あの後かなり大佐にお酒飲ませたんだけど、どういうことか全く酔ってくれない。
大佐ってお酒強かったんだ・・・。
くそぅ、私の野望が!!(ぇ)
はぁ・・・残念。
エドもアルが運んでいっちゃったし。
そしてそれから1週間後、桜も葉桜に変わり始めた、高校の入学式の数日前。
私は買ってきたそれを早速身に纏う―――。
stigmata・22
風邪ひき2・前編
〜double〜
「ねぇねぇ、どうよコレ!?」
私は、はしゃいだ声を出した。
所はリビング、時は昼下がり。
皆の前で私はくるんと一回転。
それと一緒に、腰のスカートがひらりと舞った。
「おぉ、よく似合っているな君。制服だね?」
「はいっv 高校の制服が出来上がったんで受け取ってきたんです!!」
「へぇ。あ、襟折れてるよ」
くいっと首元の襟を直してくれるアル。
「ありがとー」
「どういたしまして」
私はアルに襟を直してもらって、ふと気付く。
・・・コメントなしの人物が1人だけいた。
「エド、これどう?いいと思う?」
制服を見せてもう一度言う。
が、
「うるせぇな、少し黙ってくれ」
冷たい言葉が返ってきました。
「なっ、何さぁ!?そんなこと言わなくていいじゃんよ!」
反抗期ですか?
そんなんだと女の子にモテませんよ!(モテられても困るけど!)
「兄さん、折角さんが制服見せてくれたのにちょっと酷いよ」
「カルシウム不足かね?」
2人がエドをじっと見る。
エドはその2人を睨みつける。…が、私の気のせいだろうか、今日は何だかその目が弱々しい?
「あれ?そういえばエド、ちょっと赤いよ?」
おまけに目がとろんとしてる。
・・・・・。
・・・それはそれで色っぽくてGood!!!
いや、そうじゃなくて。
「エドー?」
顔の前で右手を振ってみるが、反応が薄い。
ぼーっとしている。
「兄さん?」
「様子がおかしいな」
どうも反応のないエドに、大佐とアルが顔を覗き込む。
エドは眉を寄せて俯いた。
追加動作で重い溜息をつく。
「…頭に響くから…騒ぐのはやめてくれ……。げほっ、けほこほっ」
「え、」
私はもしやと思い、カーペットの上に広げられた英字の本をどかして、ソファの前に座っているエドの正面へとしゃがみ込んだ。
「…エド、もしかして風邪?」
右手をエドの額に当ててみる。
…と、自分の手より体温が高い事が分かった。
「ヤバい!エド、熱あるよ!?」
「えっ、本当?」
「…鋼の、また数日前のように腹を出して寝たのではあるまいな?」
また、というのはエドがこの前リビングのソファでお腹を出して昼寝をしていた事。
あれは丁度日が当たってたからまだセーフ…なのかな?
でも私がセーフじゃなかったけどね!(襲いそうになったぜ)
結局すぐにアルが入ってきて失敗したけど。
「違う。その後はここで昼寝してないし、…げほっ、部屋でも毛布かけて寝た」
「じゃ、心当たりある?」
視線が遥か彼方に向かいかけたエドに問う。
エドは眉を寄せて考える。
「…そんなもん無……、……。」
そして途中で言葉が途切れる。
・・・・・ん?
「…もしかしなくても、心当たりあるんだ?」
「……んー」
エドは右手を当ててまたゲホゲホと咳をする。
ずず、と鼻を啜ったので、テーブルの上に置いてあるティッシュ箱を取って渡した。
背中をさすってみるが、エド本人が「しなくていい」と断ってきたのでやめた。
「さん、あんまり近付くとうつるよ?」
アルに注意されるけど、私はその場から動かない。
「かといって近付かないわけにもいかないでしょー」
ていうか、エドの風邪ならうつされてもいいかも。(末期)
「でも気をつけてね」
「はーい」
「でも、お腹出しが原因じゃないなら何が原因なんだろう?」
アルが首を傾げる。
「買い物に行った時に風邪うつされたとか?」
「なるほど、最近は鋼のと私で買い物に行く事が多いしな。……と、待て。もしやあれが原因か?」
大佐が何か思い当たったように言った。
エドは、ティッシュで鼻をかみながらそれに「多分」と返した。
2人とも随分嫌そうな顔してるけど、何で?
「あれって何よ?」
私が訊くと、大佐とエドは顔を見合わせてから溜息をついた。
「おととい買い物に行った時、行きのバスの中に咳をしてる奴が大勢いたんだよ…」
「ウイルス蔓延バスに約20分も乗っていた事になる」
「ひぃ!マジで!?」
「降りて別のに乗ったけど、唯一空いてた席に座ったら近くの席の人が風邪引いてた」
そりゃ風邪にもかかるわ!
ていうか風邪流行ってるんだ?
全然気付かなかった。
今日は朝から制服買いに行ったけど、そういえばすれ違う人達が何人か咳をしていたような?
「大佐は大丈夫だったんですか?」
アルが大佐に尋ねる。
そうだ、大佐も一緒に行ったんじゃ…
「私は大丈…くしゅっ」
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
一同、一気に黙る。
エドからティッシュを貰って鼻をかむ大佐。
私はつつつ、と大佐に歩み寄り、額に手を当てて熱確認。
「あの、熱…あるんじゃないですか?エドより低いみたいですけど」
私の額の熱と比べてみるけど、どう考えたって体温高い。
「…風邪、ひいてますね」
「……」
「そういえば2人とも朝から咳とかくしゃみとか…。主に兄さん」
僕ら、朝は空き部屋の掃除してたから埃のせいかと思った、と付け足す弟さん。
空き部屋は埃っぽいしね…。今日任せた分も含めて明日私がやらなきゃ。
それにしても、家の中の人間の50%が風邪引きさんだよ。
こりゃヤバい、看病が大変だ。
これならどっちか襲えるかもしれない!(そっちか)
風邪で弱ってる所をうんたらかんたら〜って、よくある話よね!(実際にはないって)
「とにかく兄さんと大佐は自分の部屋に戻ろう。さん、体温計ある?」
「うん。薬とまとめて持って行くから先に2人を連れて行ってて」
「分かった。さ、行こう」
アルがエドと大佐に肩を貸そうとして、しかし両方とも身長が足りず(+肩のトゲが邪魔をした)、かといって担ぐわけにも行かず、結局2人が「自分で歩けるから」と言ってアルは後ろをついていった。
私は薬箱を出す為に、棚へと歩いていく。
***
「さーて、まずは大佐の部屋に到着ー」
階段の真正面にある大佐の部屋。
私は、体温計1本と薬2人分とコップに入った水2杯をお盆に載せてドアの前に立った。
ちなみに自分の部屋で制服から私服に着替えた後です。(制服だと動きにくいし)
うふふふふ、風邪で弱った大佐って何だか素敵だぞ!
よっしゃ、突撃だー!!
…と、意気込んでドアノブに手を伸ばそうとしたその時。
『ガチャッ』
「あ、さん」
いきなりドアが開いて、大佐の部屋からはアルが出てきた。
「アル、こっちにいたんだ」
「さんがはじめにこっちに来ると思って」
「?」
「さんにうつっちゃいけないから、2人の看病は僕がするよ。そのお盆貸して」
「え……」
そっか、アルは肉体が無いから風邪の引きようがないんだ。
これなら私がうつされる事もなくて便利☆
・・・なんて言うもんですか。
人をそういう風に使っていいはずがない。
ていうか何かそれじゃアルがかわいそうだ。
アルは自分をそんな風に使われて全くの平気と言えるほど、その体を許容できているだろうか?
「私が風邪引いた時は皆で看病してくれたじゃない?私だけ何もしないっていうのは嫌だよ」
「この状況でさんまで風邪引いちゃったら更に大変になっちゃうよ」
「…アルにはうつらないっていうの?」
確か中身が無い事はまだ聞いてないから、一応の質問。
食事とかは結構前に「皆が見てないときに食べてるから平気だよ」とか誤魔化されてそのままだし。(冷蔵庫の食料減ってないんだけど)
この機会に言ってくれると、私もボロが出なくて楽なんだけどなぁ。
けど、アルはこの質問に困ったようで、数秒唸って考えた。
あれ?やっぱまだ隠しとくのかな。
それならそれでいいけどね、言ってくれるまで待つし。(ずっと言わないままかもしれないけど)
でも看病の件はこのまま簡単に引き下がるわけにはいかないんだ!
エドと大佐の寝込みを襲う為に。(そこか)
…それと、何より…
このままアルにまかせるのはやっぱりいけないからね。
「大丈夫だよ。僕、体は丈夫だから」
「(そうきたか)丈夫でも駄目!全部押し付けたらアル大変でしょ。はい却下ー、私が行きまーす」
私はアルをドア前から押しどかし、部屋に入ってパタンとドアを閉めた。
「待って」とか聞こえたけど、私は待ってあげなかった。
一人廊下に残されたアルフォンスは、少し肩を落として壁に寄りかかった。
しかし、やがてふと思う。
「…あれ?何で僕、また体の事誤魔化してるんだろ」
長く時間を共にしているのだから、わざわざ怪しまれるような行動をとらなくてもいいだろうに。
今までの癖か。
短時間の付き合いなら、説明をすると長くなるだろうし言う必要もない。
しかし、はどうだろうか?
これからも(少なくとも帰る方法が見つかるまでは)世話になるのだし、言わなければ却って不便だ。
それに……
「さん、僕が言わないといらない気まで遣っちゃうもんね…」
呟いて、次に機会があれば打ち明ける事を決めた。
ついでに、その時は兄も呼ぼうと考える。
壁から背を離し、エドワードのいる部屋へと向かう。
だけに任せるのは無責任だろうし、仕事を半分に分担するだけなら多分許可してくれるだろう。
……この体の事を言ってしまえば、の接し方は今までのものと変わってしまうのだろうか。
歩きながら、少しだけ不安に思った。
態度そのものは、の事だから変わらないだろう。
が、今回のような心配はもうしなくなるだろう。
当然といえば、当然だが。
人間として扱われるのは嬉しい事。
しかし心配をかけることは必至。
打ち明けて心配をかける回数が少なくなるのは嬉しい事。
しかしそれなりの対応をされるのは少し悲しい。
よりにもよって、相手は自分が想いを寄せている人物だ。
かなり複雑な心境になりながら、エドワードのいる部屋の前まで来た。
…に打ち明ける決心が、僅かに揺らいだ。
***
「大佐、お加減いかがですか?」
私は、ベッドで横になってる大佐に近付いて体温計を渡しながら言った。
「いや、心配されるほど症状は重くない。しかし早めに対処しなければ君にもアルフォンス君にも迷惑がかかるしな」
紺のパジャマのボタンを二つ外して、体温計を脇に挟む大佐。
…もう着替えた後だったか。
くそぅ、私が着替えさせたかったぞ・・・!(変態か)
けどボタンを外す大佐の動作はマジで色っぽいですよ!
ふふふ、チラリズム最高。(危険)
「…君」
「うぁハイ!!?」
しまった、ヨダレが垂れそうになってたのが見つかったか!?
ごめんなさいごめんなさいー!!
「君は我々の事を初めから知っていた、と以前言ったな。…どこまで知っている?」
「えっ…あ、え?」
想像していた言葉とあまりに違いすぎて、一瞬頭がついていかなかった。
あまりに唐突だった。
「いや、先刻のアルフォンス君と君の会話を聞いて思っただけなのだがね。…君が少々強引にアルフォンス君を追い出してここに入ってきたのは勿論知っている」
「……」
要するに、あそこまで強引に看病を引き受けたのは『アルの中身の事を知っているから』なのでは、と言いたいのですかね。
確かにあの強引さとセリフ内容は、色々知ってる大佐からすれば引っ掛かるんだろうけど。
ていうか、それ以前にアルの誤魔化しを今までさらりと受け入れすぎてたって事もあるかな。
…そしていつものごとく図星だよ。
「あの……」
「どうこうしようというわけではない。知っておきたいだけだ」
「……」
これって、やっぱり言わなきゃ駄目だろうな…。
どこまで言っていいものか。
でもここで中途半端に明かしても、また問われる事はあるだろうし…。
「…大佐。何を聞いても、今までと同じ態度で接してくれますか?」
「……、君が敵だった、とでも言わない限りは」
うーん…敵、ではないけど。
微妙だなぁ…。
体温計が、電子音を鳴らした。
大佐は体温計に表示された数字を確かめて、私に渡した。
「熱はそんなに高くないようだ」
「でも7度3分ありますよ。安静に」
ふぅ、と溜息をつき、少し咳をする大佐。
「あの、もうちょっと後から話をするわけにはいかないんですか?大佐、風邪ひいてますし」
「後から、ではいつになるか分からん。二人になる時間はそうそうないだろうしな」
「……」
何が何でも今言わせるおつもりですかい。
いたずらのばれた子供の気分だ。
けど、隠し事はこれからも少しずつばれていく。
なら、いっそここで全部言った方がいいのかな。
私は室内にある椅子を引っ張ってベッドの近くに持ってきて、座る。
お盆は膝の上に乗せた。
「く」
「薬、飲んでください」
大佐の言葉を遮って、容器から出した薬と水の入ったコップをずいっと突き出す。
大佐は、ゆっくりと上半身を起こしてそれらを受け取り、薬を水で喉に流し込んだ。
「本当は言うつもりなかったんですけど…」
水の残ったコップを受け取りながら、私は口を開く。
「私はエドとアルの体の事は勿論、過去と、場合によっては元の世界での未来も知ってます。大佐の事も、過去は分かりませんが――」
「待ってくれ、どういうことだ?」
訝しげに目を細めて、大佐は私をじっと見る。
…まぁ、今ので全部理解したら恐いけど。
「君は一体何者だ?」
「…何者でもないですよ。ただ…」
私は、苦笑する。
「大佐達は、この世界では本の中のキャラクターとして知られているんです」
言い終えて、しかし大佐は口を半開きにしたまま何も言わなかった。
「本屋さんに近寄らないように何度も言ったのも、それが原因だったりします。…私は、本で読んで既に皆の事を色々知っていたんです。…私が特別なわけじゃありません」
「それでは、私たちの事を知っていたのは…」
「ストーリー上で描かれていたから、ってことです」
「友人が来た時に私達を隠したのは?」
「『一人暮らしの家に生活臭ありまくる男がいるのはおかしい』というのも嘘ではないですけど、実はあの2人は…その本が好きなんです。登場人物も」
「……」
「大佐達の常識と同じく、本の中の人物が出てくるなんてありえないですし、見つかったら何かと大変なんで…隠れてもらいました」
「ならば、私達をこの家へ連れてきたのも…?」
「…そうですね、私もその本のファンですから。ノリでっていうのもありましたが、大半の理由が好奇心です」
そう、3人を連れてきたのは、そういう気持ちが強かった。
でも、
「でも、今は『本のキャラが動いてる』という風に見ているわけじゃないです。皆、人間として…この世界で生きている人として、考えていますから」
「…そうか」
以前と見方は変わっている。それは確か。
このキャラがいて嬉しい、じゃなくて、この人達がいてくれて嬉しい、になった。
「しかし…、本…君が読者…」
「はい」
「…信じがたいな…」
「本、持って来ましょうか?私の部屋にあります」
「いや、…今度でいい」
「いつになるか分からん、じゃなかったんですか?」
「…今行って、帰ってくる途中にアルフォンス君に見つからない保障はあるか?今度私が君の部屋へ行こう」
「…やっぱり信じられないですか?自分がキャラクターとしてこっちの世界で有名なんて」
「今までの話と辻褄も合うし、君がそこまで言うなら本当なのだろうが…実感が湧かない」
「でしょうね」
自分だって、もし知らない世界に行ってそんなこと言われたって信じられるわけがない。
評判の悪い占い師の言う事より信じられないに決まってる。
それを今大佐がそんなに疑ってないのは、今までに私がボロを出しまくってたからだね。
ドジ乾杯っ☆
…自分で思ってて悲しくなってきた。
「題名は何と言うのだね?」
「へ?」
「その本の」
「…あぁ。『鋼の錬金術師』ですけど」
「・・・鋼のが主人公?」
「ざっつらいとー」
「・・・・・。」
あ、黙っちゃった。
「でも大佐結構人気ありますよ。でなけりゃ友達が来た時隠したりしません。演技で『親戚』にでもなりきってもらって誤魔化します。部屋は結局私が何個も使ってた事になっていて自然に誤魔化せましたが、あの友達に大佐の姿を見られたら一発です」
「そうなのか?」
「ええ、そうですとも」
僅かに回復した大佐に笑みを向け、それから壁掛け時計を見る。
…結構話し込んじゃったな。
私、何分くらいここにいた?
エドは大丈夫だろうか。
「そろそろエドの所に薬持って行かないといけないので、また後で」
私はお盆を持って立ち上がる。
「…君」
「?まだ何か――わっ!?」
言いかけて、突如私は強い力で引っ張られた。
お盆の上のコップがひっくり返らないように必死でバランスを取り、それからようやく現状把握にとりかかる。
…えーと……
萌えていいですか(何を突然)
大佐が、座ったまま私を抱き寄せてきてます。
抱き寄せられたせいで、私は片膝をベッドに沈めてお盆を両手で上のほうに持ち上げてる体勢に。(一人でやったら間抜けなポーズ)
ていうか、大佐の体温が腰に!(右腕が腰に回ってる)
も、萌えが爆発する・・・!!
このままお盆放り出して抱き締め返したい!!
「な、何ですか?」
「話してくれてありがとう。勇気が要っただろう」
「いや…まぁ…」
えっと、それとこの体勢は何か関係が?
萌えるから大歓迎なんだけどね。
……少しの間沈黙が流れて、
「…鋼のの部屋には行かなくていい。…ここにいてくれないか?」
「え、」
大佐の言葉と、まっすぐな視線に少し驚いた。
さては萌え死させる気ですね?既にしそうだけど。
何だか少女マンガチックな展開になってますが・・・!
あー、でも大佐が私をそういう目で見るわけないしなぁ。
…ってことは、
「大佐、病気の時は寂しいって言いますしそれは分かるんですが、エドにも薬渡さないと」
「・・・・・。」
ん?何か石化した?
何で?
「(もう、この際それでも構わない…)君、」
『コンコン、ガチャッ』
大佐が石化から回復するのと、部屋のドアが開くのは同時だった。
「失礼します。さん、兄さんの分の薬貰いに来たんだけど――って、何してるの!?;」
部屋に入ったアルは、まず私達を見て驚いた。
当たり前か。私微妙なポーズしてるし。(違)
「ごめんごめん、大佐が寂しがって中々放してくれなくて」
「……へぇ」
…あれ?今何かアルの声低くなってなかった?
聞き違い?
ていうか、寒気が?
室内温度が5度くらい低くなった気がするけど、私も風邪引いたのかな。
いや、でも熱はなさそうだし……
「さん困ってるみたいなんで、放してもらえます?」
「君こそ、薬を持って部屋に戻ったらどうだね?」
「……」
「……」
…あの、そんなに声弾ませてるのに何でオーラが寒々しいのでしょうか。
気のせい?気のせいなの?
それともアルと大佐って今喧嘩中?
「あのー、アルと大佐そんなに仲悪かったっけ…」
「そんなことないよ、さん」
「あぁ、気のせいだよ」
「…さいですか」
……じゃあ何なんだ…?
思っていると、アルが後ろから私を引っ張った。
あまりに勢いよく大佐から引っぺがされたので、お盆の上のコップ(2個)が派手に揺れた。
が、私が慌ててお盆に押さえつけたので何とか無事だった。
現在、私は後ろからお腹にアルの両手を回されてる状態。
背の高さにキュンv
・・・って、そんな事考えてる場合じゃない!
お腹に手当てられたら出っ腹がバレる!!(そこか)
「あの…アル、放し」
「いきなり何をするんだね、アルフォンス君」
「こうでもしないと放さなそうだったので」
「あの、放し」
「少し強引過ぎやしないかね」
「大佐こそ」
聞いてもらえませんねー。
どうしたもんか。
…そうだ。
「よい…しょ。じゃ、私エドのとこに行くから」
アルの手を無理矢理離してスタスタとドアに向かう。(そんなにきつく抱き締められてはいなかった)
うー、萌えシチュエーションが…。
もう少し堪能したかったけど、エドの病状は結構重かった気がする。
「待ってさん!」
「君!」
「じゃ」
パタン、とドアが閉まる。
…数秒後、室内で2人の間に火花が散ったのを、私は知らない。
***
『コンコン』
「エド、入るよ」
エド&アルの部屋の前。
ノックをして言うが、返事なし。
多分返事をする気力もないのだろうと解釈して、ガチャリとドアノブを回す。
部屋に入ってみると、案の定エドはぐったりとしていた。
だ、大丈夫かな…;
「エド、起きてる?」
「……うー…」
微妙な返事をして、エドは閉じていた目をうっすらと開いた。
わー、つらそう……
「はい、体温計。…自分で出来る?」
腕を動かすのもだるそうで、思わず訊いてみた。
あわよくば私がボタンを何個か外して脇に挟ませてあげようかと・・・!(危険)
「…できる」
ぼそりと呟き、私の手から体温計を奪うエドワードさん。
…ちっ(舌打ち)
しかし、ボタンを外す様子はしっかり見ます。
セクシーですね!!(変人がいるよ)
「エド、体起こせる?薬…」
「……めんどくさい」
「駄目。飲まないと余計つらいよ」
「……」
「ほら、私も手伝うから」
お盆を一旦ベッドの上に置いて、エドの背に手を差し込む。
…うわ、熱い。
ぐっと力を込めて起き上がらせようとするが、エドに力が入ってないので重くてどうにもならない。
腕だけで支えるのって何でこう重く感じるのかなぁ。
数秒してから、エドが腹筋に力を入れて自力で起きてくれた。
起きたら派手に咳き込んだので、私は背中をさすった。
…今度は嫌がられなかった。(ていうか余裕がないだけ?)
エドが落ち着いてから、水と薬を差し出す。
「はい、飲める?」
「……んー」
薬と水を受け取って、ごくりと飲み込む。
水を全部飲んだ所を見ると、喉が渇いていたのかもしれない。
飲み終えて私にコップを返すと、エドはぱったりとベッドに倒れた。
私はお盆を持ち上げて近くのテーブルの上に置き、椅子を持って帰ってくる。
「大丈夫?…って、大丈夫なわけないか」
…返事なし。
ちょっと悲しいぞ。
『ピピッ、ピピッ』
電子音が鳴って、エドはぼーっとした様子でゆっくりと体温計を外して数字を見る。
いくら経ってもこっちに渡してくれないので、私はそれをエドの指から引っこ抜いて見てみた。
「7度9分…。エド、どんな風邪うつされたのよ…。」
まだ熱上がりそうだなぁ、とか考えつつ体温計をケースに戻す。
うーむ、昼ご飯ほとんど残すわけだ。
「エド、何か食べたいものとかある?」
「いらねー…」
「じゃ、氷枕とかは?」
「いらねー…」
「じゃ、添い寝してあげよっか?」
「いら…」
……あ、うっかり本音が出ちゃった。(ぇ)
エドも固まっている模様。
「冗談冗談。飲み物持って来るね。汗かいてるし、喉渇いてるみたいだし」
ついでにタオルも持ってくるから、と言ってから椅子から立つ。
何だかエド、固まったまま動きません。
…にしても、相変わらずこの部屋散らかってるなぁ。
本とか凄い数だし。
ひと段落したら片付けよう。
こんな部屋じゃ治るものも治らない。
大佐の部屋は置いてあるものが全然増えてないっていうのに。
…それも微妙か。
テーブルの上に置いておいたお盆を持ち、なるべく音を立てないようにドアを開閉て、キッチンへと向かうのだった。
***
冷蔵庫を開けて、丁度スポーツ飲料を切らしていたのに肩を落とす。
牛乳を持っていったらキレるんだろうかと笑いつつ、何を持って行こうか本気で悩む。
こうなったら大佐にも持って行った方がいいよね。
そうだ、ココアを持っていこう。
だとすると、アイスかホットか。
風邪引きなんだし、ホットかな。
冷蔵庫を閉めて、インスタントココアの粉が入っている缶を持ってくる。
カップを二つ棚から引っ張り出した。
「…あ、これにも牛乳使わない方がいいんだろうか」
真新しいココアの缶をじっと見る。
…でも牛乳入ってないと水っぽいよね。
しょうがない、何か言われたらすっとぼけよう。
缶の蓋を捻って、開く。
…と、その時。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
真正面の窓が開いて、外の人物達と目が合った。
ちなみにその人物、黒コートにサングラス、黒帽子の見覚えがある格好をしている。
・・・・・。
「呪印の娘!今日こそ連れ帰」
「ぎゃああぁ!!変態が来たぁっ!!!」
「変態ではない!!」
キッチンの窓から侵入してくる黒ずくめを変態と言わずして何と言う!
あぁしまった、窓の鍵閉めておけばよかった。
私は急いで窓を閉めようとするが、先に変態が窓を掴んでしまって閉められなくなる。
そして変態達はそこから入り始めた。(身軽だ…)
「不法侵入で警察に訴えるわよ!」
「知らん!我々はお前を連れて行くのみ!」
「さぁおとなしく捕まれ!」
「貴様らが警察に捕まれー!!」
叫びもむなしく、奴らはどんどん家の中に入ってくる。…土足で。
あぁっ、掃除が大変だ。(おい)
私は、ココアの缶を持ったままドアに走る。
ドアを開けてダイニングに入るが、しかしそこにも変態は入ってきていた。
勿論窓から。
もう一つ先の部屋であるリビングからしか廊下に通じるドアが無いので、先が塞がれた今、逃げ場は無い。
窓には敵がぎっしり並んでいる。
…何で今日に限ってこんなに大勢で来るかな。
助けを呼ぼうにも、エドも大佐も寝込んでるし。
来てくれる可能性があるのはアルくらい?
とりあえず叫ぼうか。2人の体に障る…とかは言ってられない。
そして、「助けて」と大声で叫ぼうと息を吸って――
瞬間、背後から口をふさがれた。
「んむぅっ!!?んーっ!ぐむむっ」
「静かにしろ。あの3人組が来たら厄介だ」
あの3人組って、エドとアルと大佐の事?
今は来るとしても人数少ないと思うけど……
って、そんな場合じゃなくて。
嫌だ!連れてかれる!!
窓の外には、数歩行けば入れるという近さにワープ陣が。
た、助けて・・・!!
口を塞がれたまま別の人に腕をつかまれ脚をつかまれ、ついには軽く持ち上げられて外に向かって行ってしまう。
人数に押されて、抵抗すらできなかった。
も、もう駄目か……!?
私の額に冷や汗が伝った。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
お気に入り話。=風邪引き話。(えー)
幻作の趣味満載ですね!(コラ)
しかし、今回大佐に重要な話をバラしましたが、予定にはなかった…(!)
というか、あの話は最終回になってもバレない予定だったのですよ。
けど、結局これからも色々問い詰められるんだろうなとか考えたら、その度に何か言い訳をさせるよりはいいかなと。
良き理解者になってくれました。
アルはまた何か悩んでますね。悩み多きお年頃。(ぇ)
応援したくなります…。
成り行きに任せて書いていたら前後編になってしまいました。
VSもどきまで出ましたよ。…楽しかったです。(!)
それでは次回、何だか微妙な戦闘が出る模様。
お楽しみに。
2005.8.20