私が風邪をひいてから数日。
まだちょっとダルいけど殆ど治った。
3人の看病が実を結んだのね。
あー、この3人に看病してもらえたなんて夢みたいだ……。
そして今日は、年の終わり。
そう、12月の一番最後の日。
夜中だけど、今日は出掛けます!!
stigmata・14
願え、叶え
〜shrine〜
「3、2、1、0!!ハッピーニューイヤー!!!」
テレビでカウントダウンした私。
他の3人もこの場にいるんだけど、カウントダウンはしてくれませんでした……。
ノリ悪いなぁ。
「もう、皆もカウントダウンすればいいのに!!」
言いながら振り向いてみると。
「この印とこの式の組合せだともしかして……」
「これ見たことない陣だね」
……………エルリック兄弟、例の 何かの研究過程である日記を熟読中。
そして、
「むむ、この日はスケジュールが埋まっているというのに………」
大佐、何やらメモ帳開いてブツブツ呟いてる。
………って、
「何してるんですか?」
「いや、出掛ける日の予定を立てていたのだが、相手の都合と中々合わなくてな」
「…相手って、女の人?」
「ん?いや、まぁ。……ヤキモチかね?」
「いいえ。その人と付き合ってるんですか?」
「(そんなにきっぱり言わずとも…。)一度会うだけにしている。いつ元の世界に帰ることになるか分からんからな」
「あ………」
そっか。
皆いつかは帰っちゃうんだよね。
エドもアルもそのために私のお父さんの研究記録読んでるんだし……。
……ちょっと嫌かもしれない。
皆が帰ったら私はまた1人になるし…。
………っていうか、そういえば。
「大佐、普段やることないはずなのに都合が合わないってことは、複数の人と約束してて日程が埋まってるんですね?だから一度会うだけにして色んな人と会ってるとか」
「はっはっは、君は鋭いな」
あ、開き直った。
「気になるかね?」
「全ッ然。…しつこいですよ」
「……」
おや、なんか斜線入ってるよ。
そんなに自慢したかったのか?(違)
でもどんな人と歩いてるのかは気になるかも。
やっぱしピチピチ(死語)の若い女の子?
それともバインバインで落ち着いた感じのオトナの女?
どっちもあり得ると思うけど。
……まぁ、それはいいとして。
「ところで私、今から出掛けるんですけど、一緒に来ます?」
「今から?夜中だぞ?」
「ええ。神社へ」
「神社……?何か神頼みすることでも?」
『神社』が何なのかってこと教えたっけ?
もしかしてこっちの世界で今までに会った女の人から聞いたことがあるのかも。
情報源があると違うねぇ。
「いえいえ、この国の風習なんです。『初詣』って言って、年の始めに神社に行くんですけど、そこで願い事をするんですよ。行かないんでしたら私1人ででも行きますけど?」
「いや、私も行こう。夜中に女性の一人歩きは危ないからな」
15の女子に「女性」ですか。
「そうですか。で、エドは………」
一緒に行くか聞こうとして、やっぱしやめる。
集中しまくってて聞こえてないし。
「……行きましょっか」
振り返って大佐に言い、
「ああ」
頷く大佐だった。
「ふぃー、寒いっ」
雪こそ降っていないものの、冬の夜はかなり着込んでても寒さが防ぎきれない。
「それならもっとこっちに……」
「カップルじゃないんですから」
「…君、最近冷たくないかね?」
「うーん、そうですか?普通だと思うんですけど」
あー、ちょっと勿体無かったかも。(何だと)
くっつきたいけど、そんなことしたらめくるめく萌えの世界に飛んで行ってしまいそうで……!!
エドとくっついた時(本棚の後ろに隠れた時)も危うく戻ってこれなくなるところだったし。
今飛んだら折角の萌えシーンを見逃してしまう可能性がある!!
それだけは勘弁。
「ところで今日は女の人と約束しなかったんですか?こんな年中行事に誘われないなんておかしいですよ」
「君があけておいてくれと言った筈だが?」
「あ………。」
そういえばそれで1日中大掃除やらおせち料理作りを手伝わせたりとかしてたんだったっけ。
それにしても他の人の誘いを断ってまで手伝ってくれるとは、何というか。
大佐らしい?(何だそりゃ)
「大佐」
「ん?」
「ごめんなさいね」
「何がだね?」
「私のせいで他の人といられなくなっちゃって」
「君がいれば充分さ」
「………」
紺碧の空。
浮かぶ星は、銀に光る。
喋る度に呼気が白に染まり、その直後透明になって消えていく。
「本気ですか、それ」
「?」
「大佐って色んな女の人にそういう事言ってるんじゃないですか?
だったらどの言葉が本気でどの言葉が嘘なのか……私にはちょっと分からないです」
だって嘘だか本気だか分からないこと聞いたってつらいだけだし。
実は私といる間ずっと「つまらない」とか思ってたりしてるんだったら嫌。
疑いだしたらきりがなくて、素直に喜べない。
「……私は、」
大佐が、歩を止めた。
私も足を止め、少し後ろにいる大佐を振り向く。
「私は、君……君を守ると決めた。だから君に嘘をついて悲しませるなどということはしない。それだけは…信じてほしい」
今まで彼女にかけた言葉に、嘘偽りはなかった。
どんな状況の、どんな時でも。
それは彼女を守ると決めた時より前からそうだった。
必死に胸の内の傷を隠そうとして、時に笑い方が空っぽになる彼女を。
温もりを求めることに罪悪感を覚える君を。
ただ………これ以上涙を流さないように、傷つかないように、守りたい。
なぜ、そんなことを思うのか。
……分からない訳では、ない。
しかし確かでもない。
だから…まだ、言わない。
「大佐」
「……何だね?」
微笑う君を、
「ありがとうございます」
「………。いや」
今、どんなに愛しく思ったとしても。
***
「着いた〜。やっぱり人多いですね」
家から歩いて約20分。家から微妙な距離。
私は毎年この神社で初詣をしている。
ここに来るまで誰にも会わなかったというのに、神社付近に来たら人だらけってどういうこと?
全く、何でこんなに多いんだか。
……って、自分もその中の1人なんだけど。
「あっちです」
「凄い人だかりだな」
人が密集しているそこは、勿論願い事を言うあの場所。
もう隙間すら見当たらないって感じ。
歩けるのかあの道は!?
「よっしゃ、気合い入れていくぞーっ!」
それでもやっぱり行くことを諦めない私。
だって毎年のことだし、ここで帰るのもちょっとやだし。
折角来たんだしね。
私はさっさと人混みの中に突っ込む。
大佐が後ろにいるのを確認しながら、前方に進む。
「んみゅっ、ぐるじ………」
「君大丈夫か?」
「だ、大丈夫でしゅ……」
……な訳ないだろ。
最早押しくら饅頭全国大会みたいな感じになってます。
四方八方から圧力かかりまくって呼吸すら困難です。
周りに背の高い人が多すぎて、方向も分かりません。
「うぁ早く済ませてこの人混みから離れたい………。」
「同感だ」
大佐とはぐれないかちょっと不安になってきた。
この人口密度じゃ進もうとしてる方向と実際進んでる方向があんまし合ってないし、ぴったりくっついてるのも不可能。
「………っぷは!」
考えていた直後、唐突に視界は開けた。
目の前には賽銭箱と太い紐。
上の方にはでっかい鈴。
よ、ようやく辿り着いた!!!
人口密度の高い所特有のヌルい空気の充満した中から、一気に冷えた空間へと抜け出た。
ところで大佐はいずこ?
きょろきょろと見回すと、たった今人混みから抜け出たらしい大佐が私の右に。
「ふぅ……来るだけで疲れてしまったな」
「毎年のことながら凄いですね……。」
「これを毎年経験しているのか、君は」
「えぇ、年中行事ですしね。さ、お願い事しましょう」
私は、2人分のお賽銭を投げ入れてから太い紐を揺らしてガラガラと鈴を鳴らす。
ぱん、と両手を合わせ、目を閉じた。
数秒して目を開く。
「よし、終了!引き返しますよ!!」
「両手を合わせるのには何か意味が?」
「私の宗教では祈る時とかに両手を合わせるんですよ」
「ああ、成程……」
踵を返し、再び人混みの中へ突入。
気のせいか、先刻より人が多くなっているような。
まともに歩くことも少々困難だ。
君は大丈夫なのだろうか、とロイは少々不安になり、
「君、はぐれないように気を付……」
言い終わる前に、の姿がどこにも見当たらないことに気付いた。
***
「し、しまった……。はぐれちまったぃ」
人混みから何とか抜けて自由にはなったものの、大佐がどこにもいない。
あっちこっちから押されまくったから進行方向変わっちゃったんだろな、多分。
あーぁ……用事が済んだと思って安心しきったのが悪かったんだな。
探してるかなぁ。
「こういう時は動かないのが一番いいよね」
私は人の少ないところに歩いていき、石段にちょこんと座った。
人の少ないところといっても、さっきの場所から少々離れただけで、別に茂みの向こうとかそんないかにもカップルが潜んでそうな場所などではない。
ここなら広範囲を見渡せるし、大佐がいたら分かるだろう。
大佐からは美形オーラが出てるし。(何だそれ)
「……寒…」
早く来ないかな……。
と。
「どうしたの?1人?」
聞き慣れない声がした。
「へ?」
顔を上げると、見知らぬ男が2人立っていた。
どちらも歳は10代後半といったところで、片方は茶のロン毛な長身さん。
もう片方は黒髪短髪、優しげな人。
声をかけてきたのは黒髪の方だった。
「俺ら暇だからちょっと話さない?」
「え、あ?はぁ……」
年上だよねぇ、この2人。
結構美形?
でも大佐の方が上v
ま、暇潰しには丁度いっか。
―――あれから5分くらい話したかな?
どっちもいい人っぽい。
変な人じゃなくてよかった。
大佐はまだ来てない。
人混みから抜けるのに手間取ってるのかな?
「そういえば ちゃん、誰か待ってたの?」
「もしかして彼氏とか?」
「いや、彼氏ではないですけどね」
男ではあるけど。
「じゃ親とか?」
「あははー、そんな訳ないじゃないですか。親離れはしてるつもりですよ」
「だよな。友達か何かか?」
「そんなとこですかね」
「じゃ今から俺らとどっか行かないか?その友達には後で連絡すればいいし」
……………何ですと?
それはつまり大佐ほっぽりだして一緒にバックレようということか?
ていうかこれはナンパ?(何を今更)
いや、今までそんなことされた経験が全くないんで自覚しようにもできなかったよ。
つーか中坊をナンパすんなよ。
「いえ、そういう訳にもいかないんで」
取り敢えず断ると。
「いいじゃねーかよ、付き合えよ」
「どうせナンパされんの待ってたんだろ?」
なっ、何だとぅ!?
ナンパ男2人組、態度急変。
私の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせ、連れていこうとする。
「やっ、ちょっと!どこに連れてくつもりよ!!」
「俺んち」
「ここからだとお前の家よりホテルの方が近いだろ」
「じゃホテル決定」
「なっ!!?」
なっ、ななな何が起こってるの!?
ホテルって何で!!
なんか分かってるけど脳ミソが理解するのを拒んでる。
「こんなカワイイ子久しぶりだよな」
「だな。中々いねーよ」
えっ、カワイイ?
……じゃなくて。
「や、やだっ…放してぇっ」
何で助けてくれないんだ周囲の人間!!
これだけいるなら誰か1人くらい来いっての!!
いやああぁ連行されるううぅ!!!
私が、力負けして(というか男に勝てるわけがない)引きずられていきそうになったその時。
「いっ、いだだだだ!!?」
「カズ!?」
突如私の腕を掴んでいた茶髪の男(カズというらしい)が大声を上げた。
掴まれていた腕も解放される。
何が起こったのかとよく見てみると。
「ナンパもいいが無理矢理連れていくのはどうかと思うぞ」
「たっ、大佐ぁ!!」
何と大佐が茶髪男の手首を力一杯掴んでいるのだった。
私の腕から男の手を引き剥がしてくれたのは大佐だったのね。
うわぁグッドタイミング!!
「何だこいつ!?」
「友達ってこの男か!!?」
何だか驚いてる様子の2人組。
「くそっ、引き上げるぞ!!」
大佐が手を放した瞬間、ぱっと駆け出す2人。
一度も振り返ることなく逃げていった。
「君、大丈夫かね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
うわぁ、大佐に助けられちゃった!!
ドリーム小説とかにありがちだけどかなり萌えるかも!!(をぃ)
「すまんな。違う方向を探していて来るのが遅くなった」
「いえ、本当に助かりました。もうどうなる事かと思いましたよ」
ホテルとか言い出された時にゃもう血の気が引いたね。
死ぬ程冷や汗かいたよ。
「あー………怖かったぁ……」
情けないことに、まだ血の気がひいたままだ。
困ったなぁ。
本当に怖かったんだよ。
「もう、大丈夫だ」
大佐が私の髪をそっと撫でる。
なんか凄く安心する……。
「……帰ろうか」
「…はい」
大佐に優しく手を引かれ、神社を後にするのだった。
***
「そういえば大佐は何をお願いしたんですか?」
帰り道、手を繋いで歩きながら、私は大佐に尋ねた。
「そういう君は?」
「人に言うと効力がなくなるんで言いません」
「それなのに私に聞いたのか?」
「ええ」
「……君らしいな」
……私が願った事は、1つじゃない。
欲張りだって言われてもいいから、全部叶えたい。
1つはエドとアルが元の姿に戻れるように。
2つ目は、呪印が消えるように。
………そして、もう1つ。
いや、正確に言うと1つには数えられないのだが。
―――それは、
大佐が、唐突に口を開いた。
「……君が笑顔でいられるように。私はそう願った」
「…ありがとうございます。でも、言ったら効力なくなっちゃいますよ?」
「何、神に頼らずとも自分で叶えてみせるさ」
「…そうですか」
それは、
『皆が元の世界に帰ってしまわないように』……そんな願い。
――私は…願ってはならないことを、願いそうになった。
これは、願い事の内には入れない。
分かってるから。
皆が元の世界に帰りたいってことくらい。
だから……願い事は2つだけ。
でも、私は怖い。
いつか皆が私の前からいなくなってしまうことが。
1人でいることのつらさは、嫌というほど知っている。
それならせめて皆が帰ってしまうまでの間、私は皆の近くにいたい。
………訂正、3つ目の願いができました。
『皆が帰ってしまうまで、皆の傍にいられますように』
「早く帰らないと、2人とも心配してるかも」
「少し急ぐか」
歩調を早めて家に向かった。
***
「どこ行ってたんだよ!?こんな夜遅くに!!」
「心配したんだよ!!」
リビングで、エドとアルに怒鳴られました。
「ちょっと神社に行ってただけだよ。大佐もいたんだから心配することなかったのに」
「尚心配になるわ!!何かされてねーか!?」
「ヒ、ヒドい………。」
「大丈夫だって。寧ろ守ってくれたし」
「本当に?」
何だその疑いのまなこは。
っていうかそんなに心配してもらえてたんだv
嬉しいなぁv
「大佐はナンパ男を追い払ってくれたんだよ」
「へぇ。ナンパ男が、ナンパ男を?」
「誰がナンパ男だ!!」
「デートの予定で日程がみっちり詰まってる奴がナンパ男でなくて何なんだ?」
「うっ」
言葉に詰まる大佐。
「まぁまぁ、大佐の女癖は今に始まったことじゃないんだから」
アルがエドを宥めた。
しかしエドはなぜか納得していない様子。
(ったく、その調子でまで引っ掛かったらどうすんだよ。
大佐とくっつくなんて最悪なパターンにはなってほしくないぞ。
それで泣いた女がどれだけいるんだ?さすがにに泣かれたら同居人としてつらいものが…)
(それはないと思うけどなぁ。普通だったら既に出来上がってるだろうし)
あ、なんか後ろ向いて内緒話してる。
「何ヒソヒソ話してんの?」
「ぅわあ!!!いきなり来んな!!びっくりするだろ!!!」
「れ、錬成陣のことでちょっと話してたんだ!」
「錬成陣?」
「うん。さんが攫われた時に向こうの世界に渡るためのワープの錬成陣があったって聞いたからさ。今ちょっとそれについて調べてる途中なんだ」
「ふーん」
勉強熱心だねぇ。
でもちょっとごまかし入ってなかったかい?
………まいっか。
この2人が隠すっていったらやっぱし私は知らないほうがいいんだろうし。
「ま、取り敢えず新年あけましておめでとうってことで、これからもよろしくね」
いつまでいられるか分からないから、その「これから」がどれ位のものになるかは分からないけど。
できるだけいつも、傍にいたい。
―――帰り道に付け足した願いだけど、この願い…叶いますように。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
終わりました元旦夢!!(季節感ないなコラ)
しかも無駄に長い。
受験直前に書いていたものです。(ぇ)
ま、それはどうでもいいとして(をい)、今回ちゃんとロイ寄りドリになってましたかね…?
少なくとも今までの話よりは寄ってたと思うんですが、どうでしょう。
やっぱりシナリオ書いてからだと、行き当たりばったりとは違って書きやすいです。
シナリオはあらかじめ書いておいたほうがいいということを改めて実感。
今回ドリ主がナンパされてましたね。(ナンパの域かあれは)
大佐が助けに来てくれたらかっこいいんだろーなとか思いながら書いてました。(ベタだ…/でも好きなんです!)
大佐といえば、そろそろドリ主に惹かれ始めてるのかな……?
完璧にホレるのはあともうちょい先?
エドもちょこっとずつドリ主の方を向き始めてる?決定的に振り向くきっかけができないなぁ。
アルはいつの間にやらだいぶ気に掛けているようですが。意図的にそうした訳ではないのに、なぜか。
読者様に言われて初めて気付きました。(作者失格)
次回、「あの人」がようやく登場。エドは大丈夫なのでしょうか………?
それではこれで、第14話を終了させて頂きます。
2005.4.2