冬休み初日。
今日は特別な日。
彼氏と過ごす人もいれば、家族と過ごす人もいる。
ケーキを買って、ご馳走作って、パーティを開く人も多いと思う。
かくいう私もそう………だったらよかったのに。
ケーキは昨日の内に買っておいたし、ツリーも飾ったんだけど、この日私は………
stigmata・11
クリスマス
〜overcome〜
クリスマス直前の、夜中。
つまり12月24日の夜。
時刻は11時。
私は、パジャマから普段着に着替えた。
上着を着込み、マフラーと手袋を身に付けた。
私は今から逃亡します。
ごめんなさい、3人とも。
クリスマスプレゼントは当日渡せそうにありません。
今日渡しとけばよかったね。
明日一日が過ぎたら、絶対に渡すから。
ちゃんと用意はしてあるよ。
ただ、明日は無理なの。
ごめんなさい。
明後日になったら、帰ってくるから。
ちょっと大きめなカバンをひっさげ、私は部屋を出た。
「君がいない!?」
翌日の朝、つまりクリスマス当日。
思わぬ事件が勃発。
「ああ。部屋にもどこにもいねぇ」
「隠し部屋まで探したんですけど、この家にはいないみたいです」
の姿がどこにも見当たらないのだ。
「ただ、の部屋にこんな紙が……」
エドワードが差し出したその紙には、こう書かれていた。
『明後日には帰るので、絶対捜しちゃだめだよ。 by.』
「……………」
「うーん……………」
頭を捻る一同。
「読めねぇな。」
「読めないね。」
「読めんな。」
3人は、日本語が読めなかった。
『by.』と書いてあるからにはメモではないだろう。
恐らくは手紙か書き置き。
「取り敢えず……どうする?」
「捜すにしても手掛かりが全くないのではな……。」
「買い物に行ったとかじゃないのかな……」
うーん、と唸る3人。
3人寄れば文殊の知恵とは言うものの、3人揃った所で この世界についてよく分からないのだから地名すら思い浮かばないのは当然だった。
「の行きそうな場所………」
というかこちらの世界にきて間もないのだから、がどこかに出掛けたとすれば、買い物か学校くらいしか聞いていない。
「やっぱり買い物なんじゃあ?」
「いや…このシチュエーションでこんな紙が残されてるとすると、家出の可能性も…」
「……………。」
あながちありえなくはない。
以前に「死ぬ」とまで言い出したのだから。
「……もしや自殺に………?」
大佐が不吉な発言をした。
「い、いや、あれだけ言い聞かせたんだ。それは……」
「ないとは言えないのでは?」
「うっ………」
マジかよ。
納得したと思ったのだが。
「と、取り敢えずこの近辺を捜索してみるぞ!」
「留守を頼む」
アルフォンスにそう告げ、上着を羽織って家の外に出ていく2人。
「………」
アルフォンスは、呼気のない溜め息をつき、ソファに座った。
また、自分だけ何もできないのか。
に何かあった時、自分だけに何もしてやれない。
これ程自分が鎧であることをはがゆく思うのは、初めてかもしれない。
皆が傷ついて帰ってくる度、自分が傍にいられなかったことが悔やまれて。
その場にいたら盾くらいにはなれたかもしれないのにと、どうしようもないことで悩む自分がいた。
何もできない。
何もしてはいけない。
痛みを忘れたはずの空っぽの胸が、やけに痛む。
「僕は、ここにいる意味があるのだろうか……」
そんな嫌な疑問が、ぐるぐると渦を巻いた。
「くそっ、見つからねぇ……」
あれから数時間後。
デパートやら学校やら、果てはあの港まで行ってみたのだが、の姿はどこにも見当たらなかった。
「他に君が行きそうな場所は?」
「分かんねぇよ!!大体俺らはこっちの世界に来て間もないんだ。
が行きそうな場所なんて聞いたことないし、聞いてても道を知らない。
………何も、知らねーんだよ」
この世界どころか、のことすら何も分かっていない。
過去のことは色々聞いたはずなのに、基本的な『のこと』は聞けなかった。
そんな何も知らない赤の他人を捜しているなんて、一体何がどうなっているのか。
………少なくとも、捜さずにはいられない人物だ。
守ると、そう決めたから。
「ったく、この大雪の中で何やってるんだ、は………」
「無事だといいのだが……」
は狙われている。
『奴ら』が襲ってくる場合、多人数で しかも大柄な男ばかり。
彼女1人で太刀打ち出来るかどうかと聞かれれば、それは愚問である。
「ぜってー見付け出す」
「それはいいが、次はどこを捜そうか?」
「むー……。この近辺をしらみつぶしに捜すしかないだろうな」
「はぁ………何時間かかることやら」
「仕方ねぇだろ!見当もつかねーんだ」
バスはこの大雪の所為で運行停止になっていた。
とすれば、他の公共機関も停止していると考えていいだろう。
それならそう遠くには行っていないはず。
「……行くぞ」
「言われずとも」
新雪に足跡を付けながら、2人は急ぎ足での姿を捜す。
「………遅いなぁ」
アルフォンスは、誰にともなく呟いた。
時刻は19時。
雪が積もっているために光が反射して外は灰色に見える。
「まだ見つからないのかな。……それともやっぱり……」
また奴らに襲われているのだろうか。
傷を増やして帰ってきたら嫌だなぁ、と思ったその時。
「……………っ!!?」
耳鳴りのように響く、音。
耳という物がないために、魂全体に響き渡る。
感覚を無くしたはずなのに、何かに揺さぶられるような感じがする。
そして、
『……………が……く……』
耳鳴りの代わりに聞こえてきたのは。
『地獄の門が開く………』
人間のものとは思えないような、“声”。
低く、唸るようなその“声”は、全身に響く。
『飽くなき怨恨、絶え間なき憎悪……我は“狩る”者』
「“狩る”者……!?」
『関わりし者“アルフォンス・エルリック”、波動の中心に来られたし』
そう言った後、その声も耳鳴りも聞こえなくなった。
その代わりに、
「………行かなきゃ………」
何かが、呼んでいる気がした。
無視をする訳にはいかない、絶対的な何かが。
ソファから立ち上がり、玄関に向かう。
外に出て、自分にもよく分からない言葉を紡ぎだす。
………寒い。
寒すぎる。
まさか外にいなきゃなんなくなるなんて思ってなかった。
県外に行こうと思ってたけど、バスも電車も運行停止状態。
呪われてるのか?
………いや、実際呪われてるけど。
私は、歩けるだけ歩いて遠くにきたものの、結局体力が尽きて自宅から30km程離れた場所にある公園のベンチに座り込んでいた。
雪が積もって濡れていたけどタオル敷いて座れば何ということはない。
近くにホテルはないみたいだし、あってももうこの足じゃそこまで歩けない。
お店の中に入っても立ち続ける自信はないし、財布忘れてきたからファミレスもちょっとねぇ。
何も注文せずに居座るわけにもいかないし。
つか、歩き過ぎて脚が棒状態。
かかとは痛いし、寒くて感覚無いし。
靴下二重に履いてきたのに、あんまり意味はなかった。
寒すぎて耳が痛い。
腕時計を見た。
「……まだ7時か……。まだまだ明日になるまで時間がある上に距離も足んないよね」
ついた溜め息が、白く染まる。
「どうしよう……。昨日まですっかり忘れてたけど、今日って……」
私の、
『ボゥンッ!!!』
「みぎゃああぁ!!?」
何だか知んないけど、私の目の前でいきなり爆発が引き起こった。
白い爆煙が吹き付ける。
「うわっ!煙い上に寒いいぃ!!!」
ようやく煙が引いた頃、その中心に見えたものは。
「……って、何でここに……」
エドとアルと大佐。
「!!」
駆け寄ってくるエド。
「捜したんだぞ!!」
「何でここに来たのよ!!」
「何でって、お前が急にいなくなるから捜して……」
「捜すなって書き置きがあったでしょ!?」
「読めねーよ!!!」
うぁ、そーだった。
日本語読めないんだっけ。
「……じゃなくて、今日は私の………私の誕生日なの!!!だから離れてないと……」
私の誕生日。
それは呪印の発動を意味する。
「あぁ、だからか」
はぃ?
何だか妙に軽い反応が返ってきたような。
「だからか、じゃなくて!!傍にこないでよ!………死なないでよ………!!」
「………死なないと言ったはずだが?」
「第一誰も死んでねーだろ」
「今からかもしれないし!!」
「大丈夫だって。な、アル」
「……………」
アルは、返事をしなかった。
「アル?」
黙って立ったままのアルは、私をまっすぐに見ている。
「……どうした?」
エドが訝しげにアルに問う。
『………は………』
背筋が凍るのが分かった。
アルの声と重なって聞こえたのが、“あの声”だったからだ。
『我は汝に宿りし闇。“狩る”者。………地獄の門が開く』
「あ?なに言ってんだ、アル」
「……違う………アルじゃないの……呪印の使者の声なの!!!」
「何だって!?」
「私の目の前で死んでいった人達は皆この声で同じことを言ってた。
アルが…アルが死んじゃう!!!」
私の、私の所為で。
失いたくない。
これ以上何も。
アルの周りに、黒い光が集結する。
望んではいけなかったのか。
何も、何もかも。
私という存在があるから、大切なものが消えていく。
私なんかいらない。
命なんかいらない。
ただ、私以外の『必要とされる人』だけは生きていてほしい。
………そう願うのは、私の身勝手?
なら身勝手でも何でもいい。
全ての罪を背負ってでも、何もかもを敵に回しても、命を失ったっていい。
アルを、助けたい。
『ドクン。』
嫌な音を立てた。
命を吸うときの、前兆。
左胸にある紋章の、鼓動。
「いや………いや………!!アルを連れて行かないでよ!!!」
有りったけの声を、出して。
願いを、込めて。
『ドクン。』
さっきとは違う、自分の心臓が鼓動を高めた。
心臓が痛くなる程の大量の血液が、一つ一つの鼓動に含まれている。
それなのに心拍は早鐘を打つ。
「っ………ぅ………ッッ」
そのせいか、私はめまいを引き起こして地面に両膝をついた。
「君!?」
「!!」
声が、遠くに聞こえる。
『ガシャッ』
アルが倒れたのが、視界を掠めて分かった。
……痛い。
紋章が、心臓が、内側から杭でも打たれているかのように鈍く痛む。
「アル!!!アル―――ッ!!!!!」
……エドが何か言ってる?
ああもう何だか分かんないや。
殆ど聞こえない。
結局………アルは助けられなかったのかな………。
それどころか私もダメっぽい……。
ごめんね、私の所為で。
せっかく錬成してもらった大切な命を。
……エドも、ごめん。
ごめんじゃ済まないと思ってるけど、もう何もできない。
あなたが生きる理由の半分以上が、消えてしまった。
許してなんて言えない。
恨まれたっていいから、ただ……謝らせて。
ごめん……………ごめんなさい。
「ごふっ……っ……………っは………」
「君!!」
あ、雪が赤い。
………あぁ、血かな。
今吐いた奴。
もう、何も聞こえない。
……見えなくなってきた。
視界が、闇に染まっていく。
私は結局、死神でしかなかった。
死んで、良かったんだ。
そこまで考えてから、私の意識は漆黒の闇へと落ちた………。
『 』
何かが、聞こえた。
私の知っている、何か。
それは何?
『 』
眠らせて。
もう疲れたの。
『 』
何で?
私はいらないはずなのに。
『 』
言わないでよ。
お願いだから。
何で、また手を差し伸べるの?
私を助けるの?
私は、死神なのに。
あなたを、殺すかもしれないのに。
『』
見えた光は、本当にかすかで。
手を伸ばしても、届くかどうか。
だけど、あなたはそこから手を差し伸べる。
掴みたくて、私は手を伸ばす。
その暖かい手を、掴みたくて。
私を助けてくれるその手は、私の知る手。
背伸びをして、手を伸ばして。
指先が触れて……………手を握って。
光に、包まれた。
「………あ、れ………?」
目を開ければ、そこは私の部屋のベッドの中。
「!!!」
「君、気が付いたか!!」
ベッドの傍には、大佐とエド。
「さん!!!」
………と、アル!!?
「あれっ!?何で………っつ……」
起き上がろうとして、左胸を中心としてお腹やら内蔵が軋んだ。
「無理をするな。吐血したんだぞ」
大佐に言われて思い出す。
ここから30km程離れた所にある公園でのこと。
再びベッドに体を横たえ、私は問う。
「……何で生きてるの?」
アルも私も。
あの時死んだはずなのに。
「僕は気付いたらここにいた。でも気を失う前に変な声が聞こえたんだ」
「“呪印の使い”の声ね……」
「“呪印の使い”?」
「うん。アルは呪印に呪い殺されようとしてた。操られてね」
「……そうなんだ」
「アルはあの後ブッ倒れた。本当に死んだかと思ったんだが、こっちに着いた直後に突然むっくり起き上がりやがんの。もう驚いたの何のって」
「なっ、何で!?あの時確かにアルに対して発動してたよね!?」
何で私まで死にそうだったのかは不明だけど。
「……私が思うに、君は呪印を制御しきったのではないのかね?」
「あー、そっか……………って、えぇ??」
「それならアルフォンス君が生きていたことにも納得がいくし、
10年以上も続くような強力な呪いを抑えようとしてリバウンドがきたと考えれば君のダメージも説明がつく」
リバウンドって、あのどっかのハゲ教主じゃあるまいし。
いやいや、エルリック兄弟もリバウンドの所為でこんな体になったんだっけ?
エド&アルとお揃い……………それならオールOK!!!
ってか、それはおいといて。
呪印を制御した?
私が?
14年生きててそんなこと1度もなかったのに。(いや、今日で15年か)
出来ないと思ってた。
今まで毎回どれだけ懇願しても皆死んでいったというのに。
「はぁ……何だかもう嬉しいやら悲しいやら……」
「全員生きてたんだろ?悲しいのか?」
「……………ううん」
生きててくれた。
それだけで充分に嬉しい。
「………ところで、何であの場所に来れたの?ていうかあの爆発は何だったわけ?」
「あれは君を捜して見つからなかったんで7時頃一旦帰ったのだが、庭でアルフォンス君が何かを呟いていてね。
近寄ってみたらその直後に爆発が起こってあの場所に着いていたのだが……」
「あ、でも僕その時の記憶はないし、既に操られてたんだと思う」
「錬成陣も何もなかったから錬金術じゃないと思うぞ」
「うーん……呪印も“呪い”だから、錬金術とは違う分野だろうし、そういう『魔法』みたいなのを使ったのかも。
呟いてたのは呪文とか」
考えがそういう方向に行ってしまうのは、何年か前に某貧乳魔道師の話と某吊り目茶髪の一匹狼な魔術師の話にハマッていたからか?(誰)
元々魔法系の話好きだからなぁ、私。
「有り得るな。錬金術以外にも何かの術があると聞いたことがある」
あるんだ……………。
いや、全く知らなかったし。(をぃ)
「……そーいえばどうやってここまで帰ってきたの?」
今は夜中らしく、窓の外は真っ暗だ。
夜が明けていないということは、あれからまだそんなに時間は経過してないだろう。
そんな短時間で私達を引きずってあの距離を帰って来られるとは思えない。
「どうって……なぁ」
「うむ……」
「な、何よ?」
考えるようなポーズ取っちゃって。
「が光った。で、その後また爆発してここに着いて……」
「って、ぬにぃ!?私なの!?私がワープを!!?」
「やはり覚えていないか」
「倒れた直後だったしな」
まぁ、呪印の使いもワープ使ってた訳だし、呪印の宿主は私なんだから発動してもおかしくないけどさ。
あー………なんかどんどん現実離れしていく……。
もう、普通ならホワイトクリスマス喜んでるよーな日なのに!!
……………クリスマス?
「………あー!!!!!クリスマス!!
乗り切っちゃったならもうここにいて大丈夫よね!!クリスマスプレゼント渡さなきゃ!!」
「どういう思考経路でいきなりクリスマスなんだ?」
「それはいいから、クリスマスプレゼ………うぁっ!!」
プレゼント取ろうとして起き上がろうとした結果、再び激痛が走ってベッドに逆戻りしました。
「学習しろよ。プレゼントはいいから寝てろ。悪化するだろ」
「病院に行かなくていいのか?」
「い………いい。何となく大丈夫な気がする」
「無理するなよ」
「無理するなら爆発した方がましぢゃ!!」
「どういう理屈だ……。」
あーぁ、それにしてもエド達とクリスマスが祝えないなんて。
くそぅ。
筆者のバカ。(メタ発言)
絶対行き当たりばったりに書いてるから途中からクリスマスネタが入れられなくなったんだ。(この場で公表しないで下さい)
「クリスマスに誕生日を迎えるとは、ロマンチックだな」
「誕生日っていい思い出全くないですからそんな感じが全然しないんですが」
「さんって誕生日今日なの!?」
「うん」
アルはあの時操られてたから記憶にないだろうけどね。
ってか、呪印が発動したの今日なんだから気付けよ。
「おめでとう」
「………へ?」
「誕生日おめでとう、さん」
「ふぁ……………?」
「……どうしたの?」
「いや……今まで誕生日に『おめでとう』なんて言われたこと無かったから……」
祝うどころか警戒されてたし。
原因不明だけど迎える度に誰かが死んでゆく、そんな日を祝ってくれる人なんていなかったから。
「でも、今は僕らがいる。だから……おめでとう」
「君、おめでとう」
「……………おめでとう」
エド、ちょこっと照れ入ってる?
大佐は慣れたもんだけど。
私を、受け入れてくれた人達。
私に、光をくれた人達。
手を差し伸べて………闇から引き上げてくれた人達。
その一言のお礼に、多くの感謝の気持ちを込めて。
「ありがとう」
メリークリスマス。
今の私なら、笑顔で言うことができる。
〜To be continued〜
<アトガキ。>
んにゃあ!!!クリスマスネタ終了!!!(本当にクリスマスネタと言えるのだろーか)
本当はこの後クリスマスパーティ開くハズだったんですが、
話の流れ上さんが動けなくなっちまいまして。(やっぱりか)
ロイサンタ、楽しみだったのに……。(何だと)
というか、季節はずれにも程がある。
何せ昔のブツですゆえ・・・;
次はようやくギャグになる予定です。
っていうか幻作がめちゃめちゃ書きたかったネタです。
ありきたりですが好きです。
話としては逆ハー風味?……かも。
戦闘も入るんでちょっと分からないですが。
それではここら辺で第11話を終わらせて頂きます。
2005.2.22