大佐のデートを追跡してから随分経つけど、あれからデートは1回もしてないらしいのよね。
尾行されるのがそんなに嫌だったのかしら。
それはいいとして、今日は乙女にとって大切な日。
想いを告げる日であり、恋人達には想いを確かめ合う時。
それは1つのチョコに変えて。
私もその日、キッチンを占領しきって『それ』を作っていた。
私の想いを込めた、甘い甘い――――。
stigmata・17
バレンタインデー
〜declare〜
「ぜっっったいにキッチンに入っちゃだめよ!!」
にそう言われて早4時間。
未だはキッチンから出てこない。
その間男性陣はリビングで、
「鋼の、少しは気にならないのかね?」
「……んー?」
エドワード+アルフォンス→読書中。
ロイ→暇。
……といった具合に、いつもの図式を出来上がらせているのだった。
「何でだよ?」
「今日が何の日なのか知っているかい?」
「2月14日……ですよね?」
アルフォンスが、本から顔を上げて答えた。
「それが何なんだよ?」
エドワードも本から視線を上げ、ロイに尋ねる。
「2月14日……2月14日………うーん?」
アルフォンスが首を傾げる。
どうやら覚えていないらしい。
「分かんないや。兄さんは分かる?」
「んー………。なんか特別な日か?」
エドワードも首を傾げる。
「本当に知らないのか?これだから子供は………。」
ふー、と大袈裟なまでに溜め息をつくロイ。
それが気に入らなかったのか、エドワードは本を閉じてロイを睨む。
「だから何だっていうんだよ!!」
「2月14日。バレンタインデーだよ」
ロイはニヤリと笑った。
「あ、そういえばウィンリィに貰ったことあるよね、昔」
「ん?んー………おぉ、そんなこともあったっけか?」
「君が今キッチンで何をしているか分かるかね?」
「……もしや……チョコを?」
「我々に立入禁止を食らわせておいてまで秘密裏にやっていることだ。それしかあるまい」
「誰にあげるんでしょうね?」
「そこだよアルフォンス君!!」
ズビシと人差し指をアルフォンスに向けるロイ。
「義理チョコは幾つかあるとしてもだ。本命は1つしかないのがセオリー!!
ではそのチョコが誰に渡されるのか。気にならないかね?」
「大佐には分かるんですか?」
「いや、分からん。」
ロイは、きっぱりと言った。
それに少々呆れるエルリック兄弟。
「分かんねーなら言うなよ」
エドワードが溜め息をつく。
「ふふふ、しかしほぼ確定はしているのだよ。誰だか分かるかね?」
「……知らねーよ」
「誰ですか?」
「それはな………」
ふっ、と得意気に笑い、
「この私だ!!」
親指で自分をぴっと示し、堂々と宣言した。
「ちょっと待て、何で大佐が!?」
慌てて反論するエドワード。
「当然ではないか。私が君の本命なのだからな!」
「いつ決まったんだ、いつ!!」
「ていうか大佐、この前告白しようとして全く聞いてもらえなかったんでしたよね。」
何気に鋭い所を突くアルフォンス。
それを聞いたロイは、片眉をぴくんと上げる。
「……アルフォンス君、そんな事どこで……」
確か、アルフォンスはあの場にいなかったはずだ。
「兄さんに教えてもらいました」
さらりと答える弟。
「は、鋼のー……!!随分と口が軽いようだが………!!!」
実はあの後エドワードに口止めをしていたロイ。
口止め料にペンやらノートやらを買いに行かされたり、書斎から持ってきた読破済みの大量の本を戻させられたりした。
そこまでして口止めしたかった理由はただ1つ。
この自分が告白を聞いてすらもらえなかったという事実がプライドを大いに傷つけたから………もとい、に振り向いてもらえるまで気付かれたくなかったからだ。
「別にに知られてないならいいんだろ?それに俺は『言った』んじゃなくて『書いた』んだ」
そう言ってノートを広げ、ロイに見せる。
そこには1ヵ月前のその日あったことが事細かく書かれていた。
おそらくそれをアルフォンスに見せたのだろう。
「…鋼の、そういうのを屁理屈というのだが」
発火布の手袋をはめようとするロイ。
「わ、待てよ!ここでやりあったら家がメチャクチャに……」
「後で君が錬金術を使って直せばいい」
「……大佐、大人げないですよ」
「う、うるさいな!」
「それより、告白しようとしてもそんな状態の大佐は本命にはなり得ないですね」
「う………。」
一気にしおれるロイ。
しかし急に元気を取り戻し、
「だがこの1ヵ月で君の私への見方は変わっているやもしれん!!まだまだチャンスは有るぞ!!!」
「……立ち直り早ぇー……。っつか、ありえねぇって」
手をぱっぱっと左右に振るエドワード。
「なぜそう言える?」
「なぜって……いや、何となく」
「……ははーん。さては鋼の、君の本命チョコが欲しいんだな?」
「なっ!?そんな訳ねーだろ!!」
「兄さん怪しい…」
「アルまで!?」
「やめておきたまえアルフォンス君。鋼のは私に君の本命チョコが貰われるのが嫌でひがんでいるだけなのだから」
「何だと!!?」
「兄さん、どうどう」
ロイに掴み掛かろうとする兄を、羽交い締めにして宥めるアルフォンス。
しかしいくらロイの言っていることが本当ではないにしろ、ひがんでいるとまで言われては黙っていられない。
「何がひがんでる、だ!!どーせ貰えるかどうか自信がないから誤魔化してるんだろ、このナルシス大佐!!」
「ナッ、ナル……っ!?失礼な!!君こそ義理すら貰えないのではと焦っているのではないかね?」
「!!! そんなこと絶対ねぇ!!少なくとも大佐には負けねー!!!」
「そんな低レベルな争いしてないで、静かに待とうよ」
アルフォンスが2人の間に割って入る。
が、2人はアルフォンスをギロリと睨み、
「うるせー!!大佐にだけは負けたくねーんだよ!!!」
「君には義理が似合っているんだよ鋼の!!」
(最早主旨が変わっているような気がするのは僕だけなのかな……)by.アル
「アル!!お前はどっちの味方だ!!」
「私が本命チョコを貰うに決まっている!!」
「えーと……どっちかっていうと僕が貰いたいです。」
「「………」」←(ロイ&エド)
思わぬ方向に答えられ、一時的に固まる2人。
当のアルフォンスは飄々としているのみである。
(アル、結構負けず嫌いだしな…大佐にはやっぱり負けたくねーよな)
(しまった、思わぬ所に敵がいた……)
言い争っている内容は同じなのに、なぜか根本的な思考が違うエドワード&ロイ。
「……ちょっといいかね」
「はい?」
ロイがアルフォンスを引き寄せ、後ろを向かせる。
ロイも後ろを向き、2人はエドワードに背を向ける形で小声になって話し始めた。
「………君、いつから君を?」
「そ、そんな僕は……。二ヶ月くらい前からですかね。」
言うのかよ。
「……って、そんなに前から!?」
「ええ。好きになったと同時に自覚しましたから」
「………。」
自覚したのはつい最近のロイ、少々敗北気分。
「兄さんも最近意識し始めてるみたいだし……無自覚ですけど。気をつけないとなぁ。
……あと、大佐。さんは渡しませんよ」
「案外と攻撃的なのだな、君は。いいだろう、受けて立つ。が、君は私が貰う」
「負けません」
「おい、何話してんだ?さっきからこそこそと」
「!!」
背後からエドワードが2人を覗き込む。
「ううん、何でもないよ。例の『告白無視』の口止めされてただけ」
「ふーん。口止め料は何にしたんだ?」
「別にいらない。僕欲しい物もやってほしいこともないから」
うまく誤魔化したものである。
というかそれ以前にアルフォンスの見事な変貌ぶりに内心冷汗を流すロイだった。
「しっかしおっせーなぁ……。チョコ溶かして固めるだけでそんなに時間かかるもんなのか?」
「確かに…もうかれこれ4時間以上経ってるし……」
「義理チョコを沢山作っているのかもしれんぞ。学校の者に渡す分とか」
………。
学校?
「何も俺らだけじゃなかったんだよな、本命が貰える可能性のある奴は」
「そ、それでも私が貰ってみせる!!」
「無理ですって」
しまった、学校に本命がいるかもしれなかった。
盲点だった……。
も15なのだから、浮いた話の1つや2つはあってもおかしくない。
は自分達に学校の話をあまりしない。
友達がいたのも、来る直前に初めて聞かされたくらいだ。
ということは、自分達が知らない間には誰かを好きになっているかもしれない。
それどころか既に彼氏持ちかもしれない。
思わず青ざめるアルフォンス&ロイ。
……いや、アルフォンスは実際に青くなれないので焦るのみだったが。
「そういやこの前『絶対いい男引っ掛けてやる』って大佐にナンパを教えてもらおうとしてなかったか?」
エドワードが思い出したように言った。
「よ、よもやその『いい男』が本命!?」
「でも口説き文句の練習じゃなくナンパの練習だしっ」
「……いっその事本命なんかいなけりゃいいのにな…。」
エドワードがそう言って溜め息をついた。
「……兄さん、それって」
「!!! べっ、別に変な意味はねーよ!!
ただ本命がいなかったらがチョコを渡した時大佐がそいつにひがみを言ったりギャーギャー騒ぐこともないから静かでいいなと…」
「ふーん、僕はまた他の人にさんを取られるのが嫌なのかと」
「んな訳ねーだろ!!!」
顔を赤く染めながら反論するエドワード。
と、その時。
「何が『んな訳ねー』の?」
突如背後から声が。
「「「!!!」」」
何とそこにはが立っていた。
幸い部屋に入ってきたばかりで話の内容を知らないようだが、話の的がいきなり現れては驚きもする。
「なっ、ななな何でもねーよ!!」
「それよりその手に持っているものは?」
ロイが目を向けたそれは、が持っている皿に乗せられた何か。
以外全員座っているので乗っているものは見えない。
「あぁ、今完成した所なの。本命チョコv随分苦労したのよー」
「本命!!?」
一体誰に渡すというのか。
どんな形のチョコなのか。
男性陣は一気にその皿に視線を集めた。
「よいしょっと」
がテーブルにコトリと皿を置く。
「こっ、これは……!!」
男性陣、皿の上のそれを見て思わず硬直。
皿に乗っていた物とは……
「うん、チョコケーキ。皆で食べよv」
……何と、チョコケーキだった。
「………あの、本命だって言ってなかった?」
「うん、本命。私の本命はここにいる3人だから。他には誰もいないんだよ?」
「本命って本来1人だけじゃねーのか……?」
「だって3人とも好きなんだもん」
「……君、他にチョコは……?」
「これだけだよ。義理は作ってないし」
「「「……………。」」」
思わず石化する男性陣。
「さ、早く食べよ!」
そう言って、持っていたナイフでケーキを切り分ける。
「……これって、結局大佐に勝つも負けるもなく引き分けってことか……?」
「少なくとも誰も勝ちではないだろう」
「でも貰えただけましだよね……」
小声で終結を迎える、男性陣の口論。
「って、おい!!何でお前の分も分けてんだ!?」
「えー?だって私ケーキ好きなんだもーんv」
「おいおい………。」
想いを込めた、甘い甘いケーキ。
『大好き』の気持ちを込めて、皆に作って。
ねぇ、この『大好き』は友達に言う様な『大好き』じゃないって気付いて。
皆は私の特別。
だからこれは、3人への本命チョコ。
「……大好きだよ、皆」
〜To be continued〜
<アトガキ。>
あー、第17話かんせーい。
遅くなってすいません…!!待ってくれるお方もいらっしゃるというのに…!!
ブラックアル降臨!
私的には好きな娘を取り合う時のアルはあんな感じだと思っておりますが、どうでしょ。
しかし大佐と言い争うシーンなんて腹黒いことこの上ない!!!(をい)
ブラック嫌いな人、ごめんなさい……。
でも原作からして黒い一面も持ち合わせている事は確かですよね。それを考慮するとあり得なくもないのではと。
しかし大佐、自信家にも程がある。私が書くとどうしてもこうなってしまうみたいなんですが、だめですか?
楽しいんですけどね……。(お前はな)
大佐ファンごめんなさい。(平謝)
この話を書くにあたって色々な疑問が湧いて出ました。
果たして向こうの世界にはバレンタインという習慣はあったのか?とか、あっても日本と同じみたいな感じなのだろーか、とか。
アメリカでは男性から女性に花束を贈ったりチョコあげたりするらしいですし。
でもそんなこと言ってるとオチが書けないので日本と同じにしました。
……元々ハガレン世界はこの世界のどこでもない訳ですし、異次元ってことでこれも有りなのでは………はい、言い訳ですね。
この話、脳内ではもっと長くなる予定だったんですが、文にしてみると短いの何のって。
最後のオチを書きたくて書いたネタだったんですけどね。(何だと)
次回は少々重要話かもしれません。何か色々と明かされる模様。
では、また次回で!!
2005.5.