、眠い?」
「……あー?」
(駄目だこりゃ…)

 水遊びした後は疲れるもんねー。
 そうでなくてもエドって、本ばっかり読んで疲れてたんだし。

「ゆっくり寝かせてあげよっか」
「うん」
 アルが頷いて、私達は静かに退室することにした。
 そういえば、大佐が開けた窓付近の廊下も濡れたままだろうし、拭かないとね。



 ……その後、濡れタオルがエドの顔面に置かれて危うく窒息死しそうになったと聞いたのだが、誰の仕業なのかは神のみぞ知る。





〜fin〜




<アトガキ。>

「ギャグで鋼連載番外」とのことで書いてみたらこんな感じに。
誰寄りとも決まっていなかったので、3人登場させてみました。
なぜだか妙に時間のかかったブツです。本当に何でだろう;
そしてアルも参加させようとしたのに最後しか登場しない罠。
結局アルが落とした本は何の本だったのか。女の人が沢山載ってる本でしょうか。(滅殺)

そうそう、鋼ページの紹介文に書いてあった通り、この話は現在よりもう少し先の話になります。(現在21話UP済み)
季節を合わせるならば、ってだけですが。

えー、この夢は風沙様のみお持ち帰り可です。
こ、こんなブツですいません…!!返品OKです。
それではこれにて失礼!(逃亡)

2005.7.18