春休みも終わりにさしかかった頃。
数日前に渡された高校からの宿題も、もう終わっていた。
外は桜の花が満開。
今年は咲くのがちょっと早いらしい。
私の家の中庭に植えてある桜も、今年は早めにその花弁を開いた―――。
「うわぁ、凄い!満開ー!!」
私は思わず歓声を上げる。
「綺麗だねぇ」
アルが言い、エドと大佐が頷いた。
ここは私の家の中庭。
一番奥の方に、1本の大きな桜が植えてある。
その桜は今現在満開の状態で、舞い落ちる花びらが桜吹雪を作っていた。
時刻は日が半分以上沈んだ夕暮れ。
私達は夜桜で花見を楽しもうとここへやってきたのだった。
勿論真っ暗では見ようがないので、桜周辺の廊下の明かりは数個点けてきた。
丁度、完璧に日が落ちたら薄く綺麗に照らされるように。
「ほら、シート広げて!お弁当持ってきた?」
私は皆に指示を出しつつ、手伝いに回る。
準備が整い、シートに座って全員一息ついた。
「ふぅ………」
「しっかし凄いなぁ」
「……だね」
桜を見上げ、呟いた兄弟。
「しかし何か変ではないか?」
「え?」
「どこが?」
大佐の問いに、首を傾げる2人。
私は、多分その答えを知っている。
「……白いんじゃないですか?花が」
私が言い、皆は「あー」と納得した。
そう、白い。
私の家の、この桜は花弁が全て純白なのだ。
隙間なくその空間を埋め尽くしている花弁は、まるで空に浮かぶ雲。
普通の桜は薄く紅がかっているのに、突然変異だろうか。
「……ねぇ、知ってる?桜の花が紅がかっている訳」
「は?ンなの色素が……」
「夢がないなぁ。あのね……」
エドの言葉を遮って私が言おうとした時、
「僕知ってる。桜の下に死体が埋まってるからでしょ?」
アルが先に答えた。
「……うん。それ」
まさかアルが知ってるなんて思わなかった。
ちょっと驚いたかもしれない。
…あ、そういえば書斎に元ネタの本を置いてたかもしれない。バイリンガルの。
バイリンガルというか、英語バージョンはあいてるスペースに手書きで書いてあったんだけど。
多分お母さんが訳したんだろうな。
お父さん日本語読めないから。
それにしても、あの本をアルが読んでたとは。
そんなに暇だったのか?
「っつか、死体って…。そっちだって夢どころじゃねーだろ」
「それを言ったら終わりだよエドー」
私は、桜から視線を外さずに苦笑した。
「君、それがもしも本当ならこの桜は……」
「ええ。少なくとも他の桜よりはまっとうな生き方してるんじゃないですか?」
「………そうだな」
私が血に染まっている代わりに、この桜は白く、染まらぬまま。
散る花弁が、視界に斑点を描くから。
この時間だけ、私は白に染まれる気がした。
「……さて、お弁当食べよっか」
「おう!」
重箱を開けて、お弁当を展開。
これは苦労したんだぜよっ!!(誰)
色々種類を考えないといけないからね。
お弁当の場合、多種大量じゃないといけないし。
普通の晩ご飯だったら種類少なくても量あればいいんだけど。
「いただきまーす!!」
一斉に食べ始める私達。
アルは……いつものように座ってるだけだけど。
落ちてくる花びらが、お弁当の中に入ってくる。
えぇい、一緒に食べちまえ!!(をい)
ひとしきり食べて、大佐はビールの缶を開けた。
口に付け、ぐっと傾ける。
ちなみに買ってきたのは大佐。私が買いに行かせたのだ。
自動販売機なら近場で買えるし、これがないと花見じゃないっしょ!!(そうか?)
私は呑まないけどね。
「わーい大佐一気!一気!!」
「一気!一気!!」
私とアルで手拍子しながら一気呑みを促す。
大佐はそれに応えるように、缶ビールを1本全て呑み干し、大きく息をついた。
「わー、すごーい!!」
「ブラボー♪」
「ははは、これくらい何ともないさ」
「っつか酒くせー」
エドが口をへの字にしてそっぽを向いた。
「今日くらいいいじゃん。折角の花見なんだし」
「どーいう理屈だ」
「ほら、こっち向いてよ」
「……んだよ」
私はダルそうにこっちを向くエドのその口に、栓を開けた日本酒のビンをぶっ差した。
「んぶぅっ!?」
大きく傾けて、中の酒を流し込む。
未成年の飲酒は違法ですので、良い子は真似しないように!(できるか)
エドは最初何が起こったのか理解できずに固まっていたが、やがて抵抗しだす。
10分の1くらい呑んだところで私を押しのけて酒から解放。
「なっ……何すんだ……っ!!」
息も絶え絶えに言うエド。
頬がピンクに染まってて色っぽいv
「だらしないな鋼の、その程度でギブアップか?」
「大佐、煽らないでください!」
ふふふと笑う大佐に、それを諌めるアル。
そして……
「うるせぇ!そんなに言うなら呑んでやるっ」
果敢にも一升ビンを掴み上げるエド。
「ちょっと待て!!そんなに呑んだら急性アルコール中毒で死んじゃうでしょー!!!」
「兄さんやめてー!!」
必死に止める私達。
ああもう大佐が言うから!!
「うるせーな止めるなよ!俺はこれ全部呑んでや……る…んだ……」
突然ぱったりとその場に倒れ込むエド。
「エド!?どうしたの!!?」
「兄さん!!」
揺すってみるが、反応はない。
………って、
「……寝てる?」
かなり安らかな顔をして眠っている。
をい、酒の回り早くねーか!?
「んー………。」
エドが寝返りをうつ。
「どーすんの、こんなとこで寝ちゃって……」
「さんが呑ませたんでしょ」
「まぁそうだけどさ。……あ、じゃあ私がエドの部屋に運ぶっ!!!」
「却下。鋼のの為にそこまでする必要はない」
「えーっ」
大佐に却下され、私はぶーたれた。
折角そのままエドを襲おうと思ってたのに………!!(をい)
よし、こうなったら………
「大佐、どんどん呑んじゃって下さいっ!」
「は?あ、ああ」
私は缶ビールを大佐に大量に手渡す。
「……さん、そんなに呑ませてどうするの……?」
「うふふ、ヲトメのひ・み・つv」
「………(汗)」
ぃよっしゃ、大佐を酔い潰させてそのまま襲ってやる!!!
うふふふふふ、楽しみ〜v
私は、重箱とは別の箱を開けて枝豆やら、から揚げやらのおつまみ系を出す。
「さ、おつまみもあるんでガンガン呑んじゃってくださいなv」
紙コップを風呂敷から出して大佐に持たせ、日本酒を注ぐ。
…あ、この日本酒さっきエドにぶっ差したやつじゃん。
もしかしてこれ呑んだら大佐とエド、間接ちゅー!!?
わくわくしながら見守る。
すると、
「…これはさっき鋼のが口をつけた酒…?」
あ、気付いた?!
気にせず呑んでほしい!!つか、呑め!!
「いえ、その後僕が飲み口拭いといたんで大丈夫ですよ」
・・・・・。
・・・・・・・・・・。
駄目やん
「うあーん!!!アルの馬鹿ん!!」
「な、何?何??;」
アルの腕を取ってぐわんぐわんと揺さぶってみるものの、直接的なダメージには繋がらないので微妙だ!(ダメージ負わせる気か)
その傍でごくごくと日本酒を飲む大佐。
…うー、これだけでも絵になるからいっか。
私は次々と大佐のコップにお酒を注ぐ。
酔わせる計画は諦めてませんからね!!(親指ぐっ)
「綺麗な花だねぇ」
アルが小さく呟く。
……あ。
アルは呑むことも食べる事も出来ないんだっけ。
てことは花見の楽しみの半分は消えているのではないだろうか。
重箱を包んでいた風呂敷を小さくたたみ、エドの頭の下に敷いてから、アルは再び桜を見上げる。
大きな桜。空の一角を埋めるそれ。
私は大佐のコップに日本酒をまた注ぎ足してから、酒瓶を置いた。
「君、こうしていると夫婦のようでは」
「アル、もしかして暇?」
「あ、ううん全然」
「・・・・・・・・」
ん?大佐今何か言ったかな?
…ま、言い直さないなら大したことじゃないか。
「でもアル、桜見てるだけだし」
「あ、あはは。ここに来る前に食べたから」
…そういやまだ中身が空っぽだって聞かされてないんだっけ。
私に誤魔化しは通用しないんだけど、向こうから本当のことを言ってくるのを待とうかな。
どうせ「今更言うのもどうなのかなぁ」とか考えて躊躇ってるだけだろうし。
「あ、そうそう。じゃあこんなの知ってる?」
「何?」
「地面につく前の桜の花びらを3枚集められたら恋が叶うっていうおまじない」
「「!」」
途端にぴくりと動く大佐とアル。
「あー、でもアルも大佐も好きな人いないなら無駄かな」
「そんなことはない。やってみようじゃないか」
「そうだよ!やってみよう」
「え、いいの?」
「「勿論。」」
私に気を利かせてくれたんだろうか。
それとも、もしかして本当は好きな人がいるとか…!?
……………まさかね。
いや、でもリザさんだったりする?
ウィンリィだったりする?
うわぁだとしたら素晴らしいですね!
好きな女性の為に頑張る男……
うーん、萌え。(萌えか)
「よしゃ、頑張ってみますか!!」
「おー!」
「一番に集め終えてみせる」
ジンクスの為に瞳に炎を宿す3名、ここにあり。
私達は立ち上がって、舞い落ちる花びらを目で追う。
寝転んだエドを踏んづけないようにシートの上からどいて本格的に花びら捕獲に奮闘。
ひらり、大佐の目の前に1枚の純白が舞う。
「貰ったっ」
「(そうはさせない!)えい!」
大佐がキャッチする前に、アルが手で扇いで花びらを吹き飛ばす。
花びらは、ぶわりと飛んで遠ざかった。
「な、何をする!折角拾えそうだったと言うのに。大人気ないぞっ」
「僕子供ですもん。そんなにはしゃいで、大人気ないのは大佐でしょう?」
「くっ…。次だっ」
「白熱してますなー」
私は、2人の様子が面白いので少々傍観しつつ、気が向けば落ちてくる花びらに手を伸ばす。
…私には好きな人いないからねー。
強いて言えば目の前の3人?
3人もか。欲張りだなぁ私。
「あっ、」
アルの前に5枚程手ごろな花びらが落ちてくる。
「よしっ、一気に―――」
「させるかぁっ」
ふぅっ!!と息を吹きかけて花びらを飛ばす大佐。
が、
「残念、僕は普通の人より腕が長いんだよね」
アルはひょいっと腕を伸ばして2枚の花びらを握り取った。
おー、さすがだ。その体型は伊達じゃない。
「残り1枚ー!アル凄い!大佐頑張れー」
「くそっ…」
両手のひらをくっつけながら必死になって花弁を追いまくる大佐。
…あ、そういや大佐には大量にお酒を飲んでもらわないといけなかったんじゃ……。
……後でいっか。
「はっ!ほっ!」
大佐がアルの横で素早く手を動かし、握って、手の中を確かめる。
そして、にやりと笑った。
「2枚拾ったぞ」
「3枚目は僕が先に貰います」
バチバチバチ、と効果音がつきそうなくらいの声で言い合って、すっかり日が沈んだ中、花びらを追ってまたどたばた。
ひらり、ひら。
1枚の拾いやすそうな花びらが、2人の前に落ちてくる。
「3枚目ー!!」
「私が先だっ!」
手を伸ばし、花びらと手の距離が数センチにまで縮まった、その瞬間!
「勝者決定ー!」
私の声が響いて、2人は呆気にとられたように私を振り返る。
「え、でも僕らまだ3枚目は…」
「だから、勝者は大佐でもアルでもないの」
「?」
「勝者は、エド!」
「「・・・・・・え。」」
私が指差す先に勢いよく視線を向ける2名。
…寝転がっているエドの手のひらの上には、3枚の花びら。
いつの間に勝負になったんだ?とかいう疑問は無しの方向でお願いしますよ!(ぇ)
「は、鋼のっ!?」
「兄さん!!」
「うーむ、無欲な者ほど得をするってことでしょーかねー」
あ、それだと私一生得できないことになるんですが。
損ばっかりの人生は嫌!!
人生楽ありゃ苦はないほうが幸せよ!(ありえないって)
そういやエドは誰か好きな人いるんだろうか?
前に大佐のデート追跡した時はいるっぽい反応したの見たけど。
うーん、やはりウィンリィか!?
どうなんだこの色男!!
……本人寝てるから、からかい甲斐がなくてつまんない。
「くっ…!こうなったら何枚でも集めてやる」
ぐっと拳を握り締める偉いヒト。
「僕だって!」
「あー、大佐はお酒飲んでてくれますか?」
「!!」
私によってシートに引き戻され、渋々日本酒呑みを再開する大佐。
うへへへ、絶対に酔わせてやる…!!
エドは熟睡。
アルは花びら取りに夢中。
大佐は(なぜかアルを恨めしそうに見ながら)飲酒。
私はお酌。
奇妙な花見風景だ。
まぁ、たまにはいいけどね。
落ちる花弁が視界に白を継ぎ足して、朧な月明かりはそれに反射する。
輝く白の元、私達は集った―――。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
うあ!!これはまた季節外しまくりですねコレ!!
でも外したくなかったんです…堪忍してください…。
短かったんで書き足してみました今回。それでもちょっと短かった気がしますが;
「地面につく前の桜の花びらを3枚集められたら〜」辺りのあれは、幻作が聞いた話です。
願いが叶う、という話も聞いたのですが、こっちの方が聞いた数は多かったのでこっちにしてみました。
さて、次回は私のお気に入りの話!!
ネタ好きだったからまたやっちまえ!!的な話です!!(何だと)
……でも萌えるんです(私が/ぇ)。書きたいんです。戦闘も入りますね。うふふふふー!!(怪)
それは、これにて第21話終了。また次回会いましょう。
2005.7.3